女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?

「女だらけの戦艦大和」・海色の瞳3<解決編>

――外洋訓練中、通信機にしがみついていた中矢少尉はハッとして顔をあげると「敵信傍受!」と叫んでいた――

 

「なんですと、敵信ですか」

敵信傍受班の一人、三山兵曹長が自分の席から立って中矢少尉の後ろについた。岡沢中尉が傍らの水兵長に「急ぎ通信長を呼んで来い!」といい、水兵長は席を蹴って艦橋にいる山口通信長を呼びに行く。

岡沢中尉は、中矢少尉の肩に手を置くとそっと「・・・まだ来てるか?感度はどうだ?」と囁いた。中矢少尉はレシーバーに神経を集中するため眼を閉じて聞き入っていたがやがて、

「感度変わらず、どうやら艦載機のようです・・」

と言った。岡沢中尉は「艦載機か・・・どのあたりに居るかは分からんかね?」とたずねる。中矢少尉は通信機のダイアルを少しずつ動かして同調を合わせて、

「ラシガエ島の東、90マイルのあたりに差し掛かっているようです。母艦からは相当な距離離れているようですね」

と言った。彼女の耳に当てたレシーバーからは、敵艦載機同士のやり取りが聞こえている。そこへ山口通信長がやってきて

「敵信傍受だって?どのあたりだ」

と中矢少尉のもとへ。中矢少尉がラシガエ島の東90マイルのあたり、というと通信長の顔が曇った。そして、

「まずいぞ、あの方角に先ほどの零戦隊が向かっているはずだ。零戦隊は訓練だから機銃弾もそれほど積んでないはずだぞ!」

といい、通信室の一同は表情をこわばらせた。

と、中矢少尉が椅子に座りなおすと

「敵を追い払います・・・」

といい通信機の隣にいつも置いてあるべつの機械――通話機――の前に座りなおした。三山兵曹長が少尉を見た。宮沢中尉が席から立ち上がると

「何言ってんだ、貴様に何ができると言うんだ!?いい加減なことを言うな・・・そうか貴様、やっぱりスパイだな!零戦隊の行く方に敵機を導いたんだろう!この期に及んでまずいと思ったか?・・・通信長、こいつは、中矢少尉は敵のスパイです!」

とわめきだす。すると山口通信長が厳しい顔つきで、

「黙れ!貴様こそいい加減なことを言うと承知せんぞ!大事な時だ、黙っていろ」

と一喝した。それには一切構わず、中矢少尉は指先に力を込め通話機のダイアルを動かないように押さえつつレシーバーに全神経を集中している。

三山兵曹長がかたずをのんで見守る中、その時はやってきた――!

 

中矢少尉は滑らかな英語で、

「もしもし、オンリー・ワン(指揮官機)。こちらコーンウオール(母艦指揮官)。こちらコーンウオール。こちらの言うことが分かるか? 1・2・3・4・5・5・4・3・2・1」

と敵の指揮官機に話しかけた。

すると敵の指揮官機から応答が入る。

「もしもしコーンウオール。そちらが1から5まで、5から1まで数えるのを聞いた」

中矢少尉は続ける。

「もしもしオンリー・ワン。日本の艦載機が我々を攻撃している、今の任務を放棄し、直ちに帰投せよ!」

すると敵の指揮官機は、

「こちらオンリー・ワン。了解(ラジャー)!」

と何度も答え・・・そして敵艦載機の編隊は一斉に変針するとその海域から遠ざかっていったのだった。中矢中尉は敵の無線に飛び込んで敵艦交信者になり済まし、零戦隊は難を逃れることができたのだった。そして、『大和』たち外洋訓練部隊も・・・

 

「ふう・・・」

と誰かが深いため息をついた。それを合図のように山口通信長は中矢少尉の肩を掴んでゆすぶって

「中矢少尉良くやった!すばらしい、さすが中矢少尉だ。しかしいったいどうやって??」

と言った。中矢少尉は、

「私は超短波ラジオで敵の交信状況を聞いて話し方の癖などを知りました。敵の空母が艦載機を呼び出す際の符号(コールサイン)や、艦載機同士の呼び出し符号もわかりました。」

といってレシーバーを取ると通話機の横に置いた。

三山兵曹長が山口通信長に、

「中矢少尉は連日連夜、ラジオに聞き入って敵の通話を勉強しておられたんです。それはもう、毎日毎晩・・・」

といいその語尾が震えて消えた。山口通信長がふっと三山兵曹長を見やれば、兵曹長は肩を震わせて泣いていた。

「どうしたね、三山兵曹長」

といぶかる通信長に、三山兵曹長は涙をグイッと腕で拭って顔をあげた。そして通信長に向かってきっぱりと、

「こがあに毎日毎日、帝国の為に努力を惜しまない中矢少尉に、あろうことかスパイ扱いしていじめるもんが居ってです。うちははあ我慢がきかんです。うちはどうされてもええです、今日はええ機会じゃけえ謝ってほしいがです」

といい、その視線を宮沢中尉と菊池中尉に向けた。

二人の中尉は急に水を向けられてひるんだ。それに、直前中矢少尉の素晴らしい機転を見せつけられ内心気まずい思いに心を支配されつつもあった。山口通信長は二人の中尉の前に立つと、静かな声で

「二人とも、中矢少尉がどういう生い立ちか、知っているだろう?」

と言った。二人の中尉は「はい」とうなずいた。通信長は続ける。

「中矢少尉は、アメリカに残ろうと思えば残れた。何も日本で大学に行かなくても良かったはずだ。だが中矢少尉はどうしても父親の生まれ育った国で勉強がしたかった。しかしいつ日本とアメリカが戦端を開くかもわからない時期に日本に来なくても良かったはずだ。

だが、中矢少尉はそれをした。なぜだと思う?考えたことがあるかね?それは、私が思うに中矢少尉にはアメリカ人としての血だけではなく日本人としての血も流れているからではないか?アメリカも、日本も中矢少尉にとってはかけがえのない<祖国>なんだ。戦争も何も関係なかったのではないかね?

もしも・・・母親がアメリカではなくドイツだったらどうだ?同盟国がもう一つの祖国なら、もっと気が楽だったろうし何かにつけいじめられることもなかったろう。しかし中矢少尉の母親はアメリカ人であることは動かしようもない事実である。これは誰のせいでもない。中矢少尉はどちらの祖国もかけがえないもの、天秤に掛けられないものと知りつつも日本人であることを選び、日本人として愛しい母親の国であり自分が生まれた国と戦うことをも選んだのだ。

その気持ちを貴様たちは少しでも思いやったことがあるのか?どんな気持ちで中矢少尉がアメリカの情報を入手していたか、もしかしたら敵の中に自分のきょうだいがいるのではないかとはらはらしていたのではないかと、考えたことはないのか?そんな気持ちを自分のものとして置き換えて考えたことがちょっとでもあるのか!それもしないでスパイだのアメリカ人だのと罵って、そのうえ体を痛めつけて愉しんでいたのか!」

最後は怒気を含んだ声ではげしい言い方となった。さらに通信長は、

「中矢少尉は至極まっとうな日本人だ。彼女ほどの愛国心と忠誠心を持った日本人で軍人を見たことがないほどだ。誰にも後ろ指など指させない。あれこれ言う奴の方が軍人として恥ずかしいのではないか?良く頭を冷やして考え直せ」

と続けた。宮沢、菊池の両中尉は唇を噛んで黙って下を向いている。他の通信科員たちも眼を伏せて黙っている。

宮沢中尉が顔をあげた。通信長が彼女の顔を見ると宮沢中尉は少し苦しげな表情で、

「私は・・・本当は中矢少尉がうらやましかったであります」

と話し始めた。通信長は黙ってその顔を見つめている。宮沢中尉はまたうつむいて、

「私も学生時代は英語が得意でした、出来たらアメリカに留学したかった。でも戦争がはじまりそうだから、日本の為に兵学校に入りました。そのことは全く後悔も何もしていません、日本人として当たり前のことをしたと思っています。でも・・・中矢少尉は、当り前だけど英語がものすごく上手くてその上言葉の微妙な機微さえ上手に表現します。私には出来ないそれがとてもうらやましくて・・・いつしかそれが憎しみに変わっていました・・・」

と話す。菊池中尉も「私も・・・うらやましかった。だから同じ思いの宮沢中尉と一緒になって中矢少尉をいじめることにしました」と言った。中矢少尉をいじめて、彼女が悲しそうな顔になったり殴って痛みをこらえる顔を見てうっぷんを晴らしていたのだ、と言った。

「・・・中矢少尉の生い立ちのことや、・・・母親やきょうだいがアメリカにいることまで気が回りませんでした。本当に、本当にすまないことをしました」

二人の中尉は泣きだした。山口通信長は深いため息をついた。ちょっとした嫉妬心がここまで人を痛めつけることができるのなら、なんと人間とは情けない生き物なのだろう。しかも<同じ日本人同士>なのに。

通信長は、中矢少尉を見た。そして「中矢少尉、どうするかね?きっと少尉はこの二人や今まで黙って見て見ぬふりをしていたこの連中を許しやしないだろう?」と言った。

皆の間に緊張が走った。が、中矢少尉はかぶりを振って「もういいんです」と言った。

「もういいんです、通信長。確かに宮沢中尉と菊池中尉の思うことも間違いではないかもしれません。私だって同じ立場ならもしかしたらいじめたり殴ったりしたかもしれません。他の皆はみて見ぬふりをしていたわけではないことも知っています。中には私のことを通信長に申し上げようと数名で話し合ってくれた人がいたことも私は知っています・・・そしてその子たちがひどく殴られたことも。

その子たちの痛みはとりもなおさず私の痛み。でももし、宮沢中尉と菊池中尉がもう通信科の子たちを私のことで殴らないなら皆の痛みはなくなるし、私の痛みも減るでしょう。それならいいんです。・・・どうか、私のことで皆を殴ったりするのだけはやめてください」

そう一気に中矢少尉は言うとその場に膝をついて嗚咽した。

 

その後中矢少尉と、宮沢・菊池中尉は和解した。中矢少尉も相手の本心がわかったし二人も自分たちがいかに馬鹿な行いをしてきたかを恥じた。

山口通信長は三人を抱きよせると「いいか、皆一丸となってこの戦争を戦い抜くんだ。詰まらんことで仲違いしていたら詰まらんぞ」と言って通信科全員で「お―っ!」と大声をあげたのだった。

 

オトメチャンは麻生分隊士と主砲塔の前にいる所を中矢少尉に声をかけられ、「あの時はありがとう、優しい言葉をかけられてどうしたらいいかわからなかったんです」と中矢少尉はあの晩の素っ気なさをわびた。

「ほうですか、でもよかった。あの中尉達とわかりあえたんですね」

オトメチャンはそう言って中矢少尉の瞳を見つめた。微笑む中矢少尉の青い瞳は前に見た時よりずっと明るい青い色できらめいた。

 

「中矢少尉、少尉の瞳はこのトレーラーの海の色によう似とりますね」

そうオトメチャンが言った。中矢少尉は(海の色・・・この海はパパの国の日本にもママの国のアメリカにもつながっている)と思って嬉しくなった。

そして、「オトメチャンはとてもいいこと、素晴らしいことを言いますね。私ももっと日本語も勉強しないといけないね」というと・・・・

オトメチャンの桜色のほほにそっとその唇を当てて去っていったのだった。

後に残るはポカ―ンとした顔の麻生分隊士と、「中矢少尉、えかったですねえ」と無邪気に微笑むオトメチャンであった――

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・

 

何とか和解できたようです。

ねたみそねみは誰にでもあることではありますがその根っこを深くしてはいけません。ましてやいじめたりは厳禁、人としての品格にもかかわります。

宮沢中尉と菊池中尉、これでもっと人間に磨きがかかったらいいですね。
なお、文中の敵艦載機とのやり取りは実際にあったものです(歴史群像太平洋戦史シリーズ10・連合艦隊の最後P101を参考・引用いたしました)。

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「女だらけの戦艦大和」・海色の瞳3<解決編>

――外洋訓練中、通信機にしがみついていた中矢少尉はハッとして顔をあげると「敵信傍受!」と叫んでいた――

 

「なんですと、敵信ですか」

敵信傍受班の一人、三山兵曹長が自分の席から立って中矢少尉の後ろについた。岡沢中尉が傍らの水兵長に「急ぎ通信長を呼んで来い!」といい、水兵長は席を蹴って艦橋にいる山口通信長を呼びに行く。

岡沢中尉は、中矢少尉の肩に手を置くとそっと「・・・まだ来てるか?感度はどうだ?」と囁いた。中矢少尉はレシーバーに神経を集中するため眼を閉じて聞き入っていたがやがて、

「感度変わらず、どうやら艦載機のようです・・」

と言った。岡沢中尉は「艦載機か・・・どのあたりに居るかは分からんかね?」とたずねる。中矢少尉は通信機のダイアルを少しずつ動かして同調を合わせて、

「ラシガエ島の東、90マイルのあたりに差し掛かっているようです。母艦からは相当な距離離れているようですね」

と言った。彼女の耳に当てたレシーバーからは、敵艦載機同士のやり取りが聞こえている。そこへ山口通信長がやってきて

「敵信傍受だって?どのあたりだ」

と中矢少尉のもとへ。中矢少尉がラシガエ島の東90マイルのあたり、というと通信長の顔が曇った。そして、

「まずいぞ、あの方角に先ほどの零戦隊が向かっているはずだ。零戦隊は訓練だから機銃弾もそれほど積んでないはずだぞ!」

といい、通信室の一同は表情をこわばらせた。

と、中矢少尉が椅子に座りなおすと

「敵を追い払います・・・」

といい通信機の隣にいつも置いてあるべつの機械――通話機――の前に座りなおした。三山兵曹長が少尉を見た。宮沢中尉が席から立ち上がると

「何言ってんだ、貴様に何ができると言うんだ!?いい加減なことを言うな・・・そうか貴様、やっぱりスパイだな!零戦隊の行く方に敵機を導いたんだろう!この期に及んでまずいと思ったか?・・・通信長、こいつは、中矢少尉は敵のスパイです!」

とわめきだす。すると山口通信長が厳しい顔つきで、

「黙れ!貴様こそいい加減なことを言うと承知せんぞ!大事な時だ、黙っていろ」

と一喝した。それには一切構わず、中矢少尉は指先に力を込め通話機のダイアルを動かないように押さえつつレシーバーに全神経を集中している。

三山兵曹長がかたずをのんで見守る中、その時はやってきた――!

 

中矢少尉は滑らかな英語で、

「もしもし、オンリー・ワン(指揮官機)。こちらコーンウオール(母艦指揮官)。こちらコーンウオール。こちらの言うことが分かるか? 1・2・3・4・5・5・4・3・2・1」

と敵の指揮官機に話しかけた。

すると敵の指揮官機から応答が入る。

「もしもしコーンウオール。そちらが1から5まで、5から1まで数えるのを聞いた」

中矢少尉は続ける。

「もしもしオンリー・ワン。日本の艦載機が我々を攻撃している、今の任務を放棄し、直ちに帰投せよ!」

すると敵の指揮官機は、

「こちらオンリー・ワン。了解(ラジャー)!」

と何度も答え・・・そして敵艦載機の編隊は一斉に変針するとその海域から遠ざかっていったのだった。中矢中尉は敵の無線に飛び込んで敵艦交信者になり済まし、零戦隊は難を逃れることができたのだった。そして、『大和』たち外洋訓練部隊も・・・

 

「ふう・・・」

と誰かが深いため息をついた。それを合図のように山口通信長は中矢少尉の肩を掴んでゆすぶって

「中矢少尉良くやった!すばらしい、さすが中矢少尉だ。しかしいったいどうやって??」

と言った。中矢少尉は、

「私は超短波ラジオで敵の交信状況を聞いて話し方の癖などを知りました。敵の空母が艦載機を呼び出す際の符号(コールサイン)や、艦載機同士の呼び出し符号もわかりました。」

といってレシーバーを取ると通話機の横に置いた。

三山兵曹長が山口通信長に、

「中矢少尉は連日連夜、ラジオに聞き入って敵の通話を勉強しておられたんです。それはもう、毎日毎晩・・・」

といいその語尾が震えて消えた。山口通信長がふっと三山兵曹長を見やれば、兵曹長は肩を震わせて泣いていた。

「どうしたね、三山兵曹長」

といぶかる通信長に、三山兵曹長は涙をグイッと腕で拭って顔をあげた。そして通信長に向かってきっぱりと、

「こがあに毎日毎日、帝国の為に努力を惜しまない中矢少尉に、あろうことかスパイ扱いしていじめるもんが居ってです。うちははあ我慢がきかんです。うちはどうされてもええです、今日はええ機会じゃけえ謝ってほしいがです」

といい、その視線を宮沢中尉と菊池中尉に向けた。

二人の中尉は急に水を向けられてひるんだ。それに、直前中矢少尉の素晴らしい機転を見せつけられ内心気まずい思いに心を支配されつつもあった。山口通信長は二人の中尉の前に立つと、静かな声で

「二人とも、中矢少尉がどういう生い立ちか、知っているだろう?」

と言った。二人の中尉は「はい」とうなずいた。通信長は続ける。

「中矢少尉は、アメリカに残ろうと思えば残れた。何も日本で大学に行かなくても良かったはずだ。だが中矢少尉はどうしても父親の生まれ育った国で勉強がしたかった。しかしいつ日本とアメリカが戦端を開くかもわからない時期に日本に来なくても良かったはずだ。

だが、中矢少尉はそれをした。なぜだと思う?考えたことがあるかね?それは、私が思うに中矢少尉にはアメリカ人としての血だけではなく日本人としての血も流れているからではないか?アメリカも、日本も中矢少尉にとってはかけがえのない<祖国>なんだ。戦争も何も関係なかったのではないかね?

もしも・・・母親がアメリカではなくドイツだったらどうだ?同盟国がもう一つの祖国なら、もっと気が楽だったろうし何かにつけいじめられることもなかったろう。しかし中矢少尉の母親はアメリカ人であることは動かしようもない事実である。これは誰のせいでもない。中矢少尉はどちらの祖国もかけがえないもの、天秤に掛けられないものと知りつつも日本人であることを選び、日本人として愛しい母親の国であり自分が生まれた国と戦うことをも選んだのだ。

その気持ちを貴様たちは少しでも思いやったことがあるのか?どんな気持ちで中矢少尉がアメリカの情報を入手していたか、もしかしたら敵の中に自分のきょうだいがいるのではないかとはらはらしていたのではないかと、考えたことはないのか?そんな気持ちを自分のものとして置き換えて考えたことがちょっとでもあるのか!それもしないでスパイだのアメリカ人だのと罵って、そのうえ体を痛めつけて愉しんでいたのか!」

最後は怒気を含んだ声ではげしい言い方となった。さらに通信長は、

「中矢少尉は至極まっとうな日本人だ。彼女ほどの愛国心と忠誠心を持った日本人で軍人を見たことがないほどだ。誰にも後ろ指など指させない。あれこれ言う奴の方が軍人として恥ずかしいのではないか?良く頭を冷やして考え直せ」

と続けた。宮沢、菊池の両中尉は唇を噛んで黙って下を向いている。他の通信科員たちも眼を伏せて黙っている。

宮沢中尉が顔をあげた。通信長が彼女の顔を見ると宮沢中尉は少し苦しげな表情で、

「私は・・・本当は中矢少尉がうらやましかったであります」

と話し始めた。通信長は黙ってその顔を見つめている。宮沢中尉はまたうつむいて、

「私も学生時代は英語が得意でした、出来たらアメリカに留学したかった。でも戦争がはじまりそうだから、日本の為に兵学校に入りました。そのことは全く後悔も何もしていません、日本人として当たり前のことをしたと思っています。でも・・・中矢少尉は、当り前だけど英語がものすごく上手くてその上言葉の微妙な機微さえ上手に表現します。私には出来ないそれがとてもうらやましくて・・・いつしかそれが憎しみに変わっていました・・・」

と話す。菊池中尉も「私も・・・うらやましかった。だから同じ思いの宮沢中尉と一緒になって中矢少尉をいじめることにしました」と言った。中矢少尉をいじめて、彼女が悲しそうな顔になったり殴って痛みをこらえる顔を見てうっぷんを晴らしていたのだ、と言った。

「・・・中矢少尉の生い立ちのことや、・・・母親やきょうだいがアメリカにいることまで気が回りませんでした。本当に、本当にすまないことをしました」

二人の中尉は泣きだした。山口通信長は深いため息をついた。ちょっとした嫉妬心がここまで人を痛めつけることができるのなら、なんと人間とは情けない生き物なのだろう。しかも<同じ日本人同士>なのに。

通信長は、中矢少尉を見た。そして「中矢少尉、どうするかね?きっと少尉はこの二人や今まで黙って見て見ぬふりをしていたこの連中を許しやしないだろう?」と言った。

皆の間に緊張が走った。が、中矢少尉はかぶりを振って「もういいんです」と言った。

「もういいんです、通信長。確かに宮沢中尉と菊池中尉の思うことも間違いではないかもしれません。私だって同じ立場ならもしかしたらいじめたり殴ったりしたかもしれません。他の皆はみて見ぬふりをしていたわけではないことも知っています。中には私のことを通信長に申し上げようと数名で話し合ってくれた人がいたことも私は知っています・・・そしてその子たちがひどく殴られたことも。

その子たちの痛みはとりもなおさず私の痛み。でももし、宮沢中尉と菊池中尉がもう通信科の子たちを私のことで殴らないなら皆の痛みはなくなるし、私の痛みも減るでしょう。それならいいんです。・・・どうか、私のことで皆を殴ったりするのだけはやめてください」

そう一気に中矢少尉は言うとその場に膝をついて嗚咽した。

 

その後中矢少尉と、宮沢・菊池中尉は和解した。中矢少尉も相手の本心がわかったし二人も自分たちがいかに馬鹿な行いをしてきたかを恥じた。

山口通信長は三人を抱きよせると「いいか、皆一丸となってこの戦争を戦い抜くんだ。詰まらんことで仲違いしていたら詰まらんぞ」と言って通信科全員で「お―っ!」と大声をあげたのだった。

 

オトメチャンは麻生分隊士と主砲塔の前にいる所を中矢少尉に声をかけられ、「あの時はありがとう、優しい言葉をかけられてどうしたらいいかわからなかったんです」と中矢少尉はあの晩の素っ気なさをわびた。

「ほうですか、でもよかった。あの中尉達とわかりあえたんですね」

オトメチャンはそう言って中矢少尉の瞳を見つめた。微笑む中矢少尉の青い瞳は前に見た時よりずっと明るい青い色できらめいた。

 

「中矢少尉、少尉の瞳はこのトレーラーの海の色によう似とりますね」

そうオトメチャンが言った。中矢少尉は(海の色・・・この海はパパの国の日本にもママの国のアメリカにもつながっている)と思って嬉しくなった。

そして、「オトメチャンはとてもいいこと、素晴らしいことを言いますね。私ももっと日本語も勉強しないといけないね」というと・・・・

オトメチャンの桜色のほほにそっとその唇を当てて去っていったのだった。

後に残るはポカ―ンとした顔の麻生分隊士と、「中矢少尉、えかったですねえ」と無邪気に微笑むオトメチャンであった――

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・

 

何とか和解できたようです。

ねたみそねみは誰にでもあることではありますがその根っこを深くしてはいけません。ましてやいじめたりは厳禁、人としての品格にもかかわります。

宮沢中尉と菊池中尉、これでもっと人間に磨きがかかったらいいですね。
なお、文中の敵艦載機とのやり取りは実際にあったものです(歴史群像太平洋戦史シリーズ10・連合艦隊の最後P101を参考・引用いたしました)。

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「女だらけの戦艦大和」・海色の瞳2

中矢少尉へのいじめや嫌がらせは相変わらず続いていた――

 

三山兵曹長は眉をひそめてそれを見ていた。他にもこのいじめを良く思わない兵員はいたものの、中尉に面と向かって文句を言えるような兵はいない。

それでも一度、通信室の下士官や水兵長が夜なかこっそり集まって「菊池中尉と宮沢中尉はおかしい。あれではあまりにも中矢少尉が気の毒じゃ。通信長にひとこと言わんでええのか?俺はだまっとれん」という話になったがそれを菊池中尉が聞いていて、翌日の巡検後この下士官と水兵長は半殺しの目にあったのだった。

けがの手当てに医務室に行った彼女らは日野原軍医長はその怪我のひどさに、

「おい、一体どうしたんだ?誰かにやられたのか?」

と思わず声をかけたが下士官たちは血相を変えて「いえ、違うであります。これは二人でラッタルから転げおったであります」と否定した。日野原軍医長は(これは何かあるなあ)と思ったがそれ以上口も出せない。

そして数週間が過ぎた。

 

ある夜見張兵曹が深夜当直明けに甲板に降り、主砲塔前で麻生分隊士を待っていた。

漆黒の闇に星だけがきらめいてまるで夢のようである。見張兵曹は(むかし、子供のころこんな夜空を泣きながら見上げたことがあったのう。継母(あのひと)にいじめられて殴られて、ほいで泣きながら空を見よったんじゃ。お父さんがはよう帰ってくればええなあって思いながら・・・)と不意に子供時代を思い出していた。

涙がにじんだその時、見張兵曹は自分のいる砲塔の反対側から誰かの歌声が聞こえてくるのに気がついた。耳を澄ますと、その声は

 

青い目をしたお人形は

アメリカ生まれのセルロイド 

日本の港に着いた時

いっぱい涙を浮かべてた

「私は言葉がわからない

迷子になったらなんとせう」

優しい日本の嬢ちゃんよ

仲良く遊んでやっとくれ  (野口雨情・詩 本居長世・作曲 大正十年)

 

と歌っている。見張兵曹は砲塔の壁をそっと回って声の主を探した。歌声の主は歌いながら泣いているのか声が震えている。(一体誰じゃろう、泣いとってじゃ)見張兵曹は不安になった。

そこへ「おう、オトメチャン」と麻生分隊士が来た。その声に、歌声がやんでしまった。誰かがたちあがるような音がし、すぐにそのひとが二人の前に姿を現した。

ハッと息を飲んだその人は誰あろう、中矢少尉である。中矢少尉は一瞬その場に立ちすくんだ。麻生少尉は「ああ、中矢少尉」と言ってからその顔をいぶかしげに見た。

中矢少尉の目元は泣いたのがありありとわかるほど腫れている。見張兵曹は礼をするとそっと、

「さっきの歌は、少尉が歌ってらしたんですか?」

と聞いた。中矢少尉は上を向いて涙をたちきるような格好をしてからうんとうなずいた。麻生少尉が「どがいしたんです、こんな夜更けに?」と聞いたが中矢少尉は

「いや何でもないよ。気にしないで」

というとその場を走り去ってしまった。見張兵曹はその後ろ姿を眼で追いながら

「どうされたんでしょうねえ、あの少尉。なんやら寂しそうに歌っとられましたが」

と独り言のように呟いた。麻生少尉も何やら感じるものがあったのか、しばらく黙ってその場に立ち尽くしていた。

 

そして翌日、見張兵曹が居住区に行こうとラッタルを降りた時、士官居住区のあたりで怒声を聞いた。恐る恐る声の方へ行ってみると、そこでは通信科の中尉二人が少尉を殴っていた。

(士官が士官をなぐっとる!)

見張兵曹は衝撃を覚えた。壁にひっつくようにして様子をうかがっていると中尉達は「このアメリカやろう」とか「アメリカに帰れ、ルーズバンドによろしく言え!」などといいつつ殴るけるの暴行を加えている。

見張兵曹は恐怖に震えた。自分自身のあの恐ろしくも忌まわしい過去がよみがえってきて思わず知らず、恐怖の叫びをあげてしまっていた。

それを聞きつけて、宮沢中尉が「誰だ、そこにいるのは!」と怒鳴ると、壁にひっついて震えている見張兵曹を引っ張り出して中矢少尉の横に投げ出した。

「誰だ、こいつ」

菊池中尉が言うと、宮沢中尉が床に倒れている見張兵曹の顎をつかんでグイッと上にあげた。そしてにやりと笑うと、

「こいつ、航海科の麻生の女だぜ。オトメチャンとかいうやつ、男を知らないおぼこ女って言うけどな、なんだかかわいぶっててむかつく奴だぜ」

というといきなり見張兵曹を殴りつけた。「ああっ」と叫んで反対側の壁に頭をぶつけるオトメチャン。そのオトメチャンを抱き起こし、「大丈夫か?宮沢中尉、他分隊の下士官に乱暴はやめてください!」と二人の中尉に猛然と食ってかかる中矢少尉。

「・・・なんだとぅ、貴様そんなでかい口きけるのか!」

怒り心頭に発した菊池中尉が中矢少尉に掴みかかろうとした時、「おい、一体何やってるんだ!」と声がかかった。ラケットを担いだ松岡中尉である。

松岡中尉はその場の異常さに気がついて「・・・特年兵くん、どうしたんだ!?」と切羽詰まった声をあげた。そして通信科の中尉達を見ると、二人はあっという間に走り去った。

松岡中尉はラケットを床に置いて、見張兵曹と中矢少尉の二人を抱き起こした。そして、

「いったい何があった?どうしたというんだ?」

と聞いた。見張兵曹は痛みをこらえて起き上がり事の顛末を話そうとした。すると中矢少尉は見張兵曹と松岡中尉に

「すまなかったね、痛い思いをさせてしまって。松岡中尉、これは私のせいです。私のせいで中尉の分隊の下士官にけがをさせてしまいました。お詫びいたします」

と言って床に落ちた略帽を拾い上げると一礼してあっという間に走っていってしまった。

見張兵曹が見つめた中矢少尉の瞳は、――青かった。

 

そのあと松岡中尉から話を聞いた麻生分隊士は深いため息をついた。そして、

「まあ気にはなるが・・・ほかの分隊のことに首を突っ込むわけにいかんけえのう。それにしても痛い目におうたのう、オトメチャン」

と言って切れて腫れた口の横あたりを見つめた。見張兵曹はしばらく黙って自分の膝のあたりを見つめていたが、

「昨日砲塔の陰で歌を歌うてたんは、あの少尉です。青い目をしたお人形は・・・いうて歌うておられました」

と言った。見張兵曹は先ほど自分を抱き起こしてくれた中矢少尉を思い出していた。彼女の瞳は明るい青い色だった。

もしかして、(中矢少尉はご自分のことを歌うてたんじゃ・・?)と不意に思った。そう思うとなんだかいてもたってもいられなくなった。

「松岡分隊長、うちはあの中矢少尉と話がしたいです」

と言葉だけが先に口をついて出て、麻生分隊士も松岡中尉も驚いた。「話して、どうするんじゃ?気になるいう気持ちはわかるがのう、またあの乱暴中尉にオトメチャンが殴られると思うとうちはたまらん。やめえ」と麻生分隊士は見張兵曹を気遣った。

それでその話は立ち消えになったのだが。

 

ある朝、『大和』は軽巡『矢矧』、駆逐艦・無花果、九里、花風邪を伴い、トレーラー環礁を出て外洋訓練に出た。訓練と言っても本番さながらでトレーラー航空隊の零戦隊も途中まで参加。そのあと零戦隊はあのラシガエ島の先まで偵察を兼ねて飛んで行った。

 

昼ごろ、『大和』では昼食の握り飯が配られた。

通信科の部屋でもレシーバーに耳を預けたりしながら握り飯に食いつく。中矢少尉も部屋の隅に小さくなって敵の交信が入電しないかどうか神経を張ってレシーバーを当てている。

宮沢中尉が「どこもかしこも日本のものだ。心配しなくたって平気だよ」と鼻で笑って握り飯に食いつき、ついでに中矢少尉に厳しい視線を送った。

三山兵曹長はそんな中尉をそっと睨んでいる。それにも気がつかないか、宮沢中尉も菊池中尉も食っているだけ。

 

と。

中矢少尉がレシーバーをかけなおすと皆を振り向いて

「敵信傍受!」

と大声で叫んだ。なんですと!と、三山兵曹長が中矢少尉の元に駆け寄った――

 (次回に続きます)

 

       ・・・・・・・・・・・・・・

 

いったい何があったのでしょう。敵信傍受とは穏やかではありません。

次回をお楽しみに。

青い目の人形、私子供の時初めてこの歌を聴いて「青い目のお人形がかわいそうだ」と泣いた記憶があります。



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「女だらけの戦艦大和」・海色の瞳1

――「女だらけの大和」には英語の堪能な士官二人がいる。

 

その一人は岡沢中尉といい、親の仕事の関係で幼いころから米国で過ごした人で以前「シ―・ドーベルマン」(捕鯨反対団体)の妨害攻勢の際も外国人船長相手に活躍した人である。

その素晴らしい行動は今も乗組員の口に登るくらいである。

 

通信室。決して広いとは言えない部屋で通信科の兵員たちがレシーバーを耳に当て、艦隊司令部などからの通信やあるいは、敵の通信に耳をそばだてている。

「岡沢中尉、これを通信長に願います」

「何処茂兵曹、この電文を艦長にお渡しせよ」

などと忙しい部署である。

そんな中にあって一人部屋の片隅で一人の大人しそうな少尉が眼を閉じて通信機に手をかけてレシーバーの中の音に聞き入っている。敵信傍受班の中矢少尉である。彼女こそ、英語の堪能なもう一人の士官である。

その後ろを通りかかった菊池中尉が、少尉の座る椅子を思いっきり蹴っ飛ばした。少尉がはっとしてレシーバーを取って振り向くと菊池中尉は、

「こんなところにいるんじゃねえよ、邪魔だ。貴様の席はもっと隅に置け!」

とののしった。それを見ていた他の兵員たちは気まずそうに下を向いている。あるいは知らん顔を決め込んでいる。椅子を蹴られた少尉は悲しそうな顔になると、これ以上寄せようのない場所に通信機ごとデスクを動かそうとしていた。

それを見た菊池中尉の仲間の宮沢中尉がわざわざ中矢少尉のそばにやってくると、傍らの兵曹の肩に手を置いて大きな声で

「全くよう、なんでこの帝国海軍期待の超弩級艦にこんなやつが乗ってくるかねえ?なあ、信じられんだろう?」

と言ってその兵曹の同意を求めるようにした。兵曹はちらちらと少尉の方を見ながら聞きとれないくらいの声で「・・・はあ、はい・・・」という。宮沢中尉はいきなりその兵曹を掴んで引き起こした。レシーバーが外れて床に落ちた。

中尉は、兵曹を自分の方に向かせるとその胸ぐらをつかんで

「もっと大きな声で返事しないか!こんなやつはこの大和にはいらん。いや、帝国海軍にはいらないんだ!そんなこともわからんのか」と言って兵曹を座席にたたきつけ、皆に向き直ると

「なあみんな、そう思うだろうが!こんなやつがなんで我が海軍にいるのか、俺には理解できん。帝国海軍の面汚しだ!」

と怒鳴った。菊池中尉が「そうだそうだ」と声をあげた。他の兵たちは黙って気まずそうに顔を伏せてしまった。岡沢中尉が「ちょっと待て、」と言って立ち上がろうとしたその時、

「ちいとひどすぎるんと違いますか!」

と声をあげて宮沢中尉に詰め寄った一人の兵曹長。三山兵曹長である。彼女は宮沢中尉の前に出ると、背の高い宮沢中尉に負けまいと背伸びをして、

「宮沢中尉、どうしてそがいに中矢少尉をいじめるでありますか?あまりにひどいではないですか。いったい中矢少尉が何を悪いことした言うんですか、おかしいじゃないですか?それこそこげえないじめは帝国海軍の面汚しです!」

と一気に言った。三山兵曹長のほほが怒りと興奮で紅潮している。宮沢中尉の顔が、すっと青くなったと思う次の瞬間、

「貴様生意気だあ、準士官の分際で!」

という怒声と鈍く頬を打つ音とともに、三山兵曹長は狭い部屋の中ですっ飛んでいた。宮沢中尉の鉄拳をほほにくらって、岡沢中尉の横をとんで、自分の受け持ちのデスクの前に落ちた。

「三山兵曹長!」と、中矢少尉は立ちあがって宮沢中尉の横をすり抜けると三山兵曹長を助け起こした。「しっかりしなさい・・・大丈夫か?」

そう心配げに、そっと三山兵曹長を抱き起こした中矢少尉の二つの瞳は――青かった。

「平気であります・・・ありがとうございます」と三山兵曹長が言いながら、口の端から流れた血を右の手の甲でぬぐった。

岡沢中尉がたちあがって二人のそばに来て様子を見た後、「宮沢中尉、いくら何でもやり過ぎではないのか?大体中矢少尉のどこがそんなに気に入らないのか?今日こそきちんと説明しろ」と大きな声を出した。

宮沢中尉は、岡沢中尉を睨みつけると中矢少尉を指差して、

「こいつは半分アメリカなんだぞ。この艦には、いや、帝国海軍に半分アメリカ人はいらない!もしかしたらこいつはスパイかもしれないぞ。スパイ行為をしていないか調べた方がいいんじゃないのか?」

と反撃した。それを聞いた瞬間、中矢少尉の青い目から涙がこぼれその肩が大きく波打ち出した。岡沢中尉が、

「ほう、スパイね。すると何か根拠があってそう言うことを言ってるのだろうね?それもなしにただ自分が気に入らないからと話を作るなら、貴様は帝国海軍軍人にあるまじき行為をしていると思わないか」

と両腕を組んで宮沢中尉の前に立った。宮沢中尉は少したじろいで「じ、事実かどうかは・・・」とあいまいなものの言い方をした。しかしなんとか立ち直ると、

「ともあれだ!俺はこいつの様な女が「大和」に居ることが気に入らん。ああ、どう思われてもいい、気に入らないんだよ!」

と大声で怒鳴ると思い切り中矢少尉をぶん殴ってその場を出て行ってしまった。後には妙な沈黙が漂っている・・・

 

――中矢少尉は日本の外務省に勤務する父親と、アメリカ人の母親の間に生まれた娘である。

そもそも父親が戦前に、アメリカ大使館勤務になり数年後大使館で行われたレセプションで中矢少尉の母親となる、やはり外交官の娘であるアリスと知り合った。二人はすぐに恋に落ち一年後に結婚した。さらにその一年後には長男、その二年後には女の子、そしてさらに二年後に中矢少尉が生まれた。

その間、父親・良介は日本に戻る時もあったが妻のアリスと子供たちはアメリカで過ごした。アリスは英語と日本語をバランスよく教え、「パパの国の言葉、きれいでいろんな表現があります。ママの国の言葉、人の心に直接響きます」と言ってどちらの言葉も大事にするよう教え込んだ。

そして一家が日本に帰る時が来たが、中矢少尉は体の弱い子供で長い船旅には耐えられないと医師に判断されてしまった。困った両親であったがアリスの両親が「クニコが丈夫になるまで私たちがここでしっかり育てるから心配しないで」と言って、それで中矢少尉だけアメリカでその後、ハイスクールを出るまで生活することになったのだった。

そして、その間にすっかり丈夫になった中矢邦子少尉は「日本で勉強したい」という希望を悩みながらも祖父母に伝えた。ここまで育ててくれた祖父母を捨ててゆくような気がしてならなかったが祖父母は「あなたのパパの国。しっかり勉強してきなさい。私たちは平気だから。そしていつの日か立派になった姿を見せにきてください」と笑って送り出してくれた。

そして中矢少尉が両親兄弟のもとに帰り、日本の大学に入り二年がたったある年アリスと兄弟たちが<里帰り>中に日本とアメリカは戦端を開いたのだった。うすうす日本とアメリカは戦争するかもしれないとは分かっていたが、唐突にそれは始ってしまった。母アリスと兄、姉は帰国出来ずそのまま祖父母の家にとどまることとなった。

中矢少尉は(ママと兄さん姉さん、日本人の家族だから大変な目に遭ってるのでは)と心配だったが、祖父が外交官という職業もあってかそれは杞憂に終わった。少尉の父親も「心配しなくて大丈夫だよ」と言ってくれた。

しかし中矢少尉には過酷な運命が待ち受けていた。アメリカ人との混血というだけで中矢邦子はいわれのない差別や迫害を受けるのだ。

邦子の見かけは日本人だが、決定的に違うのが眼の色、青い目の邦子は「アメリカ、アメ公。アメリカに帰れ」と学友からもいじめられた。電車に乗れば周囲の乗客から白い目で見られた。つらかったが(でも、アメリカのままたちに心配はかけられない。パパにだって)と必死に歯を食いしばって耐えた。

それでもいじめはひどさを増し、ある時中矢邦子は決心した。とある晩父親の書斎に行って邦子がやおら切り出した言葉に父親はさすがに仰天した。

「海軍兵学校に入るって・・・本気かね邦子」

そう問う父親に邦子は本気であることを伝えた。父親は邦子の青い目を覗き込みながら「・・・まさか周囲からアメリカ人と言われてやけになって、ではないだろうね?」と言った。一瞬邦子のまなざしが揺らいだが、邦子は次の瞬間父親の目をしっかり見つめると、

「ちがいます。私は日本人です、私は日本国籍を持った・・・日本人・・・」

最後の方は涙で言葉が消えた。母と兄弟たちはアメリカ国籍で、邦子は日本に帰った時日本国籍を取得していた。これで母の住む、兄弟の住む国と戦うことになってしまった。

「でも、国難の時に私は黙っていられません・・・」

泣きながらそういう邦子に、父親はもうかけるべき言葉もなかった。しばしの間瞑目してそしてたった一言、「立派な日本人として生き抜きなさい」とだけ言った。

そして中矢邦子は海軍兵学校を受験し、入学をしたのだった。ここでも好奇の視線にさらされる邦子ではあったが助かったのが英語の時間で、これは邦子の独壇場だった。

教官でさえ邦子に何かと助けを求めることが多く、「中矢はいずれ、敵を手玉に取れる人物になる」とさえいわれるようになった。卒業時のハンモックナンバーは148人中3番。少尉候補生として輝かしい第一歩を踏み出した。

しかし順調にいかないのが世の常、最初に配属になった巡洋艦では中尉や大尉と言った連中にいじめ抜かれるのである。

が、中矢少尉の才能を見抜いた巡洋艦の艦長や直属の上司の支えもあり、それから間もなく中矢少尉は『大和』に転属となるのである。

「シンデレラストーリー」と言ってもいいかもしれない。

 

だが。

期待に胸ふくらませて乗艦した『大和』ではあったがその夢もすぐにしぼんだ。

「なんだ、アメ公じゃねえか」と宮沢中尉・菊池中尉に目をつけられ何かというと殴られたり蹴られたりして挙句には「貴様は外に出るな、ガンルームに入るな」と言われ厠に押し込まれたことさえあった。

そんな目に遭いながらも彼女を支えたのは<家族>、父親の良介・母親のアリス、二人の兄弟であった。(お母さん。私は日本で自分の居場所を作っています。だからお母さんたちも頑張って。いつかきっと一緒に暮らせる日が来ますから)

 

 

「中矢少尉、これ」

そう声をかけられて我に返った中矢少尉は、三山兵曹長がハンカチを差し出しているのに気がついた。三山兵曹長は

「出血していますよ・・・なんてひどいことをするんじゃろう、あの中尉ども」

と憤りながらハンカチを少尉の口の端にそっと押しあてた。中矢少尉の寂しい心に、三山兵曹長の優しさがしみた。三山兵曹長は少尉を痛ましげに見つめている。

少尉は三山兵曹長の手首のあたりを握りしめるとむせび泣いた――

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ひどいいじめです。

中矢少尉、がんばれ!そしてこのあと・・・!
海軍兵学校
海軍兵学校。現在も広島県江田島市にあり海上自衛官の幹部候補生を育てています。(画像お借りしました)


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「女だらけの戦艦大和」・さらばトレーラー

――のぞき見ではげしい行為を見せつけられた『海きゃん』一行はそのあと町中の遊郭へ行くとその晩は目いっぱい、とことんまで楽しんだのだった――

 

一行は次の日の朝一番のランチで『大和』に帰って来た。

そして梨賀艦長に宿の礼を言い、「おかげさまでいい取材が出来ました、そして大変お世話になりました。私たちは今日でここからおいとまいたします」と別れを告げた。

梨賀艦長も野村副長も、森上参謀長も少しさみしそうな顔になって、

「そうですか・・・なんだか寂しくなりますね。内地に帰られたらぜひいい本を作ってください。待っていますよ!」

と言い、それぞれと握手をした。

そのあと、『海きゃん』取材班は『大和』艦内をめぐって各分隊員たちに別れの挨拶をした。機関科では松本兵曹長が「おお、お名残惜しいですなあ。・・・でもはよう『海軍きゃんきゃん』の新刊を待っとりますけえね。内地に帰ってもお元気で」と言ってその大きな手で取材班一人一人に握手した。

主計科の烹炊所では、

「なんで~!?武田水兵長、ここで仕事するんじゃなかったのお!」

と武田水兵長は一等主計兵や上等主計兵、水兵長たちに叫ばれ、抱きつかれ、泣かれ・・・武田水兵長も大泣きする場面もあった。それを見て殘間中尉ももらい泣きしている。

大和の烹炊員たちは口々に、

「『海きゃん』が嫌になったら、首になったら、絶対ここに来てね!約束よ!」

と言い、武田水兵長は泣きながらも実に微妙な顔つきである。

 

医務科では日野原軍医長が「おお!もう帰っちゃうのか~、残念だなあ。じゃあ今度の『海きゃん』にはぜひわが大和の医務科が優秀であるってことも書いといてよね」と言って名残を惜しんだ。そして日野原軍医長は「役に立つといいが」と言って一人一人に頭痛薬「ノーテン」をひと箱くれたのだった。

そして一行は第一艦橋と防空指揮所に行くためラッタルを上がる。

第一艦橋ではその場の見張り員たちにあいさつし、海図に見入っていた樽美酒少尉に、

「おかげさまでいいグラビアが撮影出来ましたよ、『海きゃん』楽しみにしていてくださいね」

と言って樽美酒少尉はさわやかな笑顔で殘間中尉と握手して

「こちらこそありがとうございました、いい思い出ができました。またいつかお会いできるといいですね」

と言った。袴田兵曹が「樽美酒少尉・・・素敵だなあ」とつぶやく。そして「『海きゃん』専属モデルにしたいよなあ」。

艦橋を出てゆきながら写野兵曹が「あの人もいいが、私としてはやっぱりオトメチャンだなあ」とブツブツ言う。

そして防空指揮嬢に上がればそこではもう配置の皆が待ち構えていて一行を拍手で迎えてくれた。松岡分隊長が拍手しながら一歩前に進み出ると、

「やあ、『海軍きゃんきゃん』の取材班の皆さん!今までお疲れ様でした。そしてたくさんの思い出をありがとうございました!みなさんは仕事に熱くなっていて大変素晴らしいですよ。これからもその熱さを忘れないで頑張ってくれたまえ!

いいかい・・・熱くなれよ!今日からみんなも富士山だーっ!」

と叫んでラケットを振り上げた。写野兵曹が思わず「富士山ですか、景気いいなあ」と言って笑いだし、その場の皆が笑いだす。

その笑いを聞きつけてトップのトップにいたハッシー・デ・ラ・マツコとトメキチが降りて来た。トメキチはマツコの背中に乗っている。

マツコがふわりと一行の前に降り立つとトメキチがその背中から降りた。二匹は並んで立つと『海きゃん』一行に敬礼すると筑紫少尉がトメキチを抱きしめ、三谷兵曹がマツコを抱きかかえるようにした。

マツコは三谷兵曹に抱きしめられつつ「なんか寂しいわねえ、この連中がいなくなると」と言い三谷兵曹の頭をその大きなくちばしでくわえる。

トメキチも「本当にそうだね、マツコサン。僕もさみしい」と言って三谷兵曹のほほをなめ、次いで顔を寄せて来た小林兵曹の顔もなめる。

見張兵曹、小泉兵曹、石場兵曹、谷垣兵曹に石川水兵長に亀井一水たちもそれを見て何か胸の奥がじんとするものを感じている。

麻生分隊士もなんだか普段に似合わない殊勝な表情でいる。その分隊士にそっと近寄った筑紫少尉は

「麻生少尉、例のスポットありがとうございました。おかげでいい目の保養ができましたよ。・・・まさかあんなことが、ねえ」

と言って含み笑いをした。麻生分隊士も「あんなことやこんなこと・・・ありましたでしょう?フフフ」と含み笑いで答える。そして筑紫少尉の耳に自分の曲がった口を寄せると、

「で、例の写真集の件。よろしゅう願いますよ」

と囁いた。筑紫少尉は皆にわからないように麻生分隊士の背中をそっと叩いて「大丈夫ですって。忘れたりしません。綺麗に製本して、あなた宛てに送りますからご安心を」と言って安心させた。

筑紫少尉はそして見張兵曹を見て

「オトメチャン、今度来るときはあなたを『海軍きゃんきゃん』専属のモデルとして迎えに来ますよ」

と言って笑った。見張兵曹は困ったような顔つきで微笑んでいたが小泉兵曹が横から

「おお、ええのう!ほいじゃあ俺がオトメチャンの付き人になっちゃろう。ほいでもええですかね?」

と言うと石場兵曹が必死で、

「いや!オトメチャンの付き人はうちがするんじゃ。小泉みとうな男好きには任せられんで」

と小泉兵曹をけん制したのでその場の皆が声を立てて笑った。

そこに伝声管を通じて、通信科の兵曹から「そろそろランチが出ます、ご準備はええでしょうか」と言ってきた。それに麻生分隊士が「準備よし。今より三分後にランチに乗る」といい、『海きゃん』取材班は一列に並びなおすと

「お世話になりました!ご武運を祈ります」

と敬礼して松岡分隊長を先頭に下へ降りる。

 

露天甲板では梨賀艦長のほか副長、参謀長たちや各科の科長まで居並んで一行を見送る。殘間中尉は中尉らしいところを見せようと皆を整列させ

「『海軍きゃんきゃん取材班』殘間中尉以下七名、これより内地に帰還いたします。長い間お世話になりました!」

と号令をかけ取材班は一斉に敬礼。梨賀艦長はうなずいて一行の一人一人を見つめると

「長い間の取材活動ご苦労であった。無事に内地に着いた暁には『海軍きゃんきゃん』発行に励んでほしい、そして新刊を楽しみにしている。ではごきげんよう」

といい締めくくった。

そして取材班一行は舷門を降りて行った。

艦内では「『海軍きゃんきゃん』一行が帰還する。配置に置いて適宜見送れ」の放送が流れ、外の配置員たちが左舷側を向いて帽子を取ってそれを大きく振りながら

「元気でなー!」とか「また来いやー」「次は十四(うちん)分隊(がた)に取材に来いやー」「気ぃつけてなあー」と叫んで見送る。見送られる『海きゃん』一行はランチの中にあって涙を流して帽子を振り返す。

「ありがとうー!」「また来ます」「わたしたちを忘れないでくださーい」・・・

見送る者、見送られるものそれぞれの別れの言葉が、トレーラの海風にちぎれて舞った――

 

「行ってしまわれましたね」

防空指揮所で、持った帽子を振る手をやっと下に降ろした見張兵曹が誰に言うともなくつぶやいた。小泉兵曹と石場兵曹がその横にたたずんで

「ほうじゃな。・・・あっという間じゃったね。でもいろいろあって楽しかったわ」

と言った。石場兵曹が艦内帽をかぶりなおしてから「うちははよう、新しい『海きゃん』が読みたいわ。いったいどがいな感じに記事になるんじゃろうねえ?」と早くも心は新しい冊子に飛んでいるようだ。

小泉兵曹が

「うちも早う読みたいな。面白い記事満載で陸さんをうらやましがらしたらええねえ」

と言って皆は一斉に笑った。麻生分隊士は(オトメチャンの写真集、いつ出来るかのう。楽しみじゃ)ともう今から心待ちである。

 

トレーラーの海に、『海きゃん』取材班を乗せたランチは走り、やがて潜水艦や巡洋艦が彼女たちを内地へといざなうのである。

 

長い長い、『海軍きゃんきゃん』取材班の旅がそろそろ終わろうとしている。

その頃。

横須賀の『海軍きゃんきゃん』編集部では久しぶりにやってきた山本いそ聯合艦隊司令長官が、取材班が南方に行ったきりまだ帰ってこないというのを聞いてため息交じりに、

「南に行けば長くなる・・・ってだから言ったじゃないの!しょうがないなあ、みんな南方のゆったり時間にならされてしまって」

とぼやいていた――

 

          ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

長い長い、『海軍きゃんきゃん』の取材話をこれにて終わります。

さあいつ、新しい『海きゃん』発行になりましょうか、楽しみです^^。そして、『大和』に新しい話が。どんな話になりますかご期待下さい。

 

帽振れー!(画像お借りしました)
帽振れ!


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