「女だらけの戦艦大和」・缶缶諤々2<解決編>

――巡洋艦の高橋艦長、「伊号4444潜」の北島こう航海長、そして『大和』の見張兵曹ほか五名が場所は違えどもほとんど同時刻に缶詰にナイフを突き立てようとしていた――

 

「女だらけの大和」

見張兵曹、小泉兵曹・石場兵曹・石川水兵長・そして酒井一水がえたいのしれない缶の上部に狙いを定める。

そのそばでハシビロコウのハッシー・デ・ラ・マツコが「サカナ、魚。魚のかんづ~め!」と歌いながら羽を広げて飛び回っている。その後ろをトメキチが「カンカラ欲しい、カンカラちょーだい、カンカンカンカラ、ちょーーだいっ!」と歌って二本足で飛び回る。

麻生分隊士がそんな二人に、

「こらハシビロにトメキチ、お前たちそんなに騒いだら狙いが外れるわ。ちいと静かにせんね」

と注意を与える。トメキチがペロッと舌を出して

「そうだね、静かにしないとね。おばさんも静かにしようよ」

と言いマツコを見た。マツコも今回は殊勝な顔つきになって、「そうね、万が一にも失敗して食べらんなくなったらアタシもう、やーよ」と言うとおとなしく羽をたたんだ。

松岡分隊長が、

「さあ、それでは世紀の一瞬!この五名による缶の穴開けだあ!熱くなれよ~、さあ、いよいよ破瓜の瞬間だー!」

となんだかとんでもないことを叫んで麻生分隊士は思わず分隊長の顔を見てしまう。

が、分隊長もみなも、期待と緊張でそんな言葉じりを気にしてはいない。松岡分隊長が、いつも持っている例のラケットを振り上げるとーーー

「テーーッ!」

とものすごい声を張り上げた。

そして五人の持ったナイフが一斉に五つの缶に向かって振りおろされた。

 

「某巡洋艦」「伊号4,444潜」「女だらけの大和」の艦内で

ブシューーーーーッ!!

と缶にナイフが突き立った。すると・・・

 

「ぎゃあああああ!!!なんだこれ!!オエエエエ!!!」

とすさまじい皆の叫び声が響いた。

「某巡洋艦」では高橋艦長以下が、「伊号4444潜」では北島こう航海長ほかが、そして「女だらけの大和」では航海科居住区にいた全員――マツコもトメキチも――があるものはその場に昏倒し、またあるものはうずくまり、またあるものは匍匐前進でその場を逃れようとしている。

修羅場が展開していた。

何が起こったのか、といえばそれぞれの艦で缶にナイフを突き立て穴が開いたその時、中身のものすごい臭気と汁が吹き出し、あっと言う間に皆の鼻腔をノックアウトしさらに艦内に怖ろしい勢いで広がって行ったのだ。

その正体――シュールストレミング。これは主にスウェーデンで食されるニシンの漬物のようなもので塩漬けにしたニシンを缶の中で発酵させるものでその匂いたるや、激烈である。

それが狭い潜水艦内や巡洋艦内に漂い出したのだ。

「伊号4444潜」ではあっという間にその匂いが艦内中に充満し、艦首の水中聴音機群をいじっていた兵はもとより、艦尾側の機関科倉庫にいた兵曹まで倒してしまった。

板倉艦長は白目をむいて昏倒している北島航海長と伊調水雷長、鈴木主計長、そして浜口兵曹をようようの思いで引きずって司令塔を目指した。

その間にも、あちこちで「ぐえええ!」「艦長いったい何事ですか」「なんで俺たちここにきて玉砕せにゃいかんのだ!」・・・等々、乗組員たちの悲痛な叫びが聞こえる。

艦長はもうろうとする頭を振りながら、遠ざかる意識を何とか励まして

「だれか、ハッチを開けろ!」

と怒鳴った。だが、それに応えるものは誰ひとりとしていない。

「伊号4444潜」ペナンを前にして遭難かーー?

 

そして「某巡洋艦」でも同様な悲惨な場面が展開されていた。

高橋なお艦長は艦長室からほうほうの体で二人の兵とともに脱出。瀬古副長は?と見れば彼女はその俊足を生かしてとっくのとうに逃げてしまった。高橋なお艦長は臭気にやられて涙をぼろぼろ、鼻水をだらだら流しながら

「瀬古ふくちょー!一人で逃げるなんてひどいよーう!待ってよ―う!」

と叫んで艦上へのラッタルを探す。が、どこのラッタルも臭気に追われて艦内中から逃げて来た将兵たちでいっぱい、艦長だからと言ってはいどうぞと譲ってくれるような余裕は誰にもなかった。

「は、はやくあがって~。く、苦しいよう」

「もう駄目だ。天皇陛下万歳!」

「おかあさーん」

ラッタルのたもとではまるで玉砕戦のような光景が展開されていた――

 

「女だらけの大和」、ここは他よりも悲惨な光景があった。

なぜならここでは一度に五つの缶が開けられていたのだ。たった一つでも地獄絵図だったというのに五つである。地獄が五つ分展開された。

まず航海科居住区がその震源地であるがここではまるで<総員戦死>の様相を呈している。松岡分隊長以下全員その場に倒れ伏し、マツコはかわいそうに顔面に缶づめの汁を浴びてしまい、白目をむいて仰向けに倒れ痙攣を起こしている。

トメキチもマツコのそばで鼻先を前足でおさえたままうつぶせでグンニャリと伸びてしまっている。

そして缶からは悪臭が放たれている。が、よく見れば五つあったはずの缶が三つしかない。どういうことだ、と言えばこれは缶に穴があき、すざまじい勢いで悪臭と汁が噴出したその瞬間、松岡分隊長が「なんだって言うんだよこれはーー!」と叫んで缶を二つほど、ラケットでひっぱたいて居住区の外にはたきだしたからに他ならない。

・・・そのさい、マツコの頭も少しひっぱたいたかもしれないが。

ともあれ、その悪臭はでかい『大和』艦内を縦横無尽に走り回り、ここでもラッタルやエレベーターに我先にと走り寄る乗組員の姿があった。

梨賀艦長はあまりのひどいにおいに防毒マスクをかぶって露天甲板に逃げ出そうとしたが廊下を血相変えて走ってきた副長・参謀長や士官連中に突き飛ばされてしまった。

艦長は

「ひどいよー!なんで艦長をないがしろにするの?それにこういう非常時に持ち場を離れるなんて、ちょっと第6潜水艇を見習ったらどうよ!ええ!?」

と泣きながら叫んでいたが誰も耳を貸すものはなかった。

 

ハッシー・デ・ラ・マツコはトップに鎮座して吐きそうになりながらも

「ああ、ひどい目に遭ったわね。あたしさあ、あれって魚が入ってるのかと思ったらなによ、毒ガスだったのね。いったいどこの国の仕業かしらね?そういうのを、なんていうんだっけ?・・・トメキチあんた知らない?」

とトメキチに話しかける。トメキチはマツコを見上げて鼻をこすりながら

「非人道的、とかいうのよ確か。でもあの中身はお魚だって聞いたけど・・・きっとあれは新しい兵器だね。僕まだお鼻が変で困るよう」

と訴える。マツコはなぜか軽く痛む後頭部を羽で撫でつけながら、

「最悪!あたしの愛する魚であんなひどい兵器を作るなんて人間じゃないわよ。まったく」

とブツブツ。

その下の防空指揮所では麻生分隊士が見張兵曹の肩を抱きながら「大丈夫か?本当に大丈夫か?」と気を遣っている。見張兵曹はけなげに「はい、平気です」というがなんだか顔色が悪い。あれから数時間がたったがほとんどの航海科員が再起不能状態である。

「全く変なものを作りやがって、どこの誰だ!アメ公か!?絶対許さねえぞ!」

麻生分隊士の怒りはそのまま「某巡洋艦」「伊号4444潜」の乗組員の怒りであるが、・・・ひとこと言うならこれはアメリカさんの作ったものではない。

でも・・・どうしてスウェーデンの缶詰を連合国軍の輸送艦が積んでいたのか。しかもインド洋上を行く艦で?という疑問は誰も思いつかない。

だってーーこれがスウェーデンのものだなんてだ―れも知らないんだから――

 

           ・・・・・・・・・・・・・

とうとう、秘密の缶詰がそのベールを脱ぎました・・・

この「シュールストレミング」その匂いたるやあの<くさや>の比ではないと言います。そういえばずいぶん前に、何かの番組で林家こぶ平さんが小さなビニールでできた小屋のようなものに押し込まれ、この缶を開けたところその匂いに悶絶されてその小屋のようなものをぶっ壊し、スタジオ中おおごとになっていたことがありましたっけ。

いやあ・・私はこれは欲しくないです。はい・・・

 
シュール

これがシュールストリーミングだ!!(画像お借りしました)

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――巡洋艦の高橋艦長、「伊号4444潜」の北島こう航海長、そして『大和』の見張兵曹ほか五名が場所は違えどもほとんど同時刻に缶詰にナイフを突き立てようとしていた――

 

「女だらけの大和」

見張兵曹、小泉兵曹・石場兵曹・石川水兵長・そして酒井一水がえたいのしれない缶の上部に狙いを定める。

そのそばでハシビロコウのハッシー・デ・ラ・マツコが「サカナ、魚。魚のかんづ~め!」と歌いながら羽を広げて飛び回っている。その後ろをトメキチが「カンカラ欲しい、カンカラちょーだい、カンカンカンカラ、ちょーーだいっ!」と歌って二本足で飛び回る。

麻生分隊士がそんな二人に、

「こらハシビロにトメキチ、お前たちそんなに騒いだら狙いが外れるわ。ちいと静かにせんね」

と注意を与える。トメキチがペロッと舌を出して

「そうだね、静かにしないとね。おばさんも静かにしようよ」

と言いマツコを見た。マツコも今回は殊勝な顔つきになって、「そうね、万が一にも失敗して食べらんなくなったらアタシもう、やーよ」と言うとおとなしく羽をたたんだ。

松岡分隊長が、

「さあ、それでは世紀の一瞬!この五名による缶の穴開けだあ!熱くなれよ~、さあ、いよいよ破瓜の瞬間だー!」

となんだかとんでもないことを叫んで麻生分隊士は思わず分隊長の顔を見てしまう。

が、分隊長もみなも、期待と緊張でそんな言葉じりを気にしてはいない。松岡分隊長が、いつも持っている例のラケットを振り上げるとーーー

「テーーッ!」

とものすごい声を張り上げた。

そして五人の持ったナイフが一斉に五つの缶に向かって振りおろされた。

 

「某巡洋艦」「伊号4,444潜」「女だらけの大和」の艦内で

ブシューーーーーッ!!

と缶にナイフが突き立った。すると・・・

 

「ぎゃあああああ!!!なんだこれ!!オエエエエ!!!」

とすさまじい皆の叫び声が響いた。

「某巡洋艦」では高橋艦長以下が、「伊号4444潜」では北島こう航海長ほかが、そして「女だらけの大和」では航海科居住区にいた全員――マツコもトメキチも――があるものはその場に昏倒し、またあるものはうずくまり、またあるものは匍匐前進でその場を逃れようとしている。

修羅場が展開していた。

何が起こったのか、といえばそれぞれの艦で缶にナイフを突き立て穴が開いたその時、中身のものすごい臭気と汁が吹き出し、あっと言う間に皆の鼻腔をノックアウトしさらに艦内に怖ろしい勢いで広がって行ったのだ。

その正体――シュールストレミング。これは主にスウェーデンで食されるニシンの漬物のようなもので塩漬けにしたニシンを缶の中で発酵させるものでその匂いたるや、激烈である。

それが狭い潜水艦内や巡洋艦内に漂い出したのだ。

「伊号4444潜」ではあっという間にその匂いが艦内中に充満し、艦首の水中聴音機群をいじっていた兵はもとより、艦尾側の機関科倉庫にいた兵曹まで倒してしまった。

板倉艦長は白目をむいて昏倒している北島航海長と伊調水雷長、鈴木主計長、そして浜口兵曹をようようの思いで引きずって司令塔を目指した。

その間にも、あちこちで「ぐえええ!」「艦長いったい何事ですか」「なんで俺たちここにきて玉砕せにゃいかんのだ!」・・・等々、乗組員たちの悲痛な叫びが聞こえる。

艦長はもうろうとする頭を振りながら、遠ざかる意識を何とか励まして

「だれか、ハッチを開けろ!」

と怒鳴った。だが、それに応えるものは誰ひとりとしていない。

「伊号4444潜」ペナンを前にして遭難かーー?

 

そして「某巡洋艦」でも同様な悲惨な場面が展開されていた。

高橋なお艦長は艦長室からほうほうの体で二人の兵とともに脱出。瀬古副長は?と見れば彼女はその俊足を生かしてとっくのとうに逃げてしまった。高橋なお艦長は臭気にやられて涙をぼろぼろ、鼻水をだらだら流しながら

「瀬古ふくちょー!一人で逃げるなんてひどいよーう!待ってよ―う!」

と叫んで艦上へのラッタルを探す。が、どこのラッタルも臭気に追われて艦内中から逃げて来た将兵たちでいっぱい、艦長だからと言ってはいどうぞと譲ってくれるような余裕は誰にもなかった。

「は、はやくあがって~。く、苦しいよう」

「もう駄目だ。天皇陛下万歳!」

「おかあさーん」

ラッタルのたもとではまるで玉砕戦のような光景が展開されていた――

 

「女だらけの大和」、ここは他よりも悲惨な光景があった。

なぜならここでは一度に五つの缶が開けられていたのだ。たった一つでも地獄絵図だったというのに五つである。地獄が五つ分展開された。

まず航海科居住区がその震源地であるがここではまるで<総員戦死>の様相を呈している。松岡分隊長以下全員その場に倒れ伏し、マツコはかわいそうに顔面に缶づめの汁を浴びてしまい、白目をむいて仰向けに倒れ痙攣を起こしている。

トメキチもマツコのそばで鼻先を前足でおさえたままうつぶせでグンニャリと伸びてしまっている。

そして缶からは悪臭が放たれている。が、よく見れば五つあったはずの缶が三つしかない。どういうことだ、と言えばこれは缶に穴があき、すざまじい勢いで悪臭と汁が噴出したその瞬間、松岡分隊長が「なんだって言うんだよこれはーー!」と叫んで缶を二つほど、ラケットでひっぱたいて居住区の外にはたきだしたからに他ならない。

・・・そのさい、マツコの頭も少しひっぱたいたかもしれないが。

ともあれ、その悪臭はでかい『大和』艦内を縦横無尽に走り回り、ここでもラッタルやエレベーターに我先にと走り寄る乗組員の姿があった。

梨賀艦長はあまりのひどいにおいに防毒マスクをかぶって露天甲板に逃げ出そうとしたが廊下を血相変えて走ってきた副長・参謀長や士官連中に突き飛ばされてしまった。

艦長は

「ひどいよー!なんで艦長をないがしろにするの?それにこういう非常時に持ち場を離れるなんて、ちょっと第6潜水艇を見習ったらどうよ!ええ!?」

と泣きながら叫んでいたが誰も耳を貸すものはなかった。

 

ハッシー・デ・ラ・マツコはトップに鎮座して吐きそうになりながらも

「ああ、ひどい目に遭ったわね。あたしさあ、あれって魚が入ってるのかと思ったらなによ、毒ガスだったのね。いったいどこの国の仕業かしらね?そういうのを、なんていうんだっけ?・・・トメキチあんた知らない?」

とトメキチに話しかける。トメキチはマツコを見上げて鼻をこすりながら

「非人道的、とかいうのよ確か。でもあの中身はお魚だって聞いたけど・・・きっとあれは新しい兵器だね。僕まだお鼻が変で困るよう」

と訴える。マツコはなぜか軽く痛む後頭部を羽で撫でつけながら、

「最悪!あたしの愛する魚であんなひどい兵器を作るなんて人間じゃないわよ。まったく」

とブツブツ。

その下の防空指揮所では麻生分隊士が見張兵曹の肩を抱きながら「大丈夫か?本当に大丈夫か?」と気を遣っている。見張兵曹はけなげに「はい、平気です」というがなんだか顔色が悪い。あれから数時間がたったがほとんどの航海科員が再起不能状態である。

「全く変なものを作りやがって、どこの誰だ!アメ公か!?絶対許さねえぞ!」

麻生分隊士の怒りはそのまま「某巡洋艦」「伊号4444潜」の乗組員の怒りであるが、・・・ひとこと言うならこれはアメリカさんの作ったものではない。

でも・・・どうしてスウェーデンの缶詰を連合国軍の輸送艦が積んでいたのか。しかもインド洋上を行く艦で?という疑問は誰も思いつかない。

だってーーこれがスウェーデンのものだなんてだ―れも知らないんだから――

 

           ・・・・・・・・・・・・・

とうとう、秘密の缶詰がそのベールを脱ぎました・・・

この「シュールストレミング」その匂いたるやあの<くさや>の比ではないと言います。そういえばずいぶん前に、何かの番組で林家こぶ平さんが小さなビニールでできた小屋のようなものに押し込まれ、この缶を開けたところその匂いに悶絶されてその小屋のようなものをぶっ壊し、スタジオ中おおごとになっていたことがありましたっけ。

いやあ・・私はこれは欲しくないです。はい・・・

 
シュール

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「女だらけの戦艦大和」・缶缶諤々1

ちょっとした<危機>が、「女だらけの帝国海軍」に忍び寄りつつあった――

 

それは、インド洋での通商破壊戦に従事した潜水艦や、巡洋艦・駆逐艦の間からまるで水面を渡る風のように広まっていったのだった。

<インド洋上・某巡洋艦内>

彼女たちは撃沈した商船、あるいは鹵獲した商船・艦艇からまず荷を下ろし、それを帝国海軍の輸送船等に積み替えた。

そのさい――

「ねえ、こりゃあなんだろうねえ」

と巡洋艦乗り組みのひとりの兵隊が大きな木箱を指して言った。その木箱は数こそ少ないが厳重に梱包されていてなかなか開けられそうにはない。

その兵隊の同僚も、

「うん、随分厳重な包み方だよね。・・・そうだきっとこれはものすっごく高価な物とか貴重なもの、あるいは珍奇なものかもしれないぞ!日本はおろか、世界でもまれな珍品かもしれん。だとしたらこれをやたらと開けちゃあいけないよね」

と言い、二人はそれを遠巻きにしてみている。

そこに一人の少尉が来て「なにしてんの?」と問われた二人の兵は、その箱を指して「これって・・・」と話し始める。

少尉は「ふーん、何やら難しい字が書いてあるね、何語だこりゃ?でも、私には読めないや!もしかしたらなんかの暗号かもしれないぞ、ワハハ!」と笑って行ってしまった。兵隊たちが(なあんだ、あの少尉は役に立たないや)と思うそこに、巡洋艦の副長・瀬古俊子中佐が狭い艦内を走りながらやって来た。兵たちはこの人なら、と思い同じ話をした。

瀬古副長は興味を示して、「ほう、それは是非開けてみよう。そうだ、艦長を呼んで」とさっそく乗り気になり、艦長の高橋なお大佐を呼ばせた。

高橋なお艦長も珍しい物好きなのでさっそくその箱を兵隊に運ばせ艦長室に。

厳重な木のふたを、運用科から借りて来たくぎ抜きやヤットコで開ける・・・と、中には銀色の缶詰がざっと二十個ほどきちんと並んで入っている。

高橋艦長はその一つを取り上げてみた。そして左手の手のひらに乗せると、右手人差し指の先で缶をトントンと叩いてみる。

副長が「なんでしょうねえ、中身は」と言うのへ艦長は、「たたいただけじゃわからないよ、副長。いっそ開けちゃおうよ。いいじゃないの一個くらい。なんだかわからない方が気持ち悪いじゃない?ねえ?」とほほ笑みながら兵隊たちにも同意を求める。高橋艦長の笑顔は、可愛い。

思わずうなずく兵二人に艦長はうなずくと、

「缶切りはないかね?・・・じゃあ、この海軍ナイフで」

というなり、缶の上部分に海軍ナイフを突き立てた――

 

<ペナン基地・伊号4444潜水艦>

何を隠そう、「伊号4444潜」もこのおかしな木箱が海上に浮かんでいるのを見つけ収容し今、ペナン基地に到着しようとしていた。

板倉艦長は、

「しかし今回は大物を撃沈できてよかった。しかも我々には損害がないって言うのが何だか作り話のようだがね」

と言って笑う。伊調水雷長も、「本当にこの伊・4444潜は武運艦ですよ。しかも海はこのような素晴らしい贈り物までくれましたし、ねえ」とうれしそうである。

板倉艦長は、足元の木箱を見下ろしながら「でもいったいこの中身は何なんだろう?変なものだったらいやだねえ」と言う。伊調水雷長は、

「はあ、何やら書いてあるんですが私には読めません・・・誰か読めるものがいればいいんですが」

と困り顔。そこに、通りかかった鈴木いちろ主計長、紙を丸めて作ったボールを軽く投げ上げながらやってきた。そして、

「おや、艦長何やらいいものを拾ったみたいですねえ。ダメですよ一人占めしようたってそうはいきませんぜ」

と右手の親指をグッと立てて見せる。その鈴木主計長に伊調水雷長は「この横文字が読める?」と聞いたが主計長も読めない。

鈴木主計長は「いっそこの箱のふたを開けたらどうです?中身を見れば字なんぞ読めなくてもわかるかもしれませんよ」と言い、艦長も同意。

工具が手元にないので、力自慢の・浜口きょう兵曹にふたをたたき割って貰った。余談だがこの浜口兵曹は、『大和』の機関長・浜口大尉の妹である。

ともあれ浜口兵曹はふたをたたき割って皆は箱の中を覗き込んだ。きちんと整列している銀色の缶詰が、ざっと二十個ほど。

板倉艦長はそれを一つ取り上げ、手にとってひねくりまわしている。振ってみるが音はしない。片手の指先でコンコン、と叩くが何かがぎっちり詰まっているようだとしかわからない。

「うーむ・・・」

皆が考え込んだ時、航海長の北島こう少佐がその場面を目撃し寄ってきて、

「開けりゃいいんですよ、開けりゃ。その方が考えてるより早いじゃないですか。何か開けるものはない?じゃあ、私のこれで・・・」

といい海軍ナイフを取り出した。皆が固唾をのんで見守る中北島こう航海長は「私が一番最初!うわああ、チョ―気持ちいい!」と叫んで缶の上部分にナイフを突き立てた――

 

<サイパン・女だらけの大和>

「女だらけの戦艦大和」はそろそろサイパンを出航する日が近い。

そんな中、海兵同期でサイパン守備隊員を務める士官から松岡修子中尉は「これあげる。なんだか中身は知らないけどインド洋で通商破壊戦があっての戦利品らしいよ?私もまだ開けてないから中身は知らないけどさあ」と、なにやらもらって来た。

「さあみんな。これをご覧?いったいなんだろうこれは」

と松岡分隊長は航海科の居住区に<それ>を五つほど持ってきた。分隊長の後ろには樽美酒少尉がいてその後ろにはなんだか気乗りのしないような麻生分隊士がいる。そして航海科の居住区の部屋の中をさっきから駆け回っていたハッシー・デ・ラ・マツコとトメキチも何事かと寄って来た。

麻生分隊士は、見張兵曹のそばに来るとそっと「なんだっていうてこがいなもん、ただの缶詰にきまっとろう?いまさら缶詰を珍しがったり驚いたりあきれたり有難がったりするうちらじゃなかろうが、なあ?」と愚痴った。麻生分隊士にしてみればたかが缶詰になんでこの分隊長は大騒ぎするのか、解せない。缶詰なんか酒保に行けばたくさんある。

その声を地獄耳の松岡分隊長は聞きもらさず、麻生分隊士に向き直ると

「麻生さーん。あなたそんなに気のないことでどうしますか!いいですか我々海軍軍人は何にでも興味を持って探求し研究し、そして解明しその結果を帝国日本の為に役立てないといけないという重大な使命があるんですよ?いいですか麻生さーん、その辺を念頭に置いてもっともっと熱くなってくれなくちゃ、いやですよ私は」

と話し出す。麻生分隊士はめんどくさくなって、

「ハイハイ。わかりました。・・・何なんでしょうねえこの中身。いやあ、もううちはなんだか知りとうてなりませんわ」

と半ば投げやりな感じで言った。皆が下を向いて笑いをこらえる。

が松岡分隊長は満面の笑みになると

「そうこなくっちゃいけないよ、麻生さん。・・・で、誰か缶切りを持ってないかね」

と皆を見回した。が、亀井一水も酒井上水も、石川水兵長も石場兵曹も、そして見張兵曹小泉兵曹も・・・要するに誰も缶切りは持っていない。

見張兵曹が「ほいじゃあ、分隊長。海軍ナイフで刺したらええんと違いますか」とおずおずと申し出た。松岡分隊長は大きく両手を広げて見張兵曹を抱くような格好になると、

「えらいねえ特年兵くん。さすがだね君は、伊達に麻生さんと割なき仲だって言うだけじゃあないね!機転がきくねえ、それも麻生さんの寵愛の賜物って言うものだねえ。熱くなってていいぞ!!」

と叫び出し、オトメチャンは真っ赤になるし分隊士はさらに真っ赤になっている。

そこにマツコが飛んできて、「ねえマツオカ。ゴタクはいいから早くこれを開けなさいよ。じらすんじゃないわよ、あたしはこの中身が魚だったらいただいちゃうわよ。いいでしょ、トメキチ」と分隊長の持っている缶詰をそのくちばしでくわえようと必死である。トメキチは「いいよ中身はおばさんにあげる。僕は空き缶で遊びたい!」とこれも分隊長に飛びつく。

その二人をなだめながら松岡分隊長は、

「じゃあ、ナイフを持ってる子は出してみて?」

と言い見張兵曹と四人の下士官と兵隊が「はーい」と出した。麻生分隊士が、「結構缶が厚そうじゃけえ。ケガせんように」と注意を与える。五人は「はい」と言うと、缶の上部に狙いを定めると、力いっぱい振りおろしたのだった。

 

それはくしくも、<インド洋上の某巡洋艦><ペナン基地・伊号4444潜><サイパン・女だらけの戦艦大和>ともに同じ時刻だった。

 

そして――ついに!!

   (次回に続きます)

 

          ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

さあいったい何のかんづめだったのでしょうか。

わかった!という方もここは沈黙を保って下さいませ!たぶん・・・あなたの思っているものかもしれませんぞ。

というわけで次回をお楽しみに。

海軍さんのナイフ
海軍さん使用のナイフです。これで綱を切ったりしたそうで高所使用の際落とした時の危険を考慮して先は平らなんだそうです。
これで缶に穴をあけるのはちと大変かもしれませんがその辺は差し引いて読んでくださいな。(画像お借りしました!)



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「女だらけの戦艦大和」・○○は止められない!

「伊号」4444潜水艦は、インド洋での通商破壊戦を終えてペナン基地へと帰投中である――

 

4444潜の艦長・板倉みつま大佐は上機嫌である。誰かれなく話しかけては鼻歌交じりで浮き浮きと艦内を歩き回る。

兵たちは

「艦長エライご機がいいねえ。まああれだけの大物を撃沈したんだから無理もないか」

と笑い合う。あれだけの大物とはイギリスの大型輸送船を三隻とその護衛艦を四隻沈めたからである。

日本海軍の潜水艦は、敵のソナーに引っかからない特殊な塗装を艦全体に施してあるのでかなりの至近まで寄っても浮上しない限り気づかれない。

が、用心に用心を重ねた板倉艦長は船団から15キロメートル離れた所から潜望鏡で敵の動向を観察したうえで、

「魚雷戦用意!」

を命じたのだった。艦内の兵たちが忙しく動き回り魚雷の装填がされる。艦長は潜望鏡で船団を追いながらその時を待つ。伊号潜水艦自身も静かに海中を走りながら。

そして、

「ぎょらーい・・・テーッ!」

の艦長の叫びとともに、日本海軍が最近開発した<散開魚雷>を発射した。この<散開魚雷>とはまず大きな魚雷が発射されそれが敵艦船の手前数キロ程度に至ると大きな魚雷――母体ともいうべき――から小さな魚雷が三十個ほど飛び出し、敵の艦船に襲いかかるというものである。もちろん大きな魚雷も敵に突進してゆく。

今回この<散開魚雷>で板倉艦長の「伊4444潜」は大戦果をあげたのだった。

魚雷が発射され、潜望鏡で見守る艦長の目に真っ赤な火柱がいくつも見えた。それはとりもなおさず敵の船団が撃沈されたという証拠の火柱。

艦内でかたずをのむ兵員たちはその瞬間、衝撃が艦を揺らしたのを感じ(やった、やったね)と確信したのだった。

水中聴音器で様子をうかがっていた兵はその時、「ピシイ!」と鋭い音をいくつも聞いた、これこそ散会した魚雷たちが敵の艦船にあたった瞬間の音である。

敵艦船はあるものは真っ二つになり、あるものは船底をえぐられて沈んでゆく。乗組員たちは、破壊された艦の一部などにつかまっていたがやがてやってきた日本の駆逐艦たちに引き上げられ捕虜となって収容所に送られるのであ

 

実はペナン出航前には、「伊号4444潜?四が四つもある不吉な潜水艦だからねえ、撃沈されなきゃ御の字だね~」などとかげ口を叩かれたりしたものだが、板倉艦長は

(何を言うか、見よこの戦果を。四が四つも重なって、これこそ<四合わせ(幸せ)>の艦じゃないか。くだらん迷信なんかこの戦争に持ち込むんじゃあ、ない。迷信があったとしても自分たちでうち破るのが海軍精神じゃないか?)

と思っている。

ともあれ、艦内は祝賀ムードになって艦長は主計長に、

「主計長、今夜はお祝いです。思いっきりごちそうを出して皆をねぎらってやってください」

と言い、主計長もうなずいて「はい、今夜は赤飯を出しますのでお楽しみに」と言って笑った。そしてその晩は皆が大喜びするほどのごちそう――と言っても数週間ほど潜航していた後のごちそうだからその辺は差し引いて考えてほしいが――で、赤飯にウナギ、コンビーフ缶、それにパイン缶。そしてビールも出され、小躍りして喜ぶ兵たちに班長は

「ビールを飲むのもよいが過ごしてはならんぞ。いいか、まだ基地に帰ったわけではないからな。気を引き締めるためのビールであるからそのつもりで。なおこのビールは板倉艦長から皆への褒美であることを忘れるなよ」

と戒める。兵員たちは「わかりました!」と言い、大事にビールをいただく。

 

さて、おとなしい兵員たちとは打って変わって艦長・水雷長・航海長・機関長たちが集まると大変な酒盛りが始まってしまった。

最初のうちこそ「いやあ、明日も明後日もあるから」「この後見張りの当直だしぃ?」とか、「ちょっとまだ緊張が解けないからあまり飲めないよ?」なんてしおらしいことを言っていた各長たちも酒が入るに従って大胆になってきた。

ビールからいつの間にか、日本酒に酒の種類も変わってきている。空き瓶が周囲にごろごろ転がり始める。

メートルも、上がり始めている。しかし皆「伊号潜水艦」の中でも酒豪と言われる連中の集まりだけに乱れもしない。

しかし・・・時がたってくると催して(・・・)くる(・・)もの(・・)がある。一人、また一人と厠に立っては戻ってくる。

板倉艦長はそんな科長たちを見ながらさらに飲む、飲む飲む・・・・

 

だが等々、板倉艦長にも催し物招待状がやってきてしまった。(ええ、めんどくせえなあ)と思いつつ「ちょっと外すよ・・」と席を立つ艦長。厠に行くと誰か先客がいて、艦長はもう我慢ならなくなった。大波が連続して押し寄せてくるではないか!?

(どうしよう・・・)と思うともうたまらない、腰が引けて妙な格好になっている自分に気がつくと(艦長たるものがこんなかっこでは皆に馬鹿にされる。ああでもどうしよう・・・だから潜水艦ってこういう時嫌なんだよな・・・ああもう!)と忌々しく思う。

と、艦長の頭に電光のように閃きが走る。

(そうだ、今は浮上航行中だ。周囲に敵はいない、月明かりも今夜はちょうどいい明るさのようだし、とくれば!)

艦長は司令塔のラッタルを目指した。途中出会った兵曹に、

「ちょっと私は外に出るが、絶対決して誰も上がってこないように見張っててくれるかな?お願い!」

と言うなりあっという間にラッタルを駆け上がり、そして艦の外に出て行った。

 

「おお~・・気持ちいい」

板倉艦長は、月明かりにキラキラと光る夜の海を見つめつつ大放尿中である。我慢した後の放尿はなんて気分がいいのだろうか。

艦長はやがて用を済ますと、立ちあがった。褌をしめなおし、ズボンを引き上げ防暑服の上着の裾を中に入れてベルトを締めた。その足元が少しふらつく。ありゃこれはいかんなあ、酒をやりすぎたかとひとりごちた板倉艦長、夜空を見上げて深呼吸――と思った次の瞬間!

 

ドボーン!

 

板倉艦長は大きく体のバランスを崩して艦上から海へと転落していたのだった。

「ギャッ!誰か・・・」

と叫ぶ艦長であったが艦が波を切る音にかき消される。艦長は、伊4444潜から引き離されて行く・・・。

 

先ほど声をかけられた兵曹嬢は(どうしたんだろう艦長。ハッ!もしかしたらご気分が悪いのかも、だとしたらこうしてはおれん)とその場を通りかかった上等水兵嬢にこれこれこうのようだ、と話すと二人は艦の外に出るためラッタルをあがってゆく。

「艦長大丈夫でしょうか、ご気分が悪いのならすぐに軍医長のところにお連れしましょうね」などと話しながら。

艦の外に出てあたりを見回した兵曹嬢が、急に海を指して「ああ、艦長が!」と叫んだ。そこには片手を大きく上げて流されて行く板倉艦長の姿が!

さあ、伊号4444潜は上を下への大騒ぎになり航海長や水雷長はじめ艦内総出で艦長を救出したのだった。

やがて艦に引き上げられ、ぬれ鼠になった板倉艦長は総員を前にして

「・・・と酒を過ごすとこういう目に遭うから皆はくれぐれも過ごさぬように。酒は飲んでも飲まれるな。ともかくも・・・迷惑をかけた、済まなかった、そしてありがとう」

と謝罪と訓示をしてそそくさと艦長室に帰って行ったのだった。とても気まずかった・・・

 

だが、伊号4444潜の誰も、誰一人として艦長が「放尿の為艦上に出て転落した」とは思っていないのが板倉艦長には救いであったとさ――。

 

       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

危ない危ない・・・

板倉艦長、いくらなんでも酒飲んで潜水艦の外でおしっことは(;一_)

でもアルコールを飲むとトイレが近くなりますね。あとコーヒーも、スイカも・・・。ともあれ皆さまも尿意を感じたらすぐに、トイレにゴー!ですぞ。

板倉光馬さん

板倉光馬少佐の実話をもとに創作いたしました・・・。板倉少佐は中尉になってから潜水艦に初めて乗り以来、潜水艦畑を歩んでこられた人です。戦争末期には回天指揮官になられたことでも有名。平成1710月、92歳で逝去。



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「女だらけの戦艦大和」・捕虜来たる2<解決編>

連合国軍の捕虜・ヨソー・ガイダネエ一等兵はその部屋に入るなり、その場に立ち尽くしてしまった――

 

「おいっ」と、宮里大佐がヨソー一等兵の肩を押し田宮兵曹の顔を見て、

「田宮兵曹、こいつをそこに」

と促した。伊部兵曹長が自慢の軍刀を持ったまま見つめている。

田宮兵曹はヨソー一等兵をそこ(・・)に導いた。そこは・・・

まるで病院の診察台のような素っ気ない寝台のようなもの。田宮兵曹はヨソー一等兵にそこに横になるように言った。ヨソー一等兵は呆然としてその場に立ち尽くしている。

「コ、ココニ?イッタイココデわたしニナニヲするとイウノ?」

ヨソー一等兵は恐怖に震えた。ここで、この場所で先の二人の上等兵たちも拷問され・・・殺されたのだろう。ああ、やっぱり日本人は鬼畜なんだわ。野蛮人なんだわ・・・

顔色を真っ青にしたヨソー一等兵に、田宮兵曹は目隠しをした。もうヨソー一等兵は恐怖のあまり歯の根も合わずガタガタ震えている。絶望がその全身を走り抜ける。

「そこに、寝ろ」

田宮兵曹の言葉に、ヨソー一等兵は意外に素直に従った。(オトナシクシタラ、アルイハ、コロサレハシナイカモ?)

横になったヨソー一等兵、その耳に宮里大佐の声が響いた。なんといっているのかは分からないが、重々しい言葉の響きにヨソー一等兵は遂に自分の最後の時が来たと覚悟した。心の中で十字を切った。

その時、数人の手によってヨソー一等兵の両手両足ががっちりと抑え込まれた。ヨソー一等兵は思わず身を固くした。来る、きっと来る。あの偉そうな兵士が持っていた日本刀で切り刻まれるんだわ・・・ああ、フロリダのママとパパ、私はこんな辺鄙なところで一生を終えます。もう一度ママとパパと一緒にオレンジ畑に行きたかった・・・

涙が一条、目隠しの後ろから流れた。

「かかれ」

低い宮里大佐の号令が狭い室内に響いた。と――

「ギャアアア!ウホ、ウホ、ウホホホホ!!」

とヨソー・ガイダネエ一等兵のすさまじい笑い声が響き渡った。ヨソー一等兵は両手両足を数名の水兵に抑え込まれ、そしてなんと、上着をたくしあげられてその腹やわき腹、あるいは足の裏を宮里大佐と伊部兵曹長に<ねこじゃらし>でくすぐられている。

そのくすぐり方が絶妙でヨソー一等兵は悶絶している。宮里大佐は、

「さあ、貴様たちはいったいどういう目的でどこに行くつもりだった?はっきり言え、言わんともっとやるぞ、悶絶して死にたくないなら言え!」

とヨソー一等兵のわき腹をこちょこちょしながら叫ぶ。ヨソー一等兵はウホウホウホホと笑ってるのか泣いてるのか自分でもわからないくらいである。

こちょこちょは、約二十分ほど続いたが、

「ダメだ。こいつらまったく口を割らない。何も知らないのかそれとも隠してるのか」

宮里大佐はさっきと同じ言葉を言った。伊部兵曹長が、鞘に入ったままの軍刀をドン、と床に突き立てた。そして、

「おい田宮兵曹。もっときちんと聞け。知っているのに知らんふりなら冗談抜きでシメる。我々も暇ではないのだ!」

と怒鳴った。田宮兵曹は兵曹長からねこじゃらしを手渡され、「これでこちょこちょしながら聞け」と命令され渋々従う。

「ヨソー一等兵とか言ったな。あんたがたの目的はなんだ?正直に言ってくれないか?私もこんなことをするのは本意ではないんだ」

田宮兵曹は流暢な英語を操りながら、一等兵の足の裏をこちょこちょと猫じゃらしでくすぐる。ヨソー一等兵はもう涙を流してウホウホウホホ・・・とわらいもだえながら遂に、

「イ、   イイマス、イウカラモウ、コレヤメテクダサイ~」

と叫んだ。

田宮兵曹は一等兵の手足を抑え込んでいる水兵たちに退くよう言った。水兵たちはそっと離れる。宮里大佐は引き起こされたヨソー一等兵の前に立ち両腕を組むと、

「どうするつもりだった?さあ言え」

と促した。ヨソー一等兵は腹をさすりながら語った。

それによれば連合国軍はケント・ギルバート諸島を攻略して日本海軍の東への進撃を食い止めようと作戦を練り、彼女たちがその第一陣だったという。

「ジャップ、ジャナカッタネ日本ハアホダカラ、ココマデ眼ガトドカナイダロウカラトイウノデ、駆逐艦四隻デ輸送船ヲマモッテキタンダケド」、ケント・ギルバート諸島の東には日本艦隊が演習中と言うのを索敵機が無電で知らせて来た。その索敵機も日本の艦艇の砲撃で撃墜されたようで未帰艦になった、だもんで進路を大きく変更しマーシャル群島の北方から回り込むような格好で南下しようとしたらクサイヘ島付近で日本の守備艦隊につかまって撃沈の憂き目にあった、というのだ。

それを通訳された宮里大佐の顔が憤怒の形相になっていて田宮兵曹はもちろんいかつい顔の伊部兵曹長も驚いた。宮里大佐は怒りのあまり白目をむいて鼻息もフーフーと荒くつきながら、

「貴様あ・・・黙ってりゃあいい気になって何がジャップだ、何が日本はあほだ!あほはどっちだよ、ええ!?全くもっと痛い目にあいてえか?ああ!?」

と今にもつかみかからんばかりの勢い。その勢いに伊部兵曹長はあわてて宮里大佐を押しとどめ、

「宮里大佐、お怒りはごもっともですが捕虜をいじめてはいけません。国際法違反で処罰されますぞ」

といさめた。宮里大佐は、「くっそう、もっと強烈なこちょこちょをしてやりたいな」と不満そうである。

ヨソー・ガイダネエ一等兵は大佐の怒りに(ナンデコノヒトそんなにオコッテルノ?ワタシ、ソンナニワルイコトイッタカシラ?)と再び恐怖を覚えている。

ともあれ。

ヨソー・ガイダネエ一等兵は「収容所へいれる」ということで、先に尋問を受けていたソンナ・コッタ上等兵とナン・ノコッチャネ上等兵とともにクサイヘ島の簡易収容所に送られることになった。

護送車の中でヨソー・ガイダネエ一等兵は二人の上等兵に、

「ゴメンナサイ。キツイ拷問ヲサレテツイシャベッテシマイマシタ」

と謝った。ナン・ノコッチャネ上等兵が憔悴しきったような顔で、「シカタナイワ、アンナすっごい拷問サレタラダレダッテシャベッチャウワ。オソルベシ、日本軍ノ<こちょこちょ>作戦。アレヲサレタラ、キット・・・マッキーサー将軍ダッテ降参スルワヨ・・・」と言い、ソンナ・コッタ上等兵もうなずいたのだった。

簡易収容所に収監された三人はとりあえず命だけは助かった、と手を取り合って喜んだが翌日の朝から食事に出される<納豆>に、

「ギャアア!コレッテ、新手ノ拷問デスカア!、NO~~~!」

と絶叫し、捕虜の世話係の兵はそれを見て

「おお、アメちゃん。納豆好きかあ、泣いて喜ぶなんてなあ~。明日っから倍にしてやるから喜べよー!」

と言い・・・翌日の朝から倍の量に納豆が増えていたという。

しかし、郷に入りては郷に従えなのかそれとも習うより慣れろなのかなんなのかよくはわからないが、彼女たちはやがて納豆にすっかり慣れて毎朝の納豆付ご飯を心待ちにするようになり、クサイヘ島の海軍守備隊員の間では<納豆アメちゃん三人組>としてアイドル的存在になっているという――

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・

変な話!

外国人モノにありがちな納豆オチでした。しかしあの大戦中、日本の捕虜となったアメリカ軍の兵士に納豆を食わせたらあとになって、「クサッタ豆を食わせた!」と問題になったと聞きました。

全く食文化の違うアメリカ人には納豆は<クサッタ豆>でしかないんですね。おいしいのになあ~。


納豆! ねこじゃらし・えのころぐさ
今回御出演頂きました、納豆・ねこじゃらし(ねこじゃらしは俗称。本名?エノコログサ)のみなさんです。(画像お借りしました)



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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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