女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?

「女だらけの戦艦大和」・大相撲トレーラー場所5

いよいよ取り組みが始まる、というその時『大和』の野村副長が「ちょっと待って下さい・・・浜口大尉こちらに来なさい」と立ち上がった――

 

「どうしました副長?」

浜口大尉は野村副長に砲塔の陰に引っ張り込まれつつ言った。副長は息を整えると浜口大尉に

「ここで思いきり四股を踏んでみて」

と言った。浜口大尉は喜んで「よいしょー!」と思い切り片足を上げて四股を踏む。それを見ていた野村副長、「いかんいかん。もっとしっかりまわしを締めないと」とあわてると大尉の後ろに回ってまわしをしっかり締め直す。浜口大尉は

「野村副長、そんなに締めあげたら股間が痛いんですが」

という。しかし副長は

「これでいいんだ、浜口大尉。あなたねぇ、まわしが緩すぎて四股を踏むたび股の間が丸見えなんだ・・・私が恥ずかしいからちゃんとしてね」

と言ってから閉め方をもう一度確認して「これでよし」というと浜口大尉を開放し、自分も席に戻った。

さあ、いよいよ取り組みの開始である。

呼び出しが東の武蔵、西の大和のそれぞれの力士を呼び出し力士たちは土俵に上がった。塩を派手に捲く大砲さらに派手に捲く乃度風。四方に座を占める皆から大歓声が起こる。その騒ぎを聞きつけた手すきの『大和』乗組員がさらにその後ろに陣取り歓声はさらに大きくなる。松岡中尉とマツコにトメキチが大興奮して

「熱くなれよ、熱くなれ―!主砲、洟風邪!!」

と全く違う名前を叫んで土俵上の二人はちょっといやな顔をしたが、すぐ真剣な表情に返って仕切りの戦に両手をついた。行司役の『大和』の花山掌航海長が軍配を構える。

「見合って・・・はっけよい!」

の声とともに二人はがっぷり四つに組んだ。二人の身体がぶつかり合いドス!というような音を立てて、見張兵曹はそれをちょっと怖そうな表情で見つめている。その間にも花山掌航海長は組み合う力士の周囲を回りながら「はっけよい、のこったのこった!」と声をかけ、次の瞬間『大和』の乃度風大砲を寄り切って勝った。花山掌航海長の持った軍配が、乃度風に。

そのあとも大混戦で『武蔵』と『大和』の力士が交替に勝つという混戦状態。しかも力が互角と見え取り組みが長い。猪田艦長も梨賀艦長も

「ほう、これは文字通りの大相撲だね。おお、いいぞいいぞ!」

と両方の力士に惜しみない拍手を送る。そして小兵の舞野海と大柄な『武蔵』の馬面龍の取り組みは皆身を乗り出して興奮した。麻生少尉は柔道部員の席にいて、

「こりゃあいけんのう。舞野海は体がこまいけえ、不利じゃ。『武蔵』のあの力士はでかいけえ、投げられたらはあ仕舞いじゃ」

と心配げに呟いた。梨賀艦長、野村副長、森上参謀長が膝に置いたこぶしをグッと握って土俵上を凝視している。すると。

「はっ!」

見物の皆が息をのんだ。皆が見つめる土俵上、小兵の舞野海は大柄な馬面龍の両まわしを取るなり、その場をこまのようにくるくると回り始めたではないか。そしてさらに次の瞬間、舞野海はひるんだ馬面龍をはたき込んだ。

これには『武蔵』の力士からもどっと歓声が沸いた。「すごいなあ、あの小さな力士。あんな技見たことがない。この先楽しみな力士だね!!」そう言って顔を見合わせてうなずき合う。梨賀艦長は、満足そうな笑みを浮かべて傍らの副長に微笑みかけ、副長も微笑み返した。

そのあとも手に汗を握る熱戦が繰り広げられて見物の皆もさらに白熱。時折手が空いて見に来る『大和』乗組員たちも手を振り回したり声をあげて声援を送る。

日は高く昇り天幕に照りつける。

一一〇〇(午前11時)になって休憩時間を設け、梨賀艦長が皆に水を飲むよう注意をした。力士たちはみな全身に汗を流し、はあはあと息を荒くついている。松本兵曹長は出武錦の四股名を引いてそれが自分でもいたく気に入ったらしい。休憩後の二番目に『武蔵』の避雷針と取り組みが決まっている。

見張兵曹は、剣道着の袴の裾に気をつけてそっと立ちあがった。そして主計科がしつらえた「水の配給所」に行くと大きなコップに水をもらってそれを力士たちの座っている所へ持って行った。松本兵曹長は緊張のせいかかすかにうつ向いて、胡坐を組んで両方の足首をつかんでそれを見つめている。

「あの、松本兵曹長?」

見張兵曹はそっと話しかけた。松本兵曹長はハッと我に返ったように顔をあげて見張兵曹を見た。兵曹長の顔にいつもの笑みが浮かんだ。兵曹長は

「おお!オトメチャン。オトメチャンは剣道着がよう似合うのう。・・・どうね、相撲大会は?」

と言って「そこに座れ」と自分の前を指差した。オトメチャンは「はい」というと袴に気をつけてそっと座り、水の配給所からもらってきた大きなコップを松本兵曹長に差し出した。そして

「いよいよですね、松本兵曹長。頑張ってつかあさい。ほいで、これ」

と言った。松本兵曹長はちょっとびっくりしたような顔でオトメチャンを見つめた。オトメチャンはまっすぐ松本兵曹長を見つめたままでコップを差し出している。兵曹長は、

「これを・・・うちに、か?ええんか?」

と言った。オトメチャンが深くうなずき「どうぞ、飲んでつかあさい」と言う。兵曹長は座りなおし、手刀を切るとオトメチャンからコップを受け取った。そしてごくごくと水を飲んだ。その様子を嬉しげに見つめるオトメチャン。兵曹長は飲み終えて口元を右手の甲でグイッと拭いて、

「ああ、美味かったで。オトメチャン、ありがとうな。よし!うちは頑張るで。オトメチャンに力水をもろうたけえ、勝てる!見とってくれよ」

と力強く言い、オトメチャンはもう一度「頑張ってつかあさい」というと立ち上がり敬礼すると自分の席に戻って行った。その後ろ姿を見送りながら松本兵曹長は(トメはかわゆいのう。それにいつもああして人を気にかけることを忘れんのだから大したおなごじゃな。麻生少尉はそのへんに目えつけたんじゃろうか)と思っている。

そして、休憩時間が終わり取り組再開。倉庫暗(そうこくらい)日野嵐(ひのあらし)の取り組みは五分を越える大相撲となったが突き倒しで日野嵐辛くも勝った。双方から惜しみない拍手が送られ、負けてしまった倉庫暗には『武蔵』猪田艦長から

「良い取り組みでしたよ。惜しいところでした」

と称賛の言葉が贈られた。恐縮して下がる倉庫暗

そしていよいよ松本兵曹長・出武錦の出番である。相手の避雷針はかなりの大柄で、(これはちいときつかもしらんのう)と少し弱気が出て来た兵曹長であったが『武蔵』からかけられた声に大奮起することになった。その声とは――

「頑張れ避雷針。兵学校出の意地を見せてやれー!」

松本兵曹長の全身に<やる気>がモリモリ湧いてきた。(兵学校出じゃと?そんなもんに負けてたまるか!)闘志をその瞳にめらめらと燃やして相手と見合った。避雷針こと稲妻ひかる少尉は松本兵曹長を半ば馬鹿にしたように鼻で嗤って、

「ふん。たたき上げの準士官ずれが俺にかなうと思ってんのかよ。胸を貸してやるから、おい、どっからでもかかってこい」

と吐き捨てるように言った。行司役の花山掌航海長が軍配を構えて

「おい、余計なおしゃべりはやめんか」

と注意した。「申し訳ございません」と避雷針は謝り、力士ふたりは仕切り線に手をついた。

「はっけよい!」

出武錦 避雷針の大きな体がぶつかり合った。大きな松本兵曹長、それよりも大きな稲妻少尉こと避雷針はぐいぐいと力で松本兵曹長を攻める。松本兵曹長は少しづつおされぎみになってきた。(うう、いけん。これでは負けてしまう)兵曹長は歯を食いしばって相手の猛攻に耐える。その耳元で、避雷針が「もう駄目だろう、そんなに踏ん張るなよ。貴様は俺には勝てないんだよ。俺は貴様らより出来がいいんだよ。兵学校を出てるんだからな・・・」と囁いた。

「俺だって」

松本兵曹長は踏ん張りつつ言った。避雷針が、何?というように少し身体を傾けた。その時、見物席から「松本兵曹長、頑張ってつかあさーい」

と見張兵曹の良く通る声が兵曹長の耳に入った。次いで梨賀艦長、野村副長、森上参謀長の「いけえ兵曹長、負けるなよー」という大声。兵曹長の脳裏に子供時代に家族から受けた屈辱がよみがえってきた。姉の言った、「あんたはうちより出来が悪いけえ、お母さんが嘆いとりんさった。あんたは松本んがたの子供と違うわ、うちんがたにはあほなガキは要らんておじさんたちも言うとったで」という一番屈辱的な言葉がよみがえった。

(くそったれ!)

兵曹長の、相手のまわしを取った手に力が入った。見張兵曹の、「松本兵曹長、もうちいとじゃ。頑張ってつかあさい!」という声がもう一度、兵曹長の耳に届き・・・

「うちだって、やればできるんじゃああ!!」

と雄たけびとともに、避雷針は大きくその体を翻し――土俵の上に叩きつけられていた。

とたんに満場の大喝さい。花山掌航海長の軍配が、松本兵曹長をさした。

出武錦―!

松本兵曹長は勝ち名乗りを受け艦長たちの席に一礼した。そして見張兵曹を見つめ(やったで!)というように片眼をつぶって見せた。見張兵曹もうれしそうに(えかったですね。やっぱり兵曹長じゃ、かっこええ)と手を振った。

松本兵曹長は意気揚々と元の席に戻った。

そして負けた避雷針こと稲妻少尉は、ほかの少尉連中から「あんな負け方しやがって。なんで『大和』の力士をよく調べて置かないんだよ。兵学校出の恥さらし!」と罵られ、こそこそと皆の後ろへと逃げるように入ってしまった。

 

そして。

いよいよ最後の大一番、横綱対決が始まろうとしていた。

東『武蔵』の横綱・高見中尉薄毛山 対 西『大和』の横綱・浜口大尉芽多保山 の対決である。

呼び出しの声に合わせて、両横綱が土俵にその身を現した――

   (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・

松本兵曹長、あっぱれです。経歴を鼻に掛けるような人と同じ土俵に降りては詰まらんぞ~。

そしてそして、大注目の横綱対決の時が来ました。こうご期待です^^。



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「女だらけの戦艦大和」・大相撲トレーラー場所5

いよいよ取り組みが始まる、というその時『大和』の野村副長が「ちょっと待って下さい・・・浜口大尉こちらに来なさい」と立ち上がった――

 

「どうしました副長?」

浜口大尉は野村副長に砲塔の陰に引っ張り込まれつつ言った。副長は息を整えると浜口大尉に

「ここで思いきり四股を踏んでみて」

と言った。浜口大尉は喜んで「よいしょー!」と思い切り片足を上げて四股を踏む。それを見ていた野村副長、「いかんいかん。もっとしっかりまわしを締めないと」とあわてると大尉の後ろに回ってまわしをしっかり締め直す。浜口大尉は

「野村副長、そんなに締めあげたら股間が痛いんですが」

という。しかし副長は

「これでいいんだ、浜口大尉。あなたねぇ、まわしが緩すぎて四股を踏むたび股の間が丸見えなんだ・・・私が恥ずかしいからちゃんとしてね」

と言ってから閉め方をもう一度確認して「これでよし」というと浜口大尉を開放し、自分も席に戻った。

さあ、いよいよ取り組みの開始である。

呼び出しが東の武蔵、西の大和のそれぞれの力士を呼び出し力士たちは土俵に上がった。塩を派手に捲く大砲さらに派手に捲く乃度風。四方に座を占める皆から大歓声が起こる。その騒ぎを聞きつけた手すきの『大和』乗組員がさらにその後ろに陣取り歓声はさらに大きくなる。松岡中尉とマツコにトメキチが大興奮して

「熱くなれよ、熱くなれ―!主砲、洟風邪!!」

と全く違う名前を叫んで土俵上の二人はちょっといやな顔をしたが、すぐ真剣な表情に返って仕切りの戦に両手をついた。行司役の『大和』の花山掌航海長が軍配を構える。

「見合って・・・はっけよい!」

の声とともに二人はがっぷり四つに組んだ。二人の身体がぶつかり合いドス!というような音を立てて、見張兵曹はそれをちょっと怖そうな表情で見つめている。その間にも花山掌航海長は組み合う力士の周囲を回りながら「はっけよい、のこったのこった!」と声をかけ、次の瞬間『大和』の乃度風大砲を寄り切って勝った。花山掌航海長の持った軍配が、乃度風に。

そのあとも大混戦で『武蔵』と『大和』の力士が交替に勝つという混戦状態。しかも力が互角と見え取り組みが長い。猪田艦長も梨賀艦長も

「ほう、これは文字通りの大相撲だね。おお、いいぞいいぞ!」

と両方の力士に惜しみない拍手を送る。そして小兵の舞野海と大柄な『武蔵』の馬面龍の取り組みは皆身を乗り出して興奮した。麻生少尉は柔道部員の席にいて、

「こりゃあいけんのう。舞野海は体がこまいけえ、不利じゃ。『武蔵』のあの力士はでかいけえ、投げられたらはあ仕舞いじゃ」

と心配げに呟いた。梨賀艦長、野村副長、森上参謀長が膝に置いたこぶしをグッと握って土俵上を凝視している。すると。

「はっ!」

見物の皆が息をのんだ。皆が見つめる土俵上、小兵の舞野海は大柄な馬面龍の両まわしを取るなり、その場をこまのようにくるくると回り始めたではないか。そしてさらに次の瞬間、舞野海はひるんだ馬面龍をはたき込んだ。

これには『武蔵』の力士からもどっと歓声が沸いた。「すごいなあ、あの小さな力士。あんな技見たことがない。この先楽しみな力士だね!!」そう言って顔を見合わせてうなずき合う。梨賀艦長は、満足そうな笑みを浮かべて傍らの副長に微笑みかけ、副長も微笑み返した。

そのあとも手に汗を握る熱戦が繰り広げられて見物の皆もさらに白熱。時折手が空いて見に来る『大和』乗組員たちも手を振り回したり声をあげて声援を送る。

日は高く昇り天幕に照りつける。

一一〇〇(午前11時)になって休憩時間を設け、梨賀艦長が皆に水を飲むよう注意をした。力士たちはみな全身に汗を流し、はあはあと息を荒くついている。松本兵曹長は出武錦の四股名を引いてそれが自分でもいたく気に入ったらしい。休憩後の二番目に『武蔵』の避雷針と取り組みが決まっている。

見張兵曹は、剣道着の袴の裾に気をつけてそっと立ちあがった。そして主計科がしつらえた「水の配給所」に行くと大きなコップに水をもらってそれを力士たちの座っている所へ持って行った。松本兵曹長は緊張のせいかかすかにうつ向いて、胡坐を組んで両方の足首をつかんでそれを見つめている。

「あの、松本兵曹長?」

見張兵曹はそっと話しかけた。松本兵曹長はハッと我に返ったように顔をあげて見張兵曹を見た。兵曹長の顔にいつもの笑みが浮かんだ。兵曹長は

「おお!オトメチャン。オトメチャンは剣道着がよう似合うのう。・・・どうね、相撲大会は?」

と言って「そこに座れ」と自分の前を指差した。オトメチャンは「はい」というと袴に気をつけてそっと座り、水の配給所からもらってきた大きなコップを松本兵曹長に差し出した。そして

「いよいよですね、松本兵曹長。頑張ってつかあさい。ほいで、これ」

と言った。松本兵曹長はちょっとびっくりしたような顔でオトメチャンを見つめた。オトメチャンはまっすぐ松本兵曹長を見つめたままでコップを差し出している。兵曹長は、

「これを・・・うちに、か?ええんか?」

と言った。オトメチャンが深くうなずき「どうぞ、飲んでつかあさい」と言う。兵曹長は座りなおし、手刀を切るとオトメチャンからコップを受け取った。そしてごくごくと水を飲んだ。その様子を嬉しげに見つめるオトメチャン。兵曹長は飲み終えて口元を右手の甲でグイッと拭いて、

「ああ、美味かったで。オトメチャン、ありがとうな。よし!うちは頑張るで。オトメチャンに力水をもろうたけえ、勝てる!見とってくれよ」

と力強く言い、オトメチャンはもう一度「頑張ってつかあさい」というと立ち上がり敬礼すると自分の席に戻って行った。その後ろ姿を見送りながら松本兵曹長は(トメはかわゆいのう。それにいつもああして人を気にかけることを忘れんのだから大したおなごじゃな。麻生少尉はそのへんに目えつけたんじゃろうか)と思っている。

そして、休憩時間が終わり取り組再開。倉庫暗(そうこくらい)日野嵐(ひのあらし)の取り組みは五分を越える大相撲となったが突き倒しで日野嵐辛くも勝った。双方から惜しみない拍手が送られ、負けてしまった倉庫暗には『武蔵』猪田艦長から

「良い取り組みでしたよ。惜しいところでした」

と称賛の言葉が贈られた。恐縮して下がる倉庫暗

そしていよいよ松本兵曹長・出武錦の出番である。相手の避雷針はかなりの大柄で、(これはちいときつかもしらんのう)と少し弱気が出て来た兵曹長であったが『武蔵』からかけられた声に大奮起することになった。その声とは――

「頑張れ避雷針。兵学校出の意地を見せてやれー!」

松本兵曹長の全身に<やる気>がモリモリ湧いてきた。(兵学校出じゃと?そんなもんに負けてたまるか!)闘志をその瞳にめらめらと燃やして相手と見合った。避雷針こと稲妻ひかる少尉は松本兵曹長を半ば馬鹿にしたように鼻で嗤って、

「ふん。たたき上げの準士官ずれが俺にかなうと思ってんのかよ。胸を貸してやるから、おい、どっからでもかかってこい」

と吐き捨てるように言った。行司役の花山掌航海長が軍配を構えて

「おい、余計なおしゃべりはやめんか」

と注意した。「申し訳ございません」と避雷針は謝り、力士ふたりは仕切り線に手をついた。

「はっけよい!」

出武錦 避雷針の大きな体がぶつかり合った。大きな松本兵曹長、それよりも大きな稲妻少尉こと避雷針はぐいぐいと力で松本兵曹長を攻める。松本兵曹長は少しづつおされぎみになってきた。(うう、いけん。これでは負けてしまう)兵曹長は歯を食いしばって相手の猛攻に耐える。その耳元で、避雷針が「もう駄目だろう、そんなに踏ん張るなよ。貴様は俺には勝てないんだよ。俺は貴様らより出来がいいんだよ。兵学校を出てるんだからな・・・」と囁いた。

「俺だって」

松本兵曹長は踏ん張りつつ言った。避雷針が、何?というように少し身体を傾けた。その時、見物席から「松本兵曹長、頑張ってつかあさーい」

と見張兵曹の良く通る声が兵曹長の耳に入った。次いで梨賀艦長、野村副長、森上参謀長の「いけえ兵曹長、負けるなよー」という大声。兵曹長の脳裏に子供時代に家族から受けた屈辱がよみがえってきた。姉の言った、「あんたはうちより出来が悪いけえ、お母さんが嘆いとりんさった。あんたは松本んがたの子供と違うわ、うちんがたにはあほなガキは要らんておじさんたちも言うとったで」という一番屈辱的な言葉がよみがえった。

(くそったれ!)

兵曹長の、相手のまわしを取った手に力が入った。見張兵曹の、「松本兵曹長、もうちいとじゃ。頑張ってつかあさい!」という声がもう一度、兵曹長の耳に届き・・・

「うちだって、やればできるんじゃああ!!」

と雄たけびとともに、避雷針は大きくその体を翻し――土俵の上に叩きつけられていた。

とたんに満場の大喝さい。花山掌航海長の軍配が、松本兵曹長をさした。

出武錦―!

松本兵曹長は勝ち名乗りを受け艦長たちの席に一礼した。そして見張兵曹を見つめ(やったで!)というように片眼をつぶって見せた。見張兵曹もうれしそうに(えかったですね。やっぱり兵曹長じゃ、かっこええ)と手を振った。

松本兵曹長は意気揚々と元の席に戻った。

そして負けた避雷針こと稲妻少尉は、ほかの少尉連中から「あんな負け方しやがって。なんで『大和』の力士をよく調べて置かないんだよ。兵学校出の恥さらし!」と罵られ、こそこそと皆の後ろへと逃げるように入ってしまった。

 

そして。

いよいよ最後の大一番、横綱対決が始まろうとしていた。

東『武蔵』の横綱・高見中尉薄毛山 対 西『大和』の横綱・浜口大尉芽多保山 の対決である。

呼び出しの声に合わせて、両横綱が土俵にその身を現した――

   (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・

松本兵曹長、あっぱれです。経歴を鼻に掛けるような人と同じ土俵に降りては詰まらんぞ~。

そしてそして、大注目の横綱対決の時が来ました。こうご期待です^^。



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「女だらけの戦艦大和」・大相撲トレーラー場所4

『大和』『武蔵』両艦の相撲部による「大相撲トレーラー場所」がその日、いよいよ開催された――

 

『武蔵』から猪田艦長・加東副長が招待を受け内火艇を使って『大和』にやってきた。相撲部の面々はそれより前に『大和』に来て、力士控室に当てられた第一主砲塔左舷側の天幕下で浜口大尉たち『大和』相撲部のメンバーとあいさつを交わした。

浜口大尉は女とも思えない大きな手で、『武蔵』相撲部主将(横綱)・高見やまゑ中尉と「今日はよろしくね」と握手を交わした。そのあと、浜口大尉が松本兵曹長に目配せをすると兵曹長が進み出て

「我々は皆四股名を持っております。そこで我々だけが・・・というのもなんですので是非『武蔵』の皆さまにも四股名を差し上げたいのですが、いかがでしょうか」

と言った。すると高見中尉以下の相撲部員は大層喜んで、

「そんなにしていただけるなんて!有難いことです、いやあ、我々そこまで気がつきませんでしたが・・・さすが『大和』相撲部の皆さん。目の付け所が違いますね~」

と騒いだ。それを「まあまあ」と押さえた浜口大尉は小さな箱を松本兵曹長に持ってこさせた。その中に、四股名の入った紙が入っていて例のくじ引き方式で『武蔵』相撲部員にも四股名をつけるつもりである。それを聞いて『武蔵』相撲部の面々は「なんと!行き届いた御配慮を。そうですよね籤なら一番公平ですよね」と喜び勇んで順番に箱に手を入れて籤を引く。

そして皆、そっと引いた籤を開く・・

と皆の顔が微妙なゆがみを見せた。浜口大尉は「どうです?これこそ松本兵曹長による素晴らしい四股名の数々です・・・お気に召していただけたでしょう?」と満面の笑顔で言う。

「はあ・・・まあ・・・。いや、まったくそのとおりです。ありがとうございます」

高見中尉が皆を代表して感謝の意を示した。浜口大尉は「では後ほど。取り組みまでごゆるりと」というと松本兵曹長と一緒に力士控室を出た。

「高見中尉・・・中尉はどんな四股名でありますか?」

浜口大尉たちが出て行ったあと、『武蔵』の鎌田上等兵曹がそっと囁いた。中尉は

「私かね、私はこれなんだけど・・・」

とはっきり困惑の表情を浮かべて自分が引いた紙を皆の前に差し出した。そこには

薄毛山(うすげやま)

と書いてあった。それを見た他の相撲部員たちは思わず吹き出してしまっていた、恨めしげな目つきで一同を眺めまわした高見中尉に、一人の部員が

「我々も似たり寄ったりです。見て下さい中尉」

というと皆が手にした紙を開いて差し出した。

そこには――

武蔵(たけぞう)

出目金(でめきん)

空梅雨(からつゆ)

日照山(ひでりやま)

出歯乃海(ではのうみ)

除虫菊(じょちゅうぎく)

帰省里(きせいのさと)

波下錦(はげにしき)

束子丸(たわしまる)

馬面龍(うまづらりゅう)

日野嵐(ひのあらし)

避雷針(ひらいしん)

大砲(たいほう)

の四股名が・・・。

「なんだあ、皆同じようなものだね。て事はだ、『大和』相撲部も同じような四股名なんだね。じゃあ、言いとするか。あっはは」

高見中尉はそういうと愉快そうに笑ったのだった。

 

そしていよいよ取り組みが始まろうとしていた。

前甲板にしつらえられた大きな天幕の下に工作科苦心の土俵が鎮座し、その正面に『大和』『武蔵』両艦の艦長、副長が座る。皆防暑服に身を包み、手にしたタオルで額の汗を拭っている。『大和』副長の隣には、森上参謀長がいて精巧な土俵の出来に「これは素晴らしい、いいねえさすがわが大和の精鋭が作っただけあるね」と感心しきりである。

そして正面から右左、そして向こう正面には出場しない相撲部員たちのほか柔道・剣道・体操の主将クラスたち、そして各科の科長、分隊長、分隊士たちが取り組みを今か今かと待っている。そしてなぜか、剣道部員の末席には見張兵曹が剣道着をつけてちょこんと座っている。士官たちに挟まれてどこか居心地悪げなのが士官たちにはかわいく映る。これは梨賀艦長から見張兵曹にじかにお願いされたもので、

「見張兵曹お願い、忙しいし面倒だろうが剣道部員の席に座ってほしいの。そう、剣道着を着てね。だって、華が欲しいじゃない。汗臭い女どもばかりじゃあ嫌になるもんねえ」

と言われ不承不承承知したのだったが。それを聞いた麻生分隊士は「いったい何ね、あの艦長!オトメチャンをなんじゃとおもうとりんさるんかね??オトメチャンは花瓶の花かね?」と怒ったが、よく考えれば自分も柔道部員の席に一座を占めるのだから(まあ、ええか)と思い直したといういきさつがある。

ともあれ。

東西両力士の土俵入りが始まった。まずは東(武蔵)の力士が土俵に上がるのだが彼女たちはもう、素晴らしい土俵に度肝を抜かれている。彼女たちはまわしのみで呼び出しの声に合わせて土俵に上がる。猪田艦長と加東副長が

「格好いいですよ、しっかりね」

と声をかけ、それに敬礼して応える武蔵の相撲部員たち。それを見ていた体操の森末特務中尉が「ほう、『武蔵』の人たちは行儀がええね。それに話す言葉もなんや、ラジオの人みとうじゃ。なんかそれだけでも緊張するわ」と言って、周囲の士官たちが笑う。

そして西(大和)力士土俵入りだがこれには居並んだすべての――『武蔵』も『大和』も――、いや、相撲部員以外の皆が仰天した。

『大和』の力士たちはみな化粧まわしをつけてしかもその化粧まわしの絵は、力士すべてが横一線に並べば『大和』の艦首から艦尾までが再現される素晴らしいものであったからだ。

先ほどからカメラを抱えて撮影に忙しい『大和』の林家へゑ飛行兵曹、『武蔵』の篠山きし少尉さえ一瞬シャッターを押すのを忘れて見入ってしまったくらい、その化粧まわしは絢爛豪華である。

猪田艦長が、化粧まわしから目を離さぬままそれでも驚きを隠せない様子で、

「副長。『大和』の皆さんは意外と本気でかかってくるような気がしてなりませんが・・・副長はどう思う?」

と囁いた。加東副長は驚きを顔いっぱいに表して

「猪田艦長、私もそう思います。しかも見て下さい、あの大きな力士たち。我々の相撲部員たちより一回り以上大きいじゃないですか?いやあ、親善試合とは言いながら『大和』の皆さん力が入っていますねえ」

と答える。

その頃になるとさすがの『武蔵』相撲部員たちもこの取り組みがただの「親善試合」ではないのに気がつき始めた。薄毛山こと高見中尉はそっと傍らの「出目金」兵曹を呼んで

「大和の相撲部から来たという招待状、持っているかね?」

と聞き、出目金が「これです」と差し出したあの、招待状をよく読めば・・・

「なんだこれは、宣戦布告ではないの?誰だ一体親善試合だなんて言ったの!?」

高見中尉は我を忘れて叫んでいた。確かにその文言は御招待します、という生易しいものではなくどう読んでも挑む気満々の文章ではないか。

馬面龍の四股名の上等兵曹が「それを最初に読まれたのは猪田艦長です。猪田艦長から『親善試合をしようと言ってきている』と聞きましたが?」と言って、高見中尉は頭をかきむしると

「ああもう!猪田艦長は何事も良くとらえてしまわれるからなあ。この手紙も良い方に捉えられたのだろうが、これは絶対全く当然果たし状ではないか・・・ああ~そうと早く知ってたら」

と言ってうなった。が、不屈の『武蔵』魂がここで燃え上がりだした高見中尉、キッと顔をあげると力士たちに

「いいか、こうなった以上負けられない。あんなこけおどしの連中に負けたら『武蔵』の名がすたる。いつもいつも『大和』の陰に隠れている我々が表舞台に出るいい機会だ。絶対負けるんじゃない。『武蔵』の名において連中を撃沈してやろう!」

と檄を飛ばした。

『武蔵』力士もその瞳を輝かせて、「おうー!」と片手を天に突き上げる。

 

それを見ていた浜口大尉以下『大和』の力士たちも

「おお、やっとやる気を出してくれんさったね。ほいじゃあ、うちらも目いっぱいやらせてもらうけえね」

とやる気満々、フルパワー、出力全開になったのだった。

そして、観覧席ではラケットを振り振り「熱くなれよー」と叫ぶ松岡中尉とマツコ、トメキチの姿が・・・。

    (次回に続きます)

 

        ・・・・・・・・・・・・・・

まずい、『武蔵』の力士たちが単なる親善試合ではない事に気がついてしまいました。

さあ、両艦の激突相撲はいったいどうなるのでしょうか。次回をお楽しみに^^。

 

昨日(727日)午後の北の空です。この数時間後大変な大雨になりました(-_-;)・・・
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「女だらけの戦艦大和」・大相撲トレーラー場所4

『大和』『武蔵』両艦の相撲部による「大相撲トレーラー場所」がその日、いよいよ開催された――

 

『武蔵』から猪田艦長・加東副長が招待を受け内火艇を使って『大和』にやってきた。相撲部の面々はそれより前に『大和』に来て、力士控室に当てられた第一主砲塔左舷側の天幕下で浜口大尉たち『大和』相撲部のメンバーとあいさつを交わした。

浜口大尉は女とも思えない大きな手で、『武蔵』相撲部主将(横綱)・高見やまゑ中尉と「今日はよろしくね」と握手を交わした。そのあと、浜口大尉が松本兵曹長に目配せをすると兵曹長が進み出て

「我々は皆四股名を持っております。そこで我々だけが・・・というのもなんですので是非『武蔵』の皆さまにも四股名を差し上げたいのですが、いかがでしょうか」

と言った。すると高見中尉以下の相撲部員は大層喜んで、

「そんなにしていただけるなんて!有難いことです、いやあ、我々そこまで気がつきませんでしたが・・・さすが『大和』相撲部の皆さん。目の付け所が違いますね~」

と騒いだ。それを「まあまあ」と押さえた浜口大尉は小さな箱を松本兵曹長に持ってこさせた。その中に、四股名の入った紙が入っていて例のくじ引き方式で『武蔵』相撲部員にも四股名をつけるつもりである。それを聞いて『武蔵』相撲部の面々は「なんと!行き届いた御配慮を。そうですよね籤なら一番公平ですよね」と喜び勇んで順番に箱に手を入れて籤を引く。

そして皆、そっと引いた籤を開く・・

と皆の顔が微妙なゆがみを見せた。浜口大尉は「どうです?これこそ松本兵曹長による素晴らしい四股名の数々です・・・お気に召していただけたでしょう?」と満面の笑顔で言う。

「はあ・・・まあ・・・。いや、まったくそのとおりです。ありがとうございます」

高見中尉が皆を代表して感謝の意を示した。浜口大尉は「では後ほど。取り組みまでごゆるりと」というと松本兵曹長と一緒に力士控室を出た。

「高見中尉・・・中尉はどんな四股名でありますか?」

浜口大尉たちが出て行ったあと、『武蔵』の鎌田上等兵曹がそっと囁いた。中尉は

「私かね、私はこれなんだけど・・・」

とはっきり困惑の表情を浮かべて自分が引いた紙を皆の前に差し出した。そこには

薄毛山(うすげやま)

と書いてあった。それを見た他の相撲部員たちは思わず吹き出してしまっていた、恨めしげな目つきで一同を眺めまわした高見中尉に、一人の部員が

「我々も似たり寄ったりです。見て下さい中尉」

というと皆が手にした紙を開いて差し出した。

そこには――

武蔵(たけぞう)

出目金(でめきん)

空梅雨(からつゆ)

日照山(ひでりやま)

出歯乃海(ではのうみ)

除虫菊(じょちゅうぎく)

帰省里(きせいのさと)

波下錦(はげにしき)

束子丸(たわしまる)

馬面龍(うまづらりゅう)

日野嵐(ひのあらし)

避雷針(ひらいしん)

大砲(たいほう)

の四股名が・・・。

「なんだあ、皆同じようなものだね。て事はだ、『大和』相撲部も同じような四股名なんだね。じゃあ、言いとするか。あっはは」

高見中尉はそういうと愉快そうに笑ったのだった。

 

そしていよいよ取り組みが始まろうとしていた。

前甲板にしつらえられた大きな天幕の下に工作科苦心の土俵が鎮座し、その正面に『大和』『武蔵』両艦の艦長、副長が座る。皆防暑服に身を包み、手にしたタオルで額の汗を拭っている。『大和』副長の隣には、森上参謀長がいて精巧な土俵の出来に「これは素晴らしい、いいねえさすがわが大和の精鋭が作っただけあるね」と感心しきりである。

そして正面から右左、そして向こう正面には出場しない相撲部員たちのほか柔道・剣道・体操の主将クラスたち、そして各科の科長、分隊長、分隊士たちが取り組みを今か今かと待っている。そしてなぜか、剣道部員の末席には見張兵曹が剣道着をつけてちょこんと座っている。士官たちに挟まれてどこか居心地悪げなのが士官たちにはかわいく映る。これは梨賀艦長から見張兵曹にじかにお願いされたもので、

「見張兵曹お願い、忙しいし面倒だろうが剣道部員の席に座ってほしいの。そう、剣道着を着てね。だって、華が欲しいじゃない。汗臭い女どもばかりじゃあ嫌になるもんねえ」

と言われ不承不承承知したのだったが。それを聞いた麻生分隊士は「いったい何ね、あの艦長!オトメチャンをなんじゃとおもうとりんさるんかね??オトメチャンは花瓶の花かね?」と怒ったが、よく考えれば自分も柔道部員の席に一座を占めるのだから(まあ、ええか)と思い直したといういきさつがある。

ともあれ。

東西両力士の土俵入りが始まった。まずは東(武蔵)の力士が土俵に上がるのだが彼女たちはもう、素晴らしい土俵に度肝を抜かれている。彼女たちはまわしのみで呼び出しの声に合わせて土俵に上がる。猪田艦長と加東副長が

「格好いいですよ、しっかりね」

と声をかけ、それに敬礼して応える武蔵の相撲部員たち。それを見ていた体操の森末特務中尉が「ほう、『武蔵』の人たちは行儀がええね。それに話す言葉もなんや、ラジオの人みとうじゃ。なんかそれだけでも緊張するわ」と言って、周囲の士官たちが笑う。

そして西(大和)力士土俵入りだがこれには居並んだすべての――『武蔵』も『大和』も――、いや、相撲部員以外の皆が仰天した。

『大和』の力士たちはみな化粧まわしをつけてしかもその化粧まわしの絵は、力士すべてが横一線に並べば『大和』の艦首から艦尾までが再現される素晴らしいものであったからだ。

先ほどからカメラを抱えて撮影に忙しい『大和』の林家へゑ飛行兵曹、『武蔵』の篠山きし少尉さえ一瞬シャッターを押すのを忘れて見入ってしまったくらい、その化粧まわしは絢爛豪華である。

猪田艦長が、化粧まわしから目を離さぬままそれでも驚きを隠せない様子で、

「副長。『大和』の皆さんは意外と本気でかかってくるような気がしてなりませんが・・・副長はどう思う?」

と囁いた。加東副長は驚きを顔いっぱいに表して

「猪田艦長、私もそう思います。しかも見て下さい、あの大きな力士たち。我々の相撲部員たちより一回り以上大きいじゃないですか?いやあ、親善試合とは言いながら『大和』の皆さん力が入っていますねえ」

と答える。

その頃になるとさすがの『武蔵』相撲部員たちもこの取り組みがただの「親善試合」ではないのに気がつき始めた。薄毛山こと高見中尉はそっと傍らの「出目金」兵曹を呼んで

「大和の相撲部から来たという招待状、持っているかね?」

と聞き、出目金が「これです」と差し出したあの、招待状をよく読めば・・・

「なんだこれは、宣戦布告ではないの?誰だ一体親善試合だなんて言ったの!?」

高見中尉は我を忘れて叫んでいた。確かにその文言は御招待します、という生易しいものではなくどう読んでも挑む気満々の文章ではないか。

馬面龍の四股名の上等兵曹が「それを最初に読まれたのは猪田艦長です。猪田艦長から『親善試合をしようと言ってきている』と聞きましたが?」と言って、高見中尉は頭をかきむしると

「ああもう!猪田艦長は何事も良くとらえてしまわれるからなあ。この手紙も良い方に捉えられたのだろうが、これは絶対全く当然果たし状ではないか・・・ああ~そうと早く知ってたら」

と言ってうなった。が、不屈の『武蔵』魂がここで燃え上がりだした高見中尉、キッと顔をあげると力士たちに

「いいか、こうなった以上負けられない。あんなこけおどしの連中に負けたら『武蔵』の名がすたる。いつもいつも『大和』の陰に隠れている我々が表舞台に出るいい機会だ。絶対負けるんじゃない。『武蔵』の名において連中を撃沈してやろう!」

と檄を飛ばした。

『武蔵』力士もその瞳を輝かせて、「おうー!」と片手を天に突き上げる。

 

それを見ていた浜口大尉以下『大和』の力士たちも

「おお、やっとやる気を出してくれんさったね。ほいじゃあ、うちらも目いっぱいやらせてもらうけえね」

とやる気満々、フルパワー、出力全開になったのだった。

そして、観覧席ではラケットを振り振り「熱くなれよー」と叫ぶ松岡中尉とマツコ、トメキチの姿が・・・。

    (次回に続きます)

 

        ・・・・・・・・・・・・・・

まずい、『武蔵』の力士たちが単なる親善試合ではない事に気がついてしまいました。

さあ、両艦の激突相撲はいったいどうなるのでしょうか。次回をお楽しみに^^。

 

昨日(727日)午後の北の空です。この数時間後大変な大雨になりました(-_-;)・・・
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「女だらけの戦艦大和」・大相撲トレーラー場所3

松本兵曹長は、機関科の準士官居住区で書きものをしていたが、やっと顔をあげるとその大きなまん丸い顔の頬をうんと横に広げると一人笑った――

 

「やった。出来たぞ。こげえに素晴らしい四股名をうちは聞いたことがない。これなら皆納得しよう。ゆうか納得せん奴がおったらうちが承知せんがね」

そして彼女は出来たばかりのしこ名を浜口大尉に見せようと居住区を出た。浜口大尉は前甲板で相撲のけいこを部員につけている。その大尉のもとに駆けて行った松本兵曹長は「浜口大尉、機関長!ちいとええでしょうか」と浜口大尉を読んだ。

「おう、どうした松本兵曹長」

浜口大尉はその大きな胸を揺らしつつ松本兵曹長のそばに来た。浜口大尉の身体には、汗が玉になって光っている。その汗の玉をまぶしげにちょっと見た後松本兵曹長は

「大尉。ようやっとできました・・・四股名、みんなの四股名です」

というと、一枚の紙を大尉の前に出した。浜口大尉は「おお、もう出来たのか?早いなあ。では拝見と行こう」というと皆がけいこ中の土俵の前に置かれたそれはそれはでかい座布団の上にドスン、と音を立てて座った。

他の部員たちが「なんですか」「何かええもんですかのう?」といいながら浜口大尉を取り囲んだ。大尉は皆をズイッと見回してから、

「松本兵曹長が考えてくれたみんなの四股名だ。今から読みあげよう」

といい、松本兵曹長は「ざっと考えただけですけえ、変更の余地があるかと。希望がだぶった場合は抽選にしましょうか」と言った。浜口大尉はちょっと考えていたが

「それもいいが公平を期するために四股名を書いた紙を引く、くじ方式がいいんじゃないか?そうしたらうらみっこなしでいいだろう」

といい皆は賛成した。舞野うみ兵曹が

「早う四股名を読みあげて下さい、うちはどがいな四股名があるんか知りたいです」

と言って他の部員も「読んでつかあさい」「願います」と騒いだが「それはあとの楽しみにせんか?くじを引く前に聞いてしもうたら詰まらんじゃろ?」との松本兵曹長の言葉にそれもそうか、とうなずいたーー

 

その頃工作科では連日の徹夜がやっと明けた。水木水兵長他が眼の下を真っ黒にしながら化粧回しを製作したのだった。浜口機関長の注文は大変難しく、デザイン画の段階から悩みまくった工作科の面々であったがようやく完成の日を迎えたのだった。工作科の別の班では大きな天幕を作っている。大勢の『大和』『武蔵』相撲部員や観戦の幹部たちを直射日光から守ろうという思いからだ。

ともあれ、水木水兵長他は「やった・・・やっとできた。これなら相撲部員も満足してくれるでしょうな」というなりその場に昏倒してしまった。そして、やがて大いびきをかき始めたのだった。

 

さらにその頃『武蔵』では武蔵の相撲部員たちが稽古中である。

主将の寺尾中尉は「親善試合だからなあ、どの程度本気でかかったらいいのかわからないけど、でも気を抜いたら相手に失礼だからね。10のうち8までの力を出そうじゃないか」と言って皆も「そうですね。それがいいでしょう」とうなずいたのだった。

彼女たちは四股名を考えるでもなければ化粧回しの手配をするでもなく、淡々と取組のその日を心楽しく待っているのであった。

 

『大和』前甲板では、工作科の水木水兵長と数名が相撲部の皆に化粧回しを披露している。工作科の兵たちがそれを持って立って「こげえな感じになりましたが、ええでしょうか」と浜口大尉に尋ねる。浜口大尉は居並んだ工作科の兵の持つ化粧回しを見て、

「これはすごい!・・・さすが『大和』の工作科だ。素晴らしい、ありがとう!」

と大感激をした。

その化粧回しとは、『大和』の艦首から艦尾までを十三等分してあるものでそれをつけた十三人が並べば『大和』の姿が現れるというもの。そして横綱の浜口大尉の化粧回しは『大和』を正面から見た姿である。今回取り組みに臨む、いわゆる幕内力士の十三名は「こげえな化粧回しをつけることが出来るんは、末代までの名誉じゃ。有難いことじゃ。これは本物の力士みとうでええのう!」と大喜びである。

水木水兵長はその様子を満足げに見て「喜んでいただけで嬉しいです、やったかいがあったいうものであります・・・皆さんどうぞ当日は優勝をしてつかあさい」と言った。その工作科兵員たちの前に浜口大尉以下の相撲部員たちは整列すると、大尉は大きな声で「工作科員に対して、敬礼っ!」といい一同は工作科員に敬礼して感謝の意を表した。工作科員たちは感涙に頬を濡らしてその敬礼に応えたのだった。

 

「で」と松本兵曹長が興奮冷めやらぬうちに。

「四股名を皆くじ引いてくれんかね?残った四股名は『武蔵』の力士にあげてもええと思うし、のう?」

皆が「うち、早う四股名が欲しいわ。どがいな四股名になるか、楽しみじゃわ」とそわそわし始める。浜口大尉が「松本、じゃあ貴様早くくじを作れ。で、俺も引いていいんだろう?」というと松本兵曹長は

「機関長には特別に考えてありますけえ、あとで紙に書いてお渡しいたします。お楽しみに」

というとフフフと笑った。

それから二十分程のち、松本兵曹長が大きな箱を抱えてやってきた。

「おーいみんな。くじが出来たけえ順番に引けえ。どがいな四股名があたってもうらみっこなしじゃ。うちが一所懸命考えたんじゃけえ、ありがたく受け取れよ!」

そう叫びながら皆の間を回り、くじを引かせた。

引いた紙は二つに折り畳まれて、そっと開くとそこには兵曹長の文字で四股名が書かれていた。

四股名は、以下の通り。

太目龍(ふとめりゅう)

田吾作(たごさく)

大豊作(だいほうさく)

機銃弾(きじゅうだん)

鬼瓦(おにがわら)

倉庫暗(そうこくらい)

省江根(しょうえね)

事押収(ことおうしゅう)

鬼金棒(おにかなぼう)

駆逐龍(くちくりゅう)

乃度風(のどかぜ)

出武錦(でぶにしき)

の以上である。松本兵曹長もくじを引き、「出武錦」の四股名が当たり浜口大尉に「ぴったりじゃないか、自分の為に作ったか?ワハハ、ワハハ!」と笑われる羽目に。そして肝心の浜口大尉の四股名は、松本兵曹長は恭しく捧げ持った紙によれば・・・

芽多保山(めたぼやま)

である。大尉はその紙を手にして少し首をかしげ「め、た、ぼ、やまか?変な名前だな」と顔をしかめたが松本兵曹長が「変じゃありません。芽ぇがたくさん出てしかも保たれる、というええ名前でこれ程めでたい名もないですが?ええでしょう?」というと、舞野うみ兵曹も「そうですよ、素晴らしい。機関長によう似合うとりますよ」とほほ笑む。

浜口大尉はそうか、と言ったがふっと気がついたように舞野兵曹を見ると、

「貴様はくじを引いてないな?どうしてだね」

と尋ねた。舞野うみ兵曹は「勝手じゃ思うたんですが、兵曹長にお願いしてうちは名前をそのまま四股名にさせてもらったがです。うちの四股名は舞野海(まいのうみ)です」といい、皆は

「ほう、舞野兵曹はええねえ!名前がそのまんま四股名になって!」

と感心している。

そんな部員を遠巻きにしているのが「幕下」力士の谷垣兵曹や野田兵曹、線香かおる兵曹や細麺つる上水などで

「ええねえ、上位力士は。うちらも早う上に上がってきれいな化粧回し、つけたいのう」

と指をくわえている。

 

そんな相撲部員たちを艦橋から見下ろしつつ、梨賀艦長・野村副長に森上参謀長は

「皆熱くなっているね。きっとわが『大和』が優勝するよね~!」

と手を取り合って笑っている。さらにその上の防空指揮所では松岡分隊長が「相撲部の皆さん、熱くなってますねえ~。いいですか、麻生さん。あなたもあのようにいつも熱くならなきゃいけませんよ?て、あなたは体育は何をやってるの?」と言っている。

麻生分隊士は「私は何時でも熱くなってますよ。私の体育の専攻は柔道です。これでも黒帯ですがね」と少し自慢げに言った。すると松岡分隊長はその眼を大きく見開いて

「・・・意外!」

と言ったのがその場の皆にはとてもおかしく、爆笑が渦巻いた。

 

さあ、『大和』と『武蔵』の相撲対決の日まで、あと四日――!

  (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・

 

松本兵曹長の四股名のセンスはいかがでしょうか。

さあ、いよいよ次回相撲対決の幕が切って落とされます。御期待下さい!



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