女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?

「女だらけの戦艦大和」・白無垢の航海長1

その日の夜から片山航海長はそわそわしていた――

 

花山掌航海長が「航海長、いよいよ明日ですねえ!」と言って、操舵員長の三田村兵曹もニヤニヤしている。三田村兵曹は

「ええですねえ、航海長。明日ご結婚なんでしょう?うらやましいですのう、私もはよう結婚したいもんですよ・・・ウフフフ!」

と言って航海長を照れさせる。掌航海長が

「ほうじゃ・・航海長の結婚式には誰誰が出席なさるんです?」

と聞くと片山航海長は右手の指の先を左手の指先でトントンと触れながら「ええと、梨賀艦長に野村副長。それに黒多砲術長に日野原軍医長。それから浜口機関長が出てくれますね。あと私の同期の連中が数名かな」と数えた。掌航海長は

「ほう、ええがいに集まりましたね。にぎやかな結婚式になりましょうな。しかし・・・ええなあ!」

とますますうらやましげである。片山航海長は

「花山さんも今年あたりいいお話があるんじゃないかなあ?それにほら、花山さんは家持ちだからね、引く手あまたかもしれないよ――ッてくれぐれもだまされないようにしないと。家やしき目当てで、って輩もいるらしいからねえ。ま、そのへんはこの艦には目利きがいるから平気だよ。迷ったら日野原軍医長にお尋ねしたらいいね、軍医長は患者を診る眼も確かなら男を見る眼も確かだからね」

と言った。花山掌航海長と三田村兵曹は顔を見合わせて

「ほう、じゃあ男選びで迷うたら日野原軍医長をおたずねしたらええんじゃね、心強いわあ」

と言って笑う。笑い収めてふと、時計を見やった三田村兵曹は

「航海長、もうお休みにならんと。明日はお早いんでしょう」

と言って航海長を見た。航海長は「おお。それでは申し訳ないが先に休ませてもらうよ、それで明日から二週間ほど休暇になるからその間よろしく」と言って、花山・三田村の二人は敬礼して

「よい休暇でありますようお祈りいたします。・・・航海長、はようお休みにならんと明日の化粧の乗りが悪うなりますよ」

と言って三人は別れた。

 

この年は最初からおめでたい話がある年で片山航海長の挙式をはじめとして、何名もの士官下士官が見合いを控えている。「見合いを勧められている」というのも入れたなら相当数に上る。梨賀艦長は

「ふーん、今年の暮れまでにこの艦は<奥様>だらけになるんじゃないかねえ。嬉しいことだけど心配もあるけどね」

と言っていた。心配とはとりもなおさず「おめでた(懐妊)」である。懐妊がわかったらとりあえず退艦であるからそのあとの補充がたいへんになる。「かといって、子供を作るななんて言えないよね」と艦長は笑ったが実は「女だらけの海軍」にとってはかなり深刻な話ではある。が、そのへんは皆上手くやっている――とだけ言っておこう。

ともあれその晩私室に帰った片山航海長は胸の高まりを抑えきれなかった。(眠れないなあ、困ったな)と思って少しいらいらしたが、考えを変えて(そうだ、読みかけの本をこの際だ。最後まで読もう)と思ってベッドの中で本を開いた。だがしかし、十五分ほどで耐えきれないほどの睡魔に襲われ、航海長は本を閉じ電気スタンドを消すと一気に眠りの中に落ちて行ったのだった。

 

翌朝、片山航海長はまだ暗いうちから目を覚ましていた。〇四〇〇(午前四時)になってそっとベッドから身を起こしてデスクの前に座り、電気スタンドを点けた。今日持って行くべきものの点検をして――と言ってももう昨日完璧を期していたのですべきこともないのだが――頬づえをついてほうっと息をついた。

今日で長年親しんだ<片山>の姓ともお別れである。少しの感傷が航海長の胸をよぎった。(誰しもそう思うのだろうか、嫁ぐ日には。片山でいられる時間もあと少し・・・)航海長の脳裏に幼いおろから今までの思い出が去来した。机の上の両親兄弟と一緒に撮影した写真の入った写真立てを手元に持ってきて眺めて

(娘時代は幸せだった。両親ときょうだいに囲まれて何不自由なく育ててもらってこうして海軍に奉職できたのは両親のおかげ。本当にありがたいことだと思っています――お父さんお母さん。これからは私が家庭を作る番です。お母さんのように出来るかどうかわからないけど、いつかお母さんは言ってくれましたよね『私の娘なんだから出来ますよ』って。海軍士官の身で何処まで家庭を上手にやりくりできるかは分からないけど、あの人と一緒に頑張ってみます)

と片山航海長は思った。そして、もう一つ裏返しにしてある写真立ても手元に引き寄せた。表に返すと夫となる男性の全身写真が入っている。海軍工廠の技術大佐である。

海軍の女将兵の夫は工廠の技官や兵学校の教官が多い。それはやはり他の職業の男性では妻の仕事を理解できにくいからであろう。航海長の夫となる人も、持ち込まれた見合い話である。結婚の気配のない娘を案じて父親が東奔西走したおかげできた見合い話、当初航海長は

「いやだ、見合いなんぞ。大体が私のような武骨な女、もらってくれるような人なんかいない。絶対しない、結婚もしない!」

と嫌がっていたが母親に「まあ会うだけ会ってみなさい。いやならことわりゃいいんだし」と押し切られ見合いの席に着いたのが前の内地帰還の時。写真で見たときとはちがって明るい男性に航海長は一瞬にして心奪われていた。男性は航海長の仕事をよく理解して航海長をねぎらった。お互い海軍同士ということで気兼ねせずに話ができたのは航海長にとってもその男性にとっても良いことだった。二人は意気投合し見合いの翌日には間に立った人を通じて

「ぜひ片山さんと結婚したい」

ということが伝えられた。航海長は喜んだが「私はなかなか内地に帰れません、それでもいいのでしょうか」と尋ねたが相手は「構いませんよ。その辺は私はよくわかっています、私はあなたが気に入りましたからぜひ一緒になりたいのです」と言ってきた。

その時はもうトレーラーへの出発が間近だったため「この次内地に帰艦したらいの一番に」と堅い約束を交わしてそして今日に至った。

(今日・・・あの人の花嫁になる)

片山航海長の胸は高鳴った――。

 

その日の〇九〇〇(午前九時)片山航海長は梨賀艦長、野村副長、森上参謀長他各科長に見送られて舷門前にいた。

航海長は

「しばらく休暇を頂戴いたします。何かとご不自由をおかけしますがどうかよろしく願います。艦長、副長・・今日はよろしく願います」

と言って敬礼。艦長は深くうなずいて

「今日はおめでとう。この通り日本晴れの良き日となりましたね。あとから我々も行きます、花嫁姿を楽しみにしています。では気をつけて、ごきげんよう」

と言って副長以下一斉に敬礼。航海長は敬礼の手を下し、一同ににっこりとほほ笑んで舷梯を降りて行った。内火艇に乗り込む航海長を皆は「帽振れ」で見送った。見送りの列にいた花山掌航海長は

「いいなあ、航海長。いいなあ、私も結婚したいなあ」

とひとりごち、隣の山口通信長が帽子を振りながら「大丈夫、あなただってきっといい御縁がありますよ。焦っちゃだめです!」と言って掌航海長を見てほほ笑んだ。

片山航海長を乗せた内火艇は、一月の凛と張った空気を切り裂いて軽快に上陸場目指して波を蹴立てて行く。

 

それから数時間後、今度は梨賀艦長、野村副長森上参謀長他が内火艇に乗り込んで上陸場目指す。

それを防空指揮所で見送る形の見張兵曹、麻生分隊士に小泉兵曹がいる。見張兵曹は「航海長、御結婚じゃそうですね。ええですねえ・・・結婚」となんだかうらやましげである。小泉兵曹でさえ指揮所の囲いに両手を掛けて内火艇を見送りながら

「ええのう、うちも式に呼ばれたかったわ。航海長がどんとな花嫁さんになるか見たかったわあ」

と言っている。麻生分隊士が「航海長に言うておいた、結婚式の写真が出来たらいの一番に航海科の連中に見せてつかあさいね、て」と言って見張兵曹が「分隊士さすがじゃ、かっこええ」と言って微笑んだ。小泉兵曹が呆れたように

「何処がかっこええんじゃ・・・」

とつぶやき麻生分隊士に「なんじゃと!」と睨まれてしまった。それでもめでたい日のこと、麻生分隊士はなんだか可笑しくなって笑いだしてしまった。

オトメチャンに小泉兵曹も笑いだし、三人の笑い声は内地の空に広がって行ったのだった――

   (次回に続きます)

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・・

片山航海長、いよいよ結婚式を迎えます。

軽いマリッジブルーのようなものもあったようですがでも心浮き立つ結婚式!次回は航海長の結婚式の模様です。

 

本文とは関係ない写真ですが・・・いただきものの「暴走」じゃない「房総サブレ」です。
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開けると――オオ!箱の中ぎっしり入っていますね~これは嬉しいぞ!!
 
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「女だらけの戦艦大和」・あなたの胸は私の船渠(ドック)2<解決編>

日野原軍医長との話し合いと副長の診察を終えて梨賀艦長は森上参謀長との話し合いの日を早く持ちたいと思っていたー―

 

その時は思っていたより早く来た。

日野原軍医長と別れてたったの一時間ののちに、第一艦橋に戻った艦長に森上参謀長は言ったのだった。いわく、「野村の奴、なにをあんなに怒ってんだ?あいつ人の顔をまともに見やしねえの。まったく何考えてんだかなあ」。

梨賀艦長はむうっと怒りが胸元から喉へと突き上げてくるのを辛くもこらえて、深呼吸をすると

「だから言ったろう、貴様がしたこと!ちょうどいい、今夜話し合おうじゃないか。覚えていないならいないでいい、副長の口から言わせる。そして今後の酒の管理の方法も話し合う!」

と怒鳴るように言った。森上参謀長はさすがに驚いて「はあ・・・そうかい。いいよ」と承諾、艦長は日野原軍医長と副長にも声をかけてその晩艦長の部屋で話し合いを持つことにした。

副長はそれを艦長から聞いて気乗りしない顔をしたが「わかりました。これで納得ゆく話し合いが出来たらいいと思いますが」と言ってファイルを抱えて下甲板へと降りて行った。

日野原軍医長は「今夜ですね、いいですよ。森上大佐のお心うちも知りたいですし酒の管理もきちんとしたいですからね。わかりました」と言って微笑む。

艦長は「お手数をおかけして申し訳ないですがよろしく願います」と言って軍医長の部屋を後にした。

 

その夜。

巡検を済ませた副長がまず一番に艦長室を訪れた。「野村です」の声に艦長はあわててドアを開けた。副長はそっと一礼して艦長に手をひかれて中に入る。

「まだ軍医長はお見えではないんですね」と副長は言って、勧められた椅子に座った。艦長はその前に置いた椅子に腰を下ろすと「ああ、軍医長は急患の診察があってね。少し遅れるそうだ。森上大佐はそろそろ来るだろうね」といい副長の顔をそっと見た。案の定副長は<森上大佐>の言葉に少し身を震わせた。が、何事もなかったように装って「そうですか」と小声で言った。

艦長従兵のオトメチャンが紅茶を運んできた。艦長は「ありがとう、日野原軍医長と森上大佐が来たらまたお願い」と受け取ってオトメチャンは静かに一礼して出て行く。

その紅茶の一つを副長に渡し、艦長は「いい香りだね」と言って微笑んだ。こわばった表情だった副長の顔が少しほころんだ。そして二人は静かに紅茶を喫した。副長が

「オトメチャンは紅茶の淹れ方が上手いですね」

といい艦長も「ああ、絶妙だ。今までのどの従兵より上手だよ。天性のものだろうか」と言ってまた紅茶をすすった。静かな時が流れた。

その静寂を破ったのはドアをノックする音と「こんばんは、日野原です」という声であった。「どうぞ」という艦長の声にドアが開き日野原軍医長が顔をのぞかせた。とその後ろから「申し訳ない、遅刻遅刻」と森上参謀長がやってきた。副長の顔が緊張感を帯びた。

二人がソファに落ち着くとオトメチャンがさらに二つの紅茶を運んでくる。それを受け取った艦長は

「今夜はもうこれで終わりだよ。当直もあろうから帰りなさい」

といいオトメチャンは「それでは本日はこれにて。お休みなさいませ」と言って皆に敬礼して出て行った。パタ、とドアが閉まりオトメチャンの足音が遠ざかってゆくのを確認して艦長は

「日野原軍医長、今日はお忙しいところ大変申し訳ないですが・・・ぜひ我々と一緒に考えていただきたいことがあります」

と話を切り出した。艦長は言葉を選びつつ先日の森上大佐の副長への暴行や、今日の暴言をやんわり非難した。そして、正体失くすまで酒を飲み副長へ暴行を加えさらにそれを酒の上のことと正当化するのはいかがなものかと問うた。さらに

「森上はそんなに副長が嫌いなのか?今まで良好な関係と思っていたのは私の勘違いだったのか?しかし同じ艦の中で暮らす者同士たとえ気が合わないとしてもうまく付き合うのが本当ではないか、大人げなさすぎる」

と問い詰めた。日野原軍医長は黙って森上大佐の横顔を見つめている。森上の表情に変化が現れたのはそれから数分後である。森上大佐はふっと息をつくと

「酒は飲んだよ。飲んだが記憶はあった。正体失くしたってのは嘘だ」

と言った。副長が驚きの目を瞠り、艦長と日野原軍医長は互いを見交わした。森上大佐は紅茶のカップを手にしてそれを見つめながら

「ちょっとした個人的な懊悩があった。苦しかったよ、それを乗り越えられないかもしれないと思った時野村の顔を見たら何の悩みもない顔をしてるのがどうしようもなく癪にさわった。あの大会の時周囲の興奮もあって野村の手を握ったらハッとしたような顔をしてこっちを一瞬見た、それを見た時こいつを思い切り困らしてやろうと思ってしまったんだ。こいつが梨賀とそういう仲ってのも知ってたし、だったらそこから突いてやろうと思ってさ・・・。

で、前にがめておいた一升瓶をあおって酔ったような風を装って野村を部屋に引き込んだんだ。野村を滅茶くちゃにしてこいつが泣きわめくのを見て自分の懊悩を解消しようとしてたんだから――馬鹿なことをしてしまったよ。悪いことをしてしまったと思いながら素直に謝ることが出来なかった自分が恥ずかしいというのか気不味くてあんなことも言ってしまった・・・・本当に悪いことをした・・・」

と告白した。副長は下を向いている。

日野原軍医長は穏やかに、

「森上大佐、あなたのその懊悩とやら、若し差し支えなければお聞かせ願えないでしょうか?」

と言った。そして「いや、個人的なことをこの場でうかがうのはどんなものかとは思いますが決して口外しませんし・・・あなたのその懊悩をこの場の皆で共有できたらもしかして軽くなりませんか?そういうものを一人で抱え込んでも何の解決にもなりませんし、御自分でもいやだと思うのですが。そして、こう言っては何ですが今回のような事案の再発を防ぐためにも良いと私は思います」

と森上大佐に諭すように言った。

森上大佐は黙ってカップを見つめている。その彼女を梨賀艦長が見つめ、副長は下を向いたままである。ややあって森上大佐はカップをテーブルの上にコトンと置いた。そして姿勢を正すと

「軍医長、私は今から独り言をいいます」

といい置いてから語り始めた――

 

私にはごく小さい時からそばにいた男性がいたんだ、幼馴染というのかな、きょうだいのように仲好く過ごしそして長じてからは自然に恋心を抱くようになった。そして「いずれ結婚をしよう」といい合うようになったんだ。そして私は海兵に入り幼馴染は大学に行き卒業後は県庁に勤めた。

私は海兵卒業後皆も知っての通りの経過を歩んできた・・・当然手紙のやり取りもあったし休暇が出れば会ったりもした。結婚の話をほんとは勧めたかったんだが向こうも勤め始めたばかりでそれどころではなかったみたいで、結婚の話は口約束のままだった。

で、長いこと時間がたって・・・内地に来る直前実は幼馴染から手紙が来たんだ。久しぶりの手紙で、私は正直「いよいよ結婚の話を」具体的にするのではないかと浮足立ってしまった。

でも封を切って中を読んでみたらごくありきたりの時候の挨拶と、職場の女性と一緒になるということが書いてあって――仕方がない私たちの結婚の約束は単なる口約束、親同士に紹介し合った仲でもない。私もきちんと結婚をしたい、という意思を明確にしておけばよかったのだが・・・

そんなことがあったので何か私は面白くなかったしつらかった。でも誰もそんな私の心の内を知らないし知らせるようなことではない。でも――やはり悔しくて悲しくて。

誰かにこの悔しい思いをぶつけたかった。誰でもいい、だが兵隊にそれをストレートにぶつけることはためらわれた。上に立つ者として自分の感情を兵隊にぶつけるのはしてはいけないと思った。だから、というわけではないが――一番手近の野村にぶつけることにしたんだ。梨賀もいないしちょうどいいと思ってしまった。と言って別に野村を嫌いとか何とかいうんじゃなくて・・・私には逆らえないだろうという確信があったからね。

あとはさっき話した通り。悪いことをしてしまった、野村中佐本当に申し訳ない。許してはもらえないと覚悟はしている。あとは野村中佐次第だ。

 

そして森上参謀長は「独り言をいいました」と言ってカップの中の紅茶をそっと飲んだ。

日野原軍医長が副長を見ると彼女はいつしか顔をあげて森上大佐を見つめていた。梨賀艦長も森上を見つめている。すると副長の唇がかすかに震えた、そして絞り出すような声で

「参謀長・・・そんな苦しみがあったならどうして言ってくれなかったんです?同じ艦で同じ釜の飯を食う間柄じゃないですか、たとえそれが個人的なことであっても相談してほしかった。私は参謀長が人知れず苦しんでいるのを助けてあげられなかったことに悔しさを感じます。

――参謀長、もうこの件水にしましょう。私は参謀長の心の内がよくわかりました。どうにもならない現実から逃避したかった、そういうことだと思います。人間そういう時もあるでしょう、ね?日野原軍医長。だからもういいんです、私もちょっと大騒ぎしすぎました。もう無しにしましょう」

と言って参謀長の手に自分の手をそっと重ねた。日野原軍医長は

「と、副長はおっしゃってますが――参謀長そして梨賀艦長はいかがですか?」

とそっと言った。森上参謀長の双の瞳に涙が盛り上がった。そしてそれは滂沱として流れ落ちた。副長の手をしっかり握ってすまんすまん、許してくれるのかと言って泣いた。副長も涙ぐみながらうなずいている。

梨賀艦長も参謀長の肩にそっと手を置くと

「よくわかったよ森上。そういえば昔、結婚を考えている人がいると言っていたね。結果は残念だったがまだ若いから先はあるよ。焦ることはない、じっくり探せよ。な!」

と言って、森上参謀長は泣きながら「子供がいる奴に言われたくなーい」と言って皆は笑った。日野原軍医長はやれやれ、と言って紅茶を飲み干したあと

「そうだ艦長。幹部連中の酒の管理に関してはどうしますか?必要なら主計長にも声をかけないとなりませんが」

と尋ねた。すると艦長は機嫌よく

「その必要はないですよ軍医長。みんな自分の酒量は自分で管理できるのですから。御心配をおかけして本当に申し訳ありませんでした」

といい、参謀長も副長も改めて軍医長に敬礼をした。軍医長は「照れるからやめて!」と言って艦長室を出て行こうとした。ドアを開けかけてフッと立ち止まった軍医長は振り向くと

「皆さんお互いの胸は憩える船渠(ドック)のようなものですね。それが一番、何より何より!」

というとドアをそっと閉めて行ったのだった。

 

「梨賀、貴様の胸は副長のものだ。私は新しい<憩える船渠>を探すよ。心配すんな、大丈夫だから」

参謀長は笑顔でそういうと、梨賀艦長と副長をくっつけるようにして「じゃ、お休み!」と部屋を出て行った。その場に残った艦長と副長、少し気恥ずかしげに立っていたが梨賀艦長が

「ツチー」

と副長をその胸に引き寄せた。副長はその胸に身を預けると

「軍医長のおっしゃる通り・・・あなたの胸は私の船渠(ドック)です・・・」

と言ってまぶたを閉じた。そのあとも長い時間二人はそのままでいたのだった――

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参謀長そんな心の葛藤があったのか・・・日野原軍医長の問いかけが功を奏したのでしょうか。でもよい方向に向かってほっとしましたね。

結婚の約束はきちんと婚約をしておかないといけませんね。口約束は危険だ!!

 

懐メロにはなりましたが今聞いてもとても「新鮮」で清純な歌で大好きです。伊藤咲子さん「乙女のワルツ」



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「女だらけの戦艦大和」・あなたの胸は私の船渠(ドック)1

副長はずたずたになった心とプライドを艦長に修復してもらった――

 

とはいえそう簡単にはいかないのが人の心である。副長は「酒の上のことだから水に流せ」とあっさり言われたことにやはり納得いかず「酒の上のことなら何をしてもいいんですか?人の心や体を踏みにじるような真似をしてもですか?そんなのおかしい、おかしいじゃないですか。それで帝国海軍軍人だなんて絶対おかしいですよ!」と艦長に訴えた。

艦長も「森上のあの言いぐさは自分勝手だ。これはきちんとしないといけないね。そして一番の問題は彼女が記憶を失いとんでもない行動に出るほどの量の酒を食らったことだ。保健衛生上の問題とも抱き合わせてこれは誰かに相談しないといけない」とうなずき

「そういったことならやはりあの人しかいないでしょう」という副長の提案で日野原軍医長に相談をすることに決まった。しかし、いきなり核心から入って行っても軍医長だって面食らうだろう。

「今回のことや・・・もしかしたら私たちの関係を日野原軍医長に話すことになるかもしれないが副長はそれでもいいかな」

梨賀艦長はそう、穏やかに尋ねた。すると副長は笑みを浮かべて

「はい、平気です。そうしなければ話が出来ないとあれば致し方ございませんね。軍医長も以前『我々医療従事者には守秘義務というものがあるから』とおっしゃってました。軍医長のことですから口外なさらないと確信しています。ですから私は平気です」

と即答した。

艦長は

「ことによったら診察もされるかもしれない。それでもいいのか」

と重ねて尋ねた。少し副長の表情が苦衷の色を帯びたが、それでも「はい、必要とあれば診察を受けます」と気丈に答えた。梨賀艦長はその答えの裏側に、どれほどの苦しみや怒りといった感情があるのだろうかと思うと副長が可哀そうで、気の毒で愛しくて仕方なくなった。副長の手をそっととり自分の手で包みながら躊躇しつつも

「で・・・最後までされたのかな。その晩」

と尋ねてみた。副長は何か重いものを飲み込むような表情をしたがまっすぐに艦長を見つめると「お話しいたします」と言ってあの日の事を話し始めた。羽根つき大会の時に興奮した参謀長が手を握ってきたこと。でもそれはびっくりはしたけど特にどうって言うことではなかった。

でも、その晩夜風に吹かれていた私を強引に部屋に引きずって行ってお前が好きだからお前を抱く、梨賀はどんなことをしてるんだ、俺はあいつとは違うことをしてやる・・・そして私を辱めました。

とても痛かった。艦長の時とは全然違って荒っぽかった。言うのも恥ずかしいことをたくさんされました、で、一体どのくらいの時間がたったのかわからないけど参謀長はいびきをかいて眠ってしまいました。私はそっと部屋を出て自分の部屋に帰りました。そしてあまりの悔しさに泣きました。

その晩はそのまま眠ってしまったのですが翌日起きて下帯を変えようとしたら・・・

 

そこで副長は言い淀んで、艦長は「したら?」と先を優しく促した。副長はうつ向いたが顔をあげると

「血が・・・付いていたんです。下帯に。そして今もちょっとですが出ています」

と言って顔をうつむけてしまった。艦長は「出血したとは、よくないな。なおさら日野原軍医長に診てもらわねば」というと急に胸が込み上げて来て副長をぎゅうっと抱きしめていた。

なぜか――艦長の心の中では副長と自分の二人の娘が重なっていたのだった。

 

翌日、午前の課業の後艦長は副長を伴って日野原軍医長の部屋を訪ねていた。日野原軍医長はいつものように温顔をほころばせつつ

「どうしました?珍しいですねえ、艦長と副長御一緒にいらっしゃるとは」

と言って二人に椅子を勧めた。そして首に掛けた聴診器をはずして机の上に置いた。机の上には医学事典が開いてありノートには何やら難しげなことが書き連ねてある。それを見て艦長は

「忙しかったんではないですか?申し訳ない」

と謝ったが軍医長は事典を閉じて「いやいや忙しくなんかないですよ。ただ、これを見ていないと落ち着かないだけです」と言って笑った。それを聞いてちょっとほっとしたような顔になった艦長は

「実は、聞いていただきたいことが」

と言って羽根つき大会の済んだ晩のことを話しだした。日野原軍医長は(ははあ、あの時参謀長に引っ張られていったそのあとそういうことがあったんか)とちょっと暗然とした思いになった。

艦長は「――ですから軍医長。今後こういうことがないように酒の管理を幹部にも徹底させたいと思います。全くお恥ずかしいことです・・・帝国海軍の参謀長ともあろうものが酒を飲み過ぎて正体失くして破廉恥なことを、副長にしでかすとは。――しかし本当に正体をなくすほど酔うなんてことがあるものでしょうか、私は今も信じられない思いです」と言ってため息をついた。

日野原軍医長はその艦長をじっと見つめてその視線を副長に移した。そしてもう一度艦長を見つめると

「参謀長は普段それほどお飲みにならないのでしょう。それが急にお飲みになったということはきっと―ー久々に内地に帰ってきたということのほかに何か、参謀長のお心の中に酒を飲みたくなるような出来事がおありだったのだと私は推察いたしますね。それがいいことかそうでないことかは私には測りかねますが。で、副長に対してはもしかしたら複雑な感情をおもちかもしれないですね。たんに好きとか嫌い、では表現できないような。

これは私の当て推量、と言ったらおかしいかな?でもほかに言い方がないからこれで失礼、当て推量だが参謀長は」

と言って一旦言葉を切った。艦長と副長が日野原軍医長の瞳を覗き込むような姿勢になった。日野原軍医長はその二人を等分に見て、ちょっとだけためらった後

「副長に嫉妬してらっしゃるような感じを受けます」

と言った。艦長はおもわず「嫉妬ー!?」と大声を出していた。副長さえぽかんとして軽く口を開けたまま。ややして副長が

「嫉妬、参謀長が私の何処に嫉妬なさるんでしょうね」

と不思議そうに言った。日野原軍医長は机の上に置いた聴診器に触れながら

「なんて言いますかね・・・そう、副長の若さ。その若さでこんな大きな艦の副長になったというあたりとか、それにあなたは人望がある。そして美しい。その辺のもろもろに参謀長は知らず嫉妬心を持っていたのかもしれませんね」

と独り言のように言った。そう、あの晩副長を引きずって行く参謀長の顔をちらと見たがまるで復讐をするかのような顔つきだったもの。

「そんな・・・」

副長は戸惑ったような声を出して顔を両手で覆ってしまった。嫉妬なんてしっとなんて、ああ私はそんな対象じゃないはず。参謀長が思うほど私は大した人間じゃない・・・

梨賀艦長がポツリと、

「これは軍医長、一度彼女にも話を聞いてみないとなりませんかね。このままじゃ副長だって心穏やかじゃない。軍医長お立会いのもとで話を聞いてみたいと思いますが、近いうち良いですか」

と言った。軍医長はうなずいて

「そうですね、参謀長の心のうちも知っておかないと公平な話は出来ませんからね。――で、副長あなたのその出血が気になるんでちょっと診察したいと思いますんでね。診察室へ願いますよ」

と言って三人は<婦人科診察室>へ。軍医長は「衛生兵はつけませんからご安心を。私がすべていたしますから」と言ってくれて副長は安心した。診察室へ入り軍医長は念の為に鍵を締めた。そして副長に下帯を取って診察台に上がるように言いその間に手早くゴム手袋をつけ器具の消毒をした。診察台に寝た副長に「では、失礼しますよ」と声をかけ器具を挿入。ちょっと苦痛の表情を浮かべ身を軽くよじった副長に「動かないで・・・大丈夫痛くしませんからね・・・もう少し」

と声をかけ軍医長は診察を続ける、その副長の手を艦長が握っている。副長の掌が汗ばんでいるのを艦長は感じて、握る力を強くした。

やがて診察を終えて身支度を整えた副長が診察室の小さな机の前の軍医長のもとへ。

軍医長は「確かにちょっと小さな傷が中に出来てましたね。でももうほとんど治っているから大丈夫ですよ。出血ももう止まるでしょう・・ただ傷ですからね、抗生物質を三日ほど飲んで置いて下さい。胸の傷の方はいい塗り薬を出しますからそれを塗っておけば大事ないですよ」と言ってほほ笑んだ。

やっと、副長の顔にもほっとした笑顔が浮かんだ。艦長もほっとした笑みを浮かべて副長の肩に手をそっと置いた。

 

副長は仕事の都合かあるからと、軍医長に礼を言って先に診察室を出て行き、艦長も軍医長に

「面倒をかけてすみませんでした・・・森上大佐との話の節はよろしく願います」

と言って軍医長の両手を握った。その梨賀艦長に日野原軍医長はそっと、

「艦長、お子様とはゆっくりお話しできましたか?と言ってもたった二日やそこらでは却って別れがつらかったでしょうね。次は長い休暇をお取り下さい、艦はしっかりしたあなたの部下がお守りいたしますから」

と囁き、艦長は思わず瞳がうるんだのだった――

   (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・・・・

日野原軍医長の推察は当たっているのでしょうか。森上大佐への聞き取りも近そうです。一体彼女の真意はどこにあるのでしょう。

そして艦長の瞳のうるんだそのわけは?

次回に続きます。

 

軍人勅諭の歌。参謀長もう一度勅諭を読みなおしましょうか・・・。



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「女だらけの戦艦大和」・夜戦!3<終夜>そして新しい夜へ

長妻兵曹はそれを特に思いつめたようでもなく、意外にあっさりと戦友の小泉兵曹に告白した――

 

「小泉、うちは親に頼んで見合いをしよう思うんじゃ」

その言葉を聞いた小泉兵曹は思わず口をポカンと開けたまま長妻兵曹の顔をしばらく見つめていた。どのくらい時間が過ぎたころか、小泉兵曹はようやく言葉を発することが出来るようになって

「ナガツマ・・・あんた正気か?見合いって、あんたもう遊ぶのやめるんか?」

とこれだけをやっとこさ、言った。長妻兵曹は露天機銃座の方へ歩いてゆき、一基の機銃座の中に入り込んだ。そして射手席に座ると小泉兵曹を見て

「ああ。もう今までみとうに男と遊ぶんは控えようかなあ思うてね。・・・なんかむなしゅうなってな。まあうちもいろいろあってじゃ。なんだかうちは・・・。じゃけえうちはそろそろ身を固めよう思うたんじゃ。いうて貴様もそうしろ言うんじゃないけえ安心せえ」

と言った。小泉兵曹は機銃の砲身を挟んだ向こう側の回旋手席に座りながら

「なんじゃ貴様、なにがあったね?」

と言って長妻の方を見た。長妻兵曹は以前は「うちはもっと遊ぶ!いろんなところの男を味わいつくすで!結婚なんぞ先の先じゃ」と言ってはばからなかったのだ。小泉兵曹は

「もしかして貴様のねえさまが結婚しんさったけえうらやましゅうなったか?」

と照準器を触りながら聞くと長妻兵曹は激しくかぶりを振った。そして「そんとなじゃのうて」と語り始める・・・

 

うちがトレーラーのあの店の男を好いとるんは貴様もしっとろう?うちはずいぶんあん人に入れあげた。あん人がしたい言うことは何でも受け入れたよ。じゃけえずいぶん恥ずかしいこともさせられた・・ほいでもうちはあん人が好きじゃったけえ一所懸命じゃった。上陸した晩はもう・・・夜戦状態じゃったな。いろいろ尽くしたよ、あん人には。

じゃがあん人もやはり「ひと」じゃったね。心変わりしよったんじゃ。まあ・・・いつかはそげえな日が来るかもしらん思うとったがね、ほいでもあがいにあからさまじゃあ・・・。

多分その心変りの相手いうんは最近トレーラーの航空隊に着任してきた飛行兵曹じゃ思う。何せ航空隊は、格好ええもんね、しかも零戦の搭乗員ときたらもう花形じゃ。たぶんアッチの方の技術も上手なんじゃろう。あん人はその飛行兵曹と一夜を共にして・・・すっかり飛行兵曹の虜になったんじゃ。なんでわかるかって、そんなんわかるにきまっとろう?そのあとうちが行っても態度が全くちごうてじゃもん。あんなにあれこれしてくれた人がなんもしてくれん。事務的に済ませてさっさと出て行ってしもうた。

その時うちは思うた。

もうこげえな男といつまでつきおうてもどうなるもんでもない、却ってうちが損するんじゃなかろうかって思うた。じゃけえ、考えをうちは艦隊進路百八十度くらい変針したんじゃ。

うちは実家に頼んで結婚相手を探してもらう。うちは決めたんじゃ。

 

そう話す長妻兵曹の瞳には決意がみなぎっていた。小泉兵曹は回旋手席から降りながら

「ようわかった。ええ相手が見つかるよう祈っとるわ。・・・しかしそうなれば『大和の突撃隊員』の新しい隊員を探さんならんね」

といい、二人は笑った。

夜風が吹き抜けた――。

 

 

――梨賀艦長帰艦の夜となった。その日の午後『大和』に帰還した梨賀艦長は迎えに出た副長の様子が少しおかしかったのに気がついていた。(何があった?あとで呼んで聞こう)

そしてその晩、艦長は副長に「巡検が済んだら艦長室へ来るように」と命じた。副長は少しためらいの表情を見せたが「わかりました。では巡検後に」と言ってから甲板士官たちと巡検に出た。

一時間半ほどで巡検終了。掌長とあいさつを交わしてあと、副長は艦長室に向かった。少し心が重いのはやはりあのことのせいだろう。あれから森上参謀長は全く何事もなかったように副長に接している。それが副長には少し解せないのだが。

ともかく、副長は一種軍装に略帽のいでたちで艦長室を訪ねた。

艦長は「ようこそ副長!」と喜んで彼女を部屋に招じ入れた。副長がその身を部屋に入れるとお決まりのように背後でカギが閉まる。

副長は正面に来た艦長に

「お帰りなさい。東京はいかがでしたか?御家族にもお会いになったのでしょう」

と言った。艦長は副長にソファに座らせ自分もその横に座り「久しぶりの東京だったがそれほど変化はなかったよ。ただちょと寒かったね。同期の兄部の家に古村や平出と泊ってね、楽しかったな。子供たちもみな元気で言うことなしだった。――ツッチー、留守をしっかり守ってくれてありがとう」というと副長を抱きしめた。そしてそのまま

「で、ツッチ。その間何か・・・あったのか?」

と尋ねた。副長の身体がこわばった。その頃には艦長の指先は副長の軍装のホックをはずし始めている。

「あの・・・艦長、あの」

とあわてる副長、その服の前をすっかり開き素肌をあらわにした艦長は、その肌をよく見つめた。胸に傷薬が縫ってあるのがわかった。艦長は副長を荒っぽくソファに押し倒し

「いったい何、この傷は」

というと副長の傷ついた乳首をギュっ、指先で強く摘まんだ。副長が「あっ…痛い」と声を上げた。その彼女を残酷な笑みを浮かべつつ見下ろす艦長は

「誰にされた?私の留守に誰かとこんな傷が出来るようなことをしたんだ?噛まれたんでしょう、ここを。どんなふうにしたのかなあ、教えてほしいなあ」

というと彼女の着ていたものをすべて強引に脱がせてしまった。そしてソファに押し付けた副長の肩をぐいぐい押しながら

「言え、いいなさい。一体だれとこんなことをしたのか。言わないとひどいよ」

と責めた。遂に副長は泣きだして

「したくてしたんじゃない!無理やりされたんです、私は嫌だと言ったのに森上大佐が無理やり!」

と叫んだ。

「森上が?」と艦長は言って立ち上がると部屋を出て行った。取り残された副長は裸のままソファの上で泣いている。やがて艦長が参謀長を伴って戻ってきた。参謀長は部屋のソファに裸の副長が泣いているのに驚いて

「どうしたツッチー。そんな恰好で」

と声をかけた。艦長は厳しい表情で「森上、貴様どうして私のツッチにあんなひどいことをした!」と詰問した。

すると参謀長は「へ?あんなひどいことって私がツッチーに何したって言うんだね」と心外な、といった表情で言った。艦長は思わず参謀長のむなぐらをつかむと

「ツッチーを乱暴したでしょうが、ツッチーのここ!見ろ、噛み傷がついてるじゃあないか。貴様がやったとツッチーは泣いた。どうしてこんなこと・・・私の留守に・・・」

と怒鳴っていた。参謀長は「ちょっと待てや」と言って艦長の手を自分の胸から外させた。そして泣いている副長をソファから引き起こしその傷を眺めた。しばらく眺めていた参謀長は

「うー。覚えてねえ」

と言って副長はびっくりした。そして涙声で「覚えてらっしゃらないと・・・?」と言った。参謀長は副長の隣にどすっと腰を下ろすと

「ああ、覚えてない。あの日は羽根つき大会が終わってから酒飲んじまったんだ。なんか気分よくってさ、飲んでたところまでは覚えてるがそのあとは全く記憶がない。気が付いたら朝になってた」

と言って「まいったな、それにしてもそんなことしちまったとは」と副長の胸をつかんでしげしげ見つめた。副長は恥ずかしげに身をそっと引きながらも

「確かに参謀長酔ってらっしゃるようでしたが・・・私のことを『好きだ』とおっしゃって」

と言った。すると参謀長は

「お前を好きだって?まさか、なんで俺がお前を好きにならなきゃいけないの?馬鹿言ってんじゃねえよ。一回くらいあったからっていい気になってんじゃねえよ馬鹿。正体なく酔った俺も悪いけど」

と吐き捨てるように言って――今度は心とプライドの傷ついた副長はさらに大泣きすることになり、艦長は「もう!森上は出てって!しばらくの間ツッチーに近寄んないで」と怒って、それでも参謀長は

「酒の上のことだから水に流せ、願いまーす」

としごくお気楽な様子で言うと部屋を出て行ったのだった。そして、副長はずたずたのプライドを艦長に丁寧に修復してもらったという――

 

そんなうえの人間たちのスッタモンダも知らない麻生分隊士と見張兵曹は今夜、当直明けに電線通路でギンバイしてきた餅をろうそくの火であぶって食べている。誰か来ないか気にしながらの行為ではあるがそれがさらにスリリングで楽しい。今夜は見張兵曹が主計科の冷蔵庫を急襲して餅を六つ、『占領』してきた。手に汗握るギンバイ行だったとオトメチャンは言った。そしてその餅を口に入れながら

「分隊士餅はおいしいですねえ」と見張兵曹が言えば「ほうじゃのう、オトメチャンがギンバイしてきてくれたけえなおさらうまいわ」と分隊士がいい二人は顔を見合わせると「エヘヘヘ」と笑いあったのだった――

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「夜戦」というには少しチンケでしたがこれはこれからのお話の導入です。これからそれぞれの「個人的な戦い」が始まります。岩井少尉、生方中尉、野田兵曹ほか、けっこう問題を抱えている乗組員多いです!

次回を御期待下さい。

 

三連装機銃(画像お借りしました)。
三連装機銃


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「女だらけの戦艦大和」・夜戦!2<第二夜>

一方的な嵐のような時間が過ぎ去って、副長はそっとその身を参謀長の寝台から起こした――

 

参謀長はすっかり酔いが回ったらしく副長の横で大きないびきをかいて眠っている。副長はそれを見ながら

(いい気なもの。人をこんな目にあわせて)

と恨めしく思った。参謀長の寝台の横にはおシャレな彼女らしく小さめの鏡が掛けられている。それをそっと覗きこんだ副長は自分の髪の乱れを直した。そして視線を下ろすと胸にはひっかき傷。そして両方の乳首には小さな噛み傷。もう一度視線をあげると、参謀長に思いっきり張られた頬は赤く腫れている。

一体なんで自分がこんな目に遭わなければならないのかまだよくわからないまま副長はそっと寝台を降りた。と、足先に何かがあたった。見れば「皇紀26××年 迎春」と書いたラベルの付いた万福の一升瓶がからになって横たわっている。これは元日の幹部連中との年始の祝賀の席で出された酒。

(自室に持って帰ってたのだな)

と副長はそれをそっと机の上に置くと裸の体を軍装で隠しながらドアをそっと開けた。廊下には誰の気配もない、よし!と副長は素早く床を蹴って小走りに自分の部屋に飛び込んだ。

自室に入ってカギをかけると――なんだか情けなさに涙があふれて来た。そのまま自分の寝台に伏せて思い切り泣いた。

 

 

つめたい風吹く機銃座の中で松本兵曹長は、岩井少尉を抱きしめて悩んでいた。が、しばらく呻吟した後兵曹長は思い切って顔をあげ

「七日言うたら・・・あまり日がありませんけえ急がんと。ほいでもその日に決着をつけるいうんはむりですけえ、少尉、その日は単なる顔合わせくらいなつもりでいてつかあさい。

・・・ほうじゃ、うちの知り合いのやっとる喫茶店がありますけえそこに奴を呼びだしてみませんか?うちは奴に顔を知られとりますけえちいと離れた席から様子を見たい思います。ですから少尉はもう一回会う日と場所――場所もうちの顔馴染の旅館がありますけえそこで。そこで決着つけましょう。ほいで、そのやり方ですが――」

と言って少尉の顔を真正面から見つめた。岩井少尉はその奇想天外とも思える作戦に驚くでもなく淡々と受け入れた。

松本兵曹長の方が心配になって「少尉、ほんまにそのやり方でええでしょうか?ええでしょうか」と何度も念を押すほどである。しかし岩井少尉は

「ええよ、松本兵曹長が考えてくれた作戦じゃ。うちは喜んでさせてもらうで。ほいであん人がもううちのちょっかいを出さんなら喜んでするで。――然し兵曹長、詰まらんことに巻きこんでほんまに申し訳ない。許してつかあさい」

と言って喜びかつ、謝った。松本兵曹長は激しく首を横に振り

「そんなことないであります少尉。うちは、うちは岩井少尉のお役にたてるんなら死んでもええんです。うちは――岩井少尉が大好きですけえ」

と言って少尉の細身の体を思いっきり、力いっぱい抱きしめた。岩井少尉は抱きしめられながら

「嬉しい・・・松本兵曹長・・・。うちもあなたがだ―い好きじゃ」

と囁き、二人の影はいつまでも離れることはなかった。

 

 

翌日、関東にいる梨賀『大和』艦長は同期の皆に別れを告げて横須賀の自宅へと向かった。久しぶりに会う家族、子供たち――その顔を思い浮かべる梨賀艦長の顔には自然と頬笑みが浮かんだ。そして野村副長の顔も思い浮かべた。

(ツッチー、結婚するんだろうか。今回の内地帰還で見合いをするという話をしていたが。相手がいいひとならいいんだが)

そんな心配をしながら汽車に揺られる艦長である。

そして汽車は横須賀につき、艦長は周囲の景色を楽しみながら家まで歩いた。懐かしい家の前の通りに出た。少し向こうに二人の女の子がまりつきをして遊んでいる。そのうちの一人が

「あ・・・」

と言って棒立ちになった。もう一人の大きいほうの女の子も立ち上がりこちらを見つめていたが

「おかあさん!」

と大きな声で叫んで、二人はこちらに走ってきた。梨賀艦長は小腰をかがめて二人を抱え込んだ。そして「ただ今。内地に帰ってきたよ」

と囁き二人の娘は「わあ、本当お母さん?」と喜んだ。その娘たちにうんうんとうなずいて「さあおうちに入ろう」と艦長は家の門をくぐる――

 

家では艦長の母親と長男が「なんだ、帰ってくるなら知らせてくれればいいのに」といいつつもこれもうれしそうである。艦長はまず洗面所で手をよく洗ってから

「うん、でもね今回は二日だけ。また長い休暇を取って帰るからその時はまた知らせるよ」

と声を張り上げた。一番末の娘が艦長の一種軍装の裾を遠慮がちに引っ張って「お母さん。また行っちゃうの?」と聞いて来る。艦長は手を拭くとその娘を抱き上げ

「うん。でも今度はね長いこと日本にいるからまた来るよ。今日はねお母さん着替えもあんまり持ってきてないから今度来るときはいっぱい持ってきて華子とたくさん遊ぼうね」

と言ったので娘は納得したようだ。

その晩は、一家水入らずで楽しい夜となった。艦長が同期の平出に「これ、御家族に」ともらった牛肉の塊が子供たちを喜ばせた。長男の正明はことし中学入学を控えているがこの大きな牛肉には目をまん丸くして

「お母さん・・・これは一体なんというものでしょうか。で・・・これをどうしたらいいのでしょうか」

と言って皆を笑わせた。艦長は長男にわざと丁寧に

「牛肉というものでございますよ。そしてこれは、こうして食べればいいのでございます」

と言ってさらに大笑いになった。長女が無言で箸を使いながら

「おいしいね、お母さん、おばあちゃん」

と言って幸せそうにほほ笑んだ。次女も笑い、その顔を見ていた艦長は急に鼻の奥がつーんとしてきて困った。

その夜も更けて梨賀艦長は風呂を使った後、子供たちの寝息を聞きながら一人居間で茶を飲んでいた。母親が湯殿で湯を使う音が聞こえてくる。(平和だな)と思った。

ふと艦長は立ち上がり軍装のポケットから手帳を引き出し、開いた。家族写真と『大和』幹部との集合写真の間に<彼女>はいて、いつものほほ笑みを浮かべてこちらを見つめている。その<彼女>に艦長は

「もうすぐ戻るからね。待っていてくれ」

と囁いてからそっと手帳を閉じた。副長に会いたい、しかしこのまま子供たちとも一緒にいたいという複雑な感情の梨賀大佐である。

「ううん・・・おかあさーん」

次女の寝言が聞こえ、艦長はそっと子供たちの眠る部屋に入り次女の横に身を横たえた――

 

 

呉在泊中の『大和』艦内。

機銃分隊の長妻兵曹と航海科の小泉兵曹が露天甲板に座って夜風に吹かれている。長妻兵曹は

「貴様の上陸予定とか休暇の予定はわかるかね?うちはまだ決まっとらんのじゃが。はよう休暇もろうてゆっくり眠りたいわ」

と言って眼がしらのあたりを指先で押さえた。小泉兵曹はそれを見て苦笑しながら

「うちもまだじゃ。休暇のきまっとる奴なんぞえらいさんくらいじゃろうな。そういやあ艦長はもう休暇らしいで。ええのう、艦長は」

と言った。長妻兵曹がいやいや違うで、と手を横に振ると

「艦長はなあ、海軍省へ行ったんじゃと。はあ難儀じゃな、艦長にもなれば海軍省やらなんやら行ってへこへこ頭も下げんならんでね。まあ、休暇だ上陸はもうちいと先でもええわ。楽しみは先の方がええもん」

と言った。小泉兵曹はふーっと息をつくと

「はあそうね。艦長いうんは意外と大変なんじゃな。うちは兵隊でえかったかもしらんね。それよりうちははようあの見世に上がって遊びたいわ。あん人を指名して、な」

と言って笑った。

「で、さあ小泉」と長妻兵曹が言った、「うちはな、――」

その言葉に小泉兵曹は衝撃を受けていた。「長妻、貴様本気で言うとってか?」――

  (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それぞれの夜が更けて居ります。

久々の子供たちとの楽しい会食を楽しんだ梨賀艦長。でも心の片隅にはしっかり副長がいるのですね。そして長妻兵曹はいったい何を言ったのでしょうか?第三夜に続きます。

 

牛肉と言えば・・・私の気に入りのレトルト食品を御紹介いたします。

長崎空港で食べられる・買える『海軍さんのビーフシチュー』です!箱には<海軍佐世保鎮守府の司令長官であった、「東郷平八郎元帥海軍大将」が英国留学中に愛した料理は「ビーフシチュー」と言われています。野菜と果実の甘みを生かしたマイルドなソースに仕立て、ここ長崎空港で懐かしい味を再現しました。>と書いてあります。

その通り普通のデミグラソースとは一味、いやふた味も違いますが重くなくとてもおいしくいただけます。これとパスタを一緒に盛ってもとてもおいしいです!
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