「女だらけの戦艦大和」・おじいちゃんおばあちゃん。

――懐かしい日本の姿、そして今頃の季節になるとオトメチャンの脳裏に再現されるあの懐かしい風景とあの人たちの姿――

 

今日は見張兵曹と麻生分隊士の上陸日である。

分隊士は古くからの友人が誘いに来たので「ごめんねオトメチャン。先に下宿に行っていいよ、ゆっくりしたらいい」と言って友人と出かけて行った。

兵曹は久しぶりに下宿のおばさんに会いたいのでトメキチも連れ、下宿に急ぐ。

と、彼女の前に懐かしい西田教官の妻がひょっこりと現れた。「見張さん」と声をかけられ見張兵曹は思わず「西田さん!」と声をあげていた。二本足で立って歩いていたトメキチが何事かと言う顔で見張兵曹を見上げている。

西田教官の妻――さと――は、ニコニコとして兵曹のそばによると折り目正しく、

「お帰りなさい、お疲れさまでした」

と頭を下げる。見張兵曹は大変恐縮してこれも「ただいま!お久しぶりです!」と敬礼した。西田さとはそんな兵曹を眩しげに見て、「この前よりもまたひと回り大きくなられましたね。立派ですよ」と声を感激にふるわせる。

兵曹はいえいえ、と首を横に振って「飛んでもありません、私なぞまだまだ、ひよっこであります」と言う。紺色の一種軍装が色白のトメによく似合うとさとは思った。兵曹は恥ずかしげにうつむいた。

そんな兵曹に微笑みかけて、さとは「今日はあなたに合わせたい方がいるので、ちょっとだけお時間をくださいませんか?」と言った。

私に合わせたい人?とちょっと不思議な顔の兵曹にさとは、「もうずいぶんあなたはお会いしてはいないから、あるいはお忘れかも、と先方はおっしゃってらっしゃいますがでも、お会いしたらすぐに思い出せると私は思いますよ」といい、歩きだした。トメキチもおとなしくついてゆく。

さとは、兵曹を駅近くの旅館に連れて行った。

旅館には何人か顔見知りがいて、どうやら遠方からの家族が呉に来てあっているらしいとわかった。軽く敬礼や会釈を交わして、兵曹はさとの後ろについてゆく。

さとは、旅館の一室に兵曹を案内した。そして部屋の引き戸を開けて「トメさん、どうぞ」と中にいざなった。トメキチは兵曹の後をおとなしくついてゆく。

兵曹がちょっと会釈して中に入った、その部屋の中に老夫婦がいた。その二人を見て見張兵曹は思わず「ああ!」と声をあげていた。

老夫婦は、腰を浮かして兵曹を見て「トメちゃん!!」と泣き声を上げた。

そう、この老夫婦こそかつて兵曹が不遇な子供時代を過ごしたあの故郷で唯一、兵曹に優しく接してくれた「おじいちゃんとおばあちゃん」である。

兵曹はその二人のそばにドッと座り込むと二人の手を取って、「おじいちゃん、おばあちゃん・・・お元気だったのですね。本当にお久しぶりでした、ご無沙汰してごめんなさい・・・」と言うが後は涙に声がかき消される。

老人も、涙にくれてしかし、嬉しそうに兵曹の手や肩や、頬をなでた。口々に、「大きくなって」とか「こんなに立派になって」と言いながら。

しばらくそうしていたが、やがて我に返る三人。さとはその様子を頬笑みながら見ている。トメキチもさとのそばに座ってじっと見つめていた。

さとは、そしてそっと切り出した。

「あのね、とめちゃん。このお二人はあなた(・・・)()おじいちゃん(・・・・・・)()おばあちゃん(・・・・・・)なんですよ」

えっ?とさとを見る兵曹、その兵曹にさとは「このお二人はあなたの生みのお母さんのトヨさんのご両親なんです。ですから間違いなくあなたのおじいちゃんおばあちゃん」と言ってうなずいてやった。

「・・・だから、私に」

と見張兵曹はつぶやいた。そうか、だからこの二人は村の皆から冷たく扱われる私にあんなにやさしかったのだ・・・。

老夫妻が語るには、貧しい小作の農家だったので子供たちは口減らしのため長男を除いて皆他に働きに出て行った、このふたりの終いッ子がトヨであったが、彼女も弱冠十六歳で見張の家に「行儀見習い」として住み込みで働きに行った。家はそれほど遠くはなかったもののさみしい二人であった。

が、トヨはきっと良くしてもらっているだろうと思って我慢していた。だが、実際はトヨは見張の妻にいじめられるは娘たちにいびられるはで、そういい思いはしていなかった。

然しトヨの救いは、一家の大黒柱の洋二郎がトヨの聡明さやしつけのよさに感じ入って大事にしてくれたことであった。

トヨは、洋二郎が帰ってくるたびに慰められたり、いろいろな知識を与えられてますます聡明さに拍車をかけた。内面が美しくなると外も美しくなるようで、トヨは人々が目をそばだてるような美人になった。そんなトヨに、村の有力者から縁談が来たこともあった。が、トヨは「私はそんな身分ではありません」と丁重にことわり見張の家で働いた。

縁談は止むことなく、見張の妻や娘のやっかみがひどくなりひどいいじめを受けるようになった。そんな折、洋二郎が帰省し縁談やそれに伴ういじめの話を聞いた。洋二郎は、トヨを大事に思っていたので、まずいじめに心を痛め妻や娘の仕打ちにしんそこ腹を立てた。縁談の話には年頃の娘なら仕方あるまいとは思って勧めてはみたが、心の中がさざ波立った。

村はずれの古ぼけた納屋の中で「そんな無理をしてまでうちで働かんでもええではないか。私はトヨが心配じゃ」と言い思わず抱き締めた。トヨは初めての抱擁に戸惑いつつも「でも。うちは旦那様の家に働くために来たんですから」と言ってその可憐な瞳を洋二郎に向けた。

洋二郎は込み上げる熱い思いをもうどうにもできなかった、「トヨ。私の物になってくれ!」と言うなりその場に押し倒して・・・

それから数カ月後、再び帰省した洋二郎にそっとトヨは囁いた。

「うち、旦那様の子が出来たみたいです」と。

驚きつつもうれしさを隠せない洋二郎は、彼女を海軍病院の知り合いの医師に診せた。「妊娠してますな、月齢はもう四月です」と知り合いの医師は言った。それを聞いて洋二郎は、彼女を家には置けない、置けばあのきつい妻や娘に何をされるかわからないと西田教官夫妻に頼んだのだった・・・

 

さとは、静かに言った。「洋二郎さんは本当にトヨさんを愛していらっしゃいましたね。奥さんとはもううまくいっていないし、あの家には帰っても喜びがなかった。でもトヨさんが来てから帰るのが楽しくなったとおっしゃって・・・。確かにトヨさんは一緒にいるだけで心があったかくなる人でしたもの、私たち夫婦もトヨさんが大好きでしたよ」

産後のトヨが不幸な死を遂げた後、洋二郎は乳飲み子を家に連れて帰った。が、村でははっきりは言わないものの「不義の子」として扱われ、トメはつまはじきにされるのである。

幼いトメが泣いて歩いているとそっと家の中に呼び寄せてこっそり世話を焼いてくれたのは誰あろうこの老夫婦である。

この夫婦にとっては可愛い孫である、人には言えなかったがあふれるほどの愛しさがあった。若くして亡くなった娘の忘れ形見でもある。誰が何と言おうとかばってやる、そういう覚悟があった。だから事あるごとにそっとトメをかばっていた。

やがてトメが海兵団に入団するその日、二人はこっそりと見送りに行ったのだった。そっと両手を合わせてその行く末に幸多かれ、と祈ったのだった。

 

見張兵曹は、ほおっと息をついた。知らなかった母と父の過去を始めて聞いた。さとから以前に聞いてはいたがこうして老夫婦の話も交えてきくと更に両親が身近に思えてきた。さとも、トメの祖父母も父と母のことを恥じたり人の道を踏み外した連中とは考えてはいないようだ。それはきっと洋二郎とトヨのつながりが悲しいほど純粋だったからかもしれない。

「では・・・私は自分の生まれを恥と思わなくってもいいのでしょうか?私は「不義の子」と小さくなっていなくってもいいのでありますか?」

そういう兵曹の両の瞳から涙がボロボロと落ちた。トメキチが駆けよってその涙を舐めた。

さとも、老夫婦も涙にくれながらうなずいている。

「そして」と兵曹は涙に濡れた瞳を夫婦に向けて「本当にありがとうございました、お二人がいらしてくださったから私はこれまで生きてこられたようなものであります。お二人がいらっしゃらなかったら、私は」

そこまで言うと兵曹は嗚咽した。あの家での苦しかった思い出や、「おじいちゃんおばあちゃん」の優しさが兵曹の心に再び染み入った。

「トメ!お前は私たちの孫だよ!」

と老夫婦は兵曹を抱きしめると号泣した。兵曹は「おじいちゃん、おばあちゃん」と繰り返し叫びながら二人にしがみついて泣いたのだった。

さとはもんぺの上着のそでで涙をぬぐう。トメキチがさとに寄り添っている。

 

長い時間四人は語り合い、そして夕方になって別れの時が来た。

兵曹は、「おじいちゃんおばあちゃん、また会えますからその日までお元気で待っていてくださいね。トメはお国のために、そして皆さんのために軍務に励んでまいります!」と言って三人に敬礼した。

三人は深々と頭を下げ、そして兵曹は決然として三人に手を振ると歩きだした。

 

分隊士の下宿の近くまで来ると、向こうから分隊士が歩いてくるのが目に入った。トメキチがその姿を見つけてうれしそうに吠えた。

「分隊士!」と声をあげて走り寄ってゆく見張兵曹。さあ、今日のことを分隊士になんと話そう!?


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「女だらけの戦艦大和」・ギンギン銀幕銀輪リン

「女だらけの戦艦大和」は呉にその身を置いている――

 

長妻兵曹と増添兵曹、それに森兵曹は上陸日。

三人でうきうきと街を歩く。途中面白いものや珍しいものを見ると立ち止まってはまた歩き出す。不意に森兵曹が「あ、あの人だかりはなんだ?」と指さす方を見れば、ある店先に兵隊がたくさんたかっている。「どれどれ」と寄ってゆくといつか「大和」の谷垣兵曹が買って来た「折りたたみ自転車」がたくさん入荷している、それを買わんと皆が群がっているのであった。

「なんだあ、谷垣兵曹が買うてきたんとおなじもんじゃの」と森兵曹が言う。増添兵曹がうなずいて「最近自転車が流行りだそうですね。やっぱり陸軍さんが「銀輪部隊」で活躍したからでしょうね」と言った。

長妻兵曹が二人をそっとつついて「なあ、俺らも買わんか?三人、いや谷垣さんも入れて四人で『大和』の最上甲板をツイーと走ったらこりゃあ気分ええよ?トレーラーに戻っても上陸の時はこれで移動時間が短縮できるってもんよ」と誘った。

三人はさっそくたくさんの兵隊の後ろに並んで「折りたたみ自転車」を購入、「後で取りに来るから」と自転車屋に預けて更に歩く。

 

「おう、映画!なあ、まだ時間はいっぱいあるけえ、映画でも見ないか?」

増添兵曹が映画館の前で立ち止まった。森兵曹が「ええよ。今何がかかっとるんじゃ?」と看板を見上げる。長妻兵曹も見上げて、「ほう、『太平洋の王者』じゃと。面白そうじゃな、入ろう入ろう」と賛成し三人は映画館に。

この映画は今人気の『赤井優』とか『下野樹理』と言った女優陣も豪華に海軍と陸軍の太平洋戦線での活躍を描いた作品でつい最近内地では公開されたばかりだと言う。

「大人気なんですって」と増添兵曹が座席に座りながら言った。

「へえ。うちはこの女優はよう知らんが可愛いのう。・・・っていうても海軍にはこがいに可愛い兵隊なんぞおらんよね」と長妻兵曹が言って森兵曹が大笑いする。

そして森兵曹は「まあ、そこはなんというても映画じゃけえ、差っ引いて観てやらんとね。お、そろそろ始まるぞ」と座りなおした。

今日は日曜日、と言うこともあり兵隊のお客のほかに一般のお客もいて満員状態である。

映画が始まった・・・

 

今日の映画は本編の『太平洋の王者』と、ニュース映画の二本立てである。

二時間ほどの本編が終わるとすぐにニュース映画が始まる。ニュース映画を作った会社が「大日本大大和愛国映画」会社、というクレジットを読んでふっと長妻兵曹は軽い胸騒ぎを覚えたがそれが何を意味するかを自分でもよくわからない、ただ、漠然とした不安感のようなものが一瞬旨の中を去来しただけだったのですぐ忘れた。

ニュース映画の内容は、世界情勢や皇軍の活躍中心である。

少し前の陸軍さんの『援商ルート遮断』作戦での「猛象部隊」の様子が映し出されると皆は立ち上がって喝采!

多くの海軍兵たちも「おお、話には聞いとったがすごいもんじゃな!」と感心しきりである。そして思う、(陸軍さんには負けられんぞ)と。

そのあと海軍の活躍が映し出される、ミッドウエー作戦の一部やハワイ守備作戦のハイライトシーンなどが出て長妻兵曹などは(ああ、ハワイ・・。また行ってあの彼と)とちょっとベクトルの違う感慨を持っている。

――と。

画面いっぱいに「勇ましい海軍兵士のやすらぎのひとこま」と言うクレジットが出ると、なんだか三人には見覚えのある艦の甲板が映った。

「??・・・!!」

次の瞬間、なんと!

ソフトボール大の『団子』を掴んでもりもりと食う長妻兵曹が大写しになったではないか!!

「うわあ!」

「わっ、長妻じゃねえか!」

「おお、銀幕デビュー!」

長妻兵曹・森兵曹・増添兵曹がそれぞれ叫んだ。この映像だけはなぜか長妻兵曹が団子を食い始めるところから終わるところまでの一部始終を流している。

満場大笑い。

長妻兵曹は居たたまれなくなって、軍帽で顔を隠した。そして蚊の鳴くような声で「なんで・・なんでよりによってあの時のことを・・・」とつぶやいている。

あの時、とは昨年の秋『大和』と『武蔵』で艦長を交換して行われた「月を愛でる会」でのことである。

あの晩兵曹は福島大尉に頼み込んででかい団子を作ってもらいそれを副長の陰謀もあったものの砲塔の上で三十個完食したのだった。

(あの時そういえば大尉は「映画を撮影してる」って言ってたっけ。ああ、こんなところであのシーンと再会するとは)

満場大爆笑のうちに映画は終了し、皆は三々五々外に出た。長妻兵曹は軍帽を目深にかぶって顔を隠している。

森兵曹が「隠さんでもええじゃないか。貴様はもう『銀幕のスター』じゃ。ええなあ、有名人!」とその背中をどやす。

増添兵曹もニヤニヤしながら「そうじゃ、きっと明日あたりからファンレターがたくさん来るぞ、おう、プロマイドも作らんといけんぞ」とからかう。

もう泣きそうな長妻兵曹はよろよろと歩きながら、

「もう絶対あんな馬鹿な真似はせん。末代までも恥さらしじゃ。ああ、これを親が見たら・・・きっと次に会った時泣かれる。どうしたらええのよ」

と頭を抱えた。ものすごい心配の種が出来てしまった。

「まあええじゃないか、さ、自転車を受け取って今日はそろそろ戻ろうぜ」と森兵曹が言い、三人は預けておいた自転車を受け取ってそれに乗って上陸場まで行ったのだった。

 

・・・長妻兵曹が心配していた件だが、あのニュース映画を兵曹の両親もしっかり見ていた。父親は涙目で「・・・う、うちんがたの娘もガンバっとるな」と言い、母親は笑いをかみしめながら「昭子も映画に映るくらい有名になって。これはまた縁談を断るんが大変ですねえ」と大変のんきであったとか。

そしてそのあと、長妻兵曹のもとには他艦の兵や下士官から熱烈なファンレターがどっと来たと言う――

さらに。

その日上陸した乗組員のほとんどがあの「折りたたみ自転車」を購入してきて舷門当直の兵曹は「いったい何なんだあこれは!一体これをどこに保管するんだよ!!」と頭を抱えて叫んだと言う。

そして、さらにさらにその翌日も上陸から帰った兵たちが自転車を持ち込んで・・・『大和』艦上はえらいことになったのであった――


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「女だらけの戦艦大和」それぞれの過去、松本兵曹長の場合。

松本兵曹長は、第二十分隊機関科缶室では浜口大尉とともに無くてはならない存在である。

が、彼女にも不遇な過去があったと言うことを実は誰も知らない。以下は彼女がトメキチにそっと語ったひとりごとである――

 

松本兵曹長・松本リキは、三人姉妹の真ん中に生まれた。父親はかつて会社務めをしては居たが文士を志し会社を辞めて兵曹長が生まれた当時は三文文士状態。家計は当然楽ではなかったが賢い母のそれまでの蓄えと、母の実家の援助でなんとかなっている状態であった。母の実家、つまり兵曹長の祖父は県会議員であり、祖母の方は旧家の出でこちらも金には事欠かない。

そう言った形で生活しているので当然母の方が家庭内では威張っていてもそれはある意味仕方なかったかもしれない。

が、母の兄弟までが家庭内に口出ししてくるのはいかがなものだったか。

特に、松本リキの下に妹が生まれてからそれはひどくなった。おもに攻撃の対象はリキの父親と、リキ本人。

リキの父親は自分が悪いのだから、と反論もしないでただ下をむいているだけだった。それが幼いリキには納得はいかなかったが(こういうのが大人の世界なんだ)とおぼろげに理解はしていた。

が、リキ本人に向けられた攻撃はたまらないものがあった。リキは、誕生から一年経つか経たないかの頃突然高熱を発した。あわてた両親が医者に見せると医者は悲しげに「手は尽くします。・・が、今夜持つかどうかです」と言った。両親はリキの死を覚悟したがリキは生還した。が、その後のリキは病弱な子供になった。すぐに風邪はひく、熱は出す、走れば遅い、動作は鈍い、食は細い、頭は悪い・・・と母やその兄弟から見ればはぐいい子供であり姪っこであったろう。しかもリキの姉は丈夫で聡明、運動神経にも恵まれて健康優良児。リキの後の妹もこれまた同様。しかも姉・妹ともに「美人」であったからこれは母や叔父たちの自慢でもあった。

が、姉や妹とは全く正反対のリキは何かにつけて「いじられる」のである。飯椀に盛った飯が食えないでいると、「はよう食わんか!」と口に突っ込まれる。夏には近所の河原に引っ張り出され川に突き落とされる。泳げないリキがアップアップしていると叔父たちが指さして笑う。一度は流れに巻き込まれ半死半生になったこともある。

その時川に飛び込んで助けてくれた、皆が「新田(しんでん)のおっさん」と呼んでいる農家のおじさんが「あんたいくらなんでも泳げんリキちゃんを川の深みに投げ込んだら死ぬるわ。下手したらあんたら人殺しじゃぞ」といさめたが母はフン、と鼻先で笑っただけだった。

家に新田のおっさんの手で運び込まれてぐったりとしているリキを抱きしめて父親は「リキ、ごめんなあ。わしがふがいないけんお前をこがいな目にあわせて・・・」と泣いた。リキはこの時父親の愛情をしっかり感じて嬉しかった。

そんな父が結核で亡くなったのはリキが七歳の頃であった。リキは一番の味方を無くしておさな心にも呆然としていた。

相変わらずリキは、動作も鈍ければ要領も悪く母や叔父たちの攻撃対象になっている。姉も妹も陰で笑って見ているだけ。

父が亡くなって一年後、泊まりに来た叔父たちの布団を敷くリキに、母の弟は言い放った。

「姉さんよ、リキはこいつは旅館の仲居にもなれんぞ。こんなのろいやつは見たことがない」

リキは悲観した。私は将来何にもなれんのか、そしたら私はどうして生きて行ったらええんじゃろうか。

子供心に(お父さんのそばに行きたい)という意識が芽生えても仕方があるまい。常にリキの頭には(お父さんのそばに・・・)がまとわりついていた。細い食が一層細くなり、リキはまさに骨と皮のようになった。

そのリキを見て叔父たちはこっそりと「あれはもう長うないぞ。初めっから死ぬる運命じゃったんじゃ。そしたらもっとはように死んだらえかったのに」と言ったが、それがリキの耳に入っていた。

とたんに。

今までとは正反対の力がリキの全身に盛りあがって来た。(そこまで言われて死んだなら伯父さんたちの思うつぼじゃ!そうはいかん)

翌日から、リキは人が変わったようにモリモリと飯を食った。今まで苦手で箸もつけなかった物にさえ箸をつけて母たちは驚いた。

そして十歳を過ぎた頃には立派な体格をもち、「これがあのちっちゃかったリキちゃんかい!?」と近郷の人々が驚くまでになった。そうすると今度は「でかいやつは使い道がない」と又叔父たちの悪口が始まる。しかし依然と違って健康にもなり神経も図太くなったリキには通じない。その頃リキは、青空を行く複葉機に魅せられ(うちは飛行機乗りになる!)と決意した。がある時実際に飛行機の操縦席を見る機会があったが「なんじゃ、こんとに狭いところにうちは入らんなあ」と思いきっぱり断念。

遠足で呉港に行った際、沖合に停泊する海軍艦艇を見て「おう、これじゃこれじゃ!」と感激して海軍に入ることを決意した。呉海兵団に入団したのはそれから数年後。

入団の際母も姉妹も叔父たちも、誰ひとり身内は来なかった。ただ「新田のおっさん」が少し曲がった腰を、それでも嬉しそうに伸ばして一緒に来てくれた。

「リキちゃん、よかったのう。リキちゃんには海軍がおうとるよ。立派な海軍さんになってくだされよ」

そういって「新田のおっさん」はリキの両手を握って激励してくれたのだった。

そのあと松本リキは持ち前の馬鹿力を生かし海兵団で活躍し、「機関兵になりたい」と海軍工機学校に学び、機関兵となった。

縁の下の力持ちの機関科であるが(うちにはここが一番じゃ)と思う松本兵曹長であった。今では「女だらけの戦艦大和」ではなくてはならない存在である。

 

トメキチに自分の過去を話し終えて、「今が一番ええよ。うちは幸せじゃ、ええ仲間に囲まれてもう何も望むもんはないよ。・・・あ、はよう日本がこの戦争に勝って、アメリカに日章旗をぶったてることが最高の望みかな。ワハハ」と言ってトメキチを抱き上げて子守唄を歌いながら最上甲板を歩く松本兵曹長であった――


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「女だらけの戦艦大和」それぞれの過去、岩井少尉の場合。

「女だらけの戦艦大和」内務科十六分隊電機分隊の岩井特務少尉は、消灯後最上甲板で呉の夜風に吹かれていた――

 

岩井特務少尉は、同じ特務少尉の麻生少尉よりは少しお姉さんである。彼女には海軍に入るまで大変な苦労があった。が、彼女自身がそれを語ることをしなかったためその苦労を知る人はいなかった。しかし最近になって十三分隊の見張兵曹と話をする機会があり見張兵曹のあまりに不遇な子供時代に涙し、自分の過去もそっと兵曹に語ったのだった――

 

岩井特務少尉は父親を海軍士官に持っていた。だから自分もゆくゆくは海軍兵学校に入って、海軍軍人になるのだと決意し日々、兵学校受験の日に向けて研さんを積んでいた。

が、彼女の海軍への道を大幅に遠回りさせる出来事が、彼女が十六歳になる直前まさに唐突にやって来た。

近所のいわゆる【世話焼きばあさん】が、岩井特務少尉に縁談を持ってきたのだ。

「おしんちゃんはええ子じゃけん、どうやら前から目をつけ取ったらしいよ」とばあさんは言った。岩井特務少尉は衝撃だった、結婚なんかしてしまったら海軍に入れなくなるではないか。岩井しんは、必死に断ってほしい旨を両親に伝えた。

が、母親が「女はやっぱり結婚するんが一番の幸せなんじゃ。見合いせえ」と言い張って岩井しんは見合いの席に着く羽目になった。

相手は、野住なる大きな農家の長男。その父親は一年前に他界しており農家は長男とその母が営んでいる。

「まあ、使用人も大勢じゃけえ。しんちゃんには何の苦労もさせんけえね」

そう、姑になる女は言った。夫になる長男もうなずいてまず岩井の母親が先に乗り気になった。父親は「まあ、そんとに急がんでもええんと違うか?」と言ったが母親は譲らず、結局岩井しんは野住家に嫁入ってしまった。

が、ここから岩井しんの本当の苦労が始まった。この家は長男で夫の光雄の下に弟がひとり、妹が三人もいた。妹の一人はとっくに嫁に行っていたが、ほかの二人は家にいて「小姑鬼千匹」と言うが「小姑鬼二千匹」状態。

そしてこの姑が本当に鬼姑でしんは連日連夜、泣くことになった。

「あんたは今までは海軍さんのお嬢さんでお高くとまっとりゃよかったじゃろうがこれからはそうはいかんよ」(今までだってお高くなんかしとらんのに・・・)

「あんたのことはまだ認めとらん」(あの盛大な結婚式はじゃあなんだったん?)

「あんたは農家ってもんをちいともわかっとらん」(じゃけえうちは海軍の家だっていうたろうが、それを承知でもらったんじゃろうが?)

あれこれ言われても、しんは言い返すこともできず腹の中で反論しては居た。ストレスはたまる一方である。

そんな新妻に、夫の光雄は「お母さんを大事にせんか、お前はちいと心得違いをしとらんか?」となじる。小姑たちも口を聞いてくれない。しんは、慣れない畑仕事をこなしながらそっと涙をこぼしていた。そんな彼女の味方は作男や作女と言ったいわゆる「使用人」たちである。そっと、「若奥さん、今は我慢じゃ。そのうちええことあるけえね」と囁いてくれるのが嬉しかった。野住の使用人たちは姑の横暴に実際腹を立てていたので、若い嫁があわれでならなかったのだ。

そうして数年が過ぎたが、しんには子供が出来なかった。

姑は近所の連中に「嫁さんは子供はまだかね?」と聞かれるたびに「あげえ役立たずの嫁は見たことがない。あれは子供の出来にくい身体らしい」とさも医師が言ったような言い方をした。それを聞いた時しんは悲しくて悲しくて、納屋の奥にこもって思い切り泣いた。

そして(あの時こんな縁談受けんでいたらうちは今頃兵学校を出て海軍さんじゃったのに)と、母親を恨んだ。その頃から、しんは急激に痩せた。作男や作女が心配するくらいのやせ方だった。

 

そして、岩井しんの人生の大きな転機がやって来た・・・

ある日、以前から病に伏せっていたしんの最愛の祖母がついに亡くなった。それを伝え聞いたしんは、「今日、祖母の納棺やら葬儀がありますけえ行ってもええでしょうか?」と姑に頼んだ。すると姑は茶の間に座り込んでたくあんをポリポリ食べながらしんを見もしないで言い放った。

「行きたきゃ行ってきな」。

その瞬間、しんの中で何かがぷつりと音を立てて切れた。涙がどっとあふれ出た。しんはもう何も言わないで喪服に着替えると家を走り出た。そして祖母の納棺、通夜、葬儀に立ち会った。野住の姑と光雄は一応葬儀にはやって来た。

「しん、帰らんか?」と言う光雄にしんは「ちょっと具合がようないのでもう一晩泊まって帰ります」と言い、姑はものすごい嫌な顔をしたが黙って帰った。

その晩しんはあまりにひどい仕打ちの数々を父と母に話して聞かせた。そして、涙を流し声を振り絞って「うちはもう、あんとな家に帰るんは絶対にいやじゃ!あげえなものの言い方しかできん人間のおる家はうちには地獄じゃ!」と訴えた。

父親は黙って聞いていたが握った拳が細かく震えているのをしんは見た。父親は怒っていた。母親が我慢せいだとかあんたは辛抱がたりん、などと言っているのを突然「黙らんか!」と大音声で制した。

そして、

「なんでもっとはように言わんかった。そんとな家におらんでも、もうええ!しん、しんは自分のやりたいことをやったらええ。こんとに痩せてしもうて・・・。離縁しよう。俺はしんをあの家の使用人にやったわけではないんじゃけえな!」

と言いすべては決した――

 

そのあとすったもんだもあったがしんは「野住しん」から「岩井しん」に復した。しんは、もう兵学校受験は無理とあきらめてそれでも『海軍に入るんじゃ』と、呉海兵団に入団したのだった。

もともと頭のいい岩井しんは、そこでもめきめき頭角を現し、優秀な成績で出て海軍工機学校も履修した。

人柄は温厚で思いやり深く、しかし何事も几帳面でしっかりするため上官の覚えもよかった。何よりがまん強さがずば抜けていて、それには誰もが驚嘆したがそのがまん強さがあの結婚生活から来ていたものだと誰が想像し得ただろう。

そして岩井しんはいくつかの艦に乗って艦隊勤務を経験し、この『大和』に配属になったというわけである。

 

岩井しんは、傍らにトメキチが立っているのを見るとその場に座りトメキチを膝に入れた。つめたい夜風に、トメキチのぬくもりが心地よい。

岩井特務少尉はトメキチを抱きしめると、「トメキチ。私は今までつらい目にもたくさんあって来たがここで見張兵曹や、トメキチに出会えて本当によかった。今が最高に幸せだよ。つらいことが多かったからこそ、今があるんだろうね」と言ってトメキチの肩にそっと顔をうずめた。

熱い涙が一筋、流れ落ちた。

トメキチは岩井特務少尉の耳元を舐めて慰めた。

(トメさんも岩井少尉も、どうしてこう人間って悲しい思いばっかりしてるのだろう?僕は犬でよかったのかな、やはり・・・)

そう、思ったトメキチであった――


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「女だらけの戦艦大和」・追われるもの6<解決編>

――ブルーのワンピースをすっかり脱がすと助平女史は、オトメチャンの両足を開かしてその「乙女の部分」を包む布を取り去ってしまった。

けがれないあの部分があらわになって男性の目が釘つけになっている。助平女史はそれを嗤いながら見て、「でもね、まだよ。言ってるでしょう、我慢すればするだけ、のちの行為は素晴らしいものになるって。今は見るだけになさい。私が今は遊ぶ番ですから」と言ってオトメチャンをそのままで置いている。

その様子を、壁に耳をつけて必死に分隊士が聞いている。(いったい何してやがんだ、あの女。あの変な男に触れさせたら命はないものと思えよ・・・)とこぶしを握った。(でも。絶対無事に助けてやる、待ってろよオトメチャン)

 

そんな頃、浜口大尉は町中に達していた。(こういう時こそあいつらを駆り出さないでいつ駆り出すんだ)ハアハアと息を切らして走って行く先に「あいつら」がいた。

「キャーっ!!『狂犬浜口』だああ!」と、その場にたむろしていた憲兵嬢の一人が叫んでその場の憲兵嬢たちは恐慌に陥った。逃げようとしたその時。

「逃げるなあ!」と浜口大尉の大喝。憲兵嬢たちはその場に立ちすくんだ。その憲兵嬢たちにつかつかと寄って行った大尉は、

「いいか、今日は貴様らを女と見込んで、立派な憲兵隊と見込んで頼みがあるのだ。この先の旅館でいかがわしい行為が行われているようである。しかもその被害に遭っているのは私の仲間である。これを助け出すため貴様らの力を借りたい!」

と怒鳴るように言った。憲兵嬢たちは顔を見合わせた。ひとりが「しかし・・・ならば海軍の巡邏に頼んだら・・・」と言いかけると大尉はもっとすごい声で「巡羅なんぞでは役不足だから貴様らにこうしてたのんでいるのだ、いやだと言うなら今まで以上にひどい目にあわす!どうなのだ!?」と畳みかける。

さすがに今まで以上に、と言うのを聞いて憲兵嬢たちはうなずかざるを得なかった。二人ばかりが憲兵隊の分駐所に走り、さらに大人数を引き連れサイドカー付きのオートバイを何台か走らせてきた。

その一台のサイドカーに大尉は乗り込むと、「こっちだあ!」と叫んでオートバイを走らせた。

途中、サイドカー内で立ちあがらんとする大尉を「あぶないですからどうかお座りくださいっ!」と制する憲兵中尉に「それより急がんかあ!」と言ってそのほっぺたをつねる大尉。

「痛いぃ・・・」と泣きそうな顔でそれでも必死にオートバイを運転する憲兵中尉嬢は健気である・・・。

(待ってろよお、麻生少尉、トメチャン!)まなじりを決した浜口大尉はまるで戦いの女神のように美しい。

 

その同じころ、あの部屋では男性が唸り声をあげて助平女史に懇願している。

「助平さん、お願いです。順番を私に譲ってください。本当に私はもう、我慢の限界です」ほとんど泣きそうである。

女史は、オトメチャンの足を広げたりうつぶせにしたりといろいろなポーズをつけて遊んでいたがその手をやっと止めた。そしてちょっとうっとうしそうな表情で彼を見返った。ふ―っと息をつくと、男性に向き直り「限界、ですか。そんな人を見て見ぬふりも出来ませんね。しかたがない。代わってあげましょう。でも済んだらまた私に返して頂戴ね。・・・この子は私のお人形なんですからね」と言ってベッドから降りた。

「ありがとうございます!」と男性は礼を言うとベッドに上がった。オトメチャンは相変わらず寝息を立てている。女史は、ソファに腰を沈めて葡萄酒をグラスに注ぎながら「麻酔深度を深く取ってありますからまだ目覚めないはずですけどね。まあ目覚めたら目覚めたでいいじゃないの。それもまた楽しくってよ・・・どうぞ、ごゆっくり」と言ってにっこり笑うと葡萄酒を飲んだ。

それを聞いて安心したようにうなずいた男性は、オトメチャンの体をその手でなでまわして感触を楽しんだ。頬をなでまわし、肩をなでてやがてその手はオトメチャンの可愛い乳房にたどりついた。(小さいが、いい形だ)と男性はその先に指をふれた。そこを摘んでみた。それだけでは飽き足らず、そっと口を寄せるとそれを口に含んでみた。そっと舌の先でつついてみる。そしてねぶりまわした。

(ああ。たまらない)と先を急ぎたいが時間はたっぷりあるし済んでしまったら女史に返さないとならない。(ここは、ゆっくり)と思いオトメチャンのその部分をしつこく舐める。その時オトメチャンがふーう、と息をついた。(麻酔が冷め始めたのか?)

しかしそのため息がなんだか色っぽく感じてなおさらにそそられる男性である。そしてむき出しのままの乙女の部分に触れてみた。

(本当に「乙女」なのだろうか)とちょっと確認しようとしたが(本物だ!)と感激した。固い乙女のつぼみは男性の確認さえ拒否して来た。(これは・・・甲斐がある)と男性は嬉しくなった。全体的には少し幼い感の否めないオトメチャンの体ではあるが男性は自分の欲望が満たせればどうだっていいのであった。男性はオトメチャンの体に自分の体を重ねるとねっとりとした口づけを始めた。

 

隣の部屋では分隊士が窓の外をうかがっている、と、向こうから何台ものサイドカー付きのオートバイがやってくるのが見えた。

(!?憲兵隊が?)と思う間もなくオートバイが数台と三十名ほどの憲兵嬢たちが旅館の前に集まった。しかもその中心は浜口大尉である。大尉は窓から見ている分隊士に今から救出に向かうと言うことを手信号で合図し、憲兵嬢たちは玄関や裏口に回る――。

 

「オトメチャン、と言ったねえ。なんて可愛いんだ、こんな子がまだ処女でいたなんて。俺がそれを頂けるなんてこんな幸せはないよ・・・オトメチャン」

男性はオトメチャンの両足を大きく開くとその間に入った。息を荒げて「ちょっと時間がかかるかもしれないけど大丈夫だよ。・・・俺はうまいからね。痛いかもしれないが大丈夫だよ、ちょっとの間の我慢だよ」と言いながら。

それを部屋の真ん中のテーブルセットのソファに座って眺める助平女史。女史は葡萄酒をグラスに注ぎながら「さあ、オトメチャンもこれで本当の『女』になるのねえ。お祝いよ、今夜は」とひとりごちている。

男性がオトメチャンに侵入しようとしたまさにその時オトメチャンが目を覚ました。自分がどういう状況に置かれているか最初はわからなかったようだが目の前に息を荒げた男性がいて、しかも自分はその男性の下になっている、さらに両足は大きく開かれてその男性が自分を押し付けているのだ。オトメチャンの意識がぱっと晴れた。

「いやああーーー!」とオトメチャンがものすごい叫びをあげた。必死に抵抗した。男性はにやにやと笑いながらオトメチャンの両手を押さえて「お眼眼さめちゃったんだ~。でも、いいよ。一緒に楽しもうねえ」と言ってオトメチャンの胸に舌を這わした。

「やめてえ!分隊士助けてえ!」とオトメチャンが声の限りに叫んだその時。

ドカーン!と、女史の部屋のドアが粉砕された。「わああ!」と腰を抜かした女史の目の前に『三八式歩兵銃・改』を構えた憲兵嬢たちと、浜口大尉始め松本兵曹長や小泉兵曹、そして麻生分隊士が突入して来た。分隊士は先に憲兵隊に救出されてきたのだった。

男性はオトメチャンの上になったままポカーン、としてこっちを見ていた。その男性と女史は憲兵嬢たちに銃を突きつけられて「立て!分駐所で話を聞く!」と引っ立てられて行った。もちろん隣室の太郎左衛門氏も同様である。男性軍は素っ裸と言う実にみっともない格好で憲兵嬢たちに引き立てられてゆく。

彼女たちが出て行くと、分隊士はベッドの上のオトメチャンにそっと寄って行った。

「オトメチャン・・・」とベッドの上に上がってオトメチャンのうつぶした肩に手をかけた。オトメチャンが顔をゆっくりあげて分隊士を見た。とたんにその瞳に涙が盛り上がった。すぐに流れ落ちる大粒の涙。

「分隊士ぃ・・・」と涙声で分隊士にしがみつくオトメチャン。その体をしっかり抱いて分隊士は「遅くなってごめんね、オトメチャン。大丈夫だったか」と囁いた。オトメチャンは泣きながらも「大丈夫です。分隊士が助けてくださったから・・」と言った。しばらく泣いていたオトメチャンだったが、突然ハッとしたように顔を上げると、

「分隊士、分隊士こそあのすごく大きな男の人に何かされたんじゃないんですか?」

と尋ねた。分隊士はにっこり笑うと、「俺は大丈夫、この膝で撃退してやったからな。一撃必殺の股間蹴りじゃ」と言ってそこで初めて二人は笑いあったのだった。

 

その後、あの連中は憲兵隊から警察に身柄を引き渡された。やり方が悪質であると言うので逮捕された。また太郎左衛門の言っていた分隊士との「婚姻」はうそだったことが分かってほっとする分隊士。

「太郎左衛門は、嘘ついておけば俺があきらめてあいつの嫁になると思ったんじゃろうな、そうはいくかい!」と分隊士は口をひん曲げていた。

「でも・・・」と見張兵曹は言った。「もう追われるのはいやであります。特にああいう人たちに追われるのは。・・・追われるならば」

「追われるならば?」と問う分隊士の胸に見張兵曹は顔を寄せると、

「分隊士だけに追われたいであります」

と言って、感動した分隊士はおもいっきり見張兵曹を抱きしめたと言う。

また浜口大尉は、憲兵隊のお嬢さんたちに「あの時は世話になった」と間宮羊羹だのパイン缶だのたくさんの品物を贈って感謝の意を表した。

憲兵嬢たちは「あの人って思うたよりもええお人じゃ!」と大感激していたが・・・その後も大尉は彼女たちを見れば襲いかかっているのだと言う――


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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