2012年02月|女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

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「女だらけの戦艦大和」・艦上のひな祭り4

2012.02.29(21:39) 458

いよいよ明日は「女だらけの戦艦大和」の<艦上ひな祭り>の日である――

 

今日は工作科が最上甲板に雛段を設置した。一番大きな雛段はなんと二十段。当初七段でと発注をかけた機銃分隊であったがよくよく人数を勘定したら「七段じゃ間に合わんで。分隊長、あと十三段は必要です!」ということになって工作科では大慌てて段々を付け足す。

ほかにも同じ分隊からいくつかの段の注文があったりして、秋山兵曹長や工作科分隊長は「間違わんようにしろよ!間違うたら工作科の名折れじゃけえね」と確認に忙しい。

衣装も続々、注文者のもとに届けられてその包みを開いた皆は一様に「うわああ…素敵じゃねえ!」と嘆息を漏らした。

そのくらい今回の<ひな祭り>に懸ける工作科の意気込みはすごいものがあった。

 

そして。

梨賀艦長は上陸場からの発光信号を受信した。急いで副長と森上参謀長に

「楳図さんが衣装を持ってきてくれたみたいだよ!急ぎ上陸場まで行こう!」

と叫んで三人は急いで内火艇を出させる。内火艇は三人を乗せて一路上陸場へ・・・。

三人が上陸場に上がり衛兵所に顔を出すと衛兵所長が「この方が御用だとおっしゃっています」と言って、楳図かずこがその後ろから「ガーン!」と言ってそのひょうきんな顔を出した。

そして「はいっ。お待たせしました~」と大きな箱を三つ、衛兵所の机にドンドンドンと置いた。「いやあありがとうございます。ではお代金を」梨賀艦長が言うと楳図店長は「いやいや!お金は今回はいりませ~ん。今回は私がとっても楽しませていただいたからそれでお代の代わりです。次回また何かご注文いただける時はいただきますから~」と言ってまた例の「グワシ!」をやってそれを見ていた衛兵所長は思わず「ウフッ!」と噴き出してしまった。

楳図店長と別れて、梨賀艦長は「後で何か楳図さんに贈ろう。代金を払わないとちょっと落ち着かないからね」と言い副長も参謀長も賛成。

「早くこれを持って帰って試着だ、試着」

三人は待たせてあった内火艇に乗り込んだ・・・

 

そしてついに<ひな祭り>当日がやってきた。

いよいよ薄暮が迫り、艦上のあちこちに設置された雪洞が淡い光を放ち始める。もう総員うずうずしている。皆それぞれ衣装を身につけ、副長の「ひな祭り、はじめ!」と号令を今か今かと待っている。そうするうちスピーカーから待ちに待った「ひな祭り、はじめ!」の副長の声が響いた。

今回は皆<ひな人形>なのでいつものようにドタドタ走ったりしない。しずしずと歩き最上甲板に上がる。まず機銃分隊が主砲塔前にしつらえられた二〇段の雛段に勢ぞろいしほかの分隊員から「すごい!」「壮観だねえ」と感心の声が上がる。機関科の浜口機関長と松本兵曹長は<代わり雛>と銘打ってまるで南方の住民のような格好で立っている。浜口機関長が男雛で松本兵曹長が女雛を演じている。この寒空に布を体に巻きつけただけで寒そうではあるがなかなかそれがよく似あっていて皆は感心している。「機関長、戦争終わったらトレーラーに永住するつもりなんじゃろうか?」という囁きさえ聞こえる。

機銃の増添兵曹はこの日は男雛役で頭に烏帽子を乗せて(ああよかった。これではげが隠せるわあ)とホッとしている。それぞれの分隊の記念撮影を終えるとほかの分隊を見に行ったりほかの分隊が使った雛段に乗ってみたり自由行動である。

そんな中。

松岡分隊長が珍しく防空指揮所に降りていたハッシー・デ・ラ・マツコに「ねえ、鳥くん」と話しかけた。その声にマツコの後ろにいたトメキチが顔をのぞかせた。分隊長はトメキチを見ると「おお!犬くんもいたかあ。ちょうどよかった、一緒に来てくれないかなあ」と言い、マツコとトメキチを自分の私室に連れて行った。

マツコとトメキチは初めて松岡分隊長の私室に入った。マツコは部屋を見回すと、「ふーん。いい部屋ねえ。・・・っていったい何するのかしら、マツオカは」と言った。その時いきなり背後からマツコは分隊長に羽交い絞めされてあわてた。

「な、何すんのようやめてったら!」と羽を広げかけたが分隊長に「おとなしくして!今から鳥くんをきれいなひな人形にしてあげるからね」と囁かれ、「お、お雛様!」と大きく口を開けて叫んでおとなしくなった。そして分隊長はトメキチを見ると「犬くん、君もお雛様にしてあげるから待ってるんだよ」と言って何やら始めた・・・

 

その頃最上甲板ではたくさんの<ひな人形>たちが白酒を飲んだりあられを食べたりしておしゃべりに花を咲かしている。『大和』水偵乗組員の林家一飛曹は大きなカメラを構えて「はいー!チーズ!」と叫んであちこちで記念写真を取っている。林家一飛曹のトレードマークの「桃色のマフラー」はひな人形に扮装しても放さないのが林家一飛曹らしい。

皆が「林家一飛曹、こっちもお願いします」と声をかける、そして・・・

「みんな!オトメチャンだよ!」という誰かの叫びに総員声の方を見た。そこには・・・。

 

素晴らしい十二単に身を包んだオトメチャンがはにかみながら立っていた。その横には男雛にふんした凛々しい麻生分隊士がいる。

皆の間からほおっ・・・とため息が漏れた。「きれいだわあ、オトメチャン」「麻生少尉もすてきじゃわあ」皆がその場に立ち尽くして二人を見つめる。オトメチャンは恥ずかしそうにして軽くうつむく、そのしぐさにどうにもみんなはそそられる。

更にその場に「お―い皆あ、熱くなってるかあ!」と大声がして松岡分隊長がやってきた。後ろに誰かを従えているようだ。その誰かは大きな風呂敷のようなものをかぶせられて誰かはちょっとわからない。

分隊長は麻生分隊士とオトメチャンを見て、「おお、航海科の花形麻生さんと特年兵くん!君たちはやっぱり素晴らしい間柄だねえ。こんなに似会ってるなんて普段からの関係がいいからだろうねえ。これからも熱くなっておくれよ!いいね!」と言ったので皆が笑った。

そして分隊長は「さあ、いいかい皆。今日は私が素晴らしいひな人形を作ってきたからね。これを見てまた明日から熱くなってほしい。では!」というと後ろに従えて来た物を自分の前に出すとそれにかぶせてあった大きな風呂敷を取り去った。

「キャー!かわいい!」「すっごい~!」

兵や士官までもが大騒ぎした。分隊長の前にいたのは<ひな人形仕様のマツコとトメキチ>であったからだ。

トメキチは男雛で小さな烏帽子をかぶり束帯姿。これは工作科水木水兵長の苦心の作である。それを着込みなんとなく気取った顔つきのトメキチに皆が微笑む。オトメチャンも「ありゃ、普段のトメキチとずいぶんちごうて見えるねえ」と感心しきりである。

そしてマツコ。

マツコはこれは女雛であるがその様子を見た皆はしんと静まってしまった。なぜなら・・・マツコはお世辞にも「素敵」とは言い難かったからである。その顔はうどん粉のおしろいで真っ白にされ、黒い毛糸で作ったかつらをかぶされている。そして体を包む布から両方の羽が出ているがその羽にはペンキのようなもので柄が描かれている。

皆の様子を見てマツコは「なによちょっと。急に黙るなんてどういうことよ、あたしのこの姿が変だとでもいうの!?この女たちはさあ」と不機嫌になりかけたがトメキチが「おばさん。みんなはおばさんがいつもと違う素敵な格好してるからびっくりしてるだけ。怒らないで」ととりなしたので機嫌を直した。そして「そうよねえ。あたしがちょっと本気になればこんなもんよ。これでこいつらにも分ったでしょう」とふてぶてしい笑いを浮かべてその辺をノシノシと歩きまわる。そのあとをひな人形姿の兵たちがついて歩く不思議な光景が展開した。

 

と。

いきなり艦上をすさまじい光が照らした。「な、なんだ!」皆がひるんだその時。

「艦艇―ズでーす!」

一番艦首側に作られていた舞台にフットライトがつくとそこに例の三人組が現れたのだが、その衣装を見てみんなは卒倒するくらい驚いた。なぜなら・・・。

いや、いきなりその光景を書く前に少し前の話をしないといけない。楳図店長から衣装の箱をいただいて『大和』に帰った三人、「どんな衣装かな~、お雛様の衣装」とうれしげにふたを開けたのだがとたんに「ギョエエ!!」と楳図店長のような大声をあげていた。三人がそれぞれの箱から出したその衣装とは、<ひな人形>には少し、いや、かなり遠いまるでマリ―アントワネット王妃のような衣装だったからだ。それも細部まで作りこんであって実に細かい。

副長はその衣装をささげ持ったまま「・・・これ、お雛様じゃあないね」と言った。艦長も「うん・・・どっちかっていうとフランス人形、って感じかなあ」という。が一人森上参謀長だけが「いやこれでいいんだ!我々はいずれ世界を相手にする帝国海軍軍人だ、今から西洋の衣装を着なれていて悪いことはない!楳図店長もきっとその辺を理解してこれを作ってくれたんだ」と言って、艦長も副長も納得したという経緯があったのである。

ともあれ、そのフランス人形のような衣装に『大和』のみんなは度肝を抜かれた。呆然とする皆を尻目に艦艇-ズは衣装をライトに光らせながら歌い踊ったのだった。

でも、どう考えてもフランス人形が歌う<ひな祭り>は変だった、とはある分隊の下士官の弁である。

そんなばか騒ぎから少し外れた場所で麻生分隊士とオトメチャンは見つめ合って「きれいじゃ。オトメチャン」「分隊士も素敵です」と囁き合っている。

そしてその後ろの二〇段の雛段の一番上では、お内裏様にふんした機銃分隊の平野少尉が

「誰かあ~ここからおろしてえ~、高いとこ怖いよお!」

と力なく叫んでいたのだった。平野少尉は実は高所恐怖症の気がありしかもこの二〇段の雛段は急ごしらえのせいか一番上はゆらゆら揺れるという軽い設計ミスがあったのだった。麻生少尉とオトメチャンがそっと口づけを交わすそのはるか上では平野少尉の助けを求める声が春の風に乗って呉の夜空に流れている。

 

その夜も静かに更け、すっかり満足なマツコはいまだにかつらと衣装を外さないでトップのトップに座っている――

     ・・・・・・・・・・・・・・・

長い長い話でした。あまり盛り上がりのない話でしたね、ご容赦を願います。

次回は「マツコ」が呉の街にデビュー!?かも・・・??
フランス人形 
フランス人形。昔々の子供のころうちにもありましたっけ、懐かしい!


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女だらけの戦艦大和・総員配置良し!


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「女だらけの戦艦大和」・艦上のひな祭り3

2012.02.26(12:28) 457

翌日トメキチは石川水兵長とともに上陸して行った――

 

「トメキチ、石川水兵長を困らしたらいけんよ?ええ子にしとらんとね」と、見張兵曹はトメキチに言い含めその頭をなでてやった。トメキチは「大丈夫です」というように小さくキャンと鳴いた。そしてトメキチは呉に行ったのだがそれを『大和』のトップで見ているハッシー・デ・ラ・マツコ。

羽を広げて「トメキチ~、<お雛様>がどんなもんかしっかり見てくんのよ~」と叫んでいる。それを見た石場兵曹が「ほう!ハシビロのやつが羽を広げてなんぞ叫んどってよ。なんじゃろうねえ一体」と不思議がっている。麻生分隊士もそれを見て「ほうじゃねえ、何ぞ天変地異の前触れじゃなかろうねえ」と心配げである。

亀井一水だけが「心配ないですよ。トメキチがいなくなったんでさみしゅうなったんでしょうな」と平気である。みなが「そうじゃな、どう見てもあいつにそんな能力があるようには思えんで」と言って笑った。

 

トメキチはやがて石川水兵長とともに呉の街を歩いていた。まだ寒い呉の街の風からトメキチを守ろうと水兵長は自分の外套の中にトメキチを入れている。トメキチは外套の温かさと水兵長の体温でほかほか、気持ちがよさそうだ。

不意に石川水兵長が立ち止まって「トメキチ、見てみんか」と言って外套の前を少し開いた。トメキチが顔を出すと、目の前にショーウインドーがありその中には雅なひな人形が鎮座している。トメキチはそれが何かよくわからず水兵長の顔を見上げると彼女はトメキチの鼻先をちょんと指先で突っついてから

「トメキチ、よう見とけ。これがお雛様じゃ。きれいじゃろう~、うちらこがいにきれいなお雛様になれるじゃろうかねえ?うちが今日ここに来たんは、お雛様の研究に来たんじゃ。どうでやるならきれいなお雛様になりたいじゃろ?」

と言っていたずらっぽく笑ってウインドウの中に見入った。トメキチは(これがお雛様なんだ・・・)と感心してこれもウインドウに鼻面をくっつけて見ている。

 

翌日『大和』に水兵長とともに帰艦したトメキチはトップから降りて最上甲板で待ち構えていたマツコにつかまって

「ねえねえ。見て来たの?<お雛様>をさあ!」

とせっつかれた。トメキチは「見てきましたよ」というとマツコは「早く早くぅ。教えなさいよどんなもんだったかさあ!」と羽を広げてそこらを跳ねまわる。それを見て甲板士官の彼女が「なんだあ、あのでかい鳥が踊ってる!ワハハハ」と腹を抱えて大笑い。マツコはその甲板士官につかつかと近寄って「でかい鳥じゃないわよ馬鹿な女ねえ。あたしはマツコ」というと「ふん!」と踵を返してトメキチの方に戻る。

「で?」とマツコは乱れた羽をくちばしで直してから言った、「どんなふうだったの?お雛様」。トメキチは「あのねえ・・・」というとみてきたことを詳細に伝えたのだった。

 

「そう・・・。じゃああたしたちがお雛様にはなれないってことね」

マツコは心底がっかりした声で言った。残念そうに肩を落としてその場に立っている。頭の毛が風にふわりふわりと浮いている。トメキチはそっとマツコに顔を寄せると

「ねえ、おばさんは<お雛様>になりたいの?」

と聞いてみた。とたんにマツコは狼狽して羽を大きく広げて羽ばたきをすると「い、いやあねえアンタ!何言ってんのよお、あたしがお雛様になりたいなんていつ言ったあ?」とわめきだした。トメキチは落ち着いて「今さっき。言ったでしょ?」と言ってやった。

とたんに恥ずかしくなったのは両方の羽で顔を覆うとマツコはあっという間にトップに向かって飛び立ってしまったのだった。それを見送るトメキチの顔に何とも言えない笑顔が浮かんだ――

 

その頃工作科では雛段の製作に大わらわである。秋山兵曹長は部下を励ましながら「頑張れよ、ほいでもケガせんように。一番でかい雛段はどこの発注か?小さいのはどこどこか?」と言いながら走り回っている。また別の部署では衣装の発注を受けてこれもミシン室や工作室で衣装を縫うのに懸命である。他にも大道具・小道具の製作にいそしむ兵たちがいて工作科は活気付いている。

それを見まわりながら梨賀艦長と野村副長は「忙しそうだなあ、これじゃ私たちの衣装は頼めそうもないなあ」とあきらめ顔である。それを聞きつけた工作科の水木しげこ水兵長が「ご迷惑おおかけして申し訳ないであります。もし、よかったら呉の街に私の友人の仕立て屋がおりますけん、ご紹介いたしましょうか」と言って梨賀艦長と野村副長は喜んだ。

そしてその日のうちに紹介状を持って艦長・副長、そして森上参謀長は呉に上陸して行ったのだ。

水木水兵長の友人の仕立て屋――楳図かずこ――は話を聞いてとても喜んで

「さっそくさせていただきますけえ、こちらで採寸を」

と店の奥にいざなう。店は赤と白のストライプで統一され、そこここに面白い仕掛けがあって参謀長はのぞきこんだり入り込んでは艦長に叱られている。

ともあれ採寸を済ませ、楳図店長は「で・・・どがいなデザインで行きましょうか?」と三人に聞く。

するとにんまりした副長が一枚の大きな紙を作業台に広げて「・・・こんな感じで」と楳図店長を見た。

その紙に視線を落とした楳図店長、「ギョエエエ!これは~~」と叫ぶと次の瞬間には瞳をらんらんと輝かせて

「やりますよー。やりますとも、絶対立派に作ってみますからねえ!グワシ!」

と叫んで片手で妙なサインを作って見せた。その紙には衣装のデザイン画が描かれており、それはどうも見事に楳図店長のつぼにはまったようだった。楳図店長は目を輝かせたまま「ほいじゃあ二日の午後にはお届しますけえ、お待ちくださいね~」と言ってデザイン画を持って作業室に入って行った。

 

そんなこんなで大騒ぎな『大和』艦内。

麻生分隊士と見張兵曹は並んで立って双眼鏡で見張りをしている。皆が皆、浮かれているわけではないのが「軍艦大和」である。

そんな後ろ姿を見て谷垣兵曹と石場兵曹が、

「やっぱりのう、このフネで一番のお雛様はあの二人じゃね」

と言い合っている――

 

        ・・・・・・・・・・・・・・・

 

風雲急を告げる<ひな祭り>準備であります。

さあマツコは夢破れてしまったのでしょうか、そして艦長たちの衣装とは!?次回をご期待下さいませ。

 

「グワシ」。
まことちゃんのグワシ


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「女だらけの戦艦大和」・艦上のひな祭り2

2012.02.25(00:27) 456

松岡分隊長は、麻生分隊士の手を引いてあの人の部屋に――

 

「副長―ーッ!」

と叫んで松岡分隊長は副長の私室のドアを体当たりで<け破った>。副長が、あまりのことに呆然というよりポカンとしてドアの方を見つめている。

「な・・なあに。二人して」とようやく口を開いた副長に松岡分隊長は麻生分隊士をつかんでいた手を離し、その手の親指をグイッと立てて「やりませんか、あれを」と言った。副長はまだ驚きがさめきらない瞳で分隊長を見つめると「へ?何をするの?あれって何?」とフワフワした声で言った。

松岡分隊長は「いやだなあ副長。あれと言ったらあれですよ。ほら<ひな祭り>ですよ」と言って反対の手に持ったラケットをかっこよく構えて見せた。

副長はやっとこさっとこ驚きから覚めて、

「ほう、<ひな祭り>ねえ。そうだねえうちらは一応女だし。女とくればひな祭りだね。・・・うん、いいんじゃないかな?艦長に言っていろいろ相談してみようかね」

と賛成してくれた。こういう話を梨賀艦長が断るわけがない。もろ手を挙げて賛成、大賛成。森上参謀長も「それはいいなあ。どんなひな祭りにするかじっくり考えようじゃないか」とすっかり乗り気である。

そんな四人を見て麻生分隊士は(なんでうちがここに連れてこられたんか、わけがわからん)と思って「じゃ、私は戻ります」と言って戻ろうとした。すると松岡分隊長が「麻生さん、ちょっと待って。私にちょっと考えがあってね、艦内すべての分隊で<ひな人形>を作ったらどうかと思ってるんだよ。しかもそれは生身の人間で作る<ひな人形>にしたいんだねえ。だからさ、うちの分隊では誰誰が適任か、ちょっと考えてきてくれないかなあ」と言った。

麻生分隊士は「な、生身のひな人形――!」と大声をあげていた。艦長がちょっとだけ驚いて分隊士の顔を見た。

と。

見る見るうちに分隊士の顔がニヤけ出してきたではないか。そしてその顔のまま、

「分隊長。うちの分隊からはもう決まっております」

と言った。声さえニヤけている感じがする。分隊長は「ほう、誰誰かな?」と聞いた。すると分隊士は間髪いれずに

「私と見張兵曹でありますっ!」

とものすごい大声で答えた。すると梨賀艦長・野村副長・森上参謀長の口がとがった。三人とも(そういう話なら私がオトメチャンと・・・)と思っているからに他ならないが。

それに気がつかない松岡分隊長は、「ふーん。立候補か。いいねえ麻生さーん、熱くなってるじゃないの、いいよ!・・・でもほかにも何名か出したいね。そうだねこの際だから、誰でも出たいものは出てよい、ということにしようか。ひな人形はたくさんあった方が華やかでいいじゃない?・・・いかがです、艦長」と艦長を見返る。

艦長は、

「それは素敵だね。ちょっと相手を変えるのもいいかもしれないし」

と言ったがこれもオトメチャンと組みたいからに他ならない。副長は、

「ではそうときまったら今夜にも各科長を呼んで話をしましょう。実行日は三月三日の雛の節句でいいですね」

と言って四人はうなずき合う。

そしてその晩、各科長が呼ばれそのあと科長から分隊長以下に話が伝えられたのだった・・・。

 

その話は翌日の昼までには艦内の全員に伝達された。

みんな大騒ぎで「誰と組もうか、どんなひな人形になろうか」と寄ると触るとその話で持ちきりである。

機関科では機関長の浜口大尉が、「おい聞いたか、ひな祭りの話。松本、俺と組まんか!?」と松本兵曹長に持ちかけ兵曹長は「ぜひやりましょう!ではどんなひな人形になりましょうか?段飾り?それとも親王飾りですか?」ともうやる気満々である。

とある分隊ではもう工作科に雛段を発注したという。それを耳にした麻生分隊士は「いけんで、先を越された!うちも雛段を発注じゃ。うちらは八段で行こう!」と言って自ら工作科に走って行った。

「分隊士、燃えとるねえ。分隊長に負けん位熱うなっとるわ」

「ほうじゃ。だってオトメチャンとお雛様になれるんじゃもん」

「あの二人がお内裏様とお雛様で決定じゃね。ほいじゃあうちらは三人官女や五人囃子とかじゃのう」

「なんやらわくわくするのう」

航海科では小泉兵曹・石場兵曹・谷垣兵曹が集まってそんな話をしながらも双眼鏡やテレトークを拭いて手入れを怠らない。

それを『大和』のトップのトップから、トメキチと一緒に見ているハッシー・デ・ラ・マツコは「ねええ?一体こいつら何をしようってのかしらねえ。トメキチ、あんたわかるぅ?」

とトメキチに尋ねている。トメキチは後ろ足で耳を掻いてから

「僕にも分んないの、マツコサン。でもねえ、聞いた話だと呉の街に行けば<お雛様>があるって話よ?マツコサン、呉の街に行ってみてきたらどうかなあ?」

と言った。マツコはその大きな体をゆすって笑いながら、

「あんたバカ言ってんじゃないわよ。あたしがあんな街に行ったら人間たちがあたしを捕まえようとしてくるに決まってんじゃないのよ。あたしはもう狭いとこに閉じ込められるの、いやだからね!」

と断った。トメキチは「ふーん、そう・・・」と残念そうである。そこに、石川水兵長が「トメキチ~」と声をかけてきた。トメキチは石川水兵長のもとに降りてゆく。

石川水兵長はトメキチを抱いて何やら囁いている。トメキチが、マツコを見上げて「おばさん、僕石川さんと明日呉の街に行くから、そのお雛様を見てきますよ」と言った。マツコはそれを見下ろして、

「おばさんじゃないったら。・・・あたしはマ・ツ・コ」

と訂正してやった。トメキチがしまったという顔で舌を出した――

 

       ・・・・・・・・・・・・・・

いよいよみんな本気になってきた「艦上ひな祭り」。

トメキチはひな祭りを理解してくるのでしょうか、そしてマツコはひな祭りにかかわるのでしょうか?緊迫の次回をお楽しみに!

 

親王飾り。これも素敵ですね!(画像拝借しました)親王飾り


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「女だらけの戦艦大和」・艦上のひな祭り1

2012.02.23(22:08) 455

「女だらけの戦艦大和」は内地の春を間近にして、その身を呉に置いている――

 

「今年は春が早めなんじゃろうか」

防空指揮所で呉の町並みを見ながら見張兵曹は言った。それを聞いて小泉兵曹が「ああ、ほうじゃな。そういやあこないだ上がった時梅がほころんどったし、桜の花芽もふくらんどったねえ」

「ほうかあ、ならもうひな祭りが近いゆうことじゃね」

二人の間から石場兵曹が顔を出して言った。見張兵曹と小泉兵曹は「ほうじゃ、ひな祭りじゃわ!」と手を叩いた。

三人が騒いでいると松岡分隊長がラケットを担いでやってきて「お!?君たち何か楽しいことでもあるのかな?熱く語ってるじゃないか!」と話しかけてきた。

そこで石場兵曹が「分隊長、もう季節は春近し、であります。ということはひな祭りの時期であります」と言った。分隊長は興味をそそられたようで「ひな祭りねえ、ふ~む」と唸っていたがハタと手を打つとダッと下へ走り降りて行った。

「なんじゃねありゃ?」

と小泉兵曹と石場兵曹は分隊長が走って行った方を見て言った。見張兵曹は、ねえねえと小泉兵曹の袖を引いて、

「なあ、小泉の家のひな祭りってどがいなん?」

と聞いた。小泉兵曹はほうじゃのう、と言って腕を組んで少しもったいぶってから

「うちのひな人形は段飾りでな、こう階段みたあに段々が六段あったのう。ほいで一番上にはお内裏様とお雛様。その下に三人官女がおって、その下に五人囃子。その下に右大臣と左大臣。ほいでその下に仕丁の三人。一番下にはお雛様のお道具じゃ」

と言って思い出に浸る目になった。小泉兵曹はさらに言葉を継ぐ。

「お内裏様とお雛様の横には雪洞があってなあ、それがまあええがいに明るうてねえ。その明りを受けてお雛様のお顔がほんのり見えてほんまにえかったわ。で、ひな壇の前に桃の花を飾ってみんなで白酒を注いでもろうて、ごちそうをいただくんじゃ。うちは姉さんと一緒に普段は着せてもらえん着物着てなあ。・・・たのしかったで」

そう言ってしまってから小泉兵曹はしまった、と思った。こんな話は見張兵曹にとっては「お金持ちのお嬢様の自慢話」でしかないのではないか?石場兵曹も見張兵曹をそっと見つめる。

しかし小泉兵曹たちの心配をよそに見張兵曹は目を輝かせて話を聞いている。そして

「ほう、小泉兵曹がたはええねえ。六段の段々のお雛様ゆうてどんなもんじゃろうねえ。うちも見てみたいわあ」

と言っている。小泉はどんな顔をして答えたらいいか迷いながらあいまいな笑顔をしている。石場兵曹も困ってしまったか少し顔をそむける。見張兵曹はそんな二人に気がついたか、

「家にもお雛様はあったがあれは姉さんたちのものじゃけえ、うちは触らせてもらえんかったわ。家のお雛様は確か三段の段々じゃったねえ。みんなはご馳走食べとったけどうちにはくれんかったね。ほいでもうちはお雛様見るだけで嬉しかったわあ」

と明るく言った。

 

見張トメは幼いころのひな祭りに参加させてはもらえなかった。継母は「貴様はこれに触ったらいけんで。これは姉さんたちのもんじゃけえね。触って壊したらはあ貴様のおる場所はないけえね。わかったらあっち行きんさい」と言ってトメを追いたてた。トメは追いたてられて庭の隅から、あるいは縁側からお雛様を見つめた。

やさしい微笑みのお雛様たちはトメに差別的な視線を投げてはこない。むしろトメをいとおしむような瞳で見つめてきている。

それが幼いトメにはなんだか嬉しいような恥ずかしいような、くすぐったい心持だった。そんなふうにひな人形を遠くから見つめていると姉たちが「ああいやじゃわあ。変な奴がお雛様見とる。汚れてしまうけえ障子を閉めんと」と言って障子を閉めてしまう。自分から縁側を上がって障子を開けることはできない。それをしたら姉たちに縁側から蹴落とされる。

だからトメは、再び障子が開くまで待つしかなかった。ひな人形を飾った部屋に入ることもその前の廊下を通ることも禁じられていたあの頃。トメは一日の仕事が終わると、継母から茶碗一杯の粥を与えられて納屋に戻るのだった。(明日はまたお雛様に会えるじゃろうか)と思いつつ。

 

そんな話をポツリポツリと語ると小泉兵曹も石場兵曹も少し鼻をすすりあげた。石場兵曹は「オトメチャンはそがいな思いをしとったんじゃね。ひな祭りはおなごのお祭りじゃいうんに。どがいな理由があろうと子供を差別するなんか人の道に反しとる・・・」と独り言のように言って袖で涙をぬぐった。

そんな二人を見てオトメチャンは「ほいでもうちはお雛様を見ることができただけ幸せですよ」と言って微笑んだ。

 

さて、防空指揮所を走り去って言った松岡分隊長はどこへ行ったのか?途中出会った麻生分隊士も「麻生さんも一緒に来て!」と引っ張ってあの人の部屋に――

         ・・・・・・・・・・・・・

何を思いついた松岡分隊長!麻生分隊士まで引き込んで考えることは果たして・・・!?

緊迫?の次回をお楽しみに。

 

ひな祭り。いいですねえ~~。
画像は2年ほど前の我が家のひな飾りです(今年も飾りましたが写真が大きすぎて乗りませんでした泣)。
200902221605000ひな人形


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「女だらけの戦艦大和」・花一色2<解決編>

2012.02.19(20:48) 454

「たづ子お!!」月島中尉は大声で妹を呼んだ――

 

その声を聞いて行列が止まった。婚礼荷物を担ぐ人や親せきの間を通って、中尉は列の先頭の妹や両親の前に飛び出していた。三人が振り向いた。

父親は、「志づ子、貴様どうしてここに来た!」と紋付き袴を着た体を震わして怒鳴った。母親は何か怖いものを見るような目つきで中尉を見る。たづ子が一瞬すがるような瞳で中尉を見たのを、月島中尉は見逃さなかった。

中尉は、父親の正面に立った。そして、

「いったいどういうことですこれは!たづ子は健太郎と結婚するはずじゃなかったんですか?それがなんだ、どうして伊川の息子と結婚することに!?」

と言ったがそこでハタと気がついた。

(伊川の家にはあのくそボンボン一人だけで確か最近嫁をもらったばかりじゃないか?)

「あの家の息子はもう嫁がおりましたね、それとも嫁がみまかって後添いにとでも言うんですか?」中尉の問いに、父親は少し顔をそむけた。母親は下を向いてしまった。が、父親は自分を励ますように咳払いを一回すると、

「息子の嫁ではない」

と言った。中尉は「なら誰のだ!ちゃんとはっきり言ったらどうです!」と声を更に大きくした。怒りがわき立って、小刻みに手が震える。親戚たちが気まずそうにうつむいた。

母親がやっと、言った「伊川の・・・旦那さまのところよ」と。

「旦那さま・・・旦那さまってあの爺さんのことか!?」中尉はすっ頓狂な声を上げた。伊川の旦那なら数年前妻を亡くし、もう六十近い年齢ではないか。それがいったいなぜたづ子を嫁にもらうのだろうか。

問い詰められて父親は真実を明かした。一年半ほど前、「伊川の旦那」なる男が村の用事で月島の家に来た際、お茶を出したたづ子に一目ぼれしたのだ。伊川の旦那は昔からたづ子の存在は知ってはいたが「これほどまでにきれいで気立てのよい娘さんになったとは」知らなかった、と言い「ぜひ私の後添いに」と言いだした。当初、父親は「たづ子にはもう、許婚がおりますから」と丁寧に断ったが伊川の旦那はしつこかった。何を言っても承諾しないと見た伊川の旦那はついにあの<切り札>を出してきた。

ある日、ふらりと月島の家に遊びに来た伊川は家を見回し「この家も少しあの辺がくたびれている、ここも直した方がいい」等々言いだした。父親は苦笑して「まあ、今のところ大した不自由はないし、第一そんなあちこち直す金もないですから」というと伊川の旦那はその顔を父親に近付けると囁いたのだった・・・

「こう言っちゃなんだが月島さん。家を直す金を貸しても・・・いや、貸すなんてけちなことは言わないよ、あげていいんだ。いくらでもあげよう。その代わりに・・・たづ子さんを私にくれまいか?」

その瞬間父親は悪魔に魅入られたと言っていい。ふらふらと金の代わりにたづ子を伊川の旦那の後添いに出すことを己の一存で決めてしまった。

それを聞かされたたづ子は絶望して泣いた。身を畳の上に投げて夜通し泣いたが父親は許さなかった。「もう約束したし、これこの通り金もいただいた。お前は伊川さんの嫁になるのだ。健太郎にはあきらめてもらえば済むことだ」と言い、母親に「たづ子は家から一歩も出すな、志づ子に手紙を書いてもいけない」と厳命したのだった。

そしてたづ子はついに自分をあきらめて、今日の日を迎えたのだった。

 

「たづ子、お前伊川に行きたいわけではないだろう?」

月島中尉は今度は妹に向かって尋ねた。白無垢姿がまぶしい妹はちらりと父親の横顔を見た後、小さな声で

「いいえ・・・です」

と答えたがその声には張りがなく嫌悪感に満ちていた。月島中尉は「たづ子、お前もっと自分に素直になれ。お前はもう前っから健太郎と一緒になる約束だったろう、健太郎との話の方がずっと先だったじゃないか。約束をたがえるとは健太郎やあちらのご両親にも無礼ではないか。・・・しかしたづ子を責めるのは酷っていうものですねお父さん。すべてはあなたのせいだ、金に目がくらんだあなたのせいですよお父さん。・・・もらった金というのはまだあるのですか?」と言い、父親が「ある・・・」と答えるとそれを親戚の一人に家に取りに行ってもらった。

小風呂敷に包まれた札束を、汚いものを見るような目つきで見ていた月島中尉はそれを握ると「今からこれを伊川に返しに行きましょう。そしてこの婚礼もご破算にしましょう。たづ子は約束通り、健太郎の嫁にさせます」

と言いきった。父親は「そんな。伊川さんに・・・」と色を失ったが、中尉は「女を金でどうこうできると思うような奴のところに可愛い妹をやるわけにはいきません。・・・女は<モノ>じゃないぞ!女だって私のようにお国に尽くす軍人にもなれるし、いい嫁になって母になって、そうしてお国に尽くす道もある!こんな・・・まるで身売りのような結婚、私は絶対認めない!」

中尉の絶叫が響いた。

皆が静まり返った時、行く手から「おうい、月島さん!」と声がかかり、伊川の旦那という男がこれも紋付き袴でこちらに走ってきた。伊川はハアハアと息を切らしてこちらへ来ると、

「いやあ月島さん、あまり遅いからどうしたかと思って・・・」

と言いかけて自分の前に月島海軍中尉がいるのを見てぎょっとして立ち尽くした。中尉は手にした札束を、伊川の足元に叩きつけた。札束を止めていた帯封が切れて札が舞った。伊川はそれを見つめるだけ。

月島中尉は、伊川を睨みつけると「伊川さん、」と呼びかけた。いささかたじろいたような伊川を見て中尉は言葉を継いだ。

「よくも人の大事な妹を、金で買うような真似をしてくれましたなあ。あなたは恥ずかしくないんですか?妹には大事な許婚がいるにもかかわらず、あなたはもぎ取るように自分のものにしようとなさった。こんな所業、人は許しても神様はお許しにはなりませんよ。そして私も。いやしくも海軍士官の妹を<買った>となればあなたもただじゃ済みませんよ。・・・この祝言、無効にする!」

中尉の怒りは最高潮に沸騰している。親戚の間にも、伊川を非難するような雰囲気が漂い始めた。一人の男性が「どうもおかしいと思ったら・・・そういうことだったのか。わしもこの祝言には反対だな。なあみんな、たづ子は元の許婚と一緒にさせようじゃないか」と言い、一同が同調した。

月島の父親はくやしげな顔になり、伊川はいたたまれないような顔つきになった。中尉はふと列の後方を見てそちらを手招くしぐさをした。

健太郎が、列の後ろからそっとたづ子の方に歩み寄ってきた。月島中尉はその背中をそっと押してたづ子の方に押しやった。

健太郎がたづ子の正面に立った、その時初めてたづ子の顔に嬉しげな微笑みが満ちた。中尉はその場に散らばった札を丁寧に集めて伊川に渡して「これでいいですね。人の心まではお金では買えないんですよ。あなたが本当にたづ子を好きなら、元の鞘に納めてやりましょう」と静かに言った。伊川は「・・・すまなかった、私が悪かった。このことはもう・・・。幸せになりなさい」というと皆に一礼するとその場を去ってゆこうとした。

その時たづ子が「伊川さん・・」と呼びかけ、路傍の小さな花をそっと摘んだ。そして振り返った伊川にそれをそっと差し出して、伊川が受け取ると深く一礼したのだった。伊川はうなずくと、その花を懐の羽二重の布に包み、再び懐に収めると歩き去って行った。

「さて」

と月島中尉は皆を振り向いて言った。健太郎はたづ子に寄り添うようにして立っている。それを見て中尉は

「健太郎さん、たづ子を、たづ子を一生お願いします」

と言って頭を下げた。健太郎はたづ子の手をしっかり握りしめると「はい!お姉さん、俺はたづ子さんを一生大事にします。だからお姉さん、ご安心を」と言って深く頭を下げた。

一同から拍手が起こり、やがて花嫁行列は元来た道を引き返して行ったのだった――

          ・・・・・・・・・・・・・・・

 

なんとかうまく行きました。伊川の旦那物分かりがよすぎる気もしますがまあ、人の心をまだ持っていたということで。

 

この話、本当はもっと悲しい終わり方をするはずでしたがそれではあまりに、と思い返し話を練り直したのでした。

「最高の結婚」と「最良の結婚」はおのずと違うのですから。一回きりの人生なら「最良」を選びたいです。

 

この話のイメージを湧かせた「松田聖子 花一色」映画「野菊の花」の主題歌です。これ何度聞いても涙ものです。




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