女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?

日々雑感・桜は静かに見るべかりけり・・・

ことのほか寒かった平成二六年の冬も、関東周辺ではそろそろ終焉なのだろうか。

待ちにまった桜が咲き始めて心嬉しい日々である。出来るなら花をめでに行きたいものだが仕事がある身であるからそうもゆかぬ、今年は六日に九段へ桜を拝みに行くつもりである。その日まで散らないで待っていてほしいと切に思う。

そういえばその頃には九段周辺だけでなく各地の桜の名所で花見がにぎやかに行われることだろう。すでに行われている場所もあると聞き及ぶ。どうかマナーを守って良い思い出にしてほしいと願うばかり。

私自身はそれほど酒も飲めないし、大騒ぎする花見は好きではない。

以前建て替えをする前の家では、棟続きの叔父の家の前に大きな桜の木が植わっていて春になるたび素晴らしい花をたくさんつけて、私はこどもたちと自家用トラックの荷台に、『花見弁当』を作ってあがり桜を見ながら楽しく食べたことを懐かしく思いだす。

その桜の樹は、叔父の家の解体および駐車場にするために切られてしまった。が、その枝が駐車場の隅に植えられてそれがずいぶん大きくなって今年も花をつけた。

その一部を手折ってきてコップに差し、『大和』他の人形の前に供えた。

 

内地の桜です。

今年も立派な花をつけましたよ。

 

呼べど答えぬ英霊たちにそっと口の中で呟きささげる二枝の桜はまだつぼみ。しかし間もなく開き始めるだろう。その日が楽しみである。

 

私がいわゆる花見が好きでない、気が進まない理由の一つが以前読んだ本に書かれていた光景が嫌でも脳裏をよぎるからで、それはかの『菊水作戦』で出撃し奇跡の生還を遂げた『雪風』他の駆逐艦の艦上の話。

戦死者が一人もいない艦は「初霜」くらいなもので他の残存駆逐艦は数名以上の犠牲者を出している。その中の一つの艦の甲板に戦死者が並べられている。

艦は内地に戻ってきたが敗戦の痛手をこうむり皆押し黙っている。艦には救助された『大和』他の将兵たちも乗っている。

佐世保に入港する艦、その将兵の目に爛漫の花を咲かせた桜が見えてきた。折からの春風に吹かれてその花びらが艦にまで舞ってくる。優しい桜色の花びらは優しく傷ついた将兵たちの肩に舞い降りたのだろう。ある将兵の目に、甲板に寝かされている戦死者の顔や体にその桜の花びらが舞い降りるのが見えた。

血に染んだ物言わぬ将兵の体を飾る桜の花弁。

その将兵はあふれる涙を抑えられなかったという。

 

また別の艦上。

同じく佐世保に入港する駆逐艦上から満開の桜を見た兵が「櫻が、櫻なんかが咲いてやがる。俺たちが血みどろの戦いをして戦友をたくさん死なせたのに!」と叫んで甲板上を走り回ったという。

その兵隊の心内はいかばかりだったのだろうか。簡単に推し測ることはできないが、決死の覚悟で出撃し、戦友たちの無残な死を目の当たりにしてきた彼にとって、生きて帰った内地では桜が何事もなかったかのように咲いて人々も(当然ながら)彼らのむごい戦いなど知る由もなく生活を送っている。その落差がどうにもたまらなかったのではないか。

その時、桜という花は彼らにとっては<自分たちの凄惨な戦い>と<それを知らない者たち>の埋めようもない溝の間にまたがる存在だったのかもしれない。

 

そんな話を読んだためか私は、大騒ぎの花見はしない。出来ない。

桜を見ると必ず、その話を思い出す。「櫻なんかが」と叫んだ兵は戦後、櫻をどう見たのだろうか。そして――桜の花びらをまとって永遠の眠りについていた将兵は今、この<平和>な日本の桜をどう見ているのだろうか。

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・

家の裏に植わっているかつての桜の名残の一枝です。

「私の神棚」と呼んでいる『大和』『武蔵』『回天』他の人形が飾ってある所に置いてみました。私なりの御供養です。

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「女だらけの戦艦大和」・探し物はなんですか?

野田兵曹の一件のころから、森上参謀長は探し物をしていた――

 

(どこに行ったんだろう、確かにここに置いておいたのに)

と、森上大佐は不審に思いつつ自室の隅から隅、そして自分の思いつく限りの場所を探して歩いた。だが、彼女の探しているものは見つからない。見つからないが、誰かに「あれを知らない?」と聞くのはちょっとカッコ悪い、参謀長としての沽券にかかわる!というわけで黙って一人黙々と<それ>を探す森上大佐である。

それを見ていた梨賀艦長は

「森上はなに?ちょっと落ち着きなさすぎるんと違うかねえ?一体何!」

と注意した。森上大佐はあわてて片手を顔の前で左右に振ると

「なんでもないったら、何言ってんの梨賀はさあ?私は普段通りだよ、落ち着きないってどういうことさ!」

と少しふくれて見せた。梨賀艦長はそんな海兵同期の友をじっと見つめると

「ふーん。まあ何もないならいいけどさ・・・」

とだけつぶやいて書類に目を通す。しかし、森上大佐は本当は必死でそれを探していたのだ。<それ>は彼女にとって大事なものである。

(あれは私の大好きなもの。せっかく同期の松原が贈ってくれたものを・・・ああもう!いったいどこに行ったんだろう)

多少いらいらしながら森上大佐は艦内をうろついた。こんなところにはないだろうというような――夜戦艦橋や主砲の発令所まで足を伸ばす。そのたびそこの兵員嬢に

「森上参謀長、いかがなさいましたか!」

とか

「森上大佐、なにかご用でしょうか?」

と敬礼され質問されて、森上大佐はそれに返礼するのも鬱陶しくなってき始めた。辟易して

(どうせこんなところにゃあるまい。もう一遍上に行こう)

と踵を返し前牆楼へあがる。その途中にも何名か先ほど行きあった兵隊嬢や下士官嬢に出会いそのたびかすかに不審げな表情がその顔に浮かぶのを参謀長は見て取って(まずい、不審がられてる。変な噂が立たないうちに探さないと!)と走り出す。

 

と、向こうから松岡中尉がマツコとトメキチを従えてラケットを振りつつやってくるのに出くわした。松岡中尉は森上大佐に

「参謀長ー!今日も熱くなってますね?今日からあなたも富士山だーッ!」

と叫び、マツコとトメキチがそれに唱和する。いつものことだがちょっとした騒ぎになるのが常で参謀長は困ったようにほほ笑んでそっと片耳を手でふさぐ。それに構わず松岡中尉は

「参謀長、私は参謀長が何かお困りとお見受けしましたが、お困りの時はぜひこの松岡に御用命を。――で、参謀長は何をお困りですか?」

と怒鳴るように言う。参謀長はついに両耳をふさぎながら

「そうかそうか、う~ん・・・困ったことがあると言えばそうなんだが。松岡中尉あんた口は固い方かね?私が必死で探し物をしてるってこと誰にも言わないでほしいんだけど」

という。松岡中尉はラケットをブーンと振ってから

「なにをおっしゃるうさぎさん、いや参謀長。私の口はいつだって財布の紐より固いんです。いや、私の口の堅さにはこの『大和』の装甲板でさえかないませんね、はい。というわけで御安心下さったでしょう?さあ、参謀長の秘密を話して下さいな?」

といい、マツコとトメキチが参謀長を見上げる。参謀長は両耳をふさいだ手を離すと

「秘密じゃあないが・・・あのさ、君たち私の部屋のデスクの上にあったこのくらいの大きさの包みを知らないか?」

と言って三〇センチほどの幅を作って見せた。ほう?と松岡中尉はそれを見て首をかしげる。そして「一体それは何なんです?」と尋ねた中尉に参謀長が言った一言に、松岡中尉は一瞬視線を右斜め上四五度にあげたがすぐになに食わぬ顔で

「知りませんねえ。お役に立てなくて申し訳ないです・・・でも気にしてあちこち見てみましょう。というわけで鳥くん犬くん、行きましょうー!」

というなりあっという間にその場を走り去ってしまった。

一人取り残された森上大佐はぽかんとして「なんだ、ありゃ?」とつぶやいてから「そんなことより探さないと」と言ってまた小走りに今度は防空指揮所まで駆け上がる。

 

そんなころ。

一仕事、いやふた仕事を終えた野村副長が自室へ戻ってきた。一月の寒い内地の風の中での作業とは言え、一所懸命仕事をしたあとなので襦袢が軽く汗に湿って、それを着替える副長。

そしてサッパリとすると(さあ、お楽しみを)と嬉しげに戸棚をあけ、そこから長方形の箱を引き出す。先日松岡中尉からもらった袱紗屋のカステラである。

(あの時は松岡中尉とハッシーそれにトメキチに大事なカステラを食い散らかされて泣きたかったけど、あの松岡中尉もけっこういいところあるじゃない、こんな大きなカステラ持ってきてくれるんだからねえ。あの人もあちこちに人脈があるらしいからこういうものをくれる人がいるんだねえ、いいねえ)

そんなことを思いつつカステラの箱をデスクの上にそっと置く。

しばしの間その箱を見つめていた副長は(そうだ、やはり艦長と一緒に食べなくちゃ)と思って部屋を出ると艦長室へ。艦長は在室だったので副長の「私の部屋でおいしいものを食べましょう」という誘いに嬉しげについてきた。

副長の部屋で大きなカステラを切り分けてもらった梨賀艦長は、手をつけようとして

「そうだ、森上の奴が何か落ち着かないんだよ・・・何か探し物をしてるみたいでね。落ち着かせたいんだがあいつも呼んでいいかな」

と言った、副長は「探し物ですか。そりゃ大変ですね、いいですよでは・・・」と立ち上がると従兵を呼び参謀長を呼んでこさせることに。

やがてやってきた参謀長、

「なになに、野村の直々のお呼びだってから来てみれば――梨賀がいるじゃん?梨賀とのいいところ見せつけよってのかい?」

と言って笑った。その冗談に副長は頬を染め、梨賀艦長は「馬鹿、変な事言わないでよッ!」と叱った。その森上大佐を「まあお座り下さい」とソファに座らせたあと副長は手ずから紅茶を淹れ、カップを三つテーブルに置いた。そして

「これはいただきものなんですが、一人ではもったいなくて皆さんと一緒に」

と言ってまるい大きな皿に、切り分けたカステラを盛ったのを真ん中に置きその横に小皿とフォークを並べた。そして嬉しそうに

「これはなかなか手に入らない長崎は袱紗屋のカステラなんですよ!」

と言った。そのとたん――

「ふー、ふー、袱紗屋のカステラだと―!」

森上大佐は大声をあげて立ち上がり副長の三種軍装の襟をつかんだ。びっくりして目をまん丸くしている副長に

「これ!俺はこれを探してたんだよ!貴様かあ?これを俺の部屋から盗って行ったのは!」

と言ってカステラを指差した。副長はしばらくぽかんとして口を半開きにしていたが突然その頬にかっと朱が差すと

「何言ってんですかあ、大佐ー!私が泥棒してきたっていうんですか、あんまりじゃないですか!私は盗んだものをその人に食べさせるなんて器用なまね、出来ませんよ!大体なんで私が大佐の部屋に盗みに入んなきゃいけないんだよ!ったく、冗談じゃあねえわ!!」

と最後は我を忘れて叫んでいた。いきなり泥棒呼ばわりされたのだから仕方がないと言えばそうだが森上大佐は中佐より海兵は数期上だし階級も上。上下関係も忘れるほど激高した副長に梨賀艦長が立ちあがり、二人の肩を押さえて

「まあまあ、落ち着けよ!座れ二人とも」

と言ってそれぞれの肩を押さえる手に力を込めてソファにねじ込んだ。森上大佐と野村中佐はお互いにふうふうと息を荒げながらにらみ合っている。すさまじいにらみ合いでまるで龍虎の決闘もさもありなんという風情である。

梨賀艦長はまず、森上大佐を見て

「これが森上のものだって言う証拠は?」

と尋ねた。森上大佐は野村中佐を睨みつけたまんまで

「証拠だあ?梨賀貴様何言ってんだ。――証拠というならさっきこいつが言ったようにそんじょそこらじゃ手に入らない長崎の袱紗屋のカステラだってことだ!そのカステラを俺は同期の松原から贈られたんだよ!二,三日前に届いて俺は楽しみにして自分の部屋のデスクに置いといた。そしたらいつの間にかなくなってたんだよ!ふん!」

と怒鳴って腕を組んでそっぽを向いた。すると副長がソファから身を乗り出して

「それをあなたは私が盗ったって言うんですね、私にそんな暇あるわけないでしょう。私はね、松岡中尉からこの箱をもらったんですよ。あの人とハシビロとトメキチが私の持っていたカステラを食い散らかしたその詫びだと言って持ってきてくれたのがこれ!絶対盗ってなんかないから。それでも疑うならここで自決するっ!」

と怒鳴って部屋の隅のチェストに駆け寄ると、中から軍刀を出してきた。梨賀艦長があわてて

「バカッ、やめないか!」

と副長に飛びついて軍刀を取り上げようとした。と、

「野村、ちょっと待て・・・そのカステラを松岡中尉にもらったと言ったな?」

不意に森上大佐が言った。副長は軍刀を取り返そうと梨賀艦長と揉み合いながら

「だからそうだと言ったでしょう!あの連中ひとの部屋になだれ込んできてひとの大事な菓子を食い散らかして!でも悪いと思ってかそのあとこれを持ってきたんですよ、何度も言わさないでくださいよ!」

と大佐に叫んだ。副長は梨賀艦長に軍刀を取られて、艦長にソファに突き倒されてしまった。

「そうか・・・そうだったのかあいつめ!だからさっき俺が『カステラ』と言った時視線を泳がしたんだな!野郎め」

森上大佐はそう唸ると「梨賀、野村犯人はあいつだ!一緒に来い!」というなり部屋を飛び出し、艦長と副長はわけのわからないままそのあとを追った。

そして森上大佐は、松岡中尉をとっ捕まえて「貴様だな!私の部屋からカステラを盗んだのは!ただじゃおかねえ」と怒るし副長は「あなたのくれたカステラで私は泥棒扱いされたんだからね、ちゃんと説明して!」とわめく。

松岡中尉はやれやれ、というように艦内帽を取って頭を掻いて

「どうもすみませんでした―」

と大音声を発してその場に土下座した。彼女が平伏したまま言うには、副長の部屋で彼女の大事なカステラを三人(自分とハシビロ、トメキチ)で食ってしまったことに申し訳なさを感じた松岡中尉、どうやって償おうかと考えながら歩いて第一艦橋に入った。ふと見れば、磁気羅針儀の下に紙袋が置いてある。そっと持ち上げて中身を検分するとかすかに「カステラ」の文字が読めた。一体だれのものかわからないがこんなところに捨ててあるんだからいただいてもかまわないだろう・・・と思って

「副長に差し上げましたー!」。

松岡中尉は平伏したままである。梨賀艦長と野村副長が、森上大佐を見つめた。森上大佐は「・・・第一艦橋・・・?磁気羅針儀・・・?」とつぶやいた後

「ああっ!」

と大声を上げた。その声に皆驚いて飛び上がったが森上大佐は

「いやあ~、忘れてた。俺はこれを従兵から受け取ったのが第一艦橋。で、そのあと通信長に呼ばれたんでこれを磁気羅針儀のところに置いたんだったー!部屋じゃなかったんだよ、すっかり忘れてたぜ!・・・副長、ごめんすまん!泥棒扱いしたこと謝るよ!悪かったなあ~、自分でおいた場所を忘れちゃうなんてなあ、俺もボケたかなあ。

――しかし松岡中尉、あんた勝手にもってっちゃだめじゃないか。『捨ててあった』んじゃないよ忘れてったんだよ!全くとんでもない奴だなあ、おかげで俺は副長に泥を塗るところだったじゃないかッ」

と一気に話した。

梨賀艦長が「全く人騒がせな!松岡中尉も中尉だが、森上も森上だ。自分の持ち物の管理くらいちゃんとしろよ。そのせいでツッチーに嫌な思いをさせて!」と怒り、しかし副長は

「いいんですよ。これで私が犯人じゃないってわかりましたものね。しかし私も森上大佐の大事なものを食べてしまってすみませんでした。申し訳ないことをしました。そして先ほどの暴言をお詫びします」

と森上大佐に謝った。松岡中尉は顔をあげてその様子を見ると

「素晴らしい和解ですね!今日からみんな富士山だ、尻の穴を締めろー!」

と叫んであっという間に走り去ってしまった。

梨賀艦長、野村副長そして森上参謀長はなんだか急に可笑しくなって大笑いすると副長の部屋に取って返し、件のカステラをすべて食べつくしたのだった――

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

探し物は何ですか・・・カステラでした。このところ私はカステラにハマッテいます。そのつながりでカステラの話を書きました。

松岡中尉そこら辺に置いてあるものを『捨ててある』だなんて・・・しょうもない人。


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「女だらけの戦艦大和」・友あり南方へ帰る5<解決編>

野田兵曹の魔手から助け出された蝙蝠三羽は、副長の胸に抱えられて医務室へ――

 

この風変わりな一行を、日野原軍医長は驚きの目を瞠って迎え「畑さん、畑大尉。君の出番だよ」と畑軍医大尉を呼んだ。畑軍医大尉は

「どうしました・・・おや、今日はちょっと変わった患者ですねえ」

と言って聴診器を首に掛けた聴診器を揺らしながらやってきて副長の手から三羽の蝙蝠を受け取った。そして診察台の上に彼らをそっと置いて診察台の下の箱から何枚かのタオルを取りだした。その周囲を副長、艦長、松岡中尉やほかの兵員嬢たちが取り囲んだ。蝙蝠たちはぐったりとして診察台の上に寝ている。その瞼は閉じられている。

畑大尉は慣れた手つきで彼らの片足を縛るひもを解き、蝙蝠のそれぞれの心音を聴診器で聞いている。皆は固唾をのんで見守る。畑大尉はそれぞれの蝙蝠の心音を目を閉じて聞いて、やがて目を開けると彼らの胸の辺りをそっとさする様な事をしてもう一度聴診器を彼らの胸のあたりに当てた。そして軽くうなずくと今度は縛られていた方の足をよく見始める。

そして畑大尉は「森本兵曹、傷薬をお願いー!」と声をあげ、森本兵曹と呼ばれた衛生兵曹嬢がさっと傷薬の瓶を持ってやってくる。おお、ありがとうと畑大尉はそれを受け取り瓶のふたを開けると中の薬を蝙蝠の足に塗り付けた。丁寧に塗り込んだ。

皆その手つきに見とれている。誰も一言も発しないで、治療の音だけが診察室に小さく響く。

やがて畑大尉はそれぞれの蝙蝠をタオルでそっと包むと診察台の下にあった籐のかごに並べて寝かせた。そしてふっとため息をついた。

それを合図のように野村副長が

「畑大尉。この蝙蝠たちはどんな具合?」

と尋ねた。皆の視線が一斉に大尉に向く。すると大尉は

「何かショックなことがあったのでしょうね、少し心拍数が落ちているようですがこれはマッサージで回復しました。足はひもで縛られていたせいで傷が付いていましたがこれも塗り薬で治ります。今夜一晩ここで様子を見ますよ」

と言って聴診器を首から外しくるりと丸め、白衣のポケットにねじ込んでほほ笑んだ。見守る皆の間からほうっと安堵のため息が漏れた。

それを診察室の外から見ていたマツコとトメキチ、マツコは

「良かったわね、あの三人命にはどうもないらしいわ」

とトメキチに教え、トメキチも

「ホント!?マツコさん。良かったね、あの人たちとても怖がっていたから・・・でも床にたたきつけられなくってほんとによかった。もしされてたら命も危なかったわね」

とほっと胸をなでおろした。そしてちょっと暗い表情になると

「あの人たちかわいそうね、信じてついてきた野田さんにあんな目にあわされて。聞いたマツコサン、あの人たちの声。『助けて助けて、ノダサン助けて』って、それでもあのひとたち野田さんを信じてたのよ」

と言って、マツコはその金色の瞳をトメキチに向けてから

「聞いたわよ。必死だったわね、そりゃあそうよ・・・足を縛られて振り回されて挙句に床にたたきつけられそうになったんだもの。これは立派な裏切り行為よ。野田の奴ちょっと痛い目に遭えばいいのに」

と悔しげに吐き捨てた。トメキチが同意してうなずいた。

そうしているうちに艦長を先頭に皆がぞろぞろと医務室を出てきた――

 

翌日、麻生分隊士他航海科の分隊員は松岡中尉から昨晩の出来事を聞かされた。石場兵曹も部屋の外からあの一件を見ていて暗黒の一重まぶたも重々しく

「あがいな女だとは思わんかったで。野田の奴、かわいがっとった蝙蝠を終いには床にたたきつけて死なそうとしたんじゃけえのう。血迷うにも程がある。あいつは厳罰じゃな」

と言って見張兵曹は「床にたたきつけて・・・そがいなん人間のすることじゃあないですよ!」と憤った。麻生分隊士も「騒ぎは聞いとりましたがはあ、そげえにすさまじいことがあったとは。野田兵曹は普段おっとりしたようにうちは見よったんじゃが、人というもんは見かけによらんもんですなあ」と腕を組んで考え込んだ。

そして顔をあげて松岡中尉を見て

「ほいで分隊長。野田兵曹の処分はどがいになっとるんです?」

と尋ねた。これこそ皆が知りたいことではあったが分隊長はラケットを撫でて

「まだ決まってないようだね。今、艦長副長それに砲術長以下が集まって審議中だと聞いてるよ。まあ、野田さんも熱くなり方を間違ってしまったね。生き物相手にあれはなかった・・・まあ、愛情の裏返しなのかもしれないがでも。野田兵曹の処分は今日中には出ると思うよ。まあ君たちは気にしないで勤務に励んで頂戴ね、これ修子のお願い!」

というと片手を振って歩き去って行った。

 

そんなころ医務室では畑大尉が籠に寝かせた蝙蝠を診察していた。蝙蝠はくるまれたタオルの中でおとなしく一夜を明かし、朝になって目を覚ましたようだ。かごに寝かされタオルにくるまって目をぱちくりさせている蝙蝠たちに畑大尉は

「おお、ちっとは元気になったかい?どれ、傷を見てみようか」

と言って一羽ずつタオルを取ってじっくり診察。蝙蝠もおとなしく診察を受ける。畑大尉は「心拍はよし。足はどうだろうか・・・」と言って蝙蝠の足の傷を診察。「うーん、傷はもうちょっと薬をつけるようだね。森本さん、昨日の薬を頂戴」と言って傷薬をつけてやった。そしてもう一度タオルにそっと包むと

「今日中はこのままでいてちょうだいな。明日になって傷がもうちょっとよくなってたら別のかごに入れてあげようね」

と話しかけ籐のかごに一列に寝かせたのだった。

 

さらにその頃、艦長室では野田兵曹の処分について副長、砲術長や高角砲の責任者たち数名が、そして医療の方面から日野原軍医長が集まって話し合いをしていた。野田兵曹の言い分は昨晩彼女が落ち着いてから聞きだしたが

「要するに可愛さのあまり手離すのが嫌になったというらしいのです。で、手離すくらいならいっそ殺して自分も――と一瞬思ったらしいです」

と副長は昨晩野田兵曹から聴取した話を皆に話した。梨賀艦長は座っていた椅子の背もたれにもたれかかって額に手を当てると

「なんてこった。殺すなんて極端なことを。帝国海軍軍人としてあるまじきことだ」

と嘆息した。日野原軍医長は意見を求められ

「愛しいものをずっと手元に置きたいという感情は誰にでもあるものだとは思いますが、それがかなわないと知った時ああいった行動に出るというのはちょっと極端かなと。彼女の中になにかうっ屈したものがあったとしか思えません。勤務に対する不満なのかそれとも他のところにあるのか今の時点ではわかりかねますが、彼女は自分と向き合う時間がいりますね。たった一人で冷静になって考えさせるのが必要ではないかと思うんです。生方中尉、今まで彼女を見てどうでした?」

と応えた。高角砲の生方中尉はこれまでの野田兵曹の事を考えてみたが不満を持っているとか何かそういうものは感じられなかったと言った。特に和を乱すということもなく、気になるのはチェストを汚すというだけ。日野原軍医長はうーん、と頭を抱えた。

長い時間が過ぎ、やがて梨賀艦長は「こうしていても仕方がない、私が結論を出そう。――野田兵曹は艦からしばらく下ろす。軍医長、海軍病院に入院させるか実家に行かせるかどちらかがいいと私は思いますが」と日野原軍医長を見た。

軍医長は皆の視線を浴びて座りなおすとおもむろに

「そうですな私も考えていましたが・・・病院よりは実家でしばらく静養させた方がいいでしょう。今までの彼女の話を聞けば特に病的なものは感じられませんからね。とりあえず・・・艦がここにいる間は静養させたらいいでしょう、そのあと様子を見て乗艦させるかどうか決めましょう」

と言った。生方中尉が視線を落して

「ダメなら・・・『退艦』、海軍をやめさせるということでしょうか」

とつぶやき、副長が静かに「それも仕方あるまい?またこのようなことをしでかさないという保証はないからね」と言った。

一同ひとの心の中に踏み込む難しさを痛いほど感じつつ、「野田兵曹は一時退艦」として散会したのだった。

 

野田兵曹が艦を降りる同じ日、蝙蝠たちは『蚊取』に移乗するため松岡中尉が特注した籠に入れられて最上甲板にいた。見送りは松岡中尉や野村副長、あまり事情を飲み込めない森上参謀長そして梨賀艦長。高角砲からは生方中尉が代表ででてきた。

松岡中尉は『蚊取』に彼らを持って行くため内火艇を仕立ててゆく。お伴に谷垣兵曹。

今日は珍しく風がなく日差しが心地よい。副長は籠にそっと寄って蝙蝠たちに

「ひどい目にあわせてすまなかったね。トレーラーに帰ったら自由に生きなさい。元気でね」

と言った。蝙蝠たちはそれがわかったのか籠の前に三羽張り付いて副長をその小さな瞳で見つめた。松岡中尉が

「時間です・・・では『蚊取』へ行ってまいります」

と言って谷垣兵曹と籠を持ちあげた。梨賀艦長が

「ご苦労だがよろしく。『蚊取』の皆さんにもよろしく」

と言って松岡中尉は礼をして歩きだした。ちょうどそこへ野田兵曹が名淵軍医大尉と二人の衛生兵嬢に伴われてやってきた。彼女も退艦する時間であった。

蝙蝠の入っている籠を目にした野田兵曹は駆け寄って行ったが蝙蝠たちは彼女を恐れて籠の奥に張り付いてしまった。立ちつくす野田兵曹に名淵大尉が

「そのうちトレーラーに帰ったら会えるかもしれないよ?そん時はもう、縛ったりしないでやりなさい。彼らは縛られるのが嫌だったんだよ。彼らは人じゃない、蝙蝠なんだからね。ひとには人の、蝙蝠には蝙蝠なりの生き方があるんじゃないのか?」

と言ってその背中をさすった。野田兵曹はあふれる涙をぬぐいもせず艦を降りて行くかごを見つめていたが

「うちが悪かった。うちの一方的な思いがいけんかった。・・・うちはあの子たちを殺してしまうところじゃった、なんてことをうちは考えたんじゃろう。済まん事をした、済まん事を・・・許して呉れえ」

と絞る様な声で言うとその場に伏して大声で泣き出した。

その場の一同は何とも表現できない感情に心を支配されて野田兵曹を見つめていた。

 

その頃、高角砲の居住区ではチェストの大掃除が始まっていた。野田兵曹の<置き土産>、チェストの中の蝙蝠の糞やらなにやらを総出で片付けていた。臭いがすさまじいし、ちょとやそっとでは取れない汚れに一人の一等兵曹嬢は「もうここは<開かずのチェスト>にしたらええ。こげえな臭くて汚いチェスト、だれも使えんで!」とヒステリーを起して、皆何か可笑しくなって一斉に笑いだしその笑いに一等兵曹嬢もついに笑い出してしまった。

 

そして―ー野村副長は苦手だった蝙蝠を克服したという自信に充ち溢れて今日も颯爽と艦内を歩いている。副長はあの後、梨賀艦長にこう言った「だって艦長、あの子たちの必死な瞳を見ていたら苦手だのなんだの言ってられなかったんです。すがるような瞳を捨て置けますか?」、と――

 

                ・・・・・・・・・・・・・・・・

こんな結末となりました。

野田兵曹の心の中は誰にもわかりません、きっと本人にも分らない部分もあるかもしれませんね。そのうち彼女がきれいな心に戻って帰艦する日を待ちたいと思います。


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「女だらけの戦艦大和」・友あり南方へ帰る4

「なにもないようじゃが」と言いかけた小泉兵曹の目に、異様な光景が飛び込んできた――

 

廊下の向こうから奇声を発しつつ走ってきたのは誰あろう野田兵曹である。小泉兵曹は「うわっ!いったい何ごとじゃ?」というなり体を部屋の中に引っ込めた。そのすぐあとを、野田兵曹が叫びつつ走り去って行きさらにそのあとを大人数の「衛兵隊」の準士官や士官たちが血相変えて口々に

「野田兵曹待て!」「待たんか野田!」

と怒鳴りながら走ってくる。小泉兵曹も、部屋にいた他の航海科員たちやほかの分隊員たちもその光景に肝をつぶした。

見張兵曹が小泉兵曹の後ろからこわごわ顔を出して

「何事が起きた言うんじゃろうねえ?あがいに野田兵曹が無茶苦茶に走っていったんをうちは初めてみたわ」

と言った。それに周囲の下士官嬢や兵隊嬢が同意してうなずいた。普段野田兵曹という人物はひょうひょうとしていると言ったらいいのかなんと言ったらいいのか、ちょっとやそっとのことには動じない図太さのようなものがあって評判だった――良くも悪くも。

しかし今走り去った野田兵曹にその面影はなく、追手の衛兵隊士官嬢たちの表情には必死なものが見えた。

「気味が悪い。なんぞ悪いことが起こってじゃないかねえ」

と見張兵曹の後ろから石場兵曹が暗黒の一重まぶたも重々しく言った。悪いこと?と見張兵曹がつぶやくと石場兵曹は

「そうですオトメチャン。悪いことが起きたとしか思えんで、ありゃ。もしかしたら――」

と言って言葉を切った。見張兵曹と小泉兵曹がその身体を石場兵曹に向けて

「もしかしたら。――なんじゃとお思いです?」

と尋ねた。すると石場兵曹は暗黒の一重まぶたをいったん閉じてそして再び開いた。白目をむいていて、見張兵曹も小泉兵曹も、ほかの兵員嬢たちも一瞬「うわっ」と身を引きかけたがその身を戻して石場の次の言葉を待った。

石場兵曹は白目をむいたまま重々しい調子で

「あなたがた、あの人がチェストに蝙蝠を飼って居るのを忘れてませんかのう?あの騒ぎは蝙蝠関連の騒ぎですよ。そうとしか思えんが。まあ妙なことに巻き込まれるんは嫌ですけえね。みんな今日はあの騒ぎが収まるまで部屋の外に出ん方がええ思うよ、うちは」

と言った。見張兵曹はじめその場の一同は「ほう・・・」と感嘆のため息をついて、見張兵曹は

「さすが石場兵曹じゃ。うちらそんな大事なことを忘れとったわ。ほうじゃね、今日は当直以外はここから出ん方がええですね」

と石場兵曹をほめて、石場兵曹は目を元に戻すと「オトメチャンに褒められるとは嬉しいことじゃ。ウフフフ・・・」というとオトメチャンを抱きしめた。

と、野田兵曹たちが走り去って行った先の高角砲分隊の居住区の方ですさまじい怒号が聞こえて皆はからだを固くした。

「な、なんじゃろう」

と石川水兵長が声を震わした。石場兵曹は、主席下士官らしい責任感にあふれて

「皆はここに居れ。やたらとでたらいけんで」

というと艦内帽をしっかりかぶると廊下に走り出た。他の居住区からも古参の下士官たちが走り出て来ている・・・

 

その怒号は高角砲の居住区から発せられたものである。

野田兵曹は自分の居住区に大声を出しながら走りこんだのだった、驚く皆を尻目に野田兵曹は自分のチェストに直行、扉をあけるなり足にひもをつけたままの蝙蝠三匹を荒っぽく引きずり出したのだった。

そこに駆けこんできた衛兵隊の準士官たちは

「野田兵曹、何しとる!貴様自分のしとることがわかっとってか!」

と怒鳴ったのだった。

野田兵曹は蝙蝠三匹を繋いだひもを振り回し「あっちへ行け、あっちへ行かんか!もううちに構わんでくれ!」と怒鳴る。かわいそうに蝙蝠たちは足を縛られているので逃げることもかなわず振り回されている。

衛兵隊の準士官の中の一人、機関科の松本兵曹長は

「野田、そげえなことをしたら蝙蝠が死んでしまう、やめんか!」

と怒鳴った。もう一人の兵曹長が

「いけんで野田!蝙蝠の足が取れてしまう!」

と叫んだ。が、野田兵曹は耳を貸さない。余計に蝙蝠たちを繋いだひもを振り回す。高角砲の分隊員たちは部屋の隅にひと塊りになっていたが

「あれじゃあ蝙蝠が可哀想じゃ。足がもげてしまうで・・・誰かはよう野田を止めんと」

と騒ぎ始めた。

そこに、

「野田さんあなた間違ってますねえ!」

と大音声が響いた。皆が声の方を見れば、松岡中尉がたいへん怖い顔つきでラケットを構えて野田兵曹をにらみつけている。その後ろには野村副長に藤村甲板士官が控えている。さらにその後ろにはマツコとトメキチ。

マツコは野田兵曹が振り回しているひもにつながれた蝙蝠たちを見て

「ちょっと早くあの連中を助けてやらないと死んじゃうわよ!足がもげちゃうって悲鳴をあげてるじゃない・・・マツオカ、早く何とかしてよう」

とくちばしをガタガタさせたし、トメキチも「かわいそう、あの人たち泣いてるよ!信じてた野田さんにこんな目にあわされて・・・かわいそう!」と半分泣きながらマツコに叫ぶ。

松岡中尉はマツコとトメキチを振り向いてそっとうなずいた、そして

「大丈夫、あの蝙蝠三羽ガラスは私が絶対助けます」

というと野田兵曹をもう一度睨みつけた。野田は相変わらず蝙蝠を繋いだひもを振り回している。

松岡中尉はラケットの先を野田兵曹に向けると

「あなたはこの蝙蝠さんがたを大事にしてきたんだろう?それがなんだ、元に返せと言われたらそれが気に入らないとあなた、この蝙蝠さんがたを死なせるような目にあわせてるじゃないですか!野田さんね、あなたは人間だからいいでしょうがこの蝙蝠さんがたは艦内の環境に慣れるだけでも結構なダメージを受けてるとは思いませんかねえ?もともとはこの蝙蝠さんがたはトレーラーの林の中で静かに暮らして虫だの果物だのを食って生きていたんでしょう?それをあなたの勝手な思いでこの艦の中に連れてこられてさらに自由を奪われて。

ひもでつながれてのお散歩もいいですがあなたもうちょっと考えなさい。生き物にはそれぞれの生きる場所があるんですよ?私の鳥くんや犬くんのように人間生活に順応できる能力があればそれはいいでしょうが蝙蝠さんがたはそうはいかないでしょう。

一所懸命あなたについてゆこうとしている蝙蝠さんがたを健気だとは思わないんですかねえ?そしてあなたは今、その蝙蝠さんがたをひもがついたまんまで振りまわして・・・足が取れたらどうするんですか?足がたとえ一本でもなくなってしまったらこの蝙蝠さんがたはもう、野生で生きてはいけないんですよ?あなたこの蝙蝠さんがたをその一生の間しっかり面倒見られますか?そんな覚悟があって飼ってるんですか?

さあ、蝙蝠さんがたをこっちによこしなさい!」

と最後はさらなる大声で怒鳴った。野田兵曹は蝙蝠を繋いだひもを持った手をダランと垂らして泣いていた。松岡中尉はそっと歩み寄って

「さあ、貸しなさい」

とひもをその手から取ろうとした。

その時!

「いやだあ、これはうちのものじゃ!」

と野田兵曹が絶叫し、蝙蝠を繋いだひもを持った手を大きく上にあげて床に蝙蝠を叩きつけようとした。あっと皆が目を覆いかけたその時。

「危ないッ!」

と叫んで蝙蝠が床にたたきつけられる寸前に床に滑り込んできた人影一つ。それは誰あろう副長であった。副長は大嫌いなはずの蝙蝠の危機にその身を投げ出して救ったのだ。もうすっかりダランと全身の力の抜けた蝙蝠たちは副長の腕に抱えられ、危機から救われた。

「馬鹿もの!」

松岡中尉の声とともに「ごつっ!」という鈍い音が響いた。とたんに床に昏倒する野田兵曹。兵曹は松岡中尉の怒りのラケットを頭に受けて昏倒したのだった。

わっと衛兵隊嬢が野田を取り囲み乱暴に引き起こす。野田兵曹は軽くうなり声を上げつつ引き立てられていった。それをやっと駆けつけた梨賀艦長が見送りつつ

「副長、副長どうなったんだ」

と言って高角砲の部屋に入ってきた。そして見れば、副長が松岡中尉や藤村甲板士官は他の兵員嬢たちに囲まれている。そっと寄ってみればその副長の腕にはぐったりとした三匹の蝙蝠が抱えられている。

(卒倒するほど嫌いだったはずなのに)

と艦長は微笑ましく思った。そしてそれには触れずに

「副長、その蝙蝠たちは畑大尉(注・医務科の大尉でもともとは獣医になりたかったひと。人間を扱うより生き物の方が得意らしい)に診せよう。そして野田兵曹の処分を考えないといけないね」

というと副長を真ん中にして皆はぞろぞろと医務科へと歩き始めていったのだった。

それを見送りながらマツコは

「よかったわねえあの連中助かって。アタシもうだめかと思っちゃったわよ」

と言って翼をくちばしで撫でつけた。トメキチも

「ほんと。よかったわねマツコサン。・・・あ!」

と声を上げた。マツコが「なに大声出してんのよアンタ」と見れば――興奮状態になったトメキチ、またもやうんちを落としていたのだった。

「あんたって・・・尻の穴をしっかり締めたらどうよ?」

マツコはあきれてその大きなくちばしを開けたまま――。

        (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・

野田兵曹御乱心の果てでした。

蝙蝠たちは危機一髪でしたが副長の機転で助かりました。そしてこのあとは野田の処分と蝙蝠さんがたの処遇が・・・どうなりますか、お楽しみに。



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「女だらけの戦艦大和」・友あり南方へ帰る4

「なにもないようじゃが」と言いかけた小泉兵曹の目に、異様な光景が飛び込んできた――

 

廊下の向こうから奇声を発しつつ走ってきたのは誰あろう野田兵曹である。小泉兵曹は「うわっ!いったい何ごとじゃ?」というなり体を部屋の中に引っ込めた。そのすぐあとを、野田兵曹が叫びつつ走り去って行きさらにそのあとを大人数の「衛兵隊」の準士官や士官たちが血相変えて口々に

「野田兵曹待て!」「待たんか野田!」

と怒鳴りながら走ってくる。小泉兵曹も、部屋にいた他の航海科員たちやほかの分隊員たちもその光景に肝をつぶした。

見張兵曹が小泉兵曹の後ろからこわごわ顔を出して

「何事が起きた言うんじゃろうねえ?あがいに野田兵曹が無茶苦茶に走っていったんをうちは初めてみたわ」

と言った。それに周囲の下士官嬢や兵隊嬢が同意してうなずいた。普段野田兵曹という人物はひょうひょうとしていると言ったらいいのかなんと言ったらいいのか、ちょっとやそっとのことには動じない図太さのようなものがあって評判だった――良くも悪くも。

しかし今走り去った野田兵曹にその面影はなく、追手の衛兵隊士官嬢たちの表情には必死なものが見えた。

「気味が悪い。なんぞ悪いことが起こってじゃないかねえ」

と見張兵曹の後ろから石場兵曹が暗黒の一重まぶたも重々しく言った。悪いこと?と見張兵曹がつぶやくと石場兵曹は

「そうですオトメチャン。悪いことが起きたとしか思えんで、ありゃ。もしかしたら――」

と言って言葉を切った。見張兵曹と小泉兵曹がその身体を石場兵曹に向けて

「もしかしたら。――なんじゃとお思いです?」

と尋ねた。すると石場兵曹は暗黒の一重まぶたをいったん閉じてそして再び開いた。白目をむいていて、見張兵曹も小泉兵曹も、ほかの兵員嬢たちも一瞬「うわっ」と身を引きかけたがその身を戻して石場の次の言葉を待った。

石場兵曹は白目をむいたまま重々しい調子で

「あなたがた、あの人がチェストに蝙蝠を飼って居るのを忘れてませんかのう?あの騒ぎは蝙蝠関連の騒ぎですよ。そうとしか思えんが。まあ妙なことに巻き込まれるんは嫌ですけえね。みんな今日はあの騒ぎが収まるまで部屋の外に出ん方がええ思うよ、うちは」

と言った。見張兵曹はじめその場の一同は「ほう・・・」と感嘆のため息をついて、見張兵曹は

「さすが石場兵曹じゃ。うちらそんな大事なことを忘れとったわ。ほうじゃね、今日は当直以外はここから出ん方がええですね」

と石場兵曹をほめて、石場兵曹は目を元に戻すと「オトメチャンに褒められるとは嬉しいことじゃ。ウフフフ・・・」というとオトメチャンを抱きしめた。

と、野田兵曹たちが走り去って行った先の高角砲分隊の居住区の方ですさまじい怒号が聞こえて皆はからだを固くした。

「な、なんじゃろう」

と石川水兵長が声を震わした。石場兵曹は、主席下士官らしい責任感にあふれて

「皆はここに居れ。やたらとでたらいけんで」

というと艦内帽をしっかりかぶると廊下に走り出た。他の居住区からも古参の下士官たちが走り出て来ている・・・

 

その怒号は高角砲の居住区から発せられたものである。

野田兵曹は自分の居住区に大声を出しながら走りこんだのだった、驚く皆を尻目に野田兵曹は自分のチェストに直行、扉をあけるなり足にひもをつけたままの蝙蝠三匹を荒っぽく引きずり出したのだった。

そこに駆けこんできた衛兵隊の準士官たちは

「野田兵曹、何しとる!貴様自分のしとることがわかっとってか!」

と怒鳴ったのだった。

野田兵曹は蝙蝠三匹を繋いだひもを振り回し「あっちへ行け、あっちへ行かんか!もううちに構わんでくれ!」と怒鳴る。かわいそうに蝙蝠たちは足を縛られているので逃げることもかなわず振り回されている。

衛兵隊の準士官の中の一人、機関科の松本兵曹長は

「野田、そげえなことをしたら蝙蝠が死んでしまう、やめんか!」

と怒鳴った。もう一人の兵曹長が

「いけんで野田!蝙蝠の足が取れてしまう!」

と叫んだ。が、野田兵曹は耳を貸さない。余計に蝙蝠たちを繋いだひもを振り回す。高角砲の分隊員たちは部屋の隅にひと塊りになっていたが

「あれじゃあ蝙蝠が可哀想じゃ。足がもげてしまうで・・・誰かはよう野田を止めんと」

と騒ぎ始めた。

そこに、

「野田さんあなた間違ってますねえ!」

と大音声が響いた。皆が声の方を見れば、松岡中尉がたいへん怖い顔つきでラケットを構えて野田兵曹をにらみつけている。その後ろには野村副長に藤村甲板士官が控えている。さらにその後ろにはマツコとトメキチ。

マツコは野田兵曹が振り回しているひもにつながれた蝙蝠たちを見て

「ちょっと早くあの連中を助けてやらないと死んじゃうわよ!足がもげちゃうって悲鳴をあげてるじゃない・・・マツオカ、早く何とかしてよう」

とくちばしをガタガタさせたし、トメキチも「かわいそう、あの人たち泣いてるよ!信じてた野田さんにこんな目にあわされて・・・かわいそう!」と半分泣きながらマツコに叫ぶ。

松岡中尉はマツコとトメキチを振り向いてそっとうなずいた、そして

「大丈夫、あの蝙蝠三羽ガラスは私が絶対助けます」

というと野田兵曹をもう一度睨みつけた。野田は相変わらず蝙蝠を繋いだひもを振り回している。

松岡中尉はラケットの先を野田兵曹に向けると

「あなたはこの蝙蝠さんがたを大事にしてきたんだろう?それがなんだ、元に返せと言われたらそれが気に入らないとあなた、この蝙蝠さんがたを死なせるような目にあわせてるじゃないですか!野田さんね、あなたは人間だからいいでしょうがこの蝙蝠さんがたは艦内の環境に慣れるだけでも結構なダメージを受けてるとは思いませんかねえ?もともとはこの蝙蝠さんがたはトレーラーの林の中で静かに暮らして虫だの果物だのを食って生きていたんでしょう?それをあなたの勝手な思いでこの艦の中に連れてこられてさらに自由を奪われて。

ひもでつながれてのお散歩もいいですがあなたもうちょっと考えなさい。生き物にはそれぞれの生きる場所があるんですよ?私の鳥くんや犬くんのように人間生活に順応できる能力があればそれはいいでしょうが蝙蝠さんがたはそうはいかないでしょう。

一所懸命あなたについてゆこうとしている蝙蝠さんがたを健気だとは思わないんですかねえ?そしてあなたは今、その蝙蝠さんがたをひもがついたまんまで振りまわして・・・足が取れたらどうするんですか?足がたとえ一本でもなくなってしまったらこの蝙蝠さんがたはもう、野生で生きてはいけないんですよ?あなたこの蝙蝠さんがたをその一生の間しっかり面倒見られますか?そんな覚悟があって飼ってるんですか?

さあ、蝙蝠さんがたをこっちによこしなさい!」

と最後はさらなる大声で怒鳴った。野田兵曹は蝙蝠を繋いだひもを持った手をダランと垂らして泣いていた。松岡中尉はそっと歩み寄って

「さあ、貸しなさい」

とひもをその手から取ろうとした。

その時!

「いやだあ、これはうちのものじゃ!」

と野田兵曹が絶叫し、蝙蝠を繋いだひもを持った手を大きく上にあげて床に蝙蝠を叩きつけようとした。あっと皆が目を覆いかけたその時。

「危ないッ!」

と叫んで蝙蝠が床にたたきつけられる寸前に床に滑り込んできた人影一つ。それは誰あろう副長であった。副長は大嫌いなはずの蝙蝠の危機にその身を投げ出して救ったのだ。もうすっかりダランと全身の力の抜けた蝙蝠たちは副長の腕に抱えられ、危機から救われた。

「馬鹿もの!」

松岡中尉の声とともに「ごつっ!」という鈍い音が響いた。とたんに床に昏倒する野田兵曹。兵曹は松岡中尉の怒りのラケットを頭に受けて昏倒したのだった。

わっと衛兵隊嬢が野田を取り囲み乱暴に引き起こす。野田兵曹は軽くうなり声を上げつつ引き立てられていった。それをやっと駆けつけた梨賀艦長が見送りつつ

「副長、副長どうなったんだ」

と言って高角砲の部屋に入ってきた。そして見れば、副長が松岡中尉や藤村甲板士官は他の兵員嬢たちに囲まれている。そっと寄ってみればその副長の腕にはぐったりとした三匹の蝙蝠が抱えられている。

(卒倒するほど嫌いだったはずなのに)

と艦長は微笑ましく思った。そしてそれには触れずに

「副長、その蝙蝠たちは畑大尉(注・医務科の大尉でもともとは獣医になりたかったひと。人間を扱うより生き物の方が得意らしい)に診せよう。そして野田兵曹の処分を考えないといけないね」

というと副長を真ん中にして皆はぞろぞろと医務科へと歩き始めていったのだった。

それを見送りながらマツコは

「よかったわねえあの連中助かって。アタシもうだめかと思っちゃったわよ」

と言って翼をくちばしで撫でつけた。トメキチも

「ほんと。よかったわねマツコサン。・・・あ!」

と声を上げた。マツコが「なに大声出してんのよアンタ」と見れば――興奮状態になったトメキチ、またもやうんちを落としていたのだった。

「あんたって・・・尻の穴をしっかり締めたらどうよ?」

マツコはあきれてその大きなくちばしを開けたまま――。

        (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・

野田兵曹御乱心の果てでした。

蝙蝠たちは危機一髪でしたが副長の機転で助かりました。そしてこのあとは野田の処分と蝙蝠さんがたの処遇が・・・どうなりますか、お楽しみに。


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