2010-12

「女だらけの戦艦大和」・来年もどうぞよろしく! - 2010.12.30 Thu

『女だらけの戦艦大和』もいよいよ年の瀬を迎えている――

 

今夜は月のきれいな晩である。当直の明けた、あるいはまだ時間のある兵員たちは最上甲板に集まりだしている。

「オトメチャン、月がきれいだよ!」そう言って麻生分隊士はオトメチャンを呼んだ。見張兵曹は分隊士の後を追ってきて空を見上げた。

「うわあ・・・きれいなお月さまですね」と感に堪えたように言う見張兵曹に分隊士は笑いかけた。

「今年の正月もここでだったね、この頃内地で正月が迎えられないのがちょっと残念だな」と麻生分隊士は言ったが見張兵曹は笑って、「いいえ。私はどこで迎える正月でもいいんです。分隊士がいてくださるならどこだっていいんです」と言った。それを聞いた麻生分隊士は満面の笑みを浮かべた。

「オトメチャン!なんてかわいいことを!!」

言うなりひし、と兵曹を抱きしめる分隊士。それを見て他の兵たちが「おおう!もう始まったぁ!」と大喜びしている。

 

皆は、舷側のハンドレールの前に一列に並んでいる。自然とこういう形になったのだが、月明かりに照らされた海面を見つめる皆の脳裏に懐かしい故国・日本の年末と正月の風景が浮かんでいる。

誰かが一人語りのように話し始める――「そういえば子どもの頃、大掃除を手伝って障子紙を破ったのはいいけど母さんに『それは張り替えたばっかりのだ!』ってしかられたことがあったな。それから掃除の後妹と取り合って食った干し柿の美味かったことったら。・・・ああ。あの干し柿もういっぺん食いたいなあ」

別の一人が、「年末になると一家総出で餅をついたもんよね。とうさんがついて母さんがこねるんだけどそのタイミングが絶妙でさあ、他の誰にも真似できないんだよ、あれだけは。普段喧嘩ばっかりしてる夫婦だったのにあのときだけは一致団結してなんか可笑しかったな」

更に他の一人、「餅ってばさ、うちの爺さんが餅が大好きでさ、雑煮にいつもこんなでかいのを3つも4つも入れて食うわけよ。で、ある時大事件が――」と言いかけると隣の水兵が、「もしかして喉に詰まっちゃったの!?」と怖そうな声を上げた。

が、「いや違うの。爺さん張り切って食ったのはいいけど餅に入れ歯がめり込んじゃってどうにも取れなかったのよ、で、餅の中から入れ歯をさぐり出したってわけ」

これにはその場にいたみんなが大爆笑した。

笑いが収まると今度は航海科の亀井一水が、「私は昔兄に『おう、静。貴様にお年玉くれてやる!』って言われたんですよ。あのどケチな兄貴が珍しいもんだと思ったらやっぱりと言うかなんというか、くれたのは固い野球のボールの直撃弾でしたよ」といい笑いがおこり、さらにそれを受けて機関科の兵長が「うちも同じようなことがあってですね、やっぱりうちの兄貴もどケチなんですがこれがやはり珍しく庭の柿の樹から『ほらお前にやるよ』って柿を取ってくれたんです、嬉しくってね、思わずかぶりついたらまあ何と渋いこと渋いこと・・・泣きましたよ」

爆笑。

 

皆は静かに空を見上げ、波が『大和』のへりを叩くひそやかな音に耳を傾ける。

「懐かしいな、内地」

「うん・・・ここもいいけどやっぱちょっと帰りたいね」

「みんなどうしてるかなあ。・・・姉さん、母さん」

「元気で新年を迎えてほしいなあ」

「お母さん・・・」

「お姉さん・・・」

「おばあちゃん・・・」

その時、皆の背後からそっとハーモニカの音色が響いてきた。

思わず皆はそのメロディーを唱和した――

>夕空晴れて秋風吹き

月かげ落ちて鈴虫鳴く

思えば遠し故郷の空

ああ わが父母 いかにおわす

澄み行く水に 秋萩たれ

玉なす露は ススキに満つ

思えば似たり 故郷の野辺

ああ 我が弟妹(はらから) 誰(たれ)と遊ぶ

 

懐かしい故国・日本の姿が彷彿とし、皆はたまらなくなった。あちこちですすり泣く声が始まる。そんな中で見張兵曹は月を見上げて(分隊士の下宿のおばさん、西田教官の奥様。トメは元気でやっておりますよ。お二人を、お国を守るためにいつの日も頑張っております方ご安心ください。

いつかまたお会いできる日がきっと来ますからその日までお元気で、よいお年をお迎えください)と大好きな二人に心の中から呼びかけた。

兵曹の瞳の中に映る月が、まるで海の中で見るように大きく揺らいだのはどうしてだろう・・・?

麻生分隊士はそんな兵員たちの列からそっと抜けて(だれがあのハーモニカを?)とメロディーの主を探しに出た。

その主はすぐ見つかった。

「あなただったんですか。いやあ・・・参りました」

分隊士が頭を下げた相手は誰あろう松岡中尉であった。中尉はそっと片手の人差し指を自分の口に当てると、「いやあ、余計なことしちゃったかなと心配だったんだけどね。みんなここまで一所懸命やってきてくれたでしょ?たまには感傷的になるのもいいかなあ・・と思ったりしてね。それにあんまり月がきれいだったし」と言った。

麻生分隊士は普段は「熱くなれ、あつくなれ!」とラケットを振り回す分隊長に正直デリカシーは無い、と思っていたのだが今ここでこの場でその先入観を消した。

(この人は案外皆の心をうまくつかんで行く人かもしれない)

感激したが・・・次の瞬間。

(でも!オトメチャンの心だけは、掴ませないぞ。あれはおれのものだし!!)

と感激はいずこへやら、現実に戻った分隊士であった。

 

『女だらけの帝国海軍』にもうすぐ新年がやってくる――!

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

いよいよ2011年が始まろうとしておりますね。

今年も大変お世話になりました、今年もお付き合いいただき本当にありがとうございました。皆さまからの温かく、愉快なコメントが私の励みです。

さいね。来る年も『女だらけの戦艦大和』をどうぞよろしくお願いいたします。

よいお年をお迎えくださいね。


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「女だらけの戦艦大和」・来年もどうぞよろしく! - 2010.12.30 Thu

『女だらけの戦艦大和』もいよいよ年の瀬を迎えている――

 

今夜は月のきれいな晩である。当直の明けた、あるいはまだ時間のある兵員たちは最上甲板に集まりだしている。

「オトメチャン、月がきれいだよ!」そう言って麻生分隊士はオトメチャンを呼んだ。見張兵曹は分隊士の後を追ってきて空を見上げた。

「うわあ・・・きれいなお月さまですね」と感に堪えたように言う見張兵曹に分隊士は笑いかけた。

「今年の正月もここでだったね、この頃内地で正月が迎えられないのがちょっと残念だな」と麻生分隊士は言ったが見張兵曹は笑って、「いいえ。私はどこで迎える正月でもいいんです。分隊士がいてくださるならどこだっていいんです」と言った。それを聞いた麻生分隊士は満面の笑みを浮かべた。

「オトメチャン!なんてかわいいことを!!」

言うなりひし、と兵曹を抱きしめる分隊士。それを見て他の兵たちが「おおう!もう始まったぁ!」と大喜びしている。

 

皆は、舷側のハンドレールの前に一列に並んでいる。自然とこういう形になったのだが、月明かりに照らされた海面を見つめる皆の脳裏に懐かしい故国・日本の年末と正月の風景が浮かんでいる。

誰かが一人語りのように話し始める――「そういえば子どもの頃、大掃除を手伝って障子紙を破ったのはいいけど母さんに『それは張り替えたばっかりのだ!』ってしかられたことがあったな。それから掃除の後妹と取り合って食った干し柿の美味かったことったら。・・・ああ。あの干し柿もういっぺん食いたいなあ」

別の一人が、「年末になると一家総出で餅をついたもんよね。とうさんがついて母さんがこねるんだけどそのタイミングが絶妙でさあ、他の誰にも真似できないんだよ、あれだけは。普段喧嘩ばっかりしてる夫婦だったのにあのときだけは一致団結してなんか可笑しかったな」

更に他の一人、「餅ってばさ、うちの爺さんが餅が大好きでさ、雑煮にいつもこんなでかいのを3つも4つも入れて食うわけよ。で、ある時大事件が――」と言いかけると隣の水兵が、「もしかして喉に詰まっちゃったの!?」と怖そうな声を上げた。

が、「いや違うの。爺さん張り切って食ったのはいいけど餅に入れ歯がめり込んじゃってどうにも取れなかったのよ、で、餅の中から入れ歯をさぐり出したってわけ」

これにはその場にいたみんなが大爆笑した。

笑いが収まると今度は航海科の亀井一水が、「私は昔兄に『おう、静。貴様にお年玉くれてやる!』って言われたんですよ。あのどケチな兄貴が珍しいもんだと思ったらやっぱりと言うかなんというか、くれたのは固い野球のボールの直撃弾でしたよ」といい笑いがおこり、さらにそれを受けて機関科の兵長が「うちも同じようなことがあってですね、やっぱりうちの兄貴もどケチなんですがこれがやはり珍しく庭の柿の樹から『ほらお前にやるよ』って柿を取ってくれたんです、嬉しくってね、思わずかぶりついたらまあ何と渋いこと渋いこと・・・泣きましたよ」

爆笑。

 

皆は静かに空を見上げ、波が『大和』のへりを叩くひそやかな音に耳を傾ける。

「懐かしいな、内地」

「うん・・・ここもいいけどやっぱちょっと帰りたいね」

「みんなどうしてるかなあ。・・・姉さん、母さん」

「元気で新年を迎えてほしいなあ」

「お母さん・・・」

「お姉さん・・・」

「おばあちゃん・・・」

その時、皆の背後からそっとハーモニカの音色が響いてきた。

思わず皆はそのメロディーを唱和した――

>夕空晴れて秋風吹き

月かげ落ちて鈴虫鳴く

思えば遠し故郷の空

ああ わが父母 いかにおわす

澄み行く水に 秋萩たれ

玉なす露は ススキに満つ

思えば似たり 故郷の野辺

ああ 我が弟妹(はらから) 誰(たれ)と遊ぶ

 

懐かしい故国・日本の姿が彷彿とし、皆はたまらなくなった。あちこちですすり泣く声が始まる。そんな中で見張兵曹は月を見上げて(分隊士の下宿のおばさん、西田教官の奥様。トメは元気でやっておりますよ。お二人を、お国を守るためにいつの日も頑張っております方ご安心ください。

いつかまたお会いできる日がきっと来ますからその日までお元気で、よいお年をお迎えください)と大好きな二人に心の中から呼びかけた。

兵曹の瞳の中に映る月が、まるで海の中で見るように大きく揺らいだのはどうしてだろう・・・?

麻生分隊士はそんな兵員たちの列からそっと抜けて(だれがあのハーモニカを?)とメロディーの主を探しに出た。

その主はすぐ見つかった。

「あなただったんですか。いやあ・・・参りました」

分隊士が頭を下げた相手は誰あろう松岡中尉であった。中尉はそっと片手の人差し指を自分の口に当てると、「いやあ、余計なことしちゃったかなと心配だったんだけどね。みんなここまで一所懸命やってきてくれたでしょ?たまには感傷的になるのもいいかなあ・・と思ったりしてね。それにあんまり月がきれいだったし」と言った。

麻生分隊士は普段は「熱くなれ、あつくなれ!」とラケットを振り回す分隊長に正直デリカシーは無い、と思っていたのだが今ここでこの場でその先入観を消した。

(この人は案外皆の心をうまくつかんで行く人かもしれない)

感激したが・・・次の瞬間。

(でも!オトメチャンの心だけは、掴ませないぞ。あれはおれのものだし!!)

と感激はいずこへやら、現実に戻った分隊士であった。

 

『女だらけの帝国海軍』にもうすぐ新年がやってくる――!

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

いよいよ2011年が始まろうとしておりますね。

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「女だらけの戦艦大和」・年末の訓練。 - 2010.12.29 Wed

「年末だからなんだってんだ!・・ああん?年末は訓練しちゃあいけねえってえのかい?」と、言ったのはロエ島の航空司令なのかそれともトレーラ島の基地司令だったのかそれは定かではない――

 

が、いきなりのようにその話は来た。

『大和』『武蔵』ともに副長が全艦に「1229日を期して「小姑島」で陸戦及び防空訓練を行う。訓練に参加の人員はこちらで選出するので追って通知する、それまで皆待機せよ」と布告したのは27日の午後である。

それを伝え聞いた麻生分隊士は口をひん曲げて、「へっ、なんでこんな時期にするんでえ!いろいろと忙しいじゃねえかってんだ、ばーか!」とご機が悪くなった。

他の兵たちも「ええ!?今まで無かったじゃないの、こんなこと。何考えてんのさ副長はさあ!」と怒りまくったが別に副長の独断で決めたわけではないから副長が気の毒である。おなじ様な光景は『武蔵』でも繰り広げられ、誤解を買ってしまった副長が、通路などで行きあった兵や士官からじい・・っと恨めしげな眼で見つめられて「なんで私がそんな目で見られんやならんのよ!もう、いやだ!」と叫ぶ一幕もあった。

ともあれ『大和』も『武蔵』も、27日の夜までには主計科員を除く各科から5人乃至10人が選出された。

『大和』では長妻兵曹や増添兵曹、松本兵曹長や浜口大尉、森兵曹、小泉兵曹・石場兵曹に亀井一水そして見張兵曹などが選出された。

麻生分隊士はメンバーに入っていない・・・「チックショー!副長のやつ、やりやがったな!」と分隊士は歯がみして悔しがった。この人選は「副長自ら」するというのを聞いているから分隊士は(どうせおれとトメちゃんを引き離そうって腹なんだぜ、あくどい女!でも俺とオトメチャンはどんなに離れていても心は一つだからな、フハハハ)と思っている。

でも一応見張兵曹に「いいかオトメチャン。あんまり副長のそばにいてはいけないよ?何されるかわかったもんじゃないからね」と注意を怠らない。

見張兵曹は可愛く笑って、「はい。わかりました、気をつけます」と言う。これだけ聞いているとなんだか副長と言う人はとても問題アリの人物に聞こえるがそうではないことを明記しておこう。

人格は高潔で慈愛にあふれて皆の人望を一身に集める人格者である。・・・ただ、オトメチャンのことが好きだ、と言うだけである。まあその辺が大きな問題なのだろうが、麻生分隊士にとっては。

 

さて29日の早朝、『大和』『武蔵』から訓練要員が小姑島目指して出て行った。『武蔵』からもたくさんの兵や士官が出てきたがその中に『小椋兵曹』もいた。小椋兵曹は内心、(『大和』の見張兵曹がいるといいなあ~)などと遠足気分である。

小姑島は海軍の陸戦をはじめとする訓練用地である。今回は、ロエ島の航空基地から戦闘機・艦爆などがここに来て「模擬空襲」を行い、『大和』『武蔵』の兵たちはそれに対しいかに応戦するかを訓練するのだ。

ハイライトとして、戦闘機同士の「模擬空中戦」も行われると聞いてみんなうきうきしている。

「だってさあ、百戦錬磨の零戦隊の空中戦なんて、実戦ではしっかり見られないじゃない?すごいラッキーだよ」

そんなさえずりを聞きながら『大和』『武蔵』の副長二人は「全く!遊びじゃねえっての!」とあきれ顔である。

見張兵曹は、『武蔵』の小椋兵曹と一緒に見張り台に上った。もう顔見知りの間柄なのですぐ話を始める。

小泉兵曹たちは別の見張り台に配置された。

「来ますかねえ」「どこから来ますかねえ」などとなんだかのんびりとした口調で双眼鏡をまわしている・・・と。

「右35度から爆撃機編隊来た―ーッ!」

と、見張兵曹の大声が響き次いで空襲警報サイレンが騒々しく鳴り響く。とたんにそれまで塹壕に入っていた兵たちがそれっ、と飛び出して機銃や高角砲に取りつく。

もちろん機銃も高角砲も「模擬弾」なので当たったとしても撃墜されたりはしない。心おきなく撃ちまくれる。

九七式艦攻が6機編隊でやってきて模擬爆弾を投下。負けじと機銃群や高角砲群が撃つ。なかなか迫真の訓練になった。

皆もう訓練と言うのを忘れて実戦の気分である。

「いい傾向だね、加東副長?」と『大和』の野村副長が加東副長に言うと加東副長は胸に下げた双眼鏡から目を離してにっこり笑って、「本当に。みんな実戦張りだものね。まあ、帝国海軍切っての軍艦『大和』『武蔵』の乗組員だからそこは、ねえ~」と言う。

野村副長も「ね~え」と言って笑うと彼女も双眼鏡で訓練の様子を見つめた。

 

午前中の訓練は約4時間ほどで終了し後は昼食の後に「模擬空中戦」を見ることになった。が副長たちは「しかし気を抜いてはいかんぞ。ここは戦場である、何が起きるかわからないのであるからぼーっとしていてはいけない!」と檄を飛ばした。

昼食時間になり見張兵曹と小椋兵曹は他の兵のペアと交代し、小泉兵曹たちと塹壕で昼食を取った。小泉兵曹のペアは、『大和』の谷垣兵曹(銀輪マニア。以前に艦上で自転車を乗り回し大けがした人)と同年のいとこの『武蔵』の谷垣兵曹。ちょっとややこしい。

でも知らない間柄ではないのですぐに打ち解けあう。握り飯をほおばりながら話に花が咲く。

やがて食い終えた小泉兵曹が「ああ、、こんな狭いとこじゃかったるい。ちょっと出ようよ」と言って塹壕の外に出た。

他の連中もぞろぞろと出たが見張兵曹はなんだか嫌な予感がして出たくない。しかし、「ほらあ、オトメチャンも出て来いって」と小泉兵曹に引っ張り出されてしまった。

「うわあ・・・青い空。海の上で見るんとはまた違うてええねえ!」と小泉兵曹はご機嫌である。

ふと、見張兵曹は空を見上げた。高いところで何かがきらり、と光った。「あ。あれなんだろう。・・・飛行機だ・・・」と見張兵曹はつぶやいたその時、光の正体はものすごい勢いで急降下して来た。

「模擬空襲」の零戦でこれは「模擬機銃掃射」を仕掛けてきたのだった。幸い見張兵曹たちのところではなかったが見張兵曹はさすがに泡を食って、「塹壕に入りましょうよ、ねえ!」と小泉兵曹の袖を引っ張った。しかし小泉兵曹は「うるっせえよ。入りたきゃひとりで入れっての。俺たちはここで見物してるからよ」とそっぽ。

その時。

皆の足元にダダダ・・・!と本物の機銃弾が撃ち込まれた。

「うわああ・・・!」と逃げまどう小泉兵曹や谷垣兵曹、小椋兵曹。機銃弾が飛んできた方を見かえればそこには機銃を構えたまさに鬼のような形相の野村副長と加東副長がいたではないか。

「・・・貴様らあ、あれだけ気を抜くなって言ったのに。聞いてなかったのか!!」言うなりまた発砲。

小泉兵曹の足元で機銃弾がピュ―ン、と跳ねた。

その時、「ううっ!」と声がしてみれば見張兵曹が右腕を押さえてうずくまっている。「どうした!」と小椋兵曹が近寄ると機銃弾が跳ねて見張兵曹の腕をかすって行ったのだ。

見る見るうちに片袖が血に染まってゆく。

あわてたのは野村副長で急いで見張兵曹の元に駆けよって抱き上げると「衛生兵、おらんか、衛生兵!」と怒鳴って自ら救護班のいる壕に走って行ったのだった。

 

手当てを終えた見張兵曹は、ちょっと青い顔色でいる。その彼女を野村副長はそっと抱き締めると「ごめんねオトメチャン。オトメチャンを傷つけるつもりじゃなかったんだよ。それにオトメチャンは小泉兵曹に引っ張り出されたんだってね・・・本当にごめんね」と言うなりその可愛い唇を奪ってしまった。

「副長・・・だめです。お願い」と必死に離れようとするオトメチャンを押さえて副長は「いいじゃないの、たまには私もオトメチャンと楽しみたいんだから」と更に・・・。

 

その小さな騒ぎを壕の外で聞いていた小椋兵曹は「・・・なんてこと!あんなに嫌がってるのにあの副長ったら!」とひとり腹を立てていた。

またその晩、帰艦したオトメチャンを見て怒り心頭に発した麻生分隊士にねじ込まれた副長は、艦長・参謀長の冷たい視線に耐えられずその晩は最下甲板でひとり過ごしたそうである。

梨賀艦長は「きっと副長はオトメチャンにいたずらしたくって機銃弾を当てたんだよ!」と言ったがそれは大きな間違いである。

・・・なぜなら副長は「人格者」であるからして・・・クルシイ。


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「女だらけの戦艦大和」・サンタと無花果 - 2010.12.24 Fri

『女だらけの戦艦大和』他艦艇は、トレーラ環礁で年末を迎えている――

 

「そういえば」と見張兵曹がある晩、麻生分隊士の部屋で言った。麻生分隊士は「んん?」と、兵曹の顔を見た。見張兵曹は可愛くふふっと笑うと「ほら、昨年ですよ。防空指揮所で「赤い服の爺さん」を見たでしょ?」と言った。

「ああ!あの『還暦の爺さん』か!なんかえらい角のでかい鹿にひかせたそりに乗ってたくさんの衣囊(いのう)を積んどったっけな」

麻生分隊士はちょっと懐かしげに言って、見張兵曹を抱き寄せた。抱き寄せられながら見張兵曹は「また来ますかねえ、あの『還暦の爺さん』」と言ったが麻生分隊士は、「もう来ねえだろう。岡沢中尉に聞いたらあれは「栗済ます」とかに出てくる欧米の神様らしいからな。まあ、なんか贈り物持ってきたら歓迎してやらんでもないがな・・・」と言いながらもう、見張兵曹の服の中に手を入れている。

「分隊士・・・」と困ったように言いながらも見張兵曹はそっとその両手を分隊士の背に回す――。

 

1224日の晩である。

『大和』の随伴艦の「駆逐艦・無花果」の見張りが中天に明るい光を見た。その光は『無花果』からは離れた場所にいた『大和』の見張兵曹も見たが、分隊士と「あの光ですね。もう正体わかってるからいいですね」と見向きもしない。

が。

『無花果』の見張り員は大騒ぎで艦長の「菅直子」まで出てくる始末。皆でわあわあ大騒ぎしていると、機銃の兵が「艦長、撃ちましょう!」と言って来たではないか。ここで普通の艦長ならば、何も敵意のないものを撃ってはいけない!・・とかいうのだが菅直子中佐はあのハワイ海戦でも『無花果』はぱっとした戦果をあげられなかった関係からかイラついていた。

思わず口をついて出た言葉が「機銃群、射撃準備!準備出来次第指揮官の指示で適宜攻撃せよ」だった。

光の中には昨年同様にサンタクロースがいたのだが、このサンタクロースは昨年のサンタではなかった。今回は配置換えでここ太平洋地域に来たサンタクロースで道に迷いまくっていた。と言うか、アメリカ軍が敗戦続きのため、サンタクロースが持っている地図と実際の占領国とに大きな差異が出ていたのだ。

しかしサンタクロースはそんなことは知らない。それがこのサンタクロースの大きな悲劇であった。

何も知らないサンタクロース、『無花果』をアメリカ艦艇とすっかり勘違いしてそりを滑らして行った。が、次の瞬間。

「テ―――っ!」

と言う大声とともに、機銃弾がまっすぐにサンタクロースと鹿(トナカイですね)に向かって撃ちこまれていったのだ。

「ノ――!!!」「ぎゃああ――!」

サンタクロースとトナカイは叫んで、そりは平衡を失って墜落して行った。落ちたのは『無花果』のそばの海面。

「やった、やった!」と『無花果』の面々はカッターをこぎ出してサンタクロースとトナカイを収容しに行った。すっかりずぶぬれのサンタクロースとトナカイ、そして見張兵曹たち言うところの「衣囊」を収容した。

明るくされた無花果の甲板で、サンタクロースたちは菅直子艦長たちの尋問を受けることになった。赤い服を着てガタガタ震えているサンタクロースの周りを無花果の乗組員が取り巻いている。

菅直子艦長は、「貴様はどこから来てどこへ行くつもりだったか?正直に言えばよし、言わねばただでは済まんぞ、いいか」と言ったがもとより日本語が通じる相手ではない。

艦長は下手な英語を操ってなんとか話をしようと試みたが、うまくゆかない。千石砲術長も身振り手振りで話をしようとしたが一向に話にならない。

「困った」

と頭を抱えた時、「私が話してみましょう」と言って来た者が。菅直子艦長が顔を上げるとそこには通信科の予備士官がいた。ハワイの高校を出て、在学中はゴルフなんかもしていたと言うハイカラな石川僚子予備少尉。

石川少尉はサンタクロースのそばに座り込んで相手の警戒心を取ってから話し始めた。流暢な英語にサンタクロースの警戒感も解けたようで二人は時折笑い声を上げつつ話をした。

やがて、石川少尉は立ち上がり「艦長、彼は『サンタクロース』と言ってこの時期―クリスマスと言うのですがーに、贈り物を届ける役目をキリストさんから仰せつかっておるんだそうであります。彼はここがアメリカの土地だと思って来たらしいんですが、いかんせん彼らの情報は古すぎますね。アメちゃんはもうここにはおらん、本国に帰ったと言ったら驚いておりますよ」と艦長たちに説明した。

菅艦長は「ほう・・くりすます、ね?でそのキリストさんとは偉い人なんか?」と聞く。石川少尉は「ええ、まあ。キリスト教を信じる人たちにとってはまさに神様、でありますね」と、彼女の知る限りのキリスト教についての説明をした。

艦長はちょっとの間考え込んだ――一応敵方の人間みたいだが、神様のお使いをやたらと殺したり拘束はできない。そんなことをしたら日本人はなんて心の狭い民族なんだろう、と世界の笑いものにならんとも限らない。

菅直子中佐は決断した――「釈放だ」。

 

サンタクロースは、そりを直してもらいトナカイとともに石川少尉の前に立って別れの挨拶をした。

サンタクロースは「あなたのような人が日本人にもいるのですね、優しくて人道的な」と言った、石川予備少尉は苦笑して、「日本人はみんな優しく人道的ですよ、そうでないなどと誰が言ったのでしょうね?キリストさんに会う機会があったらその辺をよーく伝えてくださいね。日本人の中にもキリスト教を信じる人が少なからずいるのですから」と言った。サンタクロースはにっこりと笑うと、「わかりました、そう伝えましょう。・・・では!」というとトナカイを促してそりに乗り込んであっという間に中天に消えて行った。

星くずの光を引きながら――

 

その翌日、どこからか石川予備少尉宛に大きな荷物が届いた。少尉が開くとそこには、「ゴルフクラブ」の上物が一本入っていた。

そのクラブを手に取って柄の部分を見た少尉は思わず微笑んだ。なぜなら柄の部分には

present for youMary Christmas

と文字が彫ってあったのだ。(あのサンタクロース、なかなか・・・だね)

石川予備少尉は嬉しくなってその文字の部分をそっと指でなでた。

 

『大和』防空指揮所では、亀井一水だの酒井上水だのが

「今年は来ないねえ・・あの『赤い服のおじいさん』」

と心待ちにしていたが、残念、もう1226日である。サンタクロースは寒い寒い北の国に帰って過労から高いびきで爆睡中である。

また来年・・・のお楽しみである。


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「女だらけの戦艦大和」・風紀検査!? - 2010.12.19 Sun

『女だらけの戦艦大和』は、この年末はトレーラー島で過ごすようである――

 

トレーラ環礁の中には、「ロエ島」という小さな島があってそこは海軍航空隊の基地である。連日、『女だらけの航空隊』が訓練に励んでいる。

彼女たちはいつも美しい環礁を眼下に見ながらその愛機を飛ばしているのだ。

 

さてそんなある日、零戦隊が訓練を終え次々と着陸してくる。その零戦たちを満足そうに眺める「ロエ島基地司令」の源田実子(げんだ じつこ)中佐。

搭乗員がそれぞれの愛機から降り立ったのを見計らってそばに歩いて行った。搭乗員たちは司令の姿を見て一斉に敬礼した。

源田司令はにこやかに「皆御苦労です。今日の訓練も立派だった、この調子でやってほしい。そうすれば日本の勝利もそう遠くはないだろう、がんばってほしい」と皆を激励した。

「はいっ!」と元気に返事をし敬礼した搭乗員たちに返礼し、踵を返した司令の耳に突然、

「き、貴様!なんて格好してるんだ!?」

と言う零戦隊長の叫びが聞こえた。いったい何だ?・・と振り向いた司令の目にそれは飛び込んできた。

ひとりの飛行兵曹が飛行服の前を開けていたのだが、その下はなんと「裸」。かろうじて乳当てとふんどしはつけているようだったが、訓練時といえども決められた服装ではない。

ここは熱さがひどいから、一種軍装は訓練時は着なくてもよいことにはなっていたが『事業服』か、三種軍装はつけることになっていた。

が。

驚いた零戦隊長がその場の搭乗員の飛行服を次々に脱がした。

「いやーん」「やめてえ~」「助平!」と隊長は悪口雑言?を投げつけられたがひるまず彼女たちをひんむいた。

その結果、15人の隊員全員が『いい加減な服装』だったのだ。

零戦隊長は怒り心頭に発した、そして全員をその場に整列させると

「貴様たちは何を考えているのだ!?前々から言っているようにいくら暑くても飛行服の下は「裸」ではならんと言うのに、なぜ言うことが聞けないのだ!いいか、服を着るのは怪我を軽くするためだけではない、若しも貴様らが訓練中あるいは交戦中に不時着するような事態になってしかも、人事不省に陥って現地人などに救助された際飛行服を脱がしてみたらその下は「裸」だった、などと言うことは帝国海軍軍人の名折れではないか!恥さらしではないのか!もっときちんと筋道立って物事を考えよ!明日からこういういい加減な服装で訓練に臨んだ者は罰として夕食抜きだからそのつもりで!」

と怒鳴った。

搭乗員たちは神妙な顔で聞いていたが、「わかりました」と返事をした。

源田中佐はその場に立ったままその様子を見ていたが、零戦隊長に「司令!司令からもひとことお願いいたしますっ!」と言われちょっとあわてた。

しかし司令の威厳を以て「隊長の言うとおりである、隊長は諸君のことを思って言うのであるから明日からきちんとするように!」と言ってその場を離れた。

離れながら(ああ、アセッタ。・・・昔私も飛行服の下、下着だけで飛んだことあったんだよね・・あのときはバレ無かったからよかったようなもんの・・・人のこと言えねえっての)と司令は思ってひとり赤面していた。

 

確かに、トレーラー諸島は暑い・熱い。

 

そんな頃、『武蔵』では防空指揮所で小椋兵曹が汗をぬぐいながら当直に立っている。ちょっと双眼鏡から目を離して傍らを見れば、水兵長の部下も汗をダクダクにかきながら任務に励んでいる。

「暑いなあ」と思わず小椋兵曹の口から洩れた一言に、その場にいた数名が同意の声を上げる。谷垣兵曹(『大和』の谷垣兵曹の従姉妹)が、「下に襦袢を着こんでいますからね、仕方ないですよ。でも汗取りの襦袢がないと上着が早く痛みますからね。それにこれを脱いだらいきなり裸、ってのもみっともない話ですよね」と言い、「それもそうだよね。帝国海軍軍人がみっともないマネは出来ないよ」と小椋兵曹も言った。

その時、防空指揮所に猪田艦長が上がって来た。

今日の艦長はなんだか顔が赤い、皆の見つめる視線に気がついて「ああ、ちょっと副砲の上で座禅組んでたのよ」と言って笑う。

こんなくそ暑い中で座禅・・・!?と皆はちょっと驚いたが、禅マニアの艦長ならどんな状況でもアリだな、と納得。

続いて加東副長も上がってきて、空を見上げて「いやー!今日もいい天気だねえ、熱い暑い!」と艦長に笑いかけた。

次の瞬間。

猪田艦長と加東副長はその防暑服の前をいきなりはだけた。

皆はそれを見てあぜん・・・

艦長・副長は下に(・・)()着て(・・)いなかった(・・・・)のだから・・・・。

 

そのあと、小椋兵曹や谷垣兵曹以下の服装が乱れたのは言うまでもなかった。

 

そして『大和』では、松岡分隊長による「服装検査」が徹底して行われている。分隊長は「服装の乱れは心の乱れだ、バンブー!」と言って航海科の面々を整列させて麻生分隊士以下の防暑服の前を開いて回ったのだった。

「分隊士、よし!小泉兵曹、よし!見張兵曹、よし!・・・」

とりあえず全員下に襦袢を着ているので合格をもらった。しかし、大事なオトメチャンの服をも開かれた分隊士は口をひん曲げて、「分隊長、これはやり過ぎではないですか?セクハラです!いや、パワハラですぞ!」と抗議したが松岡分隊長は「どんな腹だか知らんがこれは大事なことだ。節度あっての帝国海軍であるから、な!これからも時々抜き打ちで検査するからそのつもりで!・・・ではみんな、熱くなれよ!」と言ってさわやかに去って行ったのだった。

それを見ていた梨賀艦長と野村副長は「うん、これなら『大和』は海軍風紀委員会の検査にも合格だ」とうなずき合っている。

 

ロエ島の航空基地・軍艦武蔵・軍艦大和。

それぞれの思いもあろうが、やっぱりだらしないのはいけないね。

暑さがなんだ、熱くなればなんともないぞ。松岡分隊長が今日も叫んでいる――

 

          ・・・・・・・・・・・・・・・・・

「風紀検査」。懐かしい響きです、学校時代よく抜き打ちでされたもんです。私はまじめだったから引っかかりはしなかったですが(汗)。

『海軍風紀委員会』なんて実際には存在しませんがあったらいやですねww。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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