お知らせです。

いつも「女だらけの戦艦大和」にご訪問くださいましてありがとうございます!

さて、来る4月より「見張りんの大和の国は桜花爛漫」はこのタイトルに新しく言葉をプラスして「新装開店」ぽくして新年度を始めようかと思っています。

と言っても何かが大きく変わるというものではないのですが、オトメチャンたち一部の者の何かがちょっとだけ変わります。
そしてオトメチャンは…おっと今は内緒!

「女だらけの大和」まだもうちょっと内地にいるようです。
まだまだ休暇をもらっていない皆の休暇は?
家族を東京においている梨賀艦長の休暇は?
新婚の山中副長は、繁木航海長は?
松岡中尉のラケットからヒントを得て作っている「兵器」の開発は?

気になること満載の「女だらけの戦艦大和」をこの先もどうぞよろしくお願いいたします!
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「女だらけの戦艦大和」・とうきょう便り。

常夏のトレーラー・水島のとある一軒の家に郵便が届いた――

 

トレーラー停泊中の「女だらけの武蔵」の村上軍医長のもとにも手紙が届いた。従兵嬢から手紙を受け取った村上軍医長はその差出人をみるなり

「おお!」

と感激の声を上げていた。

「日野原桐乃」

ときれいな文字で記されたあのキリノからの久し振りの手紙である。桐乃と一緒に内地まで行ってそこから『大和』の日野原軍医長にバトンタッチして以来の桐乃からの便り。

さっそく村上軍医長は封を切って便箋を引き出した。

桐乃の、トレーラー時代と比較すると見違えるほどの上達した文字と文章。村上軍医長は感激しつつ読み進む。

 

>村上軍医長様、お久しぶりです。なかなかお手紙が書けず申し訳ござひませんでした。

桐乃は日野原軍医長さんの東京の病院で毎日看護婦として頑張ってをります。忙しひですがやりがひのある日々で私はとてもうれしひです。病院長先生も、若先生も看護婦長そして看護婦仲間も皆私にやさしくしてくださひます。ありがたひことです。

 

そして初めての日本での生活や驚いたことなどが若い女の子らしい瑞々しい感性で書かれていて村上軍医長は微笑みながら読んだ。その中によく「若先生」という語が出てきて村上軍医長は(日野原さんのお子息のことですね…もしかしてお互いに好きあっているのだろうね)と思いさらにそのほほが緩んだ。

 

>そしてありがたいことにこんな私に医師になるやうにとさらに勉強をさせていただけることになりました。

 

と書かれているのを見て村上軍医長はまた「ほう!これは素晴らしいことだね。――そうかやはり、彼女はどこか見どころがあるというのか違うと思っていたよ」と声を上げていた。

村上軍医長は、かつて『大和』の日野原軍医長と自分で見出した人材のうれしい飛躍に泣きたいほどの感動と感激を覚えていた。

あのまま料亭で仕事をしていたらあの子はどうなっていただろう、貧しい漁師の娘でしかも子だくさんの家となると…村上軍医長は桐乃が海軍診療所で働き始めた後、医務科の下士官からそっと耳打ちされたことを思い出す。下士官の彼女は軍医長に

「軍医長、あの料亭はいい噂を聞きませんよ。ああして雇った若いトレーラーの子、特にきれいな子を夜の男性客に提供しているという噂は我々の間で有名ですよ。その子もきれいなんでしょう?危なかったですよ。まったくそんなことするなんて日本の恥ですよ」

と囁いだのだ。

まさかあの料亭の女将がそんなことをするわけがない、とびっくりした村上軍医長にその下士官は

「はい。あの女将はいい人みたいですがね、その旦那らしい男が曲者です。あまり素性のよくない男らしいです。――なんであの女将にあんな男がくっついたんだか」

と言って腕を組んでちょっと考え込んだ。

村上軍医長は「そうか…」とだけ言って黙った。よく使う料亭ではあるがそんな内情までは知らなかった。下士官たちが知っていて自分たちが知らない話もあるのだと改めて軍医長は彼らを見直した。軍医長は「そうか、そんなことが。そういう良くないことができないようトレーラーの民政官などに注意をさせないといけないな」と言った、そんなことがあったのを思い出す。

軍医長は桐乃からの手紙を大事に封筒に入れてデスクの引き出しに仕舞った。

 

同じ日に、トレーラー海軍診療所の横井大佐も桐乃からの手紙を受け取っていた。

横井大佐は村岡軍医大尉に「キリノちゃんからの手紙だよ」と声をかけ、二人は診察室の椅子に腰かけて手紙を開封した。

村岡大尉は

「キリノ、えらい字がうまくなったですねえ。やっぱしあの子は頭がいいんですねえ」

と封筒の文字を見て感心している。そして

「ほう、日野原桐乃。日野原先生から名前をもらったんですね。いい名前じゃん」

と言って笑った。横井大佐も

「日野原軍医長はご自分の親族、娘として遇してやりたかったんだろうね。まったく知らない国に来て心細いキリノちゃんへの思いやり。さすが日野原軍医長だねえ」

と言いながら便箋を広げた。

村岡大尉が便箋を覗き込んだ。そこには横井大佐、村岡軍医大尉や仲間たちへの感謝と健康を祈る言葉が丁寧に書かれて東京での生活などが記されている、そして。

 

二人は便箋三枚に流麗な文字で書かれた桐乃の近況報告を読み終えてほうっと息をついた。そして二人顔を見合わせると

「すごい、すごい!桐乃ちゃん。医師になる勉強を始めるなんてやっぱりあの子は只者じゃあない」

と言って手を取り合って喜んだ。

その知らせはもとの看護婦仲間たちにも伝えられた。看護婦たちも

「素晴らしいわ、キリノさん。えらいわねえ、遠い内地にひとりで行ってあんなに頑張ってるなんて。私たちも負けられないわね」

と言って彼女の頑張りを称え自分たちをも奮い立たせたのだった。

 

そして午後。

海軍診療所に来た男性と女性がいた。

彼らこそ、桐乃の両親である。二人は「村岡大尉サン、いらっしゃいますか?」と言って訪ねてきた。ちょうど昼休みで暇を持て余していた村岡軍医大尉は喜んで二人を招じ入れた。

「村岡大尉サン、お休みノトコごめんナサイネ」

と桐乃の父親がすまなそうに言って妻と待合室に来た。村岡大尉は居合わせた看護婦に「お茶を頂戴ね」と言ってから底の椅子を勧めた。

お茶を看護婦が持ってきて桐乃の両親は「アリガトゴザイマス」と頭を下げた。大尉は「お茶をどうぞ。―-で?今日はどうしたでえ?どこか悪いだか?」と心配そうに二人をみた。

すると二人は慌てて

「チガイマス、ちがいます!今日はどこも悪くないね。大尉サン、コンナテガミガキマシタ。でもコレ日本語デカイテあるから、わからないね。ダレカラキタノカ、ナニガ書いてあるのか?読んでいただけますか?」

と言って封筒を差し出す。

「手紙だって?どう」

と差し出された封筒を手に取った村岡大尉はその文字を見るなり笑い出した。何事かといった表情で彼女の顔を見ていたキリノの両親に大尉は

「これ、桐乃からの手紙じゃん。やーだよう、桐乃。自分の親に手紙を出すに日本語で書いちょばいいに。まあそれだけ日本にも日本語にも慣れたちゅうこんだな」

と言って「ほんじゃあ、読むよ」と言って桐乃の手紙を読み始めた。

内容は横井大佐に宛てて書かれた手紙と同じであった。

「キリノは…ニホンで幸せニヤッテル」

父親がそういってうれしそうにほほ笑んだ。母親も「元気ならワタシモウレシイ」と言ってそっと目頭を指先で拭った。

封筒に便箋を戻していた大尉が「あれ、こりゃあなんずら」と言って封筒の口を広げるようにして覗き込んだ。

それを引き出した村岡大尉の顔がほころんだ。そしてそれを両親の前に差し出すと

「ほら」

と手渡した。

父親が手に取ったそれは一葉の写真。

そこには日野原軍医長はじめ日野原家の人々に囲まれて幸せそうにほほ笑む桐乃の姿があった。

母親が食い入るように写真を見つめて

「キリノ。みなさんにコンナニ良くシテいただいて。綺麗なフクヲ着て笑ってる。幸せ者ネ、キリノ。モットモット勉強してリッパニナッテ帰ってきてホシイネ」

と言って写真の桐乃のほほを指先でそっと撫でた。

父親が

「ダイジョブネ。キリノは、あの子はヤルヨ。いつか絶対リッパナお医者さんニナッテくれる。村岡大尉サンみたいな、横井大佐サンミタイナりっぱな。タノシミダネ」

と言ってうれしそうに妻の肩を抱き、写真を見つめる。

と桐乃の母が不意に不安げな顔になると大尉に

「デモ、大尉サン。あの子お医者さんニナル学校行く、デモウチニハお金ない。ドシタラいい?」

と尋ねた。

これこそが一番の心配事だろう。いくらキリノの基本給は支払われているといっても医学校に行けるような金額ではない。

しかし、村岡大尉は豪快に

「何を心配してるでえ?ほんなこと心配しなんでいいよ。今桐乃は日野原軍医長の娘っちゅうことで日本にいる。だから、そういう費用は全部日野原家が持つだよ、心配しなんでいいよ」

と言ってのけた。

がこんどは父親はが

「ソノオカネ、いつかはお返ししないとイケマセン。貯金、デキルカドウカわかりません」

と心配そうに言う。これは桐乃本人の心配でもあったが。

村岡大尉はガハハと笑うとその背中をバン!とたたいて

「だから!心配しちょって言ってるら?桐乃が立派な医者になることがそのお返しなんだよ。日野原先生方は些末なことを気になさる方たちではない。つまらん心配なん、しちょし?」

と言って初めて二人も微笑みを浮かべた。

 

午後の診療が始まるので診療所を辞した桐乃の両親は、見送る村岡大尉に深々と頭を下げて

「お忙しいところゴメンナサイ。アリガトゴザイマシタ」

と言って帰って行った。

その胸にはいとしい娘キリノからの手紙が抱きしめられている。

 

二人はまっすぐに家には戻らずに浜辺へ向かった。

海は、桐乃のいる日本へとつながっている、その思いで時々海を見つめる二人である。

午後の陽ざしを受けてキラキラと輝く海のさらにその先を見つめて親たちは心の内で桐乃に呼びかける。

(キリノ、お前はシアワセモノダヨ。みんなに感謝シテこの先もガンバッテ勉強しなさい。オトウサンオカアサンはここでお前の幸せと成功ヲ祈ってイルヨ)

 

そう祈る二人に、やさしい生まれたての風が吹いて去って行った――

 

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・

 

桐乃不在中のトレーラーの様子でした。

桐乃は世話になった海軍診療所の所長や村岡大尉を忘れていませんでした。そして誰より愛しい両親も。桐乃の今後は苦労もあるでしょうけど頑張ってほしいものです。

 

山梨県の夕暮れ。村岡軍医大尉は山梨県出身の設定です。


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「女だらけの戦艦大和」・今走り出すとき。

一通の分厚い封筒が女だらけの「戦艦大和」の日野原軍医長のもとへ届いた――

 

「日野原軍医長、お手紙です」

とその分厚い封筒を渡しに来たのは遠藤衛生水兵長である。大きな体の彼女は軍医長の私室へ緊張の面持ちで封筒を持ってきた。

「ああ、ありがとう!何だこりゃ、ずいぶん厚い封筒だね」

と軍医長は遠藤水兵長を見て笑った。遠藤水兵長もつられて笑ったが慌ててその笑いを引っ込めてしかつめらしい顔になると「では私はこれで!」と一礼して出ていこうとした。それを

「ちょっと待って遠藤水兵長」

と呼び止めて軍医長はデスクの引き出しを開けると何かを取り出し「これをあげよう。ほかの連中に見せないで自分だけで食べなさい」と渡した。

遠藤水兵長がそれを見ると小さな羊羹が三本。遠藤水兵長は羊羹が大好きなのでうれしさにほほが緩んだ。

「軍医長、ありがとうございます!」

と言って力いっぱい敬礼して彼女は軍医長の部屋を出て行った。

 

「さて、いったい誰からだろう?」

日野原軍医長は椅子に座り直し首にかけていた聴診器を外してデスクの上に置くと封筒をひっくり返した。

差出人の名前を呼んだ軍医長の顔がほころんだ。

差出人は――

日野原昭吾と…桐乃であった。

 

>母上様。

お元気でせうか。私たちは皆、変わりなく医療に従事してをります。父上も叔母様も、病院のみなも元気このうへなく居りますのでご安心くださひ。

そして母上が一番ご心配の桐乃さんですが、彼女はもう天性の医療人であります。あれからあつと言ふ間にわが病院に馴染み看護婦長や看護婦仲間の人気者です。

最初の頃こそ通院患者や入院患者の好奇の的ではありましたが今では誰もが「桐乃ちゃん」「桐乃ちゃん」と言つて、彼女の姿が見へないと皆が心配するほどになりました。

桐乃さんは内科・外科・産科の研修を終えて今は私の内科で働ひております。

そして私は桐乃さんに関して母上に申しあげたいことがござひます…

 

軍医長は息子からの便箋を最初に広げて楽しげに読んだ。

桐乃が聖蘆花病院で働くに関して心配だったことの一つに患者との関係があった。好奇の目で見られるのは最初は仕方がないがそれが変な方向に行っては、と懸念していたが杞憂に終わったようだ。

(あの子の天真爛漫さがわからないものはわが患者ではない)

その思いは一人日野原軍医長だけのものではなく聖蘆花病院の皆の思いでもある。

「よかった…」

軍医長はそういうと左手の甲で目をそっと拭った。いつの間にか涙があふれていた。

そして再び便箋に目を落とす――

 

>桐乃さんをこのまま看護婦としておくのは大変もったいなひと皆が思ふやうになりました。彼女は我々が気が付かなかった症状を見つけて教へてくれました。そのために患者の回復が早くなったのは言ふまでもありません。

私は思ひました―ー桐乃さんを医師にしたら如何でせう?もふしばらくこの病院で看護婦としての研鑽を積ませさまざまな症例を見た後医学校に通わせたらどふかと思ふのです。きつと彼女は素晴らしい医者になることでせう、それは父上も叔母上も、看護婦たちも言ふことです。

特に看護婦長が桐乃さんの才を「埋もれさせてはいけなひ」と言ってをります。母上にはいかが御思ひでせうか?

桐乃さんには父上と私から話をしてはあります。彼女にその気持ちは十分あると私たちは見てをりますが。

だうか母上にはご一考ねがひたく、よろしくお願ひ申し上げます(医学校に行く場合の学費は私が出すつもりであります)――

 

「なんと!桐乃が医師に向いていると」

日野原軍医長は思わず喜悦の声を上げてしまっていた。トレーラー海軍診療所にいたときから村岡軍医大尉からそっと

「日野原大佐、キリノというあの女の子はなかなか見所がありますよ。ひょっとしたらひょっとするかもしれません」

と囁かれたことがあったが、やはり。

村岡軍医大尉は桐乃を連れて往診に行ったり診療所でもそばにおいていたがその間に彼女の能力が単に看護婦だけにとどまらないということを見抜いていたのだろう。村岡軍医大尉の進言を受けて横井大佐もそれとなく桐乃を観察しているうち「彼女は磨けばもっと光る」と確信し、内地にゆかせることを決意したのだった。

日野原軍医長は何か心の内がうきうきとして来るのを感じていた。だが、

(しかし、肝心の桐乃はどう思っているのだろうか。我々だけが先走って桐乃の思いを置いてきぼりにしていないだろうか)

と心配になってきた。

そしてもうひと巻の便箋を手に取った。

それこそが桐乃の手紙で若い女の子らしい桜色の便箋。その便箋に丁寧な縦書きでびっしりと文字が並んでいる。

(なんてきれいな文字だろう)

日野原軍医長はしばらくの間、文字に見とれていた。そしてはっと我に返るとその文字をしっかり追い始めた。

 

>日野原軍医長様。

私桐乃は日本の東京、聖蘆花病院で看護婦を頑張つています。院長先生、若先生、千代先生や看護婦長、看護婦の皆さんが至らなひ私をしつかり支えてくださつています。桐乃はまだまだ日本語が上手でなひから皆さんと意思を通わすのがむつかしい時があります。ですから桐乃は以前に軍医長様から頂いた教科書をいま一度勉強しています。看護や医学の勉強もあるので大変は大変ですがでも、桐乃は勉強が楽しい。うれしひのです。

患者さんたちもすっかり私と仲良しになつてくださつて桐乃を見ると声をかけてくださひます。それが桐乃にはとてもうれしひです。

そして、この間院長先生と若先生から桐乃は医者になったらどうか?とのお話がありました。桐乃みたいなものが先生方のようなりっぱな医者のせんせいになれるだらうか?桐乃は本当申し上げますならあまり自信は無ひのです。でもやつてみたひ。大好きな勉強がもっとできるなら桐乃は、もふすこしわがままを言つてもいいでせうか?

日野原軍医長様、桐乃は医師を目指してみたひと思ひます――

 

「桐乃ちゃん。決心してくれたんだね」

日野原軍医長は手紙を胸に押し当てた。桐乃の弾んだ心が便箋を通して軍医長の胸に伝わるようだった。そして軍医長はもう一度手紙に目を落とした、そこには

 

>この手紙、まちがひは無いかだうか、昭吾さんに見ていただきました。

 

と書き添えてあり、軍医長は思わず微笑んだ。桐乃と昭吾が、机に頭を寄せている姿が目に浮かんだ。そして(昭吾は、もしかしたら、いやもしかしなくても桐乃ちゃんを好いているのだな)と思って一人小さく声に出して笑った。

うふふ、と声にして笑った軍医長は二人への返事を書くべくデスクの引き出しから便箋を取り出したのだった。

 

軍医長は二人の連名で手紙の返信をしたためた。

最近の『大和』でのあれこれを面白おかしく書いた後別の一枚の便箋に

 

>桐乃ちゃん。大志を抱け!若い今できることをしっかりやりなさい。医師になる勉強を始めるに早すぎることはない、何にも心配しないで始めなさい!走り出しなさひ。

そのために、昭吾。協力を惜しまぬこと。

お父様にもよくお願ひして協力してあげること。

桐乃ちゃん頑張れ、軍医長はいつでも応援しているよ!

 

と書きつけた。別便で夫へも桐乃への協力を願う手紙を書いて出した。

 

それら手紙は数日ののち東京の桐乃と昭吾、そして軍医長の夫のもとへ届いた。皆は大変喜んで昭吾は

「母さんも応援してくれている、だから桐乃ちゃん頑張ろうね。そして――」

と言っていったん言葉を切った。桐乃は昭吾を見つめて「そして?なに?昭吾さん」と言った。その桐乃をまっすぐに見つめると昭吾は

「私と一緒に、この病院を盛り立ててくれませんか」

と言った。その瞳はあくまで澄み切って、桐乃を見つめている。

 

桐乃もまっすぐに昭吾を見つめると

「はい。私…がんばります」

と返事をし、二人の視線は離れることがなかった――

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・

 

久々の『聖蘆花病院』、桐乃のお話でした。やはり彼女は単なる看護婦で終わる人間ではなかったようですね。それを見抜いていたトレーラー海軍診療所の医官も、日野原家の人々も素晴らしい洞察力の持ち主です。        

これから先、桐乃は医師に向けても勉強を始めます。応援してやってください!


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「女だらけの戦艦大和」・逢いたいあなた。

山中次子中佐は、今夜一人静かに夫の山中新矢大佐を想っている――

 

あの結婚式から早二月が過ぎた。三週間の長い休暇をもらい中佐は夫と楽しく過ごした、そして休暇を終え『大和』に復帰した。

結婚式の前、艦長の梨賀幸子大佐は「繁木航海長と同じに副長も土曜日に上陸して月曜の朝帰艦するようにしなさい」と言ってくれてはいるが、なかなか忙しくて上陸するに至らない。副長の仕事は多岐にわたり(これでは私の休暇中、黒多さんは大変だったろう)と気の毒になるほどである。

そのうえ進級を控えた下士官兵が今回多くその人事の処理にも忙殺される。副長は半徹夜の晩も多くなった。

繁木航海長などはその様子を見ているから

「副長が上陸できないのに私がするわけにはいかないです」

と言って毎土曜の上陸を断ったが副長は

「関係ない、貴様は上陸しろ!」

と一言で航海長を黙らせた。

航海長は副長の一見厳しいようなその言葉の中に(私への思いやりがあるのだ)と感じた。しかしそれを長い言葉にすれば何か嘘っぽくなる―ーそう副長は思ってあの一言に集約したのだろう。

繁木航海長は(ごめんなさい、私だけいい思いをするようで心苦しいですが…早く副長も上陸できますよう祈ります)と心の中で手を合わせて詫びながら今日土曜日、上陸していったのだった。

副長の本心は(やはり…上陸してあの人に会いたい)だった。それは新婚の女性なら当然の思いだろう。夜、巡検が終わり一人の部屋に戻りベッドの中に潜り込むと浮かんでくるのは夫・新矢の面影。

次ちゃん、次ちゃんと呼びかけて微笑む夫の顔。

次ちゃんが大好き、と言って抱きしめてくる夫。

そして閨の中での夫の力強くもやさしいあの行為。

山中副長はそれらを思い出してたまらなくなって思わず自分の一方の肩に手をまわした。

ため息をついて

(新矢さん…しん兄さん。会いたい。会いたい。ずっと一緒にいたい)

とベッドの中で苦しんだ。

 

浅い眠りで夢ばかり見た。いつも同じ夢を見る。

夫を追いかけて家へと続く坂を必死で登る夢、なかなか夫に追いつけなくて泣き出す中佐は「しん兄さん、あなた!お願い、待ってください」と叫ぶ…夫は中佐に背を向けたままスタスタと坂を上ってゆく。悲しくて悲しくて、中佐はその場に座り込んで泣いた。

と、そこで目が覚める。

枕が涙でぬれているのがわかり、はっとしてほほを手の甲で拭う。

(夢だったのですね…でもなんて悲しい夢)

副長はそう思いつつ身をベッドから起こす。

枕もとの時計を見ればまだ深夜の二時過ぎ。舷窓をそっと開ければ暗い海が広がり周囲は寝静まって静かである。

副長はもう一度ベッドに体を横たえると

(なんであんなに悲しい夢を見るんだろうか。新矢さんは私に背中を向けたままで坂を上って行ってしまった。もしかして新矢さんの心は私から離れてしまったのではないかしら。まさか…でもあれからずっと会えていないからもしかしたら?)

と勝手な妄想をしている。

(あの人が、もしもほかの人を好きになってしまったら私はどうしたらいいのでしょう。誰に相談したらいいのでしょう、ああ、そんなことのありませんように)

副長はまた、静かに涙を流し始める。

それでも朝になればそんなことをおくびにも出さず山中副長は任務をこなす。梨賀艦長は(副長無理をしているな)と分かるがこればかりは交代してやるわけにもいかず艦長としてもつらい立場ではある。

 

 

そんなころ、呉海軍工廠の研究棟でも山中新矢大佐がひそかにため息をついている。

(次ちゃん、次ちゃんはどうしているだろうか)

まさか私を忘れてはいないだろうなあ、と子供っぽい考えにとらわれて少しばかりさみしくも悲しくもなる彼である。それでも研究に没頭している時間はまだいい、問題は勤務時間がひけて自宅に帰るその時である。

(ああこの道、次ちゃんと話をしながら歩いた)

(ここで次ちゃんが振り返って私を見つめた)

(私は次ちゃんの手を握って…)

(その樹の陰でだれもいないのを確かめてから、そっと次ちゃんに接吻したっけ)

帰る道すがら山中大佐はそんなことを思い出しては寂しさに圧倒されそうな心に喝を入れる。しかし思いはすぐに次ちゃんに飛ぶ。

家への坂道をあがりながら

(この道を、花嫁姿の次ちゃんは歩いて私のところに来てくれた)

と思う。あの婚礼の日の美しい次ちゃんの姿を思い出す。春うららかなあの日、白無垢に身を包んだ次ちゃん、人形のようだった。金糸銀糸で縫い取りされた「桜に錨」がまぶしかった、それに目を細めた次ちゃん。次に私を見つめたときのあの美しい瞳、何があっても忘れられない――

 

新矢はそう思いつつ坂を上がる。家の前まであと少しのところで彼は呉湾を振り返った。

点々と、大小艦艇が停泊しているのが見て取れる。その中で沖のほうに、月明かりに照らされて他よりひときわ大きなシルエットが見えるそれこそが(『大和』、次ちゃんが今あれに乗っている。何をしているのだろうか)。

山中大佐はしばらくの間それをじっと見つめていた。

 

ちょうどその時、山中次子副長は呉側に向いた舷窓から家のほうを見つめていた。

(新矢さん、お元気ですか。私は一所懸命がんばって任務をこなしております。近いうち上陸できるよう私は粉骨砕身、はげみますからね!どうか、どうか待っていてくださいませね)

図らずも、二人の視線が呉の空に絡み合っていた。

 

それから数日後の晩、副長は眠れなかった。

逢いたい思いがつのってどうにも身の置きようがなかったのだ。そっとベッドから抜け出すと三種軍装を着こんで甲板に出た。

甲板に出るとそこは壮絶なまでに蒼い月の明かりに照らされて別世界のようである。

副長は足音を忍ばせて歩き、第一主砲塔の前まで歩いた。そして主砲塔を背にして月を見上げた。

(新矢さん)と心の中で呼びかけた。

そしてそっと瞼を閉じれば浮かんでくるのはいとしい夫の微笑み。涙が溢れそうになったけれど懸命にこらえる。

そうでないと夫の面影が涙とともに流れてしまいそうだったから。

そして目を開ければ呉の街並みが目に入ってしまう、美しい街呉。私たちの家のある素晴らしい街。二人の思い出がありすぎて見たら最後、やはり泣いてしまうかもしれない。

副長は懸命に涙をこらえ、瞼を閉じていた。

が、とうとう涙がその瞼からあふれてきた。次々に涙は流れて三種軍装の胸が濡れる。

思わず膝を甲板につき、両手で顔を覆うと嗚咽してしまった。

 

甲板の 冷たき鉄にくらぶれば 君がみ胸のあたたかきかな

 

 

山中大佐もたった一人の家の、二階の寝室で黙って寝台に座っていた。彼の胸の内には、休暇を終えて艦に帰る妻の姿が思い出されている。

 

手を振りて 去りゆく君の面影を 慕いてわれは 一人夜を寝る

 

 

副長はしばらくの間泣いていたがやがて涙にぬれたほほを、ハンケチで拭いた。時折ひくひくと喉が鳴った。切なさというものはこんなにつらいものなのか、と副長は感じている。

(これが…『愛』というものなのだろうか)

愛などということは何か恥ずかしいもののような気がして口には出せない気がしている。仲間内でも「そんな、愛なんてアメちゃんの専売特許みたいなこと、帝国海軍軍人が言えますか。ねえ!」と笑い飛ばしてきた。だが、実際誰よりも好きな人が出来てみれば。

 

愛と言ふ 言葉の大きな風呂敷に 包み切れぬはわが思ひなり

 

副長は出口のない思いを抱えてその場に立ち尽くしていた。やがて決然と顔を上げた副長は、自宅の方向を振り向くとしばし、瞑目した。

 

 

山中新矢大佐は立ち上がると部屋のカーテンを開けて目の前に広がるくらい呉湾を見つめた。(ついこの間までここに、私のこの横に次ちゃんがいた。早く戻ってきてほしい)

見上げる空には満天の星がきらめき蒼くかかる月が彼の心を見抜いているかのように輝いている。大佐はカーテンを閉める前もう一度振り返って呉湾を見つめた。

 

月見ても 星見てもまたわが胸に 思い出づるは君が微笑み

 

 

きっとまた会える。きっとすぐにまた会える。

二人は互いの場所でそう思い願っている――

 

振り返へり 振り返へり見つ 海と街 わが思ひをば伝へよや風

 

                ・・・・・・・・・・・

 

切ない思いの新婚夫婦・山中新矢大佐と次子中佐でした。

どちらも忙しい身、なかなか会えないつらさがありますが再びまみえたときの喜びは大きいことでしょう。その日を――楽しみに。


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戦艦「武蔵」を想う。

米国資産家によってフィリッピン・シブヤン海に眠る「戦艦武蔵」が発見され大きな話題となりました。戦後七十年というこの年に発見されたということに私はなにかとても因縁めいたものを感じてしまいます。『大和型』二番艦として長崎造船所で生を受けた「武蔵」ですが、僚艦の『大和』ともども、決して恵まれた一生ではありませんでした。

しかし、その中で生き、懸命に戦った多くの将兵の皆さんのことを忘れてはいけませんね。

 

『大和』に比して地味な扱いの「武蔵」。

映画にすらなっていませんね、私が知る限りでは「軍艦武蔵」というドキュメンタリー映画が一つあります。これはもと「武蔵」乗組員の方たちへのインタビューを中心にしたドキュメントです。

しかし物語としての映画はなかったと思います。

あの「男たちの大和・YAMATO」でもレイテ海戦のシーンはありますが「武蔵」は名前だけの登場です。

 

前にご紹介した本ですが「軍艦武蔵 上下巻 手塚正巳著・新潮文庫」という本には「武蔵」の誕生からその沈没、そして生存の将兵が厳しい地上戦の中に送り込まれてなめた辛酸等が描き出されています。

途中には将兵たちの生活も書かれて、時には楽しい気分にもなります。

 

私はこの本をベースにして「武蔵」の映画が作れないものかなあと思いますね。あまり知られていないからこそ作ってほしい。

そして絶対入れてほしいエピソードは沈没に際し猪口艦長が、加藤憲吉副長に「記念に副長にやる」と愛用のシャープペンシルを渡すシーン。(このシャープペンシルは現存しており靖国神社・遊就館に展示されております。)

それからレイテ戦前に『大和』を訪問した猪口艦長が塗装をきれいに塗り替えた「武蔵」を見ながら、『大和』能村副長に「『大和』も塗り替えたらどうかね?」と勧めるも能村副長に「いえ。戦闘になったらどうせ剥げだらけになりますから終わってからゆっくりやりますよ」と言われるシーン。

そして何より、仮屋航海長がまだ青いバナナの房を天井につるして「突入前に食べられないかなあ~」と見上げているシーンを作ってほしいですね。

 

仮屋航海長(海兵五十二期)は結局、あの海戦で命を落とします。

「武蔵」第一艦橋に命中した爆弾はそこに居合わせた多くの人の命を奪い猪口艦長の肩に重傷を負わせ、あれほどバナナの熟れるのを楽しみにしていた仮屋航海長をも戦死させます。

航海長は、羅針盤の上に覆いかぶさるようにして息絶えていたそうです。

 

凄惨だったレイテ海戦における「武蔵」の戦いを何とか再現し、後世に伝えてほしいと思います。ただでさえあの戦争は忘れられかけています。

「忘れてほしくない!」

今度の武蔵発見は、彼ら英霊の叫びが導いたことのように思えてなりません。

 

 

今なおシブヤン海のそこに眠る「武蔵」。

その中では猪口艦長以下多くの皆さんが永の眠りを紡いでいられるのでしょう。

安らかに、と祈るばかりでございます。

そしてまた『大和』の命日四月七日も間もなくやってまいります。

二つの艦のことを合わせて考えたい、戦後七〇年目の節目の年です――

 

猪口艦長
猪口艦長

戦艦武蔵
武蔵



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見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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