「女だらけの戦艦大和」・山口少将の大作戦3<解決編>

山口たも少将は、連日過酷なダイエットに励んでいる――

 

ダイエット作戦開始から、はや、四か月が過ぎた。もうすっかりスマートになって以前のたも少将とは違う。「飛龍」に久しぶりに行った時、加来艦長が遠くからこちらを矯めつ眇めつしているのに気がついた。たも少将は内心(やった。流石のとめさんもわからんようだ!)とうれしくってたまらない。

やっと、至近距離まで近づいた時加来艦長はあっと声を上げた。そして敬礼した。山口少将が返礼すると、加来艦長は「いやあ・・・驚きました。司令官とてもおきれいになられてしまって。私はしばしわからなかったですよ」と感に堪えたように言った。

山口少将は嬉しさを隠せないが、表情は必死に引き締めて「そうかな?そんなに変ったかな・・・でもそう言ってくれると嬉しいですよ、加来さん」と厳かに言った。

でも、と加来艦長は口には出さないが心のうちで思った、(ずいぶん短期間でお痩せになった気がしてるが、司令官は体調は大丈夫なんだろうか)。

だが山口司令官は身のこなしも軽やかにラッタルを上り下りしている。

艦爆の搭乗員たちがその姿を見て「ねえ、あれ山口司令官じゃん?ずいぶんスマートになっちゃったんじゃない?鬼の『多聞丸』、自分にも鬼になったんだねえ、さすが!」と感動している。

実は山口司令官は訓練の厳しさでは二航戦では右に出る物はないと言うくらいである。搭乗員や「飛龍」乗組員は司令官のことをその名前の「たも」から「人殺し多聞丸」と陰で呼んでいた。そのくらい激烈な訓練を課すので有名である。彼らはそのうっ憤を横須賀の町の料理屋の女将さんで晴らしていた――と言うのもそのおかみさんはたもさんにそっくりであったから――。当の女将さんは笑いながら「ハイハイ」と言いながら彼女たちの注文品に一品多く添えてくれるのがいつもの光景であった。

「まあ、さ。人に厳しいなら自分にも厳しくなきゃ、嘘ってもんじゃない?」

と皆は言ったがしかし、(あの巨体がよくあそこまで痩せたもんだよ)と改めて見直している。

 

そんなある日、山口司令官は身体にちょっとした不具合を感じていた。

ラッタルを上がる足が異常に重い。なんだかとてもだるい。

(いったい何でだろう。こんなに体は痩せて軽いっていうのに)

司令官は不審に思ったが、でもきっとそのうち治る。今はやせ始めたばっかりだから体が慣れていないんだろうとあまり気にもとめなかったが。

そのうち、だるさが全身に広がりだした。

立っていることすらつらくなってきた。「飛龍」の洋上訓練で相模湾に出た際、いつもなら艦橋で立って航空機の発艦を見ているのだが今回は小さないすを持ちこんでそれに座っている。心なしか顔色が良くない。

加来艦長が「山口司令官、お気に障ったらごめんなさい。はっきり申し上げますがお顔の色が優れません。ちょっとお休みになられたらいかがでしょうか」と進言したが司令官は「いや!そんなことないから大丈夫。とめさん見間違いだよ。でも気にしてくれてありがとう」と言って顔をそむける。

加来艦長は複雑な顔で司令官の横顔を見つめている。

 

そしてその日は来た。

いつものように洋上訓練の最中、編隊を組んで「飛龍」の上を飛んでゆく艦爆を見上げた司令官が突然その場に昏倒してしまったのだ!

さあ艦橋は上を下への大騒ぎになった。医務室に運びこまれた山口司令官を見て軍医長は「ずいぶんお痩せになりましたが、この顔色は尋常じゃないです。ちょっと血液検査いたします」と言って山口司令官は嫌いな「注射」をされることに。

その後司令官は艦内医務室ベッドで、検査結果が出るまで「絶対安静」の羽目に。しかしここでも出された患者食を残し軍医長から「召し上がってくれなきゃ、ダメっ!」としかられた。

 

血液検査の結果が出た。

しかつめらしい顔をした軍医長の前にまるで罪人のようにうなだれて座る山口司令官。(今まで風邪ひとつひいたことがなかったのに。しかも健康的な体になったと言うのにどうして)と納得いかない。

その司令官に軍医長は厳かに言った――

「山口司令官、結果から申し上げますなら、司令官は栄養失調であります」

ヒエっ!・・・と司令官の喉の奥が鳴った。え、栄養失調ですと!?言葉にならない司令官の言葉がその口から洩れる。

軍医長にはその声が聞こえていたかどうかはわからないが軍医長はひとりうなずいてそして言った。

「司令官の血糖値が異常に低いのであります。これはまごうかたなき栄養失調で今や内地にもこんな血糖値の人間はおりません。要するに」

「要するに?」と司令官は少しばかり涙のたまった瞳で軍医長を見つめておうむ返しに言った。

軍医長は少し咳払いをして喉を滑らかにしてから話し出した、「司令官は極端なダイエット、痩身をなさいましたよね。そのせいでこうなってしまったんですよ。いいですか司令官。私からの『命令』です。今後極端な痩身を絶対禁じます。どうしても痩せたい、今の体型を維持したいなら、朝と昼はしっかり召し上がってください。そして夜はごく軽く。そうでなくても司令官の仕事は厳しいのですから食べないと言うのはとても危険なんですよ。・・・お子さん方もまだお小さいんですからどうぞ無理なことはなさいますな」と、最後の方は優しく言い含めるように話した。

山口司令官は、どっと涙を流し「わかりました軍医長。あなたの言葉をしっかり実行します。私は今まであんなに太っていてそれを当り前と思っていたけどあるきっかけで痩せよう!と思ったんですよ。でもそのやり方はよくなかったようですね。明日から、いや!今日からちゃんとした痩身をしますから軍医長、どうか力を貸してください」と軍医長の両手を握って言った。

軍医長は優しく微笑んでうなずき、その一部始終を衝立の蔭で聞いていた加来艦長もほっと安堵の胸をなでおろしたのだった。

 

さあ、この日の夜から山口司令官は少しの夕食を取り始めたが、うわさに聞いた「リバウンド」がどうにも心に引っかかってならなかった。でもその心配は懇切丁寧な親身の指導の軍医長のおかげで払しょくされたとか。

 

今日も『飛龍』艦橋には、すっかり身軽になった山口司令官が立っている――


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「女だらけの戦艦大和」・山口少将の大作戦2

山口たも少将は、作戦室に足を運んだ――

 

彼女を見て誰もがハッとしたように目を見開いてそして顔を伏せる。山口少将は(おや。そんなに驚くほど痩せたのかな私。これは二航戦の連中も驚くよね、きっと)などとひとりで思っているが。

ハワイ奪還作戦の作戦詳報を書き綴った書類を抱えて作戦室に行くと、そこには宇柿連合艦隊参謀長がいた。

「宇柿さん、おひさしぶり」です、と言いかけた山口少将の耳に、信じられない言葉が飛び込んできた。

「ウギャッ!や、山口さん!どうしちゃったの!!」

叫ぶ宇柿参謀長に山口たも少将は頬笑みながら「え~、私そんなに変った?いやそんなに驚かれると・・」と言いかけたが、宇柿参謀長の次の言葉に凍りついてしまった。

「まんまるになっちゃったじゃないの!ハワイ作戦の前に合った時よっかまんまるになっちゃって、一体どうしたっていうのよ!」

なんだって!

山口たも少将は固まったまんまで宇柿参謀長を見つめている。宇柿参謀長は山口少将の肩を掴むと、「どうしたっていうのよぅ、こんなに太っちゃって。何があったの?もともと山口さんはふっくらしてたけど、これはちょっとひどいよ。健康に悪い!・・・山口さん、『連合艦隊参謀長命令』です!」と最後は厳しい声で言った。

山口少将は絶望的な表情で宇柿参謀長の顔を見つめた。宇柿参謀長は厳かな声で「命令。山口たも少将は速やかに体重を減らし、軍服の中サイズになるようダイエットすべし!」と言い、そして「ごめんね、厳しい嫌なこと言って。でも私は山口さんが心配なの。わかって?だからお願い、もうちょっとやせて。身体によくないから、たもさんに何かあったらお子さんたちも困るんだからね?ね?」と囁いてその肩をそっと叩いた。

はいありがとうございます、と消え入りそうな声で言って、山口司令官は作戦詳報綴りを宇柿参謀長に手渡すとふらふらとその部屋を出た。

そんな、そんな・・・そんなに私は太った?

山口司令官は自問自答しつつ廊下を歩いた。途中南雲忠子中将とか『蒼龍』の柳本柳子艦長にもであったが皆なんだか気の毒そうな顔つきで愛想笑いで司令官を見送った。

(イカン憐れまれてる)と山口たもは思った。

(こうなったら捨て身の攻撃だ。攻撃こそ最大の防御と言う。痩せることだって、ある意味戦争と同じじゃないか。今まで私は部下たちに過酷な訓練を強いてきた。今度は私が自分自身に過酷な訓練を強いて見事に痩せてやろうじゃないか!)

山口司令官は、キッと表情を引き締めると上半身に力を入れた。その瞬間、「びりっ!!」と音がして、彼女の軍服の背中の縫い目が思いっきり裂けた。

 

さあその晩から本格的な「痩身作戦」が決行された。今度は昨日までの生易しいものとは一線を画している。

まず、昼はお茶の一杯だけ。「茶腹も一時、と言うからね。う~ン、一時と言えば大体二時間くらいか?ならまた二時間後にお茶を飲んだらまた二時間は持つってことだね。おう、これは節米にもなって一石二鳥じゃないか」とたもは悦に入っている。

夕飯も取らない。子供が、いつもならご飯は大もりにしてぱくつくたもの前に何も出ていないのに怪訝な顔をし、次に母親が「どうしました?たもさん。今日は全然お食事をいただかないんですか?」と不審げな顔つきで訊ねる。

たもは、「痩身作戦」を気取られまいと作り笑いで「ええ。ちょっと最近胃の調子が悪いもので。こういうときは食べないでおくのが早く治るんですよ」と言ってお茶をすする。

それを聞いていた長男が無邪気に「ふーん。痩せるつもりとかじゃないんですねえ」と言ったのには正直、心臓が鎖骨まで跳ね上がるくらい驚いたたもではあったが、一所懸命平静を装って「何言ってるんです?この私が痩せるなんであり得ませんよ」と言い、みんなは「そうよね~、お母さんが痩せようなんて、お天道様が西から登るわ!」と大笑い。

たもは内心傷つきながら(笑ったなあ!今に見てろ、ガリッガリに痩せてカッコ良くなって驚かしてやるからな!)と決意をまたも、固める。

しかし、その晩遅くになってたもの腹の虫がギューギューと鳴き始めたではないか。(うう、腹が減った。でもここがが何のしどころだ。これを幾日かつづけたらそのうち慣れる。それまでの我慢だ)たもは必死に歯を食いしばって耐えた。

その後もたもの「痩身作戦」は壮絶に続けられた。三週間ほど過ぎた時、たもは自分の体の変化に気がついた。

今まで胸の下に盛りあがっていた「肉塊」が小さくなってきた。その上、軍服の肩のあたりが少しゆるくなった感じがしてきた。何気に行った銭湯の体重計に乗ってみるとあら嬉しや、なんと八十キロからあった体重が七十三キロまで減っているではないか。

(やった!この調子でガンガン落とせば軍服中サイズどころか小サイズも夢じゃあないぞ!)

山口司令官は心浮き立った。思わず不気味な笑みが浮かぶ。それを近くで見ていた年配の女性は少し気味悪くなったか、そっと山口司令官のそばを離れた。

更に山口司令官の「痩身作戦」は続く。

作戦開始二カ月後には早くも体重が六十キロ台にまで落ち込んだ。いままで着ていた軍服がとうとう「ゆるい!」とはっきり実感できるようになった。

胸の下にあった「肉塊」は姿を消し、今までさわりもできなかった骨盤にもしっかり触れられるようになり山口司令官は満足である。

司令官の母親は「ずいぶんスマートになったものね、たもさん。具合が悪いと言うのではなくって?」と心配したが、司令官は首を横に振って真実を話した。

母親は「そうだったの。確かにあなたのあの時の肥り方は異常でしたよ。でも急激な痩身は身体を壊しますからね、適当になさい」と言い含めた。司令官ははい、わかりましたと答えながらも(そうかあ、そんなに異常だったのか。でもこれでもう誰にもデブとか言わせないよ)と思っている。

 

山口司令官は、それからも快調にダイエットを続ける。ほとんど食事を取らないで、たまに食べるくらい。一週間でまともに食事をするのは三回もあればいい方ではなかったか。

体重は時折停滞しつつも順調に減っている。

そんなある日、衝撃の出来事が山口司令官を襲った――

  (次回に続きます)


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「女だらけの戦艦大和」・山口少将の大作戦1

・・・これはあの『ハワイ奪還作戦』終了後、日本に帰国した後の二航艦司令官・山口たも少将の、語るも涙の物語である・・・

 

思い返しても「ハワイ奪還作戦」の際は山口司令官は大変な活躍をした。空母・飛龍から発艦した攻撃機は普段の司令官の訓練の成果を思う存分発揮し、随所に敵を撃滅し多大な戦果をあげた。

もちろん人的被害は皆無、であった。

その嬉しさから山口司令官は――食べた。

食べた食べた。なんと言ってもハワイの食事の盛りの多さに大感激したので、もっと食べた。

そうしたら、当然の帰結として肥った。

(え?そんなに太ったかねえ?あの通信科の山口水兵長((注1))と言う子も肥っていたね。でも私とどっこいどっこいかね。いいんだよそんなこと。肥っているは健康の証だもんねえ)

山口司令官は自分がどれだけ太ったかに全く頓着していない。

しかし。

航空艦隊が、横須賀に帰ってきた。

大きな戦闘の後の懐かしい内地。将兵いずれもほっと安堵のため息をついた。そしてそれぞれの艦で上陸する者もいればまだ艦に残る者もいる。

山口司令官は、加来艦長とともに下艦した。上陸場への内火艇の中で艦長は「司令官は、これから軍令部に行かれるんですか?」と聞く。山口司令官はちょっと嬉しげな表情で艦長を見て、「軍令部は明日。今日は家族が来てるから横須賀で一泊するの」と言う。加来艦長は、ああ、と言って「そうでしたね。では皆様によろしく。軍令部にはお気をつけて行ってらっしゃい」と二人は内火艇を降りた。

衛兵所長たちが居並んで迎える中を敬礼しつつ歩く二人、門を出ると子供の声がした。

ハッと艦長が見れば四人の子供が山口司令官に向かって走ってくる。「山口司令官、お子様方ですよ」と艦長も嬉しそうである。

「おお、なんかちょっと見ない間に大きくなったねえ」と山口司令官は両手を大きく広げて子供たちを迎えた。

・・・「おかあさーん!」と、その両手の中に思い切り飛び込んで行った子供たちが・・・

なんと司令官の太鼓腹に跳ね返されて三メートルほど吹っ飛んだのだった。

「きゃー!」と子供たちは投げ出されたが、再び「おかあさん!」と言って今度はそっと司令官の前に集まる。

司令官はその四人をまとめて抱き寄せて「ただいま~!待たせたねえ!」と言ってそれぞれに頬ずりをした。

ああ、感激の親子の再会。加来艦長は見とれたが、ひとりの子供がお尻をさすっているのに気がついた。そこで「ぼうや、どうしましたか?」と寄って行ってその子供を見た。

その子は「お尻が痛い」と言って艦長を見た。艦長は「ほう、ちょっと私に見せてくれるかな」と子供のズボンを少し下ろした。

「ああ、これはいけないね。すりむいていますよ、司令官、そこの衛兵所で薬をもらいましょう」加来艦長は司令官の子供を抱き上げて衛兵所に。そのあとを「とめさん、ごめんね」と山口司令官と後の三人の子供たちがついてゆく。

衛兵所で薬をつけてもらったあと、司令官は「加来さん、一緒に食事をしよう」と誘った。加来艦長は「いえ、せっかくの家族水入らずをお邪魔しては・・」と断ったが司令官も子供たちも誘うので、行動を共にした。

司令官たちが今夜一泊すると言う旅館に行きそこで昼食を取った。

そこでちょっとした異変が起きた。

いつもならたくさん食べる山口司令官が今日はあまり食べようとしない。加来艦長はそっと「・・・司令官、どうなさいました?あまり召し上がらないですね、ご気分でもよくないですか?」と聞いた。

司令官はかぶりを振って「いやあ、そうじゃあないの。いや、ちょっと朝食べ過ぎたからね」司令官はそう答えたが。

実はさっきの光景に(ヤバいッ。子どもを自分の腹で吹っ飛ばしてしまった・・)と大変な後悔の念にさらされていたのである。(これはやっぱり私が『肥りすぎ』ってことなんだな。子供を吹っ飛ばす親なんて親の風上にもおけん。・・・これは一念発起して)

ダイエットをしよう、と決意した山口司令官であった。

その晩から、山口司令官の「ダイエット作戦」はついに決行された。

まず、米の飯をやめた。

そしておかずの量を半分に減らした。

更に小さな楽しみの晩酌も断腸の思いでやめた。

その晩、司令官は子供たちの寝息を聞きながら(あーもう、腹減ったなあ。でも我慢我慢、ここを我慢してどんどん行けばやがてあの南雲さんや「武蔵」の猪田艦長みたくスリムになれるんだから。二航艦の連中をあっと驚かせるまで頑張るぞ)と思った。

翌日も朝も、ご飯は「みんなで分けなさい」と茶碗のご飯を子供たちに均等に分けてしまった。「おかあさん、おなかすいちゃうよ?」と心配する長女に「お母さんは大丈夫。こんなに太ってるからねえ」と言って子供たちの笑いを取った司令官であった。

その日のうちに山口司令官一家は自宅に帰り、司令官自身は軍令部に向かうことに。同居している実の母に「では母上、行ってまいります。子どもたちを宜しく」と言って出掛けた。

歩きながら(なんか、少し痩せたかなあ)と思う司令官ではあるが「まさかね、たった一日で」と笑った。

 

やがて赤れんがの軍令部に、山口司令官は着いた――

  (次回に続きます)

 

(注1)山口司令官と山口水兵長との件については2010・11・13の『また来る日まで』をご参照ください。


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「女だらけの戦艦大和」・山口少将の大作戦1

・・・これはあの『ハワイ奪還作戦』終了後、日本に帰国した後の二航艦司令官・山口たも少将の、語るも涙の物語である・・・

 

思い返しても「ハワイ奪還作戦」の際は山口司令官は大変な活躍をした。空母・飛龍から発艦した攻撃機は普段の司令官の訓練の成果を思う存分発揮し、随所に敵を撃滅し多大な戦果をあげた。

もちろん人的被害は皆無、であった。

その嬉しさから山口司令官は――食べた。

食べた食べた。なんと言ってもハワイの食事の盛りの多さに大感激したので、もっと食べた。

そうしたら、当然の帰結として肥った。

(え?そんなに太ったかねえ?あの通信科の山口水兵長((注1))と言う子も肥っていたね。でも私とどっこいどっこいかね。いいんだよそんなこと。肥っているは健康の証だもんねえ)

山口司令官は自分がどれだけ太ったかに全く頓着していない。

しかし。

航空艦隊が、横須賀に帰ってきた。

大きな戦闘の後の懐かしい内地。将兵いずれもほっと安堵のため息をついた。そしてそれぞれの艦で上陸する者もいればまだ艦に残る者もいる。

山口司令官は、加来艦長とともに下艦した。上陸場への内火艇の中で艦長は「司令官は、これから軍令部に行かれるんですか?」と聞く。山口司令官はちょっと嬉しげな表情で艦長を見て、「軍令部は明日。今日は家族が来てるから横須賀で一泊するの」と言う。加来艦長は、ああ、と言って「そうでしたね。では皆様によろしく。軍令部にはお気をつけて行ってらっしゃい」と二人は内火艇を降りた。

衛兵所長たちが居並んで迎える中を敬礼しつつ歩く二人、門を出ると子供の声がした。

ハッと艦長が見れば四人の子供が山口司令官に向かって走ってくる。「山口司令官、お子様方ですよ」と艦長も嬉しそうである。

「おお、なんかちょっと見ない間に大きくなったねえ」と山口司令官は両手を大きく広げて子供たちを迎えた。

・・・「おかあさーん!」と、その両手の中に思い切り飛び込んで行った子供たちが・・・

なんと司令官の太鼓腹に跳ね返されて三メートルほど吹っ飛んだのだった。

「きゃー!」と子供たちは投げ出されたが、再び「おかあさん!」と言って今度はそっと司令官の前に集まる。

司令官はその四人をまとめて抱き寄せて「ただいま~!待たせたねえ!」と言ってそれぞれに頬ずりをした。

ああ、感激の親子の再会。加来艦長は見とれたが、ひとりの子供がお尻をさすっているのに気がついた。そこで「ぼうや、どうしましたか?」と寄って行ってその子供を見た。

その子は「お尻が痛い」と言って艦長を見た。艦長は「ほう、ちょっと私に見せてくれるかな」と子供のズボンを少し下ろした。

「ああ、これはいけないね。すりむいていますよ、司令官、そこの衛兵所で薬をもらいましょう」加来艦長は司令官の子供を抱き上げて衛兵所に。そのあとを「とめさん、ごめんね」と山口司令官と後の三人の子供たちがついてゆく。

衛兵所で薬をつけてもらったあと、司令官は「加来さん、一緒に食事をしよう」と誘った。加来艦長は「いえ、せっかくの家族水入らずをお邪魔しては・・」と断ったが司令官も子供たちも誘うので、行動を共にした。

司令官たちが今夜一泊すると言う旅館に行きそこで昼食を取った。

そこでちょっとした異変が起きた。

いつもならたくさん食べる山口司令官が今日はあまり食べようとしない。加来艦長はそっと「・・・司令官、どうなさいました?あまり召し上がらないですね、ご気分でもよくないですか?」と聞いた。

司令官はかぶりを振って「いやあ、そうじゃあないの。いや、ちょっと朝食べ過ぎたからね」司令官はそう答えたが。

実はさっきの光景に(ヤバいッ。子どもを自分の腹で吹っ飛ばしてしまった・・)と大変な後悔の念にさらされていたのである。(これはやっぱり私が『肥りすぎ』ってことなんだな。子供を吹っ飛ばす親なんて親の風上にもおけん。・・・これは一念発起して)

ダイエットをしよう、と決意した山口司令官であった。

その晩から、山口司令官の「ダイエット作戦」はついに決行された。

まず、米の飯をやめた。

そしておかずの量を半分に減らした。

更に小さな楽しみの晩酌も断腸の思いでやめた。

その晩、司令官は子供たちの寝息を聞きながら(あーもう、腹減ったなあ。でも我慢我慢、ここを我慢してどんどん行けばやがてあの南雲さんや「武蔵」の猪田艦長みたくスリムになれるんだから。二航艦の連中をあっと驚かせるまで頑張るぞ)と思った。

翌日も朝も、ご飯は「みんなで分けなさい」と茶碗のご飯を子供たちに均等に分けてしまった。「おかあさん、おなかすいちゃうよ?」と心配する長女に「お母さんは大丈夫。こんなに太ってるからねえ」と言って子供たちの笑いを取った司令官であった。

その日のうちに山口司令官一家は自宅に帰り、司令官自身は軍令部に向かうことに。同居している実の母に「では母上、行ってまいります。子どもたちを宜しく」と言って出掛けた。

歩きながら(なんか、少し痩せたかなあ)と思う司令官ではあるが「まさかね、たった一日で」と笑った。

 

やがて赤れんがの軍令部に、山口司令官は着いた――

  (次回に続きます)

 

(注1)山口司令官と山口水兵長との件については2010・11・13の『また来る日まで』をご参照ください。


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「女だらけの戦艦大和」・私が雷が怖いわけ。

『女だらけの戦艦大和』の上の初夏を思わせる空に、寒冷前線でも通過するのか黒雲がわき始め、いつしか雨が降り出していた。向かい合う呉の町や山が雨にぼうっとかすみ始めた――

 

その空を物憂げに見つめる艦上の下士官は誰あろう見張トメ二等兵曹である。見張兵曹はその雲を見つめながら(ああ、いやじゃなあ。鳴神が鳴るんじゃろうか)鳴神、とは雷のことである。

いつだったか十三分隊が松岡分隊長に率いられて『銀輪行軍』した際も雷が鳴った。

(ほんとは怖かったんじゃ。でもみんながおるけん、言えんじゃろう?帝国海軍軍人が雷を怖いなんて)

兵曹の美しい顔が曇った。その時、「オトメチャン、そんなとこにおったら濡れるぞ」と声がかかり振りかえれば麻生分隊士がいた。見張兵曹はなんだかほっとして「分隊士」と言って近寄って行ったその時。

フラッシュをたいたような光が走ったと見る間に大きな雷鳴。見張兵曹は「キャー!」と叫んで麻生分隊士にしがみついてしまっていた。

「どうした!?オトメチャン!」分隊士は驚いて、しかし彼女を抱きかかえて艦橋に走って行ったのだった。

下甲板へのラッタルを降り居住区の前で、見張兵曹は立ち止まった。

そして、分隊士をまっすぐ見上げると「こんなことを言うたら分隊士は『海軍軍人らしうない』と軽蔑なさるかもしれませんね・・・でもお話せんとなりませんね・・・」とうつむいた。だが分隊士は優しく見張兵曹の肩を抱くと、「軽蔑なんぞせんよ。俺は絶対なんがあってもオトメチャンを軽蔑したりはせんよ」と言った。「しかし、何かわけがありそうじゃな、よかったら話してみんか?」兵曹の肩を抱く腕の力が強くなった。

「分隊士」と見張兵曹は分隊士をそっと見上げた。

「ん?どうしたんだ」と麻生分隊士は優しくオトメチャンをゆすって促した。

「あの・・・」と意を決して見張兵曹が話し始めた内容は、麻生分隊士にとっては衝撃的な内容であった。

「私、あの――」

雷が怖いんです、と兵曹は言った。

麻生分隊士は「ほう・・」と言った。そして思い当たった。かつて「大和農園」で雷雨に会った時見張兵曹が妙に怖げな様子を垣間見せたことがあった。分隊士は、行軍の際のあのものすごい雷を思い出した。雨に当たった寒さだけではない顔色の蒼さを思った。あの時は大勢いたもののオトメチャンは怖い思いをしたのだろう――だが、なんでだろう?なぜそこまで?

「・・・どうしてオトメチャンはそんなに雷が怖いのかな?もし・・・よかったら、そしてオトメチャン自身でわかる理由があるなら・・きかせてくれないかな?無理にとは言わんが・・」

麻生分隊士は慎重に言葉を選びながら言った。すると見張兵曹は分隊士をうるんだ瞳で見上げて「お話します。聞いていただけますか?」と言い、分隊士はオトメチャンを私室に連れて行った。

 

分隊士の私室で、オトメチャンは分隊士にベッドに座らされた。

その正面に麻生分隊士が椅子に座って見張兵曹を見つめる。兵曹はコホ、と小さい咳をすると、話し始めた――

 

>もう分隊士は私の生い立ちについてはよくご存じだから細かいところはお話をしませんが、これだけは本当に怖かった経験です。

それはまだ私が五つか六つの頃の蒸し暑い夏でした。家のみんなが朝から出かけることになり、あの人(継母)が私に「トメ、今日は妙に暑いけえ雨が降るかしれん。もし雨が降りそうになったら洗濯物をしもうておくんよ!」と言って皆は出かけたんです。私は幼いながら畑の作物の世話などに行かねばなりませんでした。それ自体は楽しいことではあったんです。が、水やりや大きくなった作物を見るのに私は夢中になってしまって空模様を見ることなんかすっかり失念していました。

ハッと気がついた時、空はすっかり曇ってまっ黒な雲がわきだしていました。遠くからかすかに雷の音がします。いけない!と思って畑の中を飛んで帰る途中、もう大粒の雨が地面をたたき始めていました。畑から家までは子供が走って十分や十五分はかかります。

大慌てで家に取って返した時には雨はもう土砂降り。庭にはもう水たまりが出来始めていました。雷も随分近くなってきていました。大急ぎで洗濯物を取り込もうと、二股を持ってきて竿に引っ掛けたとたん、竿が滑って洗濯物が地面に落ちてしまったんです。あっという間に泥だらけ・・・。あわててそれを拾い上げた時、「トメ!貴様何やってる!」と継母(あのひと)の大声がしました。見れば、継母(あのひと)が姉さんたちと仁王立ちになって私を睨んでいました。私は雨に打たれながら、「ごめんなさい、畑を見とって帰るんがおそうなって・・」と言い訳をしました。

そんな言い訳なぞあの人たちが聞くわけがないです。姉さんたちは、ああ私の気に入りのブラウスが泥だらけになってしもうた、とかなんとか騒ぎ出しました。

その様子を雨に打たれながらものすごい形相で見つめていた継母(あのひと)の目が私に注がれ、

「トメ!貴様は役に立たんやつじゃ・・仕置きじゃ!」

と怒鳴りました。私は雨の中、近所のお社に引きずってゆかれました。その境内に、樹齢ならばおおよそ八百年以上と言われる大木が二本あるのです。継母(あのひと)は私をその一本に縛りつけたのです。雨が口と言わず、目と言わず流れ込んできます。雷がどんどん近くなります。怖くなって「ごめんなさい、ごめんなさい」と叫んでも聞いてくれません。

継母(あのひと)は「そこにおれ!」と言い捨てて帰ってしまいました。私は大木に縛られて雨に打たれていたんです。泣きましたよ、それはもう。

そしたら――それはそれはものすごい、今まで、いえそれからも一切見たことがないようなすさまじい稲光が走りました。

目がくらんだ次の瞬間、『大和』の主砲発射にも似た衝撃。一瞬私は気を失ったのかもしれないですね・・何があったか、と言うなら私の縛られていた大木の隣の樹に、雷が落ちたのです。その木は真っ二つに裂けて、ぶすぶすと燃え始めていました。

私はものすごい恐怖に襲われ、絶叫していました。喉も裂けよとばかりに。

何度目かに叫んだ時、「トメちゃん!」と言う声がして見ればいつも親切にしてくれた小作のおじいちゃんとおばあちゃん――この二人こそ前にお話しした「私の本当のおじいちゃんおばあちゃん」なんですが――、転がるように駆けてきて私を大木から解放してくれました。ずぶぬれの私をお二人は家に連れ帰って温かい粥を食べさせてくれたのです。でもしばらくは震えが止まらんかった・・・

 

「そんなわけで、私はこの年になっても雷が怖いのであります。軍人としては情けないでありますが」

見張兵曹は分隊士のベッドの端をしっかりつかんでそこまで一気に話し終えた。

「そうだったのか・・・」と分隊士は呻いて見張兵曹を見つめた。そして椅子から立ち上がっていきなり兵曹を抱きしめてベッドに押し倒した。

自分の胸の下にオトメチャンを抱き込んで分隊士は「かわいそうに。なんてひどい目に合ったんだろう。大丈夫、雷が鳴ったら、怖くなった時はすぐにおれんとこに来い。恥ずかしいとか何とか思っちゃいけん。俺はいつだってオトメチャンを・・・」と言うとオトメチャンの唇を吸った。オトメチャンも分隊士の背に両手を回す。オトメチャンの唇を吸いながら分隊士の片手はオトメチャンの服の前ボタンをはずし始める。そうして二人の息がだんだんあらくなって来た時。

分隊士の部屋のドアがドカーンと音を立ててひらかれた。

「麻生さ―ん!・・・っていったい何してんのお?特年兵君とこんなとこで昼寝してる場合ですかあ!?」

声の主は松岡分隊長。わあ、と驚いて起き上がった二人に分隊長は、「もう麻生さんの忘れん坊!今日これから見張りの講習をするって言ったのは麻生さんでしょう!?いいですかあ、麻生さん。あなたは分隊士で・・」と、がなり始めた。しばらくお説教をした後、分隊長は「時間がなくなっちゃうからもう行きましょう。いいですかあ、麻生さん。もっともっと熱くなってくれなきゃだめですよ?帝国海軍もっと熱くなって、早く米英に白旗をあげさせるんでしょう?自覚してくれなきゃいやですよ」と言って例のラケットをひと振りして「先に行って待ってますよ!」と出て行った。

 

雷の鳴る昼下がり、雷が怖いわけを聞いて挙句、分隊長に雷?を落とされた格好の二人であったとさ――


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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