女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?

「女だらけの戦艦大和」・哀愁かつら1

「女だらけの大和」の機銃分隊の、増添兵曹は人一倍頭髪には気を使っている――

 

彼女は水兵長になった頃から、下士官任官を見据えて髪を少しづつ伸ばしてきていた。この『女だらけの帝国海軍』においては、海兵団では短髪かおかっぱの髪型限定で、艦隊勤務に着いた場合でも下士官任官までは頭髪を伸ばしてはいけないことになっている。だが水兵長と言えば兵の最上級、よっぽどのことがない限り下士官任官は遠い話ではないから皆その頃に目立たぬように伸ばす。ただし、伸びてきたら縛るのが大原則。

そして晴れて下士官になった暁には堂々と髪を伸ばせるのだ。

しかしだからと言って、その伸ばした髪を縛りもせずに下ろしたままで艦内を歩くとどういうことになるか?

怖い怖い、鬼のような甲板士官が常に艦内乗組員の風紀に目を光らせているのだが、その彼女に見られたら終い、「待てっ!」と大喝された後、「貴様あ、海軍の掟を知らんわけじゃあるないなあ。・・・問答無用、ここで切ってやる!」と言われ、せっかく苦心して伸ばした髪はあわれ元の短髪、いやざんぎりになってしまうのである。この時うっかり「何すんですか、人権蹂躙だ!」なんぞと言おうものならもう「貴様ぁ一体何様だ!?その腐った精神叩き直す!」と袋叩きにされてしまうが落ち。言うまでもなく軍隊とはこういうものである。大人数を統率するためには、一人の例外も認めてはならないのだ。女学生の仲良しクラブではないのだ。

もっとも士官だろうが将官だろうが、伸ばした髪は艦内ではきちんと縛ってまとめることになっている。

もし、水兵の分際で髪を伸ばしてしかも、おろしていたとしたら・・・考えるのも恐ろしい制裁が待っている。増添兵曹がかつて所属していたある艦で、主計の兵が髪をおろしたままで仕事をしていた。前の日入湯上陸で洗ったと見えサラサラのご自慢の髪。周囲はしきりに「縛れ、まとめろ。切られるぞ!」と警告していたらしいが本人はいい気分なので聞く耳を持たなかったらしい。

それを甲板士官と直接の上司に見られてしまい、・・・彼女は翌日『丸坊主』になっていたという世にも恐ろしい物語さえ存在する。

(だからこそ)増添兵曹は思う、(だからこそ私は髪を大事にして、上陸した時下ろして楽しむのよ)。

艦内では入浴と入室(艦内の病室に手術や疾病で入ること。いわば入院)以外は髪をおろすのはご法度であるが、上陸中は一応自由なので増添兵曹は腰まで伸ばした髪をなびかせて歩くこともあった、がそれをすると後で結うのが大変だからあまりしなかったが。

だが。

彼女の自慢の髪も、自身の監督不行き届きからその前髪がごっそり抜ける羽目になり、挙句軍医長から「その長い髪をすっぱり切って全体に栄養を行きわたらせよ!」と命令され、泣く泣く切った。前髪はほとんどなく、後ろも短髪でまるでおっさんのようになってしまった増添兵曹。無い所は現地民の商店で買った『部分かつら』を駆使して補っている。

・・・あれから一年ほどが経ったが、まだ兵曹の前髪はそれほどきれいには生えそろってはいない。後ろ髪はあれ以来長くはしていない。今はやっと首筋にかかる程度に収めている。でも不断の手入れは怠りない。

「問題は、前髪だね。増添兵曹?」

と機銃分隊の平野少尉は訳知り顔で言った。兵曹は(この人どうして私の髪にいちいち口を出してくるんだか!うっとうしい)と思うが顔には出さない。

「そうですねえ、一所懸命頭皮を刺激したり入浴ではよ~くあらっとるんですが、今一つよう生えてこんのです」

兵曹は心底困った顔になって少尉にこぼした。少尉も同情を隠せず、「休憩時間になりゃ暇なしにブラシで頭をひっぱたいてるが、それでもぱっとしないとはどういうわけかねえ」と腕を組んで考えていた。

そんなある日、平野少尉は上陸した際日本人が商う店で「これだ!」という物を見つけ兵曹のために買ってきた。

「・・・『薬用・雷電』・・・ですか」

増添兵曹に平野少尉が渡したのはすごいネーミングの育毛剤。少尉は得意顔で、「な、効きそうでしょう。なんでもこれを頭に振りかけてからブラシで叩いたら、毛がたくさん生えてくるんだそうな。今内地で大流行のひとしならしいよ。物は試し、だまされたと思ってやってみたら?」と勧める。兵曹はしばらくその育毛剤を手に取って眺めていたが、やがて「やるっ!やりますとも!失われたものを取り戻さんで何が帝国海軍軍人ですか!私はやりますよぉ!」と大声を発した。

その声に通りかかった参謀長が「え!?一体どこを失ったんだ!?サイパンか、スマトラか!?」と血相変えて二人の会話に闖入して来たのには参ったが、真相を聞いた参謀長は「ああ、驚いた。・・そうか増添兵曹の髪の話ね。うん、頑張ってよね!」と激励してくれた。

それでその日から増添兵曹は「薬用・雷電」を頭皮に振ってはブラシでひっぱたく毎日を送っていた。(痛いがも少しの辛抱。やがて皆がびっくりするくらい前髪が生えてくるけえ、それまでの辛抱じゃ)と思いつつ涙をこらえて頭皮を刺激の毎日。

そんな、ある日のこと。

「ギャー―!」という叫びが下士官浴室に響き渡った。皆が「何事じゃ!」と声の主のほうに集まると、声の主増添兵曹は鏡の中の自分を指して「あ、あ、あた、頭が・・・」と真っ青な顔になっている。「どうしたんです、増添兵曹」と見張兵曹と小泉兵曹が寄って行った。増添兵曹は真っ青な顔のまま、自分の前髪部分を指して「こ、こ、こ、ここの・・頭皮が・・・変になってる・・・」というではないか。

「どれどれぇ」とそこを覗き込んだ二人は「うゲッ!!」と変な声をあげていた。増添兵曹の頭皮のそのあたりは恐ろしいことに水ぶくれが幾つもいくつも出来ていてとても気味の良くない状態になっていた。

「うわあ・・・水ぶくれから薄毛が生えとるわ。キモ~~!」

と小泉兵曹が大声を上げたとたん他の下士官連中も「見せて見せて!」と見張兵曹を押しのけて殺到して「ギャー、すっげえ!」とか「オエエ!キモ~~い!」と声を上げる。見る見るうちに増添兵曹の顔が悲痛に歪みだす。しかし下士官連中はお構いなしで騒ぎまくっている。

とうとう、その声の渦の中にいた増添兵曹はその場にしゃがんで泣き出してしまった。見張兵曹があわててその背中に手をやって、皆にたしなめるような厳しい視線を送った。

とたんに鎮まり返る皆。見張兵曹は「増添兵曹、一緒に医務科に行きましょう」と静かに言ってそっと彼女を抱き起した。泣きながらも、それでも素直に立ちあがって増添兵曹は見張兵曹に伴われて医務科に降りて行った。

医務科では日野原軍医長が診察してくれた。軍医長はやれやれ、といった表情で「あのねえ増添兵曹。あなたここ、ひっぱたきすぎだね。それでここが炎症起こしちゃったんだよ。しかも薬をつけてたから尚更悪かった。薬だけならまだしも叩きすぎちゃいかんよ。・・・言うだろ、何事も『過ぎたるは及ばざるがごとし』ってね」と言ってその部分に炎症止めをつけてくれた。

「当分ひっぱたくのもこの『薬用・雷電』も使用止めだ。いいね、よくなったら許可するからそれまで絶対だめ。まあ、部分かつらはいいよ。でも就寝の時は外すことだね」

増添兵曹は軍医長に心から礼を言って、見張兵曹とともに医務科を出た。

「オトメチャンありがとう。・・・私ちょっと外で風に吹かれてくる・・・」

傷心の増添兵曹はそういうと部分かつらをつけてその上から艦内帽をしっかりかぶった。見張兵曹は少し微笑んで敬礼。

増添兵曹は返礼して、つらい心を引きずりながら自分の配置の機銃座に向かった。

が、そこで地獄を見ることになるとは誰が知ろう――

 (次回に続きます)


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試製雷電改(二一型の試作機) これが「雷電」。局地戦闘機といい、陸上基地から敵機を迎撃する戦闘機です。

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「女だらけの戦艦大和」・告白4<解決編>

麻生分隊士を呼び出す発光信号を最初に受信したのは、野村副長だった――

 

麻生分隊士はその時防空指揮所にいたが亀井一水と話をしていて信号を見ていなかった。伝声管からの「分隊士、麻生分隊士。昼戦艦橋に急げ」と言う副長の声に(何ごとじゃ!)と押っ取り刀ですっ飛んで行った。

「麻生少尉、入ります!」と昼戦艦橋(第一艦橋)に入った分隊士はとたんに「う、くさっ!なんねこれは!」と叫んでいた。そこでは艦長・副長・参謀長が例の『若返りのお茶』なるものを喫していた。そのにおいは相当に「ヘンな臭い」で艦橋要員はもうならされたものの、ほかの部署の人間は嗅いだ事がなく、それはまあ衝撃的な臭い・・・。

艦長以下がポカンとして見ているのに気が付いてあわてて「麻生少尉、参りました」と姿勢を正す。

その彼女に副長が、「上陸場から発光信号があってね、松本兵曹長から緊急の上陸要請。急いで行って来て。もし難しい用件なら帰艦は明日でもいいから。航海長にも了解済みだからね」と言って湯呑のお茶をクッと飲み干した。

麻生分隊士は「わかりました、では行ってまいります」と言ったが何やら胸のあたりがもやもやするのはお茶のにおいのためだけではなさそうである。(いったい何があったと言うんだ)

分隊士は、急きょ仕立てられたランチに乗って上陸場へ向かった・・・

 

上陸場に着いた分隊士を待ち構えていたのは松本兵曹長、彼女は大きな体を小さくすくめて「麻生少尉、お呼びたてして申し訳ございません。こちらへ・・・」と上陸場から離れた人のいない椰子の木の陰に分隊士をいざなった。

「どうした、何があったと言う」のだ、といいかけて分隊士はその木の陰に見張兵曹と石場兵曹がうなだれて座っているのに気がついた。

「どうしたんだ二人とも」と近寄って行った分隊士に、石場兵曹は何か怖いものでも見るような目で見たし、見張兵曹に至っては分隊士の視線を怖がっているようにすら見える。

「いったいどうしたんじゃね?」とその場に座った。松本兵曹長も分隊士の横に座ると、言いにくそうではあったがエヘンと咳払いをして、今までの一件を話し出した。

分隊士はその話を黙って聞いている。見張兵曹はその沈黙が恐ろしくて仕方がない。見張兵曹は(いくら一方的に『された』というても、私が石場兵曹にくっついて行ったのは事実じゃし。分隊士に『お前も不注意すぎる』言われたらもう返す言葉がない)と思い(今度は本当に分隊士は私から離れて行ってしまうかもしれん)とさみしく、悲しく、いても立ってもいられなくなった。

「・・・というわけでして」と、松本兵曹長が話し終えた。

兵曹長は、麻生分隊士の顔を見た。分隊士の口がひん曲がって(これは大変じゃ、機嫌悪い時の癖が出たぞ。どえらいことになるんと違うか)と空恐ろしい気分になる兵曹長。

唐突に「石場兵曹よ」と、分隊士が一言を放った。とたんに電気に触れたように背筋を今まで以上に伸ばす石場兵曹。

その石場兵曹を見て、分隊士はふ―っと長いため息をついた。そして「あのなあ、貴様がオトメチャンに気がある言うんは、俺はとっくのとうに知とったぜ」と言った。石場兵曹は少し意外そうな表情で分隊士を見つめる。

「貴様は前からオトメチャンに視線を送っとったじゃろ?それにようオトメチャンに接吻しとったしなあ。・・・隠さんでもええよ、俺は知っとったんじゃ。この前、オトメチャンや貴様が陸戦隊で行く晩、俺がオトメチャンを抱きしめとるんを石場兵曹は物陰から見とったもんな。はあこれはオトメチャンに十分気がある、思うておったんじゃ。じゃけえ、まあちっとは驚いたがある程度予想は出来とった・・・」

分隊士は石場兵曹と見張兵曹、そして松本兵曹長を等分に見ながら言った。「しかし、」と分隊士は言葉を継いだ。

「しかしだからゆうて許せるものでもないぞ石場兵曹。貴様は嫌がるオトメチャンを無理やり思いのままにしようとしたんじゃけえな。しかもオトメチャンにびんたを張ったらしいな。その落とし前は付けさせてもらうからのう」

そういうと分隊士はいきなり立ち上がって石場兵曹を掴んで引き起こした。松本兵曹長や見張兵曹があっという間もなく、分隊士は石場兵曹の頬に強烈な鉄拳を見舞っていた。

ドサリ、とその場に倒れた石場兵曹を見下ろして分隊士は「これが落とし前じゃ。…ええかもう二度とするなよ。こういう形で知らされるんが、俺は一番いやじゃ。で」というと石場兵曹を引き起こした。

また何かするのでは、とはらはらして見守る兵曹長とオトメチャンを横目に分隊士は上着のポケットから何かを出した。

そしてその何かを石場兵曹の手に握らせた。ハッとして手の中を見る石場兵曹。その手の中には二円が掴まされている。

「麻生分隊士・・・これ」と唇の端から少し血を流して石場兵曹がたずねると分隊士は、「それで『男』と遊んで来い。貴様は少し真面目すぎる、じゃけえこれからは少し男と遊んだらええ。十分男と遊んで、それでもオトメチャンとどうにかしたいなら言うて来い。俺も考えてやる。が、最終的にはオトメチャンの意思が一番じゃけえ、その辺を忘れんようにな」と言って座り直すと、松本兵曹長に、

「松本兵曹長、いろいろ迷惑かけて申し訳ない。せっかくの休暇だと言うんにこげえなごたごたに巻き込んでしもうて、こいつらの上司として謝ります」

と言った。兵曹長はそれこそ泡を食って両手を左右に振って「いやとんでもない、麻生少尉!迷惑なんてことは全くないけえ、気にせんでつかあさい!」としどろもどろになっている。

見張兵曹と石場兵曹も「ごめんなさい」と頭を下げた。

松本兵曹長はその大きな体をすくめて、「いやあ、もうええけえ。・・・では麻生少尉、私はこれで」と一礼するとその場を去って行った。

その姿を三人は見送って、まず石場兵曹が「分隊士。本当に申し訳ありませんでした」といい、分隊士は「俺に言うよりオトメチャンに言えよ」といい、兵曹はオトメチャンに謝った。

見張兵曹は「もうええんです、石場兵曹。これからも今まで通りに接してくださいね」といい三人の間にほほ笑みが満ちた。

石場兵曹はもらった二円を握って「男」のいるところに行き、分隊士は気がつけば最終のランチも終わってしまったので見張兵曹と「トレーラー・コンチネンタル・ホテル」に行った。その晩は長妻兵曹だとか小泉兵曹たちと一緒に楽しく語らって、すべてを忘れた麻生分隊士と見張兵曹であった。

 

その頃石場兵曹は男性とめくるめく濃厚な時間を過ごし、(ああやっぱり男ってええもんじゃのう!)と感激したとか。(今まであっさりしすぎとったんじゃなあ)と少し反省。

(俺はオトメチャンも好きじゃが、でもやはり男がええ。・・・待てよ、分隊士こそ男よりオトメチャンばっかで、それもまじめゆうんかなあ・・・。そうか!今まで男を十分食いつくしたけえもうそれよりオトメチャンのほうが新鮮でええゆうことか。う~ん、この世界は奥が深あで難しいわ・・・)

男性に抱かれながら思う石場兵曹の夜は、更けて行ったのであった――


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「女だらけの戦艦大和」・告白3

「トレーラー・コンチネンタル・ホテル」の裏山ではイケナイことが行われていた――

 

常夏の陽射しの中、「コンチネンタル・ホテル」の近くを歩くひとりの準士官がいた。松本兵曹長である。彼女は少し人気(ひとけ)のない所に行きたいと歩くうちこの道に出たのだった。

「なんだあ?『トレーラー・チンコネンタル・ホテル』だと!?全く小泉だの長妻が喜びそうな名前じゃねえか。しょうがねえなあ!」

例のホテルの看板を見上げて苦笑する兵曹長であったが、ふっとその裏手にそびえる「丘」を見ているうちに急にむらむらと(登りたい)という気がわいてきた。

ホテルの裏手に回ってその丘を見るに、下から登れそうではあったが(それでは当たり前じゃなあ)と思う。なんだか今日は普段と違うことをしてみたい兵曹長である。

丘を更によく見れば、海側は草に覆われた崖がありしかもその中腹には横穴みたいなものが見て取れる。

(おお!どんなもんだかさっそく登ろう)

冒険心に駆られて兵曹長はその丘の下へ行き、生えている草を掴みながら登り始めた。見た目よりは楽な崖で兵曹長は嬉しくなって鼻歌交じりで上を目指した。

 

「石場兵曹。・・・お願い、もうやめてください」

オトメチャンは必死に逃げるが石場兵曹はそれを許さない。オトメチャンの小柄な体にのしかかって「やめてやらん。俺はオトメチャンが好きなんじゃ。・・・長いこと待っておった、この時を。今日この機会を逃したら又いつまで待ったもんだかわからん。じゃけえ・・・」と、その可愛い乳首を吸った。

「やめてえ・・・誰か来てえ、分隊士ぃ」と叫びをあげるオトメチャンに石場兵曹は顔をあげると残酷な笑みを浮かべて「誰も来やせん。さっき登ってきた道には俺がこの土地のサインをくくってきたけん、だーれも上がっては来やせんよ。・・・気持ちええんじゃろ、はっきり言うたらええのに。『気持ちええ』って」と言い乳首をはじいた。

オトメチャンは絶望を感じつつも、「石場兵曹、うちもあなたを好きじゃけど、こげえなことをするんはいやじゃ。お願いじゃけえ、もう・・・」と懇願した。しかし頭に血が上った兵曹にはちっとも通じる気配はない。

それどころか、「黙らんか、だまっとった方がもっと気持ちええぞ!」というなりオトメチャンの頬を平手打ちした。

オトメチャンの瞳に涙が盛り上がった・・・

 

松本兵曹長は崖を真ん中ほどまで登っていた。

後ろを振り返る余裕さえあって、振り向けばそこにはトレーラーの蒼い青い海が広がっている。それが陽光にキラキラ輝いて、まるで天国のようである。

(おっと。見とれてて俺が天国に行っちまったらまた連中の笑いもんじゃ)と気を引き締めて両手に掴んだ草を更に握りしめた。

連中、とは彼女の家族――母・姉妹・叔父たち――である。

(あいつらときたら普段はちいとも便りもよこさんくせに、出産だの結婚だの言う時だけ便りをよこしやがる。誰がご祝儀なんぞやるもんか)

二年ほど前にいきなり「松本リキ」あてに家族から年賀状が来たがそれには姉の出産・妹の結婚のことが細かく書かれていた。

(普段はちいとも家族扱いせんくせに)と怒った兵曹長は、その葉書をびりびりに破り捨て、最上甲板から吹き飛ばしてしまったのだった。

怒りながら登ったせいか、もうあの横穴に手がかかるところまで来た。(あと、一歩!)と思った時。

 

「いやあああ!!」

ものすごい叫びが頭の上から降ってきて、松本兵曹長は死ぬほど驚いた。もうちょっとで崖から転落するところだった。が、からくもこらえた。

「な、なんじゃ一体!」と、そっと体を持ち上げるようにして、草陰から横穴を覗き込んだ・・・

「はっ!」

息を飲む兵曹長。こっそりのぞいたその先には信じられない光景があった。

(トメが!)

オトメチャンが素裸で石場兵曹に組み敷かれて泣いているではないか、しかも石場兵曹はオトメチャンの「乙女の部分」に手を伸ばしている。松本兵曹長はカッとほほが熱くなるのを感じた。兵曹長は(トメを苛める奴は許さん!)と、一気に横穴に登った。そして背後から、「石場あ!」と大音声で怒鳴りつけた。

驚いたのは石場兵曹である。オトメチャンの上から飛び退いた。とたんにオトメチャンの一糸まとわぬ体があらわになり、兵曹長は思わず目をそらした。

オトメチャンは「松本兵曹長・・・」と泣きながら裸のまま兵曹長にすがりついた。兵曹長はその場に散乱していた服をオトメチャンに着せかけるとオトメチャンを抱きかかえて石場兵曹に向かい、

「おい石場兵曹。ここになおれ!」と自分の前を指さして怒鳴った。石場兵曹は夢を破られたような目つきで、それにしたがった。そしてまず石場兵曹に一発の鉄拳を見舞った。その場に倒れる石場兵曹、オトメチャンは怖いものを見るように目をそむけている。

石場兵曹がよろけつつもその場に座ると、兵曹長も座った。そして、「石場よ、一体貴様はどういうつもりでこげえな事をしたんじゃ?オトメチャンは麻生分隊士の大事な想い人じゃと言うんをしっとろうが?」と話しかけた。

石場兵曹の目から急に涙があふれ出した。それは彼女の正座した膝の上に置かれた手の甲に、ぽたぽたと落ちた。

「・・・知っとります。しっとりますがうちは、もうどうにも我慢ならんかったんです」

石場兵曹は泣きながら告白した。兵曹長は黙って石場兵曹を見つめている。石場兵曹は、「うちはオトメチャンが『大和』に乗って来た時から好きじゃった。でもどうして思いを伝えたらええか、ようわからんかったんです。そのうちオトメチャンは分隊士と仲ようなってしもうたけえ、話し出せんかった・・・」と泣きじゃくった。

兵曹長はここでやっと口を開き、「そうか・・・その思いはわかるがのう、もうオトメチャンは分隊士のもんじゃ。それを横取りしようとは石場、いけんなあ。しかもこういうやり方はまずいんと違うか?オトメチャンと貴様には分隊士に対してえらい秘密が出来てしもうたことになる。このままでええんか?それともぶん殴られるんを覚悟の上で告白しに行くか?」と言った。

オトメチャンと石場兵曹は同時に顔をあげて兵曹長を見た。

「・・・えらい秘密」

オトメチャンはそう呟いて下を向いてしまった。が、ややして兵曹長を見上げると「松本兵曹長、うちはどがいにしたらええんでしょうか?」と消え入りそうな声で言った。

兵曹長は、「隠し事が一番いけんからね。正直に分隊士に話してみたらええ。まあ麻生分隊士がどう出るかは俺もわからん。じゃが、どう出てもそれは貴様の責任じゃけえね、石場。責任は取らんといけんぜ。オトメチャンを不幸にするんも幸せにするんも、な。」と言った。石場兵曹はうなずき、オトメチャンも蒼い顔でうなずいた。

オトメチャンは「私はもう、はようこのことを分隊士に言いたいです。こんな気持ちを抱えてあと二日もおるんは耐えられません」と絞り出すような声で言った。兵曹長は、そうじゃな、と言って「じゃあ、今から麻生分隊士をなんとか呼び出そう。話はそれからじゃ。・・・覚悟はええね」と立ち上がると、「トメ、服を着ろ・・・」と言って背中を向けた。オトメチャンは自分が素裸なのに気が付いて、頬を紅く染めながら服に手を通す。

石場兵曹も、脱ぎ捨てられたままの服に手を伸ばした――

   (次回に続きます)


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「女だらけの戦艦大和」・告白2

・・・さわやかな風吹きぬけるその場所で、石場兵曹はいきなりオトメチャンの手を握った――

 

「どうしたんです?石場兵曹」と問いかけるオトメチャンに石場兵曹は「なあ、オトメチャン。俺の話しを聞いてくれんか」と言った。オトメチャンは石場兵曹の手のぬくもりを感じながらはい、と返事をした。

石場兵曹は手を握ったまま視線を遠く水平線に当てて、「俺はな実は好きな人がおってじゃ」と唐突に言った。

オトメチャンはその横顔を黙って見つめている。なんだかこういう話にたとい、相槌でも軽々に打てない気がして、でもその横顔から目が離せない。

石場兵曹はオトメチャンの視線を横顔に感じつつ、話を続けた。

「もう…ちいと前からの話なんじゃが。その人はのう、いきなり俺の心の中に入りこんできたんじゃ」

 

オトメチャンは石場兵曹が「恋」に悩んでいるのが少し意外だった。石場兵曹は小泉兵曹や長妻兵曹のように「オトコ、男!」とわめくことがない。

たまには慰安所だとか男性を呼べる料理屋などに行くようだがそれもそんなにたびたびではない。そんなことより、階級が上の人や作戦などで行った先々の兵たちと「模擬作戦」と銘打ってオリジナルの図上演習をする方が大好きなようだ。

「あいつは少し、変わっとる」

と口さがない連中は言うがオトメチャンには小泉兵曹や長妻兵曹よりは話が出来る相手だと思う。玉にきずなのは、やたらと接吻をする癖だが、これは本人に悪意もなにもないので御愛嬌ではあるが。以前それを誰かに指摘されて石場兵曹は「あれ、アメリカに行ったらこげえにして挨拶するんよ?今から慣れとって悪うはないと思うがねえ」とシレっとして言ったという。

 

ともあれ。

石場兵曹は視線を動かさないで話し続ける。

「じゃがなあ。その人には心奪われとる人がおってな、俺なんぞに目もくれんのじゃ」

少し声のトーンが落ちて哀しげになる。オトメチャンは石場兵曹が可哀想になった。そっと、「石場兵曹は、その人になんぞ言うてみたんですか?その・・・うちはこういうことはようわかりませんけえなんて言うたらええのか・・・兵曹はその人を好きなんじゃ、とわからせるようなことを」と聞いてみた。

石場兵曹はオトメチャンの瞳を見た。そしてふっと自嘲的な笑いを浮かべて「言うとらん。言うたところでその人は俺なんぞ振り向いてはくれんけえね」と言って下を向いてしまった。

風がまた吹き抜けて、二人の髪を揺らして行った。オトメチャンは傍らに置かれた二人の軍帽を見るともなしに見つめている。

「・・・ほいでも」とオトメチャンは声を励まして言った。「言うに言えん思いを抱えておっては気持ちが重うていけんでしょう。ダメでもともと、当たって砕けろ、言うじゃないですか。そがいな感じでその人に当たって行ったらどうですか」

石場兵曹はオトメチャンの手を離して、「そうは言うがなあ、その人はえらい人気もんでなあ。ライバルが何人もおってじゃ。・・・はあ俺はもうどうしたらええか、ようわからん」というとその場にごろり、と仰向けになった。

オトメチャンは少しの間石場兵曹の顔を見ていたが不意にいたずらっぽい笑みを浮かべると、

「ほいじゃあ石場兵曹、その人に『おい、俺のほうがええぞ。俺のものになれ!』言うて見たらええんじゃないですか」

と言ったので石場兵曹はちょっと驚いた。体を起して「ほう、オトメチャンも随分大人じゃのう。もしかして誰ぞにそがいに強引にされたんか?」と言った。

オトメチャンは顔を赤らめて首を横に振り、「いいえ。でもみんなようそんな話をしとってからです。どうしても好きな人がおってなら、ちいと強引にしたらええのかなあと思いまして」と小さな声で弁解した。

「ほうね、強引に俺のものにしてもええかなあ」石場兵曹はまた水平線を見つめながら言った。海はどこまでも蒼く、そしてきらめいて美しい。

「・・・本当に好きならば。じゃけどその人がどう思うかわかりませんね。おなごが男性にそがいな強引なんを嫌がるかもしれんし、第一その人が必ずしも」

石場兵曹を好いてくれるかどうかもわからんし、とオトメチャンが言いかけた時。

石場兵曹はいきなりオトメチャンを抱きしめると敷物の上に倒れ込んだ。

「石場兵曹!」とオトメチャンが叫んだ。「どうなさったんですか、あの・・・」

叫びは石場兵曹の口づけで遮られた。長い口づけの後石場兵曹は、

「相手が男じゃ思うたか、オトメチャン。俺が好きで好きでたまらんのは、オトメチャン。あんたじゃ。俺は前からオトメチャンが好きでたまらんのじゃ」

というと更にオトメチャンの唇を奪った。唇が離れると、石場兵曹はオトメチャンの服のボタンに手をかけてそれを外し始めた。

「いやじゃ!石場兵曹、お願いです・・・やめて」泣き声を立て始めたオトメチャンに、石場兵曹は少し残酷なほほ笑みを浮かべると、

「強引にしたらええ、言うたんはオトメチャンじゃ。じゃけえ、強引にさせてもらう」

というと普段の兵曹からは想像もつかないような力で、オトメチャンの服は脱がされてしまった。

「やめて・・・お願いですけえ」と泣いて懇願するオトメチャンの肌着も取り去ると、石場兵曹はオトメチャンにまたがって自分の服も脱ぎ捨てた。

「前からずっとオトメチャンが好きだったんじゃ。こうしたかった・・・」そう言うとその両手をオトメチャンの白い肌に這わせた。

「オトメチャンは可愛いのう。麻生分隊士や艦長や副長、それに参謀長まで夢中にさせる悪い子じゃ。そして俺まで夢中にさせてしもうて、どうしてくれるんじゃ・・・」

兵曹の手がオトメチャンの乳房を掴んだ。石場兵曹は息を荒げて、「昨夜も分隊士とこがいなことをしとったんじゃろう?今更誰にされたって同じじゃ。今度は俺が可愛がる番じゃ」というと柔らかいふくらみの先をつまんだあと、その口に含んだ。

「やめて・・・誰か来ますけえ、お願い」と泣くオトメチャン。石場兵曹はオトメチャンの乳首からプチっ、と音を立てて口を離すと「誰も来やせん、気にせんでええ。俺はオトメチャンが大好きじゃ・・・」というと再びオトメチャンの乳首を吸い始める。

「ああ、やめてえ・・・」

オトメチャンの喘ぐ声が、その場に広がった・・・・

 

その頃さっき二人が通ってきた、草を踏みしだいた道を上がってくる現地の男性が一人。彼はふと、足元をみるとそれ以上道に踏み込むのをやめた。踵を返して下りはじめる。

そこには、石場兵曹が固く結んだ草があって彼はそれを見て思う、

(アブナイアブナイ。誰かのオタノシミの邪魔したら、馬にケラレテ死んじゃうネ。誰かはワカンナイケド、ごゆっくり)

なぜならむすんだ草は「この先で逢引中」を知らせるこの土地ならではのサインであったのだから――

  (次回に続きます)


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「女だらけの戦艦大和」・告白1

言うに言えない思いを抱えて過ごす、というのは誰でもしんどいものである――

 

オトメチャンは三日間の休暇を麻生分隊士と一緒に過ごした。サイクリングをしたり、沈む夕日を眺めたり、そして日がすっかり落ちればいつもの宿に行って愛し合う。そんな楽しい天国のような三日は過ぎ、分隊士は「女だらけの大和」に戻る日が来た。

「じゃあオトメチャン、残りの日を楽しく過ごしなさい。・・けど長妻兵曹たちに変な所に連れてかれやせんじゃろうな、俺はそれだけが心配じゃ」

分隊士は桟橋でランチを待つ間そう言ってオトメチャンを心配した。が、オトメチャンは笑って「大丈夫ですけえ、分隊士。心配なさらんで下さい。私は変なとこに連れてかれても切りぬけますけえね」

と言って分隊士を安心させた。

分隊士はやがてランチに乗り込み、その姿が小さくなったところでオトメチャンは名残惜しげに桟橋から踵を返し、町中に戻る。

長妻兵曹たちと待ち合わせの場所に向かうためである。待ち合わせ場所は「裏飯屋」ではなく兵たちが使う宿屋で、「トレーラーコンチネンタルホテル」である。ホテルとは名ばかりの宿ではあるが安いしサービスがいいので、この地にあるいくつかの宿のうち、薄給の兵にはありがたいものの一つ。

長妻兵曹は「そこに一室取ってあるから、先に行ったら休んでるとええよ。俺の名前で取ってあるけん」と言ってくれた。オトメチャンは昨晩も揉まれた愛の嵐に少し、睡眠をそがれていたので宿に早めに入ってちょっと眠ろうと思って先を急ぐ。そうは言っても、昨晩も嬉しい一夜であったことには変わりはないが。

途中現地の人たちが営む商店や屋台を覗きながら歩くオトメチャン。たくさんの兵隊たちが大通りにあふれている。

「部分かつら」の店を見つけ、(ああ、これが増添兵曹御用達のお店かあ!たくさん種類があるのう!)と感心してみたりその店に禿げてもない海軍兵たちがたむろしているのを見て(変な風景じゃねえ)と可笑しくなるオトメチャン。

その中に同期の兵を見つけ「久しぶりじゃねえ」と肩を叩いた。その兵は「ああ、見張兵曹。どうしたね、休暇かね」とオトメチャンの両手を取って笑った。

「ほう、休暇じゃ。ちいとえらい作戦に出とったもんで休暇をもらえたんじゃ」オトメチャンも嬉しげにその両手を握り返した。そして、「ほいでもなんでこげえな店に?どこか禿げたんかね?」と聞いた。同期の兵――中根二等兵曹、巡洋艦『青葉』乗り組み――は、

「ほうね、そういえば『大和』は大きな作戦に出とったと聞いたが。陸戦隊も組織した聞いたが、見張兵曹も?」と言ってオトメチャンがうなずくと、自分もうなずいて「ほいじゃあゆっくりせんとね。・・・ああ、この店ね。うちらちいとも禿げちゃおらんが。なんか最近ここで部分かつらいうのを買うて、自分の髪に付けて長う見せたりするんが流行っとるんじゃと。じゃけえうちも流行りに乗ろうか、思うてねえ」と言った。

オトメチャンは「ああ、うちの艦の機銃分隊から流行り出したあれね!」と合点した。増添兵曹が止むにやまれぬ理由から買って来た部分かつらが、機銃分隊の兵員を手始めに流行り始め、今やほとんどの『大和』乗組員がひそかに入手しているのだと聞く。ただ、増添兵曹の心中をおもんぱかって、艦内では増添兵曹以外装着はご法度、という代物である。

見張兵曹と中根兵曹はしばらくそこで談笑をしてやがて「じゃ、またね。元気でなあ」と手を振って別れた。

またオトメチャンはぶらぶらと歩いて店など見ながら歩いた。

やがて繁華街の途切れる頃、例の宿「トレーラーコンチネンタルホテル」が見えてくる。でかい看板が出ているがこの看板、現地の人が慣れない日本語を書いたためか「トレーラーチンコ(・・・)ネンタル・ホテル」と一部誤った表記になっているのが兵たちには大変にうけている。兵は皆「今夜はチンコに泊まる」と言っているくらい、もうそれが通り名になっているようだ。

ともあれ、その看板を見つけホッとするオトメチャン。

足早に宿に行こうとする彼女を、「オトメチャン!」という聞きなれた声が呼びとめた。

振り向けばそこには石場兵曹が微笑みながら立っていた。オトメチャンは「石場兵曹、もうここに?長妻兵曹たちは?」と兵曹に近寄って行った。

石場兵曹は「ああ、うちはちいと用事があったもんであいつらとは別行動しとったんじゃ。・・・オトメチャンは今、なんか用事はあるか?」といいオトメチャンは「いいえ。用事はないですが、ちいと眠りたいな思うて」と答えた。

石場兵曹は「また昨夜は分隊士とええことしよったな。眠れんかったんじゃろ」と苦笑した。オトメチャンは頬を紅く染めてうつむく。

石場兵曹は「まあ、ええわ。ほうじゃ、ちいと俺につきあわんか?昼寝にええとこあるけん、行ってみんか」と誘った。オトメチャンは「ほうですね、まだ時間も早いですし皆もまだ遊んだり食事もあるでしょうし。行きましょう」と石場兵曹の提案に乗った。

石場兵曹はオトメチャンを宿の裏側にある丘にいざなった。

ほとんど道らしきものがないが、そこを石場兵曹は生い茂った草を踏み倒し、道を作りながら登ってゆく。そのしぐさがなんだかおかしくってオトメチャンが笑う。

石場兵曹は後ろを振り返って「ここから先はな、俺だけの秘密の場所じゃ」といい、その場の草を左右からひっぱって固く縛った。見ようによっては通行止めの標識のようでもある。

何のまじないじゃろう、と思うオトメチャンではあったが石場兵曹はずんずん奥に入ってゆく。あわてて後を追うオトメチャン。待って石場兵曹、という声に石場兵曹は振り向くとオトメチャンの手を引いてさらに奥へと歩く。

足もとの草は深さを増し、少しオトメチャンが心細くなってきた頃石場兵曹は、

「ここじゃ。着いたで、オトメチャン」

と言って先を指さした。そこには海に向けて大きく丘をくりぬいたような場所で、ふかふかした草が生えていて天然のカーペット。岩陰に大きな箱が一つ置いてある。

ここに向けてここちよい風が吹いてくる。

「うわあ、石場兵曹。いつの間にここを?」オトメチャンは声が上ずっている。石場兵曹はふふっと笑って「もうずいぶん前じゃ。たまたま見つけてな」といい「座らんか?」と片隅の箱から大きな布を出してその場に敷いた。

二人はその上に腰をおろした。

そしてしばらく黙って海を見つめる。

サア…っと気持ちの良い一陣の風が吹き抜けた。その時不意に、石場兵曹が隣に座ったオトメチャンの手を握りしめた。

「石場兵曹・・・?」

オトメチャンは石場兵曹を見つめた――

   (次回に続きます)


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