女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?

魚・魚・魚(ギョ・ギョ・ギョ)! 1

南方洋上の、トレーラー諸島に「武蔵」は今日もその身を堂々と浮かべている――

 

林主計長は照り返しの厳しい甲板を歩いていた。ふと、左舷側を見やれば何名かの兵隊嬢が釣り糸を垂らしている。よくよく見ればそれは主計科の兵曹嬢たちである。

「おお、釣れた釣れた~!」

「なんだこれ、食えるのかなあ」

「ここらを泳いでるものなら大丈夫だろウ、あとで刺身にして食おうよ」

などと言いあいながら次々に釣り上げて自分の傍らに置いたバケツに放り込んでいる。

主計長は(いったい何を釣り上げたんだ?)と気になってその連中のそばに走り寄って行った、「おい、みんな何してるんだ?」と声をかけながら。

すると主計兵嬢たちが

「林主計長、ご一緒に釣りませんか?ここはたくさん釣れますよ、もうちょと釣ったら艦長や副長たちの夕食に出せますよ。士官室にも出せるかもしれませんし」

と言って主計長は「どら?どんな魚だね」とバケツを覗き込んだが次の瞬間

「だめだあー!こりゃだめだ」

と叫んでいた。主計嬢たちはびっくりして主計長の顔を見つめた、その中の一人の鎗田主計一等兵曹が

「林主計長、何がダメなんです?」

と尋ねた。主計長は、彼女の足元のバケツを指さし、

「図鑑を見なかったのかね?これらは毒魚だよ?こんなものを食った日にゃおおごとだよ」

と言った。鎗田兵曹やほかの下士官嬢たちが「ど、毒魚だって!危ないアブナイ」と騒ぎ始める。梶川水兵長が

「これは全部危ないんですか?―-勿体ないなあ」

と言って残念そうな顔になった。林主計長がもう一度バケツを覗き込んで、指先で中の魚を軽くかき回してみたが

「うーん、ちょっとこれはダメじゃないか?どれも毒のある魚だ。残念だが捨ててちょうだいよ」

と言って皆「あーあ、せっかく釣ったのに」と不満そう。

だが、毒魚を艦長や副長、士官連中に供して食中毒いや、万が一死んでしまうようなことになったらおおごとである。食中毒で倒れられても軍務に支障が出る。林主計長は「それにな、」ととっておきの話を引っ張り出した。

「それにな、以前『大和』の兵隊が毒魚を刺身にして食って、全身しびれておおごとだったそうだよ。なんでも捨てろと言われたのを惜しがって捨てないで自分たちで適当に料理して食ったらしくてね、軍医長が怒り心頭に発して治療してくれなかったらしいよ、ハハハ!」

そういって笑う林主計長。

主計兵嬢たちは

「へえー『大和』にはおっちょこちょいがいるんですねえ、それでその兵隊はどうしたんです、きっと死んだんでしょう?」

と大喜びで主計長に話しかける。林主計長はうーん、と首をひねって

「よくは知らないがね、何でもどんな毒物を食っても平気な身体になったとかならなかったとか。―-あ、だからって真似しちゃいかんぜ?特異体質ってこともあるからね、毒食っても平気な体質。ふつうありえないから気をつけないとね。常人にはあり得ないからさ」

と言って皆「そうだろうね、毒なんか食べたら普通イチコロだもの」と納得。ちなみにこの<毒魚を食ってしびれた兵隊>はあの、『大和』航海科の桜本兵曹(旧姓・見張)や亀井上水(当時一水)たちのことである。林主計長のこの話には多分にうそが混じっているが主計兵嬢たちはすっかり信じ込んでいるようだ。

 

ともあれ、皆は釣竿を収めて「ああ、残念だった。今度は上陸したときいい釣り場を探しに行こうよ」と言いながらその場を去る。去る前に釣ってバケツの中でひしめいている毒魚たちを海に戻して。

 

林主計長は艦内へ戻って、烹炊所へ向かう。すると向こうから仮谷航海長が歩いてきて

「林さん、まだ『間宮』は来ませんかねえ?」

と話しかけてきた。林主計長は「まだですね、今『間宮』はインド洋方面に行ってるはずですから。『伊良子』は北部太平洋。『多羅湖』が今フィリッピンで生鮮品購入中だと聞いてますから、そうですねえあと十日はかかりますかねえ」と返事をした。

「フィリッピン!生鮮品!」

仮谷航海長の顔が輝いた。林主計長は、その異様なまでの輝きにびっくりした。仮谷航海長は、主計長の防暑服の両袖をがっちりつかむと

「林さん!お願いがあります…『多羅湖』がここに来たら、その、あの…」

とそこまで言って言い淀んだ。視線が下に落ち、なんだか言いたいことを言おうか言うまいか、迷っているようだ。林主計長はそんな航海長に

「『多羅湖』が来たら、どうしましょうか?」

と穏やかに尋ねた。すると航海長はそっと主計長の耳に口を寄せて

「バナナ、バナナがあったら一房、願いたいんです。いや!もちろん私のポケットマネーで買いますからご心配なく。そんなに大きい房でなくっていいんです、小さくていいからどうか一房」

と言ってから両手をそっと合わせて主計長を見つめた。

主計長は笑い出し、

「なんだそんなことでしたか、お安いご用です。生鮮品を購入するとき一房多く買い付けましょう。そして航海長にお渡ししますから、お楽しみになさってください」

と言って航海長の肩をそっと叩いた。

仮谷航海長は「願います!」と嬉しそうに言って会釈すると走り出していった。

それを見送りながら主計長は(バナナ…航海長はよっぽどバナナが好きなんだねえ。確かに食べやすいし甘くて美味いものね。よし、ではその旨を忘れないように)手帳に書きつけるのだった。

 

そんなころ、烹炊所では夕食準備にかかりだす烹炊員たち。皆のいでたちは上半身は防暑服、その上に白前掛け、そして下半身はなんとふんどし一丁に長靴。これが「正統派の海軍烹炊員の姿だ」と皆は胸を張る。

さて梶川水兵長が下級兵が運んできた野菜籠からキャベツをいくつも取り出しながら

「それにしても今日のあの魚、食べられないなんてもったいないですねえ。鰺みたいな魚がいたから絶対食べられると思ったのに…」

とぼやいた。すると神山班長が

「そこよ。連中は自分を無害な魚です、どーぞ食べてみてくださいなって面してるから厄介よ。ンでもって食べたらハイ、一巻の終わりってことがあるからね。ここらの魚は要注意だよ…そんなものの研究献立は嫌だろうが。それとも貴様、その魚で研究献立作って自分で食うか?」

と言って梶川水兵長は慌てて片手を顔の前で左右に振ると

「いやいやいや!けっこうです、私はこれでもあれこれやることが多いんでそんなことやってる暇はありません。辞退いたします」

と言ったのでその場の皆は大笑いした。

神山班長は

「さあ急げ、おしゃべりしてる暇はないぞ」

とげきを飛ばし皆「はいっ」と返事をして作業に取り掛かる。

 

林主計長は主計科事務室で伝票整理をしていた。普段この作業をする兵曹嬢がデング熱にり患し、トレーラー海軍診療所に入院中であるので「なら、私がやろう」と買って出たもの。

そろばんをはじきながら数字を確かめていると、

「林主計長、今少しお時間いただけますか」

と声がかかった。主計長は伝票から顔を上げて

「うん、いいよ。どうした?」

と言って声の方を見た。声の主は吉川主計中尉、彼女の家はちょっと有名な料亭である。海軍将校が多く集う料亭として有名である。そんな関係から彼女は海軍にあこがれ、親が「頼むから料亭を継いでくれ』との願いを「嫌です!私は海軍に入ります。ここは妹たちに注がせてください、そのほうがずっといい結果になりますから」と言って海軍経理学校に入ったといういきさつのある娘である。

「ん?どうしたね吉川中尉」

とほほ笑みながら尋ねる主計長に吉川中尉は

「あの、毒のある魚のことなんですが」と切り出した。主計長は「毒魚がどうかしたかな?」というと中尉は

「あの、毒のある魚も一晩冷蔵庫に入れておけば毒が抜けると聞いています。実はそういう魚で寿司を握ってありますから試食を願いたいんですが」

と言って主計長は死ぬほど驚いた。「そそそんな話、私は聞いたことがない」という主計長に吉川中尉は微笑みながら

「うちの板前が言ってましたから間違いないです。ぜひご試食を」

と言って主計長の手を掴んだ。林主計長はその手を振り払ってでも逃げたかった、が(指揮官先頭を旨とするわが帝国海軍軍人でありながら逃げるわけには)と思い直し、「では行こう…」と腰を上げ、吉川中尉の後をついてゆくのであった。

 

吉川中尉と主計長は、大型冷蔵庫の前までやって来た。この中にありますから、「取ってきます」という中尉に力なく微笑んだ主計長であったが次の瞬間その顔に歓喜の笑みが浮かんだ。

向こうから長谷川掌主計長が歩いてきたのだ。

「長谷川さん、長谷川さん!ちょっと来て」

林主計長は大声で彼女を呼んでいた――

     (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・

 

毒魚騒動でございます。

南方の魚は色がきれいですが食べたい、という気になるものが少ない気がします。真っ黄色の魚とかあまり…でも食べたらおいしいのでしょうか。

 

さて林主計長、何用があって長谷川掌主計長を呼んだのでしょう?次回をお楽しみに。

武蔵主砲発射

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もう一度あなたの胸に 3<解決編>

「次ちゃん、会いたかった―ー」新矢の熱い手が、次ちゃんの浴衣の胸元を割って入り込んできた――

 

次ちゃんは目を閉じて、夫のするままに任せた。新矢の熱い手はさらに奥に潜り込み、次ちゃんの胸の丸いふくらみの一つを握った。そしてその先の敏感な部分を指先でそっとつまんだ。

「あ…」

と次ちゃんは思わず小さく声を漏らし、それを合図のように新矢は次ちゃんを寝台へと押して行く。ついに次ちゃんは寝台に腰を落とし、あおむけにそこに倒れた。

「次ちゃん!」と新矢は小さく叫ぶと、次ちゃんの上にまたがり浴衣の胸を開いた。ひもが邪魔だったので、それを解いた。浴衣の前を大きく開いた。

「――いや…」

次ちゃんは羞恥に全身を染めてつぶやいた。両方の腕で胸を隠し、膝を固く閉じた。夫婦ではあるが、そしてもう、経験をすましているのに死ぬほど恥ずかしかった。頬がかっと燃えるように熱い。

そんな次ちゃんをいとおしげに見つめ、しかし息を荒げつつ新矢は次ちゃんの薄桃色の下帯に手をかけ、その紐も解いてしまった。

すると――新矢の欲望が突然盛り上がり、耐えきれなくなった彼は小さく呻きながら次ちゃんのその部分に自分をあてがうといきなり入っていき、激しく動きあっという間に終わった。

「――ごめんね、次ちゃん」

新矢はまだ、次ちゃんの中に居てハアハアと息をつきながら謝った。そんな乱暴なことをしてはいけない、と思いつつも新矢はどうにも自分をおさえることができなかったのだ。とてもきまり悪かったし、次ちゃんに対して猛獣のような自分を見せたことが恥ずかしかった。

しかし次ちゃんは、やさしく新矢の両肩を抱くと

「謝らないで…いいの、平気です」

と言ってほほ笑んだ。彼女には、それだけ(この人に愛されている)という確信や実感が生まれていたのだ。

それは、数日前に繁木航海長と<新婚夫婦の話>をした際に、航海長がちらと語ったことからきている。航海長は恥ずかしげに頬を赤く染めながらも言ったのだ、「突然夫が乱暴に私を求めてきました。とても驚いたんですが、それもなんというのか、愛しさの一つなのですね」と。

そして今、自分も夫からそうされて、びっくりはしたがそれが夫の、妻への愛情表現の一つなのだと悟って次ちゃんはうれしくなった。

「謝ったりしては、いやです」

そういって新矢の瞳を覗き込んだ次ちゃん、すると新矢の欲情に再び火が付き彼は次ちゃんを遮二無二抱きしめた。次ちゃんの中に入ったままの彼自身はもっと次ちゃんを突き上げ、次ちゃんはうめいた。

「次ちゃん、私はこの時を待っていました…。待って待って、待ち続けました。次ちゃんに、こうしたかった」

新矢はそういうと自分自身で次ちゃんを激しく突き、彼女の両手首をつかんだ。軽く動きを封じられた次ちゃんは激しく突かれて呻きながらも一所懸命夫に応えようとする。その健気さが新矢に伝わり(次ちゃん、かわいい…)と思うといっそう、彼の動きは激しくなる。そして次ちゃんの手首から自分の手を離すと今度は、自分の動きで揺れる次ちゃんの乳房の先をぎゅっとつまんだ。

あっ、と次ちゃんは小さい叫びをあげた。新矢はそこをひねったり、こねくったりして次ちゃんの反応を見た。次ちゃんは声を上げるのを必死にこらえつつ、快感に身をよじっている。次ちゃんの中にいる、わが砲身が締め付けられ、新矢はたまらなくなった。が、まだここで終われない。

「次ちゃん、」と呼びかけた。はい、と新矢を見つめた次ちゃんの乳首を思い切りひねって、次ちゃんは小さく叫んだ。

「次ちゃん、こうするのがいいでしょう?気持ちがいいでしょう…私も、とても…」

そう語りかけながらまた突き上げた。「こうすると、次ちゃんが私を締め付けてくる」と言ったとき、次ちゃんのただでさえ上気して紅さを増した頬がさらに赤くなって、横を向いた次ちゃんから

「やめてしん兄さん…そんなことおっしゃらないで。恥ずかしい」

とつぶやきが漏れた。新矢はその行為を続けながら

「いいじゃないですか。私はとっても気持ちがいい…そしてうれしいんですから。次ちゃんは良くないの?」

とさらに囁く。次ちゃんは新矢を見つめると「私も…いいです」というと恥ずかしそうに顔を両手で覆った。

「そうでしょう、とっても気持ちがいいね」

新矢はそういうと次ちゃんの乳首を唇で挟んで、舌の先でつつく。次ちゃんはもう、髪を乱して喘ぎ、新矢もそれに応えんと懸命に動く。

「もうダメ、しん兄さん!ああもう、本当にだめ!」

次ちゃんは叫んで、背中を反らした。新矢はしっかり次ちゃんを抱きしめてめちゃくちゃに彼女を突きまくると

「もうダメ?もうダメかな?ああ!私ももう…!」

と叫ぶと大きく呻いて最後に一突きした。次ちゃんも「ああっ!」と叫び、そして――終わった。

二人は大きく息をつきながら、重なり合っている。

互いの心臓の鼓動が胸に痛いほど伝わってくる。生きているという、実感がいやおうなしに沸く。

新矢は、しっとり汗をにじませた次ちゃんをいとおしげに見つめ、その唇に自分のそれをつけた。次ちゃんの両手が新矢の背にそっと回る。唇が離れ、瞳が合った。

二人は、嵐が去った後の気恥ずかしさで何とも言えない微笑みを浮かべると

「次ちゃんが大好き」

「新矢さんが大好き」

と言いあって、そしてまた、固く抱き合う。

互いの体で憩いあう二人には、昨日までの疲れは最早なかった。新矢の胸の下で次ちゃんは凝り固まっていた重い疲労がきれいに消えてゆくのを感じていたし、新矢も温かい次ちゃんの体内に自分を預けて硬くなっていた心が柔らかくなっているのを感じていた。

二人にとって、それが愛であり生きるすべてである。

次ちゃん、しん兄さんと呼びかけあった二人はどちらからともなく求めあい、再び新矢は次ちゃんの奥へと入り、次ちゃんは新矢を自分の奥へといざなった。

次ちゃん、次ちゃんと呼びかける新矢はぐんぐんと次ちゃんの奥へと進み、次ちゃんはしん兄さん、しん兄さんと叫びながら彼を包み込む。

そして新矢は次ちゃんの乳首を軽く噛んで引っ張った。「しん兄さん!」次ちゃんは大きく叫んで、その両膝で新矢を引き寄せさらに奥へと進ませ――新矢は「ああっ!」と大きく叫んで次ちゃんの胎内にたくさんの子種を注ぎこんだ。

 

二人は、その晩何度目かの愛を交わした後、今までにないほどの深い眠りにつくことができたのだった。

 

         ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~                 

 

そして副長不在の『大和』では、オトメチャンがあさってに迫った休暇を前に、いささか緊張の面持ちでいた。

休暇に入ったその翌日、彼女は小泉兵曹の実家『小泉商店』に行き、オトメチャンを見初めたという男性と会うことになっている。

オトメチャンは(うちみとうなもんでも、副長みとうな幸せになれる権利があるんじゃろうか?その人がどんとなお人かようわからんが…ええお人ならええんじゃが…ほいでもうち、麻生分隊士を裏切ってしまうようなまねは、よう出来んし)と一人悩んでいる。

しかし、オトメチャンの心の奥深くには、彼女自身意識してはいないが異性への憧れや、そうした異性の胸に抱かれてみたいという思いがわき始めているのも――確かな話であった。

そして麻生分隊士はまだ、心を揺らしている――

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

激しい新婚夫婦の愛の状態でした。

普段会えないからこそ逢えば燃え上がる、それはもう当然のことですね。休暇が素敵なものでありますよう。

そしてオトメチャン、いよいよ彼女も休暇のようです。例の男性とうまくいけばいいんですが。

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もう一度あなたの胸に 2

山中次子中佐は呉の街を歩いた――

 

もう夜の帳の降りた呉の街を、ひたすら自宅目指して歩いた。途中行きあう海軍嬢たちの敬礼を受け、それに返礼しつつ中佐の足は自然と早くなった。小高い丘の上の我が家をめざし、中佐は小走りに急ぐ。

 

そして、彼女は懐かしい自宅への「山道」を上り始めていた。この先にはもう山中夫妻の家しかないため行きあう人もない。自分の荒い息遣いと足音だけが周囲に響く。いつの間にか吹き始めた海風が耳元で鳴った。彼女の頭上には幾千もの星々がきらめく。

 

家の門前に来た時、中佐は(新矢さん、帰っていない)と悟った。家の中に明かりはともっておらず家は黙って空に向かってそびえたつように見えて中佐は寂しくなった。

果たして夫は、私の休暇中この家に帰ってくるのだろうか?もしかしたら…もしかしたら他に好きな人でもいるんじゃないだろうか?

そんなつまらない考えに支配され、中佐の瞳は潤んでしまった。振り返って海を見やれば、沖に停泊している『大和』の艦影がうっすらわかる。

高い場所だけに遠くの音がよく聞こえ、海軍工廠から打鋲機の音が聞こえてくる。男性の技官や工員の多い海軍工廠ではまだこの時間では働いている工員たちがいるのだろう。ドックに入っている艦艇の修理で忙しいと聞いてはいた。

(新矢さんはどこにいるのかしら…私はここに居ます。私は)

そう思ったとき、彼女は下から上がってくる人影を認めた。誰だろう、と一瞬身構えた中佐ではあったが次の瞬間には

「新矢さん!あなた!」

と声を上げ、坂を駆け下りた。

下から上がってきた人影は誰あろう山中新矢大佐、軍帽の庇を片手で持ち上げて「次ちゃん!次ちゃんなんだね!」と叫ぶと坂を駆け上がった。

「私です、あなた!次子です」

中佐はそう、声を上げながら夫へ向かって走った。靴の下で小石がジャリッ、と鳴って、中佐の足がとられた。

「あっ!」

大きく体のバランスを崩したその時、夫の大佐ががっと中佐の体を支えた。

抱き上げられた。

中佐は、山中大佐の腕に抱え上げられ、二人の視線が正面から合った。中佐の唇が、何か言いたげにかすかに動いたその時、大佐が彼女の唇を奪った。

中佐は、大佐の両肩にその手をまわして抱いた。長い長い口づけ、そして抱擁。二人はしばし、時を忘れてそれに没頭していた。

 

と。

一陣の風が吹き抜け、大佐はやっと妻から唇をそっと離した。唇が離れると山中中佐は恥ずかしそうに顔をうつむけた。しかしすぐに顔を上げて夫を見つめると

「会いたかった…夢じゃないんですね。これは現実ですね?」

と確かめた。山中大佐はやさしくうなずいた。「現実ですよ。この上ないほどうれしい現実」と言ってほほ笑んだ。

そして大佐は次子中佐を抱きかかえたまんまで玄関へと歩き出した。玄関に着くとやっと、大佐は妻をその場にそっとおろした。そして鍵をポケットから取り出すとドアを開けた。

「おお、暗いな…ちょっとそこで待っていてね次ちゃん。明かりをつけてきます」

大佐はそういって先に中へ入ると玄関の明かりをつけた。

その明かりを見て、中佐はほっとした。明かりの中にいとしい山中大佐がいて、そして自分がいる。間違いない、本物のあなたと私。

「さあ、次ちゃん―ー」

大佐は中佐の背中を抱くようにして家の中に入った。懐かしい家、結婚休暇以来の我が家に、中佐の心は弾んだ。二人は軍帽を取って帽子掛けにかけると奥へと廊下を歩く。

広間の電燈をつけて、二人はそこに座ると改めてあいさつを交わした。

中佐は

「ただいま戻りました。長いこと御不自由をおかけしてごめんなさい。そして今度は南方へいらっしゃるとうかがいました。ご準備もありましょうからお手伝いさせてくださいませ」

と言って三つ指ついて頭を下げた。

大佐も

「副長のお勤めご苦労様です。お疲れでしょう、ゆっくり休んでください…南方へは八日後参ります。私は旅の準備が下手なので、次ちゃんどうぞ一緒に願います」

と言って頭を下げる。

そして二人、そっと頭を上げて顔を見合わすとフフッと微笑みあった。

 

次ちゃんは久しぶりの我が家の湯殿に行って、湯を沸かした。水は張ってあったから薪をもってきて火を起こした。

そして

「湧きましたらあなた、お風呂をどうぞ」

と言って台所に立った。しかし、何も食べるものがない…途方に暮れていると後ろから新矢に抱きしめられた。

新矢は次ちゃんの耳元で「私はおなかすいていないから平気…でも次ちゃんは?」と尋ねた。次ちゃんは

「私も平気です。では、お茶をいただきましょうか」

というと薬缶に湯を沸かし始める。

 

ややして二人はゆっくりと茶を喫しながら談笑していた。一番逢いたかった人との大事な時間がゆっくり豊かに流れている。

次ちゃんは幸せな気持ちに支配されて夫の顔を見つめる。新矢もいとしい妻の顔を見つめたまま視線を外せない。

最高の幸せな時間が、はじまった――

 

新矢は、風呂に先に入った。その間、次ちゃんは寝室を整えにゆく。

寝室のドアを開け明かりをつける、カーテンを閉める際窓の外、遠くに視線をやれば暗い海に『大和』が浮かぶのがほんのりうかがえた。

『大和』に向かい(艦長、参謀長、みんな…ありがとうございます。最高の休暇を過ごして帰ります)と思ってそっと、頭を下げた次ちゃんであった。

 

寝台の上の蒲団は、新矢一人ではあまり使わなかったらしく整えるほどでもない。しかし、一度掛布団をはぐると、その下から『新婚初夜の医学事典』が置いてあった。

結婚に際し、棗主計特務大尉から贈られたヘルブック。時折新矢はこっそり読んでいたのだろう、何か次ちゃんは可笑しさが吹きあげてきて一人でくすくす笑った。

そこに、階段をトントンと上がってくる新矢の足音がして、次ちゃんはそっと、『~医学事典』をもとに戻し、掛布団をかけておいた。

ドアが開き新矢が

「ああいいお湯でした!いい気分です…さあ、次ちゃんもどうぞ、入ってらっしゃい」

と言って浴衣姿で笑ってみせた。次ちゃんも微笑むと

「それではいただいてまいります」

というと戸棚から自分の浴衣を取り出して階下へ行った。ドアの向こうに次ちゃんの姿が消え、足音が階段を下りてゆくと新矢は慌てて掛布団をはぐって『新婚初夜の医学事典』を取り出した。

(しばらくご無沙汰だったから、もう一度おさらいを)

新矢は、本のページを熱心に読んでは繰る。

 

久しぶりの自宅の湯殿に入り、次ちゃんは軍装を脱いだ。そして素肌を湯殿の夜気にさらしてほっと息をついた。

(これを娑婆の空気っていうものね)

そう思いながら湯船のふたを取って桶に湯を汲むと手拭いを浸し、体を流す。次ちゃんの全身から、疲れがするりと流れ落ちてゆくような気がしている…

 

すっかり体を洗ってから、湯船に身を沈める。するとさらに、固まっていた疲れが解けて流れてゆくような錯覚を覚えて、次ちゃんはとろとろと軽い眠りに入った。

今日から七日の間は、巡検をしなくても良いし、艦内のあれこれに心砕かなくてもよい。一番、この世で一番大好きな人と一緒に居られる幸せに次ちゃんは酔っていた。贅沢な思いに、次ちゃんは少し、(艦のみんなに本当に申し訳ない)と思った。

 

どのくらい湯船のふちに両腕をかけてまどろんだだろうか、はっと気が付いて目が覚めた次ちゃんは湯船から上がって手早く体を拭いた――

 

浴衣を着て二階に上がるが(ちょっと長湯しすぎちゃった。新矢さんは眠ってしまわれたかしら)と気になった。そっと寝室のドアを開けると、電気スタンドの明かりだけがついていて寝台の上に新矢が座っていた。

「ああ、次ちゃん!」

新矢は、寝台から降りて次ちゃんのほうへと大股に近づいてきた。待っていましたよ、と言いながら。次ちゃんは、ごめんなさい遅くなって、と言いかけたがいい終わらないうちに新矢に抱きすくめられていた。

新矢の熱い手が、次ちゃんの浴衣の胸元へ入ってきた――

  (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・

 

再会なったふたり。

もうこうなるとほとんど言葉のいらない世界ですね。それにしても八日の後には遠く離れ離れになる二人です。熱い日々が始まります…!

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もう一度あなたの胸に 1

その手紙を読み終えたとき、山中副長の瞳があっという間に濡れた――

 

「山中副長、お手紙であります」

と副長のもとへ一通の手紙を持ってきたのは藤村少尉、彼女は甲板士官であり副長の忠実な部下でもある。その彼女が、副長へと手紙を持ってきた。藤村少尉は副長への私信の場合、差出人の名前を見ないようにと袱紗に包んで持ってきて、副長の前でそれを開いて渡す。

その心遣いに山中副長は大変感激している。

今日も

「ありがとう藤村少尉。いつもすまないね」

と言って手紙を受け取る。そして何気なく裏を返した副長の顔が喜びで輝いた。誰あろう、結婚したばかりのわが夫・山中新矢技術大佐からの手紙である。

藤村少尉はそれを見て(ご主人からのお手紙だな)と即座に察し、「では私はこれにて失礼いたします」というと副長の部屋を出た。

山中副長は喜びに焦りながら封を丁寧にはさみで切り、中から便箋を引っ張り出した。

はやる心はその手を震わせ、便箋を開くももどかしい。

やっと便箋を開き、懐かしい夫の文字を追った。

暫く手紙を書けなかった事への謝罪と、ここのところの忙しさが彼らしいウイットを交えて書かれていた。そして次ちゃんに会いたい、話をしたい、抱きしめたいということがかかれていて副長は頬を染めた。

(もうずいぶんと一緒に夜を過ごしていない…)

そう思うとさらに頬が赤くなり耳まで熱くなった。

もう一度便箋に目を落とし、四枚目をめくった。

副長の動きが止まった。

そこには

 

>私は今月三十一日からしばらく南方の機動部隊へ参ります。あのラケット兵器を空母の甲板に使用出来なひかと、航空廠とは別に研究を重ね、その試作を空母に施しに参ります。なぜ外地へ?といふなら、内地にいる空母の数が少なくまた小型のためです。大型の空母にそれをしなひとあまり意味がなひ、と我々は考へたからです。ですのでいつ内地に帰れるかわかりません。出かける前に一度次ちゃんに逢ひたい。逢ひたい…

 

と書かれていた。

 

副長の瞳がみるみるうるんだ。涙が盛り上がり、ポロっと落ちた。三種軍装の胸を次々に涙が走り落ちた。副長は手紙を握りしめ、「新矢さん…新矢さん。逢いたい…」とつぶやくと嗚咽を漏らし、その場にくずおれて泣き始めた。

そこに「副長いるかい?」と森上参謀長が入ってきてその様子を見てびっくり仰天した。

慌てて駆け寄って副長を抱き起し

「どうした野村!」

と、よほど驚いたのか彼女の旧姓で呼んだ。抱き起され、それでも泣きながら副長は夫からの手紙を参謀長に差し出した。差し出された便箋を参謀長は受け取り「読ませてもらうぞ」というと副長をベッドに横たわらせて自分はその横に座ると、手紙を読み始めた。

「山中…」

参謀長は手紙を読み終えると泣いている副長を見た。そして急いで手紙をデスクの上に置くと副長の肩に手をかけて

「躊躇してる暇はないぞ、早く休暇を取れ。一週間取れ!不在中は気に掛けるな、すぐ帰れ!お前は艦を降りる支度をしろ!」

と怒鳴るように言って慌てて部屋を駆けて出て行った。

 

それから間もなく、副長の部屋に梨賀艦長・黒多砲術長・繁木航海長そして森上参謀長がやって来た。副長は泣きはらしたまぶたで一行を迎えた。

梨賀艦長は

「話は参謀長から聞いたよ。今日にも自宅へ帰りなさい。休暇だ。艦長命令、山中次子中佐は本日より七日、休暇を取ること。そして―ー」

とそこまで言って一旦言葉を切り、皆は艦長に注目した。艦長は軽く咳払いすると副長をひたと見つめ

「山中新矢大佐の出発の際には、見送りにゆくこと」

と言ってやさしく微笑んだ。山中副長はびっくりしたように艦長を、そして居並んだ航海長・砲術長そして参謀長を見つめた。その唇がかすかに動くと

「みんな…」

と言って次の瞬間大粒の涙が流れ落ちた。

繁木航海長・黒多砲術長が微笑みながら副長に寄っていき、まず航海長が

「山中大佐、ご出張なんですね。工廠技術士官の出張は長いですからね、必要なものなどしっかり揃えてあげてくださいね。そうそう、私の夫も今回大佐とご一緒させていただきますのでどうぞよろしく願います」

と言い、砲術長が

「休暇中はご心配なく願います。まだまだ副長の足元にも及びませんがしっかり努めさせていただきます。どうか、ご安心なさってください」

と言って副長の両手を握った。

副長はそれぞれの顔を見つめ「ありがとう、ありがとう」と繰り返した。

 

やがて副長は泣き止むと森上参謀長に

「参謀長、ありがとうございます。参謀長が皆さんに進言してくださったんですね。でも、私だけそんな勝手していいんでしょうか…」

と言った。参謀長は笑って

「勝手じゃないだろ。これは艦長命令、副長あれからちっとも上陸しないし、それに今度は大佐の大事な出張、準備を整えるのは妻の役目だぞ、いいかしっかりやって来いよ」

と言い、副長は「はい!しっかりあい努めます」と言って皆笑いあった。

 

そして副長は急きょその晩休暇を取るため上陸と相成った。副長は「科長たち、急な話で迷惑じゃないでしょうか」とためらったが森上参謀長はその肩をぱーんとたたいて

「大丈夫だよ、いつでもお前の休暇に対応できるようにしてあるんだから気にしないで行け」

と励ました。

副長は「――ありがとうございます。これで心置きなくしばしの別れを出来ます」というともう一度参謀長に

「森上大佐、ありがとうございます」

と頭を下げて内火艇に乗り込むため甲板に上がる。そのあとを参謀長もついてゆく。

 

見送る人は梨賀艦長、そして各科長たち。皆(よかった、やっと副長が休暇を取ってくれる)とほっとしながら舷梯を降りてゆく副長を見送った。

 

内火艇は暗くなった海を、上陸桟橋目指して走ってゆく。

(待っていてください、あなた。私今からあなたのもとへ行きます。待っていてください!)

山中次子中佐ははじけるような心で行く手を見つめている――

   (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・

山中大佐の突然の外地出張、そして副長は急きょ休暇を取って自宅へ帰ることになりました。

さあ、無事二人は逢えるのでしょうか。次回をご期待ください!

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麻生分隊士逡巡する 3<解決編>

「どうじゃね、今度休暇の時この人に会うてみんか?」と麻生分隊士が言うとオトメチャンの頬は桃色に染まった――

 

しかしオトメチャンははっとしたように麻生中尉を見て

「分隊士、分隊士はうちが男の人とつきおうても何とも思わんのですか?」

とやや分隊士を責めるような口調で尋ねた。麻生分隊士は慌てて「いやいや、ほうじゃのうて」と言い訳を始めた。

「じゃけえ言うとろうが、この話は小泉兵曹の親御さんが持ってきた話じゃて。じゃけえ小泉の親御さんの顔を立てて一度会うたらええいうとんじゃ。何も、そんな、付き合えなんいうとらんで!」

そういってなぜか麻生分隊士はクルリと後ろを向いてしまった。

オトメチャンは「分隊士?」と彼女の前に回ってその顔を覗き込んだ、すると麻生分隊士はやおらオトメチャンをかき抱くと

「オトメチャンはうちのものじゃ…じゃが、いつまでもうちに縛り付けとくわけにもいかんじゃろう?オトメチャンにはオトメチャンの、女としての幸せがあろうが。――うちにはオトメチャンの幸せを奪う権利はないけえな」

と言って体を震わした。分隊士?ともう一度オトメチャンは言って分隊士の顔を見ると、

「分隊士、泣かんでつかあさい」

と言ってその背中に両手をまわして抱きしめた。ぎゅーっと思いきりの力で抱きしめた。そして分隊士の胸に頬をつけると

「うち、分隊士がだーい好きじゃ。じゃけえ男の人とは付き合いません、安心しとってつかあさい」

と言った。

分隊士はオトメチャンのきゃしゃな体を抱きしめながら

「うちはうれしい。うれしいがのう、オトメチャン。人には人らしゅう生きる権利も義務もあってじゃ。うちはオトメチャンが大好きで、ずうと一緒に居りたい。じゃが、オトメチャンにはオトメチャンの人生がある。好きな人が出来たり、想いを寄せられたりしたときうちがオトメチャンを独占しとってはオトメチャンはどうにもうごけんじゃろう?それがうちにはオトメチャンの生きる権利や義務を姥っとるように思えて仕方がないんじゃ。――ほいでもうちはオトメチャンが好きじゃ。このどうにもしようのない思いをうちはどうしたらええか、もうわからんのじゃ」

とその耳元に囁いた。

するとオトメチャンは

「うちもそれはおんなじじゃ。うちは、いつか分隊士が好きな男の人と一緒になってうちから去って行ってしまう日が来よる思うたら、もうさみしいて…。じゃが、それが分隊士の幸せなら、うちは身を引きます。うちは分隊士が幸せなんが一番幸せじゃ。分隊士が不幸ならうちも不幸。分隊士が幸せならうちも幸せ。これはもうずっと変わりませんけえ」

と言って分隊士からちょっと胸を離し、彼女の瞳をまっすぐに見つめて言った。分隊士は感激に身を浸して

「――オトメチャン…ほんなら、一度でええ。そん人と会ってみんさい。それでオトメチャンが幸せになれるんならうちも最高に幸せじゃけえ…」

麻生分隊士はもうそれ以上いうべき言葉もなくただ、オトメチャンを抱きしめるだけだった…

 

そのころ、棗大尉は露天甲板で再び花山掌航海長と会っていた。棗大尉は「麻生さん、うまいことあのおぼこちゃんに話が出来てるといいんだけど」と言って夜空を見上げた。花山掌航海長も、ハンドレールを掴んで暗い空を見上げて

「ほうですねえ!まあ、麻生中尉のことじゃけえうまいこといっとるん違いますかのう。なんせあん二人はもう長い付き合いですけえね」

というと棗大尉を見て笑った。が

「棗大尉、どうしましたん?」

と尋ねた、棗大尉は今度は視線を真っ暗な海に落として考え込んでいる。

棗大尉は海に視線を落としたままで「なあ、花山さん。うちは気がかりがあってじゃ」と言った。花山掌航海長は艦内帽をかぶりなおして

「気ががり?気がかり言うてどんなことです?」

と尋ねる。なんだか妙に胸がざわついて気分がかすかに悪くなった。棗大尉はその場に座り込むと自分の横を指して「座れ」と掌航海長に命じた。

掌航海長は

「ほいでは、失礼いたします」

と大尉の横に座った。すると棗大尉は

「まあ楽に座れや、足痛いで。――うちも聞いた話じゃけ、間違うとってかもしらんが…あのおぼこちゃん―ー桜本兵曹は、私生児じゃ聞いたが、本当かね?」

と真面目な顔で言った。花山掌航海長はこれもまじめな顔で「その通りです、大尉」というと自分が知りうる限りのことを棗大尉に話して聞かせた、その最後に「これはほかの人間には絶対秘密で願います」と念を押して。

大尉はしっかりうなずいて

「誰にも言わん。約束じゃ。――いうか、そのことはもう艦内のほとんどが知っとるんじゃないかのう?」

と言った。そして

「まあそげえなことはどうでもええが、うちが気がかり言うたんはあのおぼこちゃんが男性に見初められて近々会う、言うことじゃ。会うんは構わん。いや、あの子にとってはええことじゃろう。じゃがな、花山さん。この先おぼこちゃんとその男の人が付き合いだしていつか結婚、言う話が出たときにおぼこちゃんの出自が問題になる時がきやせんかとうちはそれが気がかりでならんのじゃ」

と言った。その瞳は不安や心配で満ち満ちている。

花山掌航海長は大きくうなずいた。

掌航海長も口には出さなかったが、その話を聞いたときからかすかに不安感が心をかすめていたのだが(その正体は、このことだったか)と分かった。

棗大尉は

「人には動かせん事実いうもんがある。ただあのおぼこちゃんの場合、その事実はあんまりにも重すぎる。ほいでな掌航海長。たとえばその事実を相手や相手の親が知ったらどがいな?小泉兵曹の親御さんにも迷惑がかからんじゃろうか?小泉兵曹の親御さんはおぼこちゃんのことを知らんのじゃろう?まあ、知らんで話をしたんなら罪はないけえ…このまま小泉の親御さんには知らんでいてもらった方がええか…。しかし、厄介じゃのう!おぼこちゃんの責任でない分余計に厄介なわ。ああもうどうしたらええかうちにもようわからんくなってきたわ」

というと深いため息をついた。

花山掌航海長もため息一つつくと

「ほうですなあ。かというて、この話を一方的に蹴るいうんも角が立ちますけえ、やはり会わせてみんといけんですね。一番ええんは会うてみて互いにしっくりこんかったけえ付き合いは無し、いうんがええんでしょうけど」

と言って横座りから胡坐に座りなおした。

棗大尉は

「ほうよ。それかあるいは相手も相手の親もおぼこちゃんのすべてを受け入れてくれるだけの度量があればなおええ。ほしたら誰も傷つかんでええがいになる。――言うても麻生さんには気の毒なことにはなろうがね」

と言い、掌航海長は「まさに」と言ってかすかに笑った。

 

棗大尉の不安は小さくなることはない、そしてその不安を知ることなく麻生分隊士は<オトメチャンを手放したくない、しかしオトメチャンには幸せになってほしい>という相容れない思いに逡巡するのであった。

 

オトメチャンの休暇まで、あと少しである――

 

                 ・・・・・・・・・・・・

 

麻生中尉の逡巡と、棗大尉・花山掌航海長の大きな不安。不安が現実にならなければいいのですが。オトメチャンには幸せになってほしいものです。そして、麻生さんも。

ともあれオトメチャンの休暇が待たれます。

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