女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?

「女だらけの戦艦大和」・衝撃ノーズアート1

さて。常夏のトレーラー諸島の小姑島には帝国海軍航空隊の基地がある――

 

今日も訓練を終えて零戦の三機が降りて来た。

小隊長の竹中大尉が零戦から降りて僚機を見返った。僚機からは小曽根(こそね)上飛曹、根古瀬(ねこせ)兵曹長が相次いで降りて来た。三人はそろって指揮所へ歩いてゆき、待っていた基地司令の鶴川大佐に

「竹中大尉以下三名、訓練飛行を終えただ今帰着いたしました!」

とあいさつすると基地司令は満足げにうなずいた。そして「御苦労でした、ゆっくり休みなさい」というと三人は兵舎の方へと歩き出す。竹中大尉は飛行帽を取って「ああ、頭がかゆいよ」といいながらその短髪の頭のてっぺんを掻いた。

小曽根上飛曹が

「熱いですもんねえここは。なんだか内地の冬や秋をすっかり忘れちゃいましたよ」

と言って笑い、根古瀬兵曹長が

「本当に。竹中大尉、又そろそろ髪を切りましょうかね?また私にさせて下さいよ」

という。根古瀬兵曹長は実家が理髪店なので彼女も見よう見まねで兵隊嬢や上官の髪を切ることがあるのだ。竹中大尉は「おお、そうだねえ。じゃあ明日にでも頼もうかなあ」と言って三人は兵舎の中に消える。

 

それから二時間ほど後に、今度は別の零戦隊六機が帰って来た。

その一機からあわてて降りて来たのは雉山大尉で、そのあとを零戦搭乗員たちが追って降りて来た。血相変えて走ってくる雉山大尉に、鶴川基地司令は

「どうしました、そんなにあわてて?」

と尋ねた。この鶴川司令は誰にもえらぶることなく穏やかに接することで有名で、兵隊から士官まで人望篤い人である。その鶴川司令の問いに雉山大尉は飛行服のりりしい姿もまぶしく司令の前に立ち、ほかの零戦搭乗員たちもならぶとハッシと敬礼した。

そして「雉山大尉以下六名ただ今帰着いたしましたっ!」と叫んだ後雉山大尉は「司令。実は」と話を始めたのだが・・・

 

雉山大尉他の零戦の小隊は今日は〇七〇〇(まるななまるまる、午前七時)から編隊を組んでトレーラー環礁の北、三マイルで訓練飛行をしていた。いつものように模擬空中戦だとかごく小さな名もないような島を敵艦に見立てて急降下爆撃などの訓練を行った。

雉山大尉は皆の出来の良さに感服しながらその日の訓練を一〇三〇(ひとまるさんまる、午前十時三〇分)に終了し基地へと帰ることに。

燃料はまだ予備タンクにいっぱいあるから心配はない。気分良く基地へと向かうその途中。

真っ白いサンゴ礁に彩られた小さな島、真ん中には緑が生い茂っている小さな島が見えた。そのサンゴ礁の上に何かがある。自然のものではない人工の造形物。飛行機のようにもみえるがよくわかりかねる。

雉山大尉は手信号で僚機の風間中尉に<下に妙なものがある。写真を撮れるか?>と尋ねた。風間中尉は了解の意思を手信号で伝えると足元に置いてあったカメラを取り上げて片手で構えた。そして器用にシャッターを切る。

このカメラは風間中尉の手製のもので小型に作られており片手で簡単に操作できるのである。

ともあれ零戦隊は(なんだ、あれは?)の思いを強くしながら基地へと帰投したのだった・・・

 

その話を聞いた鶴川司令は腕を組んで考え込んだ。

そして顔をあげると

「最近このトレーラー周辺で敵機が撃墜されたという話は聞いて居らんね。さらにその先の空域でも大きな戦闘があったとは聞いていない・・とすると我が方の飛行機が不時着した?いやそんな話も聞いてはいないなあ。妙だ、これは調べなければなるまいね」

と言った。雉山大尉はうなずくと

「では捜索隊を組織しましょうか。私が隊長になります!」

とやる気満々で立候補。鶴川司令は

「じゃあ隊長はあなただ。他の隊員は私が指名するがそれでいいね?では捜索隊を今夜一八〇〇(ひとはちまるまる、午後六時)までに編成して明朝〇八〇〇に出発できるようにしよう」

と言って皆はそれぞれの方向に散らばって行ったのだった。

 

兵舎に帰った雉山大尉は竹中大尉に先ほど見てきたことを話した。竹中大尉は飛行服を脱いで防暑服姿である。

その竹中大尉もとても興味を示して「ほう、それは見捨てておけないね。一体なんだろうねえ?飛行機のようでもあったならもしかしたら本当に飛行機かもしれないよ?でもだったらどこの所属なんだろうねえ、ちょっと気味悪くない?」と言った。

雉山大尉もうなずきながら

「でしょう?だから竹さんも一緒に行けたらいいなあと思うんだよね。司令が捜索隊に加えて下さることを願いたいね」

と言った。

他の搭乗員嬢たちも「なんだろうねえ」「なんだろ?」と思案顔である。

やがて二時間ほどして風間中尉が現像した写真を持ってやってきた。先に鶴川司令に見せてきたようだ。写真は五枚ほどで近寄って、真上で、そして通り過ぎる瞬間が撮影されている。

机の上に広げられた写真を見つめて雉山大尉の僚機の仲野一飛曹が

「うーん、それにしても風間中尉の写真の技術は素晴らしい・・・」

と唸り、その隣の竹中大尉の部下の根古瀬兵曹長は

「まさに。しかしこれは一体何だろうか気になるねえ。こらあどう見ても飛行機じゃないか?敵さんの飛行機かもしれないよ、この形状。グラマン?それともワイルドキャット?ちょっとこれじゃあ判断付かんね、めり込んだ感じでさ。いずれにしてもこんなもの側がトレーラー諸島周辺にあるってことはゆゆしき事態だよ、警戒しないといけない」

と重々しい口調で言い、竹中大尉は

「さすが私の部下だけある!通信科に敵信に何か変化はないか知らせるように言ってちょうだい。夕方には誰が捜索隊になるかわかるから捜索隊員になったものは今夜は早めの就寝をせよ、いいね」

と皆に言って、下士官兵嬢たちは「はいっ」と返事をして散会。雉山大尉は風間中尉を見て

「風間中尉ありがとう、あなたがここに着任してから偵察面でも助かっているよ・・・でも操縦しながらの撮影は無理がないのかね?」

と尋ねた。風間中尉はここトレーラー基地にほかの四名の下士官兵嬢と着任してまだ間もない。がい勘案くその能力を発揮して基地司令の気に入りでもある。

ただ、口が重くなかなかしゃべってくれないのが皆には寂しい。心を開いていないのではないが「どうしてかな?」と雉山大尉などあれこれ考えている。

 

そして、一八〇〇.

基地司令から捜索隊のメンバーが発表された。隊長は立候補なので雉山大尉。副隊長に竹中大尉。他に根古瀬兵曹長、小曽根上飛曹、大橋一飛曹、加納一飛曹、加山兵曹長そして風間中尉である。

彼女たちは明日の朝、二等輸送艦に乗って例の小さな島へ行きそこから内火艇に乗り替えて島に上陸する手はずである。

いかんせん、島が小さく飛行機が着陸できる場所がないのと周囲の水深が浅いのでこうするしか手がない。

しかしそうと決まれば彼女たちは意気軒昂、捜索隊に選ばれなかった下士官嬢や兵隊嬢も

「明日は私の分までよろしく願います」「くれぐれも気をつけて」

と言って皆で夕食のテーブルを囲んだ。

そして捜索隊員はその夜はいつもより早めの就寝をした。

明日、あの島で想像もつかないことが待ちうけていようとは、神ならぬ身の彼女たちには思いも及ばぬことであった――

 

         (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今回は航空隊のお話ですが一体どんなことが起こるのでしょうか。

謎の物体――飛行機?――の正体は!?どうぞ次回をお楽しみに!!


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「女だらけの戦艦大和」・狙われた松岡8<解決編>

野村中佐と繁木大尉はマントを冬の風に翻しながら内火艇に乗り込みそして、『大和』に帰って来た――

 

出迎えた梨賀艦長は「お帰り。・・・松岡中尉は?どうしたね?」と尋ねるのへ、やや疲れた表情で野村副長は「ただ今帰りました。松岡中尉を呉海軍工廠に残してまいりました・・・松岡の願いでもありましたしそうでないと工廠の皆さんに大きな迷惑がかかると判断いたしました結果です」と報告。

梨賀艦長は自室に二人を招き、詳細を聞きたがった。

野村・繁木の両士官は艦長室で、艦長従兵の見張兵曹の淹れてくれた紅茶を喫しながら工廠での出来事をすべて艦長に話した。

艦長は、

「そうか――ではあなたがた二人にはあのラケットの秘密というのか構造は知らされなかったんだね。残念だ」

と言った。副長は少し目の下に隈を作っており、その疲れた視線を艦長に当てて「はい。知りたかったのですが。まあ、山中大佐が明日にもラケットの構造を解析し始めるとのことですから何かわかれば我々にも知らしてくれるでしょう。それにしても松岡中尉があれほど妙な人間だとは私はあの時まで思いもよりませんでしたよ」と言ってふっとため息をついた。

繁木航海長も

「その通りです。大体が彼女、口のきき方がなっちゃないですね。山中大佐に失礼なことばかり言って、私はハラハラしていましたよ。それでも山中大佐は寛容なお人柄とお見受けしましたね、松岡中尉の言うことに御立腹されないでいらしたんですから」

と言った。副長が航海長を見て

「まあ、でも大佐もこんな奴とまともに話は出来んと思ってらしたのかもしれないがね。いずれにしても我々は恥をかきましたよ」

といい二人はほーっと深いため息をついた。その二人に艦長は心からねぎらいの言葉を掛け、「副長も航海長も少し休みなさい。疲れているようだ」と二人をそれぞれの室で休ませた。

 

そして翌日。

朝から松岡中尉は「熱くなれよー!尻の穴を締めるんだ、あきらめんなよー!」と大声で叫んでいる。彼女の周囲には山中大佐他、昨日のメンバーが勢ぞろいして松岡を取り囲んでいる。技術士官たちは松岡中尉のラケットをいよいよ分析・解析するために事務棟から少し離れた場所にある実験棟に場所を移したいのだ。そこで松岡中尉ごとラケットをそこに移そうとしているのだが彼女は何を勘違いしたのか、

「あなたたたち、私を襲おうとしていますね!そうでしょうそうでしょう、私は魅力的ですからねえ。さあそれならどこからでもかかってきなさい!私は来るものは拒まず、去る者はゴリラだ!」

と騒いでいるのだ。

小柴中佐がほとほと困って

「ねえ松岡中尉。我々はあなた自身をどうこうしようとは思ってないの。昨日も言ったけどあなたのそのラケットに用事があるんですよ、わかってくれてる?だから我々と一緒にここから実験棟に行きましょうと言ってるの。わかる?」

とまるで子供に語りかけるような言い方で説いた。すると松岡中尉はラケットをひと振りした。ブン!と太刀風ならぬラケット風が起き技術士官たちはうわっと身を引いた。それに構わないで松岡中尉は

「おお!なんとそういうことだったのですかあー、それならそうと言ってくれなきゃ分からないじゃない~。私はまたてっきりあなた方に襲われるんじゃないかと思って怖くて怖くて仕方がなかったんですよ。でもそうではないなら私も安心だ!ではみなさんその実験棟とやらに行こうじゃないですか、あきらめんなよー!」

とひとりで騒いでさっさと歩きだす。その中尉のあとをあわてて追う山中大佐以下の士官たち。すっかり松岡中尉に翻弄されている。山中大佐は

「待て、待ちたまえ松岡中尉。あなたは実験棟の場所を知らないだろう?そんな先にすたすた行ってはいけないよ!」

と叫んで松岡中尉を止めて、自分が先に立って歩き出した。他の士官たちは互いを見やって深いため息をついている・・・

 

実験棟につき、一室に皆入った。そこには松岡中尉が初めてみるような設備がたくさんあり、中尉は「ギャーッ!」と叫び出し皆の度肝を抜いた。中尉は器械などがお好きなようでそこに置いてある顕微鏡だとか実験用のフラスコだとかさまざまなものに駆け寄ってはいじくりまくっている。

益川中佐が「こら、松岡中尉それにさわったらいけない!あっちに行きなさい!」とまるで幼子を叱る親のようになって皆は苦笑した。

松岡中尉はやがて落ち着き、皆を振り向くとラケットをまたひと振りした。山中大佐が「うわっ、器械が壊れる!」と叫んだが松岡はあわてず、

「で?」

とまず一声放った。皆が、松岡中尉の顔を見つめると中尉は

「私のラケットをどうするんです?どうでもいいですから早いところやって下さいよ。私もその研究とやらに加わりたいですからねえ」

と言った。山中大佐は「やっと本当に理解してくれたらしい」とひとりごちると松岡中尉のそばに寄り

「では少しの間、あなたのラケットをお借りしますよ」

とラケットを受け取ろうとした。すると松岡中尉はその瞳にいっぱいの涙を浮かべて

「私のラケット、大事なラケット。ああどうか無事でいておくれ・・・熱くなれよ私のラケット」

と言って泣きながら山中大佐にラケットをそっと渡した。なんだか山中大佐は(意地悪してるみたいで嫌だなあ)と思いつつも

「ではお借りする・・・さあ皆」

と言って、技術士官たちは備え付けの白衣を羽織ると山中大佐を取り巻いて台の上に置かれたラケットを見つめたのだった。

 

長い時間をかけて、さまざまな検査をラケットに行った技術士官たちである。やがて金属の専門の士官や繊維の専門の士官もやってきてあれこれ議論を交わし合った。

ラケットはX線に掛けられ特別な何かがないかをも調べられた。

が。

これと言って特別なものが検出されない。さすがに手詰まり感を覚えた山中大佐以下は「あのガットと言われる網の部分の一か所を削って調べたらどうだろうか。見ているだけでは決して何も分からない」という結論に至った。

「私が彼女に言ってみよう」と鈴木中佐が松岡中尉を手招いた。松岡中尉は「ハイハイ、およびでしょうか?熱くなってますねえ鈴木中佐~!」といいながらやってきた。

鈴木中佐は「実は・・・あなたのラケットのガット部分をしっかり調べたいんだ。ほんの少し削らせてほしいんだが」と頼んだ。松岡中尉は

「ダメだ駄目だ!そんなことできっこないでしょう?何処から削るんです?削ろうとするならラケットから外さなきゃできませんでしょうが。――ちょっと待って下さい」

というと一種軍装のポケットをあちこち探り、「あった!」というと守り袋を引っ張り出した。そしてその口を縛る細い紐を解くと中から一本の針金のようなものを出して皆の前に指先でつまんで見せた。

「これはですね、ずっと前にガットを張ってもらった時の余りですがこれでいいですかねえ?」

その指先に、山中大佐たちが一斉に集まり「おお!」「これさえあれば」「よかったよかったー、ワハハ」などと口々にわめいている。

それを見る松岡中尉も嬉しそうに「熱くなってますねえ皆さん!いいぞ、その調子であきらめんなよ!今日からみんな富士山だーっ」と叫んでいる。

そして技術士官たちはその細い針金状のものを大事にシャーレの中に入れてさらに調べを始める。

 

結果。

この針金状のものは細くてたいへん頑丈な繊維をより合わせて作られたものであることが判明。何か金属を練り込んだ糸を幾つもより合わせて作られた太い針金のようなものであることがわかり、山中大佐他は「まだ研究しなければならないことはあるが、試行錯誤をしながら早めに完成させたい。完成したら真っ先に航空部隊を守る防御兵器を作りたい――それにしてもどうしてこんなものを一般の人が持ちえたのか、それはもう謎である」と話して意気軒昂である。

 

ようやく、松岡中尉はラケットを返してもらい御満悦である。『大和』に明日、帰れることになり艦からは再び野村副長と繁木航海長が迎えに来ることになった。

翌朝『大和』から副長と航海長が迎えに来て松岡中尉は居並んだ技術士官たちにラケットを振り上げて別れの挨拶をした。

「皆さん熱くなって新兵器を開発して下さいよー!あきらめんなよ、もうあきらめてんのか?そうじゃないだろう?尻の穴をしっかり締めて頑張れよー!」

とまた変なことを叫び出し、副長も航海長も頬を染めてうつ向く始末。その副長を優しく見つめてから山中大佐は

「ありがとう、松岡中尉そして野村中佐、繁木大尉。素晴らしい兵器が出来ることでしょうからその日を楽しみにしていて下さいね。松岡中尉ご協力本当にありがとう」

と松岡中尉に礼を述べた。

松岡中尉も笑顔で

「これで私ももう狙われなくって済みますね。やっと呉の街を堂々と歩ける、そんな幸せがほかにあるか!?熱くなれよー!・・・そしてあなたがた、油臭いですよ。ちょっとまめにお風呂に入りましょう」

と余計なひと言まで言うと笑った。皆――技術士官たちも――一斉に笑った。

 

三人は来た時と同じようにマントを風に翻しながら上陸場へと歩いて行った。

その後ろ姿を見つめる山中大佐にこっそりと益川中佐は囁いた、「山中大佐。今度は別の人を狙わねばならん様ですね」と。

『大和』ではきっと、マツコとトメキチが松岡中尉の帰りを待ち焦がれていることだろう――

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・

松岡中尉のラケットの秘密はなんだか複雑な繊維?で出来ていたようです。

が、優秀な海軍工廠の技術士官たちですからほどなく同じものを――いやもっとすごいものを――作り上げて海軍の為に貢献することでしょう!

そして――山中大尉が狙う人とは・・・やはり彼女ですね^^。


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「女だらけの戦艦大和」・狙われた松岡7

松岡中尉は顔をあげると一言だけ言った――

 

「ダメです」。

それを聞いた一同――工廠の士官も『大和』の士官二名も――仰天して松岡を見た。野村副長があわてて

「松岡中尉、あなた話を理解してくれたんじゃないのか?中尉のラケットの威力がわが帝国海軍を救うものになると」

と言ったがその言葉を遮るように松岡中尉は山中大佐にラケットをつきつけて

「いいですかあなた。私はこのラケットが命より大事なんですよ、だから私はどんな時も、どんな時も私が私らしくあるようにこれを持っているんです。これがない私なんかそこらへんの犬の糞と同じです。それほど大事な私のラケットをあなたは取り上げてぶっ壊してバラバラにしてしまおうというんですか!あなた、熱くなり方を間違ってますよ。私はそんなあなたに協力なんかできませんよ!あなた、もっと尻の穴をしっかり締めてから私にかかってらっしゃい!」

と怒鳴った。中尉の顔は怒りで真っ赤に染まっている。ハアハアと息を荒げ山中大佐を睨んでいる。睨まれている山中大佐はどうしたものかとおろおろしている。

すると、野村中佐の怒りが頂点に達した。野村中佐は椅子を蹴るようにして立ちあがると松岡中尉の胸ぐらをグイッとつかんで自分の方に引き寄せた。そして

「貴様なんという無礼な口を山中大佐にきいて居る!?こうして山中大佐他の皆さんがどうか中尉のラケットを調べさせてほしいとお願いしておられるというのに、貴様はなんという口のきき方をして断るのだ!許さんぞ貴様、そこへなおれ!」

と怒鳴った。しかし――松岡にとって幸いなことに今日、副長は自慢の軍刀を艦に置いて来ていた。その代わり、副長は自分の右の手をグイッと握って松岡中尉を殴ろうとしていた。

と、

「まあ、野村中佐ちょっと待って下さい」

と山中大佐が声をかけた。穏やかな物言いに副長は意外な気がして松岡を殴ろうとしていたこぶしを下ろした。中尉の胸から手を離した。

山中大佐は穏やかな瞳で松岡中尉を見つめると

「あなたの言い分はわかりました・・・確かにそうですね。あなたが命より大事にしているものを貸せだなんていきなり言われて承服できるわけがない。そして我々はあなたの大事なラケットを壊したりバラバラになどしません。それは約束します。ただあなたのラケットのその真ん中の部分が一体いかなるもので出来ているのか、それを知りたいだけなのです。そしてそれがもしも、我々の持つ技術で量産できるものなら、まずは航空部隊に防御の為の兵器として使いたいのです。あなたがラケットと離れて過ごせないとおっしゃるなら、ラケットの調査中あなたはここで泊られたらいい。あなたとあなたのラケットを強引に引き離すことなど私はしませんよ」

と静かに言った。

すると松岡中尉の全身から激しい怒りの感情がスーッと抜けて行ったのを副長も、そばにいた繁木航海長も感じ取った。

松岡中尉は今度は笑みを浮かべて山中大佐の両手をガシッとつかむと

「わかって下さいましたか山中大佐!あなた熱くなっていて素晴らしいですねえ、そうなんです私はこのラケットとは離れられないんです。そうですか・・・航空部隊への兵器にですか。うん、いいぞ!このラケットのこの部分、<ガット>というんですがね。この部分は上手くすると上手くいくかもしれません!というわけで私はしばらくここで御厄介になることに決めました。

ですので野村中佐に繁木大尉はもう『大和』にお帰りになって結構ですよ。あとは私とこちらの皆さまでしますから、ではごきげんよう」

とあっさりと方向転換し副長たちに別れの言葉さえ言った。野村副長はなんだか打ちのめされたような、疲れたような表情になってしまいそれでも気丈に山中大佐に

「たいへん妙な部下をお預けすることになってしまいましたが本当によろしいでしょうか・・・」

と尋ねた。山中大佐は野村副長に

「お預かりいたします。しばらくかかるとは思いますがその間、そちらでは軍務に支障はないですか」

と優しく訪ねた。副長はその優しい口調にほっとしながら

「艦は平気です。松岡中尉の留守をしっかり補佐できる部下が居りますのでその点は。しかし皆さまには本当に申し訳ないことですが・・・よろしく願います」

と言った。松岡中尉が横から

「大丈夫ですよ。私の部下の麻生少尉は私が『大和』に赴任する前は一人で分隊長の役目もしていたつわものです。まあ私がしばらくいないと航海科の連中は寂しくて泣いちゃうかもしれませんがそのへんは副長や航海長からよーく言って聞かせてやって下さいな。おとなしく留守を守っていないと私はなかなか帰りませんよと言えばおとなしくしてくれるでしょうから。ハイではごきげんよう」

と口を挟む。

繁木航海長が「松岡中尉、やかましい」と苦情を言うと松岡中尉は

「ありゃ。航海長は御主人がいないと結構言葉が荒くなりますねえ。御主人がいらっしゃるときは女らしい言葉遣いでしたのにねえ~。もしかして、いやもしかしなくても使い分けてますねえ。さすがです」

と突っ込み、繁木航海長は「そんな・・・。大体松岡中尉がわけのわからないことばかり言うから」ともぐもぐ言った。

副長はそんな松岡を黙らそうとエヘンと咳払いを一回すると姿勢をただし

「それでは我々はこれにて帰艦いたしますが、なにかありましたら速やかにご連絡をいただきとう存じます。すべてが済みましたら改めて御挨拶に伺います」

といい繁木航海長とともに皆に敬礼。松岡中尉は益川中佐たちと部屋に残り、山中大佐が二人を玄関まで送ってくれた。大佐は

「繁木少佐は最近前にもまして朗らかになりましたね。私は今日、やっとそのわけがわかりましたよ。こんなに素敵な奥様がいらっしゃるからですね。うらやましいことです・・・どうぞお幸せに」

と言って微笑み、繁木航海長は恥ずかしくてうつむいてしまった。野村中佐はその航海長を見ながら

「はい。本当にうらやましいことです。繁木大尉もお話が決まってからこっちとてもきれいになるし張り切っています。やはり良い伴侶を得るというのは素敵なことですねえ」

と言った。山中大佐は「野村中佐は、お独りですか?」と尋ね中佐はうなずいた。そして中佐は

「私はとりえもない女ですからもらってくれる人もいないでしょう。でもいいんです。軍務に励んでいれば一人の淋しさを忘れますから」

と言って笑って見せた。

そして野村副長・繁木航海長は山中大佐に「くれぐれも松岡をよろしく」願いますと言って海軍工廠をあとにした。

その後ろ姿をいつまでも見つめている山中大佐に、呉の冬の風は優しく吹きぬけてゆく――

 

松岡中尉は、事務棟に一室を借りてそこでしばらく過ごすことになった。益川中佐が

「この部屋でいいかな?何か不自由があったらなんでも言ってほしい」

というと松岡中尉はラケットをかっこよく構えて「不自由という文字は松岡修子の辞書にはない!あなた、マスヤマ中佐はあきらめてませんか!?駄目だ駄目だそんなことじゃ。あきらめんなよ、尻の穴をしっかり締めて今日からあなたも富士山だーッ」と叫んで益川中佐は大笑いした。そして

「はいはい、あきらめないでやりますよ。一つだけいい?私は益川。マスヤマじゃないからね」

というと部屋のドアをそっと閉めた。中からはまだ、松岡の雄たけびが聞こえてきている。益川中佐は(やれやれ、なんだかとんでもない人だったなあ。あんな士官が居るんじゃあ、あの副長という人も心休まる暇がないだろうなあ可哀想に。しかし・・・大きな艦には大きな変人がいるんだね。初めて知ったよ、艦艇の秘密!)と思って笑ったり考え込んだり。

 

さあ、明日から松岡中尉のラケットの構造が徐々に解明される――?

    (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・

松岡中尉に翻弄された副長や、技術士官たちでしたがなんとか松岡を丸めこんで?ラケットを調査できるような運びになったようです。

それにしても松岡中尉どこに行っても相変わらずのマイペースぶりに技術士官たちはついてゆけるのでしょうか?心配です。


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「女だらけの戦艦大和」・狙われた松岡6

松岡中尉は<長い話>とやらを始めた――

 

しかしその話の最初の方でもう、野村中佐と繁木大尉は(いかん、こりゃいかん。本当に長い話になる)と思ってがっくりと下を向いてしまった。

なぜなら、松岡中尉の話の導入が

「私が生まれた時、母が言ってましたがたいへんな難産だったそうです――」

だったからだ。松岡の性格からしてきっと生まれた時の話から子供時代そして今に至るまでを熱く、だらだらと語るのだろう。繁木大尉はそう思って内心舌打ちしていた。だからこいつとかかわり合いにはなりたくなかったんだ、と。

案の定、松岡中尉は

「母はですねえ、私を産むのになんとあなたがた!二昼夜も苦しんだのですよ、二昼夜。普通の女性ならもうとっくに根をあげていたでしょうがあなた、私の母は熱くなっていましたねえ。陣痛に苦しみながらも作り上げたんですよ!」

とラケットを振りながらしゃべる。益川中佐が

「作り上げた・・・というとそのラケットに関する何かだろうか?」

と身を乗り出して尋ねた。しかし松岡中尉は片手の人さし指を立ててチッチッとまるでアメリカ人のようなしぐさをしてから

「ちがいますねえ。どうして私の母がこのラケットを作るんです?いいですか私の母は陣痛に苦しみつつも生まれてくる私の為に毛糸の靴下を三足も編んでくれたんですよ。三足ですよ?普通そんなことできませんよ、痛いのに。母は熱くなってくれましたね、ですから生まれた私も熱い女になったというわけですねハイ」

と応えたので益川中佐も山中大佐もがっかりした。そしてそのあとも、野村副長と繁木航海長が危惧したとおりに自分の生い立ちを延々と語る松岡中尉。居並ぶ海軍工廠技術士官たちの表情にだんだん怒りのようなものが現れ始めたのを見てとった野村副長は

「松岡中尉もういい加減にしないか。皆さんそんなことを聞きたいのではない!貴様の持っているラケットについて話を聞きたいのだ。早く話の核心を話さないか!時間がもったいないではないか、早く話しなさい」

とたいへん不機嫌な口調で松岡を見て言った。そのきれいな顔に怒りが満ちている。山中大佐は、副長に見とれていたがハッと我に返ると

「いやいや・・・野村中佐。我々は急いでは居りませんから平気です」

とあわてて言った。が野村中佐は「松岡中尉は調子に乗るともっと大変なことになりますからこうした方がいいのであります。皆さんにご迷惑をおかけしては申し訳もございません。それに――先日松岡が呉の町中で皆さんに狼藉を働いた件、まだきちんと謝罪をしておりません。この場にて謝罪させます」といい、

「松岡中尉。先日の件を謝らんか」

と厳しい声でいい、松岡中尉は話を一旦切ると

「どうもすみませんでした―!」

と大音声を発してその場に土下座した。いつもこの様子を見ている野村と繁木の両士官にはどこからどう見ても松岡中尉が真剣に謝っているとは皆目思えないのだが技術士官たちはたいへん驚いて

「そんなにしてくれなくても平気です。ほら、もう頭をあげなさい」

と席を立って中尉を取り巻いて騒ぎ始めた。すると平伏していた松岡修子海軍中尉はひょいっと顔をあげて自分を取り巻く技術士官たちを見た。そして

「たいへんご無礼をしてしまいましたが――許して下さるのでしょうか?」

とまるで乙女の様な声音で小さく言った。皆がうなずくととたんに松岡は

「熱くなってますねえ!いいぞ、今日からみんな富士山だ!さあ、あきらめんなよー、尻の穴を締めろー!」

と叫んですごい勢いで立ちあがりラケットを天井に向かって突き上げた。技術士官たちはその豹変ぶりに腰を抜かしてしまった。

繁木航海長が「ほら出た。だから松岡は困るんですよね」とため息をつき、野村中佐も「真剣なのかそうでないのか、判断しかねる。どういう精神構造なのか、一度日野原軍医長に診ていただきたいよ」と言ってそっと髪に手をやった。

 

ともあれ松岡中尉の様子に疲れた工廠側は「しばらく休憩をとりましょう」と言ってぞろぞろ部屋を出て行った。

残された三人、野村副長がまず「ふう~っ」と大きな息を吐いた。次いで繁木航海長も。そんな二人を交互に見つめて松岡中尉は

「どうしたんです二人とも!?ため息なんかついて、もうあきらめてるのか?駄目だ駄目だそんなことじゃ、あきらめたらそこで終わりだぞ?――さあ、しっかり尻の穴を締めて深呼吸だ。そしたら今日からみんな富士山だー!」

と叫び、野村中佐はいよいよ頭を抱えてしまうし繁木大尉は椅子から立ち上がって

「松岡ー!貴様一体どういうつもりだ、自分の言ってることやってることわかってんのか?ああ!?」

と怒鳴って松岡中尉の一種軍装の胸ぐらをつかんだ。

と、部屋のドアがノックされ「はい?」と副長が答えるとドアが開いた。ドアの向こうに立っていたのは

「繁木悟朗」少佐

だった。一瞬ぽかんとして、松岡中尉の胸ぐらをつかんでいた繁木航海長だったがやがて「・・・あなた」とつぶやき、野村副長はあわてて立ち上がり「繁木少佐。お久しぶりです」と挙式以来の挨拶をした。

繁木悟朗少佐はにこやかに部屋に入ってくると

「『大和』からのお客様がいらしていると聞いてもしかしたらフミさんが・・と思って聞いたらそうだというので来てみました。――野村中佐、いつも妻がお世話になっております。どうぞこの先もお見捨てなく願います」

とあいさつし、野村中佐はあわてて

「こちらこそお世話になっております・・・繁木少佐には御機嫌麗しゅう」

と改めてあいさつしたがちょっと硬くなっている。繁木少佐は、「ありがとうございます。野村中佐どうぞお楽になさってください・・・フミさん、そして松岡中尉もお茶でもいかがですか」とほほ笑んで手ずから日本茶を淹れてくれた。

松岡中尉は日本茶を飲み、出されたせんべいを盛大にかじりながら

「繁木少佐、熱くなってますねえ!おいしい日本茶をいただいて、おいしいせんべいを食べたらもう怖いもの無し!熱くなって敵撃滅ですよ、あきらめんなよーー!今日からあなたも富士山だ」

と怒鳴って繁木少佐は大笑いした。恥ずかしくて顔を上げられない副長に代わり、妻の繁木航海長が

「松岡中尉、いい加減にしなさいとあなたさっき副長にご注意を受けたばかりでしょう?少し自重なさい」

といさめた。すると松岡中尉はニヤ~と気味の悪い笑顔をその顔いっぱいに浮かべると

「ありゃあ~航海長。旦那様が来たら急に言葉使いが丁寧になりましたねえ~、さっきみたいにもっと熱くなって私を罵ったらいかがです?さあ、尻の穴を締めて!」

と言って繁木航海長は居心地悪げにそっぽを向いてしまった。その松岡中尉の尻を、野村中佐が後ろからけり上げた。そして「黙ってろマツオカ!」と厳しい語調で叱りつけた。

そんな三人を、微笑みながら見ている繁木少佐である。

 

休憩をはさんで再び技術士官たちは集まり松岡中尉は「話の核心」を語らされることとなった。野村中佐・繁木大尉の厳しい視線にさすがの松岡中尉もまじめに語り始める。

「このラケットは・・・私が海軍兵学校に入る時中学のテニス部の顧問の先生にいただいたものなんです」

そういう松岡中尉に技術士官たちは身を乗り出す。松岡は言葉を継いだ。

「顧問の先生――胡桃伊達(くるみだて)キミ先生――は『あなたのテニスの才能は素晴らしい、この先どこに行ってもテニスを忘れないでね』と言ってこのラケットを記念にくださったんですねえ。そのとき先生は私に「このラケットは肌身離さずに。あなたを守ってくれますよ、もしあなたが戦場に出て弾丸が飛んできたらこれで跳ね返しなさい』って言って下さったんです。まあその当時私もそんなことあるわけないだろう!とあきらめていたんですが、兵学校を出てあれこれ艦を転勤して『瑞鶴』に乗った時これを使う時が来ましたよ!とある海域での戦闘で、私のいた艦橋に敵機が突っ込んできました・・・あぶなーい!私は自分の前にいた見張り員くんを突き飛ばして敵機からの機銃弾をこのラケットで撃っていましたよ。そしたらですねえ、信じられるか!?機銃弾が跳ね返って敵機が撃墜出来たんですよ!熱くなりましたねえ私!」

そこまで一気に話すと松岡中尉は椅子に座って湯呑に残った茶を飲み干した。

技術士官たちは一斉に唸り声をあげると腕を組んで考え込んだ――まさか、まさかこんなすごいものがどうして一般民間人が所持していたのだろう。大体どこでこれを開発していたのだろう。

胡桃伊達という名前にも心当たりはない。もし何らかの形でこうした技術にかかわっていたものが軍関係でも民間でもいたら知らない我々ではないというのに。ともあれ。

「松岡中尉、ラケットを所持するにいたった経緯はよくわかった。我々の希望を申し述べる――そのラケットを詳しく調査させてほしい」

山中大佐が言った。

すると松岡中尉は苦渋の表情を浮かべて「調査、と申されますと・・・しばらくの間このラケットをここに置いて皆さんにお渡しするということですよね」と言った。山中大佐が重々しくうなずくと松岡中尉は顔をあげて言った――

    (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・・

ラケットの秘密はまだ深いベールの中。しかし松岡中尉はこのラケットを譲り受けたのでした。

一体このラケットはどういう構造になっているのか、それよりも工廠はこのラケットを利用して何を作りたいのか???

次回をお楽しみに。



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「女だらけの戦艦大和」・狙われた松岡6

松岡中尉は<長い話>とやらを始めた――

 

しかしその話の最初の方でもう、野村中佐と繁木大尉は(いかん、こりゃいかん。本当に長い話になる)と思ってがっくりと下を向いてしまった。

なぜなら、松岡中尉の話の導入が

「私が生まれた時、母が言ってましたがたいへんな難産だったそうです――」

だったからだ。松岡の性格からしてきっと生まれた時の話から子供時代そして今に至るまでを熱く、だらだらと語るのだろう。繁木大尉はそう思って内心舌打ちしていた。だからこいつとかかわり合いにはなりたくなかったんだ、と。

案の定、松岡中尉は

「母はですねえ、私を産むのになんとあなたがた!二昼夜も苦しんだのですよ、二昼夜。普通の女性ならもうとっくに根をあげていたでしょうがあなた、私の母は熱くなっていましたねえ。陣痛に苦しみながらも作り上げたんですよ!」

とラケットを振りながらしゃべる。益川中佐が

「作り上げた・・・というとそのラケットに関する何かだろうか?」

と身を乗り出して尋ねた。しかし松岡中尉は片手の人さし指を立ててチッチッとまるでアメリカ人のようなしぐさをしてから

「ちがいますねえ。どうして私の母がこのラケットを作るんです?いいですか私の母は陣痛に苦しみつつも生まれてくる私の為に毛糸の靴下を三足も編んでくれたんですよ。三足ですよ?普通そんなことできませんよ、痛いのに。母は熱くなってくれましたね、ですから生まれた私も熱い女になったというわけですねハイ」

と応えたので益川中佐も山中大佐もがっかりした。そしてそのあとも、野村副長と繁木航海長が危惧したとおりに自分の生い立ちを延々と語る松岡中尉。居並ぶ海軍工廠技術士官たちの表情にだんだん怒りのようなものが現れ始めたのを見てとった野村副長は

「松岡中尉もういい加減にしないか。皆さんそんなことを聞きたいのではない!貴様の持っているラケットについて話を聞きたいのだ。早く話の核心を話さないか!時間がもったいないではないか、早く話しなさい」

とたいへん不機嫌な口調で松岡を見て言った。そのきれいな顔に怒りが満ちている。山中大佐は、副長に見とれていたがハッと我に返ると

「いやいや・・・野村中佐。我々は急いでは居りませんから平気です」

とあわてて言った。が野村中佐は「松岡中尉は調子に乗るともっと大変なことになりますからこうした方がいいのであります。皆さんにご迷惑をおかけしては申し訳もございません。それに――先日松岡が呉の町中で皆さんに狼藉を働いた件、まだきちんと謝罪をしておりません。この場にて謝罪させます」といい、

「松岡中尉。先日の件を謝らんか」

と厳しい声でいい、松岡中尉は話を一旦切ると

「どうもすみませんでした―!」

と大音声を発してその場に土下座した。いつもこの様子を見ている野村と繁木の両士官にはどこからどう見ても松岡中尉が真剣に謝っているとは皆目思えないのだが技術士官たちはたいへん驚いて

「そんなにしてくれなくても平気です。ほら、もう頭をあげなさい」

と席を立って中尉を取り巻いて騒ぎ始めた。すると平伏していた松岡修子海軍中尉はひょいっと顔をあげて自分を取り巻く技術士官たちを見た。そして

「たいへんご無礼をしてしまいましたが――許して下さるのでしょうか?」

とまるで乙女の様な声音で小さく言った。皆がうなずくととたんに松岡は

「熱くなってますねえ!いいぞ、今日からみんな富士山だ!さあ、あきらめんなよー、尻の穴を締めろー!」

と叫んですごい勢いで立ちあがりラケットを天井に向かって突き上げた。技術士官たちはその豹変ぶりに腰を抜かしてしまった。

繁木航海長が「ほら出た。だから松岡は困るんですよね」とため息をつき、野村中佐も「真剣なのかそうでないのか、判断しかねる。どういう精神構造なのか、一度日野原軍医長に診ていただきたいよ」と言ってそっと髪に手をやった。

 

ともあれ松岡中尉の様子に疲れた工廠側は「しばらく休憩をとりましょう」と言ってぞろぞろ部屋を出て行った。

残された三人、野村副長がまず「ふう~っ」と大きな息を吐いた。次いで繁木航海長も。そんな二人を交互に見つめて松岡中尉は

「どうしたんです二人とも!?ため息なんかついて、もうあきらめてるのか?駄目だ駄目だそんなことじゃ、あきらめたらそこで終わりだぞ?――さあ、しっかり尻の穴を締めて深呼吸だ。そしたら今日からみんな富士山だー!」

と叫び、野村中佐はいよいよ頭を抱えてしまうし繁木大尉は椅子から立ち上がって

「松岡ー!貴様一体どういうつもりだ、自分の言ってることやってることわかってんのか?ああ!?」

と怒鳴って松岡中尉の一種軍装の胸ぐらをつかんだ。

と、部屋のドアがノックされ「はい?」と副長が答えるとドアが開いた。ドアの向こうに立っていたのは

「繁木悟朗」少佐

だった。一瞬ぽかんとして、松岡中尉の胸ぐらをつかんでいた繁木航海長だったがやがて「・・・あなた」とつぶやき、野村副長はあわてて立ち上がり「繁木少佐。お久しぶりです」と挙式以来の挨拶をした。

繁木悟朗少佐はにこやかに部屋に入ってくると

「『大和』からのお客様がいらしていると聞いてもしかしたらフミさんが・・と思って聞いたらそうだというので来てみました。――野村中佐、いつも妻がお世話になっております。どうぞこの先もお見捨てなく願います」

とあいさつし、野村中佐はあわてて

「こちらこそお世話になっております・・・繁木少佐には御機嫌麗しゅう」

と改めてあいさつしたがちょっと硬くなっている。繁木少佐は、「ありがとうございます。野村中佐どうぞお楽になさってください・・・フミさん、そして松岡中尉もお茶でもいかがですか」とほほ笑んで手ずから日本茶を淹れてくれた。

松岡中尉は日本茶を飲み、出されたせんべいを盛大にかじりながら

「繁木少佐、熱くなってますねえ!おいしい日本茶をいただいて、おいしいせんべいを食べたらもう怖いもの無し!熱くなって敵撃滅ですよ、あきらめんなよーー!今日からあなたも富士山だ」

と怒鳴って繁木少佐は大笑いした。恥ずかしくて顔を上げられない副長に代わり、妻の繁木航海長が

「松岡中尉、いい加減にしなさいとあなたさっき副長にご注意を受けたばかりでしょう?少し自重なさい」

といさめた。すると松岡中尉はニヤ~と気味の悪い笑顔をその顔いっぱいに浮かべると

「ありゃあ~航海長。旦那様が来たら急に言葉使いが丁寧になりましたねえ~、さっきみたいにもっと熱くなって私を罵ったらいかがです?さあ、尻の穴を締めて!」

と言って繁木航海長は居心地悪げにそっぽを向いてしまった。その松岡中尉の尻を、野村中佐が後ろからけり上げた。そして「黙ってろマツオカ!」と厳しい語調で叱りつけた。

そんな三人を、微笑みながら見ている繁木少佐である。

 

休憩をはさんで再び技術士官たちは集まり松岡中尉は「話の核心」を語らされることとなった。野村中佐・繁木大尉の厳しい視線にさすがの松岡中尉もまじめに語り始める。

「このラケットは・・・私が海軍兵学校に入る時中学のテニス部の顧問の先生にいただいたものなんです」

そういう松岡中尉に技術士官たちは身を乗り出す。松岡は言葉を継いだ。

「顧問の先生――胡桃伊達(くるみだて)キミ先生――は『あなたのテニスの才能は素晴らしい、この先どこに行ってもテニスを忘れないでね』と言ってこのラケットを記念にくださったんですねえ。そのとき先生は私に「このラケットは肌身離さずに。あなたを守ってくれますよ、もしあなたが戦場に出て弾丸が飛んできたらこれで跳ね返しなさい』って言って下さったんです。まあその当時私もそんなことあるわけないだろう!とあきらめていたんですが、兵学校を出てあれこれ艦を転勤して『瑞鶴』に乗った時これを使う時が来ましたよ!とある海域での戦闘で、私のいた艦橋に敵機が突っ込んできました・・・あぶなーい!私は自分の前にいた見張り員くんを突き飛ばして敵機からの機銃弾をこのラケットで撃っていましたよ。そしたらですねえ、信じられるか!?機銃弾が跳ね返って敵機が撃墜出来たんですよ!熱くなりましたねえ私!」

そこまで一気に話すと松岡中尉は椅子に座って湯呑に残った茶を飲み干した。

技術士官たちは一斉に唸り声をあげると腕を組んで考え込んだ――まさか、まさかこんなすごいものがどうして一般民間人が所持していたのだろう。大体どこでこれを開発していたのだろう。

胡桃伊達という名前にも心当たりはない。もし何らかの形でこうした技術にかかわっていたものが軍関係でも民間でもいたら知らない我々ではないというのに。ともあれ。

「松岡中尉、ラケットを所持するにいたった経緯はよくわかった。我々の希望を申し述べる――そのラケットを詳しく調査させてほしい」

山中大佐が言った。

すると松岡中尉は苦渋の表情を浮かべて「調査、と申されますと・・・しばらくの間このラケットをここに置いて皆さんにお渡しするということですよね」と言った。山中大佐が重々しくうなずくと松岡中尉は顔をあげて言った――

    (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・・

ラケットの秘密はまだ深いベールの中。しかし松岡中尉はこのラケットを譲り受けたのでした。

一体このラケットはどういう構造になっているのか、それよりも工廠はこのラケットを利用して何を作りたいのか???

次回をお楽しみに。


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