「女だらけの戦艦大和』・この世こそ地獄!?2<解決編>

亀井一水は、入湯上陸した呉の街で<すごい>ものを見つけていた――

 

それを見つけた亀井一水は一瞬息をのんだ。「それ」は店先の平台に山積みになっている。店の窓ガラスには「いま評判です!」と書かれている。それを手に取ってみた亀井一水は驚きのあまりそれを取り落としそうになった。

そして(こんなものがあるとは!こがいなものを誰も買うてはこんじゃろうな。よし、一つ私が買って行って・・・)と思いさっそくそれを買って大事に抱きかかえて『大和』に帰る。

 

そんなころ。

『大和』機関室では椿兵曹たちが汗を流しながら作業をしている。兵隊たちは首にかけた手拭いで時折、額や首筋を流れる汗をふきふき機関の点検をしている。兵たちは、椿兵曹の方をちらちら見ながら作業中。彼女たちはどうも椿兵曹が気になって仕方ないのだ。なぜなら椿兵曹は艦内帽の上から大きい手拭い、いや、風呂敷のようなものをかぶって目だけ出している。顔全体を覆ってしまっているからどうにも皆はやりにくくて仕方がないのだ。一人の上等水兵がこっそり(おい、誰か椿兵曹に言うてみんか?なんでそがいな格好しとるんか、誰か聞けえ)とい言うがここにはあいにく一等水兵しかいなく皆血相変えて手を横に振って(いけません、できません!そがいに怖いことようできません)と断る。なんだか椿兵曹はとっつきにくいと言うのか話しかけにくい雰囲気を十分すぎるほど持っている。その気持ちはこの上等兵曹や兵たちだけでなく松本兵曹長だって感じていることである。

ともあれ、「ほうね。まあうちができんこと貴様らにやれ、いうんも酷かもしれんなあ」と上等水兵は言いながらも作業の手は止めず汗を流している。

どのくらい時間が立ったか、交代の時間が来て上等水兵が汗を拭きながら「椿兵曹、交代時間ですから行きましょう」と声をかけた。ああ、と小さく返事をした椿兵曹の頭からどうしたわけか、かぶった手拭いがパサリと落ちた。

ハッとしてあわてて手拭いを頭にかぶった椿兵曹であったが・・・遅かった。皆の

「うわああ、椿兵曹その顔は!」

という叫び、なんと椿於弐矢子兵曹の顔に走っている黒い筋が顔じゅうにどろっと広がってものすごい形相になっている。

「じ、じ、地獄の使いだあ―ー!」

一人の機関兵嬢が大声を上げるとその場の皆は恐慌に陥った。もちろん椿兵曹も錯乱したかのようにその場を走り回っていたが松本兵曹長の「どうしたあ?」という声が聞こえて来たとたん、その場を走り去ってしまっていた。

 

椿兵曹は手拭いをかぶりなおしながら必死に走って最上甲板に向かった。露天機銃横につながるハッチを開けて顔を出したとたん、「ありゃ、椿兵曹じゃないね?」といきなり声がかかり椿兵曹はまた驚いた。

声の主は航海科石場兵曹で、そこには機銃分隊の長妻兵曹と航海科の小泉兵曹と見張兵曹もいる。四人は露天機銃のプルワークの中で長妻兵曹から機銃の使い方をレクチャーされていたのだった。

「椿さんこっちへきなよ。どうしたんねその格好は」石場兵曹が言うと於弐矢子は観念したように四人に歩み寄ってかぶった手拭いを取った。

ものすごい顔になっている椿兵曹に皆は一瞬驚いたが、石場兵曹が落ち着いた声で「どがいしたんじゃねこの顔は?まるで墨でも塗ったんが溶けてしもうたみとうなっとるが?」と聞いた。ほかの三人が於二矢子を取り巻いた。於二矢子は、手拭いを小さくまとめると手の中に収めて一つ息をついた。

そして、「うちの話を聞いてもらえんかのう」というと話し出した。

 

・・・椿於二矢子は、父親が貿易会社に勤める家に育った。経済的には苦労がなかったが酷く気の弱い子供だった。学校でも発言できず時にに先生に当てられると泣きだすほどの気のよわさで、皆から「泣きみそ椿」「泣き鬼」等々あだ名をつけられていたし強い男子生徒には執拗にいじめられてもいた。強くなりたいとは思っていたが性格はそうそう変えられない。於二矢子は一人悩んでいた。

そんな時、父親がアメリカ人の知人からもらって来たという本を読んだ時於二矢子の頭に衝撃が走った。

その本には「devil(悪魔)」の絵が描かれていて思わず「えらい顔じゃのう、さすが地獄のお使いじゃ・・・」とつぶやいた於二矢子。そして(ほうじゃ、こういう顔にしたら強うなれそうじゃし、第一怖げな顔じゃからいじめられんでええかもしれん)と思い、次の日学校に行く前に母親の眉墨をそっと持ち出して納屋の中で<メイク>をした。本に出ていた<devil>そっくりに眉頭から鼻筋に黒く線を引いた。まぶたの上にも少し黒く塗ったら凄味が増して於二矢子の心は弾んだ。眉墨を鞄に収めて学校に行くと皆はその異様な顔に黙ってしまった。こそこそと、(なんじゃろうあの顔は)とか(あがいな顔になってしもうて、於二矢子ちゃん可哀そうじゃわ)などと声が聞こえる。そこによく於二矢子をいじめる男子生徒が来た、「おい、お前の顔はなんじゃねそりゃ。妙な顔じゃのう」と言って於二矢子をどついた。

普段ならその場に倒れて泣きだす於二矢子ではあるが今日はこの<メイク>のせいで気が大きくなっている、ばかりか<今日からうちは生まれ変わったんじゃ>と思っているからその程度のどつきでは動じない。

全く動じない於二矢子にいじめっ子の男子はひるんだ。そのひるみを見逃さず於二矢子は胸を張ると

「うちは<地獄の使い>の悪魔とお友達になったんじゃ。だからこがいな顔になったんよ。これからうちをいじめたらアンタを使いがやっつけに来るけえね、ええか!」

と怒鳴った。その勢いに皆は気押され、以来いじめる者はいなくなったが今度は殆ど寄り付く子がいなくなってしまったのには正直まいったが。

ともあれ椿於二矢子はその化粧の威を借りることによって<強く>なったような気がしていたのだった・・・

 

「以来私はこの化粧を欠かすことができんようになってしもうたんじゃ」

於二矢子はそう言って眉墨の溶けて流れた顔を撫でた。見張兵曹が於二矢子にそっと、

「ほいじゃあ椿兵曹は子供のころ、地獄のような毎日じゃ、思うてたんですか」

と言った。於二矢子は「毎日地獄言うほど深刻ではのうても、いじめられるんはほんまに嫌じゃった。そこだけとったらほうじゃねえ、やはり地獄の入り口を見たんかもしれんねえ」とため息をついた。見張兵曹もため息をついた。どうしてこうも人というもんは<地獄>を見んといけんのじゃろうか?ほいでも中にはそんな思いをせんでええ人もおる言うんはどういうことじゃろう?神様はどがいなおつもりなんじゃろうか。それがもしかしたら神様からの「試練」いうもんじゃろうか?

 

皆の間に沈黙が流れた。

その時下から歓声が聞こえ、やがてそれは見張兵曹たちがいる最上甲板に上がってきた。騒ぎの中心は亀井一水でその周りをたくさんの兵が囲んでワイワイやっている。

亀井一水は小泉兵曹や見張兵曹がいるのに気がつくと「小泉兵曹、見張兵曹!」と言ってこちらに走ってきた。ほかの兵たちも一緒に走ってくる。亀井一水は、椿兵曹に気がつくと息をのんで立ち止まった。ほかの兵たちもハッとして立ち尽くしている。

そこに機関科の兵たち、松本兵曹長が「おーい、椿兵曹!どこにおるんじゃ!」と呼ばわってきた。石場兵曹が「松本兵曹長、ここにいます!」と叫ぶと松本兵曹長はドカドカと大きな靴音を立てて走ってきて「椿、どこに行ってしもうたんかと心配しとたんじゃ。・・・ああ、こがいに顔が汚れてしもうて・・・」と汚れた顔をタオルでごしごしとこすった。そして「悪かったのう。貴様の顔を見て嫌なことを言うた兵がおってじゃろう。謝りたい、言うて貴様を探しとってじゃ。きつい思うが許してやってくれんかのう」と椿兵曹の肩に両手を置くとその顔を覗き込むようにして言った。そして兵たちの集まりの中に「おいっ」と声をかけた。中から一人の兵が出てきて「椿兵曹、先程は失礼なことを言うてしもうて。どうか、どうか許してつかあさい」と頭を下げた。

ちょっとびっくりしたような顔をしていた椿於二矢子兵曹の顔に微笑みが浮かんだ。そして、「もうええんよ、だれじゃってこがいな顔を見たら地獄の使いじゃ思うじゃろう?うちももう、こがいな化粧に頼らんで自分をそのまま出して皆と付き合おうと思うけえ、どうぞよろしく」と言い、松本兵曹長がその両手をがっしり握って「願います!」というと力強く振った。

その場に集まった大勢から拍手が起きた。

 

「で、亀井一水。貴様は何を持って来たんじゃね」と石場兵曹に言われ「ほうじゃ、忘れとりました。ほら!」と差し出したのは・・・

「じごく」

と書かれたおどろな絵本。亀井一水は「これが呉の本屋の店先の台にたくさん積んであったがです。ほいでいま評判の一冊!やらいうて広告紙が貼ってあったがです。まあ、見てつかあさい」と差し出した。
本には地獄の厳しい環境が残酷なタッチの絵で描かれ、「何々した奴はこうなる!」「○○地獄で苦しむ!」と書かれている。なますに刻まれている残酷な死者の絵も描かれ、皆の間から深いため息が漏れた。長い沈黙の後見張兵曹が言った、

「ほいでも」

皆が見張兵曹を見つめた。見張兵曹は言葉を継いだ、「確かに悪いことをしたらそれなりの報いを受けんといけません。でも何も悪いことをしとらん人がこがいな目にあうんは納得できん。うちが思うんに、地獄言うんはこの世にあってあの世言うところにはない、思いますが。この世は地獄じゃ言うて逃げる人は居ってもあの世は地獄じゃいうて逃げてくる人は居らんですけえね」。

松本兵曹長はそれを聞いて(いかにも今までいじめ抜かれて地獄を見て来たトメらしい考えじゃなあ。確かにそうかもしれんな。地獄なんぞこの世だけで大たくさんじゃもんな。それにトメは両親を亡くしているけえ、その両親があの世でこがいな目ぇにおうてると思えばたまらんじゃろう)と思った。

「あ」と小泉兵曹が声を上げた。なに?と皆が見ると小泉兵曹は

「ここのページ。命を大事にせえよ、って書いてありますよ。ほうじゃねえ先祖からもろうた命ですけえ大事にせんといけんのは当たり前ですね」

と言った。石場兵曹も「ほうよ。自分の命も大事に出来んでどうして家族やほかの人の命を大事に出来るんね?じゃけえうちらは無駄に命を捨てんよう、ガンバっとる。うちらの命は捨てどころが来るまで無駄には捨てんで」と言い、長妻兵曹も「ほうじゃ。敵の命じゃって大事にしとるで、帝国海軍は。捕虜を大事にしとってじゃけね。ほかにないわ、こがいなええ国は」と言って笑った。

椿於二矢子兵曹はそんな皆の輪の中に入って嬉しそうにほほ笑んでいた。その兵曹に松本兵曹長は

「椿兵曹よ、貴様ももうおかしな気ィつかわんと普通にしとってくれ。もう貴様は『大和』の仲間なんじゃけえ、いらん遠慮はなしにしろ。素のままの自分で当たってこいよ!」

と言ってやった。皆がうなずき椿兵曹は「ありがとうございます。今日から化粧は止めます。素顔で勝負したい思います」と言い、大喝さいを浴びたのだった。

 

ちょうどそのころ、艦橋では松岡中尉が梨賀艦長にまたもやお説教を食らっていて「ああ、この世の地獄とはこのことですね~。でも!熱くなれば不可能はない、いいですか地獄で仏という言葉もありますから私はこの艦長の説教地獄から仏を見出したいと思いますからね!・・・おっと、樽美酒くん!君も一緒に艦長の説教を聞こうじゃないか!」と通りかかった樽美酒ゆう少尉を引っ張りこもうとして、また叱られたのだった。

 

後日譚として。

顔をきれいに洗った椿兵曹の素顔は思いのほかきれいで皆は「ほう!また一人『大和』に美人が増えたのう」と喜んだとか。

でも、麻生少尉だけは「いや!椿兵曹より誰よりいちばん綺麗なんはオトメチャンにきまっとろうが!美人はオトメチャン一人でええんじゃ!!」と言って聞かなかったという――

 

      ・・・・・・・・・・・・・

最近なんだかとても評判の絵本「地獄・・じごく」。この本がもう何年も前からうちにありました。娘たちが「こんなもん、子供に見せたら一生トラウマだよ!やめろ」と冗談半分で言っていましたが子供のころ見て相当ショックだったのは確かなようです。

地獄かあ・・・私はあの世に行ったらのんびりしたいと思っていますので地獄はこの世だけでたくさん、という口ですね。はい。


子供たちの表情が何とも言えません・・・。賛否あろうと思いますが、私は人間、一つや二つこわいものがなきゃいけないかなとも思いますが。いましめ、としてね。
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「女だらけの戦艦大和」・この世こそ地獄!? 1

「女だらけの戦艦大和」は新しい乗組員を迎えそして、そろそろトレーラーへ帰る時が近づいていた――

 

昨日から工作艦が接舷して工廠の技師が入り測距儀を修理をしている。これには内務科電気分隊の岩井少尉他もお手伝いしている。

最初、測距儀の壊れ方を見た技術大尉は「これってまさか、敵の機銃弾とかでやられたとかいうんじゃないでしょうね?」と大変驚いて梨賀艦長に言った。が、梨賀艦長からこれはとある士官がラケットで撃ったボールが当たってこうなったと聞いて二度びっくりした。

そして「そんなバカな。ありえない」と言ったがそこに運悪く当の松岡中尉が来てしまい、中尉は自慢のラケットを構えて「じゃあも一度お目にかけましょうか!」と言った。

梨賀艦長はこの件に関してとても怒っていたので、「もう!余計なことしなくっていいからあっち行ってて!あっちで勝手に熱くなっててちょうだいっ!いいですか、この『大和』は陛下からお預かりした大事な艦なんですよ!それをあんなつまらないことで損傷したらあなた、軍法会議どころか地獄行きですよ!変なところで熱くなるのもたいがいにしなさいよッ!」と少し松岡中尉の言葉の真似をして怒鳴った。

肝心の松岡中尉は、というと満面の笑みを以て艦長を見つめて「艦長~、やっと私のように熱くなってくれましたね!・・・そうです、いいですかこの艦は陛下の艦なんですよ。ということはですね、これに乗っているあなたも私も陛下のものというわけなんですよ。・・・素晴らしい!!こんな素晴らしいことがあっていいのでしょうか!いいんですよ、これこそが私たちが日本人だという何よりの証拠であり誇りですからね。艦長、今日からあなたも富士山だ!決してあきらめないでくださいよー!」とほとんどわけのわからない事を言って艦長と工廠の技術大尉を面食らわせた。

そして松岡中尉は右手の親指をグイッと立ててラケットを肩に担ぐと「ではみなさん、バンブー!」と叫んであっという間に艦橋を去って行ってしまったのだった。

ふうーッ、と大きなため息をついた梨賀艦長を見て、声には出さないが技術大尉は(大きな艦には大きな変人がいるんだなあ。いやあ初めて知った大型艦の実態!案外と怖いものなんだなあ。艦長は気の毒だ)と思って少し気味が悪い、(早いところ修理をして帰ろう)と固く決意。

だが、なかなか修理はそう早くは終わりそうにはない・・・

 

松岡中尉はラケットを振り振り、最上甲板に出た。そこではるか艦橋を振り仰げば、たくさんの技師や『大和』の内務科の兵たちが測距儀の修理に精を出している。測距儀のすぐ上には高圧電流で動く「電探」がある、これに触れたらイチコロなので測距儀の電源は切ってある。

「熱くなってるな皆。いいことだよ」

松岡中尉はまるで他人事のように言うとその場で素振りを始めた。ひゅっ、ひゅっとラケットが風を切って鳴る。気分がいい。

そこに下甲板から通じるハッチを開けて何やら大声が飛び出してきた。松岡中尉がそちらを見ると航海科の谷垣兵曹と、高角砲の野田兵曹がまたもや言い争いながら最上甲板に姿を現した。先日の土俵での一件がまだ決着してないらしい。

(どっちもしつこいなあ。よーし!)

松岡中尉はラケットを小脇に抱えてしかつめらしい顔をして二人の方へ歩み寄って行った。二人は中尉の姿にも気がつかないほどわめきあっている。騒ぎを聞きつけて甲板士官が険しい顔で走ってきた。が、松岡中尉はそれを押しとどめた。すると、

「なぜです?これは私の仕事ですよ?艦内の規律を守るのが甲板士官の務めです。あなたもわかってらっしゃるでしょう?」

と甲板士官の藤村少尉は解せない、納得いかぬという顔で松岡中尉に詰め寄った。松岡中尉は足元にラケットを置くと彼女の正面に腕を組んで立った。

その姿に藤村少尉は圧倒された、なんてでかいんだこの人・・・。

「いいですか甲板士官くん」と中尉は上から見下ろすような形で言った、「なんでも権力や暴力で抑え込めると思ったら間違いですよ。時には皆の気持ちをじっくり聞くのも仕事でしょう?もっと熱い心を持って!さあ、今日からあなたも富士山だ!」。

藤村甲板士官はなんだか悲劇的な表情になった。わけわからんぞこの人は、あまりかかわらん方がいいかもしれない。藤村少尉はその表情のまま、「わかりました、ここは松岡中尉にお任せします」というと一礼するとあたふたと去ってゆく。

「さて、と」

と、松岡中尉はまだ騒いでいる二人に向き直った。二人は、土俵に上がったのに待ったをかけてずるいとか、そんなこと言ってない、無礼千万だと前と同じことを繰り返しているだけである。

松岡中尉はやおら二人のそばに駆け寄ると

「尻の穴を締めろ!」

とそれはすごい大声で言った。さすがに騒ぎが止まった。谷垣・野田の両兵曹は互いの事業服の襟をつかんだままポカンとして中尉を見た。

松岡中尉は、「いいか、尻の穴を締めろ。いいですか、君たちは尻の穴が緩んでいるじゃないか。だからこんな下らねえことでギャーギャーわめいてるんじゃないのか?尻の穴をちゃんとキチット締めれば下らねえことで時間をつぶしてしまうようなことはばかばかしくなるはずだぞ!」と言って聞かせる。二人は互いの襟から手を離すと中尉の方へ向いた。

「尻の穴・・・ですか」

こわごわと谷垣兵曹が言うのへ、松岡中尉は大きくうなずいて

「そうだよ尻の穴です。人は尻の穴が緩んでいては性格や生活まで緩んでしまうんですよ?あなたたちもこんなことではなくってもっと別のことで熱くなってくれなきゃ。いいですか、もうすぐ『大和』はまたトレーラーに戻りますからね。熱くなってあきらめないで戦いましょう。バカなことばっかしてるとあなたたたたち」

と少しばかり「た」が多くなったが真剣な顔で二人を見つめた。谷垣・野田の兵曹はごくっと喉を鳴らした。すると松岡中尉はうんと背伸びをしてから二人を見下ろして、

「地獄を見ることになりますよ?」

と言い放った。さっき自分自身が梨賀艦長に言われたことをそっくりそのまま部下に返しているような松岡中尉だが、二人はそれを知らない。地獄、というちょっとインパクトのある言葉を言われて二人は黙った。松岡中尉はそれを見て「いいですか、じゃあここで仲直りの握手をしようじゃないか。地獄に行きたくなかったら仲直り、それ仲直り、はい仲直り、ありゃ仲直り」と最後には節をつけて踊りだす始末。

谷垣兵曹がまず、「・・・うちはもう、バカバカしゅうなったけえ貴様との下らん争いは止めた。が言うとくがなあ、地獄が怖あで止めるんと違うで!」と言った。

「ほいじゃあなんでじゃ?」という野田兵曹。谷垣兵曹は急に声をひそめて野田兵曹の耳元に口を寄せると「あがいなあほなことを真剣に言うもんがうちの分隊長じゃ。いつまでもこがいなことしよったらまたおかしなこと言われるからじゃ・・・そのくらい分かれ!」と言った。

野田兵曹もさすがに「ほうじゃな。・・・ほいじゃあこの話はもう水にしよう」と言って二人は松岡中尉に「ご迷惑をおかけしました」というと全速力で走り去ったのだった。

それを見て

「いいねいいねえ~。みんなこうして熱くなって、あきらめない心を育ててゆくんだよ。みんな―、みんな今日から富士山だ!」

と怒鳴って笑って、足元のラケットをつかむと艦首方向へ歩き出したのだった。それをいつものようにトップのトップからハッシー・デ・ラ・マツコが見ていて、「ねえトメキチぃ。あのマツオカってどこからどこまでが正気でどこから先がそうじゃないのかイマイチあたしにはわかんないわ・・・あんたはどう?」とトメキチに聞いている。トメキチも困って、「僕もわかんない。多分このお(ふね)のみんながわからないと思うんだけど」と言いマツコはちょっと感心したようにトメキチを見て「・・・・あんた意外と鋭いわね」と言うとくちばしをカタカタいわせたのだった。

艦上でそんなことをしている時、下の機関室では松本兵曹長が部下の兵曹から「ちょっとええですか松本兵曹長・・・あの新しく来た椿兵曹ですがちいと変わっとる人ですな。椿兵曹はこないだの体操の時もそうじゃし、機関室でも絶対手拭いを顔から外さんのですよ」と耳打ちされた。

「手拭いを、かね?」と問う兵曹長にその兵曹は真面目な顔で「ほっかむり言うんですか、それをして。入浴の時も外さんのですよ、で体や顔を洗うたらあっという間に出て行っちまうんですけえね。なんぞ秘密でもあるんですかねえ」と考え込む。

松本兵曹長はうーむ、とうなったが「まあ人には他人に知られとうない事の一つや二つあるかも知れんで?あまり変に探ったりせんほうがええよ。、まだここに来て日が浅いんじゃけえ、気おくれがしとる、言うことだってあろうが?そのうちなんぞわかるかもしれんけえ、ほっといたらええ」と言って兵曹は「わかりました」と言って礼をすると去ってゆく。

松本兵曹長は(全くみんなひとのことよりてめえのことじゃろうが。暇なんじゃなあ、もっと締めてかからんといけんかな)と思っている。

 

・・・・その頃。入湯上陸中の亀井一水が呉の街のある店で衝撃的なものを見つけて買って来た――

 

           ・・・・・・・・・・・

本来は「海軍グッズ」の2を書く予定でしたが写真の整理がまだつかないので先にこちらのお話をアップしました。グッズの話は必ず書きますので待ってて下さいね

 

全くわけのわからないお話です。書いていて頭が痛くなりました・・・頭の中で松岡修子中尉が「熱くなれ、あきらめるな、富士山だ」と叫んでいます。

ところで亀井一水はいったいどんなものを見つけて買って来たのでしょうか!?そして椿兵曹は何か秘密を抱えているのかいないのか??

ご期待下さい。

「君も今日から富士山だ!熱くなろうぜ」
君も今日から富士山だ!



小学校で習った唱歌ですね。

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日々雑感・私の<海軍グッズ紹介!>1

どうしてもやめられないものがあるか、と聞かれれば・・・あると答えましょう。

それはいわゆる「グッズ集め」です。そんなに集めてどうするんだ!?と言われたりしますが好きなものは集めたいのです。
200902010833000鋼の大和

この大和は鋼製です、『大和ミュージアムショップ』で買ったのですが、昨年の震災の時上から何か落ちたらしくマストの部分が少し曲がっていました。でもそれで余計に『大和』らしくなったかなあという気がしています。

それからこれも「ミュージアムショップ」で買った大和の絵柄があしらってあるハンドタオル。
200811142014000大和のタオル2
これはもうもったいなくって使えません。ネットショップにあればいいのですがこれはネットには載っていません。

気に入りの一つです。

 

あと食品も見逃せませんね!

私はこの「海軍さんのカレー」が好きでよく買っています。
呉・海軍さんのカレー
辛さがいいんですよね~、これに野菜を炒めてたしたり、カレーの上に目玉焼きなんか載せると大変豪華です!

それから鹿児島の「鹿屋海軍航空カレー」これもなかなかいける一品です。
鹿屋海軍カレー

鹿児島県鹿屋市には、海軍の航空隊基地がありました。そこで食べていたカレー・・・というスタンスで作られているようです。九州・鹿児島の品らしく少し甘めの感じがあります。でも甘ったるい、というのではないですね。いいようがないのですが、食べやすい甘さと言いますか辛さとマッチしています。余談ですが、南九州では「甘い食べ物を出す」というのは最高のもてなしだと聞きました。かつて鹿児島では黒糖が産出されてこれは幕府の専売品と言うのか、いわゆるご禁制の品で勝手に流通させることなどかなわない品でした。精製中に指に付いた砂糖をなめても罰があったとか?そのような時代を経て来たものですから、それをお客さんに出すというのが最高のぜいたく・おもてなしの心だったようですね。

私は父の母(つまり祖母、ですね)が宮崎県日南市の出身で、父親も高校出るまで日南市油津で育った人なので時々かの地に行きました。そこでいただいたウナギのたれも、飫肥天も甘いので最初は驚きましたが食べるうちに大好きになりました。母はあまり口には合わないようでしたが。

その地になじむ第一歩は食べ物に慣れること。南九州に関しては私はなじんだようです。

話が脱線しましたが、呉のカレー・鹿児島のカレー、それぞれによさがありますから是非一度おためしあれ!

そうそう、「海軍カレー」に関しては横須賀が最初だ!元祖だ、と名乗りを上げています。横須賀海軍カレーはもう全国区と言ってもいいくらいですね。様々なイベントも行われているようです。

もし、「記念艦・三笠」を見に行かれましたらカレーを食べてきてはいかがでしょう、あちこちにいろんなお店がありますよ~。

 

今持っている中で一番気に入ってるのは・・・
手拭い

昨年「戦史検定」会場で買った「七生報国」の手拭いです。これは上野アメ横の「中田商店」さんの品なんですがこれがいつも品切れで手に入らないんですね~。もうすっかり諦めていたら「戦史検定」会場で売っていて「これ一枚で終わりですよー」と言われあわてて「買った―!」と叫んでゲット。

「七生報国」というと思いだすのが<回天攻撃隊>・・・彼らをしのんでこの手拭いを見つめる私です。

 

まだまだ沢山のグッズが私の手元にありますので次回もご紹介いたしましょう。お楽しみに


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「女だらけの戦艦大和」・新人登場3<解決編>

「女だらけの大和」に新任の下士官が来た――

 

しかしその風貌は至って変わっている。両方の眉毛からつながって鼻筋にかけて黒く筋を書いたように線が走り凄味がある。

あとから来てその場に立った艦長がごくっ、と喉を鳴らして副長にこっそり「・・・ねえ副長。あの子に『それは化粧なの?』って聞いてみてくれない?」と囁く。副長がびっくりしたような顔で艦長を見て「いやですよ私は!そんな変なこと聞いてあと後まで根に持たれたら困るでしょう?自分が聞きゃあいいじゃん!」と怒ったように言って横を向いてしまった。艦長が困っていると、浜口機関長が椿兵曹のそばに歩み寄ると、

「貴様のこの顔は・・・化粧か?それとも生まれつきか」

と聞いた。すると、椿兵曹の顔に浮かんでいた不気味なうすら笑いが一層はっきりとしてきた。皆が――隠れて見ている航海科の三人も――ぞっとするような笑いを浮かべると、椿兵曹は

「これはですね、生まれつきなんですよ。おかげで私は今まで『西洋の悪魔の子供』だなんてあんまりありがたくないことも言われてきました。でもご安心を、私は悪魔の子供ではありませんから」

と言って浜口機関長と松本兵曹長に「以後よろしくねがいます」と敬礼したのだった。なんとなく毒気を抜かれたような感じの機関長と兵曹長であったが気を取り直すと「では艦内を見せてやる」ということになった・・・

 

「ほう、えらい顔立ちの人が来ましたねえ」

露天機銃座のプルワークの陰で、見張兵曹が腰をその場に落としてため息をついた。小泉兵曹も石場兵曹も、「ほうじゃのう、あがいな顔をした人は今まで見たことがないわ」と言った。石場兵曹が「見るからに怖げな人じゃな。でも仕事はできるんじゃろうか?顔だけのこけおどしなら浜口機関長の逆鱗に触れるで?」と言って皆は「うーん、ようわからんね」と考え込んだ。

 

そして、午後。

午後からは皆「体育」の時間で柔道・剣道・体操・相撲のいずれかをすることになっている。「海軍柔道」の名がある通り「女だらけの大和」でも柔道をする乗組員は多い。

浜口機関長と松本兵曹長はそのでかい体を生かして柔道を選択。今日は新入りの椿兵曹に松本兵曹長が「もう、ようしっとろうが午後は体育をするが・・・椿兵曹はどれがええかのう」と聞いた。椿兵曹は「もうちいと見学させてください」と言って皆の様子を見ている。

 

松岡中尉は、これまた新入りの樽美酒少尉を案内している。

「ほら見てください、皆熱くなってるでしょう?柔道、剣道、体操そして相撲。あなたもどれかやりましょう、時々艦隊試合があって優勝したらこの上ない名誉だ!まあ、ゆっくり見て決めてくれよ!」

松岡中尉の熱のこもった案内に樽美酒少尉は微笑んで「はい」と返事をした。

剣道をしている場所では、見張兵曹や石場兵曹、酒井上水たちが竹刀を振っている。それを見ながら相撲をしているところに行くと何やら大騒ぎをしているようだ。

松岡中尉は「おお!なんだか熱くなってるなあ?どうしたっていうんだ」と言ってそばに寄ってみれば航海科の谷垣兵曹と、高角砲の野田兵曹が何やら言い争いの最中で周りにそれぞれの取り巻きがいて野次を飛ばしている。

野田兵曹が「ずるいぞ谷垣さん。土俵に上がっていざという時に<待った>をかけるなんておかしいだろう?いい加減にしてくださいよ!」と怒鳴ると谷垣兵曹はこめかみに青筋立てて、「誰が<待った>なんかしたっていうんだよ、してないでしょうが!言いがかりだ。無礼千万だ!」と怒鳴る。周りの取り巻きの兵たちから口汚いヤジが飛んで、それを見ていた松岡中尉は苦虫をかみつぶしたような顔になって「・・・ここはまあ、いいでしょう。さあ行きますよ」と樽美酒少尉の手を引っ張ってさっさと歩きだす。樽美酒少尉はもっと見たかったようだが・・・。

そんな喧騒から離れたところで松岡中尉は「そういえば樽美酒少尉。君は野球をすると言っていたが、投げる方かね?」と聞いた。樽美酒少尉は微笑みを絶やさず「はい。ピッチャーです、まあそんな上手ではありませんが好きなんです。野球が」という。松岡中尉は満面の笑みを浮かべて

「好きこそものの上手なれ、だよ樽美酒さーん。私はテニスをするんだが・・・スポーツの種類は違うがどうだい、ちょっと私と手合わせ願えないかね」

と言い、樽美酒少尉はボールとグローブを持って来て松岡中尉はラケットを持って二人は少し離れて向かい合った。樽美酒少尉はちょっと戸惑ったような顔で「あの・・・これでどうするのでありますか」と問う。その少尉に松岡中尉は「そのボールを私に思いっきり投げてください。私のこのラケットの威力をあなたに見せたいと思っていますからね、いいですか、何が起きてもびっくりしちゃいけませんよ!」と言いラケットを構えて中腰に。

樽美酒少尉は少しためらいつつもグローブをはめて、投球のフォーム。

「来い――!」

と松岡中尉の大声に、樽美酒少尉はボールを投げる。素晴らしいフォーム、しかし松岡中尉はそんなことには目もくれずボールだけを見つめる。

「たあ――っ!」

松岡中尉はラケットを思いっきり振った。とたんにボールはものすごい勢いですっ飛んでゆきなんと、艦橋の横に張り出した測距儀に当たって・・・測距儀が壊れた。

その近くにいたマツコとトメキチはものすごい音で測距儀の一部が粉砕されたのにたいへん驚いて、マツコなど「いやー!ちょっとあたしじゃないわよ、あたしじゃないわよ!助けて~!」とわめきだすし、トメキチも後足で立ち上がってその場をぴょんぴょん飛び回っている。

下では樽美酒少尉が驚きのあまりぽかんと口を開けたまま呆然として見ている。ほかの兵たちも何事かと音がした方を見ている。測距儀の片側が半分折れてぶら下がったような状態になって麻生分隊士が「ギャー!誰じゃあ、あがいなことしたんは!出航前じゃと言うに、余計なことをしよって!」とわめき散らす声が流れてくる。

松岡中尉はラケットを小脇に収めると「樽美酒少尉。今のこと内緒だよ」としれっとして言ったが・・・第一艦橋の窓から梨賀艦長が今まで出したことがない大声で

「松岡中尉――!こっち来い!始末書だあぁぁ!!」

と叫んで・・・樽美酒少尉は後ろを向くと大笑いしたのだった。そして甲板をずんずんと踏んで歩く足音とともに麻生分隊士がやってきて、

「分隊長、あなたええ加減にしてください!一体どがいなおつもりなんですかっ!あれを見てください、『大和』自慢の測距儀が・・・」

とわめくと次の瞬間「うちはもう・・・情けない」と言って泣き出してしまった。樽美酒少尉はどう声をかけたものかわからないでその場に立ち尽くしている。

 

そんな騒ぎの中、椿兵曹は機関科松本兵曹長に「なあ、椿兵曹はどれがええか?」と聞かれてちょっと考えてから「ほいではうちは体操にしときます」と言った。松本兵曹長は「そうか!体操が好きか。ええぞ、じゃあ皆に紹介するけえ、行こう」と言い、二人は体操の集まりに入って行ったのだった――

  

       ・・・・・・・・・・・・

午後の紅茶ならぬ午後の日課の一つに「体育」があったようですね。海軍は柔道が好きだったようで柔道が盛んに行われていました。かの山本五十六大将が、『大和』を旗艦にしている際寝違いを柔道部員に治してもらったという話が残っています。

新入り二人、騒々しい「女だらけの大和」になじめるのでしょうか。そして松岡中尉がぶっ壊した測距儀の修理は?出航に間に合うんでしょうか??ともあれ、新人をよろしくお願いいたします。この先何がありますやら・・・?

 

測距儀。横に伸びた棒状のものがそれです、その上の網のようなものが電探。測距儀は日本工学株式会社製(現・Nikon)。画像はお借りしました。
測距儀



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「女だらけの戦艦大和」・新人登場2

樽美酒ゆう少尉は、穏やかに微笑んでいたがやがて航海長に伴われて艦内を見学に降りて行った――

 

皆が解散した後ほっとしたような表情で麻生少尉は松岡分隊長の元に行くと、「えかったですね、使えそうな人で。これでまた『大和』は強うなることができます。敵撃滅も早いんとちがいますか」と嬉しそうに言った。松岡中尉は少し怖い顔を作って

「麻生さーん、あなたは特年兵くんというものがありながら新しい少尉に浮気ですか?」

と片手の人差し指で麻生少尉の胸を突いた。麻生少尉は思いかけない言葉を突き付けられてびっくりした。しかし、オトメチャンへの愛に燃える麻生少尉は口をひん曲げて、

「分隊長。お言葉ですが私に限って浮気などというまさにうわっついた行いなどするわけがありません。私はオトメチャン一筋であります。・・・先ほどの言葉は単にあの・・・ダルじゃないたりびしゅ・・・じゃない樽美酒少尉がなかなか使えそうなええ人材じゃいうことで言うたんであります。妙な発言は誤解を招くもとであります、どうかご注意を!」

とでかい分隊長をしたからねめあげるような感じで苦情を言った。すると、松岡分隊長は怖い顔のままガシッと麻生分隊士の肩をつかんだ。

麻生分隊士は思わず腰が引けた、やばい言いすぎたかな、今回こそぶんなぐられる・・・と思った時。

松岡中尉の顔が思いっきりほころんだ、そして「いや麻生さん。よくいったね。そんなことは私はわかっているがだ、ちょっと麻生さんを試したくなったんだよ。麻生さんのあの子に対する愛情がいかほどか、タコほどか。いいよいいよ麻生さんこの調子で熱くなってくれよ!そしてあのダルくんを一緒に清く正しい『大和』の色に導いてやろうじゃないか」と言いなんでか知らんが片手の人差し指をグイッと空に向けて指した。思わずその方向を見てしまう麻生分隊士。そちらに何があるのかと見ながら

「あの分隊長、彼女はダルさんではのうて樽美酒、でありますが」

というと松岡分隊長は「そうか樽さんだったか、人の名前を間違える奴は機銃弾に打たれて死んじまえと言うからね。ともかくだ、私はいずれ彼女と対決しようと思ってるんだよ」と言い、麻生少尉は不安な顔になった。

「対決いうて一体どがいな事をなさるんで?まさかあの少尉をボコボコにするんで?」

そういう麻生少尉に松岡分隊長は大笑いをしてから、

「いやですねえ麻生さーん。わたしがなんであのひとと喧嘩なんかしなきゃいけないんですか?仮に売られたとしても、私は勝ちますけどね。そうじゃなくって彼女が野球のグローブを持っていたのを見たかな?だからいずれ、そっちで対決しようと思ってるんですよ」

と言った。麻生分隊士はちょっとほっとしたが、「でも分隊長はテニスでしょう?樽美酒少尉は野球ならちいと違いますが勝負になるんですかねえ」と疑問を投げる、が分隊長はその疑問を「麻生さん。私はスポーツではだれにも負けない余裕があるんですからね。秘策もあるんですから大丈夫です。まあその日を楽しみにしててくださいよ、バンブー!」と打ち返し、「じゃあ、私もあの新人君に会ってきますからね。あとで皆に紹介しますから」というと踵を返して去って行った。

「なんだ・・・ようわからん」

麻生分隊士はそうつぶやくと艦橋へ向かって歩く。

それをトップから見下ろすハッシー・デ・ラ・マツコとトメキチ。マツコは「あらあんた、ちょっと見たあ?いい女が来たわよ!あたしちょっと興味あるわあ~」と嬉しそうに羽を大きく広げて飛び跳ねている。トメキチはそれを見て「おばさん嬉しそうだねえ。僕は別に誰が来たっていいの。僕はトメさんがいればいいの」とあまり興味はなさそうである。大きなあくびをひとつした。

 

その翌日、もう一人・・・来た。

今度は士官ではなく、下士官で機関科の所属だという。浜口機関長と松本兵曹長が大変喜んでその迎えに出ている。やがて、新任の下士官を乗せたランチが接舷しその人が上がってくるのが見えた。

ちょうど最上甲板にいた小泉兵曹と見張兵曹、石場兵曹は「どんなんが来たんか、見ようや」と言って露天機銃のプルワークの陰に隠れて見ている。

新任の下士官は、舷門当直の兵に礼をしてから最上甲板に入ってきた。甲板のきれいさとか、『大和』そのものの大きさに度肝を抜かれたようだ。しかし、軍帽の廂の陰になって顔はよく見えない。新任は、副長、機関長、松本兵曹長の居並ぶもとに行って大声で申告を始める。軍帽を少し上げた時見えたその顔、そしてそれを見た副長以下、そして隠れ見をしていた小泉・見張・石場たちは驚くことになる。

その下士官は化粧をしているかのような顔の陰影の深いこと・・・鼻筋のあたりなどその左右に鋭い黒い線が走っているようだ。

椿 於弐矢子(つばき おにやこ)一等機関兵曹ただ今着任いたしましたっ!」

椿 於弐矢子・・・すごい名前だ、顔となんだか妙に合致しすぎてる。皆、息をのんでその顔に見入っている。

しかし椿兵曹は全く動じないでその顔で少々不気味に微笑んでいる。

「ど・・・どがいな人なんでしょうねえ?」

見張兵曹の少し震える声が、皆の心の中を代表しているようだ――

       ・・・・・・・・・・・・・・

すごい人が来ました。

そして樽美酒少尉と対決しようともくろむ松岡中尉は何をしようというのでしょうか??なんだか危険なにおいのする「女だらけの大和」であります・・・。

椿鬼奴さん(画像お借りしました)。モデルにさせていただきました、姐さん!
鬼奴さん



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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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