「女だらけの戦艦大和」・変わらぬ私と変わった私

・・・そのことが終わり、麻生分隊士とオトメチャンは椰子の木の元に戻った――

 

ちょっとだけ、ちょっとだけ気まずいような気恥かしいような感情が二人を支配している。何か言いたいが何も言えないと言った風情が二人の間にあるが、だからと言って背を向けたいとか話したくないと言うのではない。

ともかく、不思議な感情。

そこへ、石場兵曹と石川水兵長が戻ってきた。おーい、と石場兵曹が片手をあげて叫んだ。石川水兵長が両手を上げて振った。それにどことなくぎこちなく応える麻生分隊士。

石場と石川は二人のそばに来ると「分隊士、〇〇二五。ちょうど五分前ですね、さあ、昼飯にしましょうよ」と言って木の根元に置いてある弁当袋を持ちあげた。

「おお・・そうだな。さあオトメチャン」

麻生分隊士は照れ臭げに言って袋を受け取ると、その中から弁当を出して皆に手渡す。

「ありがとうございます」

と皆は言って「いただきます」と手を合わすと早速食べ始める。

昼下がりのけだるい日差しが、椰子の葉を通してきらめく。皆は遠い水平線を見つめながら弁当を食べる。

 

弁当を食べ終える頃にはすっかり体も乾きそれぞれの防暑服を着て宿に戻る。

もうすぐ宿に着く、というとき石場兵曹は「あ、オトメチャン!」と声を上げた。オトメチャンが「はい?」と石場を見かえると石場は、オトメチャンの足を指さして「いけんのう、オトメチャン。アレの始まりじゃあないね」と言った。ハッとしたオトメチャンが自分の足を見ればなんと、防暑服のズボンから出た足のふくらはぎあたりを足の上から細く一筋の血がながれていた。

「あっ!」と慌てふためくオトメチャンに麻生分隊士は、「もうそこが宿じゃけえ、はよう行こう。走れるか?」と抱きかかえるようにして走ってゆく。

石場兵曹はそれをのんびり見つめながら「訓練は厳しかったし、ここはまたええ所じゃけえね。その落差に始まるんもわからんかったんじゃね」と言った。

が、一人石川水兵長だけは(変じゃな。今まで見張兵曹がアレで失敗したところを見たことなんぞ無い。いつも兵曹は始まる一日前にはちゃんとしとったのに。今回に限って変じゃなあ)と不審に思っている。

普段から見張兵曹は班長として「女として月のもので失敗したら恥ずかしいけん、上陸の時は少し余分に<待ち受け一番>を持っていかんといけんよ。そして万が一にも失敗したら早いうちに石鹸で水洗いをすることじゃ」と言っている。

(そんな人が失敗するとはおかしいのう)石川水兵長はそう思いながら宿に入ってゆく。

 

次の日、四人は『大和』に戻った。

例の話は既に石川水兵長がしゃべって小泉兵曹も、機銃の長妻兵曹も知ってしまった。

「ええ?オトメチャンが・・・あり得んなあ」と小泉兵曹は首をかしげた。石川水兵長が「でしょう?おかしいですよね、どう考えても」という。

長妻兵曹が「そういやぁのう」と、どこかから流れてきた噂話として<麻生分隊士がオトメチャンの「乙女」を奪った>という話をした。しかもその話は通信科の兵曹が「暗号電で流れてきたんじゃ。俺てっきり敵襲かなんかかと思うたら、別の意味でもっとすごいわ」と言ってこっそり長妻兵曹に耳打ちして来たのだ。

「まさか!」と小泉兵曹が大声を出した。「それだ、そのせいでオトメチャンは出血したんじゃ、いやあ~、分隊士やったのうー」

でも、と石川水兵長が言った。「こういうことはあまり人に言いふらしたらいけんのと違いますか?皆に知れるときは知れますが、ここは我々だけの内密な話で他には内緒にしときませんか」

「たしかに」と小泉も長妻兵曹もうなずいた。他人の秘め事を言いふらすなんか、帝国海軍軍人のすることではない。

「よし。このことは俺たちだけの胸に仕舞っておこう。オトメチャンと分隊士の名誉のためにな」

小泉兵曹はそう言って、三人は「指切りげんま」をしたのだった。

 

その晩。

オトメチャンは最上甲板でひとり風に吹かれていた。今夜は麻生分隊士は航海科の分隊士の集まりでトレーラ島に上がっている。帰りは明日になりそうだ。

オトメチャンは満天の星空を見上げてふう・・・っと息をついた。なんだか昨日のあの事があってから自分が自分ではないみたいな気がしている。しかも(あの事の後ってあんな風に血が出るんだ。うちは知らんかったよ、うちもあほじゃね。でも分隊士が世話してくれたけん、よかった)。

出血したオトメチャンを抱えるようにして宿に入った分隊士は、シャワー室にオトメチャンを引き込むとその半ズボンを脱がしてふんどしを解いた。ふんどしが血で汚れていた。分隊士は自分のカバンから新しいふんどしを出してきて、オトメチャンの股に「待ち受け一番」を挟ませるときれいなふんどしをしっかり締めてくれた。

そしてオトメチャンをしっかりと抱きしめると、

「すまんなあオトメチャン。俺があんなことをしたばっかりにこげえな目にあわせてしもうて。・・・オトメチャン、俺を恨んどるか?」

と聞いた。オトメチャンは分隊士の胸の中で首を激しく横に振って「いいえ、うちは嬉しかったです。うちは分隊士が大好きですけん、何をされても恨んだりしません」と叫ぶように言った。

 

(ほいでも)とオトメチャンは思う、(うちはあの事の前と後ではどこかちごうて見えるんじゃないかと思うて心配じゃ。ちごうて見えたら皆にわかってしまう)と。

そこに背後から「おや、そこに居るんは誰じゃね」と声がかかった。振り向けば岩井しん特務少尉が電気工具箱を抱えて立っていた。

「オトメチャンね、どうしたん、こんなところで」

と尋ねる少尉を見つめるオトメチャンの瞳が少しぬれた。岩井少尉は工具箱を下に置くと、「何か悩んどろう?よかったら聞かせてくれんか?」とそのそばに立った。

オトメチャンはしばらく涙が流れるままに黙っていたがやがて、「うち、昨日とどこかちごうて見えませんか」と唐突に尋ねた。

ちょっとびっくりした顔をした岩井少尉ではあったが何か思いあたったようで、ふっとほほ笑むとその場に座った。

オトメチャンも座らせると「いいや。オトメチャンはずっと前からのまんまじゃ。何かがあっても人間そうそう変わったりせんよ、大丈夫。

・・・はあ、するとオトメチャンは自分が変わってしもうたんではないか、と思うくらいのことがあったんじゃね。・・・うちにも覚えがあるよ。うちもそのあと、自分の顔を鏡で見てはどこか昨日とちごうとりゃせんかと気が気でなかったもんじゃ」と言って笑った。

オトメチャンは岩井少尉の顔を見つめている。そして小さな声で「それは・・・いつですか」と聞いた。

岩井少尉はほほ笑んで「結婚した晩じゃ」というと夜空を見上げて笑った。「こんなこと人に言う話とも違うが、オトメチャンになら話せるけん、話す。うちはね、あの晩が初めてじゃったんよ。なんだか夢中でええも悪いもわからんうちに済んでしもうた。でもそのあとなんだか自分がえらく変わってしもうた気がしてならんかった。でも、変わったんは表ではのうて自分の中身じゃったんね。なんと言おうか、少しだけ大人になったんじゃね、それを通して。

じゃけえ、オトメチャンもそがいに悩む必要はない思うわ。誰でも一回は通る道じゃけんね」

そう岩井少尉は一気に話すと、オトメチャンの顔を見た。そして、

「噂話では聞いたが・・・相手は・・・麻生分隊士なんじゃと?」

と小声で囁いた。頬に紅葉を散らしたオトメチャンに、岩井少尉は微笑みかけその肩を優しく叩いた。

「麻生さんはねえ、本当にオトメチャンを大事に思うとるよ。いつだったかスマトラに陸戦隊で行った時だってずいぶんオトメチャンを心配しとってじゃけえね。それは石場兵曹もわかっとる思うよ?・・・まさかそのことでオトメチャンは麻生さんを嫌いになったりしたんじゃないだろう?」

そう問いかける少尉にオトメチャンは「嫌いになれません。私は分隊士が大好きですけん」と言った。岩井少尉はにっこり笑うと、「ならもう悩んだり惑ったりせんことじゃね。普段通りのオトメチャンでおったらええんじゃ」と肩をもう一度叩くと「じゃあ、うちはこれで」と立ち上がり電気工具箱を抱えると下甲板に通じるハッチに向かった。

その姿に敬礼をしたオトメチャンからは――昨日とは確かに違う何かがにじみ出ていたのだった。

 

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「防暑服」、左から二,四番目の人が来てるのがそれに相当します(WIKIより)。
JNAF General at China.jpg 


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「女だらけの戦艦大和」・天国の接吻(キッス)2<解決編>

背後の椰子の葉が鳴り、二人は急に黙りこむと見つめあった――

 

麻生分隊士と見張兵曹は、サンゴ礁の島の浜で立ったまま時間を忘れて見つめあったままである。海の上を吹いてくる涼やかな風が二人を包んで流れて行く。

麻生分隊士はオトメチャンの、オトメチャンは麻生分隊士の、それぞれの瞳を見つめている。視線が切なく絡み合っている。

引き潮の海の水が、二人のくるぶしの下をひたひたと打つ。オトメチャンの唇が、少し動いた。

麻生分隊士の両手が、それを合図のようにオトメチャンの背中に伸びて彼女を抱きしめた。

麻生分隊士の胸に引き込まれ、オトメチャンは「ぶんたいし・・・」と初めて言葉に出した。分隊士のオトメチャンを抱きしめる力が強くなった。

「オトメチャン・・・」

分隊士を見上げたオトメチャンの紅い唇に分隊士は自分のそれを重ねた。オトメチャンも一所懸命応えてそれが分隊士には可愛くて仕方がない。

たまらなくなった分隊士は、オトメチャンの水着の胸当ての下の縁に指をかけた。そしてその指を胸当ての中に滑りこませた。分隊士の指は胸当ての中で何かを探し当てた。

そしてその何かを・・・摘んだ。唇が離れた。

とたんにオトメチャンが「ああ・・・」と小さく声を上げた。そして「分隊士。・・・だめ、いけない。誰か来たら困ります」と消え入りそうな声で言う。

分隊士は指先に力を少し入れた、そして「大丈夫だよ、誰も来やせん。それよりこんな天国見たあなところでこがいなことを出来るほうが俺は嬉しい」といい、次の瞬間オトメチャンを抱えるなりその場に寝かしてしまった。

きらきら光る水の中に横たえられたオトメチャンに分隊士はしばし見入った。(美しい)と思った。

オトメチャンは見つめられて恥ずかしいのか顔を横に向けている。髪の毛が海水に揺らめく。分隊士はオトメチャンの胸当てに手をかけるとあっという間にその結び目を解いてしまった。オトメチャンの白い胸があらわになり、眩しい。麻生分隊士はそのオトメチャンの上にそっと重なるとその胸に顔をうずめた。胸の先の桜色の部分を口に含んだ。そして片手をオトメチャンの体に沿って下におろすと、パレオをそっとめくった。太ももをなでまわす。

オトメチャンが切なげな声をあげる。その声を聞きながら分隊士は手をオトメチャンの「乙女の部分」に当てた。水着の上からそこを愛撫し始める。唇はオトメチャンの胸から離さない。

「分隊士、だめ。私、あの・・・」

オトメチャンは何かに耐えるような声をあげて身をよじった、分隊士は口を離すと手だけは止めずに、

「どうした?何がいけん?何がダメなんじゃ?」

と意地悪気に聞く。分隊士の指が、水着の端から入りこんでオトメチャンの肝心部分をじかに触った。オトメチャンは分隊士にしがみつくと

「ようわからんのですが、ダメなんです。・・・分隊士ぃ・・・」

とこの上ないほど切なげな声を上げた。分隊士は指を動かしながらオトメチャンに接吻(キス)をした。長い長い接吻。オトメチャンが身悶えるのを分隊士は自分の体で押さえてなおも接吻を続ける。

オトメチャンはもう夢中で分隊士の動きに応える、もう自分がどこにいるかもわからなくなるくらい狂おしい時間が過ぎている。すべてがこの世のものではないような気さえする、めくるめく快感。

「!!」

オトメチャンの体がビクン、と跳ねた。分隊士は接吻をやめてオトメチャンの顔を見つめている。

「分隊士・・・そこは」いけません、といいかけた時分隊士の指はオトメチャンの「そこ」に少し入りこんでいた。

動けないオトメチャン。オトメチャンの視界には自分を見降ろす分隊士の顔とその背後に広がる蒼い空とぽっかりと浮かぶ雲しか見えない。すべてが光の中で輝いている。風が通り過ぎる。

分隊士はオトメチャンの「そこ」の少し上の部分を刺激しながら息を荒げた、「ここはのう、オトメチャン。おなごの一番感じる所じゃ。そしてここがおなごの一番の肝心どころじゃ・・・」そういいながら少しだけ、指を中に進めた。

「いや・・!分隊士、いけん!・・・痛い・・・」

オトメチャンが叫んだ。離れようとしたその体を分隊士は自分の体で押さえつけてしまった。

いやじゃ、痛い、と泣きそうなオトメチャンを少し残酷な感情で見つめつつ分隊士は手を離さない。それどころか尚少しづつ指を中に進める。「最初は皆、痛いんじゃ。誰にでも聞いてみたらええ、小泉にでも、長妻にでも」

「いやじゃ・・・分隊士お願いです、やめて」

と懇願するオトメチャンに分隊士は「ここでオトメチャンの初めてをもらう。オトメチャンが男にされるんはいやじゃ、男にされる前に俺がもらう。こげえにきれいなところで無くすんならええじゃろう?俺はもう止められん」と宣言した――

 

オトメチャンはハアハアと荒い息をつき汗を額に滲ませている。分隊士は意外に冷静な表情でその作業を続けている。時折「力を抜いて」とか「息を吐いて」などと声をかけながら。

オトメチャンは「うち、もういけんです。お願い、もう・・・」と言って横を向く、その胸の先を分隊士はねぶった。

ううん、とオトメチャンがうめいた。少しオトメチャンの両足が開いたのを見逃さず分隊士は押し込んだ。

ああっ!とオトメチャンの叫びが空に響いた。

そして――分隊士は、オトメチャンを自分のものにした――。

 

やがて、どのくらいの時間がたったかわからないが分隊士はオトメチャンの胸の先から唇を離し、体を離しそしてオトメチャンの中から指をそっと引き抜いた。

オトメチャンの瞳からゆっくり涙が流れ落ちた。その涙は海の水に落ちて混ざり合う。相変わらず空も海もキラキラ光る、天国の様相。

オトメチャンは目を閉じて全身からすっかり力が抜けてしまったようだ。分隊士も力が抜けたのか、オトメチャンの足の間にへたり込んだ。

「ごめん。・・・ごめんねオトメチャン。俺、どうにかしとった。こんな目に合わせるつもりじゃなかったんじゃ、本当にごめん・・・」

分隊士はそういうとオトメチャンの上に重なって泣きだした。その手の指にはわずかではあるがオトメチャンの血がついている。

しばらく泣いていた分隊士は、自分の背中にオトメチャンの両手が添えられたのを感じた。ふっと顔をあげてオトメチャンを見た。オトメチャンは涙を含んだ瞳で、それでもほほ笑みながら分隊士を見つめていた。

「分隊士もう泣かんで下さい。うちは・・・嬉しいです」

そういうオトメチャンを分隊士は見つめた。オトメチャンはほほ笑みながら、

「だって、うちは分隊士が大好きじゃけえ」

と言った。分隊士は思い切りオトメチャンを抱きしめていた。そしてその耳元で「俺もオトメチャンが大好きじゃ、離さんぞ。生きるも死ぬるも一緒じゃけえね」と言った。オトメチャンも分隊士を力いっぱい抱きしめながらうなずいていた――

 

ところで。

この一部始終を見ていたものがいた。それは分隊士が「あの辺から先はズドンと深くなっている」と言ったあたりに潜航していた特殊潜航艇二隻の乗組員たち。

彼女たちはこれからの大きな作戦に先立って休暇を先送りにこのあたりで訓練中だったのだがまず一隻が「おかしな人影が!」と発見。その後もう一隻もそれを発見し一部始終を特眼鏡で検分していたというわけであった。

その弐隻の特潜の乗組員――黒木少佐・仁科大尉のペアと、松尾大尉と都竹兵曹のペア――では「あれを処女喪失と言うべきか、否か」が論議になりそれはいつしか艦隊全体に「極秘」のうちに広まり、大変な論議をかもしたと言う・・・。

 

そんなことをこれっぽッちも知らない麻生分隊士と見張兵曹の二人は、きらめく水の中に座ったままもう一度、「天国の接吻」を交わしていた――

 

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

なんだこれは!!青春性春小説か!?十八禁にした方がいいかとも思える内容だ!十八歳以下の方は目を閉じて読んでください(って最初に書け!)

 

『甲標的』、真珠湾での形とシドニーでの形は発射管のあたりが微妙に違うんですがこれではわからない!!(WIKIより)↓


松田聖子ちゃん「天国のキッス」。こんな下らねえ小説のネタにされるとは・・・トホホ。
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「女だらけの戦艦大和」・天国の接吻(キッス)1

「女だらけの戦艦大和」はトレーラー環礁内外でここ五日ほど連日猛訓練に励んでいる――

 

『大和』他、軽巡『陣痛』や駆逐艦『無花果』他艦艇数隻と、潜水艦基地からは『甲標的』搭載の伊号潜水艦も数隻参加。

大変に力の入った訓練が行われている。

今回は対艦・対潜訓練である。標的を海上に設置しそれに対する砲撃訓練や、『甲標的』が仮想敵になっての爆雷投下訓練や潜水艦退避訓練が主。

もっとも、帝国海軍の全艦艇には敵の魚雷や爆弾を跳ね返せる「磁性塗料」が塗ってはあるが、緊張感を高めるためと万が一塗料がはがれた時のための訓練である。

『大和』の昼戦艦橋では森上参謀長がその様子を逐一観察し訓練日誌に書き込む。本来日誌を書きこむ担当は主計科の兵だが「あの子、字汚くって読めないから俺が書く!」と参謀長が自ら買って出たもの。

野村副長は、司令塔に入って計器類を見る。そして梨賀艦長は防空指揮所に居て戦闘(訓練)の指揮を執る。

松岡分隊長は例によってよせばいいのに主砲射撃指揮所の屋根に登ってハッシーと押し合いへしあいしながら見張り員たちを督戦。

麻生分隊士は「よく見張れ、敵は海中にあり!」と叫んでは時に上を見上げて「分隊長!危険ですから降りてくださいっ!」と叫ぶ。大変忙しい分隊士である。こんな忙しい分隊士、『大和』がいかにでかいとは言え他に居るまい。大変気の毒である。

分隊長は下に向かって「大丈夫大丈夫、麻生さんは心配性だねえ。私のことはいいからそっちをお願いねえ。さあみんな、熱くなれよッ!」と怒鳴って笑っている。

「左雷跡四本、本艦に向かうっ」と見張兵曹が叫んで艦長は面舵に転舵。グーッ、と艦が傾きトップのトップに居た松岡分隊長は体を支えるため「おーっと!」と、ハッシーの頭を掴んでしまう。それをじろり、といやな目つきで見上げたハッシー・デ・ラ・マツコではあるがもう分隊長に対して何もしないでいる。

今日は相棒?のトメキチは医務科の日野原軍医長と一緒に医務科の部屋にいる。日野原軍医長が「私にだってたまにはトメキチを貸してほしい!」と言ったからである。ひっぱりだこのトメキチだ。トメキチは日野原軍医長と衛生用品の点検中である。

ともあれ、訓練はまさに実戦さながらの様相で進んでいる。

駆逐艦『無花果』の前方に『甲標的』が潜望鏡を現し『無花果』は模擬爆雷を投下。しかし、うまく避けられてしまった。

無花果艦長の菅直子は「クッソ―!でもこれが敵だったらあんたら命はねえぞ、これはあくまで訓練だ!」と悔し紛れの言い訳に終始。

 

やがて激しかった訓練も終了。

この日は、トレーラー環礁の一番北の小さな島に全艦艇が投錨。ここで二,三日ほど過ごしてから帰る算段。少し兵員を休養させる意味もあるようだ。それだけこの訓練は激しかった。

陽が落ちる頃、『大和』他は錨をおろした。皆はそれぞれ用具を収め、各部署の点検を始める。そのうち食卓番が居住区に降りて、食事の支度が始まる。今日は皆大活躍だったから腹も減る。皆の腹の虫が盛大に鳴いている。

ガンルームに降りる松岡分隊長が、麻生分隊士に「麻生さーん、麻生さん二次士官室に行くんでしょう?私と一緒に降りようよ」と誘って来た。分隊士はオトメチャンに「悪いが先に降りるね。食事がすんだらここに来るから、その時また」と名残惜しげに言ってオトメチャンの肩に触れた。オトメチャンはその手に自分の手を重ねると、

「はい。 わかりました、ではのちほど」

と言うと微笑んで、麻生分隊士を見送った。松岡分隊長がその様子を見ていて、「ねえ麻生さん。麻生さんとあの子はどういう関係なの?」と尋ねた。麻生分隊士は顔を真っ赤に染めると「ど、どういう関係って・・・そりゃ分隊長、私と彼女は・・・」としどろもどろになった。

松岡分隊長は「そりゃ上官と部下だよねえ。でも君たちはとっても親密でいいと思うよ、うん!そのくらい部下たちと心通じ合わすって素晴らしい、熱くなってるねー!麻生さん!!」と分隊士の言葉を半分聞くかきかないうちに自分で納得してしまう。

やれやれ、と苦笑いで分隊長の後を付いてゆく麻生分隊士。いろいろ気苦労が多そうだ。

(でも。明日から少しは上陸して休めそうだ。がんばろう)

分隊士はそう思って心を引き締めた。

 

翌日から交代でそれぞれの艦で上陸を許された兵たちが小さな島に上がってゆく。

小泉兵曹や、機銃の長妻兵曹は「なーんだあ、ここにはなんもないねえ」と不満げ。それにたいして機銃の平野少尉が「貴様たちは男と遊ぶことしか考えとらんのかねえ?ここにだってちょっとした宿と、そして何より大自然があるじゃあないか!もっと見る目を養いなさい」としかった。

小泉や長妻は気まり悪げな顔で艦を降りて行った。

それを指揮所から見下ろす見張兵曹のそばに麻生分隊士がそっと寄ってきて

「俺たちは明日だな。ここは初めてだからちょっと楽しみじゃね」

と言ってその肩を抱いた。見張兵曹も分隊士を見上げ「はい。なんやらものすごう海がきれいですね。遊びたいです」と言ってほほ笑んだ。

ハッシー・デ・ラ・マツコが「なーに言ってんのかしらね。ノーテンキな女たちねえ」と苦笑すると羽を広げてトップから飛び立った。何か魚でも見つけるつもりらしい。

 

翌日見張兵曹は麻生分隊士や石場兵曹、石川水兵長らとともに島に初上陸した。

小さな宿屋に荷物を預けると皆は海に走った。どこまでも青い海を望む海岸に出ると、皆は一斉に防暑服を脱ぎ捨てた。

そしてその場で水着に着替える。誰も見ていないのをいいことに素っ裸での着替え。麻生分隊士と石場兵曹は今まで通りの『ふんどし』で、見張兵曹と石川水兵長は『連合艦隊制定』の下士官・兵用水着。見張兵曹は運動会の時のように下半身にパレオを巻いている。その風情がなんともかんとも言えないほどよくって、麻生分隊士は見とれるし石場兵曹は胸をどきどきさせながらこっそり盗み見。

それに気がついた麻生分隊士はちょっと困ったような顔で笑った。

「さあ、早く行きましょうよ」と、石川水兵長の言葉に我に返った分隊士は「おう、みんな用意はええか?さあ行くぞ」と言うと「みんな、手えつなげ」と言って四人で手をつないで横一列になって海に突進した。

遠浅の白い砂も美しい浜。背後には大きな椰子の木が何本も生えている。

皆はつないだ手を天高くあげると

「万歳、万歳、ばんざ―い!大日本帝国、帝国海軍、軍艦大和ばんざい―」

と大声で叫んでそのあと手を離し、大笑いをした。少し沖は、色が変わっている。分隊士はそこを指さして「あの辺から先はズドンと深くなっとるらしいけん、行ったらいけん。危ないけえね。この辺であそんどったらええ」と注意した。「じゃあ、しばらく自由行動じゃ。〇〇三〇になったら飯食いに行くぞ」

そしてふと分隊士は周りを見回すと「なんでここはこがいに人が居らんのかね。あれほどたくさんの兵隊が上陸したと言うんに?」と不審げに言った。

石場兵曹が「ああ、この島の向こう側にとてもきれいな濱があってそこはとても広うてええんだそうです、だからみんなそっちにいっとるんじゃないですか?」と答え、分隊士は合点した。

「まああんまりごちゃごちゃ大勢いるんもうっとうしいけえ、閑散としとった方が俺は好きじゃ。ほいじゃみんな。適当にしてええよ」

分隊士が言うと石場兵曹は石川水兵長をつついて(二人だけにしてやろう)と囁いて彼女たちはその場をさりげなく離れる。

その後ろ姿を見送って分隊士は、

「きれいな島じゃなあ、オトメチャン」

と言ってオトメチャンを見た。オトメチャンもあちこちを見まわし「ほうですねえ。こがいにきれいな島がトレーラーの中にあったなんて思わなんだです」と言って笑った。

背後で大きな椰子の木の葉が風に鳴って、二人は急に黙ると見つめあったのだった――

  (次回に続きます)

 

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

トレーラー諸島のモデルの「トラック諸島(現在はチューク諸島)」の地図(日本統治時代)。WIKIより。

空襲されるトラック島。WIKIより。

艦載機の攻撃を受けるトラック島の港

チューク諸島の地図(日本統治下の地名)


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「女だらけの戦艦大和」・恐怖の甲板整列2<解決編>

巡検終了後の「女だらけの大和」の艦内では、甲板整列と称して上の兵が下の兵員に罰を与えることが当たり前である――

 

十三分隊ではあろうことか松岡分隊長が整列させた艦橋要員に「春歌」まがいの歌を無理やり歌わすと言う「セクハラ」のような罰則?が行われ、主計科では宮島(しゃもじ)を使ったバッター制裁が行われている。

まあ、軍隊に限らず大人数が生活する場においては、規律を守るために大なり小なり「制裁」やそれに近いものはある。

だがそれを見て心を痛める者がいた。

その人影は、松岡分隊長に依るセクハラ甲板整列を見て(こういうことをされたら士気にかかわる)と思い、主計科のような体罰に(もしも体を壊したら・・)と気が気でなくなった。

(どうしたらいいのだろう。こういう陰惨な陰湿な制裁をなくしたいんだ私は)と悩んだその人こそ・・・・

梨賀幸子艦長である!

梨賀艦長は以前駆逐艦に艦長として勤務したことがあり、そのさいの駆逐艦の家族的雰囲気が大変気に入っていた。

駆逐艦は小さな所帯で戦闘の際は全艦が一丸となって戦い、戦い終われば皆で疲れをねぎらい合って食事も皆一緒に取る。

よっぽどのことがない限りバッター制裁などない。

それなのに(なぜに戦艦ではこうも多いんだろう?駆逐艦に比べてたるんでる?それとも人数が多すぎて個々を把握できないからこうなる?・・・ううむ、ゆゆしき問題だ)と悩んだ。

そして梨賀艦長は、(戦艦にも駆逐艦のような家族的雰囲気が必要なんじゃないのか?戦闘が始まれば一蓮托生の身、普段から心を通わせねばいざという時そっぽを向かれかねない。確かに厳しくするのも大事な時もあろうがどうも見てると上の人間の独りよがりな時が多いもんねえ。よし、では私はここは一肌脱ごうじゃないか!)

と思うに至ったのだ。

心を決めた艦長は、副長の元に急いだ・・・

 

翌日の巡検後。

「そろそろ巡検終わるな、煙草盆出せはまだかあ」と寝床の中でひそひそ話す兵員の耳にスピーカーからの声が。

「当直夜勤を除いた総員、最上甲板に集合せよ!!」

皆はそれこそ飛び上がるほど驚いた、あっという間に当直を除いた総員が最上甲板に集合した。その時間はわずか五分。

皆は前甲板に整列している。緊張の面持ちである。

「いったい誰が号令したんじゃろ?」

「さあ、わからんが。あの声は副長じゃあないじゃろか」

「いったいこがいな時間になんじゃろう?重大事項の伝達か?」

「まさか。副長が私たちに<バッター制裁>を?」

「・・・まさか!?」

皆の私語がこそこそと夜空に広がる。そこに、やおら艦長が現れて朝礼台に上った。皆がしんと静まった。

艦長は皆を一通り見回して咳払いを一つした。いやがうえにも高まる緊張感。艦長は両手を後ろに組むと、

「集まってもらったのはほかでもない。<甲板整列>と称して行われる制裁について私なりに考えた。必要な、教育としての制裁もあろうが私が最近見た限りでは度を超えた物が多い。中にはセクハラまがいのことが行われて私は正直情けない・・・」

と言って、麻生分隊士は松岡分隊長をそっと盗み見て傍らの見張兵曹に「ほら、あの時のことじゃないか?あの変な歌を歌わされたときのこと」と囁いた。見張兵曹も麻生分隊士を見上げて「そうですね、艦長どこで見よったんでしょうか」と答える。

艦長はなお続ける。「それというのも艦内の絆や立て横のつながりが希薄ではないかと私なりに分析した。そこでこの事態を打破するためにはどうしたらいいかを考えた時、平常時においては週に一、二回はこうして集まって皆で心を一つに出来ることをしようではないかという結論に至った。そこで!」

ここまで艦長が言った時、副長と森上参謀長が金色に光る棒状のものを持って現れた。皆は騒然、「あれはなんじゃあ!新手のバッターか?」

「艦長言ってることとやることが違う、あれで俺たちをひっぱたくってえのか!?」

しかし艦長はそれを押さえて、

「さあみんな、今日はすべてを忘れて盛り上がろうじゃないか!」と言うといきなり自分の軍装を引き剥がした。

ハッとした皆の目に、艦長の服装があっという間に変わったのが見えた。艦長の服は紅の和服風のミニドレスになっているじゃないか!

そして副長と参謀長もそれにならって来ているものを引き剥がすと黄色と青の和服風のドレスが現れた。

「うわあああ・・・『艦艇ーズ』だあ!」

皆は歓喜の声とも恐怖の声とも付かぬ声をあげる。

やがていつの間に用意をしたのか電蓄が通信科の兵曹によってまわされ、愛国行進曲や太平洋行進曲に乗って金の棒を振りながら歌い踊る『艦艇ーズ』・・・。

 

「これが・・・新しい『甲板整列』か。いいような悪いような」とつぶやいたのは誰だっただろうか・・・。

 

余談だが、主計科の森脇主計兵曹がかつてした「やけど」というのは本人が言ったのよりずっとずっと軽傷だったことが福島大尉の証言でのちにわかった。

福島大尉は

「あらあ・・・森脇兵曹そんな大げさなことを?あの人何かのゆで汁をちょっと足にこぼしたのよ。ほら烹炊所は皆ハダシで作業じゃない?そしたらさあの人すっごい大騒ぎして周りの子に医務科に担がれてって、で、日野原軍医長に『大げさだっ』て怒られたのよう」

と大笑いをしたのだった。そして、

「川越さんのやけどのほうが大変だったみたいね。あとで来るように言って?」

といい、何事かと恐る恐る福島大尉を訊ねた川越主計兵は「もう治った?これお見舞い代わりね」と大尉からそっと乾燥パインを一袋もらったとか。

 

ともあれ、今後は戦場以外では週一ペースで「艦艇―ズ」ミニコンサートを見なければならなくなった「女だらけの大和」の乗組員はある意味、過酷な甲板整列より苦痛が増えたとか・・・。

 

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

くだらない落ちで済みませんでした!!

実際の海軍での甲板整列での制裁はものすごいものがあったそうです。それは特に戦艦ではすごかったようで当時の兵隊の間のざれ歌にも歌われています。

>鬼の山城 蛇の比叡

 いっそ金剛で首つろか・・・・

さまざまに言葉は違うようですが「鬼のなんとか」「蛇のかんとか(地獄の~というのもあります)」、そして「どこそこで首つろか(海兵団で、というのも見たことがありますね)」と来ます。それだけ厳しいバッター制裁があったと言う証左なんでしょうか。

ひっぱたくモノも、「精神注入棒」と言われる樫の木や時にはラッタルの手すりをはずして来た「鉄の棒」だったりしたそうですからこれはもう驚きだ!

陸軍さんでも、靴の手入れが悪い!と上官が怒って、靴底を舐めさせたなんて話も聞いたことがありますがまあ本当かどうかは???ですね。

 

戦艦金剛。昭和一九年十一月二十一日米軍潜水艦により台湾近海で沈没(写真WIKIより)。


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「女だらけの戦艦大和」・恐怖の甲板整列1

「女だらけの戦艦大和」は今日も一日の課業を終えて巡検を待っていた――

 

巡検は副長主導で甲板士官や各掌長等を引き連れ、先任衛兵伍長を先頭に艦内をめぐり居住区や厠・烹炊所等の保安や衛生を点検して回るもの。その時には皆、ハンモックやベッドにもぐりこんで副長御一行の通過を静かに待たねばならない。

各分隊の居住区の部屋の前で班長は副長一行に「何何分隊第何班総員何名、異状なしッ!」と申告、一行が次に行った頃「巡検通過」が言い渡される。

それが一通り済んだ後「巡検終了、煙草盆出せ」となり皆は寝床からぞろり、と出て甲板でタバコを吸ったりなんだりと始めるのである。

 

しかし。

そんな夢のような時間を過ごすだけではない。恐怖の時間を過ごす分隊員もいるのである。

そう・・・

  甲板整列

というものがある。これは当該分隊の班の班長のご機が悪かったり逆鱗に触れるようなことをしでかした者がいた場合、「連帯責任」として班全員が班長からありがたい『バッター制裁』を受けるのである。

「女だらけの大和」、今夜もあちこちでバッター制裁の音が聞こえてくる。主計科では、烹炊員長と呼ばれる班長、森脇主計兵曹がでっかい、それはそれはでっかい「宮島(しゃもじのことです)」で班員をひっぱたこうとしている。

今日の制裁の原因は、一等主計兵の川越がてんぷらを揚げていたら跳ね跳んだ油が意外に多く、手の甲に直径二センチほどのやけどをした。それを見た同期の兵たちが「大丈夫!?医務科に行かんと!」と数名で医務科に手当てに行ったのが森脇兵曹の耳に入ったのだった。

森脇班長は宮島を構えるとまず、最初の一等主計兵の尻に狙いをつけた。そして「大体貴様らは主計兵としての気概がねえ―っ!ちっとくらいのやけどで医務科に行く奴があるかあ!いい加減にせえよ!しかも仕事ほっぽり出しやがって何人もで行くなんざ言語道断だ!俺なんかなあ、足に熱湯かぶってもそのまんま働いたもんじゃ!行くぞ、足を開け、手を挙げろ、歯を食いしばれえ!」

というなり宮島を振りかぶって川越一等水兵の尻をひっぱたいた。

「ギャッ!」という声と「パー―ン!」という鮮やかな音が一緒に廊下に響いた。森脇兵曹は「声を出しやがって貴様何事じゃあ!もういっぺん!」と逆上し更に・・・

 

その音を、十三分隊の防空指揮所の面々も「甲板整列」をしながら聞いた。

「・・・痛そうですね、主計科のバッター」

「ああ、あそこは宮島で打たれるんじゃろう?けつに宮島の跡がくっきり付くんじゃと」

「ふう。それもきついけど、うちのよりさっぱりしちょるかもしれませんね」

亀井一水と石川水兵長がぼそぼそ言っている。その囁きが耳に入った谷垣兵曹がぼそっと「そうじゃなあ」という。

「あ!来たぞ」と石場兵曹の鋭くも小さい声が皆の間に響き、皆は鎮まった。石場兵曹、見張兵曹、小泉兵曹、谷垣兵曹・・・上は下士官から下は亀井のような一等水兵まで居並んで不動の姿勢を取っている。

「やあ、皆!今日も甲板整列御苦労さん!」

そんなとんでもないことを言いつつ皆の前に来たのは誰あろう松岡分隊長。そのあとを渋々と言った表情で麻生分隊士がついてくる。

松岡分隊長はいつも持っているラケットを振り上げた。

危ない!このラケットは機銃弾をも跳ね返すラケットではないか、そんなもので生身の人間を打ったら・・・

そう思うのは気が早い。分隊長はラケットを振り上げると「さあみんな、今日もやるぞ」というなり歌い出したのだ。

♪ ゆんべ父ちゃんと寝たときに

  変なところに芋がある 

  父ちゃんこの芋何の芋

  オーラ

  坊や よく聞けこの芋は

  お前を作った 種イモだ

そして「はいっ!」とラケットで皆を指すと皆は恥ずかしげにうつむきながら歌い出す。とたんに松岡分隊長の厳しい声が飛ぶ、「ダメだなぁ、皆!もっともっと大きな声で歌わないか?歌えばストレス発散になるし深呼吸の作用でよく眠れるって言うのに。・・・さあ、麻生さん。麻生さんも大きな声で歌わないと」

麻生分隊士は急に水を向けられてドキッとした顔で分隊長を見た。分隊長はラケットの先で分隊士の背中をチョンチョンとつついて催促。

分隊士は最高に情けない顔で、しかしもう自棄になったような大声で歌い出したのだった。他の皆も(分隊士だけに恥はかかせられん)とこれも大声の調子っぱずれで歌い出す。

 

この歌を延々二十分間も歌わされていい加減げんなりとした表情の皆、やっとのことで松岡分隊長のOKが出た。

分隊長はラケットを小脇に収めると「よーし、今日も皆いい声で歌えたね。じゃこれにて散開。また明後日!」と言うと「みんなぁ!熱くなれよー!」と片手の親指をぐっと立ててさわやかに去って行った。

「ふうっ!」と息をついて麻生分隊士がその場にくず折れた。見張兵曹と小泉兵曹が駆け寄った。

麻生分隊士は見張兵曹に抱え起こされながら「もう、こんな拷問のような『甲板整列』は嫌じゃ。これならケツを思いっきりひっぱたかれた方がなんぼかええってもんじゃ。いったいあの人の頭ん中はどうなっとるんじゃ」とぼやいた。

「ほうですねえ、うちらもあんな恥ずかしい歌を歌わせられるんはもういやです。他の分隊の連中が『あの歌歌えよ』ってからかうんですよ。分隊士、どうにか出来んもんですかねえ」と谷垣兵曹が言った。見張兵曹も「私も運用科の人に囲まれて『歌って、歌って!あの変な歌』ってせっつかれて困りました」と告白。

分隊士はぎょっとして「オトメチャンが!」と顔を上げた。愛しいオトメチャンがいじめまがいのからかいにあったとなればこれかもう看過できない。分隊士は「わかった。どうにかしよう、俺はなんぞええ対処法がないか考えてみるけえね」と言うと立ち上がった。

 

「甲板整列」。

常識から大きく逸脱したそれも、兵員にとっては大いなる苦痛であるのだ。

 

「ふーむ。皆「甲板整列」には困っているな・・・。あ!そうだいいこと思いついた!」

そう呟いて物陰から去ってゆく人影一つ。なんだか「女だらけの大和」にまたまたひと波乱の予感がする――

  (次回に続きます)

 

   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

これが「宮島」だ!(WIKIより)

まあ、『大和』とかで使っていた宮島はこんなもんじゃないよね、きっと全長一メートルくらいあるかもしれん・・・こわっ!

しゃもじ(手前)

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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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