2012年05月|女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

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「女だらけの戦艦大和」・嵐の中で3

2012.05.29(23:55) 503

台風はついにその牙をむき出しにして襲いかかって来たのである――

 

・・・その晩二〇〇〇(午後八時)、ついに強風が吹き始めた。海上は白い波しぶきが立ち視界があっという間に悪くなった。二一〇〇(午後九時)過ぎには雨さえ降りだしそれが艦全体に叩きつけて来た。

梨賀艦長は第一艦橋からそれを見て「総員警戒せよ。最上甲板に出ることを禁ず。各分隊長は分隊員の動向を掌握せよ」と命令を出した。つまり、分隊長においては各分隊員がどこにいるか、その所在を確認しておけということである。どこの分隊長もそれを聞くや、一散に居住区や各配置に走って行って「○○分隊集合!」の号令をかける。

そして皆の所在と安全を確かめるとまた、自分の持ち場に散ってゆくのである。

十三分隊の松岡分隊長も分隊の総員を集めてその所在と安全を確かめた。そして麻生分隊士を見返って、

「麻生さん、じゃあ私と一緒に来てくれるかな」

と言い麻生分隊士はちらっと見張兵曹を見てから「はい」と返事をして分隊長と行こうとした。その目の端に樽美酒少尉がそっと見張兵曹の手に触れるのが見えた。

(こいつ、絶対許さねえ)

麻生分隊士の口が思い切りひんまがった。その分隊士の手を松岡分隊長はしっかり握ると「さあ、麻生さん急ぐよ!熱くなろうぜ―、でっかい台風だあ!今日から君も台風だ!」というと走ってゆく。それを見た見張兵曹の顔が曇り、樽美酒少尉は・・・。

その頃にはトメキチとマツコは航海科の居住区に収容され、マツコは「怖いわねえ。タイフウって言うんですってよこの嵐!」と感にたえたように言ってくちばしをカタカタさせた。それを見て航海科の兵たちが「おお、見てぇ?ハシビロがよろこんどるわ」と手を叩いて大笑い。トメキチは酒井上水の膝に入って「おばさんでもその言い方じゃ、怖そうじゃあないねえ」と言って笑う。マツコはその目を細めると、「まあ、これより怖いことが今晩か・・・明日の晩までには起きそうな感じがするからね」と言って・・・トメキチはなんとなく背筋がぞっとしたのだった。

 

さらに翌日、台風はその猛威を存分にふるい始めた。天辰中尉は「これから明日明後日くらいが正念場ですね。気を引き締めてゆきましょう」と梨賀艦長、野村副長に言った。梨賀艦長と副長は重々しくうなずいた。艦橋の外を、どこからか吹き飛ばされてきた木の枝が飛ぶのが一瞬、見えては消えた。

 

その晩も遅く、下甲板の艦首側の一角で・・・

バシッ!と一発の鉄拳が鳴って一人の士官が廊下に倒れた。倒れたのは誰あろう樽美酒少尉、殴ったのは麻生分隊士である。麻生分隊士は松岡分隊長との仕事が終わった後樽美酒少尉を呼び出していきなり殴ったのだった。

「貴様、なんで見張兵曹に手を出すんだ!見張兵曹は・・・兵曹は、おれのものだ!」

そういうと倒れた樽美酒少尉を引き起こした。そして食いつくように

「なんで兵曹にちょっかいかける!?ああ?どういうつもりなんだ、ええ!?」

と言ってゆすぶった。樽美酒少尉が何か言いかけるそこに、誰かが知らせたのだろうか見張兵曹が駆けつけて来た。

樽美酒少尉をつかんだ麻生分隊士の腕にすがって、

「お願いであります、分隊士。もう乱暴は止めてつかあさい」

と懇願した。樽美酒少尉が「大丈夫だから、麻生分隊士に今から私がお話しするから」というのを遮って、麻生分隊士は「オトメチャンはあっちに行ってろ!俺は樽美酒少尉が許せんのじゃ!・・・大事な、大事な俺のオトメチャンを・・・」と怒鳴って樽美酒少尉を締めつける。「・・・ぐッ・・・」と樽美酒少尉の喉が少し鳴った。

と、見張兵曹の顔が歪んで涙がボロボロ流れた。そして

「うちはこがいなことをする分隊士が許せん!それに、分隊士が樽美酒少尉を殴ってええなら、うちだって、うちだって、・・・を殴りた・・」

最後のほうはかすれた声で聞き取れなかったがオトメチャンは、くるりと背を向けると走り去ってしまった。麻生分隊士は「オトメチャン!」と鋭く叫ぶと樽美酒少尉から手を離して、「樽、一時休戦だ。オトメチャンを追うぞ!」と言い樽美酒少尉も「はい!」と叫んで麻生分隊士の後を付いてゆく。

 

オトメチャンは寝静まった艦内を泣きながら走っていた。(分隊士のあほ。どうして樽美酒少尉を殴るんじゃ。うちだって、うちだって・・・)

その足音を聞きつけてまずトメキチが居住区の床から顔を上げた。次に入り口近くに立って眠っていたマツコも目を開けた。トメキチとマツコは顔を見合わせた。マツコが「・・・あの小娘の足音ね。泣いてるようよ、どこへ行こうってのかしらねえ」とつぶやいた。トメキチが「ずっと上の方に行ったみたい。・・・まさか、ねえおばさん!」

その声を合図のようにマツコとトメキチは居住区を飛び出していた。マツコは長い脚を器用に動かして走りながら、

「全くばかな小娘ねえ、こんな日に外に出ようとするなんて自殺行為よ。いったい何があったって言うのかしらねえ」

とぼやく。トメキチにはうっすらと理由がわかるような気がしていた。(このところ麻生さんとトメさんはあまり一緒にいる機会がないし、あのお休みの時もあちこち行ったりして疲れたようだったし。いつも夜になるとトメさんのお布団に入っちゃう麻生さんがそれをしない日もあったしね。最近松岡さんがやたらと麻生さんを触ること多いからトメさんは気が気じゃないと思うんだよね。それがもしかしたら?麻生さんは麻生さんで樽美酒さんがトメさんに接近してると思ってるみたいだし)

 

オトメチャンは泣きながらラッタルを駆け上がる。そして艦橋内に入って防空指揮所へひた走る。途中の部屋にも誰かがいたはずだが、皆台風の警戒で神経をとがらせているからちょっとくらいの物音には耳も貸さないようで、オトメチャンが泣きながらあがって行ったのを誰も知らない。

やがてオトメチャンは、指揮所の重い扉を開いた。

ドオオオ・・・とものすごい風の音と風圧に気押されそうになりながらもオトメチャンは扉の隙間に体をねじ込むようにして指揮所に出た。

オトメチャンの小さい体を吹き飛ばさんばかりの雨と風が吹きつけてくる――

 

           ・・・・・・・・・・・・

さあたいへん。

麻生分隊士とオトメチャンの間に何があったのでしょう。台風も佳境に入ってきたようです、どうなる、「女だらけの大和」!?

 

台風とは無関係ですが好きな歌です。「如何に狂風」。



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女だらけの戦艦大和・総員配置良し!


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「女だらけの戦艦大和」・嵐の中で2

2012.05.28(21:35) 502

「天辰気象班」苦心の作のラジオゾンデから無線が入って来た――

 

それを解析した天辰中尉の顔が暗い色を帯びた。周りで見守っていた森田兵曹や南兵曹と言った気象班の面々も「・・・これは」と息をのんだ。

「まずいなあ、最近にない最大級の台風が来る。しかも予想より早くなりそうだね。艦隊をどこか風除けのできる港か入り江に入れないと被害が出よう。森田兵曹、私は艦橋に行ってくるから後をよろしく」

天辰中尉はそういうと気象データを書き込んだ紙をつかんで走り去った。森田兵曹たちは「はいっ」と返事をするとそれぞれ気象図や通信機に向かう。

 

天辰中尉の報告を受けた梨賀艦長・野村副長はこれを重大事項と受け止め、巡洋艦<矢矧>および駆逐艦隊に警戒情報を流し、艦隊は二見港の奥深くにその身を寄せることにした。作業開始時間は「一四〇〇とする」ということで皆はその準備に大わらわになった。あと二時間しかない。

見張兵曹が指揮所から空を見やるとさっきより雲の流れが速いのがわかる。傍らの小泉兵曹に「なあ、雲の流れがえらい早うなったで。これは予想よりも早う来るんと違うじゃろうか」というと、小泉兵曹も「ほうじゃね。ほいでもこがいに天気言うもんはパッと変わるもんかねえ」と少し不安げに言って、二人は空を見ている。

そこに麻生分隊士が来て「おーい、天辰中尉がおっしゃるにはこの様子じゃと明後日までには大風になる言うことじゃけえ、双眼鏡をしっかり固定しとかんといけんぞ。覆いも掛けるようかもしれんで?工作科に頼まんといけんかのう」と言って二人の間に入った。見張兵曹が分隊士の顔を見て「はい、左三番の双眼鏡がちいとぐらついておりますけえ、今すぐに工作科を呼びます」と言って三番の双眼鏡を指した。麻生分隊士は「おお、そうね。ほいじゃあすぐに頼むで」と笑顔になって言うと「うちはまだ見て回るところがあるけん」と言って出ようとした。

そこに松岡分隊長が入ってくると「麻生さーん。ここにいたのお?早く下に来てくださいよね、航海科としても台風対策を講じなきゃいけないんですから」というなり、分隊士の手をつかんで指揮所を出て行った。はいはい、行きましょうという麻生分隊士の声だけがあとに残って、見張兵曹の目元が微妙に歪んだ。

ともあれ兵曹は工作科に電話をすると双眼鏡の固定を依頼したのだった。

 

マツコがトップのトップから一段降りてきた場所でそれをじっと見ている。そしてその大きなくちばしをカタカタさせて「・・・あいつら、どうもへんね。何があったのか、何があるのか。これは大変なことになるかもよ」という。しかしそれに応えてくれるはずのトメキチは今は艦長室にいるので答えは当然ない。それに気がついたマツコ、「・・・ここで何か気の利いた事を言うのがあいつの役目なのに!あいつらって誰?とか何かって何?とかさあ!」と唸って羽を大きく広げた。

 

松岡分隊長、麻生分隊士は第一艦橋で片山航海長・花田掌航海長のもとで港での錨の入れ方や、艦首をどの方向に向けるかなどという難しい話をしている。その場には当然だが航海長付の樽美酒少尉もいる。その少尉に、麻生分隊士は少し挑むような目つきを向けている。樽美酒少尉はそれを感じないのか全く普通にしている。

「・・・ということでよろしいな。艦首はどれも北向きに入れ『大和』を中心にした形で入港させる。湾にはなっておるがそれほど大きな台風なら覚悟はしとかぬといけない。万全の態勢で臨もう。想定外のこともあるやもしれん、皆の意見等聞きながらやってほしい」

片山航海長はそう言って話を締めくくり、掌航海長とともに操舵室へ急ぐ。

松岡分隊長は「麻生さん、急いで指揮所に行こう。出航まで時間がないよー!」と言ってまたあのラケットを軽く振った。分隊士は危うくぶつかりそうになるのをかわして「分隊長、ラケット振るんは止めてください。危ないですけえ」と言い、樽美酒少尉の前を通る時(オトメチャンに触れるんじゃねえぞ!)と心の中で脅して過ぎた。樽美酒少尉はその二人を見送ってから自分も操舵室に駆けてゆく・・・

 

<矢矧>の古村艦長も『大和』からの知らせを受け取って、「急ぎ出航準備、時間がない。急げ!梨賀に負けるんは癪だ、きっちりやれ!」とこれまたおかしなことを言い、副長の和田アキ中佐に笑われる羽目に。

しかし笑っている暇はない、台風はその猛威をあらわにして刻々と小笠原に接近中である。

駆逐隊も「急げ、でかい台風じゃ勝ち目はないぞ。艦がひっくり返るんは嫌じゃけえね」とばかりにあっという間に準備を整えると「ワレ 出航準備 完了セリ」の発光信号を発して『大和』に知らせる。

梨賀艦長はそれぞれの準備が整ったのを確認するとおもむろに、「錨あげ!微速前進、ヨウソロ」と伝声管に向かい発令。

『大和』ほかの艦艇は、抜錨すると島の南から二見湾に向かい進み始める。その上空を、台風からの雲が行き足も速く飛んでゆく。

 

それから間もなく、艦隊は二見湾の奥深くに投錨し、台風をやり過ごすことになった。

艦隊が投錨するのを待っていたかのようにそれから風がだんだん強くなってきた。低い雲もどんどんすっ飛んできていやがおうにも「台風が近い」と思わせる。

見張兵曹は「トメキチもハシビロも、そこにいたら危ないで。うちと一緒に下に行かんか」と言って二人を連れて居住区に降りて行った。

居住区に降りるラッタルを降り切った時、樽美酒少尉と行きあった。少尉に敬礼する兵曹に樽美酒少尉は優しく微笑んで、

「この二人をどこかに置くんだね?どこがいいだろうか」

と考える。見張兵曹は二人を見てから「まあ、そげえに長いこともない思いますけえ航海科の居住区に置いておきます。樽美酒少尉ももしお時間があったら夜にでも居住区にいらしてください」と言って笑った。樽美酒少尉が「でも私が行ったら皆は気づまりではないかしら?」というのへ、兵曹は「そがいなことありませんけえ、ご遠慮のうどうぞ。この子らもまっとりますけえ」と言った。樽美酒少尉は嬉しそうにほほ笑むと、「ありがとう。じゃあ、今夜にでもお邪魔しようかな」というと見張兵曹のほほから肩をそっと撫でた。オトメチャンはちょっと体を固くしたが少尉は何事もないような笑顔でオトメチャンを見ている。

そして、兵曹は少尉に敬礼してその場は分かれたのだった。

 

が。

その様子を麻生分隊士が見ていたのだった。(あいつ!俺のオトメチャンに触ってる、どういうつもりなんだ一体)口が思いっきりひん曲がる、そして怒りは見張兵曹にも向けられる。

(オトメチャンもオトメチャンだ。黙って樽やろうに身を任すなんてどうかしてる!)

だが、不意に思いなおす分隊士、(いや待てよ、おれのオトメチャンだ。そんな不貞なことをするわけがない。もしかしたら樽野郎に脅されて・・・?)と考えて、(それならオトメチャンを助けんといけんな)と決意を固める。

 

『大和』がその身を浮かべる海、その波がだんだん高くなってきた。そして――麻生分隊士の心の波も高くなってきている。

 

そして台風はその翌日の晩からその獰猛な牙を『大和』にむきだして来たのであった――

(次回に続きます)

          ・・・・・・・・・・・・・

 

いよいよ台風襲来です。そしてマツコとトメキチは!? 麻生分隊士とオトメチャンは!? そして樽美酒少尉は!? それぞれこの悪天候にどう立ち向かうんでしょうか?

次回をご期待下さい。

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女だらけの戦艦大和・総員配置良し!


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「女だらけの戦艦大和」・嵐の中で1

2012.05.26(22:42) 501

「女だらけの戦艦大和」を含むトレーラー帰島組は、思いがけず小笠原諸島父島に足止めを食うはめになる――

 

出航を明後日に控えた朝、第一艦橋の梨賀艦長・野村副長を気象班の天辰中尉があたふたと訪れた。

「天辰中尉、入りますっ!」

との大声に、梨賀艦長と野村副長は何事かと海図台に広げた海図から顔を上げた。「どうしたね、天辰中尉」と副長が言うと天辰中尉は手にした気象図を海図台に広げた、そして艦長と副長の顔を交互に見ながら緊張の面持ちで

「グアム基地気象隊からの情報ですと三日ほど前にマリアナ諸島周辺海域東方に置いて台風が発生し、こちらに向かっているようです。台風は大変に大型で瞬間最大風速は30メートル超、中心気圧は959mb。時速15キロほどで北上中です。小笠原諸島には遅くとも四日後には接近の様子です」

と言って、少し広い額に汗を光らせている。梨賀艦長は、「なに。台風が、そりゃあいかんなあ」と腕を組んで考え込んだ。副長も「でかい台風ですね、こりゃあ動けませんよいずれにしても。数日から一週間はここにくぎ付けですなあ」と言って窓から空を見やった。空は今はまだ台風の陰りを感じさせない青い空である。

「で、」と艦長は言った、「巡洋艦・矢矧と、駆逐隊には知らせてあるのかね」。天辰中尉はうなずいて「はい、矢矧の古村艦長と駆逐隊司令にはすでに」と言った。

艦長はうなずくと「ならいいだろう。艦隊すべてに損害なきよう万全の態勢で臨むよう」と言った。天辰中尉ははい、と返事をして気象図をひっつかむと風のように艦橋を出て行った。それを見送ってから梨賀艦長は、

「副長、『大和』も被害なきよう万全の備えをせよと全艦に伝達。間違っても損害を出して古村の笑い物にならぬように!」

と命令。最後の<古村に~>という大変珍奇な言葉に「・・・へっ!?なんですって?」と思わず聞き返した副長ではあったが、梨賀艦長と古村大佐は兵学校時代からのライバル、いや天敵同士であるのを思い出した。そして、気を取り直すと

「はいわかりました。総員に周知させます」

というとあわただしく階下へ降りて行ったのだった。

 

そんなことを艦長たちがしているころ、トップのトップの住人<ハッシー・デ・ラ・マツコ>とトメキチは風の匂いに変化を感じ始めていた。マツコが大きく羽を広げて「ねえトメキチぃ、あんた風に変なものを感じない?」というとトメキチも鼻を天に向けてクンクン鳴らしながら「きそうよ、おばさん。大きな台風だね」と言ってマツコを見た。マツコもトメキチを見て「いやあねえ、怖いわよ今度のは!ちょっとアタシどこにいたらいいかしらねえ」と困ったように言う。トメキチも困って「そうねえ、僕ちょっと考えてあげるね」と言って考え込む。

 

そんな嵐の兆候が表れ始めたころ、人の間にも嵐の兆しが・・・

防空指揮所でいつものように見張兵曹は当直をこなしている。不意に下から大声が聞こえてきてその方を見下ろせば麻生分隊士と松岡分隊長がなにやらわめきあっている。いつものことのようだがなんだかこのところ分隊士も楽しそうに見えるのはどうしてだろう。二人はさんざ喚き合った挙句、松岡分隊長が分隊士の手を引っ張って甲板を走りまわる。見張兵曹はふうっ、と一つため息をつくと交代のために来た酒井上水と敬礼を交わしてから居住区へ降りて行った。

 

麻生分隊士は松岡分隊長と別れてから第一艦橋に上がって来た。そして何気なく中を見やるとそこでは、樽美酒少尉が見張兵曹と親しく話をして優しく微笑みかけ、しかもその肩に優しく手をかけている。

とたんに。

麻生分隊士の普段から少し曲がった口が思い切りひんまがった。(あの樽野郎、俺のオトメチャンにちょっかいかけやがって!)とまるでオトメチャンの情夫か何かのような感じである。

分隊士はその場は黙って通り過ぎ、踵を返すと士官次室へと向かって行った。

 

通信科の気象班では、台風の進路の予測に余念がない。

気象班では天辰中尉が開発したというラジオゾンデを上げることにしたようだ。それを聞きつけた皆が最上甲板に集まってがやがや騒いでいる。その中で作業に懸命な天辰中尉ほか気象班の面々。「天辰中尉、これがうまく行けばまた『大和』の天辰中尉は名をあげますね」

そう言って笑うのは気象班の主席下士官の森田上等兵曹。森田兵曹も気象班の一員として頑張ってはいるがなかなか天気予報が当たらないのが悩みである。森田兵曹に言われて天辰中尉は面映ゆそうにほほ笑んで「そんなこと、私だけの手柄になんかできませんよ。これは気象班みんなの汗と涙の結晶なんですからね」と言って広いおでこを光らせる。

「さすが、天辰中尉」というため息がそこここから洩れる。天辰中尉は『大和』でも名の知れた部下思いの士官である。

「あまたつーーー!」と梨賀艦長が騒ぎを聞きつけて副長とともにやって来た。ハアハアと息を切らして、「どうしたの、なにしてんの」と聞いた。森田兵曹がこれこれこうだ、と説明をして艦長も副長も「ほう!それは素晴らしい。早く上げてみて?」とうるさい。

皆も早く早く、と言い始めたので気象班はラジオゾンデに気球をつけ、そしてゾンデは気球とともに天高くあがって行ったのだった。

「さて、」と天辰中尉は言って腕時計を見た。「三十分もしたら情報が無線で入ってきますよ、通信室へ行きましょう」

艦長は天辰中尉の背中を押して通信室へ向かう。

 

ラジオゾンデが上がってゆくのを、マツコとトメキチが見上げている。

「何かしらあれ!あのまん丸いもの、突っついてやろうかしら。どう?」

そう言って闘志満々なマツコにトメキチは「やめてよおばさん。あれは天辰さんたちが一所懸命作ってたんだから」とマツコを軽く叱る。

マツコは、うふふっと体をゆすって笑うと

「嘘よ、嘘に決まってんじゃないの」

と言って羽を繕った。一陣の強い風が吹き付け、マツコの頭のあほ毛をなびかせる。

「・・・はあん、来たわね。なんだかひと波乱ありそうな気がするわ」

マツコはそう、ひとりごちて目を細める。

 

その上空をラジオゾンデは舞いあがってゆく・・・。

それを士官次室の舷窓から見送った麻生分隊士の顔つきは、いよいよ厳しい――

 

       ・・・・・・・・・・・・・

台風とともに麻生少尉と見張兵曹の間にも大風は吹くのでしょうか?

マツコの意味ありげなひと言、彼女には何らかの予知能力があるのでしょうか??緊迫の次回をお待ちください!!

 

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「女だらけの戦艦大和」・修子と陸軍

2012.05.23(20:53) 1579

「女だらけの戦艦大和」は小笠原諸島父島にその身を浮かべている――

 

松岡中尉は上機嫌でその日、父島の中を歩き回っていた。例のラケットを振っては、行きあう数少ない島民にちょっかいをかけたり陸軍嬢たちに「熱くなれよ!」と余計な世話の檄を飛ばして苦笑されたりしている。そして彼女は島の東側の平野にでた。

うんとそこで大きく息を吸って「ああ~いい気持ちだなあ」とラケットを持った手を伸ばして思い切り背伸び。

そしてふと後ろを振り向いた松岡中尉、背後に何か・・・彼女の興味を大変にひくものを見つけてしまい、「バンブー!!」と叫びながらそちらに走って行った。

 

そこでは陸軍嬢たちが新兵器の試作品を受領して、その試運転をしようとしているところであった。

小笠原師団父島分遣隊隊長の毒蝮サン大佐が大勢の兵を指揮してその新兵器を操作しようとしていたがなんだかうまくいかない。

毒蝮大佐はいらいらして、「はやくどうにかしろよ!せっかくいい兵器もらったって使えなきゃしようがねえじゃねえか。取扱説明書とかねえのかよ!」と怒鳴っている。

参謀が「申し訳ありません、ただ今・・・」とあわてて説明書を手渡す。「最初っから渡しゃいいんだってのよ」とぶつぶつ言いながら毒蝮大佐はそれをペラペラめくった。

「ふ~ん、・・・待てよあんだこりゃ?これじゃどこにも誰も乗れねえじゃんか?いったいこの兵器はどうなってんだよ、ええ!?いい加減なもの作りやがって!」

突然毒蝮大佐は説明書を地面にたたきつけて怒鳴った。その剣幕に驚いて参謀は説明書を拾い上げて読み始める。

「・・・確かに。これではだれも乗れません。ということは動かせない、ということでありますな」

参謀も兵たちも色を失った時。

「熱くなってるかい、陸軍さん!」と時ならぬ大声がかかって陸軍嬢たちは仰天してその声の方を見た。そこにはラケットを担いで満面の笑みの海軍士官が立っている。純白の二種軍装が皆の目にまぶしい。一人の軍曹が「・・・かっこいいなあ、海軍さんは」とぼつりと言った。その声が聞こえたかどうか、海軍士官はかっこよくラケットを振りながら近寄って来た。

「私は松岡修子海軍中尉だ。よろしくね!」

そういうと松岡中尉は遠慮なく新兵器とやらのそばに寄って行った。陸軍嬢たちが「近寄らないでください、危ないですから。しかもその上軍機ですからっ」と止めたが松岡中尉は興味しんしんで新兵器を眺めまわす、叩きまくる。

「ん!これはどこから乗り込むんだろうか?誰か知りませんか」と言って皆を見るが誰もが首を横に振っている。

「わからない、だってぇ!?」松岡中尉はいきなり怒りをあらわにして兵器から離れると皆のそばにつかつかと寄って来た。ラケットが怒りで小刻みに震える。

「毒蝮大佐殿。この海軍さんなんでか知りませんがとても怒っていますね・・・」と参謀がこわごわ大佐に囁く。毒蝮大佐も、「うん。自分たち何か怒られるようなことをしただろうか?」と怖くなってきた。階級的には自分より下だが、この海軍士官の態度は階級なんかよりすさまじい、威圧感のようなものをひしひしと感じさせるし、雰囲気が何だか熱すぎて鬱陶しい。気味が悪い、なんとか早くごまかして去らせたいものだ、と毒蝮大佐は思った。

毒蝮大佐が何か言うより早く松岡海軍中尉が、陸軍の参謀の持っている説明書をさっと奪ってそれを読み始めた。

長いこと、長いことその説明書を読んでいた中尉が突然顔を上げるなり、

「エナーシャとリモコン!」

とものすごい声で怒鳴ったので陸軍嬢たちはその場から30センチほど飛びあがって驚いた。

「え、え、えなーしゃと、りもこん??」と毒蝮大佐はしどろもどろになりながら言った。松岡中尉は怖い顔のままラケットを大佐の方に突き出して

「そうですよ、エナーシャとリモコンでこれは動くんだって書いてあるじゃないですかっ!」

と怒鳴った。怒りに満ちた瞳と震えるラケットがいやがうえにも恐怖をかき立てる。中尉は毒蝮大佐から眼を離さないで「早くエナーシャとリモコンを出しなさい!」と怒鳴る。あわてた兵があちこち走り回って兵器の付属品・エナーシャとリモコンを持ってきた。

「こ、これでありますか?」という軍曹に松岡中尉はこの時だけ微笑んで見せて「そうだよ、これがエナーシャとリモコンだよ、ありがとう。・・・さて」とそれを受け取って兵器のもとに走って行った。つられて陸軍嬢たちもついてゆく。

松岡中尉はまるで戦車のような形状の兵器の前にしゃがみ込んだ。そして「お、ここだな」というとエンジンに直結しているらしい部分の穴にエナーシャを突っ込むとそれをゆっくりまわし始める。

「さあみんな、こうすればエンジンがかかって動き出しますよ~」と中尉は言い、間もなく兵器のエンジンが動き出す。中尉はリモコンについていた小さなハンドルをぐるぐるまわした。どうやらこれは手回し式充電機の様でそのスイッチを入れた。赤・緑のボタンが点灯した。ボタンの下には方向指示器のようなものもある。

「走行開始―!」と中尉が叫びリモコンの緑のボタンを押すと兵器はキャタピラを鳴らしながら走り出した。

「おお!走った走った、いやあ、海軍さんありがとうございます」と毒蝮大佐と参謀は喜んで松岡中尉に礼を言った。松岡中尉は「・・・で?これはいったいどういうスタンスの兵器なんでしょうね」と言った。毒蝮大佐は笑みを浮かべて「これはですね、自走砲と言って自分で走り回って砲を撃つという兵器です」と紹介。参謀がリモコンを覗きこんで「これを押しますと、砲を撃つんだそうですよ、いいですか・・・」と赤いボタンを押した。すると・・・・

今まで向こうを向いて走っていた自走砲が急にこちらに向かって走って来たではないか。しかも、砲塔がぐるぐる回っていて参謀がボタンを押したせいで砲はバカスカ撃ちまくって、自分たちのそばに弾着する羽目になった。

「うわあああ!!!」「なんだこれは!?」「熱くなれよー!」皆は逃げ回り、さまざまな叫びと轟音の中、自走砲は勝手に走り回りやがて・・・海岸に突っ込んで止まった。

陸軍嬢たちはその場にへたり込んで「なんなんだ、あれは・・・」と声もないが一人、松岡中尉だけは海の中で擱座(かくざ)している自走砲に向かって「熱くなれよー!今日から君も富士山だ!」とわけのわからないことを叫んで走り回っている。

やがて松岡中尉はくるりと向きを変えてこちらに走ってくるとラケットを置いて毒蝮大佐の両手を握ると

「毒蝮隊長、大変熱くなってみなさんは素晴らしい!これを私たち海軍もみならって、この先進撃して行きましょう!自走砲の活躍を祈りますよー!ではみなさん、バンブー!竹になれよ」

と叫び、ラケットを拾い上げてあっという間に走って行ってしまったのだった。

呆然とする陸軍嬢たちの上空をマツコが「マツオカ~、待ってよう」と言いながら飛んでゆく・・・

 

さてその数日後。陸軍の兵器廠から緊急電で「あの自走砲には大変な欠陥があることがわかったので試運転をしないように」という連絡が来た。何でも開発担当者が「自走砲」の自走の意味を勘違いして作ったせいだと言うが・・・よくわからないまま、試作品の自走砲は解体されて本土に持ちかえられてしまったのだった。

「もっとそういうことは早く言えよな・・・」と涙目でつぶやく毒蝮大佐・・・。

 

さて、『大和』。

松岡中尉が『大和』に戻ると見張兵曹が樽美酒少尉と一緒にいて

「あ、分隊長。今日えらい大きな爆発音がしたのをしっとられますか?」

と聞いてきた。その音の件で航海科や通信科、砲術科の分隊士以上は集まって情報収集をしているのだそうだ。松岡分隊長は「爆発音ねえ。私はよく知らないなあ、もしかしたら陸さんの演習かもしれないね。あの人たちも熱くなっているようだからね。さあ、人のことより樽くんも特年兵くんももっともっと熱くなってくれなきゃ困りますよー!」と言って樽美酒少尉はちょっと困ったように微笑んだ。

そしてまた艦内を走り回る分隊長であったが、情報収集の結果「海軍の松なんとかいうおかしな中尉殿が陸軍の試作品をいたずらして壊した」との陸軍からの証言を得た麻生分隊士は、

「あンの野郎、全くここまで来て海軍に恥かかせやがって!ただじゃおかん」

と見たことがないくらいご立腹で、なだめ役の見張兵曹も今回は大変てこずった。

それを伝え聞いた分隊長、さすがに例の件を思い出し(まずいかも)と思い、その晩は最下甲板の隅っこで過ごしたのだった。

でも、毒蝮大佐にはとても強烈な印象を残した松岡中尉。毒蝮大佐は参謀に「もう一遍逢ってみたいなあ、あのへんな海軍士官に」と言って大笑いしたとかしないとか――

 

        ・・・・・・・・・・・・・

自走砲というものは存在します(しました)。

が、こんな変な危ないものではありませんから念のため!

 

本物の自走砲。(自衛隊のものですね)
自走榴弾砲


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「女だらけの戦艦大和」・修子と陸軍

2012.05.23(20:53) 500

「女だらけの戦艦大和」は小笠原諸島父島にその身を浮かべている――

 

松岡中尉は上機嫌でその日、父島の中を歩き回っていた。例のラケットを振っては、行きあう数少ない島民にちょっかいをかけたり陸軍嬢たちに「熱くなれよ!」と余計な世話の檄を飛ばして苦笑されたりしている。そして彼女は島の東側の平野にでた。

うんとそこで大きく息を吸って「ああ~いい気持ちだなあ」とラケットを持った手を伸ばして思い切り背伸び。

そしてふと後ろを振り向いた松岡中尉、背後に何か・・・彼女の興味を大変にひくものを見つけてしまい、「バンブー!!」と叫びながらそちらに走って行った。

 

そこでは陸軍嬢たちが新兵器の試作品を受領して、その試運転をしようとしているところであった。

小笠原師団父島分遣隊隊長の毒蝮サン大佐が大勢の兵を指揮してその新兵器を操作しようとしていたがなんだかうまくいかない。

毒蝮大佐はいらいらして、「はやくどうにかしろよ!せっかくいい兵器もらったって使えなきゃしようがねえじゃねえか。取扱説明書とかねえのかよ!」と怒鳴っている。

参謀が「申し訳ありません、ただ今・・・」とあわてて説明書を手渡す。「最初っから渡しゃいいんだってのよ」とぶつぶつ言いながら毒蝮大佐はそれをペラペラめくった。

「ふ~ん、・・・待てよあんだこりゃ?これじゃどこにも誰も乗れねえじゃんか?いったいこの兵器はどうなってんだよ、ええ!?いい加減なもの作りやがって!」

突然毒蝮大佐は説明書を地面にたたきつけて怒鳴った。その剣幕に驚いて参謀は説明書を拾い上げて読み始める。

「・・・確かに。これではだれも乗れません。ということは動かせない、ということでありますな」

参謀も兵たちも色を失った時。

「熱くなってるかい、陸軍さん!」と時ならぬ大声がかかって陸軍嬢たちは仰天してその声の方を見た。そこにはラケットを担いで満面の笑みの海軍士官が立っている。純白の二種軍装が皆の目にまぶしい。一人の軍曹が「・・・かっこいいなあ、海軍さんは」とぼつりと言った。その声が聞こえたかどうか、海軍士官はかっこよくラケットを振りながら近寄って来た。

「私は松岡修子海軍中尉だ。よろしくね!」

そういうと松岡中尉は遠慮なく新兵器とやらのそばに寄って行った。陸軍嬢たちが「近寄らないでください、危ないですから。しかもその上軍機ですからっ」と止めたが松岡中尉は興味しんしんで新兵器を眺めまわす、叩きまくる。

「ん!これはどこから乗り込むんだろうか?誰か知りませんか」と言って皆を見るが誰もが首を横に振っている。

「わからない、だってぇ!?」松岡中尉はいきなり怒りをあらわにして兵器から離れると皆のそばにつかつかと寄って来た。ラケットが怒りで小刻みに震える。

「毒蝮大佐殿。この海軍さんなんでか知りませんがとても怒っていますね・・・」と参謀がこわごわ大佐に囁く。毒蝮大佐も、「うん。自分たち何か怒られるようなことをしただろうか?」と怖くなってきた。階級的には自分より下だが、この海軍士官の態度は階級なんかよりすさまじい、威圧感のようなものをひしひしと感じさせるし、雰囲気が何だか熱すぎて鬱陶しい。気味が悪い、なんとか早くごまかして去らせたいものだ、と毒蝮大佐は思った。

毒蝮大佐が何か言うより早く松岡海軍中尉が、陸軍の参謀の持っている説明書をさっと奪ってそれを読み始めた。

長いこと、長いことその説明書を読んでいた中尉が突然顔を上げるなり、

「エナーシャとリモコン!」

とものすごい声で怒鳴ったので陸軍嬢たちはその場から30センチほど飛びあがって驚いた。

「え、え、えなーしゃと、りもこん??」と毒蝮大佐はしどろもどろになりながら言った。松岡中尉は怖い顔のままラケットを大佐の方に突き出して

「そうですよ、エナーシャとリモコンでこれは動くんだって書いてあるじゃないですかっ!」

と怒鳴った。怒りに満ちた瞳と震えるラケットがいやがうえにも恐怖をかき立てる。中尉は毒蝮大佐から眼を離さないで「早くエナーシャとリモコンを出しなさい!」と怒鳴る。あわてた兵があちこち走り回って兵器の付属品・エナーシャとリモコンを持ってきた。

「こ、これでありますか?」という軍曹に松岡中尉はこの時だけ微笑んで見せて「そうだよ、これがエナーシャとリモコンだよ、ありがとう。・・・さて」とそれを受け取って兵器のもとに走って行った。つられて陸軍嬢たちもついてゆく。

松岡中尉はまるで戦車のような形状の兵器の前にしゃがみ込んだ。そして「お、ここだな」というとエンジンに直結しているらしい部分の穴にエナーシャを突っ込むとそれをゆっくりまわし始める。

「さあみんな、こうすればエンジンがかかって動き出しますよ~」と中尉は言い、間もなく兵器のエンジンが動き出す。中尉はリモコンについていた小さなハンドルをぐるぐるまわした。どうやらこれは手回し式充電機の様でそのスイッチを入れた。赤・緑のボタンが点灯した。ボタンの下には方向指示器のようなものもある。

「走行開始―!」と中尉が叫びリモコンの緑のボタンを押すと兵器はキャタピラを鳴らしながら走り出した。

「おお!走った走った、いやあ、海軍さんありがとうございます」と毒蝮大佐と参謀は喜んで松岡中尉に礼を言った。松岡中尉は「・・・で?これはいったいどういうスタンスの兵器なんでしょうね」と言った。毒蝮大佐は笑みを浮かべて「これはですね、自走砲と言って自分で走り回って砲を撃つという兵器です」と紹介。参謀がリモコンを覗きこんで「これを押しますと、砲を撃つんだそうですよ、いいですか・・・」と赤いボタンを押した。すると・・・・

今まで向こうを向いて走っていた自走砲が急にこちらに向かって走って来たではないか。しかも、砲塔がぐるぐる回っていて参謀がボタンを押したせいで砲はバカスカ撃ちまくって、自分たちのそばに弾着する羽目になった。

「うわあああ!!!」「なんだこれは!?」「熱くなれよー!」皆は逃げ回り、さまざまな叫びと轟音の中、自走砲は勝手に走り回りやがて・・・海岸に突っ込んで止まった。

陸軍嬢たちはその場にへたり込んで「なんなんだ、あれは・・・」と声もないが一人、松岡中尉だけは海の中で擱座(かくざ)している自走砲に向かって「熱くなれよー!今日から君も富士山だ!」とわけのわからないことを叫んで走り回っている。

やがて松岡中尉はくるりと向きを変えてこちらに走ってくるとラケットを置いて毒蝮大佐の両手を握ると

「毒蝮隊長、大変熱くなってみなさんは素晴らしい!これを私たち海軍もみならって、この先進撃して行きましょう!自走砲の活躍を祈りますよー!ではみなさん、バンブー!竹になれよ」

と叫び、ラケットを拾い上げてあっという間に走って行ってしまったのだった。

呆然とする陸軍嬢たちの上空をマツコが「マツオカ~、待ってよう」と言いながら飛んでゆく・・・

 

さてその数日後。陸軍の兵器廠から緊急電で「あの自走砲には大変な欠陥があることがわかったので試運転をしないように」という連絡が来た。何でも開発担当者が「自走砲」の自走の意味を勘違いして作ったせいだと言うが・・・よくわからないまま、試作品の自走砲は解体されて本土に持ちかえられてしまったのだった。

「もっとそういうことは早く言えよな・・・」と涙目でつぶやく毒蝮大佐・・・。

 

さて、『大和』。

松岡中尉が『大和』に戻ると見張兵曹が樽美酒少尉と一緒にいて

「あ、分隊長。今日えらい大きな爆発音がしたのをしっとられますか?」

と聞いてきた。その音の件で航海科や通信科、砲術科の分隊士以上は集まって情報収集をしているのだそうだ。松岡分隊長は「爆発音ねえ。私はよく知らないなあ、もしかしたら陸さんの演習かもしれないね。あの人たちも熱くなっているようだからね。さあ、人のことより樽くんも特年兵くんももっともっと熱くなってくれなきゃ困りますよー!」と言って樽美酒少尉はちょっと困ったように微笑んだ。

そしてまた艦内を走り回る分隊長であったが、情報収集の結果「海軍の松なんとかいうおかしな中尉殿が陸軍の試作品をいたずらして壊した」との陸軍からの証言を得た麻生分隊士は、

「あンの野郎、全くここまで来て海軍に恥かかせやがって!ただじゃおかん」

と見たことがないくらいご立腹で、なだめ役の見張兵曹も今回は大変てこずった。

それを伝え聞いた分隊長、さすがに例の件を思い出し(まずいかも)と思い、その晩は最下甲板の隅っこで過ごしたのだった。

でも、毒蝮大佐にはとても強烈な印象を残した松岡中尉。毒蝮大佐は参謀に「もう一遍逢ってみたいなあ、あのへんな海軍士官に」と言って大笑いしたとかしないとか――

 

        ・・・・・・・・・・・・・

自走砲というものは存在します(しました)。

が、こんな変な危ないものではありませんから念のため!

 

本物の自走砲。(自衛隊のものですね)
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