2010-09

「女だらけの戦艦大和」・熱血中尉登場!2 - 2010.09.28 Tue

『女だらけの戦艦大和』航海科ではその日の朝からちょっとした緊張感がみなぎっている――

 

早朝の交代を終えて、居住区に降りようとしていた見張兵曹に下から上がってきた小泉兵曹は「なあ、今日来る中尉の事なんか知ってる?」と聞いた。しかし見張兵曹は首を横に振って、「知らないんだよね。麻生分隊士も御存じないっていうし、他の分隊の人もあんまり知らないみたいでさぁ」と言った。小泉兵曹は、そうかあと唸って腕を組んだ。

「すこしくらいその人となりを知っとかないといけないかなあと思ったんだけど。だめか。まあ、来てからいろいろ観察してやろうか」

小泉兵曹はそう言って笑った。その時、見張兵曹が「そういえば分隊士が今度来る中尉はずいぶんいろんな艦を回ってきてるから比較されるかもしれない、十分気をつけよ、って言ってたね」と思い出して告げた。

小泉兵曹は「え?だって兵学校を出て中尉ならまだそんなに長いこと海軍の飯食ってねえはずだろうに?それともなんか事情があってすげえ年増とか?」と言って二人はそこでクスクスと笑った。

「まあ、来てのお楽しみだあね」

二人はそこで別れた。見張兵曹は下におりながらふっとかつて分隊長だった小渕少尉を思いだしていた。今は軍令部で活躍していると言う「小渕大尉」。

(ああいういい人ならいいんだけど)と思いながらまずは厠に急いだ・・・。

 

そして。午前十時になって『金剛』からのランチが『大和』に来た。いよいよあの新任の中尉が来たのである。中尉は『瑞鶴』をグアムで降りて、グアムから『金剛』でトレーラー島に赴任して来たのだ。

『大和』では、梨賀艦長・野村副長・片山航海長と麻生分隊士が最上甲板で待ち受けている。

『金剛』のランチが接舷した・・

白い二種軍装を着た士官が颯爽と舷側のラッタルを上がってくる。

その姿を見張兵曹や小泉兵曹、亀井一水や石場兵曹たちが見つめている。「来ましたよ、あの人ですね!」と亀井一水がけたたましく叫ぶ。

どら、よく見せてみんかと石場兵曹が防空指揮所の囲いから身を乗り出し、見張兵曹と小泉兵曹も続いた。

甲板上で艦長たちとあいさつを交わしている新任の中尉が小さく見える。

「ふーん、あいつかあ。なんだか色の黒い女じゃねえか。・・・なんか変なものを持ってきてるなあ、なんだあれ?」

小泉兵曹が目を凝らした。見張兵曹も目を凝らすと、「ああ、ほんと。なんか金魚すくいのわっかのでかいやつみたいだねえ。まさか、あれで俺たちをひっぱたくんじゃなかろうね?」と言って皆は少し心配になった。

その同じ時、甲板上で新任の中尉のあいさつを受ける麻生分隊士も、中尉の持ってきた『私物』に目を止めていた。(なんだぁ。あれは。新手の拷問道具か?)

不審に感じた時、片山航海長が「おお、君はテニスをするんだったね。ラケットは手放さないんだねえ」と言って笑った。

新任の中尉が破顔一笑して「はいっ!私にはこれが大事です。今までも、そしてこれからも一緒であります」と大声で言った。

梨賀艦長も野村副長も「そうかあ、よかったら航海科のみんなにも教えてやってくれ」と言って笑っている。

その三人に頭を下げた中尉は、今度は麻生分隊士に向き直った。

思わず身構えた麻生分隊士。その分隊士に、中尉は「今日から宜しく願います。『大和』のような大きな艦は初めてだからドキドキしてます。でも一日も早く慣れて、『大和』で熱くなるから、よろしく!」と言っていきなり握手をしてきた。

手をがっちりと握られブンブンと振られて麻生分隊士はちょっと戸惑ったが、無理に笑顔をつくると「はい、こちらこそ・・・」と言った。

中尉は満面の笑顔になって、「私は松岡。松岡修子中尉だ。・・・さっそく航海科のみんなに会わせてくれないかな?」と言った。

はい、と分隊士は返事をし、艦長は「じゃあさっそく航海科のみんなのところに。・・・麻生少尉、松岡中尉を宜しく」と言って解散になった。

松岡中尉は敬礼をしてその後ろ姿を見送った。そのあと、ちょっと砲塔や機銃群を見まわした。

機銃の兵たちが珍しそうに松岡中尉を眺めている。

不意に中尉はそちらに向かって走り出した。麻生分隊士は、ちょっとあわててあとを追った。(喧嘩でも売るんじゃなかろうな!?)

しかし松岡中尉は、喧嘩を売りに行ったのではない。

機銃座の下に走ってゆくとそこの兵たちに大声で、

「みんなぁ、もっと熱くなれよ!勝てると信じて、もっともっと熱くなれよーー!!」

といきなり叫んだのだった。

ポカ~ン、とする機銃座の兵たち。何事かと顔を出した機銃の指揮官の少尉も口を開けたまま松岡中尉を見つめている。

松岡中尉は大きく手を振ると、「いいかあ、熱くなれよ!!」と叫んで、麻生分隊士を振り返り、「さあ、麻生さん。あの艦橋のトップに向かって走るぞお!」と言うなり鉄砲弾のように走りだしたのだった。

「ま、待ってください、松岡中尉・・・」

あたふたとそのあとを追いかける麻生分隊士。あとを追いながら(これは、先が思いやられる・・・)とちょっと情けなく思っている――

       (次回に続きます)

 

        ・・・・・・・・・・・・・・・

すごい中尉が赴任して来たようです。

「熱くなれ」だなんて、ただでさえ暑いトレーラー島がもっと熱く(暑く)鳴るんじゃないかと心配です・・・。

さあ、どうなる!?


にほんブログ村 その他日記ブログ 妄想へ
にほんブログ村
関連記事

「女だらけの戦艦大和」・熱血中尉登場!1 - 2010.09.26 Sun

『女だらけの戦艦大和』第一艦橋で、副長がやおら切り出した――

 

「麻生少尉、仕事大変でしょう?」

そう副長に切りだされて、麻生少尉・航海科分隊長件分隊士は正直戸惑った。大変じゃない仕事など、海軍にあるものか・・・。

ちょっと困った顔の麻生分隊士に副長は、「大変だよね。だってひとりで分隊長と分隊士の二役をこなすなんてねえ。・・・麻生少尉、本当に今まで御苦労さまでした。明日から」

「ちょっと待ってくださいっ!」

麻生分隊士は副長の言葉を最後まで聞き終わらないうちにそれを遮って大声で叫んでいた。そして副長の両腕にすがりつくと、

「野村副長、私の一体どこが至らないのでありますか?私は『大和』乗務以来これでも粉骨砕身して頑張ってきました、士官になって今の役職をいただいてからはそれ以上に頑張ってきたつもりです。なのにどうしてですか、私の指揮能力に何か問題があるならはっきりおっしゃってください。どんな苦言でも素直にお受けします。・・・はっ!もしや副長、オトメチャンをわがものにするため私が邪魔だからって私を他に転勤にさせるおつもりなんでしょう!?」

と一気に言って最後は副長から手を離して少しその身を離しなんだか怖いものでも見るように副長を見ている。

副長はオトメチャンの名を持ちだされて少し焦ったが、いやいやとあわてて手を振って「違う、違うよ少尉。ちょっと落ち着いて聞いて」とこれもせき込んで言った。副長は麻生分隊士を掴むと「あのね、転勤とかそんな話じゃないの」とまず言った。

麻生分隊士は、「へっ、違うんですか?」と拍子抜けした感じである。が、次の瞬間体勢を取り戻し、

「じゃあ一体何なんですか!さっきのお話ではまるで私が役立たずの木偶の坊だからもういらないと言う感じに取れましたが?」

と気色ばんだ。副長はその剣幕に押されつつも、まあ落ち着けと言って「あのね。麻生少尉は言った通り兼務で大変だから、明日から分隊長になる人間が来るから負担が減るよって言いたかったのよ」と言った。

麻生分隊士は、なんと・・と言ってちょっと考え込んだ。・・・新しいやつが来るイコール自分の負担が減る。ふ~ん。まあ、いいか。でも。

「どんな人なんです?今度来るってのは」麻生分隊士は少し落ち着きを取り戻して副長に尋ねた。

副長は「うん。兵学校出の中尉だよ。今まで『扶桑』だとか『那智』とか『金剛』とか『陸奥』とかなんとかにいた経歴があって今は『瑞鶴』だよ。仕事は出来るほうだってさ、だから明日からよろしくね」と言った。

麻生分隊士はその経歴のすごさに驚きながらも『兵学校出身』と聞いてちょっといやな顔をした。(また『特務』とか言われるのかな。兵学校出は融通がきかねえ奴が多いからいやだなあ。それに・・・)といろいろ考えている。

副長はそんな麻生分隊士を見ると笑顔になって、

「まああんまりいろいろ考えこまないで、そんなに難しい人じゃないらしいからすぐ打ち解けるよ。大丈夫大丈夫。じゃ、明日からよろしくね」

と言って艦橋から出て行ったのだった。一人残された麻生分隊士はその後ろ姿を見送っていたがハッと我に返ると、航海科の連中を最上甲板の第一砲塔前に集合させた。

皆は走って集まってきた。

麻生分隊士が立っている砲塔前に集まると、怪訝な表情を見せる兵も多かった。今までこんな形で集合したことはなかったからだ。

その兵員の顔を見ながら麻生分隊士は言った。

「集まってもらったのはほかでもない。私は本日で『航海科見張り部』の分隊長を解任されて、」

ここまで言った途端皆の間から「ギャーッ!」と言う叫びが噴出した。さすがに分隊士は驚いて一歩退いた。

「な、何なんだ!?」とつぶやく分隊士に皆はとりすがると

「一体どんな不祥事を起こされたのですか!?」「『大和』から追い出されるのでありますか!?」「次はどこの艦に行かれるんですか!?」・・・・

大騒ぎ。

ふと麻生分隊士が横を見ると見張兵曹が今にも泣きそうに瞳に涙をいっぱいにためている。

「分隊士、」とその赤い唇が動いたと見るや、その瞳から涙がぽろぽろっと落ちて事業服の胸を濡らした。

麻生分隊士はあわてて皆を制して、「違う、違うったら!聞け、聞けって!!・・・あのな、明日から分隊長として中尉がいらっしゃるからその報告だ」と言った。

とたんに皆はほっとしたようであるし、見張兵曹も安心したように涙を袖で拭っている。

「兵学校の出身の中尉だそうだ。副長がおっしゃるにはそれほど難しくない人らしいから大丈夫だっていうんだから大丈夫なんだろう。いらしたら宜しくな」

麻生分隊士はそう言って皆に解散を命じた。

麻生分隊士の隣に見張兵曹が残った。自分を信頼して見上げる兵曹がいとおしく、麻生分隊士は砲塔の影に彼女を引き込むと、

「オトメチャン、新しい士官が来てもそっちに心を移さないでほしい」

と囁いて抱きしめた。見張兵曹も両手を分隊士の背中にそっと回すと、「大丈夫です。私は分隊士が大好きですから。他の士官は目に入りません」と言った。

「オトメチャン!」

と、分隊士が力いっぱいオトメチャンを抱きしめた時砲塔の上でガヤガヤと人の気配が。分隊士がハッとして見上げればそこには主砲の配置員がたくさん腹這ってこちらを見降ろしているではないか。

ニヤニヤしながら「さあどうぞ、もっと続けて?」と言っている。

二人はとても恥ずかしくなって、そそくさとその場を後にした。

 

さあ、明日は新しい中尉が赴任してくる。

どんな士官なのだろうか?期待と不安に胸ふくらます航海科の面々であった――

 

   (次回に続きます)


にほんブログ村 その他日記ブログ 妄想へ
にほんブログ村
関連記事

「女だらけの戦艦大和」・熱血中尉登場!1 - 2010.09.26 Sun

『女だらけの戦艦大和』第一艦橋で、副長がやおら切り出した――

 

「麻生少尉、仕事大変でしょう?」

そう副長に切りだされて、麻生少尉・航海科分隊長件分隊士は正直戸惑った。大変じゃない仕事など、海軍にあるものか・・・。

ちょっと困った顔の麻生分隊士に副長は、「大変だよね。だってひとりで分隊長と分隊士の二役をこなすなんてねえ。・・・麻生少尉、本当に今まで御苦労さまでした。明日から」

「ちょっと待ってくださいっ!」

麻生分隊士は副長の言葉を最後まで聞き終わらないうちにそれを遮って大声で叫んでいた。そして副長の両腕にすがりつくと、

「野村副長、私の一体どこが至らないのでありますか?私は『大和』乗務以来これでも粉骨砕身して頑張ってきました、士官になって今の役職をいただいてからはそれ以上に頑張ってきたつもりです。なのにどうしてですか、私の指揮能力に何か問題があるならはっきりおっしゃってください。どんな苦言でも素直にお受けします。・・・はっ!もしや副長、オトメチャンをわがものにするため私が邪魔だからって私を他に転勤にさせるおつもりなんでしょう!?」

と一気に言って最後は副長から手を離して少しその身を離しなんだか怖いものでも見るように副長を見ている。

副長はオトメチャンの名を持ちだされて少し焦ったが、いやいやとあわてて手を振って「違う、違うよ少尉。ちょっと落ち着いて聞いて」とこれもせき込んで言った。副長は麻生分隊士を掴むと「あのね、転勤とかそんな話じゃないの」とまず言った。

麻生分隊士は、「へっ、違うんですか?」と拍子抜けした感じである。が、次の瞬間体勢を取り戻し、

「じゃあ一体何なんですか!さっきのお話ではまるで私が役立たずの木偶の坊だからもういらないと言う感じに取れましたが?」

と気色ばんだ。副長はその剣幕に押されつつも、まあ落ち着けと言って「あのね。麻生少尉は言った通り兼務で大変だから、明日から分隊長になる人間が来るから負担が減るよって言いたかったのよ」と言った。

麻生分隊士は、なんと・・と言ってちょっと考え込んだ。・・・新しいやつが来るイコール自分の負担が減る。ふ~ん。まあ、いいか。でも。

「どんな人なんです?今度来るってのは」麻生分隊士は少し落ち着きを取り戻して副長に尋ねた。

副長は「うん。兵学校出の中尉だよ。今まで『扶桑』だとか『那智』とか『金剛』とか『陸奥』とかなんとかにいた経歴があって今は『瑞鶴』だよ。仕事は出来るほうだってさ、だから明日からよろしくね」と言った。

麻生分隊士はその経歴のすごさに驚きながらも『兵学校出身』と聞いてちょっといやな顔をした。(また『特務』とか言われるのかな。兵学校出は融通がきかねえ奴が多いからいやだなあ。それに・・・)といろいろ考えている。

副長はそんな麻生分隊士を見ると笑顔になって、

「まああんまりいろいろ考えこまないで、そんなに難しい人じゃないらしいからすぐ打ち解けるよ。大丈夫大丈夫。じゃ、明日からよろしくね」

と言って艦橋から出て行ったのだった。一人残された麻生分隊士はその後ろ姿を見送っていたがハッと我に返ると、航海科の連中を最上甲板の第一砲塔前に集合させた。

皆は走って集まってきた。

麻生分隊士が立っている砲塔前に集まると、怪訝な表情を見せる兵も多かった。今までこんな形で集合したことはなかったからだ。

その兵員の顔を見ながら麻生分隊士は言った。

「集まってもらったのはほかでもない。私は本日で『航海科見張り部』の分隊長を解任されて、」

ここまで言った途端皆の間から「ギャーッ!」と言う叫びが噴出した。さすがに分隊士は驚いて一歩退いた。

「な、何なんだ!?」とつぶやく分隊士に皆はとりすがると

「一体どんな不祥事を起こされたのですか!?」「『大和』から追い出されるのでありますか!?」「次はどこの艦に行かれるんですか!?」・・・・

大騒ぎ。

ふと麻生分隊士が横を見ると見張兵曹が今にも泣きそうに瞳に涙をいっぱいにためている。

「分隊士、」とその赤い唇が動いたと見るや、その瞳から涙がぽろぽろっと落ちて事業服の胸を濡らした。

麻生分隊士はあわてて皆を制して、「違う、違うったら!聞け、聞けって!!・・・あのな、明日から分隊長として中尉がいらっしゃるからその報告だ」と言った。

とたんに皆はほっとしたようであるし、見張兵曹も安心したように涙を袖で拭っている。

「兵学校の出身の中尉だそうだ。副長がおっしゃるにはそれほど難しくない人らしいから大丈夫だっていうんだから大丈夫なんだろう。いらしたら宜しくな」

麻生分隊士はそう言って皆に解散を命じた。

麻生分隊士の隣に見張兵曹が残った。自分を信頼して見上げる兵曹がいとおしく、麻生分隊士は砲塔の影に彼女を引き込むと、

「オトメチャン、新しい士官が来てもそっちに心を移さないでほしい」

と囁いて抱きしめた。見張兵曹も両手を分隊士の背中にそっと回すと、「大丈夫です。私は分隊士が大好きですから。他の士官は目に入りません」と言った。

「オトメチャン!」

と、分隊士が力いっぱいオトメチャンを抱きしめた時砲塔の上でガヤガヤと人の気配が。分隊士がハッとして見上げればそこには主砲の配置員がたくさん腹這ってこちらを見降ろしているではないか。

ニヤニヤしながら「さあどうぞ、もっと続けて?」と言っている。

二人はとても恥ずかしくなって、そそくさとその場を後にした。

 

さあ、明日は新しい中尉が赴任してくる。

どんな士官なのだろうか?期待と不安に胸ふくらます航海科の面々であった――

 

   (次回に続きます)


にほんブログ村 その他日記ブログ 妄想へ
にほんブログ村
関連記事

「女だらけの戦艦大和」・月を愛でる会5<解決編> - 2010.09.23 Thu

『月を愛でる会』真っ最中の『大和』『武蔵』である――

 

石場兵曹に伴われて見張兵曹は第一砲塔へ行った。そこには運用科と工作科の兵が数人、待ち構えていた。見張兵曹の姿を見るなり、「おお、オトメチャンが来たよ!オトメチャン早く早く、こっちに入って!」と皆で取り囲んで砲塔内に引き込んだ。

「え?なになに?・・ねえ石場兵曹、待って・・・」

オトメチャンはわけがわからない。石場兵曹はちょっと気の毒そうな顔をして「・・じゃ、俺はここにいるから、しっかりね」と言った。砲塔のドアが閉まった。

薄暗い砲塔内でいきなりオトメチャンは目隠しをされた。「何なさるんですね!」とオトメチャンは泡を食って叫んだ。そこに(静かに・・)と人差し指を口に当てて副長が入ってきた。副長は「御免!」と言うなりオトメチャンのみぞおちに拳を思いっきり入れた。

とたんにグンニャリとなるオトメチャン。運用科と、工作科の兵は(ごめんねえ、オトメチャン。これもお国のためです)と手を合せて拝んでいる。

副長が、「さ、目覚めないうちに早く!」と言って、皆は我に返り手早くオトメチャンの服を脱がした。

その向こうで誰かが嬉しそうに笑っているのだが――

 

その頃、麻生分隊士は第二砲塔内で着替えさせられている。

「なんだあ、これは?おれのキャラクターに合わないみたいだが・・・」とぶつぶつ言っている。それもそのはず、なんだかある動物の体の一部分のような作り物を身に付けさせられているのだ。しかし、それがなんなのかは暗くってよくわからない。

「しかもなんだ、人のふんどしをふんだくりやがって、これをつけろだと?」ブツブツ言いながら工作科の兵曹に渡されたふんどしを締める。なんだか工作科の兵曹は笑いを必死にこらえているようではないか。

麻生分隊士は「貴様何か隠しているな?言わんか!」と怒鳴ったが、ふんどしを締めながらでは迫力に欠ける。工作科兵曹は笑いをこらえて震える声で、

「いえ、言えません。言うなと副長のご命令ですから・・」

と答えるのみ。やっと暗がりの中でふんどしを締めた麻生分隊士は「副長、だと?またなんか企んでやがるなあ」とぶつぶつ言う。

「準備はようございますか?」と外から水木水兵長の声がして、兵曹が「おう、いいぞ」と答える。兵曹が、「では、麻生少尉。ちょっと御無礼・・」と言って分隊士に目隠しをした。麻生分隊士は「なんだよ、何すんだよまったくもう」とちょっとあわてている。それには取り合わず、工作科兵曹は分隊士の手を引いてどこかにいざなう。

オトメチャンは、気を失ったままで第一砲塔の上に吊り上げられた。

「これから寸劇を始める!」

と、『大和』艦上に大声が響いた。副長の声である。皆が一斉に第一砲塔を見た。猪田艦長も何事かと目を向ける。

すると、今まで幕に覆われていたものが姿を現した。黄色い、大きな月を模した張りぼての前に、オトメチャンが気を失ったまんまでつりさげられている。

「おお!」「うわっ!」「刺激的~!」

いろいろな叫びが交錯した。猪田艦長も「おおっ、すごい・・」と思わず喉を鳴らす。

オトメチャンはなんと、白い兎の耳をつけ胸には白いさらしを巻き、下はやはり白いふんどしでお尻にはふわふわのウサギのしっぽが付いている。

それが気を失ってつりさげられているのだから何とも言えない風景である。

そこに、竹刀を持った森上参謀長が現れた。来ているものはまるでどっかの独裁国家の将軍が着ているような軍服調の服。

竹刀でバシッ!とばかりに床を叩いて、「ワハハ!このかわゆいウサギちゃんはおれのものだあ!誰にも渡さんぞ!」と悪役丸出しの参謀長。もしかしたら素のままかもしれない。

第一砲塔に連れてこられた麻生分隊士はここで目隠しを取られ、「なんだってんだ。・・え、ここは――」と言いかけて、砲塔の上の騒ぎに気がついた。

砲塔の上に続くラッタルを上って肝をつぶした。

あられもない姿でつりさげられているオトメチャン。そしてそのそばでヘンな服を着て竹刀を振り回している参謀長。

カ――ッ、と頭に血が上った麻生分隊士は一気にラッタルを駆け上がった。そして、砲塔の上に仁王立ちになると、「参謀長!ついに本性現しましたねぇ!」と叫んで身構えた。

参謀長は、竹刀を構えると「おお、来たな正義の味方クロウサギめ!」と叫ぶ。ここに至って初めて分隊士は(へ!?クロウサギって何だ)と我に返る。最上甲板いっぱいにいる乗組員たちが皆、この砲塔の周りに集まって目をキラキラさせている。

麻生分隊士は自分の姿をあらためて見直した、すると。

自分は黒い兎の耳をつけ、胸には黒いさらし、そして下は黒いふんどしにふわふわのウサギのしっぽが付いているではないか。

「ギャッ!!」

思わず叫んでいた。・・・何これ何これなにこれ・・・

参謀長はそんな分隊士にはお構いなしにひとりで盛りあがって「劇」を続けている。竹刀で、オトメチャンをつついて、「ほら見ろ~、貴様の大事な彼女だろ、ほれほれ、こうしてやる」といやらしい笑いを浮かべる。

「やめろぉ!」

麻生分隊士は再度、頭に血が上って参謀長に掴みかかった。「私のもの、私のオトメチャンに一体何をするんですかあ!いい加減にしてくださいって!」とわめきながら掴みあい。

下で観ているみんなはもう大喜びである。猪田艦長でさえ「いいぞぉ、麻生少尉。もっとやれ、もっとやれえ!」と手をたたく。

しばらくドタバタが続いて、オトメチャンが目を覚ました。異常な状況に「キャーッ!」と叫び声を上げる。

「オトメチャン!」麻生分隊士が怒鳴るように言って、参謀長を殴り飛ばした。参謀長は、分隊士のパンチをもろに食らって「演技」ではなく本当にダウン。

分隊士はオトメチャンに駆け寄るとその縄を解いた。オトメチャンは「・・分隊士、一体どうしたことか私にはわかりません」と泣きそうになっている。分隊士も「おれもよくわかんない。これが副長の言っていた『出し物』なのかな?」と言って、しっかりオトメチャンを抱きしめた。

とたんに満場の喝さい。

そこに副長の声で「・・・こうして邪悪なものは退治されて愛し合う二人は再び会いまみえることが出来たのであった。クロウサギは、まるで皇軍のようだ。強くて慈愛にみちた皇軍のようである!」とナレーションが入って喝采は最高潮に達したのであった。

クロウサギとシロウサギはわけがわからずポカンとしたまんまである――

 

そんなこんなで、よくわからないまるで楽屋受けのような寸劇も終わり、夜も更けた頃総員今度は落ち着いて猪田艦長のお説教を聞いた。

「・・・ああ、こういうすがすがしいお話を聞くって言うのもいいなあ!」と座禅を組みながら皆は言ったものである。

一方『武蔵』でも、乗組員による出し物の後、梨賀艦長の『くだらない・笑えない冗談』を乗組員一同は聞いたが、「・・・ああ!たまにはこういうお話もいいじゃない?」と大うけであったとか。

普段『大和』乗組員にはそっぽを向かれる梨賀艦長の冗談がここではウケて、梨賀艦長はご機嫌かつ大感激であった。

そばでは、加東副長の右と左に陣取ったトメキチとナナがあくびをしながらその冗談を聞いていた。

『月を愛でる会』はこうして終わったのだった――

           ・・・・・・・・・・・

長い話でした。

例によって、あの三人の絡みでしたね。結局これか!と言う感じでしたがみんなにはいい刺激になったようです。

昨日(9月22日)は東京では素晴らしい十五夜でしたが一夜明ければ大雨の彼岸の中日であります・・・。


にほんブログ村 その他日記ブログ 妄想へ
にほんブログ村
関連記事

「女だらけの戦艦大和」・月を愛でる会4 - 2010.09.21 Tue

『女だらけの戦艦大和』と『女だらけの戦艦武蔵』の上には、中秋の名月が――

 

いよいよ「月を愛でる会」当日である。両艦とも兵員から士官に至るまでうきうきとした気分である。

今日は特に、艦長が入れ替わると言う変わった趣向がある。『大和』の乗組員としては(猪田艦長、禅マニアって聞いてるから一晩中座禅組まされたりお説教聞かされたらちょっとなあ)と言う不安もあるが、梨賀艦長のくだらない笑えない冗談よりは教養が身に付くだろうと思いなおしたりしている。

『武蔵』の乗組員は(たまにはお説教や座禅じゃなくってくだらない冗談が聞きたいもんだよ)と思っている。

ともあれ、それぞれの艦長が艦を入れ替わって「月を愛でる会」は始まった。

どちらの艦でも「今日は無礼講~!」と言って、『間宮』からの『おはぎ』だとか酒保から持ってきた酒だとかそのほかを最上甲板や砲塔の上などで開いて食っている。

「大和」の第一砲塔はきれいに飾られ、何やら衝立が立てられて幕がかかっている。

猪田艦長は、野村副長や森上参謀長に歓迎されて皆に交じって酒を飲んだり食ったりしている。

月も、かなり頭上高くなってきた。

会が始まって二時間ほどした時やおら野村副長が第一砲塔の上に立った。兵たちからやんやの喝さい。それを押さえて、副長はあいさつ。まず猪田艦長を紹介して万雷の拍手。

長い挨拶は嫌われるのでさっさと切り上げて、

「ではここで、第一の出し物!」

と叫んだ。主計科の兵たちが何人も上がってきて、その場にそれは大きな三宝のようなものを置いてゆく。酒が少し回って頬を紅くした長妻兵曹が、

「なんだなんだあ~?ここで誰か腹でも切るんかあ~?それにしてもでけえなあ、あの三宝」

と言ってへらへら笑っている。そばで辻本一水が「いやですねえ」と笑う。すると副長がいきなり、「では、機銃分隊の長妻兵曹!ここへ!」とでかい声で叫んで、長妻兵曹は目をむいた。

「何ぃ。俺に腹切れってえのか?おれ何にもしてねえぞお!」と言って立ち上がると第一砲塔に向かって歩き出し、副長に「腹なんか切らねえからなあ!」とわめきながら砲塔に登る。

その兵曹を笑って迎えて副長は、「さあさあ、長妻兵曹。ここに座って。腹切りじゃないから安心して?」と座らせる。

「なんだあ?気味わりい」と長妻兵曹が座った。その時幕の裏から大勢の主計兵がどっと出てくると、兵曹の前のでかい三宝の上にそれはそれはでっかい『みたらし団子』を次々に置いてゆくではないか!

「ひょ~~~!!」

と、長妻兵曹は奇声を上げた。砲塔の下で福島大尉が満足そうな顔でうなずいている。

長妻兵曹は「福島大尉、ありがとうございます!」と言うなりそのでかい――ソフトボール大の――みたらし団子をひっつかむなり食い始めた。

「うわあ・・・長妻兵曹、すっごい!」

皆のため息が艦上を支配した。猪田艦長も「ほう、これはすごい。しかしあれを『団子』と言っていいものでしょうかねえ」と森上参謀長に話している。森上参謀長は「いいんですよあれが長妻風なんですから」と言って手を叩いて大笑いしている。

長妻兵曹は次々に手を出して、食っている。

 

そして、三方に盛られた団子は長妻兵曹一人によって完食された。その個数は福島大尉が「いくらなんでもこんなには食えまいよ」と言って30個。30個と言ってもその大きさを見れば「一個でもう腹いっぱいでありますね」と烹炊員が言うくらいであった。

(食いつくした・・・)と福島大尉は嬉しくなって砲塔に駆けあがると、「長妻兵曹、やった、やったねえ!」と叫んでその肩を掴んでゆすった。

長妻兵曹はさすがに腹が満タンになったようで「大尉、お願いですからそう揺らさんで下さいよ、戻っちゃいます」と言って腹をさすった。

福島大尉はああ、そうねと言って手を離して、「でね、この一部始終を映画にとってあるからね。『勇ましい海軍軍人は食べるのも勇ましい・下士官編』とでもタイトルつけよっか~」と嬉しそうに言った。

「え!?・・・映画ですって?」

長妻兵曹は丸で酔いがさめたような顔をした、聞いてねえよそんなこと。

福島大尉が「だって。こんな面白いもの記録しておかなきゃもったいないもんね。・・ほらあそこに報道班員の皆さんがいるのよ」と指さす方を見れば。

兵員と同じ格好をしているので気がつかなかったが、確かに映写機をまわしている『大日本大大和愛国映画株式会社』の面々がいた――

長妻兵曹はちょっと、いやかなり気勢をそがれて「嘘でしょう・・・こんなもの、内地で公開すんじゃねえぞ。末代までの恥じゃねえの!」と力なく言ったのだった。

 

猪田艦長は森上参謀長とともに「すっごい!すっごい長妻兵曹!どういうおなかしてるのか、猪田知りたい!」と叫んで手を叩いて大笑いしている。

艦上の乗組員も大笑いして、長妻兵曹はなんだか恥ずかしいようなしかし、誇らしいような実に複雑な心で砲塔を降りて行ったのだった。

 

降りて行った長妻兵曹は、機関科の松本兵曹長だとか浜口大尉につかまって服を脱がされ、膨らんだ腹をなでまわされてエライ目に遭っている。

「おお!すごい、すごいぞ。みんな見ろこの腹!人間の腹じゃねえよな、ワハハ、ワハハ!」

浜口大尉は撫でまわしながら大笑いが止まらない。長妻兵曹は「・・・お願い・・・やめて?・・吐きそう・・」とすっかり弱っている。

その周りには人垣が十重二十重。

そしてまたしばらくは月を見ながら歓談したり食べたり飲んだり。

『武蔵』では梨賀艦長が加東副長に歓待されている。こちらも出し物があるが、日本舞踊や剣舞と言った上品なものばかりで梨賀艦長は(『武蔵』って芸達者がいていいなあ。『大和(うち)はその点で言うとちょっと下品かも)と自分の事は棚に上げて『武蔵』を羨む。

そばでトメキチとナナが一緒に座っていもの蒸かしたのを食べている。久々の再開でトメキチとナナもうれしそうである。

 

『大和』。

おはぎを食べていた見張兵曹のところに石場兵曹が来て小声で「オトメチャン。副長がお呼びだよ?第一砲塔に来てって」と言った。

「副長が?」

オトメチャンは急いでおはぎを口に入れるともぐもぐしながら石場兵曹の後をついてゆく――

          (次回に続きます)

関連記事

NEW ENTRY «  | BLOG TOP |  » OLD ENTRY

プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

最新記事

最新コメント

フリーエリア

無料アクセス解析
無料アクセス解析
現在の閲覧者数:
Web小説 ブログランキングへ
小説家志望 ブログランキングへ ブログランキングならblogram
夢占い 夢ココロ占い (キーワードをスペース区切りで入力してください。)

カテゴリ

未分類 (21)
大和 (486)
武蔵 (66)
大和と武蔵 (41)
海軍航空隊 (28)
麻生分隊士 (3)
オトメチャン (39)
連合艦隊・帝国海軍 (155)
ふたり (69)
駆逐艦 (10)
ハワイ (8)
帝国陸海軍 (23)
私の日常 (110)
家族 (22)
潜水艦 (3)
海軍きゃんきゃん (24)
トメキチとマツコ (2)
ものがたり (8)
妄想 (5)
北辺艦隊 (1)
想い (14)
ショートストーリー (4)
アラカルト (0)
エトセトラ (5)
海軍工廠の人々 (5)
戦友 (10)

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

FC2ブログランキング

FC2 Blog Ranking

FC2Blog Ranking

最新トラックバック

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

RSSリンクの表示

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード