女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?

「女だらけの戦艦大和」・熱い人の噂、そして秘密の料理。

「女だらけの陸海軍」がスマトラ作戦を終える頃、ラバウリ海軍航空基地ではパイロットたちが食糧増産に励んでいた――

 

渡部陽子少尉は、朝も早くから滑走路を見渡す小高い場所に作った畑で鍬をふるっている。そのそばで、齋藤祐樹子上飛曹が少しばかりつらそうな表情で鍬を土に入れている。都会っ子で野球が大好きの斎藤上飛曹には少しばかり勝手が違ってしんどい仕事かもしれない。

その向こうでは、ベテランパイロットの杉野計子兵曹長が額の汗をぬぐいながらカボチャの苗を植えている。

杉野兵曹長は海兵団からたたき上げの準士官で、飛行時間はそろそろ二千時間になろうとしている。今までは『空母・瑞鶴』飛行隊に所属していたが最近こちらに転勤して来た。

渡部少尉は、彼女に一目も、二目も置いている。それは単にベテランだとかそういう次元のことだけではなく、人間性もである。杉野兵曹長は最初民間会社に勤務していたが海軍へのあこがれたちがたく、会社を辞めて呉海兵団に入団。当初は駆逐艦の機関科でしごかれて、のち土浦航空隊に。

その後は『赤城』にいたこともあった。ミッドウエー攻略戦では『赤城航空隊』として活躍した。その直後『瑞鶴』に。そして今はラバウリ航空隊のエースともささやかれるひと。

が、彼女はそんな華やかな戦歴を自慢もせず、穏やかな表情で日々過ごしている。

その辺が渡部少尉の気に入りである。

渡部少尉は鍬をふるいながら、「そういえばあ~。『瑞鶴』にはとても熱くなる士官がいるって聞いたけど、どんな人だか知ってますか?杉野さん」と尋ねた。渡部少尉は軍人に似合わないゆったりとした口調と、とても物腰の柔らかい人で部下には「さん付け」で呼びかけることが多い。

杉野兵曹長は顔をあげて少尉を見た、そして「おりましたですよ。確か・・・松岡中尉です。でも最近『瑞鶴』から『大和』に転勤になったと聞きましたが。きっと『大和』でも熱くなってると思いますよ」と言って笑った。

斎藤上飛曹が、土を返しながら興味深げに「杉野兵曹長、熱くなると言いますがどんなふうに熱くなるんですか?」と口を挟む。

渡部少尉も聞きたそうな顔をしているのを見て、杉野兵曹長はまず手に持った苗を土にねじ込むと、

「あのかたはですね、いっつもテニスラケットをお持ちなんですよ。そう、訓練だろうが戦闘中だろうが。そして常に『熱くなれよ。やればできる!』と言いながら時にラケットを振り回しながら艦橋を走り回るんですよ。あの方は見張り長でしたからね、そう叫びながら他の兵隊を盛り上げるんだそうです。私も着艦の時艦橋でラケット振り回して叫ぶ松岡中尉と思しき人を見たことがありますよ。

・・・で、なんでもそのラケットにはすごい秘密があるらしいですよ」

と言った。

ほお・・・と渡部少尉は息をついた。すごいラケット、一体どんな?

「聞いた話ですがね、そのラケットは敵の機銃弾をも跳ね返せるのだとか。私は見たことがないんですが、『瑞鶴』の時艦橋要員に聞きました。敵機を撃墜したこともあるんですって」

杉野兵曹長のこの言葉に、少尉も上飛曹も腰を抜かさんばかりに驚いた。

「ええ!?敵弾を跳ね返すラケットってどんなんだろう?・・・待てよ、ってことは『大和』でも使ったかもしれませんねえー。よーし。私は今度、『大和』にいる同期生(コレス)に聞いてみましょう。そんな人ならきっと『大和』でも有名人のはずだから、たとえ配置が違っても見たり聞いたりしてるでしょうからね」

渡部少尉はそう言って笑う、そのそばから斎藤上飛曹が「では少尉、いつか『大和』にいらしてお得意の写真を撮ってきてください。どんな方なのか、私も知りたいですもん」と言って少尉は大きくうなずいて見せたのだった。

 

やがて日は高く登り、苗はすべて植えられた。

他の畑からは、整備兵や搭乗員たちが既に熟れたカボチャやほかの野菜をかごいっぱいに収穫して来ている。

渡部少尉はそれを見て、「おお、これなら当分の間素晴らしい野菜料理を堪能できますね。さあ、持って帰りますか」と満足げ。

籠は皆それぞれ背負ったり、台車に乗せて運ぶ。

そして基地の主計科の倉庫に納められたのだった。

――とここで「めでたしめでたし」で終わらないのが「女だらけの戦艦大和」である。

作業で疲れ切った搭乗員や整備員を見て、ふと、杉野兵曹長の頭に「いい考え」が浮かんだ。杉野兵曹長は、畑に取って返して収穫し損ねたカボチャだとかでかくなりすぎてそのまんまにされているような茄子だとか、要するに半端な野菜を獲ってくると斎藤上飛曹や数名の搭乗員に「貴様たち、これを適当な大きさに切ってくれ」と命じた。

そして自分は烹炊所に忍び込んで、食用油やちょっとした調味料を「ギンバイ」!

そして(いったい何事が始まるんだろう)と、怪訝な表情で野菜を切る下士官たちの前で、杉野兵曹長は驚きの行為をしたのだった。

それは。

滑走路に居並ぶ零戦の一機に近寄って行った兵曹長、その辺の整備員を数名集めるとなんと零戦のスピナーヘッド(プロペラ中心部の出っ張り部分)を外し始めたではないか。

そしてそれをはずして兵曹長は整備兵二名とそれを抱えて持ってくると、斎藤上飛曹たちの前に置いた。

そしてまた何人かを呼び集めると、かまどのようなものを急造した。

「よーし。では火をつけよう」と言うとかまどの下にかき集めたごみくず――いらなくなった地図だとかチャート、木切れや枯れてカサカサになった葉っぱ――だのに火をつけた。その上にスピナーヘッドを置いて。

火がある程度大きく燃えだしたところで兵曹長は、スピナーヘッドに食用油を注ぎ込んだ。

皆が緊張して見守る中、兵曹長はすでに切り終わった野菜をその中にダバッ!と入れた。とたんに、ジューッ!と音を立てる野菜。

「おお!」「うわあ」と声を立てて見入る兵たち。その皆を見回して、杉野兵曹長は「どう?これぞ杉野スペシャル、『零戦鍋』。スピナーヘッドを使った航空隊秘伝のお料理です」と笑って見せた。

すごい、すごいと歓声を上げる兵。杉野兵曹長は野菜の中に持ってきた塩や醤油を入れてかき混ぜると火の通りを確認し、「はい、もういいでしょう」とスピナーヘッドを火からおろした。

そして、杉野兵曹長は「はいっ、みなさん今日も御苦労さまでした。また明日の訓練も頑張りましょうぜ!」と言って皆に料理をふるまったのだった。

「おいしい」

「これはお母さんの味」

「明日もやるぜ!」 

「零戦鍋、最高~」

 等々、感激の声が上がる。

ラバウリ航空隊の士気はこうしてまたどんどん上がってゆくのであった――

 

   ・・・・・・・・・・・・・・・・

作中の「杉野計子」兵曹長は、実在の「杉野計雄」兵曹長がモデルです。山口県出身で、呉海兵団から大分航空隊、空母瑞鶴等に所属。終戦時は博多航空隊教官。

撃墜数は三十二機とも。一九二一生まれ~一九九九没。


にほんブログ村 小説ブログ 百合小説へ
にほんブログ村
関連記事
海軍航空隊 | コメント:6 | トラックバック:1 |

「女だらけの戦艦大和」・可愛いのが好きなのに。

スマトラ・パレンバン作戦が日本軍の大勝利に終わり、「女だらけの大和」他の海軍艦艇はそれぞれの泊地や基地に戻り、「女だらけの陸軍」も元の本拠地に帰る――

 

そんな勝利の知らせを、マレー半島で受け取った第二五〇軍の山下ともよ中将は満々の笑みを浮かべた。

作戦参謀の一人が「山下中将どの、よかったですね。流石中将どの御みずから手塩に掛けられた猛象部隊ですね。敵を次々蹴散らしては捕虜籠に入れて行ったと言うじゃないですか。流石『マレーの虎』と言われるだけのことがありますな。あのイギリスのペーシベル将軍に『イエスかノーか』と迫った話は内地では大評判であります」と持ち上げた。

山下中将は「あれ!あれそんなに居丈高に言ってないのにどうしてみんなで話しを大きくしちゃうのよ~。おかげで私、なんか一部では態度の大きいいやな女みたいに言われて哀しい!」と言いながら中将には大きな悩みがあった。

 

なんで、私がマレーの『虎』なんだろう??

 

それは、山下中将があの真珠湾攻撃と時を同じうしてマレー半島に上陸、一一〇〇キロの道のりをなんと五十五日間という短期間で走破したところからついたいわばあだ名である。まるで俊足の虎のようだと皆が称賛の心をこめて「マレーの虎」と命名したのだが・・・

中将は実は「虎」は嫌いだったのだ。

(よりによって私が嫌いな「虎」になぞらえられるなんて皮肉だわあ・・・なんで「虎」なんて。あんなの全然可愛くないし)と常常思っていたのだった。

ある日山下中将は考え事をしながら司令部の庭を散策していた。

その時、目の前を何かが横切った。

「あ!」

と声をあげてそのあとを追う中将。やがてその胸に抱いてきたのは一匹のまだ幼いかわいらしい子猫であった。

中将は嬉しさから司令部の建物に掛け込んで、「ねえ見てえ!ほら可愛い猫ちゃん!」と叫んでいた。

作戦参謀や、部下の将官が何事かとどやどややってきた。そのみんなの目の前に、中将は子猫を高々と掲げて、

「可愛い猫ちゃ―ん。私猫ちゃんだ―いすきぃ!」

と叫んだ。参謀や将官たちは意外な・・・という顔つきになった。一人の参謀が、「山下中将は、猫よりも虎のほうがお似合いですよ。・・・そうだ、この猫は東京の東条英子首相に送って差し上げたらどうです?東条首相も猫をお好きなんじゃないでしょうか」と言うと、山下中将の口がキュッととがって、

「いやっ!あの子だけにはあげたくないっ!私あの人あんまり好きじゃないのよね。・・・なんて言うか、悪い子じゃないんだろうけど、けど馬が合わないんだわ。この猫ちゃんはだから私の物ッ!」

とすねた口ぶりになって、猫に「いこっ!いいものあげるからね~」と囁くと、二階の司令官室に上がって行ってしまった。

ポカン、とする参謀に幕僚の一人がそっと「馬鹿ねえ。東条さんの名前だしちゃダメじゃん。山下中将と東条さんはなんでか仲良くないんだから」とたしなめた。

ああ、しまったと舌打ちする参謀。でも中将はもうそのことは気にかけてはいない。今、司令官室で子猫にとっておきのおやつを与えるのに夢中なのだ。

(ああ。可愛い、なんてかわいいんだろう。私は犬も好きだけど子猫ちゃんの可愛さって格別!)そう思う中将の頭に電光のようにひらめいたことが・・・!

 

そして次の日、山下中将は司令部全員を集めて宣言した。

「私は今日から『マレーの子猫ちゃん』と呼んでほしい!」

ええっ!・・・とどよめく将官たちをしり目に、中将はふふんと笑って「虎よっか可愛いもん。私はね、トラみたいな狡猾な生き物より可愛くって愛される子猫ちゃんと呼ばれたいのよ。いい?このことみんなでまずは二五〇軍に布告ね。で、みんなで現地民にも布告してよ?私のことは『マレーの子猫ちゃん』、「虎」なんて言ったらいじめちゃるから、いいわね!」

強い意志を感じる言い方に皆は少し黙った。

(子猫ちゃん・・強そうじゃないなあ)

(ハリマオ)だからかっこいいのになあ。中将どうして変えちゃうんだろう)

皆の思いが交錯している。その時、幕僚の一人がぼそっと言った。

「山下中将どの、虎は「ネコ科」でありますが」

中将の顔がハッとした表情になった。

「ええ?ってことは・・・虎は猫の仲間ってこと?」

「そうであります。ですからこの子猫も大人になったら虎のように勇ましくなるであります」幕僚は自信満々に言い放った。そんなことはないと思うのだが・・・。

がっくりとする中将に、参謀が言った。「山下司令官殿、司令官殿はやはり勇ましい虎であることが運命つけられたお人なのです。ですから自信をお持ちになって『マレーの虎』としていてください!」

拍手が起きた。

山下中将は少し照れながらも、(ああ、残念だわ。せっかく「ネコちゃん」って呼ばれるいい機会だったのに)と思う。

その軍服のポケットで子猫が顔を出して中将の顔を見て「ミャ―」と小さく鳴いた。

朝のミルクの催促のようだ、中将はポケットの上から子猫をなでると「いい子いい子、ミルクね~」と言いながら司令官室にいそいそと入って行ったのだった――

 

           ・・・・・・・・・・・・

この話のモデルは言うまでもない「山下奉文大将」であります。いろいろと良くも悪くも評される方ではありますが、現在の物差しでは測れない部分があります。

ただ、東条英機陸軍大臣とは仲が良くなかったのは事実なようです(二・二六事件がらみ)。昭和天皇にも拝謁を許されなかったと言う話さえある山下大将ですがここでは可愛げのある人として登場させました。

 

山下奉文陸軍大将 明治十八年十一月八日~昭和二十一年二月二十三日 高知県大豊町出身 陸軍士官学校 陸軍大学校 マニラにて法務死 

辞世の句・ 待てしばし 勲のこしてゆきし友 あとなしたいて我もゆきなむ

 





関連記事
帝国陸海軍 | コメント:8 | トラックバック:0 |

「女だらけの戦艦大和」・スマトラ作戦後日譚

スマトラ作戦後日譚あれこれ――

<その壱・長妻兵曹>

「女だらけの大和」から、陸戦隊になったうちの一人長妻兵曹について、一緒に戦った「大和」運用科の御園上等兵曹はこう言ったとか。

「長妻兵曹の匍匐前進は、なんだかいやらしい感じがして私は戦闘中だと言うのに笑いがこみ上げて来て困った」

それを聞いた機銃分隊の平野少尉(兵学校出身)は、「ええ!?『いやらしい匍匐前進』ってどんなのさ!私は見たいぞ。・・・おうい、誰か長妻兵曹を呼んで来てぇ!」と騒ぎ、長妻兵曹は探し出されてきた。

兵曹は作戦の疲れから少し不機嫌であったが上官の申し出には逆らえずしぶしぶ出てきた。

「長妻兵曹参りました」と言う兵曹に、平野少尉は嬉しげに手にした銃剣術用の木銃を手渡すといきなり、

「・・・ねえ。ここで匍匐前進してくんない?」

とその耳元で囁いたのだった。耳元に囁かれ「フエっ!」と変な声を出した長妻兵曹。少尉の顔をまじまじと見つめて、「いったい何で私がここで匍匐しなきゃいけんのですか?」と不審そうに言った。平野少尉は満面の笑顔で、「いいからいいから。パレンバン守備作戦従事者の気合の入った匍匐前進をここで見たいんだってばあ~」と言って長妻兵曹は仕方なく熱い甲板に腹這う。

それを見て、他の機銃の兵や他分隊の兵や士官たちも「何なに!?何してんの?」と寄ってきてその場にちょっとした人だかりが出来た。

それをしかも第一艦橋から防空指示所に上がってきていた梨賀艦長・野村副長・森上参謀長の『艦艇ーズ』がしっかり見ていて「あれ!なにしてんのかなあ」「匍匐前進の訓練のようですな」「いや~、作戦は終了したと言うのに殊勝なことだ。ちょっと見てこよう」・・・と森上参謀長が最上甲板に降りて行く。

さて甲板上では平野少尉が「さ、早く匍匐してったら」とせかす。長妻兵曹はなんだかよくわからぬまま「じゃ、行きますよ・・」と言うと木銃を構えてあの作戦中のように匍匐前進を始めた。

・・・すると!

「や、やっぱり本当だあ!」

と大声とともにけたたましい笑い声が響く。もちろん声の主は平野少尉。長妻兵曹は「どうしたんです!」と驚いて顔を上げた。平野少尉は長妻兵曹を見ないでギャラリーに向かって言い放ったのだ・・・「ほら見てえ、長妻兵曹の匍匐前進って『いやらしい』よねー!」。

愕然とする長妻兵曹、(いったい私の匍匐のどこがいやらしいんだよ!)と半ば悲しくなっているが、それをよそに大爆笑の皆・・・それを少し離れて見ていた森上参謀長はそっとその場を離れた。

指揮所で艦長に「どうだったあ?匍匐前進の練習だったでしょう?」と聞かれ、参謀長は複雑な笑顔であいまいにうなずいたのだった――

 

   <その弐・報道班員>

この戦いに限らず、報道班員が戦いに随伴して陸海軍将兵の戦いぶりを写真や映画に収めることはよくあること。検閲を受けたうえで内地で公開すれば戦意高揚に一役買うし、「戦地で兵隊さんはこんな苦労を!」と国民に分かってもらえる利点も大きい。

今回も陸軍・海軍ともに報道班員さんたちがこの戦いに随伴している。

彼女たちも戦場に身を投じるからにはそれなりの覚悟をもって臨んでいる。そして「ここだ!」と言うシャッターチャンスをとらえては決死的・決定的瞬間をカメラに収めるのだ。

写される方は戦闘中なためカメラが自分をとらえていることなど気もつかない。―-はずなのだが。

「大和」陸戦部隊が集結し、スマトラ特陸の指揮官が作戦の詳細を説明した後、副官が「大和隊」に近寄ってそっと言った。

「あのさ。報道班員が来てるよ、カメラで写してくれるから彼女たちがカメラを構えたら何気にそっちを見たらいいよ。絶対高確率で顔写るから内地の親にいい土産代りになるって!」

他の特陸隊員たちも笑ってうなずく。「大和」のにわか陸戦隊員もうなずいてみる。

しかして戦いに入った際、敵の攻撃が小やみになった時報道班員がカメラを構えると皆何気にカメラの方を向いて、あとで報道班員がフィルムを現像してみればまあ、どれもこれも「カメラ目線」ではらばっていたり笑顔でクロスレイのそばに張り付いていたりと言う写真ばかりであったとか。

「なにこれ。これではまるで『やらせ』か宣伝写真だよ・・」

と言ってため息をつくのは久米海軍報道班員であった。この写真、海軍省の検閲を通るんだろうか???

 

   <その参・猛象部隊>

今回大活躍したのは海軍ばかりではない。

陸軍さんも大活躍して戦果をあげたのだ。特に、<猛象部隊>の活躍すさまじく、この部隊はもともとビルマ・インド方面で活躍していたのだがスマトラ・パレンバンに危険な兆候が出たのを察知してその半分ほどの精鋭を山下ともよ大将がスマトラに派遣したものである。

猛象部隊部隊長・松島トモ少将は意気軒高。「敵なんぞ蹴散らしてくれます。ご期待を」と言って出撃しその通りの戦果をあげた。

指揮官搭乗用の象にまたがり、的確な指揮でオランダ軍嬢たちを混乱に陥れ、たくさんのオランダ嬢を捕虜にした。

長い鼻で巻かれ、挙句に大きなかごにポイポイと放り込まれて行くオランダ嬢たち。松島少将はその戦果にご満悦である。

製油所も猛象部隊や、九七式中戦車がしっかり守っているため敵は一切手が出せない。わが方の勝利はゆるぎない。

「やった。これで皇国は安泰だあ!」と松島少将はうなずいた。

その時。

オランダ嬢たちを入れたかごから一匹のまだ幼い「ヒョウ」が飛び出してくるなり、まっしぐらに松島少将の元にすっ飛んで行った。これはオランダ嬢のひとりのペットであったらしいが。

「!」

あっという間もなく、その幼いヒョウはいきなり松島少将の首めがけて食い付いたではないか!

「ギャア!」とものすごい声を発した少将を見て参謀たちは「うわあ!松島少将、お気を確かに!」などと叫んでヒョウを引き剥がしにかかった。中には棒を持ってきてヒョウを袋だたきにせんとした参謀もいたがちょっと手元が狂って少将をひっぱたいてしまったりした。が、やがてヒョウはひきはがされ別の檻に。

少将は大事はなかったがおろしたての軍服は血まみれ。驚きと恐怖のあまりハアハアと荒い息をつきながら部下が持ってきてくれたミネラル麦茶で驚きを収めたと言う・・・。

 

いろいろあったスマトラ作戦。

麻生分隊士と見張兵曹は指揮所で風に吹かれながら「しかし、大変だったね」「いえ、いい経験になりました」などと話している。そして足元に置いたあの壺を見て、「これはいったいどう使うたらええのでしょうか?『ルソン壺』言うて、骨董品じゃ言うとりましたが。きっと古い壺なんじゃろうがどうしたらええか私にはようわかりませんわ」と見張兵曹は笑った。麻生分隊士もクスリと笑うそのそばにトメキチが来て壺のにおいを嗅いだり、前足で叩いたりしている。

「トメキチ、どうでもええがその壺を壊さんでくれよ。せっかくの記念の品じゃけえね」と麻生分隊士がトメキチに微笑む。

もう間もなく「大和」他はそれぞれの基地・泊地に戻る。見張兵曹は遠くなったパレンバンの方角を見て(マリー。いい子で素敵な女の子になるんだよ)と思っている。

少し切ない思いが兵曹の心をよぎった。

 

そんな兵曹の髪で揺れる麻生分隊士の送った「元結」、これには分隊士が誰にも言えない秘密があった。

それは――この元結は分隊士が見張兵曹の無事を心から祈って、自分の<ふんどし>を切って縫って作ったものだと言うこと。これが麻生分隊士にとってはスマトラ作戦上最大の『軍機』であったかもしれない。

 

そんなことを知らない見張兵曹は麻生分隊士を見てほほ笑む。

すがすがしい一陣の風が、指揮所を吹きぬけた――。


にほんブログ村 小説ブログ 百合小説へ
にほんブログ村
関連記事
帝国陸海軍 | コメント:4 | トラックバック:0 |

「女だらけの戦艦大和」・スマトラ戦記7<解決編>

「スマトラ作戦」は日本軍の成功裡に終わった。費やした日数は戦闘そのものでは三日と短いがそれなりに大変な戦いではあった――

 

スマトラ特陸に参加していた「大和」他の艦艇の特別陸戦隊員たちも続々と帰艦の途に着いた。帰りは行きと違って順番もばらばらである。

「麻生分隊士、陸戦隊に行った皆がそろそろ帰艦してきますよ」と亀井一水の報告に麻生分隊士は(ああ!いよいよオトメチャンに会える!)と心がときめいた。分隊士にとっては長い長い数日間であった。

防空指揮所で、輸送船が来る方向を見つめてそわそわしている分隊士を見て小泉兵曹がこっそり忍び笑う。

 

その日も夕刻近くなって輸送船の一隻目がまず『大和』に接舷した。もう敵潜の心配も、敵の航空機の心配もないから堂々と『大和』に近寄ってこられる。『大和』から輸送船に向かってランチがこぎ出される。

最初に帰艦の兵員たちが続々とランチに乗り、そして『大和』に帰艦を果たした。

舷側を次々上がってくる兵たちに「御苦労!無事でよかった、ゆっくり休んで」と声をかけているのは梨賀艦長と野村副長、そして森上参謀長。

帰艦して疲れが出たような顔色の兵たちをかき分けて、麻生分隊士は分隊長とともに十三分隊の兵たちを迎えに出た。

当然、麻生分隊士のお目当ては見張兵曹ではあるがここではおくびにも出さない。

だが・・・十三分隊の兵員は誰ひとり、帰ってこない。「おかしいな・・」と松岡分隊長も流石に首をひねった時機銃分隊の辻本一水がおずおずと話しかけてきた。彼女も長妻兵曹などとともに陸戦隊に配備されたのだった。

「あの、松岡分隊長。麻生分隊士・・・」

二人は振り向いた、そして「おお、辻本一水。御苦労であった。・・・どうした?」とねぎらった後聞いた。辻本一水は少しうつむき加減で「あの、十三分隊の皆さんに関して、おひとりほど行方不明者が出たのでその捜索でまだ帰れないそうであります。捜索には、岩井少尉も加わっておられまして、岩井少尉の代行として機関科の松本兵曹長が指揮しておられます」と言った。

「なんだって!」と麻生分隊士は叫ぶように言って辻本一水の肩を掴んだ、そして「一体誰が行くえ不明だと言うんだ?誰なんだ!」と怒鳴って彼女を強くゆすぶった。

「言え、知ってるなら言うんだ!」

半ば半狂乱の分隊士を、松岡分隊長は押さえた。そして自分の方を向かせて、「気持ちはわかるがな、分隊士。あなたが冷静にならなきゃダメじゃないか。そのうち詳細が入ってくるだろうからそれまで待とう。岩井少尉がいるなら大丈夫だ。彼女を信じて待とう」と言い含めた。

麻生分隊士は、辻本一水からその手を離した。その手は細かく震えている。それを見た辻本一水は気の毒気な表情を浮かべて一礼すると、居住区に駆け足で去って行った。

麻生分隊士はその場にしゃがみ込むと、

「まさか・・・まさかオトメチャンが」

と言うなりやがて嗚咽を漏らし始めた。松岡分隊長は黙ってその肩に手を置いた。

 

その翌日。

第二陣として帰艦して来た中に石場兵曹がいた。麻生分隊士はもう気力を失ったようになって帰還者たちを見もしないで指揮所に上がっていた。

そこに、「石場兵曹戻りましたっ!」と声が響いて分隊士はハッと我に帰った。あわてて声の方に走る。

――と。

白い布に包まれた大きな箱を首から下げた石場兵曹がいて、分隊士を見るなり

「麻生分隊士、これは見張兵曹の・・」

と言ったのだ。

こ、これはまごうかたなき遺骨箱ではないか!?頭の中が真っ白になった分隊士は石場兵曹の首から下がった箱にとりすがると、

「オトメチャン、オトメチャン・・・こんな姿になって戻ってきたのか?どうして、どうして死んだんだあ!うああああ!」

と号泣し始めた。

小泉兵曹や亀井一水たちが何事か、と集まってきた。

麻生分隊士は、何か言いたそうな顔の石場兵曹から箱を奪い取ると、泣きながら白布を取り箱のふたを開けた。

「オトメチ・・・」

分隊士の声が止まった。分隊士は箱の中と石場兵曹を交互に見ている。そしてやっとのことで、「石場兵曹、これは一体・・・?」

とつぶやいた。分隊士が持っている遺骨箱のような箱の中には「壺」が一個鎮座している。わけがわからないと言った顔の分隊士に石場兵曹はいつものように間延びした声で話し出した。

 

・・・行方不明になったオトメチャンを、岩井少尉・増添兵曹・長妻兵曹、そして私で探し始めました。なかなか手がかりがなく困難を極めたのですが、市内のとある大きな家の前に行くと軍艦旗が上がって大騒ぎをしている一団がありました。

何だと思って寄ってゆくとそこはパレンバンでも一番の貿易商の家で、そこにいたものに訊ねるとなんでも戦闘時に迷子になったこの家のお嬢さんが、帝国海軍の兵隊に助けられて帰ってきたからその祝いなんだと。

で、その兵とは一体誰じゃ?と思うて家の中をのぞきこんだら、これがまあ、オトメチャンだったと言うわけです。オトメチャンその家の人たちに歓待されて、件のお嬢さんと一緒に御馳走をくっとりましたなあ・・・

 

「で?この壺との関係は?無事ならどうしてオトメチャンは戻ってこないんじゃ?」

麻生分隊士は、見張兵曹が無事なのを聞いてほっとしながらも不審に思って聞いた。すると石場兵曹は、エヘンと咳払いをしてから「まずオトメチャンはですねえ、そんなことがあった関係で詳細をスマトラ特陸の分遣隊長に報告する義務があって、それで帰りが遅れているわけです。明日の最終便で戻りますよ。ご心配なく。

で、壺はですねえ、その助けたお嬢さんの親御さんが大感激なすってオトメチャンへの記念品と言うことで贈られた、骨董品の『ルソン壺』だそうであります」

と説明した。

はあー、と麻生分隊士は壺の入った箱を抱えてため息をついた。石場兵曹はそんな麻生分隊士に力つけるように、「オトメチャン、大活躍だったようですよ。そのお嬢さんと仔犬をしっかり紐で自分に縛りつけて守って、散発的に現れる敵を倒して送り届けたって言うんですからねえ。これで帝国海軍の評判もまた上がりますね、請け合いですよ」と言った。

 

その通りこの話は人づてに伝わり、「さすが皇軍」「さすが帝国海軍!」と人々を感動の渦に巻き込んだとか・・・。

 

翌日待ちに待った見張兵曹を載せた輸送船が帰ってきた。輸送船の見張り台に陣取るオトメチャンに大きく手を振る麻生分隊士他の十三分隊の面々。手を振り返す見張兵曹。

 

もちろんその晩、麻生分隊士に愛の嵐に揉まれたオトメチャンであった。当然のごとく。

スマトラ特陸の隊員たちも元の通りの配置に帰り、陸軍さんたちはパレンバン油田の警備やそのほか地域の警備に戻り、「猛象部隊」は象たちに休息を与えてから輸送船でビルマ方面に戻る予定である。

「女だらけの陸海軍」のスマトラ作戦はこうして終了を迎えたのだった。

              ・・・・・・・・・・

<今回のお話で出てきた乗り物をご紹介します>画像はwikiさんから拝借したしましたことをお断りいたしておきます。



第151号輸送艦
このお話に出てきた「二等輸送艦」の画像です。右側が「門扉」となっていて兵員や兵器を出せます。米軍の上陸用舟艇みたいですね。
第151号輸送艦 (wikiよりお借りしました)


特二式内火艇のカラー側面図
(wikiより)
キャタピラ部分にフロートをつければ、海上をも行けるすぐれもの。



Vickers Crossley Armored Car model1925 IJN.jpg (wikiより)
日本海軍が使用中のクロスレイM25装甲車。

イギリスビッカース社製の装甲車。日本海軍が輸入し、特に上海事変で大活躍しました。


関連記事
帝国陸海軍 | コメント:4 | トラックバック:0 |

「女だらけの戦艦大和」・スマトラ戦記6

オランダ軍はとうとう、正面と背後からの日本軍の攻撃を受けて降伏をしたのだった――

 

白旗を上げて日本陸軍の第634部隊に投降した敵の将軍チェルシー・アナタニモは他の参謀たちと一緒に街中を引き立てられてゆく。そのオランダ軍が軍政を敷いていた時さんざひどい目にあわされていたスマトラの現地民は、敵将たちにあからさまにあざけりの表情を見せた。

そのさい、ちょっと残念そうな顔を部隊長の初音ミコ中将を見て、作戦参謀は「どうなさったんです?部隊長殿、大戦果ですよ。パレンバンは守られましたし海軍とも仲良くなれたじゃないですか?」と問いかけると初音中将はハスキーな声で、

「それはすごくいいことなんだけど・・・敵があっという間に降伏しちゃったのがちょっとね。ほら、あたし山下中将みたく『イエスかノーか!?』ってやりたかったんだよね~」

と悔しげである。

作戦参謀は、思わず明るい笑い声をあげていた。そして「そうですね、それなら自分もその場に居たかったものですよ」と言って二人は笑いあったのだった。

敵の将軍が投降し戦闘が終了した安堵と喜びは海軍とて同じである。

岩井特務少尉はクロスレイから降りてきて「スマトラ特陸」の隊員や「大和」の隊員を見回した。

そして、「・・・終わったようですね」といつもの静かな口調で言った。その時、市内方向から特二式内火艇やクロスレイの大群が軍艦旗を高々と掲げて戻ってくるのが見えた。その周りを跳ねまわる陸戦隊員たち。大勢の現地の人たちもそれを取り巻いて大歓声を上げている。

その大群を走って迎えて岩井少尉たちの部隊も大騒ぎになった。軍・民が入り乱れて歓喜に沸く。

ふと、石場兵曹が「あれ。オトメチャンは?」と見回す。長妻兵曹が「オトメチャン、オトメチャーン!」と探し回る。

そこに増添兵曹が陸戦隊員たちをかき分けて進み出て、

「おい、オトメチャンは行方不明だ。市内の戦闘の時急に飛び出して行ってそれっきりだ・・・」

と衝撃的なことを話した。長妻兵曹が、「なんだって!どういうことだ」と増添兵曹に近寄って掴みかからんばかり。

石場兵曹は「ちょと待て、長妻さん。・・・増添さん詳しく話して」と長妻兵曹を押しとどめて言う。そんな三人を不審に思ったのか、岩井特務少尉が近寄ってきた。

増添兵曹は、うつむきながらあの時のことを話し始めた。

 

「・・・そうか。もしかしたらどこかで動けなくなっているかもしれないね。あるいは、もしも、もしもだが戦死しているなら亡骸は『大和』に収容しなければいけない。――石場兵曹、長妻兵曹、増添兵曹。今から見張兵曹捜索に行く!」

岩井特務少尉はそう言って、見つかるまでの指揮を松本兵曹長に任せることとした。松本兵曹長は心配そうではあったが大任を任され、少し顔を紅潮させて「わかりました。お戻りになられるまでしっかり務めさせていただきます。少尉、見張兵曹を見つけてください」と言った。

「うん。ではよろしく」

岩井少尉たちはスマトラ特陸に乗用車を借りて市内に向かう――

 

――あの時見張兵曹は、怯えきっている子供と仔犬を見捨ててはおけないと、我が身を省みず敵弾飛び来る中に身を投じたのだった。

壊れた建物のそばにうずくまるようにして泣いている女の子と仔犬のもとに、兵曹は身を投げるようにして進んだ。

驚いたように涙にぬれた顔をあげて逃げようとする女の子に、兵曹は「大丈夫、敵じゃないから」と言いハッと気がついて馬面を取った。(これかぶってたら怖がらせるようなもんだもんなあ)と思って。

馬面を取ると、子供は安心したような顔になって兵曹のそばに寄ってきた。兵曹はあたりに注意しながら「お母さんかお父さんは?ひとりでここにいたの?」と聞く。

女の子は意外にしっかりした日本語で「走って来る時、わからなくなっちゃった」と言いまた泣き始める。

ドカン!と近くで砲撃音がし、兵曹は女の子に覆いかぶさった。タタタ・・・と機関銃の音が走り二人はしばらくそのままで伏せる。

やがてその音も遠ざかり二人は体を起こした。土ぼこりにまみれた顔を見合わせて二人は初めて笑いあった。

「私は帝国海軍二等兵曹、見張トメ。あなたは?」

そう見張兵曹が問うと、女の子は「マリー。はじめまして」と言って頭を下げた。見張兵曹も、はじめましてと言って頭を下げながら、この子はしつけの良い子だ、きっとそれなりのうちの子供なんだろうと思った。

兵曹はあたりを見回して「では私はあなたを親御さんのところへ連れてゆきましょう。あなたのお家はどのあたりです?」と聞いた。マリーは、市の中心部のあたりを指さして「あのへん」と言った。

兵曹は「私はこのあたりのこと、詳しくないからマリー、あなた教えてね」と言うとマリーに馬面をかぶせた。

万一敵の弾が飛んで来た時のことを思ってである。マリーは「重い・・・」と言って笑う、そのマリーに、「ちょっとだけの辛抱ね。危ないから」と言って防毒マスクの入っている袋から長い紐を取りだし、マリーを胸に抱くとその紐でしっかりマリーを縛りつけた。

足元で仔犬が置いてゆかれるのではないか、という顔でキャンキャン鳴いてまとわりつく。心配げに兵曹の顔を見たマリーに「置いてゆくわけないから大丈夫」とほほ笑みかけて兵曹は仔犬を抱き上げ、「マリー、抱いていられるね?」と子供の瞳を覗き込んだ。

マリーはしっかりとうなずいて、兵曹は仔犬をマリーに抱かせると銃剣を握り直しあたりを見回してからやおら走り出した。

時々、散発的に銃声がする。しかし兵曹は子供たちをしっかり抱きしめてマリーの家を目指したのだった。

 

岩井特務少尉たちの乗った乗用車は、パレンバン市内に入っていたが、いかんせん手がかりがない。

「増添、何か貴様おぼえとらんのか?オトメチャンが走ってゆく時なんぞなかったんか?」

珍しくイラついた声で石場兵曹が言う。「しっかり見とかんからこげえなことに・・・」

ブツブツ言う石場兵曹に、少尉がまあまあと口をはさんだ。

その時増添兵曹があっ、と声を上げた。なんじゃ、びっくりさせよってと言う長妻兵曹。増添兵曹は他の三人に「オトメチャンが走り出す直前に、子供の声がしたんです。小さな、そう、女の子のようでした。それを聞くなりオトメチャンは走り出して埃の中に見えなくなっちゃたんです」と話し出した。 

「子供、かあ。あまりええ手がかりとも思えんが・・・まあええわ。岩井少尉、ここで車を降りて歩いて探したほうがよくないですか?」と長妻兵曹が言い、石場兵曹も賛成した。

岩井しん少尉は、うんとうなずき四人は乗用車を降りて街中を歩いて探索することになった。

 

その頃、「女だらけの大和」では。

何故だか松岡中尉が途方もなく元気がない。麻生分隊士が気遣って「分隊長、どうなさいました?お体の具合でもお悪いですか?」と尋ねると松岡分隊長は、全く元気のなくなった顔をあげて麻生分隊士に言った。

「ねえ分隊士。どうして梨賀艦長は私を陸戦隊員に選んでくださらなかったのだろうか?せっかく熱くなれるいい機会だったと言うのに。私のどこが至らなかったんだろうか・・・」

麻生分隊士はこれを聞いて拍子抜けした気分になった。分隊士は、「あのですねえ、分隊長。あなたはここで必要な方ですから艦長は選ばれんかったと思いますよ?貴女は『分隊長』なんですけえ」と言ってやった。

すると、今までげんなりしていた分隊長の顔に、ぱっと赤味がさした。

そしてガシッとばかりに麻生分隊士の両手を取って、「そうかそうなんだね!分隊士気づかせてくれてありがとう!・・・そうかあ~、俺はここで熱くなるんだった。他に目が向いて仕舞っちゃいけないと言うのに・・・俺はバカだった。さあ!麻生さん、陸戦に行ったみんなが帰ってくるまで、いや帰ってきたらもっともっと、熱くなるぞお!!」と叫んだのだった。

麻生分隊士はただでさえ暑いスマトラの気温がこれ以上熱くなってはたまらんのう、と思いつつも愛想笑いでその場を濁したのだった。

(しかし・・・オトメチャンは無事なんだろうか)

「大和」には、見張兵曹行方不明の報は、まだ入っていなかった――

   (次回に続きます)


にほんブログ村 小説ブログ 百合小説へ
にほんブログ村
関連記事
帝国陸海軍 | コメント:4 | トラックバック:0 |
| ホーム |次のページ>>