2011年06月|女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

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「女だらけの戦艦大和」・スマトラ戦記3

2011.06.27(22:39) 342

南雲機動部隊の攻撃隊第一陣が出撃したその頃、セレベス島マカッサルの海軍航空部隊基地からも零戦の大部隊が出撃を始めていた――

 

敵の混成艦隊は小スンダ諸島の島伝いに進んできたがそれをいち早く見つけたのがマカッサルの基地の電探だった。

その知らせはあっという間に暗号化され、南雲機動部隊の各空母に発信された。そこで空母からの攻撃隊と、マカッサルからの攻撃隊で敵艦隊を挟み撃ちにしてやろうと言う作戦が整っていた。

敵艦隊は狭い小スンダ諸島の島の間を通って「やった。これでスマトラ島を奪取できる!」と喜んではいたが彼女らは前と後ろから襲いかかってきた日本海軍の航空部隊の敵ではなかった。

敵艦隊の艦影を上空から認めた「赤城」の淵田美津子中佐は機上で小躍りせんばかりに喜んだ、そして「敵さんよ、こんなところまで御苦労さんでした。ゆっくりこの美しい海で心行くまで泳いでくださいなあ」と言うなり、九七艦攻隊を敵艦隊に向けて急降下させて行った――

 

敵艦隊は上空に雲霞のごとく現れ出でた日本の航空機の大群に肝をつぶしていた。

「なにあれ!聞いてないって!面舵いっぱい、面舵いっぱい!」

アメリカの軍艦の艦長はもう泡を食っているし、オーストラリア海軍の艦長は見事な編隊を組んで飛んでくる日本軍機に、もう見とれてしまっている。それでも反撃開始するABDA艦隊。

艦攻・艦爆や零戦が爆弾を投下し、至近弾を食らって傾く敵艦艇。大火災を起こして乗員たちが海へと飛び込んで行く。

「・・・今に見てなさい、ジャップ女。今に吠えづらかくことになるからね!」オランダ海軍の士官は沈みゆく艦から大急ぎで離れながら毒付いた。

 

「吠えづらかく」とは・・・?

実はこれも日本軍はとっくに計算のうちに入れていたのだが、ジャワ島にいくらか駐留していたオランダ軍が、隠密行動と称してスマトラ島に肉薄しつつあった。その兵力約五千。数万の日本軍相手ではまあ勝ち目はないのだが「もしかしたら」の思いで進撃して来ている。

海の敵をせん滅した「飛龍」航空隊の偵察機が、このオランダ軍の進撃を見つけた。そして打電。オランダ軍の行動がすっかり日本側にまるわかりとなった。

吠えづらかくのはオランダ軍の方になりそうなのだが、あの士官は知る由もなかったわけである。

 

「大和」はその巨体を一時的に持て余してしまった格好になった。

しかし、突然の命令が「大和」に下った。それは南雲部隊からのもので「『大和』から乗組員三百名ほど陸戦隊員としてスマトラに上陸させて第九百根拠地隊と合流し、さらに陸軍と共同して当たってほしいという物であった。

さすがに驚く梨賀艦長・・・と思いきや、艦長は「やった!これでなお一層「大和」のすごさが内外に轟くわあ!」と嬉しそうである。

副長は少し不安げに「でも艦長。我らには陸戦隊としてのスキルはないのでは?」と言ったが艦長は「大丈夫、やればできるよ。で、さっそく人選だ」といそいそと艦長室に走り去ってゆく。そのあとを「待って艦長・・」と副長が追いかける。

 

こういう話はなぜかどうしてか、どこからかまるで腐臭のごとく漏れだす。艦長が人選だ、と走り出して三十分後にはほとんどの乗組員が知っている。

ある兵隊は機銃座で空をにらみながら「え?陸戦隊になれって?無茶言ってんじゃないよ。今まで陸で戦ったことなんざねえし!海兵団での訓練しか経験ないったら!」と怒るし、副砲の測的員は「へえ~。やったことないからなあ。でもちょっとだけしてみたいかも」と笑っている。

そんな配置員を見ながら各分隊の分隊長や分隊士は「まったくもう!余計なこと考えなくっていいからしっかり見張ってて!まだ戦いは終わったわけじゃないんだから!」と怒り狂いながら走り回る。

確かにまだ戦いは終わってはいない。敵艦隊はせん滅したとはいえ、この大小の島だらけの場所では航空機の目に着かない場所で隠れている艦艇があってもおかしくはないのだ。

それがわかり過ぎるほどわかっている防空指揮所の面々は、戦闘配食の握り飯も口にしないで双眼鏡から目を話さない。

麻生分隊士も指揮所を行ったり来たりしながら首から下げた双眼鏡を離さない。そして松岡分隊長は、と言えばまたもや艦橋トップのさらにトップに「あぶないからやめてくださいッ!」と分隊士に叱られながらも登って、そこでラケットを構えつつ肉眼であたりを睥睨している。

ABCD艦隊、さあ来い!俺が戦争の仕方を教えてやるッ、いいか戦争という物はだな・・」と大声で叫んで分隊士に「松岡分隊長、『ABDA』艦隊ですよッ。物事は正しく願います!」とまた叱られている。しかし松岡分隊長はそんなことに頓着しないのかそれとも聞いていないのか、ずっとそれからも「ABCD艦隊」と言い続けている。

と、十二時の方向九百キロほど離れたあたりで数条の黒煙が上がるのを見張兵曹の双眼鏡が見つけ報告。その黒煙は、ABDA艦隊の生き残りの巡洋艦と駆逐艦が島影から出てきたところを、そのあたりの海域に展開中の呂号潜水艦が撃沈したものとわかった。

「気を抜くな、空だけでなく海もよう見張れ!」

麻生分隊士は檄を飛ばした。見張り員たちはそれぞれの分担を目を皿のようにして見張り続ける。伝令はテレトークを握りしめ耳に全神経を集中する。

 

そんな頃、『二等輸送艦』数百隻から次々と吐き出されていった「特二式内火艇」はスマトラ島北部・東部の海岸線を中心に布陣を終えていた。

最高指揮官の秋田小町大尉は「ああもう早くこれで敵のやつらを蹴散らしたいわあ!・・・それはそうと市街地や製油所周辺にはクロスレイは来てるのかねえ」とつぶやいた。それを聞きつけて操縦手の兵曹が「来てるようですよ、クロスレイ。わが海軍陸戦隊の花形装甲車ですもん。・・・あ、陸さんは『チハ』をたくさん投入してきたみたいですよ。あとなんだか秘密兵器があるとか聞きましたよ?」と大尉に答える。秋田大尉はその美しい顔を兵曹に向けて「・・・秘密兵器?」と怪訝な表情。兵曹は「はい、そうききましたが」と言う。

秋田大尉はニヤつきながら「まあなんでもいいわ。早く暴れまわりたいから」と言って陸戦服のポケットから飴玉の袋を出してその中の一つを兵曹に渡して、自分も口に飴を一個放り込んだ。

 

 

そしてやっと敵艦隊に関しては一安心となったその日の晩に、各分隊長を通じて集められた乗組員その数総勢三百人が最上甲板にいる。

皆なんだかとても不安げな顔で互いを見合っている。

その時やおら、艦長が現れて皆は敬礼。返礼した艦長は次の瞬間衝撃的な言葉を吐いたのだった――

    (次回に続きます)


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「女だらけの戦艦大和」・スマトラ戦記2

2011.06.24(22:12) 341

「女だらけの戦艦大和」は随伴の駆逐艦とともに東シナ海を突き進む――

 

沖縄で台風に遭遇し、二日ほど逗留したもののその後は最大戦速でひた走った『大和』である。随伴の駆逐艦が追いつけないほどの速力に、「駆逐艦無花果」の菅直子艦長は、「野郎、てめえこちとらの速力考えながら走りやがれ、畜生!」と口汚く罵ったという。

ともあれ。

台湾・高雄において陸軍の一個師団を乗せて南雲機動部隊と合流を果たした「大和」以下の艦艇である。その後大部隊の行動としては、南シナ海に入り一路シンガポールを目指す。

シンガポールで陸海軍の将兵総勢十万人を伴ってリンガ諸島に沿って南進し、スマトラ島パレンバンに上陸し、守備を固めると言う作戦である。

もともとパレンバンに駐在の陸海軍将兵は壱万五千ほどいるが、どうやら最近ABDA艦隊(注1)が頻繁にスマトラ島周辺に出没するようになり、「ここは叩かんといかん!」と言うことになったのだ。

連合国軍にすればこのあたりの油田はどうしても渡したくはない。豊富な原油の産出量を誇る油田地帯であるからだ。

だからと言ってはいそうですかではどうぞ、とあっさり渡す日本ではない。日本の明日、帝国の繁栄のためここはどうしたって譲れるものではない。気合いが入る守備作戦となる。

 

某日。

リンガ諸島、バンカ島から海軍の『二等輸送艦』が海を真っ黒にするくらい大挙して出てきた。それらには「特二式内火艇」が積み込まれており中には数名の陸戦要員が乗っている。その中の一人は「ああ、腕が鳴るう!早くスマトラ島に上がって撃ちまくりたいわあ!」と言っては仲間と笑いあう余裕である。

そして「女だらけの大和」は・・・

高雄で乗せた陸軍部隊をシンガポールでおろした後、サルマタ海峡ビリケン島に停泊。ここで敵の艦隊の出方を見つつ進撃をせよと言う話である。

「まあ、ここにいてやつらの出鼻をくじいてやりゃあいいじゃん?どうってこたあねえだろうよ。スマトラには指一本触れさせねえよ」と麻生分隊士は言ったが。

松岡分隊長はそれを聞くと「いいかい麻生さん。物事には慎重さ、という物も大事なんだからね。自分たちの持てる能力をフルに活用して慎重にせねばいけないよ。一件堅固に見える家だって、小さなひびから崩れることもあるってことを忘れちゃいけない。いいね麻生さん」と、例のラケットを肩に担いで分隊士をいさめた。

分隊士はハッとした。そして「すみません分隊長。・・・私はちょっとどうかしていました。今回は今までとは作戦の内容が違うと言うこと、失念していました。ご指摘ありがとうございます」と頭を下げた。

松岡分隊長はそれを聞くと笑って「安心しましたよ麻生さ~ン。あなたがしっかりしてくんなきゃ防空()指揮所()はうまく機能しないんですよ。機能しないってことは『大和』が機能しないと言うことですからね。・・・わかってくれたんならもういいですよ。さあ、熱くなろうぜ!」と言って指揮所の後ろに歩いて行った。

そんな二人の姿を、見張兵曹がじっと見つめていた。

 

翌日、『大和』の電探が敵の艦隊らしきものをとらえた。

ABDA艦隊は、日本軍がスマトラに集合しているのを遅まきながら察知し、オーストラリア北部の基地から前進して来た。そしてバンダ海を西進、ジャワ海に迫ってきていた。

「大和」はビリケン島に隠れるような格好で「そのとき」を待つ。

今やスマトラ島には数万の陸海軍兵士が上陸し油田地帯を固めている。海軍陸戦隊の彼女たちも陸軍嬢たちと共同作戦を取っている。

「敵は航空機を持って油田地帯を攻撃し、そのあと軍艦で砲撃してくるつもりだろう。こちらとしてはまず、航空機を以て敵航空部隊をせん滅し、そのあと『大和』他の艦で艦隊決戦に持ち込む」

南雲司令長官はそう言って各空母の攻撃隊に攻撃準備命令を出した。

「飛龍」艦橋でも、すっかりスリムになった山口司令官がその命令を受け取って攻撃隊にいつでも発艦出来るよう命を下した。

既に飛行服に身を固めた搭乗員たちは「来たねえ!さあ、いつでも来いだわ!」と飛行帽の頭をバンバン叩いて気炎を上げる。

中にはもう、「必勝」とか「尽忠報国」の文字も鮮やかな鉢巻きを飛行帽の上から巻きつけている子もいる。

「スマトラ島・パレンバンをとられてなるものか!」

全軍の意地と誇りがスマトラ島に炸裂しようとしていた――

  (次回に続きます)

 

注1)   日本軍の蘭印占領を阻止すべく編成された連合国による急造の混成艦隊のこと。

アメリカ(American・イギリス(British)・オランダDutch)・オーストラリアAustralianによる。


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「女だらけの戦艦大和」・スマトラ戦記1

2011.06.19(00:05) 340

「女だらけの戦艦大和」出航準備にかかっている――

 

「今度はいったいどこなんだろうなあ。まあどこでもいいけどよ、寒いとこじゃなきゃあさ」とは機関科の松本兵曹長の弁。そのそばをスパナを担いで通りすがった浜口大尉が「おう、小耳にはさんだとこじゃなあ、インドネシア方面らしいぞ。なんとか言う油田地帯を敵の野郎がちょっかい掛けてきやがったからそれをひっぱたきに行くんだそうだが」と言って、その場の兵たちは騒然。

「インドネシア?どの辺でしたっけ」

「そこにはうまいものがあるんでしょうか?」

「すてきな男の人はいるのでありますか?」

・・・・

浜口大尉はだんだん額に青筋を立てて、ついに「うるせえ!知るかそんなこと!大体貴様らそれでも栄えある帝国海軍軍人か!?・・・なんだあ、『どこでしたっけ?』『美味い物は?』『素敵な男は?』・・・だとお!俺たちは観光旅行に行くんじゃねえぞ、戦争に行くんだ!しっかりふんどし締め直せ、この野郎!」と怒鳴るなり手にしたスパナを振り回し始めたからこれには皆泡を食って逃げ出した。

ひとり松本兵曹長だけが悠然と床にしゃがみこんで、「大尉。お怒りはごもっともです。しかし…油田地帯と言うともしかして『パレンバン』あたりですかねえ」と大尉を見上げて言った。

大尉はスパナを小脇に収めて「うん、そうかもしれん。あそこは陸さんが取ってくれたがなんだかまた最近不穏な気配がするとか何とか言ってたからね。マレー半島の近くだから俺たちには初めてのところになるかなあ」と言った。

松本兵曹長は立ち上がって「そうですか。いずれにせよ、ふんどしを締めてかからんとなりませんな」と言って浜口大尉と肩を並べて歩き出した。

そこにどこから来たのか、背後から十三分隊の分隊長・松岡中尉が例のラケットを振り振りやってきた。そして大尉と兵曹長の背中を見るなり「熱くなってますかあ!!」と大声で叫んだ。驚いて振り向く二人に松岡中尉はにっこりと笑って、

「さあ。いいですか、『大和』はこれから大事~な作戦に出かけるんですから、みんなうんと熱くならないと勝てませんからね。・・・戦争は勝たなきゃ意味がなーい!さあ、勝つために熱くなりましょう!」

ともっと大声で叫んだ。

浜口大尉が中尉に向き直るともっと大声で「わかっとる!!熱くなるのは機関科の得意技だっ!貴様に言われんでもとっくに熱くなっているッ!では貴様に機関科特製の『気合』を入れてやるからこいっ!」と言って中尉をひっつかむなりその耳元で、

「気合いだ、気合いだ、気合いだー!!」

と怒鳴ったから流石の松岡中尉もたまらない。「ありがと~」と耳を押さえて去って行ったのだった。

 

とまれ、『大和』はその作戦とやらに出るため、呉を出航して行った。

防空指揮所で見張兵曹は遠ざかる呉に向かってそっと頭を下げた。

(おじいちゃん、おばあちゃん。西田さん。トメはまた出かけます。またお会いできる日を楽しみにしています。・・・お元気で)

主砲・副砲がまるで呉に手を振るように上下左右に回って、甲板上の乗組員はちょっとだけ感傷的になる瞬間である。

 

「大和」と駆逐艦・無花果、同・鼻風(!?)は瀬戸内海を西進し、まずは沖縄を目指した。中城湾に仮泊し、そこで機動部隊と合流しいざ目的地に、と言う予定である。

 

その頃、各分隊の分隊長・分隊士が最上甲板に集められ、梨賀艦長の訓示を聞いていた。

「・・・今回我々に課せられた任務は、輸送任務と陸軍の作戦終了後の残敵掃討にある。これから島伝いにフィリッピンまで行きマニラで陸軍兵を乗せて、シンガポールを目指す。そこで彼女たちを陸軍の輸送船に預け我々は陸軍の作戦が終了するまでシンガポールで待機する予定である。

最大の油田のあるパレンバンに侵入せんとする敵を掃討するのが今回の作戦の大筋である」

ほお・・・っ、と皆の口からため息が漏れた。

(また輸送任務か、いやだなあ)と思う心の者もいれば、(敵は今度はアメリカだけじゃなさそうだな)と闘志満々の心の者もいる。

でもどの心も一つになろうとしている。

梨賀艦長は皆を見回すと、「それぞれの配置においてしっかりやってほしい。特に見張りは厳にせよ。そして通信班は、かの地の敵の動向に神経を尖らせよ。・・・解散!」と言い皆はそれぞれその場を離れた。

松岡分隊長と麻生分隊士はさすがに緊張の色が見える。麻生分隊士は、「分隊長。今回は今までとちょっと勝手が違いますから気を引き締めてかかりましょう」と言った。

分隊長はその麻生分隊士の肩をバーン、と叩いて「大丈夫。俺にはこれがあるから。麻生さんこそ気を引き締めてかかんないとダメだよ?特年兵君と昼寝してる暇は、ないからね。で、さっきの艦長の訓示を皆に伝えといてほしいから、よろしく!」と言うと「じゃまた後で」と右手の親指をぐっと立ててさわやかに微笑むといずこかへ駈けて言った。

(特年兵と昼寝してる暇はねえ、だって?フン、余計なお世話よ)

分隊長の後ろ姿を見ながら心で毒付く麻生分隊士である。

が、ハッと我に返って艦長の訓示を皆に伝えねばと急ぎ足で十三分隊の居住区に急ぐのだった。

 

沖縄まではまだ二日ほどかかりそうだ。それでも空の様子は夏を思わせる色になりつつある――

   (次回に続きます)


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「女だらけの戦艦大和」・いとしき人へ贈りたい3<解決編>

2011.06.12(19:55) 339

オトメチャン・麻生少尉ほかの『大和』の上陸員を乗せたランチは上陸場目指して海上を走っている――

 

オトメチャンは大事そうに大きなカバンを抱えている。その中には主計長手ずから渡してくれた食材が入っている。主計長はこれを渡してくれる時、「見張兵曹、いいかい?しっかり恩人に御奉公してきてね」と言ってほほ笑んでくれた。そのそばで福島大尉も嬉しげに笑っていた。

そんな情景を思い出しながら(皆さん本当にありがとう。今日は精いっぱい頑張ります)とオトメチャンは決意を固める。

その背中を麻生分隊士が眩しげに見つめている。

 

やがてランチは上陸場に接舷し、皆はそれぞれ思い思いの方向に散ってゆく。

麻生分隊士は、先に降り立つと見張兵曹の腕を持って下りるのを手伝った。そして衛兵所を通り過ぎた時「オトメチャン、今日はおれの下宿に行くんだ。みんなとそこで落ち合う予定になっているから」と言った。見張兵曹は「わかりました。でもおばさんにはご迷惑じゃないでしょうか・・・大勢で押し掛けて」と少し心配そうな顔を見せた。が、分隊士は笑って「いや大丈夫。なんでもおばさんは火曜日まで孫のとこに行ってるから『家中自由に使うてええよ』と言ってた。だからな、今夜と明日の晩はオトメチャンとおじいさんおばあさんはあの家に泊まるんだよ」と言った。

「三人で!」とオトメチャンの声が嬉しそうに上ずった。ああ、そうだよと分隊士も嬉しそうに答える。西田の妻は家が近いので今夜は自宅に戻ると言う、きっと祖父母孫の三人で水入らずで過ごさせたいのだろう。

麻生分隊士は手配したことがすべて上首尾に運んでいることに満足そうである。

 

楽しいことを考えながら歩くと長い道程もあっという間に着いて仕舞うようだ、分隊士の下宿に着く。分隊士は隣家に預けてあると言う下宿のカギをもらって来た。

玄関を開けて中に入り荷物をまず台所に置いて二人は着替えた。もんぺに着替えてほっとしたような息をついたオトメチャンを、分隊士はいきなり抱きしめた。

「・・・分隊士」といきなりの抱擁に戸惑うオトメチャン。その可愛い唇を奪ってから分隊士は「今夜と明日は会えんからね。今のうちにこうしておきたいんじゃ」と言い激しい口づけ。

たまらなくなったのかオトメチャンをその場に押し倒してしまう。しばらくそんなことをして、まだ興奮冷めやらぬ感じで起き上がった分隊士は、

「ちょっと外を見てくるけん」

と言うと玄関に向かった。少し気恥ずかしいみたいだ。オトメチャンは乱れた着物を直して湯を沸かし始め、持ってきた食材を並べ始める。

幸せな気持ちがふつふつとわき上がってきた。

 

そして。

「おうい。オトメチャン、みなさんがお見えになったよ」

待ちに待った声がかかる。見張兵曹は食材の準備をする手を止め、頭にかぶった手ぬぐいを取ると小走りに玄関に急いだ。

ああ、懐かしい祖父母と西田教官の妻の三人がそこにいる。

「皆さま・・・」

としばし言葉のないオトメチャンである。分隊士が「さ、ここではなんですけん。お入りになってつかあさい」と三人を中にいざなう。

そしてしばし楽しい歓談の時を持った。久々の再会に話も弾んだ。祖父母も元気そうであったし西田さとも元気でオトメチャンはほっとした。祖父はオトメチャンのもんぺ姿に目を細め、

「おう、まったくトヨに生き映しじゃのう」

と見つめている。祖母も愛しい末娘の生前の姿を思い出したか、着物の袖で目頭をぬぐいながら夫の言葉にうなずいている。西田さとは「ほうですねえ。よう似とられますね、トヨさんもトメさんもこう、品があります。きりっとしたところがトヨさんによう似とられますね」と感慨深げである。「トヨさんや洋二郎さんが生きておられたらどんなに喜ばれたか・・・」

 

そしていよいよオトメチャンの腕の見せ所の時が来た。

今日のメニューは「ジャガイモの甘煮(うまに)(いわゆる肉じゃが)」、「ハム寿司」に「鯨カツ」「けんちん汁」、そしてデザートに「ライスプリン」である。

オトメチャンは「私一人で出来ますけん、大丈夫です」と言って奮闘している。その間分隊士は三人に『大和』でのオトメチャンの様子をかいつまんで話した。

「そうですか、トメはしっかり軍務をこなしておるんですね」と祖父が安心したように言って祖母はうなずいた。西田さとが、「トメちゃんはしっかり者じゃけえ、『大和』でも大事にされて。きっとなくてはならん存在でしょうなあ」とほほ笑む。

分隊士は力強くうなずいて「そうです。見張兵曹は『大和』に欠くことのできん存在であります」と言った。(そして・・・俺にとっても)と心のうちで言う。これはちょっと口に出すのが恥ずかしくて出来ないが。

「いずれ、」と麻生分隊士は座りなおしながら言った、「いずれ我々がアメリカに日章旗を立てたその暁には皆さまをアメリカにご招待いたしますけえ、待っとってくださいね」。

「おお、その日を首を長うしてまっとりますけえね。こりゃあ楽しみじゃなあ」と祖父が楽しげに笑った。皆も笑う。

 

そして。

「お食事が出来ました」とオトメチャンのひそやかな声がして彼女が食事を運んできた。麻生分隊士が「あ、手伝おう」と運び入れるのを手伝う。

大きな座卓に並んだ手料理に皆は「ほお、これは・・」と歓声を上げた。オトメチャンははにかみながら「よう出来たかどうか、ちいと自信がないんですが」と言いながらハム寿司を茶碗によそってゆく。西田も祖父母も「いやあ、これはすごい」と見入っている。

「さあ、どうぞ」

皆は箸を取った。けんちん汁をすすった四人が「うまい・・!」と唸る。甘煮、ハム寿司、鯨カツを皆は黙々と食べる。

ふっと麻生分隊士が「美味い物を食べて居ると、無口になりますなあ」と言って皆が笑った。見張兵曹はそんな皆を幸せそうな笑顔で見まわしている。

そして食後のデザートの『ライスプリン』も大好評を博した。

プリンを口に運びながら祖母は「ああ、もったいないねえ。孫にこげえにええもんを食べさせてもろうて。もういつ死んでもええ」と泣いた。

その祖母にオトメチャンは「死んでしまわれたら困ります。もっともっとたくさん作りますけえ、長生きしてくださいね、おじいちゃんおばあちゃん。西田さん、教官が横須賀からお戻りになられたら今度はご一緒に」と言った。

祖母はうなずいて、西田さとも「そうじゃねえ、夫がこれをいただいたら嬉し泣きしますよ。その日が楽しみじゃ」と言って祖父母と顔を見合わせてほほ笑む。

和やかな時間がゆっくりと過ぎて行く。

 

・・・楽しい時間はあっという間に去って、今朝はもう『大和』に帰艦の月曜日である。

下宿の玄関に、見張兵曹は立って祖父母と西田さとの見送りを受けている。見張兵曹は、もうすっかり海軍軍人の顔に戻って「では西田様。こちらの鍵をお願いいたします」と下宿のカギをさとに預けた。まだ朝早いので隣家には後から西田が届けてくれる算段になっている。

「わかりました。御心配なく」とさとはうなずいて、祖父母は兵曹の手を取って言葉が出ない。

そんな祖父母に笑いかけて兵曹は、

「いろいろありがとうございました。楽しい時間が過ごせて何よりの思い出です。・・・また帰ってきたらお会いしましょう。その日までお元気でお過ごしください」

と言うと、サッと敬礼した。三人はその兵曹に頭を下げた。

三人が顔を上げると兵曹は敬礼の手をおろしにっこり笑うと踵を返した。数メートル歩いたところで祖母の「トメチャン!」と言う叫びにも似た声が響き、一瞬兵曹の歩みが止まった。が、兵曹は(ここで振り向いたら泣いてしまう)と、あえて振り向かずそのまま歩み去った。

最初の角を曲がった時・・・兵曹の目から大粒の涙が紺の軍装の胸にこぼれおちた。兵曹は涙を、そして断ち切れぬ思いを振り切るように走りだした――。

 

『大和』に帰艦した見張兵曹は石多主計長と福島大尉を訪ねて丁重に礼を述べた。

「そう、そんなに喜んでもらえてそれはよかったね。いい孝行が出来たね」と主計長はわがことのように喜んでくれた。福島大尉もいつものように微笑んでいる。

十三分隊に戻ると麻生分隊士はオトメチャンの帰りを両手を広げて迎えた。そしてその耳元でこう囁いたのだった。

「よかったな。・・・これで心おきなく次の作戦に出られるな」

 

――そう、『大和』には次なる大きな作戦が待っているのだった。

出港は後一週間後に迫っている。

その緊張の中、見張兵曹は防空指揮所に立ち、呉の町に向かって祖父母と西田にしばしの別れを告げたのだった。

「次に会うときは、もっともっとおいしいものをごちそういたします、お元気で!!」


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女だらけの戦艦大和・総員配置良し!


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「女だらけの戦艦大和」・いとしき人へ贈りたい2

2011.06.09(21:06) 338

「女だらけの戦艦大和」もそろそろ呉を出航する日が近づいている――

 

麻生分隊士はあの上陸の日の翌日、艦に戻るなりその足で福島大尉を訪ねた。主計科の部屋に勢い込んで訪ねてきた麻生分隊士にちょっと驚いた福島大尉ではあったがいつものにこやかな笑みを忘れずに、

「どうしたんです?麻生少尉」

と言って書類から手を離した。麻生分隊士は「お仕事中に大変申し訳ないのでありますが・・・」と恐縮しながら昨日の下宿での話をした。

「・・・まあ、そうだったの。そんなことが・・・」

福島大尉は深いため息をついた。見張兵曹・オトメチャンはなんでこうも人のことを優先して考えるのだろう、と、麻生分隊士と同じ感想を持った。

「でありますから」と麻生分隊士は話を続けた。「オトメチャンに祖父母孝行、恩人孝行をさせてやりたいんです」

福島大尉は「わかりました。オトメチャンが作って御身内の皆さん方にふるまえるような料理などを教えてあげたらよいのね。・・・で、その日はいつにするんです?」と麻生分隊士を見つめた。

分隊士はちょっと声をひそめた、そして「小耳にはさんだんですが・・・『大和』はまた大がかりな作戦に打って出るそうじゃないですか。とするとここを離れるのももう間近ですね。ですから、今週末にでも出来たらと思いまして。ええ、先方には連絡はすぐつきます」と言った。福島大尉は「もう聞いたんですね少尉も。私たちもちょっとだけしか聞いてはいませんが、大きな作戦に出るようなんですよ。で、呉出港は二週間あとだそうです。今週中はいい選択です。となれば善は急げと言いますから、今度の土曜日にでもそれを実行しないともう出来ませんね。私から主計長に申し上げておきます、ですからあなたは航海長に申し上げて今度の土曜日、必ず上陸できるよう計らってもらってね。

そして先方さんに連絡つけてください。それだけして下さったら後は私たちの出番ですから!」と言って分隊士の肩をトントンと叩いて笑った。

分隊士は少し涙ぐんで「ありがとうございます、福島大尉」と言って大尉の両手を握った。その手を握り返して大尉は「では早く航海長に。そして先方、そしてオトメチャンにもこのことを、ね」と言い、分隊士は力強くうなずいてそこを辞した。

そしてその足で片山航海長を訪ねて、福島大尉に話したのと同じことをここでも話した。航海長はいたく感激して、

「よくわかりました、麻生少尉。では見張兵曹には今週の土曜、日曜の特別休暇を認めます。月曜日の朝、○六○○までに上陸場に来るよう言いなさい。・・・しっかり孝行してくるように、航海長命令だと伝えるように」

と言ってくれた。そして少し小さな声で「分隊士も聞いているかもしれないが、『大和』はまた大きな作戦に出るらしいから・・・しっかり別れをさせてやりなさい」と言った。分隊士はキッと身が引き締まるのを感じながらも「わかりました、どうもありがとうございます。では私もオトメチャンと一緒に――」と言ったがそれを航海長は遮った。

「分隊士は土曜のうちに帰艦してほしい。オトメチャンには水入らずで過ごしてほしいからな。それに分隊士は、松岡分隊長と一緒にしてほしいことがあるしぃ」

そう言われてがっくりくる分隊士。だがこうしてはおれん、オトメチャンにこのことを話さねば。

さっそくオトメチャンのもとに。

 

その話を切りだされて、オトメチャンは思いがけない喜びに頬を紅潮させて喜んだ。が、次の瞬間ちょっとだけ顔を曇らせて

「あの分隊士。でも私だけこんなにいい目にあっては他のみんなに申し訳ないです」

と言った。その謙虚さに分隊士はまたそそられて「いいんだ、オトメチャン。今回のことは航海長も、主計長も御了解いただいたことだ。気兼ねしないで行くんだ。・・・いいね?」とその肩を抱いた。

オトメチャンはとても幸せな気分になって思わず分隊士の胸に顔をうずめたのだった。

 

その翌日から巡検後の時間に福島大尉がオトメチャンをそっと烹炊所に呼びに来ては「オトメチャンの恩人」たちが喜びそうな料理を教えた。

オトメチャンは一つ一つ、きちんとメモを取ってしっかり覚えた。

福島大尉は「これなら大丈夫、おじいさんもおばあさんも教官の奥様も絶対喜んでくれます。なんと言っても可愛いあなたの手料理ですもの。・・・頑張るんですよ」とまるで母親のように励ましてくれた。

それに嬉しそうにうなずくオトメチャン。その様子を物陰から見つめる石多主計長、(なんていい子なんだろう。これは麻生分隊士や艦長・副長たちが夢中になっても仕方ないね)と思う。

土曜日までの間、見張兵曹はもちろん上陸はせずしっかり勤務をこなし、時によっては同僚の夜勤を代わってやっている。

(だって。私一人いい思いをしては申し訳ないもの)

オトメチャンは皆に会える、そして料理を作れる幸せで疲れすら感じてはいないようだ。

その様子を麻生分隊士は見ていたが金曜の晩「オトメチャン疲れていないか?いくらなんでも無理しすぎじゃあないか?」と心配した。

が、オトメチャンは笑って「大丈夫です。だって明日から上陸ですもの。・・・分隊士、留守中よろしくお願いいたします」と言うとしっかり敬礼をした。

分隊士もしっかり返礼した。その時小泉兵曹が上がってきて「見張兵曹、交代だよ。さ、しっかり今夜は寝とかんと明日眠うて困るぞ。はよう眠らんか」と笑ってオトメチャンの肩を叩いた。

小泉も、ほかの分隊員ももうこの話を知っているようだ。

「さあ。行こう」

麻生分隊士がオトメチャンの背中を押した、オトメチャンは小泉に一礼すると、そして分隊士にしたがって居住区に降りて行ったのだった。

 

そして翌日。

梅雨も間近ではあるがよい天気になった。見張兵曹は麻生分隊士と一緒に、上陸員整列を終え「待ち受け一番」をもらいそしてランチの上の人となった。

ランチが波を蹴立てて上陸場に向かって走る。

(おじいちゃん。おばあちゃん。西田さん。待っててくださいね、今日は私がみなさんをおもてなしいたします。そして少し、ほんの少しではございますが恩返しを致します)

見張兵曹は呉の街並みを見つめて心を躍らせている――

  (次回に続きます)


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