2014-02

「女だらけの戦艦大和」・真冬の紫苑1 - 2014.02.24 Mon

松本兵曹長は一月四日、所用で上陸する機関科の椿兵曹に二件ほど頼みごとをした――

 

「せっかくの上陸を悪いがこことここに行ってこの手紙を渡してきてほしい。そしてその場で返事をもろうて来てほしいんじゃ。文書でなくてええ、兵曹が聞いて来てくれればええからの」

と松本兵曹長は言って椿兵曹に二つの封筒を手渡した。手渡された椿兵曹はそれを一種軍装の胸ポケットにしっかり入れると

「わかりました。ではこの二件はいの一番に済ませますけえ、どうか安心しとって下さい」

と言って上陸して行った。松本兵曹長は「すまんのう、じゃがこういうことは椿兵曹のように信用ある人間でないと任せられんのじゃ。ほんまに申し訳ない」と言って椿兵曹を送りだしたのだった。

椿兵曹は、呉の町に上がるとまず指定された喫茶店を探しそこに入った。店主に手紙を渡して事情を話す。店主は「ああ、松本さんから」と言って手紙を読んだが、やがて「わかりました、ではその日にきちんと手はずを整えておきますとお伝えください」と言って、椿兵曹は「では兵曹長にお伝えします」と言って敬礼すると外へ出て、もう一軒旅館へ走った。

そこでも宿の女将に手紙を渡して事情を話すと、手紙を読んだ女将はしっかりうなずいて

「わかりました。その日に用意しておきますけえ、松本さんによろしゅうお伝えください」

と言って頭を下げた。椿兵曹は「願います・・・では私はこれで」と敬礼してそこを出た。椿兵曹は、(これで兵曹長の御用を無事済ませた)とほっとすると今度は自分の用を済ますために歩き出した。

 

その日の夕方『大和』に帰還した椿兵曹は、松本兵曹長に

「お言いつけのご用はすべて済ませました。そしてどちらからも『その日に手はずを整えます』とお返事をいただきました」

と伝えた。松本兵曹長は椿兵曹の肩をそっと叩くと

「すまんかったね、ありがとう。助かったよ・・・あ、ほうじゃこれを」

と言って事業服のズボンのポケットから小さな羊羹を二本出すと兵曹の手に握らせた。椿兵曹は「そんな、こげえなものをいただいては」と遠慮したが兵曹長は

「ええからええから。大事な時間をこれで、いうんはちいと酷じゃがうちの気持ちじゃ。取っといてくれんか?ほいで一人で食うてくれや」

と笑った。椿兵曹も笑って「ほいじゃあ遠慮のういただきます」と言ってそれを押しいただくと自分のポケットにそっと入れた。そして「ほいじゃうちは仕事に戻ります」と言って礼をすると歩いて行った。

その後ろ姿を見送って、松本兵曹長は(いよいよじゃ。いよいよ岩井少尉を困らすあん男と決着をつける時が来る)と身の引き締まる思いをしていた。

そしてその晩巡検が済んだ後、いつものように副砲前で岩井少尉と会い「少尉、例の件場所の確保が出来ましたけえ。あとは上手くやるだけです」と報告した。

岩井特務少尉は嬉しそうに微笑んで松本兵曹長の両手をつかむと

「ありがとう松本兵曹長。うちはほんまに嬉しいて言葉に出来んほどじゃ。では七日にうちはあん人と話をしてそのあと兵曹長のねった作戦を決行しよう。兵曹長には面倒に捲きこんで本当に申し訳ない思うが、どうかよろしく願います」

と言って頭を下げた。その少尉に松本兵曹長はあわてて

「岩井少尉いけません、頭をあげてつかあさい。うちは岩井少尉をいじめるあん男を懲らしめてやりたいんです。そのためにはうちはどがいなことも惜しみませんけえ。なんでもいうてつかあさい」

と言って思い切り岩井少尉を抱きしめていた。そしてその耳元に

「もう絶対岩井少尉をあん男のもとへなんぞ返しませんけえね。あん男としっかり縁を切りましょう」

と囁いた。岩井少尉は抱きしめられながら「はい・・・」とうなずいた。

 

そして七日。

岩井少尉と松本兵曹長は呉の町に上陸し、少尉は元夫との面会をすることになり松本兵曹長が指定した喫茶店『青葉』に入ることに。松本兵曹長が先に『青葉』に入り店主に「前に言ったように願います。少尉はこの席に、少尉の相手はその向かいに。うちはここから様子を見ますけえ」と耳打ちして衝立の蔭の席に陣取った。

店主は、松本兵曹長とは昵懇の仲だからしっかりうなずいて「わかりました。心配せんでつかあさい」と言って笑った。

そして兵曹長が店で待つこと五分後、打ち合わせた通りに岩井少尉が『青葉』に入ってきた。すこし心細げな少尉に店主はコップの水を出しに行ってそっと「平気ですよ・・・向こうにいらっしゃいますけん」と囁いて安心させた。少尉がほっとした表情を浮かべてコップの水をそっと飲んだその時、店のドアが開いて――野住が入ってきた。

岩井少尉の頬が緊張のあまりこわばったのを兵曹長は衝立の蔭から見た。野住は岩井少尉を見ると「おお、待ったかいの」といいながら少尉の座る席に来ると少尉の前に椅子を引き出して座った。

店主がコップの水を持って行き、野住はコーヒーを二つ注文した。店主が下がると野住は嬉しげに岩井少尉の顔を見つめて笑った。その笑い顔を見て松本兵曹長は(なんじゃ、いやらしい顔しよって。少尉あがいな男と別れて正解じゃの)と胸がむかむかしてくるのをこらえた。そして衝立の蔭からそっと様子をうかがい続ける。

野住はうつむいたままの岩井少尉に

「しんさん、ようやっと俺と会ってくれる気になったんか。うちともう一遍やり直してくれる気になった思うてええんかいのう」

と話しかけた。岩井少尉はうつむいたままである。野住はテーブルの上に置かれた少尉の軍帽を見つめて「それにしても・・・しんさんは偉うなったのう。少尉さんか。海軍は大変なんじゃろう?海軍をやめて俺とやり直すか?」

と語りかけた。岩井少尉はうつむいたままかぶりを振った。野住は

「まあ、やめんでもええわ。やめんでも俺ともう一度やり直してくれるならええ。それとも――やりなおす気はないんか?無いならないでもええが、そしたらわかっとろう?<あの晩>みとうにするだけじゃ」

と言って少尉の顔を見つめた。

<あの晩>と聞いて岩井少尉はハッと顔をあげた。松本兵曹長は衝立の蔭で(あの野郎が、いやなことを思い出させよって)と唇をかんでいる。岩井少尉は脳裏に結婚した晩の恐怖がよみがえるのを覚えて知らず体が震えた。しかし(この後ろには松本兵曹長が居る・・・大丈夫大丈夫。気ぃしっかり持たんといけん)と思い直し、今度はしっかり元夫・野住の顔を正面から見つめた。野住は岩井少尉の顔をもう一度見直した。

岩井少尉はそのまま元夫の顔を見つめ、かすかに笑みさえ浮かべると

「うちも今ではえらい忙しい身になりましてな。元日付けで分隊士を拝命いたしました。たくさんの部下を持ってうちは責任の重さを感じ取るところです。うちの近況はそがいな感じですな。――で、野住さん。明後日なんじゃがもう一度会えますかのう?」

と言った。松本兵曹長は衝立の蔭で緊張して聞き入っている。

野住の顔に喜悦の色が広がった、それを岩井少尉はしっかり見た。そして野住は

「会えるも会えんも、会えるにきまっとろう?――で、何処で会うんじゃね」

と身を乗り出して聞いて来る。岩井少尉はつとめて落ち着いた声音で

「明後日、夜になりますがええでしょうか」

と言った。夜と聞いて野住はいやらしい笑みを顔いっぱいに浮かべた、そして(こいついよいよ俺とよりを戻す気になったんじゃろか、それとも断る?いずれにしても俺はええ思いを出来るわけじゃ)と真っ赤に下心を広げている。

その元夫の顔を冷静に見つめつつ岩井少尉は

「二〇〇〇(ふたまるまるまる。午後八時のこと)・・・言うてこりゃ海軍の言葉じゃ、午後八時に『紫苑荘』という旅館で待っとります。旅館に着きんさったら玄関でうちの名あを言うてくだされば案内して下さる手はずになっとります。――ほいじゃあ、これで。うちはもう艦に帰る時間ですけえ」

というと立ち上がった。そして野住の分のコーヒー代も払うと『青葉』を出た。松本兵曹長は、その少し後に野住が店を出たのを確認し、店主に「ありがとうございました、妙なことにお店をつこうて申し訳ないです」と謝った。が、店主は笑顔で「そげえなこと気にせんでえですよ・・・それにこのことは『人助けじゃ』言うて聞いとりますからね。うちの店が人助けに一役買ったならほりゃあ嬉しいことです。松本さん、今度はゆっくりいらしてつかあさいな」と言ってくれた。

「人助け・・・」

松本兵曹長は、椿兵曹がきっとそう言い添えたのだと思った。ただ場所を貸してほしい、というだけではいくら昵懇の中でも不審を抱きはせぬかと椿兵曹はそっと気をまわしてそう言い添えたのだ。(椿兵曹、ありがとうな)と松本兵曹長は心の中から呼びかけた。

そして『青葉』を出た兵曹長は最初に約束した通り『青葉』の裏手で少尉と落ち合った。少尉は兵曹長を見るとほっとしたような表情になって

「あん人はもう、駅の方へ歩いて行きんさったよ。――松本兵曹長、ほんまにありがとう。うちなんだか今日は偉い勇気が湧いてきよったわ」

というと最後は笑った。兵曹長が「ほうですか、ほりゃあえかった」というと少尉は肩を揺すってハハハ・・・と笑い、松本兵曹長はいささか驚いた。今までこのように少尉が笑うところなど見たことがなかったからである。

(ふっ切られたのう。この分なら明後日は上手くゆくで!)

確信を深める松本兵曹長、岩井少尉に「ほいじゃあ、飯でも食いに行きますか!」と元気に声をかけ、岩井少尉も「おう、行こう行こう!」と兵曹長の肩に腕をまわして行く手を指差したのだった――

    (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・・・

さあ、いよいよ岩井少尉と松本兵曹長による「元夫・撃退戦」の始まりです。今回はまず敵情視察と言った感じでしょうか。元夫は変な確信を持っているようですがさあどうなりますか。

岩井少尉と松本兵曹長、首尾よく行きますように。

次回をお楽しみに!

 

                ~~~~~~~~~~~~~~~~

こんな手拭いを手に入れました。『大和『』武蔵』『信濃』の絵柄が入っております!
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02/23のツイートまとめ - 2014.02.24 Mon

miharinn619

@kogasyuto こんばんはブログ終わるんですか??今コメント入れようとしたらはじかれちゃってこっちに書き込みました。また別のブログに移ってぜひ続けてください!その時はまた教えてくださいね^^。
02-23 22:24

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「女だらけの戦艦大和」・ああ驚きの海軍生活・・・!? - 2014.02.20 Thu

誰にでも「驚いたこと」「驚いた体験」はあると思います。

そこで「女だらけの帝国海軍」の女将兵のみんなの<海軍に入ってとても驚いたこと>を聞いてみましたのでお聞きください!

 

猪田智美中尉 「こんにちは!私は『武蔵』艦長・猪田敏代の娘の智美(さとみ)であります!さて、海軍に入って驚いたことと言うことでありますが私はあまり物事に動じないというか驚いたということがないんですね・・・さあ困った・・・ちょっと考えてみましょう・・・

あ!ありました!私は二年ほど前にここフィリッピンの航空隊に赴任してきたんですがここの福田司令があまりに――あまりにオランウータンに似ていたのがたいへん驚きでした。

私もオランウータンは一度しか見たことがなく、しかしあの動物は印象的で忘れられませんでした。その印象的な動物が眼の前に!と思った時は本当に驚きましたよハハハ。

――ってこの話福田司令には絶対に内緒に願います!」

 

小泉兵曹 「『大和』勤務の小泉です。私が海軍に入って驚いたことを語ってほしいというので語ります。私が海軍に入って驚いた――というか『大和』に乗って驚いたことですが、艦長(梨賀幸子大佐)の水虫のひどさです。今でこそ完治状態の艦長の水虫ですが私などが乗艦した当時、とてもひどい状態でした。私は防空指揮所の配置ですが訓練時に艦長はそこに立つがです。するとですね、訓練が始まって一時間もたたんうちに艦長の額に汗がじっとり・・・にじみ出すんじゃわ。一体どうしたんじゃろ思うてちらちら見とると、艦長、胸に下がった双眼鏡をグイッと握りしめて『く、く、く・・・』いうんじゃわ!一体なんじゃろう思うてこっちは気が気じゃないんじゃが、そのうち当時の艦長伝令の兵曹がさっと艦長の足元にしゃがむんじゃわ。「?」と思うて見とると伝令の兵曹、服のポケットからなにやらこまい瓶を出すんよ。それがあなた!水虫の薬じゃ。それを艦長のサンダル脱がして足の指の間に塗り付けるんじゃ。

なんや・・・伝令の兵曹が気の毒でねえ。ほいで思うた。うちは絶対この仕事だけはしとうない!と。

うん、うちが海軍に入って一番驚いたんは艦長の水虫じゃね」

 

石場兵曹 「暗黒の一重まぶたの石場です。『大和』に乗っとります。

小泉は水虫に驚いたいうてますが甘いねえ。うちが一番驚いたんは艦長・参謀長のタバコの吸い方じゃ。あん人たちのタバコの吸い方は異常じゃで?艦長はタバコの先、一センチくらいでタバコを灰皿にねじ込んでしまうんじゃ。もったいないじゃろう?そう思うんじゃがなんでも『タバコの一番うまいんはここまでじゃ、そこから先はまずうていけん』いうてね。じゃけえ次々にタバコに火ぃつけては灰皿にねじ込む。これを訓練中にされてみい?火いつける役は大ごとじゃ。うちはほんまに驚いたよ。

それに森上参謀長じゃ。参謀長もタバコをよう吸うんじゃがこの人はまた艦長とは正反対、唇ぎりぎりまでタバコを吸っとる。うちは指や口を火傷せんか気が気でないわ。

ほいでも長年の勘、いうんかね?一度も火傷せんところを見るとありゃあもう達人の域かねえ?ようわからんが――うちが海軍は言って驚いたんはこの二人のことです」

 

麻生少尉 「『大和』航海科の麻生です。うちが海軍に入って一番驚いたんは――ほうじゃ。そこのあなたようわかっとるじゃないですか!ほうです、オトメチャンの美しさです。

うちがまだ兵曹長だったころオトメチャンや小泉たちが上等水兵で乗艦して来たんじゃ。オトメチャンと小泉は「日向」にいてそこから転勤になったと聞いている。うちは航海科に二人ほど新顔が来る言うて聞いて、はあまた使えん連中が来たんじゃろうか、どうしごいてやろうか思うて見に来たんじゃが――オトメチャンをひと眼見た時うちは天地が逆になったくらいの衝撃を受けたんじゃ。

美しい。

その言葉が頭の中をぐるぐる回り出して・・・。水兵服のオトメチャンは何ともかんとも美しかったで。小泉なんか足元にも及ばん位の美しさ。うちは一目でオトメチャンの虜になってもうた。が、上に立つ人間としてそれを悟られるんも恥ずかしいけえ、わざとオトメチャンを蹴ったりしていじめたっけ。あれは悪かった思うてる。気を引こう想うて心と正反対のことをしてしもうたんじゃわ、うちもあほじゃねえ。

てな訳でうちの驚きの一番はオトメチャンの美しさじゃ!文句あるか?」

 

見張兵曹 「見張トメです。麻生分隊士はあがいにおっしゃいますがうちはちいともきれいじゃありません。恥ずかしいですけえ、分隊士あまりそげえなこと言わんでつかあさい・・・。

あ、うちが海軍に入って一番驚いたんはまずは海兵団でみんなが親しく話をしてくれたこと。うちはそれまでほとんど誰とも話をしたことがなかったけえちいと人が怖い、言うところがありました。でもしんなうちに皆あれこれ話しかけてくれてうちはだんだん怖くなくなってきました。

それから三度のご飯をいただくことができること。これはとてもうれしかったです。たま~に誰かがへまこいて飯上げ(ご飯抜きのこと)食ろうた事もありましたがうちはご飯抜きは慣れとってじゃけえどうもなかったです。そして一番の驚きはうちが帝国海軍期待の一番艦『大和』に乗務したことでしょうか。うちみとうなどんくさい奴がこの弩級艦に乗れるなんて・・・夢のようでほんまに驚きです」

 

小泉兵曹 「うちが『大和の突撃隊員』の一人小泉じゃ。うーむ、うちが海軍に入って一番びっくりしたんは、やはりあのことじゃろうか。皆見目麗しいおなごじゃ言うんに男遊びをようする、言うことじゃろうか。海兵団を出て小さな艦に乗ってそのあと航海学校へオトメチャンと行ってそのあと大きな艦に乗った時先輩に繁華街に連れて行かれたんじゃが(その時がうちの初めてじゃった、ウフフ)皆男の人をとっかえひっかえして夜通しあそんどるんにうちはたまげた。

その時先輩に『貴様も男の一人や二人知っとかんと海軍軍人とは言えんで?さあ遊んで来いや!』言われてその気になって・・・今では立派な海軍軍人になれました!先輩感謝です」(ってうち、二度目の登場じゃわハハハ)

 

野村副長 「まったく何を言ってるんでしょう。恥ずかしいったらないじゃないの。

さて、私が海軍に入って一番驚いたことというとやっぱりあのことかしらねえ。そう、あれは私が砲術長として『大和』に来て間もなくのことでしたねえ。ある日私が最上甲板を歩いていると前甲板の方で人だかりがしています。一体何だろうと不審に思ってそっと寄って行くとそこにはまだ若い水兵嬢たちがたくさんいてその中心に森上参謀長がいました。しかも早くも驚くことに素っ裸。真昼間ですよ?私が茫然としてみていると、参謀長はたくさんの水兵嬢たちに『褌の正しい締め方』をレクチャーしているではないですか!自らモデルとなって、裸の自分を使って褌の締め方を教えているのです。

――私がそれ見て感激したかって?・・・するわけないでしょ!しかもそのあと私は参謀長に『おーい、新しく来た砲術長―。あんたにも褌の締め方教えてやろうかー』って追いかけられたし!二重の驚きですよ全く・・・教えてもらわなくたって知ってますよだ」

 

梨賀艦長 「『大和』艦長です。私が一番驚いた海軍でのこと。それは、あの二航戦・山口たも司令官の食欲です。あの人の食欲は尋常ではないですね。一度、彼女の乗る『飛龍』を訪問したことがあるんですがその時の晩餐の量ときたら、サラダは馬の飼い葉なみ。スープはどんぶりになみなみ。メインディッシュの肉ときたらまあ、でかいのでかくないの・・・その上デザートに山盛りのアイスクリーム。私はもう腹がパンパンで苦しかったんですが食事を残すのは良くないと思って頑張って食べました。正直冷や汗が背中を流れ、もしかしたら生きて帰れないかもと覚悟を決めたほどです。他の招待客――武蔵の猪田艦長とか「赤城」の青木艦長なども真っ青になりながらも懸命に食べていました。

が、山口司令官は全く顔色一つ、眼の色ひとつ変えることなくにこにこしながら出されたものをあっさり平らげあまつさえ『これお代わりないのかしら?』というのですから驚きました。

大食い、と言えば私の海兵同期の古村啓子も大したものですがそれでも山口司令官にはかないますまい。それが証拠にそのあと、山口司令官は古村を呼んで大食いしたそうですが古村は激しい胃の痛みに苦しんだそうです・・・。

ですから私の海軍生活での一番大きな驚きは山口司令官の大食いです。ほんと怖かった・・・」

 

繁木(旧姓・片山)航海長 「こんにちは、片山・・じゃなかった繁木航海長です。結婚したばかりでどうも名字に慣れなくって・・・て、こんなことじゃいけませんね!

え・・海軍に入って一番驚いたことを言えと?う~~~ん、そうですねえ。こんな事言うと変な奴と思われるかもしれませんが――妻になるのってとっても痛い思いをしなきゃなれないんだな、ってことでしょうか。それが私が海軍に入ってから最大の驚きです、はい」

 

ハッシー・デ・ラ・マツコ 「あたしがハッシー・デ・ラ・マツコよ!あたしが海軍に入ってから一番驚いたこと・・・。いろいろあり過ぎてどれがいちばんなんて言えないわよ。でも、いつだったか大きな訓練の時アタシ金色になっちゃってびっくりして飛ぶうちにマツオカと衝突して死にそうになったのは一番の驚きかしらねえ。

それ以外は毎日驚きの連続よアンタ・・・ここの女どもって碌なことしでかさないでしょう?アタシ心配なのよね、「帝国海軍」の行く末がさ。――ちょっと聞いてんの?水虫女の艦長ったら!逃げるんじゃないわよう」

 

トメキチ 「僕、犬です。僕が海軍に入って一番驚いたことを言うんですか?そうですねえ・・・やはり僕も毎日おいしいご飯が頂けることでしょうか。昔生まれて半年くらいの間飼われていたうちは子供がいっぱいいてお金があまりなかったから僕がご飯にされそうでしたもん。

でも今はご飯をたくさん食べられるしいろんな経験が出来て僕も毎日驚きの連続です。毎日トメさんやマツコサン、それにマツオカサンと熱くなっています。これからもっと驚くことがあるのかな?わくわくしちゃうな!」

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・

いろんな驚きがありましたね。

しかしあまりまともな驚きがなかったような気がするのが・・・気がするだけでしょうか。まあいいかw。

さて次回、いよいよ岩井少尉のお話が始まります。少尉、元・夫としっかり決別できるでしょうか。

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「女だらけの戦艦大和」・異母きょうだい4<解決編> - 2014.02.16 Sun

麻生分隊士に促され、オトメチャンは一息すううと息を吸うと「貴子姉さん」と呼びかけた――

 

貴子少佐は、見張トメの穢れなき瞳の奥をじっと見つめた。オトメチャンも貴子少佐の瞳の奥を見つめて

「貴子姉さん。うち今思い出しました。昔の様々。確かにうちはつらいことばかりじゃった。ほいでもよう、よう思い出して見れば姉さんとはええ思い出ばっかりじゃ。さっきも姉さんが言うとられた絵本の話し、うちは覚えとります。あの寒い夜、姉さんはうちの住む納屋に大きなおにぎりを幾つも持ってきてくれましたよね。ほいで絵本を読んで下さった・・・字ぃを一つ一つ、丁寧に教えて下さった。ほいで姉さんの大事なお小遣いでこうた帳面と鉛筆を下さって『トメちゃん、これは母さんやほかの姉さんに見つからん所に隠しとくんよ、うち時々来てトメちゃんに勉強言うもんを教えてあげる、勉強できんとこの先困ることばっかりじゃけえ』いうて本を読んで、字ぃも教えて下さいましたね・・・うち、あの時の絵本も帳面も鉛筆もみなすべて今も持っとります。・・・姉さんさっきは姉さんにひどい事言うてごめんなさい、うち、前に麗子ねえさんに親切にされた思うたんにいやな見合いを押しつけられて、ほいで・・・ほいで・・・」

というとまた泣き出した。貴子少佐はその方を優しく抱いて

「ええんよ、もう。うちは麗子姉さんやほかの姉さんたちとは違ういうんをわかってくれたらそれでええんよ。ほんでも・・・あん時の本やら帳面やらを今も持ってくれとってんじゃね・・・うちは嬉しい」

と言ってこれも涙にむせぶ。オトメチャンは

「あれはうちの最初の宝物です。姉さんの言いつけどおり、だれも探さん様なところにきっちり隠して、うちが海兵団に入る時もなんとか隠して」

と言ってそこで二人は初めて顔を見合わせて笑い合った。この瞬間、(おお、二人の間のつめたい壁が氷解した)と麻生少尉は実感した。感動が、少尉の全身を走り抜け少尉はかすかに身震いした。

貴子少佐は改めてオトメチャンを見つめると

「トメちゃんは・・・あがいな目ぇにあいながらよう、曲がらんかったねえ。それだけが正直、うちは心配じゃった。うちが兵学校に行ってからも一番の心配ごとがそれじゃった」

と言ってほほ笑んだ。オトメチャンは恥ずかしげにほほ笑むと

「うち、ちいと悪んぼじゃった時があってです。姉さんが兵学校に行ってしまわれて、母さんやほかの姉さんたちがたまに帰ってくるといじめられて・・・そのうっ憤を晴らす、じゃないですがよその子たちと一緒になって畑のスイカ盗んだりして。母さんに『見張の家の恥さらし!』いうて死ぬほど殴られて外にほっぽり出されました。うちはふらふらになりながらあるいとったら、うちのお祖父さんとお祖母さんがうちを抱いてお祖父さんの家に連れてってくれました。そこで『一体どうしたんじゃね、こげえなえらいけがをして!』と聞かれました。うちはこれこれこうじゃというてうちのしたことを白状しましたら、お二人ともえらい怒って泣いて・・・叱られました。トメちゃんはこげえなことをする子じゃなかろう、こげえな悪いことをしたら悲しむ人が居ってじゃけえ、この先絶対したらいけん!ええか金輪際したらいけんで!――言うてね。うちはその剣幕にびっくりしました。うちはうちなりにわかりました・・・悲しむ人いうんはこのおじいさんとおばあさん、それに貴子姉さんじゃないかと。

それは半分あたりでしたね、もう半分はあの時海軍にいたお父さんとそれから、死んでしもうたうちの生みのお母さんだったんだとあとになってわかりました。

うちはいけんことをした、このお祖父さんお祖母さんを悲しませ貴子姉さんに心配かけたらいけん、貴子姉さんに嫌われたらうちはほんまにもう生きてはいけん思うて・・・それから悪いことはやめました」

と言って貴子少佐をもう一度見つめた。

貴子少佐は「ああ・・・あのお祖父さんお祖母さんには何度お礼をいうても言いきれん・・・ありがたい人たちじゃ。それにトメちゃんのもともとの心根がまっすぐじゃったけえ、トメちゃんは曲がらんかったんじゃね。ああ、それはトヨさんの性格そのものじゃ。トメちゃん、トヨさんに感謝せんといけんよ」と言ってオトメチャンをぎゅうっと抱きしめた。

オトメチャンは貴子少佐の胸の中で「はい・・・」と囁いた。そして

「ほんまにごめんなさい姉さん。うち姉さんも疑うてしまって。許してくれますか」

ともう一度許しをこうた。貴子少佐は「もう済んだことじゃ。許すも許さんも・・・うちは何とも思うてないけえ。今までのことを考えたら疑うても当たり前じゃ」と言ってオトメチャンを抱きしめたまま。

 

やがて三人は、見張トヨの墓の前に整列するような格好で横一列に並び、墓を見つめつつ話を続けた。

貴子少佐は「実は、あの見合いいう話。うちは麗子姉さんから事前に聞かされたんじゃ」と明かした。「明かさねばならん話があるんよ。つらい話じゃが聞いておいてほしい」と前置きして。

オトメチャンも麻生少尉もじっと貴子少佐の横顔を見つめた。貴子少佐は墓を見つめたままで

「麗子姉さんはわざわざうちを訪ねてきて『トメをある人の妾にして見張の家から追い出す』言うたんじゃ。見合いという形だけ取って否応なしにトメちゃんをその男の妾にする言う話でうちは当然猛反対したよ。そげえなひどい話があってええわけない。でも麗子は『あがいな娘が見張の家に居るんは穢れじゃ思わんか、あがいなもんにはそれなりの生き方しかないんじゃ、それくらい解れ。じゃけえハンモックナンバーの下のやつはいけんのう』言うて。うちはその時分トメちゃんが海軍に居るいうんはきいとってじゃがどこに居るかを把握できんかった。尤も麗子がうちが海兵団に聞いても教えん様、裏から手ぇ回しとったと思う。

――なんでもな、その男にはちゃんと妻が居ってじゃそうな。じゃが子供が出来ん。ほいで後継ぎに困って、当時海軍の御用商人のはしくれじゃったけえその伝手で麗子と知りおうて、その話をしたそうな。そしたら麗子が『妾にして子供を産ませるにええおなごを知っとる』言うてトメちゃんの話を持って行ったんじゃ。そん男はすぐ乗り気になってのう、ぜひ欲しい言うことになっての。トメちゃんを囲って子供を産ませたら子供は自分たちが引き取って、トメちゃんにはまた次の子を産ませる・・・そげえな約束みとうなもんがあったらしいで。

そげえなひどいこと、どうして出来ようか。こん人たちは人間の皮をかぶった鬼ではないかとうちは思うたよ。うちは『そがいなこと、よう出来るのう。あんたは鬼じゃ、人間じゃないわ!』言うて怒鳴ったが麗子は『なに抜かす、この出来そこないが。うちは海軍省の人間じゃ、四の五の抜かすと貴様海軍から追い出してやる』言うて・・・うちも覚悟がなかった・・・トメちゃんを守ってやれんかった。ほいでもあとからあの話をトメちゃんと上司――あなただったんじゃね、麻生少尉――が自分たちの力でぶっ壊したいうんを伝え聞いて、うちは溜飲を下げたよ。麗子の悔しそうな顔が浮かんでね。ええ気味じゃ思うたわ。その時にトメちゃんが『大和』に乗務しとるんを知ってね、ああえらい出世じゃ、あの子が『大和』に乗っとりんさる思うたらもう嬉しゅうてねえ。

――それからもう一つ、ちいと衝撃的な話があるんじゃが・・・」

貴子少佐はそこで一旦言葉を切った。オトメチャンは「どんとな衝撃な話でもうちは今、受け止められます。話してつかあさい」と言った、その顔には覚悟がみなぎっている。麻生少尉はトヨの墓を見つめたまま。

貴子少佐は軽く咳払いをすると

「これは・・・麻生少尉にとっても衝撃じゃ思いますが・・・話します。ええですか・・・トメちゃんの戸籍は、私の母によって操作されていました。トメちゃんの生年は実際より三年、早くして届けられていました」

さすがにオトメチャンも麻生少尉も貴子少佐のほうを見た。貴子少佐は苦しげな表情で

「私もそれをしったんはつい最近のことです・・・私の方でちょっと必要があり戸籍原本を取り寄せたんですがその中のトメちゃんの戸籍が・・・本当の生まれ年より三年も早く書かれていたんです。一体どうしてこんなことができたのか私にはわかりませんが、多分トメちゃんが生まれた後いろいろあってなかなか入籍ができなかったのでしょう、そしてトヨさんの死後入籍となった時、母がああしたとしか思えません」

と言った。麻生少尉はそれを聞いて(だからか、だからオトメチャンは年よりも何か幼いような感じを受けたのだ)とやっと合点した。貴子少佐は

「ですが麻生少尉、この件は内密に。これが知れるとあるいはトメちゃんの海軍での勤務に差し支えができるかもしれません。知らぬが花、ということもありますから。心苦しいのですがどうぞこの件だけは。願います」

といい麻生少尉は立ちあがって貴子少佐にしっかり敬礼すると

「わかりました、この件は一人私の胸の中に仕舞うておきます」

と言いきった。オトメチャンはかすかにうつ向いていた、麻生少尉が「オトメチャン・・・」と心配げな声をかけると顔をあげ、笑いながら

「そうでしたか!じゃけえ松岡中尉がうちをあやしんで<特年兵>言うたんですね、うちは年よりもこまいんじゃけえ当たり前ですね。松岡中尉は人を見る目えがある言うことですね。――ほうですか、うちは年三つもサバ読まれとったんですね」

といいなんだかさっぱりしたような表情になった。そして貴子少佐に向き直ると

「貴子姉さん、ありがとう。うち、今まで心の中に黒い雲がいつもあったような気いしてましたがこれで晴れました。感謝します。これも――きっと私の母の導きだと思うてます。今日ここで姉さんに会えたいう奇跡。それにねえさんのお心うちがしっかりわかったいうことに、うちの思いも伝えられた言うこと。そしてあれこれ知ったこと、これ全て奇跡じゃ思います。うちは知ってよかった思うてますよ、姉さん。

そしてうちは貴子姉さんを本当の姉さんじゃ、思うて――ええですか?」

と言った。貴子少佐の瞳に、新たに涙が盛り上がり流れ落ちた。

「トメちゃん。そういうてくれてありがとう・・・うちもこれからもずっと、トメちゃんを本当の妹じゃ思うて生きて行くよ。ええね?」

そして姉妹は固く抱き合い麻生少尉はそっと涙をぬぐった。

 

三人はすっかり陽の登った山道を仲好く降りて行った。

町へ出る道のわかされに来た時、貴子少佐は「あ、そうじゃ」と胸ポケットから「うちの連絡先じゃ。万が一にもほかの姉妹から何かされたりしたらうちに連絡しんさい。ほいで・・・たまにはトメちゃんの近況も知らしてほしいけえ」と<新井少佐>としての住所と現在の所属先を書きつけた紙を渡してくれた。

そして貴子少佐は麻生少尉に

「妹をどうかよろしゅう願います。――あなたには姉が嫌な目にあわせてしまって申し訳ないことをしました。償いはいずれ。ともあれ今は、妹の幸せを願うばかりです・・・あなたとトメちゃん、そして『大和』の武運を心より祈っています」

というとしっかり敬礼した。

麻生少尉も直立不動の姿勢を取ると

「新井少佐、ありがとうございます!少佐のお幸せを祈ります」

と言ってオトメチャンも姉に敬礼。貴子少佐は最高に嬉しそうな笑顔を満面に浮かべると敬礼の手を下し「では」と言って歩み去って行った。

その後ろ姿をいつまでも見送る麻生少尉と、貴子少佐の妹・見張兵曹の二人に一月の呉の風は優しく吹いて行った――

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

衝撃的な告白もした姉・貴子少佐でした。

でもそれもあってこの二人の「姉妹」はわかりあえました。きっとより本物の姉妹に近付き、本物になれることでしょう。

麻生少尉もほっとしたことですが一番喜んでいるのは、泉下のトヨさんかもしれません。

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「女だらけの戦艦大和」・異母きょうだい3 - 2014.02.12 Wed

貴子少佐は話を続ける――

 

あの時柊の葉でトメちゃんをつついた時の「痛いよー、痛いよー」という泣き声は今でも私の耳の奥に残っていて時折、何かの拍子にふっとよみがえる時があります。そのたび私は深い後悔の念にさいなまれます。あの時ああいう嫌なことを思いついたのは一番上の麗子姉です。麗子はあの時分すでに軍令部にいました。と言ってもまだ若輩者で大した役職ではありませんでしたが軍令部の末端に籍を置いているということでたいへん威張っていました。あの時はたまたま休暇で帰省していた時でした。麗子は泣いて逃げるトメちゃんを何処までも追ってゆきとうとう追い詰めそこで執拗につつきました。あんなこといい年をした大人がすることでしょうか・・・

トメちゃんのほっぺが破れ血が流れだし、麗子は残忍な笑みを浮かべてそれを見てその場に居合わせた他の姉たちも先を争うようにトメちゃんをつつきました。麗子は私に柊を持たせ、「やれ」といい私が手をひっこめるとその手を強引に取って「こうやるんじゃ!」と言ってトメちゃんの頬を思い切りつつかせました。

すさまじい悲鳴があたりに響きトメちゃんは逃げ出しました。私はあわててそのあとを追って抱きかかえたのですが・・・もうトメちゃんは私を見てはくれませんでした。当たり前ですよね、無理やりさせられたとはいえ、結果的には私の手がトメちゃんのほっぺを思い切りとがった葉っぱの先で刺したのですから。トメちゃんがもう一度私を見つめてくれたのはそれからしばらくして、私が海軍兵学校受験の勉強を始めたころでした。トメちゃんはその頃、畑仕事もさせられていて小さな体に大きな鍬を持った姿が痛々しかった。私がふと机から顔をあげて外を見た時、トメちゃんもこちらを見ていました。しばらく二人の視線が合ったのですが母親の罵声が飛んでトメちゃんは逃げるように走ってゆきましたっけ。

その時私は決意しました。

兵学校を終えたらトメちゃんを連れてこの家を出ようと。そしてもしも、兵学校に受からなかったら呉の海兵団に入ろう、そしてトメちゃんをどこかに預けてでもこの家から出そう。そう思っていました。でもそんな私の思惑はとうに母はわかっていたのでしょう。トメちゃんは母の徹底した監視下に置かれることになりました。

私は何とか兵学校に合格は出来ました、がもともとあまり頭のよくない私でしたのでハンモックナンバーは下から数えた方が早いくらいでした。母はそんな私を嫌がり遠ざけました。私は家の恥だったのです――

 

そこまで話して、貴子少佐はふうっと息を吐いた。吐息が白く宙に上がって消えた。麻生分隊士は注意深くオトメチャンの表情を観察していた。オトメチャンの表情から先ほどまであった怒りの表情はほとんど消えていた。記憶を手繰る様な顔つきで視線を貴子と母の墓の両方に泳がせている。

と、オトメチャンの唇がかすかに動き

「ほうじゃ・・・うちは貴子姉さんにはようかばってもろうた」

といった。固唾をのんで見守っていた麻生少尉の顔にかすかにえみが浮かんだ。オトメチャンは貴子の顔を正面から見つめると

「うちは・・・いやなことばかりに気を取られてええことを忘れとりました。貴子姉さんはいつも陰に日向にうちをかばってくれた」

といった。言ったがオトメチャンの顔に疑問の表情も浮かんできた、それを見て取った麻生少尉はそっと「どうした、オトメチャン」と囁いた。オトメチャンは麻生少尉を見上げてそのあと貴子に視線を戻して

「ほいでもなぜ貴子姉さんが今うちのお母さんのお墓に参ったのか、うちはちいと不思議な気持ちになりまして」

といった。貴子少佐は半身を見張トヨの墓に向けしばらく見つめた後再び語りだす、

 

・・・うちは兵学校で出来が悪かったけえやっと今頃少佐になりました。麗子姉はあと数年で定年になります。その下の姉たちは第一線でガンバっとるようです。うちは姉たちに『お前は我が家の恥じゃ』ばかり言われてましたが・・・そんな私も五年ほど前結婚をしました。もう、見張ではのうて<新井>となりました。そして私も人の子の母親になりました。子供を産んでその子供が私の目の前に連れてこられた時――私はトメちゃんの生みのお母さん、トヨさんのことが頭に浮かびました。トヨさんはトメちゃんを産んでどんなにうれしかっただろう、どれほど愛おしい存在だっただろう。そして、そんなにも愛おしいトメちゃんを一人置いて死なねばならなかったトヨさんのお心うちを想った時、なんとしてもこれはトメちゃんと泉下のトヨさんに謝らねばならないと思ったのです。

私は手を尽くしてトヨさんの墓を探しました。私は駆逐艦の長をしておりますが艦の乗組員にこれこれこういう下士官を知らないか、こういう人のお墓を見たことがないかと聞いて回りました。以前にいた艦の旧知にも聞きましたし故郷の友人にも尋ねました。

訪ねあぐねた時、私の脳裏に思い浮かんだのは昔トメちゃんを優しく抱きとってくれたあの老夫婦、トヨさんの実の御両親です。私は長い航海の後、トヨさんの御両親を訪ねました。お二人はお元気で、私を見るとハッとして身を固くなさいました。私は、私の母たちがトヨさんにした仕打ちを心から謝りました。絶対許してはくれないと思いました。それでも私は謝らねばなりません。必死でした・・・必死で許しを請いました。土間に伏して泣く私に、やがてそっと「起きてつかあさい」と声がかかりお祖父さまが土間に降りてらっしゃいました。そして『あなたの気持ちはよくわかりました、娘の墓は――』と言ってここを教えて下さいました。

それからすぐにでも来たかったのですが私も水雷戦隊の中に組み込まれていたので、それから一年もたってしまいました。そして今日やっとお参りにこれました。そして・・・トメちゃんにも遭うことが出来ましたのはトヨさんのおひき合わせかと・・・。

トメちゃん、本当にごめんなさい!あなたは私を許してはくれないでしょう、それでもいいんです。ただ私の思いを知ってほしかった。私は母や、ほかの姉たちとは全く違う思いをあなたとあなたのお母さんに持っていたということを。

いまさら遅い、何を言うかというあなたの気持ちは尤もです。こんなに遅くなって取り返しも付かないようになってから許せ、というのはとても虫のいい話ですよね・・・それでも私は――あなたに謝りたかったのです。あなたのお母さんのお墓の前で――

 

そこまで一気に話すと貴子少佐はその場にうち伏して泣き始めた。貴子の軍帽が地面に落ちた。

麻生少尉は黙って少佐が泣いているのを見つめていたがやがて

「オトメチャン。お姉さんはこうおっしゃっとられるが・・・オトメチャンの気持ちはどうなんじゃね?今日はええ機会じゃけえ、はっきり言うたらええ」

と言って、地面に伏したまま泣いている貴子少佐のそばにそっと膝をつくと

「見張少佐。いや、新井少佐。オトメチャンがどがいなことをいうても、もう恨んだりせんでつかあさい。少佐のお気持ちはオトメチャンにもようわかったことと思います。そのうえで――オトメチャンが出す答えをどうか受け止めてやってつかあさい」

とそっと言った。貴子少佐はやっと顔をあげてまず麻生少尉を見た。貴子少佐は「麻生少尉・・・」と言って、麻生少尉は「麻生特務(・・)少尉、であります」とそっといった。貴子少佐は「いや、麻生少尉。私はトメちゃんがなにを言おうともう動じない。トメちゃんが私を受け入れてくれようともそうでなかろうとも私はトメちゃんの気持ちを尊重します。悪いのは一方的に私の方なのですから」と言い切った。

麻生少尉はうなずくと

「さあ見張兵曹。自分の言葉で自分の思いを少佐にお伝えしんさい。ええな」

とオトメチャンに普段の少尉よりは厳しい言い方で言った。オトメチャンは麻生少尉の瞳をしっかり見つめると、うなずいた。

そして姉である<新井少佐>に向きあうと、しばし、その瞳の奥を見つめ続けていたがやがてすうっと息を吸うと

「貴子姉さん・・・」

と話し始めた――  

     (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

オトメチャンの義姉、貴子少佐の話はオトメチャンの心にどう響いたのでしょうか。

心を開くのかそれとも閉じたまま別れてしまうのか?緊迫の次回を御期待下さい。

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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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