「女だらけの戦艦大和」・それを人は恋わずらいという7

 経御国三とその両親は平謝りで半泣きになって帰っていった――

 

そんな中、見合い会場だった部屋の隅で山中大佐はまだ野村中佐をマントに包んだまま抱き抱えていた。それにやっと気がついた中佐の母親が

「ああ、ありがとうございました。あなた様のおかげで次子は助かりました。何とお礼を申したらよいやら」

と言って山中大佐を見つめていたがやがてなにか思い当ったような顔になった。そしておずおずと

「あの・・・もしかして山中さんの坊ちゃんではないですか?」

と尋ねた。すると山中大佐は微笑んで「はい。そうです――その昔、隣の家に住んでいた山中のワルガキの下の方です。お久しぶりです!野村のおばさん」と言った。中佐の母親は「やっぱり!ねえお父さん、私が言ったとおりでしょう」と言って喜んだ。中佐の父親も

「おお!あの小さかった坊ちゃんがこんなに立派になられて――御両親はお元気ですか?」

と懐かしげな顔になってきいた。山中大佐もうれしげに「いやあ、私は相変わらずのワルガキのままで・・・はい、父も母ももう数年前に相次いで亡くなりました。兄は今佐世保の鎮守府に居ります」と言って笑った。

「そうだったのですか・・・知らなかった。でも何年ぶりでしょう。山中さんご一家が御引越されて以来ですね」

中佐の父がそういった時、母親が「お父さんその前に次ちゃんを――山中さんがお疲れになりますよ」と言い、母親が先に立って料亭が用意してくれた一室に中佐を運んだ。山中大佐は、いとおしそうに中佐をマントに包んだそのままで抱いてゆく。その様子を見た中佐の父親には何か心に響くものがあった。しかしそれをおくびに出さず彼の背中を見つめる父親である。

あてがわれた一室には、料亭の女将が気を利かせて布団を延べておいてくれた。中佐の母親が掛け布団をはぐると、大佐がマントのまま野村中佐を布団の上にそっと置いた。まだ中佐は目を覚まさない。優しいまなざしで見守る大佐、中佐の母親は「次ちゃん、次ちゃん」と呼びかけその身体に手をかけ軽くゆすった。

と「ううん・・・」と軽くうなって野村中佐は目を覚ましたようだ。ふうっと目を開けた中佐は、自分が布団に寝かされ目の前に山中大佐が居るのに驚いてはっきり目が覚めた。

「山中大佐、私は一体?」

そう問う中佐に山中大佐は優しく微笑んだ。中佐の母親は山中大佐に「少しの間次子を、お願いいたします。私達は先ほどの部屋に居ります」と囁くとそっと部屋を出る。母親は<軍人>同士の話もあろうと気を利かせたのである。野村の母親が部屋を出た後大佐は

「お見合いの最中だったのですね、でもあんなことになるなんて。もう平気です、あの男性は帰りましたよ」

と言って安心させるようにマントの上から中佐の身体を優しく叩いた。すると野村中佐の瞳に見る見るうちに涙が盛り上がった。まぶたを閉じると涙が流れ落ちた。

「私、うかつでした。ぼんやりしていて人気のない道に連れ込まれたのも気がつかなくて。私あの男性に聞くに堪えないことを言われて腹が立って、そのあと・・・」

中佐はそこまで言うと嗚咽を漏らし始めた。山中大佐は両掌で野村中佐の頬を流れる涙をぬぐった、そして

「あなたはうかつなんかじゃない。見合い相手にそんな非礼な行為に及ぶ男が悪いのですから、あなたは自分を悪く思うことなんか一つもないんですよ、いいですね、野村さん」

と言って彼女をひたと見つめた。野村中佐は「山中大佐・・・」と言うとマントの下から彼に片手を伸ばしてきた。その手をつかんで、彼女を包むマントをそっと取り去った大佐はその下の彼女の体が軍装をまとっていなかったのに今更ながら気がついた。

 

彼女の軍装はあの男性に脱がされていたのを、中佐の身体ごとマントで一緒に包んできたのだ。そしてその軍装は今、中佐の両親のいる部屋に落ちていた。

母親が「あら・・・これは次ちゃんの」と部屋の隅に落ちている一種軍装と短剣を持って「持って行ってやりましょうね」と腰を上げかけたのを、父親は「まあ、待ちなさい。まだいいだろう」とおしとどめたのだった。母親は「はい・・・そうですね」とほほ笑むと、軍装をたたみ始める。父親は軽くうなずいて湯呑の中に残った茶を飲み干した。

 

マントが取り去られたその時、中佐は自分が肌着だけなのに気がつくとハッとして体を隠そうとした。が、それよりも早く大佐の身体が野村中佐に覆いかぶさるようにしてきた。

抱きしめられた。

<初めての>男性からの布団の上での抱擁。

野村中佐は、どうしていいのかわからないまま身を固くして大佐に抱きしめられている。大佐は彼女の耳元で

「野村さん・・・いや次ちゃん。あなたは覚えていないかなあ。昔あなたの家の隣に住んでたワルガキの事を。そのワルガキはまだ赤ん坊だったあなたをおんぶさせてもらっていたことがありました。それからもう少し大きくなったあなたをこうして抱っこして寝かせたことも」

と囁いた。中佐はまぶたを閉じて古い記憶をまさぐった。古い古い、一番古い記憶を探った時――

「ああ・・・そうよ!私はとなりのおうちのあのお兄ちゃんが好きだった。よく遊んでくれた。一緒にあちこち駆け回って・・・でもそのうちお引っ越しされて会えなくなってしまったあのお兄ちゃんが――山中大佐?そうなんですね?」

そう語った野村中佐のまぶたが開くと大佐を見つめた。二人の視線が、絡み合った。大佐はそっとうなずくと

「そうですよ、私があの<お兄ちゃん>。――あの時三人で工廠にいらした中のあなたを見て、あなたこそ私が大好きだった――いや今でも大好きな次ちゃんだと思いました。そのあと確認してあなただとわかった時の私の喜びをわかって下さいますか?私はあなたのことが好きです。昔からずっと、ずっと今までもそして」

とそこまで言うと一旦言葉を切った。そしてさらに真面目な顔になり中佐を抱きしめる腕に力を込めると

「これからもずっと、好きでいていいですか?」

と言った。野村中佐は、山中大佐の軍装の腕をぎゅうっ、とつかんだ。そして

「はい。私も――好きでいていいですか?」

と尋ね、答える代わりに大佐は中佐の身体を力いっぱい、抱きしめたのだった。二人の間にこれ以上言葉は必要ではなかった。

 

それからしばしのあと、山中大佐は元の部屋に行き野村の母親に「野村中佐の服をお願いします」と伝えて母親は娘に軍装を持って行った。野村の父が「山中さん、今日は面倒に捲きこんでしまって本当に申し訳ありませんでした。娘の不始末であなたにご迷惑をおかけしたこと深くお詫びいたします」と謝り、大佐は

「いえ、決して中佐の不始末などではありません。あれは相手の男性が責めらるるべきことで野村中佐は一切責められてはなりません」

ときっぱり言った。父親は「ありがとうございます」と静かに頭を下げた。やがて中佐がきちんと身支度を整えて母親と一緒に部屋に戻ってきた。中佐は、山中大佐の前にきちんと座り両手をついて今日のことの礼を述べた。

山中大佐はうなずくと今度は自分がもう一度居ずまいを正してから野村の両親の前に両手をつき、深く頭を垂れると

「お願いがございます」

と言った。ふた親は、じっと山中大佐を見つめた。その視線を受けつつ大佐は平伏したまま

「次子さんと、結婚させて下さい!」

と大音声を発した。中佐はさすがにびっくりして山中大佐を見たが、父も母も、山中大佐が我が娘を見つめる瞳や抱き上げている時の様子から(これはもしかすると)と思っていたからさほどびっくりはしなかった。が一応「しかし、」と異を立ててみた。彼の想いの深さを知るために。

「しかし山中さん。あなたと次子は未だ出あって日が浅いのではないでしょうか?いくら子供のころを知っているとはいえあまりに年月がたち過ぎている。その間に次子も変わってきていると思うのですが」

そう優しく言った野村の父に、顔を上げた山中大佐はむかしのように「野村のおじさん!」と呼びかけていた。

大佐はその一途な瞳を中佐の父親に向けて

「私は昔から、そして今でも次子さんが大好きです。次子さんが海軍に入られたと聞いた時私は必死でどこにいるか探していました。なかなかつかまらなくて焦りました、が今年やっとその思いが報いられる時が来ました。次子さんがお仲間と一緒に私の勤める海軍工廠にいらしたんです――もしかしてあのつぐチャンだろうかの思いを、確信に変えた時私は決心しました。私は野村次子と結婚すると!私はつぐちゃんと結婚するためにこの年まで独りでいました、どうか、どうかこの思いをお聞きとどけくださいっ」

というともう一度その額を畳にこすりつけた。

ふた親が大佐を見つめて微笑み、中佐を見たその時料亭の玄関が騒がしくなった――

          (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・

いよいよ野村中佐もお嫁入りでしょうか。お互いの心がしっかり結ばれたようです。

 

今回のお話のテーマ曲にしたい私の大好きな曲「TONIGHT」小比類巻かほる です!



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 野村中佐と、見合い相手の経御国三(へお こくぞう)氏は場所を変えて歓談することとなった――

 

しかし、野村中佐の心はどんよりしている。正直彼は中佐の趣味ではない。しかも先ほど軍帽を手にとって舐めそうなくらい見つめられたし自分自身も舐めるように見つめられて気味が悪い。少し離れて歩く。ぼうっとして歩いたせいか、人気のない道へ入り込んでいたのも気が付かなかった。

すると経御氏はいきなり中佐の片手をつかんだではないか。

ハッとして中佐は手を引こうとした。が、彼はしっかりとものすごい力で中佐の手をつかんで離さない。中佐は軽く手を振って経御氏の手を放そうとした、すると経御氏はさらにグイッと彼女の手を握り締めるなり

「そんなに恥ずかしいか?カマトトぶってんじゃねえよ、貴様ら女海軍は早くっから男を知ってるって言うじゃないか。お前もそうなんだろう?とっくのとうに、男の二、三人いや、二桁くらいは乗せたんだろう?」

ととても品のない、聞き捨てならないことを吐き捨てるように言った。中佐の顔に怒りの朱が注がれ、彼女は経御氏の手を力いっぱい振り払った。

「なんてことを!我々は陛下の軍隊だ、それを愚弄するか貴様!」

絶叫した。大きな道に面した道を通りかかった水兵の数名が遠巻きにしてこちらを見つめているのがわかった。中佐はその水兵たちに料亭と、出来れば艦へ通報してもらおうとそちらに走りかけた、とたんに

「来いよ、お前を調べてやる。まあ結婚してからでもいいがどんな具合だか見ておかないとな」

と手をグイッとねじられ引きずられた。「いや!やめて」と叫んだ中佐であったが道の奥へと続く雑木林へ引きずり込まれていく。

 

中佐は無造作に乾いた土の上に投げ出された。中佐の目は経御を睨みつけている。その唇がわなわな震えると

「あなたと言う人がわからない・・・」

と言った。すると経御の先ほどまでの恐ろしいくらいの居丈高な態度が豹変したではないか。投げ出されたままの中佐の横に膝をつくと最初のような気弱な態度で

「ごめんなさい。私はあなたを試したかったんです。あなたを愚弄してしまったことをお詫びします・・・私は気の弱い性格でしかもこんな変な名前の為か、今まで何人とも見合いをしましたがすべてダメでした。名前は変えようがないし、なによりこの性格では女性は気に入ってくれないと悟ったんです。ですから今回は作戦を変えることにして、強い男を演じてあなたがどんなふうに私を見るか試すことにしました。私はあなたのような勇ましい女性が大好きです。海軍も大好きです。――でも結果はあなたを傷つけてしまいました。ごめんなさい。許して下さい!」

というなり号泣し始めた。中佐はきょとんとして経御の泣く姿を見つめている。しばらく泣いた後経御は「野村さん、私とわたしと結婚して下さい―ッ!」

と叫ぶなり中佐を抱きつき、その場に押し倒したではないか。野村中佐は「いや、やめてーッ」と叫んだが・・・誰も来るはずがない・・・。

 

野村中佐が貞操の危機に見舞われていたころ、山中大佐は上陸桟橋目指して歩いていた。マントが風に翻る。

(あの人に会ったら私はアガってしまうかもしれない。だが今日はそんなじゃ駄目だ、今日こそ私は富士山にならねば。一世一代の大一番だ。頑張ろう)

そう自分を鼓舞しながら。

そうして歩くうち水兵嬢の一団とすれ違った。と、何やらひそひそ話し合っていた水兵嬢の中の一人が山中大佐に駆け寄ってきて敬礼すると

「失礼を承知でお話しいたしますが」

と言って先ほど見かけた普通ではない光景を大佐に話した。そのうちの一人の水兵嬢が野村中佐の顔を知っていて、山中大佐にその旨を継げると大佐は、「その二人はどの辺に行ったかね?」と聞いて、水兵嬢の示した方へと走り出した。走り出す前に「君たち、『大和』の兵隊ではないのか?なくてもいい、『大和』に、それから衛兵所の人間に知らせなさい、緊急事態だ」と指示をして。

山中大佐は愛しい中佐を救うため走る、走る走る――!

 

「いや・・・やめて!」

野村中佐は経御に組み敷かれ暴れている。軍装のホックが外されその下の襦袢のボタンもちぎれて肌着が見えている。経御は息を荒げて中佐にのしかかり「野村さん、私と結婚して」を繰り返す。いや、いやだと中佐は逃げようとすればするほど着ているものが脱がされていく。

経御は「私は、あなたの写真を見たときからあなたを気に入っていました。結婚したいんです、お願いです。お願い結婚して?あなたが大好き――嫌と言っても、既成事実を作ってしまえばこっちのものです」と哀れっぽいようでとんでもないことを言いながら、さすがに力は男だけあって強く、中佐を地面に押し付けてついでに自分も押しつけてくる。中佐は(いやだ、こんなところでこんな男に<初めて>を奪われるなんて。私は、私はあの人が好き・・・!)と思いつつ必死で叫んだ。

「大佐、山中大佐―」

 

山中大佐は水兵嬢たちが二人のあらそう姿を見たという道へ走り込んでいた。(野村中佐、どうかご無事で!)と祈りながら走る。雑木林の中の道に走り込んだ。

すると自分を呼ぶ必死な声を彼の耳は聞いた。大佐は「そっちか!今行くぞ」と怒鳴ると声がした方角に、樹や草をたたき折らんばかりの勢いで走っていく。しかしなかなか姿が見えない、いらだち始めた大佐のすぐ後ろから「助けてー、山中大佐!」という野村中佐の叫びが聞こえ、大佐は「そこか!」と叫ぶと声のしたところへとその身を投げるようにして飛び込んだ――

 

その同じころ、『大和』のトップではマツコが落ち着きを失くしていた。トメキチが「どうしたの、マツコサン?」と不審げに問いかけた。マツコは「言ったでしょ、野村に何かが起きるって。その何かが起きてるような感じがするのよアタシ」と言って大きな翼をバサバサとさせた。

トメキチが緊迫した表情で「じゃあ、助けに行かないとだめじゃないの?マツコサン」と言ったがマツコは突如黙り込んで翼をたたんだ。トメキチは「どうしてマツコサン!?いつもお世話になってる副長さんに何か起きたんでしょう!?」と少しなじるように叫んだ。

が、マツコは「ちょっと待って?待ちなさいよ」と言うとしばらくの間じっとして目を閉じていた、トメキチがいら立つほどに。やがてその金色の瞳を開くと

「大丈夫よ、野村には強力な助っ人が来てるはず。アタシ達が行くよりずっといい結果になりそうね」

と言って翼を大きなくちばしで撫でつけた。

山中大佐は、野村中佐の悲鳴のしたところに飛び込んでいた。するととんでもない光景が展開されているはないか。

一人の男が半裸状態になって息を荒げて野村中佐にのしかかっている。あられもない姿にされた中佐は気を失ってしまったのだろうかぐったりしている。男は、山中大佐が飛び込んできたのもわからないのか「結婚して下さい、結婚してえ?」と言いながら中佐の肌着の中に手を入れた。

大佐の頭にかっと血が上った。

「おい、貴様何してるんだ!」

と怒鳴ると男の首根っこをつかんで思い切り投げた。ギャアー、と男は叫んでみっともない格好で二㍍ほど先の地面にたたきつけられた。腰でも打ったのか動けない男のそばに寄っていった大佐は「貴様は一体誰だ、どうして野村中佐とここにいる?」と問い詰めた。気弱な男は、山中大佐の恐ろしい剣幕に恐れをなして自分は中佐と見合いをしていてその後ここに連れ込んで襲ったということを白状した。

「馬鹿ものが!恥を知れ」

山中大佐はそう怒鳴ると男の両手を男の衣服で縛って置いた。そして立ち上がると倒れている中佐の元へと駆け寄った。

ぐたりと気を失ったままの中佐、あられもない姿の彼女に大佐は自分のマントを取るとそれで包んだ。そして必死で

「野村さん、野村中佐しっかりしなさい」

と呼びかけ続けた。しかしなかなか中佐は目を覚まさない――

 

その頃、見合いの会場では「ちょっと遅いですねえ。話が盛り上がってるのかもしれないがちょっと見て来ましょう」と紹介者の男性が外に出て行った。両家の親たちは(きっとうまくいっているのだ)と内心嬉しがりながら歓談中。

しかしその少し後、紹介者の男性が血相変えて駆けこんできて様相は一変する。「へ、経御さんが中佐に狼藉を働いた!!」と叫んだ紹介者の声に経御の両親は卒倒せんばかりに驚き、「まさかあの子が、あんな気の弱い子が!」と泣きだした。中佐の両親は「まさか!うちの娘が経御さんに乱暴をしたのでは?」とおろおろした。

しかし詳細は山中大佐が野村中佐を抱きかかえ、その後ろにすっかりしなだれた男性を従えて料亭に戻ってきたことですべて判明した。

野村中佐の両親は怒り心頭に発するし、経御の両親は息子の頭を畳に抑えつけ自分たちも平身低頭して謝るし紹介者は立場を失くしてそうそうに逃げてしまった。

こうして野村中佐の見合いはひどい結果で終わったのだった。

――そして。

     (次回に続きます)

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・・・

どうもうまくいかない気がしておりましたがとんでもない男でした経御国三。

そしてこの後、どうなるのでしょう山中大佐と野村中佐。いい方に向かいますように!

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 野村中佐が上陸桟橋を上がり、衛兵所を通過すると向こうから母親がやってくるのが見えた――

 

「次子さん」と母親は小走りに中佐へと駆け寄りその前まで来ると深々と頭を下げて「お疲れ様です。お帰りなさい」とあいさつをした。

母親にこんなに丁重な挨拶をされて中佐は戸惑った、がピンと背を伸ばし几帳面な敬礼をして

「お久しぶりです。戻りました」

と挨拶を返した。母親はやっと顔をあげると嬉しそうにほほ笑んで中佐を見つめた、そして感慨無量といったふうで

「立派になりましたねえ、次子さん」

と言ったまましばし言葉を失くしたように佇んで娘を見つめている。野村中佐は苦笑して「そんなに見つめられたら困りますよ。――お父さんはどうなさいました?」と言った。母親はその言葉でやっと我に返ったようになり

「お父さんは旅館にいらっしゃいますよ。お見合いの刻限は今日のお昼ですからまだ時間もありますしね。旅館に行きましょう」

と言って歩き出す。中佐もそのあとに従う。

 

しばらく歩いて一軒の大きな旅館についた中佐は、軍帽を取り父親の前に両手をつき内地帰還のあいさつをした。「このたびは帰艦の御挨拶が遅れましたことお詫びいたします。お父さんには御機嫌麗しゅう」

そう言って頭を下げる娘を嬉しそうに見つめる中佐の父親は「まあ、堅苦しい挨拶は抜きにして楽にしなさい」と言って相好をくずして中佐を見つめた。はい、と言ってそれでも正座を崩さない中佐に父は「次子も立派な海軍軍人だなあ。中佐で、大きな艦の副長を務めているということだが・・・つらくは無いのか?」と言って座卓の上の菓子鉢をそっと娘の前に押しやった。

母親が二人の前に茶を出して勧めながら「本当に立派になって。私は見違えてしまいましたよ。でも・・・本当につらくないの?」と尋ねた。野村中佐は苦笑した、そして

「つらくあるはずないですよ。私には大勢助けてくれる仲間がいますからね、なにもつらいことなどありませんね、全く平気であります」

と言って母の淹れてくれた茶をすすった。はあ、おいしいと中佐は笑って両親も笑った。

母親は、座卓の隅に置いてある夫の腕時計をちら、とみて「次子さん、あなたちょっとお化粧を直した方がいいわ。こっちに来て?」と中佐に声をかけると次の間の鏡台の前にいざなった。短剣を腰から外して中佐が鏡の前に座ると母親は娘の長い髪をほどいて櫛を入れ始める。

母親は「随分長くなりましたねえ、切らなくていいの?」と言いつつ髪を梳く。中佐は鏡の中の母親に微笑んで

「いいんですよ。何かあるようなときにはきちんとまとめているんですから」

と言った。髪を長く伸ばしているのは、梨賀艦長の為でもあるのだがそれは言えない。

母親の鏡の中の表情がかすかにこわばり「なにかあるようなとき・・・」と小声でつぶやいた。なにか、とはとりもなおさず戦闘のことであろう。大事な娘の身を母は心から案じた。その母の思いを中佐は厳粛に受け止めてあえて、何も言わなかった。そして髪を母に預けてしばし、彼女の心は無心の空間を漂った。

 

その同じころ。

山中大佐がこれも鏡の前に立ってあちこち矯めつ眇めつしている。(おかしくないだろうか、これであの人の前に立って笑われないだろうか?)軍帽を何度もかぶり直したり短剣の位置を直したり一種軍装の裾を引っ張ってみたりと忙しい。

そして深呼吸をすると愛しい野村副長を呼び出す手はずからその先までをもう一度心のうちで復唱した。(・・・まず呉桟橋に行って・・・衛兵所に行き・・・呼び出しの発光信号か電話を発信してもらう・・・それで彼女が来たら、衛兵所のそばでは具合が悪いから・・・町中の静かな喫茶店かあるいはそうだ、亀山神社の境内に行ってそこで!――よし、これでいい。そして彼女にこの胸の内を打ち明けよう)

山中大佐の胸の鼓動が大きくなった。

 

一一二〇(ひとひとふたまる、午前十一時二十分)になるころ。

野村中佐一行は旅館を出て見合いの会場となる料亭へ向かう。

道すがら、中佐は「そういえばお母さん、私はお相手のかたのおなまえをまだお聞きしてはおりませんが?どういったわけです?」と問うた。母と父は一瞬ぎくりとした表情をしたがすぐにそれも消え、母は作り笑いを浮かべて

「向こうに着いたらお知らせしますからね。――あら、向こうからいらっしゃるのはあなたのお知り合いじゃなくって?」

と話をそらした。中佐は(なにか、みょうだなあ。なんで名前を聞いたらいけないのだろう)と不信感が増している。

 

三人は料亭についた、まだ相手は来ていないという。約束の刻限にはまだ時間が十分ほどある。通された部屋の中に落ち着いた三人であったが中佐は居住まいを正すと

「お母さん、先程のお話ですがお相手のお名前を教えて下さい」

と言った、そのまっすぐな瞳に母親は瞬間ためらいの表情を見せたが「いいこと?決してお名前を見いて驚いたり笑ってはいけませんよ」と前置きすると懐から一枚の名刺を差し出した。

目の前に出された名刺には

経御 国三

と書いてある。中佐は(なんだどんなに変な名前なのかと思っていたら普通じゃないか)と拍子抜けして母親に

「けいご、それともきょうご、ですか? くにぞう、さんとおっしゃるんですね?別に笑ったり変に思うようなお名前と違うじゃないですか。お母さんもおかしなお人だ」

と言って微笑んだ。が父親の一言に笑いが止まった。

「ちがうぞ、それで<へお こくぞう>と読むんだそうだ」

「えっ!!」

中佐の動きが止まり表情が凍りついた。へ、へ、へおこくぞう??へをこくぞう・・・

とたんに、中佐はその場に転げ回って笑いだした。すさまじい笑いで部屋が振動せんばかり。帯剣が畳に触れてガチャリと鳴った。笑いは止まらず、中佐は転げ回り片足が座卓に当たり座卓の上に置かれた軍帽が跳ねた。父親が「だから早く言っておこうと言ったのに!」と母親を叱るように言った。「大事な見合い直前にこんなことを聞かされたら・・・」

母が「ちょっと、(つぐ)ちゃん」と思わず子供のころの呼び方で声をかけその背中を叩いた。それでも中佐は笑い続ける。長いまとめ髪が畳に流れる。父親が「おい大丈夫か?医者を呼ぶかそれとも艦に連絡しなきゃいけないか?」と心配して声をかけた。

中佐がやっと笑いを収めたのは、見合い相手が来るたった五分前のこと。相手が遅刻してくれたのが、中佐には幸いとなった。

相手は両親と、間を取り持った両家の共通の知り合いとともにやってきた。

料亭の仲居が「いらっしゃいました」と声をかけ、野村家の三人は居住まいを正した。中佐は、座卓の上に置いた軍帽の前を相手に向けるように置いた。彼女なりに威厳を示そうと思っている。大笑いをこいたバツの悪さも手伝っている。

かすかな足音が聞こえて、見合い相手の一同が入室して来た。最初に入ってきたのは共通の知り合いという男性、

「いやあ、野村さん。お待たせして申し訳ない」

と言いながら入り、後ろに「さあ、もうお待ちかねですよ」と声をかけた。年老いた母親と父親が「遅くなりまして」と恐縮しながら入り、そして肝心の<お相手>が・・・

恥ずかしげにうつむきながらその人は来た。「早くお入りなさいな」の年老いた母親の声に促され席にすとんとついた男性の顔を見て、中佐は正直げんなりした。

(これが相手なのか。私にはちょっと)

写真で見たよりずっと年上で風采の上がらない感じ、若い中佐には似つかわしいとは言えない相手。

男性はどこか気弱な感じでなかなか視線を上げない。恥ずかしいのか気が弱いのかわからないがこちらを見ないのが中佐のカンに障る。がしかし、男性――経御――が座卓の端に置かれた中佐の軍帽を見た瞬間、その気弱な表情が一変した。

ガバッと座卓にのしかかるようにして中佐の軍帽をつかんだ。ハッ、と息をのんで軍帽を取り戻そうとした中佐の手を、左に座る母親が押さえた。なぜに?と目で問う中佐に母親はそっとかぶりを振る。男性は軍帽をひねくりまわしながら見つめ、五分ほど経ってから初めて中佐のほうを見た。

ハッ!と男性が息をのみ「これは失礼しました。わたくし経御国三と申します」と丁寧に自己紹介した。再び笑いが吹きあがりそうになったが中佐は何とかこらえて自己紹介をする。その中佐を食い入るように見つめる経御に野村の両親も経御の両親も、そして紹介者の男性も(これはうまく行くな)と確信を持っている。

しかし、肝心の野村中佐が(いやだなあ。なんでこの人私のことを舐めるような視線で見るんだろうか?それとも見合いってものはこういうふうに互いを舐めるように見るのが作法なのかしら?でもそんなこと、繁木航海長は言ってなかったけどなあ)と居心地悪い思いで居るのを誰も気がつかない。

そして一同に食事が出され、親たち和気あいあいで進む見合いの席。食事が済んだ後、紹介者の男性が「おおそうだ、若い人はちょっと散歩に行ったらどうだろうか・・・若いもの同士で話したいこともあるでしょうしね?経御くんお願いね、我々はここで待ってるから」と切り出し、中佐と経御国三は料亭の外へ出ることになったのだった――

    (次回に続きます)

 

                ・・・・・・・・・・・・・・

 

いよいよ始まりました副長の見合い!

しかし変な名前(って人の名前をあれこれ言ってはいけませんが)、もっと早く聞いておけばよかったのに。そのうえちょっと変わった人なんでしょうかこの経御さん。

二人で出た散歩、何事もなく済んで副長はこの人と結婚するんでしょうか?

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 「そりゃあ、艦長。副長は――」と日野原軍医長は、艦長の話を聞いた後切りだした――

 

日野原軍医長は、机の上の医学事典に片手で触れながら

「副長は、きっとどこかの誰かに恋をしているんじゃないかと思いますね、あの顔つきはそうですよ。そしてね、艦長。あなたとその人の間で悩んでるんじゃないかと思うんですよねえ。副長はあなたが大事なのは確かです、それは私にもわかります、でも、彼女はほかに思う人がいるんですよ。しかもその人と言うのは<見合い相手>ではありませんね――と言ってもこれは私の全くの推量でしかありませんがね」

とまるで独り言のように言った。

梨賀艦長は半分口を開いて日野原軍医長を見つめた。そして

「ツッチーが、いや、副長が誰かに恋をしているというのですか?」

と言った、動揺を隠せないのかその視線は宙を泳いでいる。日野原軍医長は事典を触る手を膝に下ろしてうなずいた。そして

「誰なのかは、私にもわかりませんが。でもあの雰囲気は、絶対ですよ。いわゆる恋わずらいですね」

と言って艦長に微笑んだ。そして一つ咳払いをすると

「副長の御性格から言うなら、名前も聞かされていないお相手に写真だけで恋をするなんぞ考えられません。きっとほかに誰か心奪われる人がお出来になったんだと思います。

そして艦長。あなたが副長を愛しく大事に思う気持ちはよくわかります。そして副長があなたを思う気持ちの深さもわかっているつもりです。先ほど申した通りです。でも艦長、副長には副長の人生もあります。そして恋という感情は止められないものです。彼女が誰に恋をしていたとしても――艦長、温かく見守ってほしいと私は思うのです」

と言った。その瞳は穏やかな色を湛えて艦長を見つめている。

艦長はしばし瞑目した。その眉間に、苦衷の色が見える。日野原軍医長は黙って艦長を見つめている。

と、艦長がまぶたをそっと開け軍医長を見つめ返した。そして「わかりました日野原軍医長」といい

「副長が誰に恋をしようと私は構いません。――いや、構いますよ」

と言い放ち、軍医長は艦長をじっと見た。艦長は一呼吸置くと

「その相手とやらがきちんとした人間で――そして副長のことを心底思っている人でないと――私は嫌です」

そう、きっぱり言い放った。それを聞いた軍医長は満足そうな顔をして微笑むと、「さあ、一献」と言うと戸棚のウイスキー瓶を手に取った。

小さなグラスに注がれたウイスキーを一口含んで、艦長は言いようのないせつない思いに胸をかき乱された。

 

その晩、山中大佐は自宅の布団の中でもんもんとしていた。自宅ではあるが全くの一人暮らしである身、夜になれば周囲もしんと静まって寂しさとせつなさが吹きあげて、胸の奥を疼かせる要素が多すぎる。(こんな状況で三日も休暇だなんて、つらすぎる)と山中大佐は思いつつ寝がえりを打つ、そのたびに彼の脳裏を横切るのは愛しい野村中佐の面影である。

山中大佐は(あの人には、誰か想う人はいるのだろうか?居るんだろうなあ、きれいだし聡明だし。女性としても帝国海軍軍人としても非のうちどころのない人だもの、きっと誰か素晴らしい想い人がいるんだろうなあ)とひとりで勝手に思って悲しくなっている。

しかし、と彼は布団の上に置きあがった。そして

「あきらめてはいけない!あのへんなラケット中尉も言っていたじゃないか、『あきらめるな、今日から君も富士山だ』って。全く意味はわからないが元気は出る。そうだその意気でぶつかろう。当たって砕けろだ。そしてもし彼女に想う人がいるならあきらめるし、そうでないなら必死の決死の玉砕精神で押しまくろう。そうだそうだ!俺は男じゃないか、やってやるぜ!休暇を終えるその日まで告白の練習だ、そして三日後、見てろよ~」

とひとり気炎をあげて、「野村中佐!大好きだー」と言うと厚い掛け布団をガバッと抱きしめたのだった。掛け布団に愛撫をしながら、山中大佐は<来るべきその日>を心待ちにしている――

 

さて、三日ののち。

緊張でかすかに青ざめた野村中佐が自室で化粧をしている。仕上げのおしろいを丁寧につけ終えたその時、そこにドアをノックする音が響き、中佐は「はい?」と声を上げた。と、「いいかな、お邪魔して」と梨賀艦長が入ってきた。

「あ、艦長」

とあわてて椅子を立つ野村中佐に梨賀艦長は「いいからそのまま続けて?ごめんね忙しい時に」と謝りながらドアを閉め中佐のそばに立った。中佐は立ち上がり、

「いいえそんなことありません。艦長それより私の上陸を許可して下さったこと感謝いたします」

そう言って頭を下げた。そしてそのきれいな顔をあげて艦長を見つめた。二人の視線が絡み合った。と、梨賀艦長の両手がいきなり副長の身体を抱きよせると、副長の体は艦長の胸にすんなりと収まっていた。副長は、艦長の胸にそっと両手を当てその額をそっと付けた。その副長の背中に両手を回し、しっかりその身を抱きしめる梨賀艦長。二人の時間が静かに流れた。

やがて艦長が沈黙を破り「ツッチ」と声をかけた。再び副長が顔を上げ、艦長は副長の唇に自分のそれをつけた。副長の両手も、梨賀艦長の背に回り二人はしっかりと抱き合った。ややして唇が離れ、艦長は「化粧が取れてしまうといけないね」とほほ笑んだ。

と、なぜか副長はその瞳に涙を盛り上げた。艦長はあわてて軍袴のポケットからハンケチを出すとそれで副長の目元をそっと叩いた。「どうしたの?泣いちゃいけないでしょう、今日は・・・めでたい日だよ」という艦長に、副長はかすかに首を横に振ると

「めでたくない」

と駄々っ子みたく言った。艦長は「どうして?だって今日はお見合いじゃないの。めでたいことだよ?それにもしも、若しも――結婚が――決まったなら」と最後は少し言い淀んだ。副長はまたもその瞳を濡らして

「めでたくない。艦長、私その人の顔こそ写真で知ってはいるけど名前を知らないんです。なんか変です。これがもしも、どこかで見染めあった仲で名前を知らないというならそれはロマンティックとでもいうんでしょうけど見合いでありながら名前を知らないなんて絶対おかしい!なんか私、裏がある様な気がします。単なる私の母親の粗忽ではないような気がします」

と一気に話した。涙が遂にその紺の軍装の胸に落ちた。艦長は「ほらほら・・・だめじゃないの。せっかくのお化粧が落ちちゃうよ」とまるで子供に言い聞かせるように言ってハンケチでもう一度、彼女の目元を優しく拭った。そして

「わかったよ、副長がめでたくないというなら私にもめでたくは無いことだ。でも、お相手に会って気が変わったらそれはそれでいいことだからね。私に気兼ねすることなどない、結婚を考えたらいいよ。だから気楽な感じで行きなさい。いいね?」

と諭した。副長は涙をさらに落として下を向いた。暫くの間、副長は泣いていたがやがて決然と顔をあげると涙を拭き、化粧を直した。そして軍帽をしっかりかぶり白手袋をはめ、腰の短剣を触って確かめると

「行きます」

と言って艦長に敬礼した。梨賀艦長は、その副長に慈しむような視線を当てるとうなずいて

「気をつけて行っておいで。――首尾よくいくよう祈ります。ごきげんよう」

と言って返礼した。

 

副長が内火艇に乗り込むのを、航海科の麻生分隊士や見張兵曹、小泉兵曹たちが防空指揮所から見ている。見張兵曹が「あ、副長じゃ。何処へ行きんさるんじゃろ」とつぶやいた。小泉兵曹が「おう、随分しっかり化粧されとってじゃねえ。もしかしてお見合いかねえ」と答える。

麻生分隊士が二人を自分の左右に引き寄せると「貴様らこれはここだけの話じゃけえ誰にも言うたらいけんで?副長は今日お見合いなんじゃと!」とこっそり教えた。二人の年若い兵曹は「きゃ!ええのう~」と言ってはしゃいだ。

副長の乗った内火艇は、艦長や航海長、掌航海長たちの見送りの中呉の上陸場目指して春の気配の深くなり始めた海上を軽快に走っていった。

『大和』のトップではマツコとトメキチもそれを見送っている。マツコは遠ざかる内火艇にずっと視線を当てて無言のまま。トメキチはマツコを不思議そうに見つめ「マツコサン。どうしたの?」と問うた。マツコはやがてその金色の瞳をトメキチに移すと

「――きょう、野村に何かが起きる」

とだけ言うとそのまま目を閉じた。トメキチは呆然としてその大きなくちばしを見つめている。

 

内火艇の中で、副長は前をしっかり見つめ白手袋の両手を握りしめていた――

     (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

風雲急を告げる!?人間模様が展開中です。そしていよいよ副長の見合いが始まる!――山中大佐はどうするのでしょうか、そしてマツコの予言めいた言葉は??

緊迫の次回をお楽しみに。

「そうだその意気」という歌を見つけました。


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「女だらけの戦艦大和」・それを人は恋わずらいという3

艦長室では梨賀幸子艦長が、うけとった手紙を前に複雑な思いと表情でいる――

 

手紙の差出人は、野村副長の母親である。手紙には、娘の次子に見合いをさせたい、ついては相手が大変急いでいるから今月の末までにはさせたい。そちらも忙しいというのは重々承知ではあるが何とかしていただきたい、という内容であった。

艦長としてはこれがほかの幹部や乗組員の親からの申し出であったなら二つ返事の勢いで応じただろうがこと、野村次子中佐の事となるとそうはいかないのである。

(やはり私はツッチーが愛しい。ツッチーを結婚させたくないわけではないけど何か・・・いやだ)

勝手な思いと言われればそうだが、梨賀艦長としては心乱れるものがある。艦長の心にはその思いがうねりとなって押し寄せている。

が、しかし。

副長の親からのたっての願いとあれば邪険なことはできない。自分も親の立場として考えれば子供の幸せを願わないことなどできるものではない。

意を決した艦長は副長を呼んだ。ほどなくして、まだ胸に書類綴りを抱えたままの副長がやってきた。副長は部屋に入るなり艦長の緊張した表情に

「何か緊急の連絡が?新しい作戦の話でもありましたか?」

と眉間に不安の色を漂わせる。その副長に、いやいやそんなことではないよと優しく言うと艦長は副長の手から書類綴りをとりあげてデスクの上に置くなり副長をそっと抱きしめた。

「艦長?」

と尋ねる副長に、抱きしめる腕を解いた艦長はデスクの端からあの封筒を取り、中佐に差し出した。副長は艦長の顔を、私に?と言った顔で見つめた後封筒を裏返してみた。

差出人の名前を見た副長の顔が緊張で引きしまる。副長は封筒に指を突っ込んで中の便箋を引っ張り出し、広げて読み始めた。

そして「はあ・・・」と大きなため息をついた。艦長をもう一度見つめると

「艦長申し訳ございません・・・このような個人的な通信を艦長にお送りするなど、母の非礼をお詫びいたします」

と言って頭を下げた。その美しい顔には憂いが漂い艦長は再びその体を抱きしめていた。中佐の体が艦長の体に密着した。

「で・・・ツッチーはどうするんだね?早いところ親御さんにお返事をしなければいけないから・・・こういうことは早いほうがいいんじゃないかな」

副長の耳元で艦長はそうささやき副長はかすかにうつむいた。見合いの相手とやらが前に送られてきた写真の男性であるのは明白である。が、

「私はその相手の顔こそ写真で見てはいますが名前を知らないのです。粗忽な母親でして、相手の名前を書くのを忘れておるんです。顔は見ているが名前は知らないなんてそんな見合いあるでしょうか」

といい、艦長は「なんですって!?」と素っ頓狂な声をあげていた。そして笑い出した。ちょっと驚いた顔つきで胸を離した副長に艦長は

「ごめんごめん・・・笑ってはいけないが、まあいいじゃないか、それならまっさらな気分で見合いができるってものだ。――野村中佐、艦長命令。来週末に見合いをせよ。いいね?」

と最後は命令した。副長は姿勢を正すと「はい」とその命令を受領した。その副長をいとおしげに微笑んで見つめていた梨賀艦長であったが次の瞬間、彼女を激しく抱きしめるとその唇を奪い――

 

愛の行為が済んだあと梨賀艦長はデスクに向かいペンを執った。副長の両親にあてて返信をしたためるためである。そして「急なことにて申し訳なきことなれど人生の一大事にあれば来週末にも中佐を上陸させますれば、ご両親様のよきよきやうお計らいいただきたく候」と書いて出した。

副長は、みだれ髪を直してから艦長の部屋を退出して廊下を歩きながら考え込んでいた。(あの写真の男性と見合いして、私は結婚するのだろうか?) しかしどうもピンと来ない。

最上甲板に上がった副長は、機銃座や砲塔で作業中の兵員嬢たちを眺めてふうっと深く息をついた。その向こうに見える呉の町や山を見たとき、彼女の脳裏に突如として現れた面影があった。

副長の胸の奥がきゅうっと締め付けられた・・・

 

山中大佐はそのあとも呉の町を歩く海軍嬢たちをちらちら見て歩いた。さすがに益川中佐が辟易したような顔で

「山中大佐。やはり変ですよ。こうなったら直にあの中佐に逢って大佐の想いを率直にぶつけたらいかがです?立派な技術大佐が女将兵をじっと見つめるなんかやはり変ですよ、沽券にかかわりますよ?何とか理由をつけてあの中佐にお会いになったらいかがですか」

と進言した。そのやや厳しい言葉に山中大佐はさすがに考えた。そして

「そうだね、益川君の言うことは正しいね。よし、私も一世一代の勇気を奮って彼女に心の内を打ち明けよう!休暇のうちにどうしたらいいか考えて、そうだな、今週の末にも彼女を何とか呼び出そう。益川君、こんなところまでつきあわせてすまなかったね。ありがとう」

と意を決して益川中佐に言った。益川中佐はやっと愁眉を開いて

「それでこそ山中大佐です、男はそうでなければいけません。では、休暇中に作戦(・・)をじっくり練っておいてください」

と笑って、やがて二人は右と左に分かれたのだった。

 

副長が胸の奥にきゅうっと甘酸っぱいものを抱えて艦内に入るとオトメチャンに最初に出くわした。オトメチャンは心なしか華やいだ表情で副長に礼をした。

副長は「おやオトメチャン。今日はなんだかうれしそうね?」と話しかけるとオトメチャンははい、と言ってから

「すぐ上の姉から手紙が来ました。うちをあれこれと気遣ってくれてうちは今日とてもうれしいて。きょうだいいうもんは、やはりええもんじゃと思いました」

と言ってほほ笑んだ。その微笑みが副長にもうれしく「そう、それはよかった」というとオトメチャンの肩を軽くたたいて喜びを分かち合った。

副長はオトメチャンの歩み去る後姿を見送りながら(あの子にも本当の幸せが来てほしい。そしてどこかにいい人がいたら・・・って、ああ!オトメチャンには麻生少尉がいたっけね)と思って苦笑した副長であった。

 

梨賀艦長が副長の両親にあてて出した手紙の返事がその週の半ばに艦長宛についた。副長の母親の浮き立った心そのままのような文字が三日後に呉に行くのでそこで見合いをさせると知らせてきた。

その晩の巡検後、艦長はその手紙を副長に差し出しながら

「――だそうだ。いいね副長、三日後に上陸するように」

と言った。副長は「はい」と言って手紙を持ったままぼんやりしている。視線を手紙ではなく少しずれた床の上に落してぼんやりしている。梨賀艦長は椅子から立ち上がって「副長!」と言ってその肩をトンと叩いた。

ハッとして我に返った副長に梨賀艦長は

「どうしたね?副長らしくない。ぼんやりして?」

と言った。副長は何か重いものを飲み込むような顔になって苦しげに艦長の顔を見つめた。そして

「いえ・・・なんでもないんです。申し訳ありません、ぼやっとして」

と謝ると「では各科長に三日後を頼んできます・・・」というと艦長室を出て行った。ドアがぱたりと閉まって梨賀艦長はしばらくドアを見つめていたが(ツッチ、どこか体の具合でも悪いんだろうか?心配だ)と思い、しばらくの間そこで考え込んでいたがつと立ち上がると日野原軍医長をたずねに部屋を出た。

日野原軍医長は自室にいて分厚い医学書を読んでいたところだった。

「こんばんは、艦長。さあどうぞ」

日野原軍医長は艦長をにこやかに招き入れて椅子をすすめた。すすめられた椅子に座りながら艦長は

「いつもお勉強中にお邪魔してしまって申し訳ないことです」

と謝った。軍医長はいやいや、と言ってから戸棚からウイスキーの瓶を取り出したが艦長は「今日はちょっと、大事な話なので」と断った。軍医長は瓶を戻してから

「大事な話?大事な話というと・・・作戦上の話か何かでしょうか?」

と尋ねる。その軍医長にあわてて片手を横に振って艦長は「いえいえ!全く違いますーー違いすぎて申し訳ないんですが」というと「じつは」と副長の様子について語り始めた。軍医長は艦長の語る副長の様子に聞き入っていたが、はたとひざを打った。

そして「そりゃあ艦長。もしかしたらもしかするかもしれませんね」と笑うと座りなおしてからやおら、言い放った。

「そりゃあ艦長、副長は―ー」

        (次回に続きます)

 

                ・・・・・・・・・・・・

 

さまざまに思い揺らめく人間模様が描き出されるわが「女だらけの帝国海軍」でございます。そして男性技術佐官の山中大佐は野村副長にアタックをかけるのでしょうか。

次回ご期待ください!


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見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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