「女だらけの戦艦大和」・悩める柱島の司令長官3
山本長官は、息せき切って「女だらけの戦艦長門」の長官室に駆け込んだ――
そして誰も入ってこないようにドアに鍵をかけた。長官従兵が「山本長官?どうなさいましたか、何かありましたか!?」とドアの外から声をかけたが長官は「大丈夫なんでもない!いいからしばらく来ないで!」と叫んだ。
従兵の足音が遠ざかったのを確認すると山本長官はやおら靴下を脱いだ。
そして、大きな椅子をひっぱってくると部屋の真ん中あたりにそれを置いた。そしてそれに上がると・・・
天井にむき出している「梁」に手をかけて、体をぐううっと持ち上げた。このくらいは兵学校でさんざやったからどうってことはない。あのときよりも年齢を重ねた今でも。
そして、山本いそは大胆な行動に出た。足のつま先をなんと「梁」に引っ掛けたのだ。そしてゆっくり体を伸ばす。
山本いその体は、宙づり状態になっていた。(やった、やったぞ!見たか、これぞ私の新開発宴会芸、その名も「こうもり」だあ!)
きっとこの光景を従兵が見ていたら卒倒しただろう。そのくらい異様ですさまじい光景である。山本長官はやがて体を曲げると梁を掴み、椅子に足をつけて床に降りた。
はあ・・と息をついた。そして天井の梁を見上げると思わず会心の笑みを浮かべた。
(これをもっと素早く出来るようになればもうこっちのものだ。みんな驚くぞ、私が蝙蝠のように梁にぶら下がってるなんか、思いもよらんだろうからな)
その翌日から人知れず長官の「こうもり訓練」は続けられた。時には足が滑って頭ッから床に転落したり、梁に引っ掛けた足がつって今度は背中から転落したりと痛い目にもいっぱいあった。
しかし不屈の闘志に燃える山本いそはくじけない。
「柱島停泊艦艇合同慰安会」(でよかったかな?あまりに長い名称に書いている本人が分からなくなってきました・筆者注)まであと三日に迫った日、山本長官は何か物足りなさを感じた。
ひとり紅茶を喫しながら
「う―む。ただぶら下がるだけじゃあ、芸がない。なさすぎるね。もうちょい、あとひとひねり欲しいなあ」
と、『女だらけの大和』の野村副長見たいなものの言い方をして考え込む。もっと、みんなをあっと言わせるようなにかを追加したいものだ、この『こうもり』に。
そして山本長官はまたペンを取り出すとメモを取り始める・・・
ひげをそる・・・私は女だ、そるひげなどない。却下。
髪を結う・・・女ではあるが、髪は短い。結うほどない。却下。
絵を描く・・・うまい考えではあるがちょっと私には絵心がない、馬鹿にされるのは嫌だ。却下。
皿回し・・・ぶら下がったままでの皿回しは大変インパクトがあるが皿回しの練習をする時間がもはやなし。却下。
「は~。なかなかないもんだなあ」
山本長官は考えるのに疲れてしまい、寝室のベッドの上にごろんと横になった。目を閉じるとあっという間に眠りの中に引き込まれていった。
・・・夢の中で山本長官は、「女だらけの長門」の早川艦長と昆野副長に追いかけられている。二人はでっかい一升瓶を抱えて長官を追い回している。
「ちょーかーん!一杯いかがですかあ!」
「万福いっぱいいかがです~~!?」
二人は口々に叫びながら下戸の長官を追い回す。長官はもう必死で二人から逃げる、逃げる逃げる・・・。
しかしとうとう追いつめられた。
そこは『長門』艦内ではないようだ。長官がよくよく見ればそこは昔、子供の頃の長官がよく遊んだ河っぺリの土手。
だが土手というにはちょっと険しくはないだろうか、これ?
地面に腰を落として逃げようとする長官。しかしもう後がない。絶体絶命、飲めもしない酒を飲まされるのか、ああ、また放言しちゃったらどうしよう・・・。
長官が泣きそうになったその時いきなり昆野副長が「つ~かまえた~」と長官の両足を掴んだ。「うわあ、やめてよ昆野副長!」
長官が叫んだが二人はニコニコしているだけ。その時長官の腰のあたりの土がドドッ!と崩れ落ちた。とたんに上半身が崖にぶら下がる格好になった山本長官。
「ギャッ!」と叫んだ時、崖の上から早川艦長が最高のほほ笑みを浮かべ、一升瓶を持って立っているのが見えた。
「ちょ~かん!」と艦長。
「万福一杯いかがです~」と副長。
次の瞬間、逆さになった山本いその顔めがけて一升瓶の酒が注がれた――
「ブハア!!」
山本いそは苦しくなって思わず目が覚めた。
「夢だったかあ、いやな夢だ」そういいながらベッドから降りる。「全くなんで艦長と副長が私に酒を」といいかけて、山本いそはハタと気がついた。
「そうかあ、こうすれば面白いじゃないか!」
山本長官は、こっそり艦内を歩いて一升瓶を「ギンバイ」してきた。よく洗えば大丈夫、と一升瓶を服の上着の中に隠して長官室に。
そしてその瓶の中に水を一杯入れた。瓶を椅子の上に置くと自分は『こうもり』の体勢を取った。そして椅子の上の一升瓶に手を伸ばすと、その水を飲み始めたのだった。
連合艦隊司令長官が、「こうもり」をしながら一升瓶の水を飲む。
すごい光景だが(どうだ、宴会芸ってなぁこんなものよ)と当人は悦に入っている。
(「剣舞」と「こうもり」でみんなの心をわし掴みだあ!)
そう思ってニタリとした瞬間。
・・・長官は、また頭から落ちた・・・
(次回に続きます)
・・・・・・・・・・・・・・・・・
戦艦長門)WIKIより。かつては『長門と陸奥は国の誇り』と言われて国民に知らないものはいなかった・・・というつわものです、よろしくね!
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「女だらけの戦艦大和」・悩める柱島の司令長官2
「女だらけの戦艦長門」では、山本連合艦隊司令長官が呻吟していた――
(ああ、あと弐週間だと言うのになにも思いつかないよ・・どうしたらいいんだ。・・・待てよこういうときは心を落ち着けて。まずみんなが他にどういうことをしていたか思い出して)
山本長官は戦闘中にも見せたことがない厳しい顔つきである。今まで兵学校の時の仲間や、艦隊の仲間たちがどんな芸を披露していたかをゆっくり思い出す。
吉田善子・・・確かまんじゅうの早食いだったっけ。ちょっと私には無理。却下。
島田繁代・・・手品だったなあ。でもちょっとインチキってか、子供だましすぎてすぐばれるし。面白みに欠けるね、却下。
堀悌子・・・私の大親友だから言うわけじゃないけど、詩吟の名手。うますぎ。彼女のマネをしても多分笑われるし、「長官、御経ですかあ!」と言われるが落ち。却下。
米内光江・・・宴会芸に置いて彼女の右に出る物は無し。もはや玄人の域。マネは不可能。却下。
山口たも・・・テーブルの上に並べた抜き身の日本刀の刃の上に素足で立つことが出来る。しかし大変危ない。私には無理。却下。
と、そこでふっと山本長官はひらめくものがあった。
(日本刀。かたな。剣。剣と言えば・・・そうだ、剣舞!これはまだ誰もやってないし!)
「決めた!剣舞だ!」
長官は思わず大声で言って、あわてて口を両手でふさいだ。聞かれちゃあならんぞ、大事な秘密だから。
剣舞と言えばやはり「頼山陽」のあの「鞭声粛粛 夜河を渡る・・・」というあれだろう。
鞭声粛々 夜 河を渡る
暁に見る 千兵の大牙を擁するを
遺恨十年 一剣を磨き
流星光底 長蛇を逸す
これだこれだ、とうれしくなった長官はさっそく練習を始めようとしたが(待てよ、これはある意味ありふれてる。もしかしたら他に演じる奴がいないとも限らないぞ。他にももう一つくらい、絶対誰もしないってものを見つけないといけないな!)と思った。もしかしたら米内さんとか山口さんが来ないとも限らないし、彼女たちが剣舞をしない保証は全くない。
「ああ、困った困った」
そういいながら長官は長門の艦橋へと上がって行った――
戦闘艦橋に上がった長官に、艦長の早川幹代大佐の微笑みと敬礼で迎えられた。早川艦長は、「山本長官、今日もいい天気でありますね」と話しかけ、長官も「ああそうだね。ずいぶん秋らしくなってきたじゃない?あの辺の島々も秋色になって、日本の四季はいいねえ」と言って二人はしばらく瀬戸内の秋に見入った。
「そういえば」と早川艦長が口を開いた。
「もうすぐ『呉停泊艦艇合同慰安会』ですね。飲み会というと、何かしら宴会芸をしなくちゃなりませんからちょっと私はドキドキします。みなさん芸達者な方ばかりですから、気が抜けませんよ」
そう言って少し笑った。山本長官はそれを聞くと、ちょっとほっとした。(ああ、長門の艦長でもこんなふうに思うんだ。まあ、私とは立場も違うが思いは同じだよね)
長官は艦長にうなずいてやると、艦橋の窓から外を見た。
「あ、早川艦長、あれはなんでしょうね?」
不意に長官の声が緊張感を帯びた様子になり、何事かと艦長は窓に駆け寄った。
「ほらあれ。その窓の外だよ、なにかがぶらさがってるじゃない?なんだろうか」
長官は早川艦長にそれを指さして教えた。長官が指さす先、艦橋の窓の外の軒部分に何かが下がっている。
「む。・・・ああ、長官。あれはこうもりのようですね。どこかから飛んで来て動けなくなってここで夜を待つつもりなんでしょう」
早川艦長は言った。そして思った、良かった敵機とかじゃなくって。て言うか帝国の上空に敵機が飛来するなんてありえないけどね。
「ほう。こうもりだったか・・・」
長官はその蝙蝠をじっと見つめた。狭い軒先につま先を器用に引っ掛けてぶら下がっている。その姿は健気でもあるし、妙に可愛くもある。
長官は子供の頃夏の夕暮れ、河の上を虫を捕食しようと飛び回る蝙蝠を見たのを思い出した。だがあのときは不気味な印象しかなかった。
(けなげとか、可愛いなんぞと思ったことはなかったがね)
そう思って踵を返したその時、長官の頭に電撃のように走ったものがあった。
「そうだ、これだよ!!」
山本長官は大声で叫ぶと戦闘艦橋を飛び出して行った。早川艦長はいったい何事かと仰天してその場に立ち尽くしてしまった。
長官はそのまま長官室に走り込んだ。
そしてハアハアと息を切らして・・・
(次回に続きます)
・・・・・・・・・・・・・・・
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(ああ、あと弐週間だと言うのになにも思いつかないよ・・どうしたらいいんだ。・・・待てよこういうときは心を落ち着けて。まずみんなが他にどういうことをしていたか思い出して)
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吉田善子・・・確かまんじゅうの早食いだったっけ。ちょっと私には無理。却下。
島田繁代・・・手品だったなあ。でもちょっとインチキってか、子供だましすぎてすぐばれるし。面白みに欠けるね、却下。
堀悌子・・・私の大親友だから言うわけじゃないけど、詩吟の名手。うますぎ。彼女のマネをしても多分笑われるし、「長官、御経ですかあ!」と言われるが落ち。却下。
米内光江・・・宴会芸に置いて彼女の右に出る物は無し。もはや玄人の域。マネは不可能。却下。
山口たも・・・テーブルの上に並べた抜き身の日本刀の刃の上に素足で立つことが出来る。しかし大変危ない。私には無理。却下。
と、そこでふっと山本長官はひらめくものがあった。
(日本刀。かたな。剣。剣と言えば・・・そうだ、剣舞!これはまだ誰もやってないし!)
「決めた!剣舞だ!」
長官は思わず大声で言って、あわてて口を両手でふさいだ。聞かれちゃあならんぞ、大事な秘密だから。
剣舞と言えばやはり「頼山陽」のあの「鞭声粛粛 夜河を渡る・・・」というあれだろう。
鞭声粛々 夜 河を渡る
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これだこれだ、とうれしくなった長官はさっそく練習を始めようとしたが(待てよ、これはある意味ありふれてる。もしかしたら他に演じる奴がいないとも限らないぞ。他にももう一つくらい、絶対誰もしないってものを見つけないといけないな!)と思った。もしかしたら米内さんとか山口さんが来ないとも限らないし、彼女たちが剣舞をしない保証は全くない。
「ああ、困った困った」
そういいながら長官は長門の艦橋へと上がって行った――
戦闘艦橋に上がった長官に、艦長の早川幹代大佐の微笑みと敬礼で迎えられた。早川艦長は、「山本長官、今日もいい天気でありますね」と話しかけ、長官も「ああそうだね。ずいぶん秋らしくなってきたじゃない?あの辺の島々も秋色になって、日本の四季はいいねえ」と言って二人はしばらく瀬戸内の秋に見入った。
「そういえば」と早川艦長が口を開いた。
「もうすぐ『呉停泊艦艇合同慰安会』ですね。飲み会というと、何かしら宴会芸をしなくちゃなりませんからちょっと私はドキドキします。みなさん芸達者な方ばかりですから、気が抜けませんよ」
そう言って少し笑った。山本長官はそれを聞くと、ちょっとほっとした。(ああ、長門の艦長でもこんなふうに思うんだ。まあ、私とは立場も違うが思いは同じだよね)
長官は艦長にうなずいてやると、艦橋の窓から外を見た。
「あ、早川艦長、あれはなんでしょうね?」
不意に長官の声が緊張感を帯びた様子になり、何事かと艦長は窓に駆け寄った。
「ほらあれ。その窓の外だよ、なにかがぶらさがってるじゃない?なんだろうか」
長官は早川艦長にそれを指さして教えた。長官が指さす先、艦橋の窓の外の軒部分に何かが下がっている。
「む。・・・ああ、長官。あれはこうもりのようですね。どこかから飛んで来て動けなくなってここで夜を待つつもりなんでしょう」
早川艦長は言った。そして思った、良かった敵機とかじゃなくって。て言うか帝国の上空に敵機が飛来するなんてありえないけどね。
「ほう。こうもりだったか・・・」
長官はその蝙蝠をじっと見つめた。狭い軒先につま先を器用に引っ掛けてぶら下がっている。その姿は健気でもあるし、妙に可愛くもある。
長官は子供の頃夏の夕暮れ、河の上を虫を捕食しようと飛び回る蝙蝠を見たのを思い出した。だがあのときは不気味な印象しかなかった。
(けなげとか、可愛いなんぞと思ったことはなかったがね)
そう思って踵を返したその時、長官の頭に電撃のように走ったものがあった。
「そうだ、これだよ!!」
山本長官は大声で叫ぶと戦闘艦橋を飛び出して行った。早川艦長はいったい何事かと仰天してその場に立ち尽くしてしまった。
長官はそのまま長官室に走り込んだ。
そしてハアハアと息を切らして・・・
(次回に続きます)
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「女だらけの戦艦大和」・なやめる柱島の司令長官1
「女だらけの戦艦大和」でハシビロコウが松岡分隊長と一緒に御縄にされていた頃、広島・柱島では山本いそ連合艦隊司令長官が――
広島は秋めいてきている。柱島にも秋の気配が近づいている。
旗艦・長門はその身を穏やかな海面に浮かべている。・・・が、その長官室でひとり頭を抱えているのは誰あろう、泣く子も黙る連合艦隊司令長官の山本いそ大将である。
山本大将はこのところあまり眠れない。食欲もそれほどない。従兵や幕僚などが心配してあれこれと食欲が進むように工夫をしているがそれでも以前のようにはいかない。
「どうされたんだろうか、長官は?」
幕僚たちは首をかしげる。
長門に立ち寄った小澤治三(はるみ、と読んでね!じさ、じゃないよww)中将なども「どうされました、山本さん。お顔の色が優れませんね。
・・・ほら、もうすぐ『柱島停泊艦艇合同慰安会』も近いですからね。元気を出してくださいよ?
このところ急に涼しくなりましたからね、そのせいかもしれませんね。まあ、当日を楽しみにしていますよ」と励ましてくれるのだが。
山本長官は(その『柱島なんとか慰安会』が問題なんですよ、私には)と思っている。小澤中将の言う『柱島停泊艦艇合同慰安会』(長い!)とは、今回初めての企画で、柱島に停泊中の艦艇すべてで乗組員の慰労会として計画されたものでそれぞれの艦で無礼講の宴をしようという物。
そして旗艦・長門では各艦艇の艦長・副長クラスから連合艦隊のトップクラスまでが集うことになっている。
「思う存分飲めるなあ、広島の銘酒を堪能しちゃおっと!」
と今から楽しみにしている将官もいる。
だが、山本長官の顔はすぐれない。
なぜなら、彼女――山本いそ――は「下戸」であるからだ。山本長官は(ああ、私がちょっとでも飲めたらよかったのに。この私ともあろう者がちょっとも飲めないなんて、恥だ・・・。だからと思っていつだったか口にしたら)
あっという間に顔を真っ赤にして酔ってしまい、しかも気が大きくなったのか放言し放題。それには居合わせた伊藤整子軍令部次長や福留繁代軍令部第一課長もあっけにとられてしまい、あとで実に気まずい思いをしてしまったのだった。
(だから)と山本長官の悩み・悔しさは続く、(あの後の最初のハワイ奇襲だって、『へえ!山本長官また酔ってるんじゃないんですかあ?ちゃんと素面の時に話してくださいよね~!』なんて伊藤の野郎と福留の野郎に馬鹿にされて!私が抗議したら『ああ、素面でしたか。そうだ山本さんはばくちが好きですからそれかあ!』なんて更に馬鹿にしやがってあの女あ!・・・だから飲み会って嫌なんだよなあ。飲めない人間にとっちゃ、地獄だよ・・・)
山本長官は、苦り切って頭をごしごし掻きながら長官室のラジオに手をかけ、なにげなくスイッチを入れた。
チューニングを合していると、海軍の国内外向けの放送が入った。軍艦行進曲が勇壮に演奏された後、アナウンサー(これも海軍の美声の持ち主だが)が
「ではここで外地にいらっしゃる将兵の皆さんからのリクエストの多い『艦艇ーズ』の歌をお届けいたします」
といい、あの『艦艇―ズ』(女だらけの大和の梨賀艦長・野村副長・森上参謀長の三人のグループ)の歌が流れだした。
「おお!」と山本長官は唸ると、音量を上げた。素敵なハーモニーが広がる・・・
「いいなあ、こういう特技のある人たちはさ」と山本長官はつぶやいたが、次の瞬間ハタと手を打って叫んだ。
「そうだ!私も酒の席で何か披露できるものを探せばいいんだ!」
そうだ、世に言う「宴会芸」だ。それを何か身につければ座が保てる。酒なんか飲めなくたって、宴会芸をしてウケたらいいんだ。皆が笑って、その場が和めばいいじゃないか。
ならば、と山本長官は机の前に座りこむと思いつく限りの「宴会芸」を紙に書き始める。
<腹芸>・だめ。『大和』の梨賀幸子大佐の十八番。しかも超下品。連合艦隊長官としての品位にかかわる。却下。
<どじょうすくい>・いまいち。実は『武蔵』の猪田敏代大佐のお家芸と聞いている。本人は死んでも言わない・見せないだけ。私には出来ない。却下。
<野球拳>・海軍の若い士官嬢たちの十八番と言われる下品な芸。いや、芸のうちに入らないと言うか入れたくない。却下。
<投扇興>・優雅ではあるがこれは立派な対戦ゲームだった・・・。よく考えたら私ってノーコンなんだよね。負けたら元も子もないじゃないか。却下。
「ああ。どうしたらいいんだろう」
山本長官の苦悩はまだ、始まったばかりである。そして・・・『柱島停泊艦艇合同慰安会」まであと、二週間!!
(次回に続きます)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
伊藤整一中将(WIKIより)
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「女だらけの戦艦大和」・飛来せしもの4<解決編>
「ぎゃあああ!!」と松岡分隊長が大きな叫び声をあげた――
「どうしましたっ、分隊長―!」
見張兵曹たちが一斉にトップに上がった。そこで彼女たちが見たものは・・・
灰色の鳥のでっかいくちばしにしっかりと頭を挟みこまれた松岡分隊長のもがく姿であった。分隊長は鳥を正面から羽交い絞めにしたため、鳥のくちばしにいいように挟まれる結果となっていたのだった。
分隊長は頭を挟まれながらも必死に鳥を抱きしめるような格好でもがき続けている。そして「麻生さ―ん、早く。早く縄をこいつに掛けて~!」と叫んでいる。麻生分隊士は、と見れば目の前で起きたことが飲み込めないのかなんなのか、ロープを持ったまま立ちつくしている。
見張兵曹がトップの手すりの間から「分隊士、分隊士早くその鳥にロープをかけてくださいッ!」と叫んだ。すると立ち尽くしていた分隊士はまるで魔法が解けたようにハッと我に返り、ロープを握り直し、松岡分隊長の抱える鳥を縛ろうとそばに寄った。
その時・・・
頭を挟まれたまんまの分隊長を見て、あろうことか麻生分隊士は大笑いをしてしまったのだった。
「あ、麻生さ―ん!ねえ何笑ってんのよう!いいから早くこいつに縄をかけてったら!・・・ねえ、麻生さ―ん!」と、松岡分隊長はもう必死である。
灰色の鳥は分隊長に抱きしめられながらその頭をぎりぎりと挟む力を強めている。頭が割れそうに痛い。
「い、いたたた・・・!ねえ麻生さ―ん、早くったら!いたたたった!」分隊長の叫びが悲痛さを帯びてきた。その時になってやっと麻生分隊士は笑いを収めて「ああ、可笑しい。サア、分隊長もう大丈夫ですよ」と灰色の鳥にロープををかけた。
それでもなかなか分隊長の頭を放さない鳥の様子に、ついに見張兵曹や石場兵曹まで笑い始めてしまった。そして皆は「あること」に気がついて更に大笑い。
その笑いは、主砲射撃指揮所の面々にまで伝染し、そしてトップは爆笑に包まれたのだった。
そこに、梨賀艦長・野村副長・森上参謀長が谷原中尉とともに防空指揮所に上がってきてその大爆笑を耳にした。
「なんだ、あの馬鹿笑いは?」
森上参謀長はトップを見上げた。
「あんなところで何をしてるんだ、危ないじゃないか!」と参謀長はおっかなびっくりトップに上がりその場の光景を見てこれも大笑いを始めた。
「森上さん、何笑ってんの?ねえなに~」と艦長・副長、そしてお客様の谷原中尉までもがトップに上がるラッタルを登ってきて狭いトップには大勢がひしめく。
「うわあ!松岡中尉なにしてんのお!」
艦長の甲高い声が響き、副長と谷原中尉が「ぷ―っ!」と吹きだした。
なぜなら。
トップには、灰色の鳥に頭を挟まれたまんまで鳥と一緒にロープで巻かれた松岡中尉が転がっていたのだから――。
松岡中尉と灰色の鳥は二人揃って縛られたままでトップから引きずりおろされた。谷原中尉が、「おお、かわいそうに」といいながらロープを解いた。そしてくちばしの中にそっと手を入れると灰色の鳥は松岡中尉の頭をやっと解放した。松岡中尉は「ああ、痛かった・・・」としばらく頭をごしごしとこすっていたが、ようやく顔をあげると皆を見回した。
谷原中尉が「はじめまして。私は『陣痛』乗り組みの谷原と申します」と挨拶した。参謀長が「谷原中尉は鳥に関して大変詳しいそうだ。今日はわざわざ『大和』に来てもらったんだよ」と言った。谷原中尉はそんな、大変詳しいなんてと謙遜している。
松岡分隊長は「そうでしたか・・・『大和』にようこそ!」というと右手を差し出し、谷原中尉はそれを握って握手。
「で?この鳥はいったいどういう奴なんですかねえ?私はこんな変な奴、見たことないんですが」松岡分隊長が言うと、その場にたたずんでいる鳥は目だけをぎろり、と動かして分隊長をにらんだようだ。
谷原中尉はこの鳥はハシビロコウという珍しい鳥であること、もともとはアフリカの産であること、淡水湖に生息していることなどを話した。
「ほう!アフリカねえ。それがなんでこんなところにいるんでしょうねえ。不思議だなあー、きっとこの鳥くんも熱くなって飛んでるうちに迷ってしまったんでしょうかねえ」と松岡分隊長は勝手な推測。
谷原中尉は「まあ、これはおとなしいですからこのまま置いておいても大丈夫と思いますよ。
誰かが飼っていたと言うなら返さなければなりませんがそうでないならしばらく気ままにさせてやってみたらいかがでしょうか」とアドバイスして、そして『陣痛』に帰って行った。
そして、ハシビロコウは防空指揮所に立っている。その周りをたくさんの兵が取り巻いて騒いでいる。トメキチも見に来ているが見たこともない生き物に少し腰が引けている。が、興味津津。
当のハシビロコウはそんな騒ぎさえどこ吹く風である。
その泰然自若とした態度に梨賀艦長がまず感じ入った。「ねえ副長、この鳥さんをうちで飼育してはどうかねえ?」とさえ言った。副長はまだ思い出し笑いしながら「いいでしょう艦長。なんならトメキチとコンビを組まして芸をさせましょうや」とのんきな発言。
参謀長も手を叩いて大笑いして賛成したのでこのハシビロコウは「ここがいやになって飛び去ってゆくまで」大和で飼育することとなった。大半の乗組員の意見は「二、三日で嫌になって飛んでゆくよ。長居なんかしないから見ててみ?」だったが。
ともあれ、ハシビロコウは「ハッシー」なる愛称もいただいて『大和』乗り組みの一員になったのだった。
そんな中。
松岡分隊長は大変怒っていた。麻生分隊士と見張兵曹、石場兵曹を呼びつけて指揮所の床に正座させた。そして、
「あの時ぼーっとして見ていた麻生さん。私とハッシーを一緒に縛った麻生さん。そして何よりそんな私を見て馬鹿笑いをした麻生さんと特年兵君と石場さん!君たちはいったいな何を考えてるんだね?いいかい人の不幸は蜜の味とはいうがだ。自分の分隊の長があんなに痛い目にあってるのを見て馬鹿笑いしたりしていいのかねえ?君たちも立派な帝国海軍軍人ならその辺をもっと認識してくれなきゃいけないね。いいかいおかげで私は頭を挟まれて・・・」
と説教を始めた。しかし三人は叱られながらもあの光景を思い出すとどうにも笑いが込み上げて仕方がない。
でもここで笑ったら火に油を注ぐようなもの。腹に力を入れて我慢。
そこに副長が上がってきて「あれ!何してんのよ、こんなとこに正座して『武蔵』の猪田艦長みたいじゃん!」と言って笑った。
そして副長は、「松岡中尉、これあげる。いい記念だからとっておいてね~」と少し大きい封筒を分隊長に差し出すと「じゃねー!」と下に降りて行った。
松岡分隊長が「なんだろう、副長直々にくださるとは?」と封筒に手を入れて中のものを出した。
「わああ!」
分隊長の突然の叫びに三人は床から飛び上がって驚いた。分隊長の手の中には、艦橋トップでハッシーとともにロープで縛られて頭を挟まれて苦悶の表情の松岡分隊長の写真があったのだから。
「い、いつの間に!副長ったら!」
顔色を変えた分隊長は、副長を追って艦橋を降りて行ったがはるか下のほうで「ギャー―っ!」という分隊長の叫びが轟いた。
そう・・・副長は艦内のいたるところにこの写真を張り付けて行ったのだった。
艦内には爆笑が渦巻く結果になり・・・松岡分隊長は少し自嘲気味に
「まあ、いいよ。皆笑いに飢えてるからね・・・どうぞどうぞ私のこんな姿でよければ笑ってね。そうだ!笑いは戦力の原動力だ!笑え!笑うんだ、笑って熱くなれよ――ーッ」
と叫んで皆の喝さいを浴びたのだった。
それから一週間。あの「ハッシー」は今も艦橋トップにいる・・・・
・・・・・・・・・・・・
『大和』昭和二〇年の乗り組み指揮官たちです。・・・副長は、どこだ!?(WIKIより拝借)
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