「女だらけの戦艦大和」・流行に乗り遅れるな2<解決編>

防空指揮所に入って来た松岡分隊長を見て皆は一様に驚きの声を上げた――

 

「どう?私に似合ってるかな」

と松岡分隊長はちょっとだけ気取ってポーズをつけて見せた。皆は口の中でうわあ、と言って彼女の周りに集まった。

松岡分隊長は、昨日の上陸の際買って来た「黒メガネ」をかけている。それがなんともかっこいいのだ。

麻生分隊士までが寄ってきて、「分隊長。これをどこで手に入れたのですか?」と聞く。分隊長は笑って、「大通りの露天だよ。ほらみんながよく行く慰安所のそばにいつの店を出してるおじさんのとこ。安いけどいい品物だよ」と言ってそれを外してみんなに見せた。

「ほお。これをかければ日光も眩しくないですな」と石場兵曹が言う。見張兵曹も「訓練時にかけたら目の疲れが違うかもしれませんね」と言う。松岡分隊長は「これは私がいた空母・瑞鶴の見張り員たちの間でおおはやりだったんだ。直接日光を見るわけではないが結構南方の陽の光はきついからね、これをかけてればずいぶん違うんだよ。瑞鶴時代はいろんな形のものが流行ったなあ」と言う。

だんだん、その場の皆が(これ、欲しい)と言う気分になって来た。

それを察したか、松岡分隊長は「では明日の上陸の時私がみんなの分を買ってこよう。いいかな?」と言ったのでやんやの喝さいとなった。

麻生分隊士が「では分隊長、メガネ代をここで徴収しますか」と言うと松岡分隊長はいやいやと手を横に振って「いいかい麻生さん。私が明日かってくる黒メガネは私からみんなへの贈り物ってことで、料金はもらわないよ」と言った。

ちょっと驚いた皆、「いいのでありますか?」とか「それでは申し訳ないであります」と口々に言う。

それを手で制して分隊長は「いいんだよ。その代り普段の訓練ももっともっと、今まで以上に熱くなって欲しいんだ!」と言い、皆はその場で片手を天に突き上げて「バンブー!」と叫んだ。

黒メガネをかけた分隊長を中心にして妙な盛り上がりを見せる防空指揮所・・・。

 

さて場所は変わって機銃分隊。

露天機銃座にしゃがみこんで増添兵曹が何やらしている。そう、大事な『部分かつら』のお手入れである。

かつて前髪がすっかりごっそり抜けてしまった際、その空虚なこころを慰めてくれた『部分かつら』とはもう離れられない増添兵曹である。

そこに、長妻兵曹がやってくると増添兵曹の横に座った。何やら手に持っている。

「何持ってんのさ?」と聞く増添兵曹に長妻兵曹はその両手をそっと開いて見せた。その手のひらにはふんわりと、『部分かつら』が載っている。

「なに!?なんで長妻兵曹が?・・・どこか禿げたんか!?」

素っ頓狂な声を上げる増添兵曹に長妻兵曹は静かにしろって、と言ってから「増添兵曹、知らないのかね?あんたが『部分かつら』作ってから機銃分隊じゃこれがちょっとしたブームなんだよ」と笑った。増添兵曹はちょっと複雑な顔で、「へえ。ブームね。で?なんで禿げてもない貴様らがこんなものを買うのよ?」と言った。

長妻兵曹はエヘン、と咳払いをしてから「じゃあ聞かせてやろう。あのな、これで上陸の時髪をふんわりさせて変化をつけるんだよ」と言ってから「ちょっと見てろ」と言うと手にした『部分かつら』を自分の後ろ髪を縛るゴムをほどき、再びかつらと一緒にゴムで自分の髪の毛を縛った。

「おお!いいじゃん!」

増添兵曹は声をあげていた。長妻兵曹の、やっと肩まで届くくらいの髪が『部分かつら』のおかげで肩の下くらいまで長くなった。

「どうじゃ。これでええ女が更にええ女になる」

長妻兵曹はちょっと得意気である。そして「みんなこういうことして上陸の時は楽しんでるよ」と言うと、「これは艦内では増添兵曹以外はご法度だから」と外した。

ちょっと驚いた増添兵曹が機銃分隊内をそれとなく見て回ると機銃員たちは皆それぞれの『部分かつら』を持っていて上陸の際は必ずそれを持ってゆき、食堂の化粧室などでそれを装着してからしかるべき場所に行くのだと言う。

(でも)と増添兵曹は少し悲しくなった、(みんなはもともと髪が多いからいろいろ出来るけど私は少ないから「かつら」本来の使い方しかできない・・・)

そんな悲しさを一刻も早く打破するため、今日も増添兵曹はまだまだうすい前髪部分を豚毛のブラシで叩いて「頭皮の刺激」に余念がない。

(これが私の中の流行、いや!ちがう。これは私を、私本来を取り戻すための『仕事』なんだ!)そう、使命感にも似た感情で頭皮を叩く兵曹を、機銃の指揮官の平野少尉が(ああ、大変だなあ。早くふさふさになりますように)と後ろから拝んでるのを兵曹は知らない。

 

さて。

翌日、十三分隊の松岡分隊長は予定より早く上陸から戻って来た。

「あれ?分隊長は今日は泊まりだったのでは?」と言う麻生分隊士と見張兵曹に笑って見せた分隊長は「ここの配置のみんなを呼んで」と言って、皆が集合した。

「どうしたんです」とどやどや集まった皆に分隊長は

「みんなあ!さあ、これが昨日約束した『黒メガネ』だよ。さあ、一人一つづつ受け取ってほしい」

と言って分隊士から順々に渡して行った。

皆にわたると分隊士の音頭で「ありがとうございます!」と一同敬礼。それを満足そうに見てうなずく分隊長。

「さあ、みんなもさっそくこれをかけて熱くなろうじゃないか!」と言うことでその場の総員『黒メガネ』をかけた。

「わあ、似合うじゃねえの!」とか「ちょっと不良っぽくっていいな。巡邏がビビりそうな感じ!」などと言っては笑いあっている。

麻生分隊士は『黒メガネ』をかけたオトメチャンを見て「おお、そういうオトメチャンもいいなあ、ときめいちゃうよ」と興奮気味。オトメチャンは恥ずかしげに「そうでしょうか・・」と言う、それがまた分隊士にはたまらない。

そこに梨賀艦長と野村副長、森上参謀長が上がってきてその「異様な」光景に立ちすくんだ。

確かに異様な光景であった――防空指揮所の見張りや伝令はおろか、分隊長・分隊士までが『黒メガネ』をかけて集まっているというのは。

息を飲んだ参謀長が言った――「うわああ。「ちょい悪見張り員」だ・・・」。

 

この『大和』艦内のそれぞれのブームは終息の目途なし、である。今日も第一艦橋では「ヘンな臭い」のお茶が喫され機銃分隊では上陸時に皆がそっとポケットやカバンに『部分かつら』を偲ばせている――


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「女だらけの戦艦大和」・流行に乗り遅れるな!1

近ごろ巷に流行るもの・・・どこの世界でも何かしらある。当然『女だらけの帝国海軍』だって――

 

「おーい、誰か『美白』持ってない~?」

と大声で叫ぶのは、今日上陸の兵長。それを聞きつけて「はい、どうぞ」と差し出したのは一等水兵。兵長はありがと、と言ってそれを受け取ってポケットに入れる。

兵長は「この『美白』も人気が出て長いね。ずいぶんと長い間海軍で流行ってるよね」と言う。一等水兵は「そんなに長いんですか?」と兵長の顔を見る、兵長はうんと言って「もう十年くらいかな、ロングセラーだよ。これが無いと艦隊勤務も陸戦隊も航空部隊も困っちゃうよね」と笑う。

そう、この『美白』とは海軍将兵の日焼けを防ぐために国内の様々な化粧品メーカーからサンプルを募って海軍省が長年選考していたものだった。

多くの将兵のモニターを使い「これがいい!これが一番であります」という圧倒的多数の声を受けて採用したのが「美白の女王」こと鈴木なにがしの『美白』であった。

これが無いと二等水兵から提督に至るまで作戦に従事を渋る、とさえいわれる代物である。

 

さて。

『大和』艦橋内。

梨賀艦長と野村副長、森上参謀長が何やら飲んでいる。不思議な臭いが艦橋内に充満してその場の配置員はちょっと変な顔つきである。しかし三人はお構いなしでそれを飲む。

「これっていいねえ、これを飲むと老化現象に歯止めがかかるなんてねえ。さすが漢方薬のお茶、体に優しくってじんわり効くってのがいいよね」

梨賀艦長が言うのへ、森上参謀長が周りを見渡して「し―っ!」と人差し指を口に当てた、そして「梨賀、ほかの物に聞かれちゃならんぞ。これはおれたちだけの『はやり物』なんだから他の連中の間に流行っちゃったら意味がないんだから。これを飲んで今より十年は若返って『武蔵』の猪田艦長をおどかすんだろ?」と言った。

野村副長がいたずらっぽく笑って、「そうですよ。流行りものったって『自分たちだけのもの』もあるんですよ、艦長。なんていいましょうか・・・そう「マイブーム」だ!」と言って一人で笑う。

森上参謀長が「マイブームねえ・・」と言って漢方薬のお茶を飲み干した。

配置員は相変わらず匂いに閉口している。

 

ラバウリ航空隊では渡部陽子少尉が、何かを大事そうに持っている。

「なんですか、それ?」

と目ざとく見つけた斎藤祐樹子上飛曹が寄って来た。斎藤上兵曹は野球のグローブと硬球を持っている。

渡部少尉はいつものようにゆっくりと「あのね、これはね、『パワー・ストーン』っていうんだよ~」と教えてやった。斎藤祐樹子上飛曹は「へえ、『パワー・ストーン』っていうんですか。なんだか、ストーンなんて落っこちたみたいですねえ」と言ってグローブを抱えて笑う。

渡部少尉はそれを微笑みながら見て「いや、これは落っこちないようにおまじないを掛けてあるんだよ。飛行機をこの石の力でいざというときは持ち上げてくれるんだよ」と言った。

斎藤祐樹子上飛曹の顔がちょっと真面目な顔つきになった。

「なんと!そんなに素晴らしいものを少尉はいったいいつどこで手に入れたのですか?」

じりッ、と少尉ににじり寄って訊ねる。渡部少尉はちょっと怖げな顔を作ると、

「それはね、私がむかーし大学に行っていた頃趣味であちこち写真を取りに行ってたんだ。これはインドを旅していた時そこの修験者に気に入られていただいたんだよ」

と答えた。斎藤祐樹子上飛曹は、はあ、とため息をついて「やはりそういうすごいものはインドとかに行かねば手に入らんのですね。ああ、私も欲しいもんです」と言った。渡部少尉は少し考えると、

「そういえば~。ここの滑走路で時折見かける光った石、あれも『パワー・ストーン』かもしれませんよ?みんなが気がつかないだけで」

と言った。とたんに、斎藤上飛曹の顔がパーっと明るくなって「少尉!ありがとうございます」と言うなり滑走路に向かって走り出して行った。

滑走路にへばりついて何かをしている斎藤祐樹子上飛曹に気が付いて他の下士官たちが「何してんの」と近寄る。斎藤祐樹子上飛曹はこれこれこうだ、といままで渡部少尉と話していたことを話して聞かせた。

皆は「おおう!そんなすごいものがここにもあったなんて!探そう探そう!」と言ってたくさんの航空兵が滑走路上にはいつくばる結果になって、ラバウリ航空司令はそれを最初見た時「なんだあれは!集団自決かぁ!」と卒倒寸前だったとか。

そして――ここラバウリ航空隊では「滑走路上のパワー・ストーン」がちょっとしたブームになり、その噂を聞きつけた他の航空隊からも「ほしい!今度持ってきてぇ?」と言うオファーがひっきりなしだそうである。

 

さて、再び『女だらけの戦艦大和』艦上。

「みんなあ、熱くなってるかあ!」

といつものように叫びながら防空指揮所に入って来た松岡分隊長を見た麻生分隊士、見張兵曹、小泉兵曹他から「うわあ!」と言う叫びが起きた―― (次回に続きます)

  ・・・・・・・・・・・・・・・・

一体何が起きたのでしょうか、次回をお楽しみに!


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「女だらけの戦艦大和」・坂井少尉やんちゃ時代

常夏の、椰子の実揺れるある島で女だらけの某航空隊の飛行兵たちがやんちゃをしている――

 

握り飯の大食い大会とか、煙草をいっぺんに何本吸えるかとかちょっと見にはくだらないやんちゃではあるが明日をも知れない航空隊の兵たちにはこんなやんちゃも命の洗濯のうちなのだろう。

それを微笑みながら見ていた坂井三子少尉はふと、自分が下士官時代の「でかいやんちゃ」を思い出していた。

 

あれはまだ、坂井少尉が台西航空隊の一等飛行兵曹時代であったころ。

ある時南方に進出していた航空隊に「チートモレスビーのマイルドセブン基地を攻撃、壊滅せよ」との命令が出た。坂井兵曹は出撃準備をしながら僚機の西沢広世一飛曹・太田敏江二飛曹にこっそりと、

「今日対して大きな作戦でなかったなら決行するよ?作戦終了後集合だよ」

と言って三人はこっそりと笑いあったのだった。

そして出撃。エンジンも轟々と快調である。次々に飛び立つ零戦隊。

この、坂井兵曹たちは攻撃機隊の前に飛んで索敵・哨戒に当たる。

「チートモレスビー・マイルドセブン基地には敵の残存戦闘機隊がいる、これを守るためにあっちも必死で来るからな。気を引き締めてかかろう」

皆はあちこち目を配るのも忘れない。

そうするうちに坂井兵曹は遠く青い空に違和感を覚えた――「来るぞ、敵の戦闘機だ!」隊長機に知らせる、敵はまだこちらに気がついてはいない。

隊長機以下は敵機の下側に回り込むような形で攻撃を開始、下から敵戦闘機を銃撃した。煙や火を吹いて落ちる敵の戦闘機。

俊足で小回りのきく日本の零戦の前には敵ではなかった。

そのあとを我が方の攻撃隊がマイルドセブン基地のせん滅に向かう。零戦隊はそのさらに上空を直掩する。

マイルドセブン基地では日本海軍攻撃隊を迎え撃つだけの余力がもう残されていない状態であった。

その頃にはチートモレスビーのあたりは日本の制圧下にあったのでこの基地は味方からも見捨てられた状態であった。

「かわいそうになあ、ここのアメちゃんもさ。でも俺たちに見入られたが終いだよ。・・・さあ、行くぞ!」

攻撃隊隊長は列機を導いて、急降下――!!

 

チートモレスビー・マイルドセブン基地への攻撃は成功裡に終わった。

攻撃隊と零戦隊は帰途に着く。

しばらく飛んだ時、零戦隊の隊長は坂井兵曹機がいないのに気がついた。

「あれっ!!坂井兵曹はどうした??」

しかしこの時隊長は坂井兵曹だけでなく西沢機・太田機もいないことまでは気がつかなかった。

 

その頃零戦隊から離れた場所で坂井機は待っていた、そこに二機がやって来た。

「来たなあ、さて!行くぞ」

坂井機は二機に合図を送ると、三機は大きく旋回して元来た方に戻って行ったのだった。

 

ボコボコにされて今や見る影ないマイルドセブン基地である。

金髪の女兵士たちは涙ながらに後かたずけ。「なんてひどいことを、あのジャップ女ったら。ああ、早く迎えが来ないかなあ、早くカリフォルニアに帰りたい・・・」とアンナ軍曹が泣き声を出した。

その声に他のアメ嬢たちも同調した。

その時。

「見て!ジャップの飛行機が!!」

上空を見上げてハミー上等兵が叫ぶ。皆がハミーの指さした方を見ると、なんと。

零戦が三機、こちらに向かってくるではないか。恐慌に陥るアメ嬢たち。「いやーッ!私たちを皆殺しにする気!?神様!!」

しかし。零戦三機はアメ嬢たちを皆殺しにしに来たのではなかった。

呆然とする彼女たちのはるか上で、華麗な編隊飛行を見せたのだった。宙返りを何回かして、見ていたアメ嬢たちも知らず喝采していた。

そして、零戦たちは去って行ったのだった。

坂井兵曹たちは「やった!敵に見せてやったぜ」と凱歌を上げた。「だけど、司令や隊長には内緒だぜ」

 

それからしばらくして、海軍航空隊基地に一機のアメリカの戦闘機が飛んできた。それは低空で来ると何かを落としてあたふたと去って行った。

通信筒のようなもので司令がひらって見れば中には、

「先日は華麗なアクロバット飛行をありがとう。感激しちゃった。今度来る時は目印に真っ赤なマフラーで来てね、私たち大歓迎の用意があるから」

と書かれた紙が入っていた。たどたどしい日本語であるからきっと日系アメリカ嬢が書いたものかもしれない。

呼びつけられた坂井兵曹たちは一瞬「叱られる!」と身を固くしたがそうではなかった。

司令は「こいつら懲りてねえな、『大歓迎の用意』があるってから受けに行こうじゃないか。せっかくだからね、こっちもでかい土産持ってってやろうぜ」と言って、かわいそうにマイルドセブン基地は完全に叩きつぶされてしまったのだった。

・・・もちろんその際、攻撃隊はひとり残らず真っ赤なマフラーを巻いて。

日本の攻撃隊が意気揚々と去った後、完全に潰された基地の塹壕の中でアメ嬢の一人は言ったものだ。

「・・・ひどい。あれは本当に褒めていたし歓迎するつもりだったのに。こんなひどいお土産くれるなんて。早くカリフォルニアに帰りたいよう・・・」

 

坂井少尉はそんなことを思い出してひとりちょっと思い出し笑いをした。

そのそばに、武藤金代少尉が来て「坂井さん何笑ってんの?」と話しかけられ「うふふ。ちょっとね、昔のやんちゃのこと思い出したのよ」と笑う坂井少尉であった。

    ・・・・・・・・・・・・・

この話は実際に坂井三郎少尉が、下士官時代になさったことをモチーフにしたおります(てかほとんどそのままという感じもしますが)。
坂井三郎一飛曹、西沢広義一飛曹、太田敏夫二飛曹のトリオがポートモレスビー・セブンマイルズ飛行場で見せた華麗なアクロバット飛行です。


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「女だらけの戦艦大和」・あり得ないお年玉2<解決編)

初春の陽射し眩しいトレーラ島、『女だらけの戦艦大和』の最上甲板上でそれは起きた――

 

森上参謀長が「ここのみんなに私から『お年玉』を進呈する。が、皆中身を見る前に服を脱いでふんどし一本になりその服の上に座れ」と宣言。

「ええ!?・・・お年玉いただくのになんでふんどしに?」

と皆はいぶかった。しかし参謀長の有無を言わさぬ様子にそろそろと服を脱いだ。参謀長はそれを見回すと、「よし!では持ってきた筆記用具のみその場に置き、お年玉を出せ!」と言う。皆は鉛筆と消しゴムをその場に置くと『お年玉袋』からそれをひっぱりだした。

畳まれたものを広げて皆はびっくり。お金の類では、ない!!

「か、か、か・・・海軍検定!?」

にんまりとする参謀長。うんうんとうなずいて

「そうだ!年の初めだからと言って浮かれていてはいけない。今年は引き締めのために『検定』を行う。50問の問題がある。回答方法は選択式の物と記述式があるから間違わぬよう。30問できなかった者は不合格者として厳しい罰直を与えるからそのつもりでおれ!それから服を脱いでもらったのはカンニング行為を防止するためであるので念のため。では時間は今から一時間である。・・・用意!・・・かかれ!」

といきなりの号令、慌てふためいて問題にかかる中尉以下の乗組員たち。

皆それぞれ必死になっている、不合格になれば厳しい罰直があると言うのを聞けば必死にならざるを得ない。皆甲板上に腹ばったりしながら問題を解く。

時折、「うわあ・・・これ、なんだったっけ?」とか「おう、これなら楽勝だね」などとつぶやきが聞こえる。

参謀長はそんな皆の間を回りながら「カンニング行為は不合格とみなすぞ。まだ時間はあるから落ち着いてやれ!」と言って様子を見る。

そんな中、麻生分隊士は(やべえ。あんまりわかんねえぞ。待てよ、俺が不合格になったら分隊士を解任されるかもしれないなあ、そしたらオトメチャンとも引き離されるかもしれん。絶対それだけはならん!・・うん!一番踏ん張ろう!)と記憶や知識を脳みその引き出しから総動員し始める。

松岡分隊長はお守りのようなラケットを参謀長に「検定中は私が預かる」と取られてしまいちょと腐っているが(分隊長としていいとこ見せなきゃな!)と鉛筆を走らせる。

松本兵曹長、長妻兵曹、増添兵曹、見張兵曹、酒井上水、亀井一水・・・『受験生』たちはもう一言も発することなく問題にのめり込んでいる。

(もしかしてこれに高得点で合格したら一階級特進も夢じゃないかも!頑張ろう!)

カリカリと鉛筆が紙の上を走る音だけが聞こえる奇妙な年の初めの『大和』艦上である。

 

「終了五分前」と参謀長の声に皆はハッと我に返る。

「見直しをした方がいいぞ」と誰かが言う。見張兵曹はほっと息をついて、(ああ、だめだなあ。私はきっと罰直だ。どんな罰直なんだろう、バッター50回とかそんなふうかなあ?ああ、怖いなあ)とちょっと暗然たる思いに駆られる。

(いやな正月だぜ、全く)と思うのは松本兵曹長。仲良しの『狂犬浜口』こと浜口大尉はこれを受けないのできっとこの話を聞けば面白がって結果を聞きたがるだろう。

(万が一にも不合格になればあのふっとい腕でどやされる。やなこった!)と思う松本兵曹長だが自分の腕も相当太い。

 

「時間だ!後ろから順々に集めろ」

と参謀長の声に皆は鉛筆を置き、回収作業に入る。回収し終えた解答用紙は参謀長がひとまとめにして、「これは明日中に結果を出し、明後日3日の朝第一砲塔に掲示するのでみんな見に来るように」と言った。最前列の少尉がおずおずと手を挙げた。

「ん?どうした?市川少尉」と参謀長。市川海老乃少尉はその端正な顔を引き締めて、

「あの。不合格者はその時どうしたらよいのでありますか?」と聞いた。皆がごくっ、と喉を鳴らした。森上参謀長はニタリ、として「不合格者にはそれぞれ通知を出す。その通知に従って行動してもらう」と言い、解散を命じた。

皆は脱いだ服を着て鉛筆を仕舞うと思い思いの場所に散開した。

13分隊の皆は艦首方向に集まった。

「分隊士。分隊士は合格でしょうね」

「分隊長も合格でしょ、自信ありげですもん」

「そういう石場兵曹の方が合格だろうが?自信あるくせに言うなよ!」

「私最後の問題きになるなあ」

「あれは確か・・・」

「ギャッ!言わないで!違ってたらショックだから!!」

それぞれ勝手なことを言ってまとまりのない13分隊である――

 

そして。

1月3日の朝になった。

朝早くから『受験生』たちは第一砲塔前に集まっている。心なしか顔色がよくない。

どのくらいその場で待ったか、やがて森上参謀長が紙を持ってやって来た。「おお、皆もう集まってるのか。・・・では、お待ちかねの『合格発表』だ!・・・総員後ろ向け後ろ!」と号令をかけて皆は後ろを向いた。

ガサガサと紙を張り出す音がする・・・ああ、蛇の生殺し状態だ・・ダメならダメで早くはっきりしたい・・・。

「さあ、いいぞ。みんなこっち向け!」

その声に皆が振り向けば――

「全員合格」

と参謀長の見事な筆で書いてあり、皆はおおーっと声を上げて喜んで見たり胸を撫でおろしてみたり。参謀長は皆をにこやかに見回して、

「さすがは『大和』の乗員だ。皆及第点であった。これからもこの調子で頑張ってほしい」

と簡単な訓示をして終えた。

 

この『海軍検定』の合格率は100%ではあったが、最低点は亀井一水の31点(!)、最高点は95点で数名、その中には見張兵曹もいた。

しかし。

この全員が間違った記述式の問題に、参謀長は最初腹を抱えそのあと頭を抱えたのだった。

その問題とは。

>武漢三鎮を記せ

と言うもので回答はほとんど「横鎮・呉鎮・佐世鎮・舞鎮」のいずれかの三つが書かれていたのであったのだから・・・。

「鎮」の字を見て『○○鎮守府』と早合点したのか。それとも最初からその知識が欠如していたのか。

参謀長の悩みは始まったばかりである――

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

検定流行りですね。でもどんな検定でも自分の興味ある者を受けるのは自己啓発によいと思います。私も昨秋、「戦史検定」受験しました(なんとか合格できましたがきっと点数は亀井一水並みでしょう。泣)。

この話の中の『武漢三鎮』の話は実話です。とある試験中あったそうです。

ちなみに「武漢三鎮」は漢陽・漢口・武昌のこと。「鎮」は街を現す語です。


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「女だらけの戦艦大和」・あり得ない「お年玉」1

『女だらけの大和』『女だらけの武蔵』他の艦艇で乗組員たちが雑煮を祝っている時・・・『女だらけの大和』で艦長連中が大乱闘をしている時・・・

『女だらけの大和』の艦内の一室で森上参謀長が不気味な笑いを浮かべていた――

 

めでたい元日である。各艦の乗組員はおとなしく元日を祝っているが前述の通り『大和』の年賀に集まった艦長たちはつまらないことで乱闘騒ぎになっていた。しかしやがてそれも納まり、再び和やかに新年の祝いの祝宴が始まっていた。

ふと『武蔵』の猪田艦長が「あれ?森上参謀長はどうなさった?風邪でもひかれたのかな?」と盃を干しながら言うと梨賀艦長はそっと首を左右に振って、「いえいえ。なんだか知らないけど中尉以下の乗組員に『お年玉』を上げるんだと言って昨晩から部屋にこもりっきりなんですよ」と言った。

『遅霜』と『陣痛』の艦長が顔を見合わせて「乗組員にお年玉を!なんて素晴らしい」と感嘆し合っている。

戦艦の艦長たちも(お年玉、かあ。うん、普段頑張ってくれてるみんなに上げると艦長の株も上がるってもんかな?)なんぞと思っているが。

 

森上参謀長が上げる、と言うお年玉はただの『お年玉』ではない。

「ククク・・・。渡されて驚くな・・・『○○○○(都合により今は伏字)・森上版』というすんばらしいお年玉だ。これに○○できないと・・・ウフフフ!!」

森上参謀長は気味悪く笑いながら原稿を持って部屋を出た。下甲板の隅っこに参謀長がこっそり作った『印刷室』で原稿のガリ切りを始める。

そして印刷。インクのにおいが充満して参謀長の気分がいやがおうにも盛り上がって来た。

「ククク・・・。ああ、楽しいなあ」と独り言を言いながら作業を続ける。

 

そんなどす黒い?策略があるとは知らない『大和』のみんなは元日を満喫している。今日は課業もないので嬉しい一日。しかもアメリカ軍は今や遠く去ってたとい反撃してこようとも

「鎧袖一触だぜ!!」

とは麻生分隊士の弁。分隊士は最上甲板に部下を集めて新年の訓示のつもりらしい、「いいかあ。あのハワイ守備作戦で見たろうがよ?こちとらにはすっげえ兵器があるし第一アメリカには開発不能な『磁性塗料』があるからな。これをもっと使えばアメ公なんぞ敵じゃあねえ。みんな自信を持てよ。・・・ま、かといってあんまり図に乗ってもいけないからな。適当にふんどし締めてかかれよ」と偉そうである。

真剣に聞き入っているのは見張兵曹だけだがそれには気がつかない麻生分隊士。

そこに松岡分隊長が例によってラケットを担いで登場。ちょっと三種軍装の胸ポケットのあたりが膨らんでいる。

「おお!みんな今日はここで熱くなってるな。・・・明けましておめでとう、みんな!今年もよろしくー!!バンブー!」

と叫び、みんな――麻生分隊士までも――「あけましておめでとうございます、バンブー!!」と意味不明なあいさつをした。松岡分隊長は満足げにうなずく。そして、「航海科所属の見張り君、伝令君たち!みんな昨年は新参者の私に親切にしてくれてありがとう!そして私と一緒にハワイを戦って勝利したことは私の人生に置いて大変な喜びである。本当にありがとう!今年もその心で頑張って行こうじゃないか!・・・と言う訳で」と言うと何やら懐から引っ張り出し始めた。

なんだかちょっと大きな包みのようだ、だから胸ポケットが大きく膨らんでいたのか。分隊士は納得した。

分隊長は「では、みんなに。・・・お年玉だ!」と言うと包みの中の小さなのし袋を一つづつ配りだした。最後に「分隊士、今年もよろしくね」と言って麻生分隊士にも手渡した。

「松岡分隊長・・」と麻生分隊士は声もない。他の分隊員たちも感激のあまり涙ぐんだりしている。

皆は次の瞬間、その場に整列すると「松岡分隊長!ありがとうございますっ!」と大声で礼を言った。松岡分隊長はいやいや・・・と手をあげて遮るようなしぐさをすると「ではまた!あとで!」と言うなりラケットを振り振り、走り去って行った。分隊長は照れ臭かったのだ。

それを麻生分隊士は悟っていた、「あの人は本当に・・・気配りの人だな」と小さくつぶやいた。

 

そしてその時は来た。

元日の午後、皆がくつろいでいた時いきなりスピーカーから参謀長の声が流れた。

「中尉以下の総員は筆記用具を持参のうえ急ぎ最上甲板に集合せよ、急げ!」

皆は「正月早々なんだあ?まさか・・・大きな作戦が!?でも筆記用具ってなんでさね?」といぶかりつつ最上甲板にどやどやと集まった。

その中には当然松岡中尉もいて「中尉以下、と言うから私も来たぞ!…ところで一体何が始まるんでしょうね」とラケットを担いで周りに話しかけている。

そこに森上参謀長が現れいでて、第一砲塔に登ると「皆各分隊ごとに整列せよ!」と怒鳴り皆はその通りにした。

そして皆が整列し静かになったところを見計らって参謀長はちょっともったいつけて言った。

「今から皆にいいもの・・そう、『お年玉』を進呈する」

一斉にわく『大和』の乗組員たち。

しかし。

その内容の恐ろしさにはまだここに集まった誰も気が付いていないのだ。

      (次回に続きます)


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見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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