2010-05

「女だらけの戦艦大和」・非国民2 - 2010.05.31 Mon

「女だらけの戦艦大和」ではひそかに恐ろしい事態が進行していた――

 

麻生少尉がかつて喧嘩して、航海科から配置換えして高角砲に行った小沢水兵長はその後鳴りを潜めていた。

が。

その小沢兵長がいる右舷高角砲の指揮官、平沼少尉はどうもこの頃配置員の士気が今一つ盛り上がらないのを感じ取っていた。

それとなく観察していた平沼少尉は、ついに看過できない事態に遭遇した。

右舷高角砲の一つの班長、波戸山兵曹がおかしなことを班員に吹き込んでいるのだ。もともと波戸山兵曹は言うことがちょっと常識離れしていて、「宇宙人」というあだ名をもらっていた。

が、ある日平沼兵曹は波戸山兵曹が班員に言うのを聞いてしまったのだ。

「戦争よりも愛し合うことが大事だ。この海を戦いの海ではなく友愛の海にしなければいけない。そのためには日本を取り巻くアジアの国々と仲良くせねばならない。そのうえで日本は日本人だけのモノだけであるという考えを取り去らねば、日本は取り残されてしまう」云々。

なんということだ、こんなこと戦時の今言うことだろうか?何を考えてるんだこいつは。

平沼少尉は恐ろしさに膝が震えた。

非国民・・・売国奴・・・いや、それ以上・・・。

一体どこからこんなおかしな考えが生まれてきたのか、まずはその辺から調べてゆかないと、と平沼少尉は思ってそれとなく静かに波戸山兵曹の身辺を調査し始めた。

すると黒幕がいたのだ。

だれあろう、小沢水兵長である。

彼女は高角砲の配置になった時から年下の下士官で班長をも務める波戸山兵曹を取り込んだ。もともと博愛主義の波戸山兵曹は小沢水兵長の言う「みんな仲良く」の言葉を、その裏を深く考えることもなくうのみにし、洗脳されてしまったのだ。

大日本帝国海軍軍人でありながら、帝国日本を嫌い帝国海軍を憎むようにすらなってしまった。そして「アジアの人たちは我々によって国を侵略され迫害されているんだ!」と謝った認識を持つにいたった。

それも自分ひとりで思うだけならまだしも、その考えを班員に広め始めて純情な若い兵の中には「なんと!今まで我々が教わっていたのは間違いだったのか!?

と悩み仕事が手に着かなくなるものさえ出始めていた。

平沼少尉は(若いやつらはすぐこれだからなあ。自分をもっとしっかり持ってもらわないと。ヘンな話に惑わされて使い物にならないんじゃ戦争遂行に障害になる)と、意を決して分隊長に直訴を決めた。

高角砲の分隊長平野大尉はさすがに驚いた。

「そんなことを言ってるとは、気がつかなかった。私の怠慢である。さっそく艦長と副長にお話ししたうえで小沢たちを尋問せねば」

そう言って二人は艦長室に向かったのだが、その途中主計科の福島大尉に出会った。その福島大尉は平野大尉を見るなり、

「平野大尉、お宅の波戸山兵曹って一体何者なんですか?この間っから私に『一緒に日本を変えませんか、この戦争は間違っています私たちは死んで靖国神社に行きたくないしそんなところではなく別の追悼施設を作りましょう』とかわけのわかんないことを言って誘いをかけてくるんですよ。なんだか気味が悪いし第一こういう発言は不敬です、非国民の考えじゃないんですかねえ。『大和』の名前に大きな傷になりましょう?」

と食ってかかった。相当怒っているようだ。

平野大尉はもうそれこそ心臓が口から飛び出るくらい驚いた。

・・・波戸山のやつ、小沢にそそのかされたにしてもすごすぎる。あいつは本当に「皇国臣民」、いや「帝国軍人」としての自覚がないのか。

「やはり『宇宙人』ですな」

平沼少尉は言ったが、平野大尉にしてみればこんなことが全艦に知れ渡ったら平野大尉の責任問題になる。監督不行き届きくらいでは済まない、もしかしたら平野大尉が一枚かんでいるのではないかと疑われないとは限らない。

「急ごう、平沼少尉」

平野大尉は少尉を急がせた。

 

艦長室に行くと既に艦長も副長もこの一件を耳に入れていた。艦長は苦虫を噛みつぶしたような顔で高角砲の二人の士官を室内に招じ入れた。

まず副長が口を開いた。

「どういうことなんだ、平野大尉。波戸山兵曹は少しおかしいのか、それとも高角砲ではそういう思想を君が吹き込んでいるのか?」

平野大尉は電気に触れたようにビクッとした、平沼少尉があわてて割って入った。

「副長、分隊長が吹き込んだなどということは間違ってもございません。これには真犯人がおります」

艦長は顔をあげて平沼少尉を見た、そして平野大尉をじっと見ると

「少尉も大尉も知っているね。知ってることすべて話してほしい」

と言った。もとよりそのつもりの二人は知っているすべてを艦長と副長に話した。

その話を聞いた艦長と副長はさすがに驚きを隠せなかった。まさかあの小沢水兵長がそんな思想の持ち主でしかも、波戸山兵曹を取りこんで仲間を増やそうとしていたなどとは考えも及ばなかったことである。

「下手をすれば、『大和』はあいつらに乗っ取られてしまいます。早く手を打ちましょう」

副長が艦長を見て言った。艦長は深くうなずき、「小沢と波戸山をここに呼べ」と命じた。

 

艦長は慎重を期するため、全艦から上等下士官以上をランダムに選出し艦長・副長・参謀長をトップにした「艦内審議委員会」を急きょ発足させた。

小沢・波戸山の二人は艦長従兵の見張兵曹と、副長従兵になったばかりの石場兵曹に拘束されて艦長室に向かっているところである――

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

なんてことでしょう。

こんなことで一枚岩の『大和』の結束を壊してはなりません。

この後「審議委員会」に掛けられて、小沢・波戸山の二人はどうなるのでしょうか??


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「女だらけの戦艦大和」・非国民 - 2010.05.28 Fri

「女だらけの戦艦大和」は間もなく、トレーラー島に出航出来そうである――

 

一年ほど前、航海科見張り部には小沢水兵長がいた。彼女は水兵長ではあるが海軍生活十二年のベテランである。善行章は四本を持っている。

だが、なぜだか昇進が異常に遅れている。理由はよくわからない。

彼女は、麻生分隊士とある時から反目しあうようになり一年前に配置換えになった。転科先は高角砲である。

最初、通信科に配属しようとしたが通信科からダメ出しが来た。

「あれは使えない。危なすぎる。勝手にどこかの周波数に合わせている節がある」

通信科の分隊長が怖がってそれで高角砲に来たのだ。

麻生分隊士は最近会わない小沢兵長の事をふと思って、(あいつ、うまくやってんのかなあ)と心配になった。

どうも考えてることがよくわからないし、階級や「飯の数の少ない」下の兵をうまく手なずけては自分の手足同様に使っている。

まるで自分が分隊士か分隊長、いやそれどころか艦長のような気でいるところが気に食わなくて麻生少尉と反目しあうようになったのだ。

 

「貴様は何様のつもりでいるのか、小沢ぁ!」

一年前、ついに麻生分隊士は小沢兵長に怒鳴った。堪忍袋の緒が切れたのだ、大きな音を立てて。

事の発端は兵長が、下士官任官したての見張兵曹に言った言葉が原因である。彼女は見張兵曹にこう言ったのだ。

「あんたそんな若くて下士官になったけど覚悟はできてんの?」

見張兵曹にとって、小沢兵長はずっと年上でしかも海軍の飯を十年以上食っているからある意味昨日今日来たような新米少尉よりずっと怖く、目の上のたんこぶである。

「・・・覚悟、でありますか?」

こわごわ問う兵曹に兵長は油ぎった顔を不気味にゆがめて笑い更に言う、

「覚悟、覚悟ちゅうのは自分がこれからここでどうやって行くかちゅうことよ。どうなの?」

兵曹は姿勢をピッと正すと、

「お国のため、陛下の御為死んでも戦う所存でありますが」

と大声で言った。すると兵長はそのほほに人を馬鹿にしたようなうすら笑いを浮かべると、

「あんたね、死んでどうなるっての?死んでまで戦ったやつなんておらんのよ?精神論もたいがいにしたらどうかね。精神論じゃこの戦争には勝てない、ちゅうのよ」

と言った。見張兵曹は泣きそうな顔になった。そして、

「でも、陸軍の木口小兵様のお話があるであります。死んでもラッパを放さずに進軍ラッパを吹き続けて、立派であります・・・」

と言った。古参の水兵長ににらまれてすくんでいる。麻生分隊士はこのあたりから指揮所に不穏な空気が流れだしたのを感じ取ってそれとなく推移を見守ることにしたのだが。

小沢兵長は更に馬鹿にした顔で兵曹を見て、

「あんたも馬鹿だね。死んでもラッパ吹けるちゅうの?それが精神論だちゅうの。もっと現実を見て物を言わないといかんちゅうの」

というなり、兵曹を小突いた。

よろける見張兵曹をサッと受け止めて麻生分隊士は口をはさんだ。

「小沢兵長、貴様の物の言い方は非国民の物の言い方ではないか」

分隊士はそう言って小沢兵長をなじった。いつの間にか他の見張り員や伝令たちも集まってきている。見張兵曹はべそをかき始めた。

「ほう、非国民。非国民ちゅうのはどういうの?」

小沢兵長は全く動じない。それどころか麻生分隊士を挑発しているような気さえ皆にはしてきた。

麻生分隊士の顔が真っ赤になり、小沢兵長をビッと指さすと、

「貴様のような考えのやつを言うんだあ!」

と大音声を発した。その大声に指揮所にいた全員――小沢兵長以外――は思わずビクッと電気に撃たれたようにひきつった。

しかし小沢兵長はこの期に及んでも動じることはなく平然と言ってのけた。

「ほう、本当の事を言ってそれが非国民か。麻生特務少尉はおかしなことをおっしゃるものですね」

「・・・なんだと貴様」

麻生分隊士の声が低くなった。皆は(これはまずい)と思った、分隊士の声が低くなると分隊士の怒りのボルテージが最高潮に達したことを意味している。

小沢兵長は「特務少尉」という言葉を使って分隊士の感情を逆なでした。下士官からたたき上げの士官を最近まで「特務」の呼称をつけて兵学校出の士官と区別していたがそれが廃止になった。

士官同士の差別・区別意識を無くすための一策であっただろうが現実にはその意識は歴然とあったし、下士官からの士官には(兵学校での経験もろくにない士官とはちょっと違う)という気概があった。

そのデリケートな部分をわかっていて兵長は発言したのだ。

平然とうそぶく小沢兵長に麻生分隊士は震える声で「貴様、ただで済むと思うなよ」と言い捨ててその場を去っていたのだった。そのあと分隊士は艦長・副長に直訴して小沢兵長の配置換えをしてもらったと言うことがあったのだ。

その小沢兵長、いまだに水兵長のままらしいがこの頃あまりおかしな発言をしたということを聞かないので安心はしていた。

が。

思わぬことになっていた。

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

誰だこれ!?

ずいぶん態度のでかい水兵長がいればいたものですが、いくら見張兵曹が下士官任官しても飯の数多い(多すぎる)小沢水兵長には、ちょっと。

そして思わぬこととは、一体!

次回に続きます。


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「女だらけの戦艦大和」・食いしん坊バンザイ! - 2010.05.26 Wed

「女だらけの戦艦大和」に、いいにおいが漂っている――

 

『大和』は間もなく修理を終えて元のトレーラー基地に戻るだろう。兵装も整えられてハリネズミどころかヤマアラシのようになった。

見張兵曹は防空指揮所からそれを見降ろして(すっごいなあ。これでもう「大和」は向かうところ敵なしってもんだなあ)と感心している。

そろそろ夕飯時であり、烹炊所から漏れ出したいい香りが艦内に漂い出している。

「今夜はすき焼きだ!」

兵曹は香りを嗅ぎ分けて嬉しくなった。

 

艦橋から居住区に下りる途中、兵曹の鼻は『別のいい香り』を感知した。

(お!?なんだこのいいにおい。すき焼きではないなあ~。一体どこから来るんだろう)

見張兵曹はその香りをつけてゆくことにした。

 

匂いの元は下甲板の士官烹炊所。ここでは士官用の食事を作っているのである。彼らは見張兵曹たちとはちがっていわば自腹で飯を「買う」ので豪華な食事をとれるのである。

準士官である兵曹長になれば準士官用の烹炊所がある、松本兵曹長とか渡貫兵曹長はこう言ったところで作った物を食えるのだが松本兵曹長は「士官用?盛りがすくねえから嫌だ。兵食を食っていたい」と言って兵食を食っている変わり者である。

 

ともあれ。

見張兵曹は士官用の烹炊所をそっと覗いた。ここでは主計科の烹炊員ではない軍属のコックが調理をしているのだ。

(わあ、今日はいったい何を作ってるんだろう)

食べ物に興味のある兵曹にはたまらない場所である。

 

そこに。

「あれ?オトメチャンじゃない、どうしたの」

と福島主計大尉が声をかけた。兵曹は振り向くと敬礼した。その兵曹に笑って返礼しながら福島大尉は、

「ああ。ここのぞいてたんだ。士官用の烹炊所、オトメチャン達の烹炊所とはちょっと趣が違うでしょ?」

と言って扉を開いてくれた。コックたちが大尉に気がついて礼をする。大尉は仕事の邪魔にならないようにうなずいて、

「今日の献立は何だっけ、たいがい夕飯は和食だよ。・・・今日は牛肉味噌漬けにたけのことイカの木の芽あえ、それに煎り豆腐とかかなあ。他にも何皿かあるんだよ」

と教えてくれた。

「なんと!牛肉の味噌漬けでありますか。おいしそうでありますねえ」

見張兵曹はよだれをたらさんばかりに言った。福島大尉はちょっと苦笑して、

「でもさあ、オトメチャン。今日はオトメチャン達もすき焼きだよ?すき焼き、嫌い?」

と聞いた、すると兵曹は猛然と首を横に振って、

「とんでもないであります、すき焼きは大好物であります。・・・あとウドンもそうでありますし、カレーライスもでありますし、てんぷらもでありますねえ・・・」

と話し出した。止まりそうもない。

福島大尉は、「オトメチャンは小さい頃何が好きだったの?」と思わず聞いてみた。すると兵曹はちょっとさみしげな表情になって、

「私は子供のころはこのくらいの飯椀にちょっとのご飯、それに味噌汁の上澄みをぶっかけて食っていました。いつも毎日それだけでありましたからぶっかけ飯が好きでありました」

と言った。福島大尉は内心(しまった)と思った。

兵曹の心の地雷を踏んでしまった!――と後悔したが、兵曹は次の瞬間表情を和らげて、

「ですが海兵団に入ってとてもうまい飯を食うことが出来てよかったであります。海兵団は極楽のようだと思いました」

と言った。

福島大尉は海兵団はしごきもあってとても極楽、とは言い難いんじゃないかと言ったが兵曹は、

「いえ。あんなしごきは私がうちでされてたことを思えば蚊に刺されたくらいです。それより美味い飯が食えるから嬉しかったであります」

と意に介していないようだった。

「そう。それはよかった・・・」

福島大尉はそう言って、

「ほらもう食事の時間だよ。早く行かないと」

と兵曹に発破をかけた。兵曹は「あ・・」と小さく口の中で言うと福島大尉に敬礼して自分の居住区に走って行ったのだった。

兵曹が居住区に着いて間もなく食事開始。

「いただきまーす!!」

大きな声があちこちで響いて、兵員の食欲が爆発している。

 

さてここで本日の士官食の簡単なレシピをご紹介しましょう。

牛肉味噌漬け

牛肉の純良なところを三十匁(≒112グラム)位に切って白みその中に入れて漬け置くこと一日半くらい。

味噌を取って鉄条か串に刺して焼いて差し出す。付け合わせは菜のお浸しとする。

肉は切って提供すること。

(参考文献・復刻 海軍割烹術参考書 イプシロン出版企画より引用させていただきました)

 

 

見張兵曹は今日見たあの士官烹炊所の風景を何度も心に描きだしていた。そして(いつか必ず士官になってあのうまそうな料理を食べるんだ!)と心に誓っていた。

そして、(麻生分隊士もあんなおいしそうなものを毎日食べてるんだなあ)と思ってとてもうらやましくなった。

 

その晩例によって分隊士の部屋を訪れた見張兵曹は麻生分隊士から小さな弁当箱を渡された。

分隊士は笑って、「開けてごらん」という。ちょっとだけ怪訝な顔でそれを開けた兵曹の顔がぱっと明るくなった。

「分隊士、これ!」

と声が上ずった。弁当箱の中には「牛肉味噌漬け」が入っていた。分隊士は「福島大尉がな、これをオトメチャンにあげてくれって。オトメチャンは料理がうまそうだからこれ食って味を覚えたらいいって下さったぞ」と言った。

「福島大尉が。ありがたいであります」

兵曹は弁当箱をささげて頭を下げた。分隊士が「さ、食ってみろよ?美味いぞ。・・・でそれ食ったら俺がオトメチャンを食うからね」

 

食って食われて。

でも今夜はオトメチャンにとっては嬉しい晩になったのであった――

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「復刻 海軍割烹術参考書」 イプシロン出版企画 ・は普段の献立の参考にもなるいい本であります。

お鍋などの調理用具やお皿などの図、そして日本料理・西洋料理・菓子(デザートといていいでしょうか)などが現代語訳されています。

興味のある方ぜひ読んでみてください。

帝国海軍士官は結構おいしいものを食べていましたね~、いいなあ。

私も士官になって・・・いや兵食も魅力あるし・・・どっちもいただきたい!!


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「女だらけの戦艦大和」・忍者丸「大和」へ。 - 2010.05.23 Sun

「女だらけの戦艦武蔵」に朝が来た――

 

ようやっと東の空が白み始めた頃、猪田艦長は防空指揮所に上がった。するとそこにはたった一人で双眼鏡にしがみついて泣きそうな加東副長がいた。

「おお!副長」と猪田艦長は声をかけると、副長は涙のたまった眼を艦長に向けた。そしてその涙を両の目から落として、

「・・・艦長、ひどいや。あれからだ―れもここに来ないんですよ。本当にこの艦はたるんでますよ、艦長、ここは一発・・・」

と言ったが途中で遮られた。

猪田艦長は笑って

「たるんじゃないでしょう。昨日はいろいろあったからここの配置員には待機を命じただけだって。艦長の言うことだからいいの!」

と言ってから射撃指揮所の上に「忍者丸殿!」と声をかけた。中川忍者丸が顔をのぞかせた。忍者丸はそこからストっと下りると猪田艦長の前にひざまずいた。猪田艦長は彼を立たせて、

「では忍者丸殿、あれに見える『間宮』で呉まで行ってください。『大和』がおります、梨賀という艦長がいるので彼女にこの手紙を渡してください。・・・では、ご成功を祈ります」

と言って敬礼した。

忍者丸もちょっと名残惜しそうな顔で、

「いろいろと脅かして申し訳ないことをいたした。昨晩の事、礼を申す。きっと乙女様を探し出して見せる故みていてくだされ」

と言って、武蔵のそばに停泊していた駆逐艦に乗り移り、そしてあっという間に『間宮』の艦橋トップにたどりついていた。

「すげえ」

艦長と副長は同時につぶやいていた。

 

『間宮』は呉を目指してひた走った。

そして約一週間の後、呉に入港した。忍者丸はそれを察して夜陰に乗じ『間宮』を降りた。この約一週間というもの『間宮』に乗っていた忍者丸は食べる物には苦労しなかった、給糧艦だけあっていくら補給のために呉に帰るとはいえ、乗組員の食餌もあるから忍者丸一人がこっそり食ってもなにほども困らなかった。

(かたじけない)と感謝をこめて『間宮』に礼をした忍者丸である。

(さて。『大和』殿とは一体どこにおられる)と、忍者丸は岸壁を歩いた。ふと、はるか沖を見ればあの『武蔵』とそっくりのシルエットの艦がいるではないか。

(おお、あれが『大和』殿か!)確信した忍者丸は上陸場に停泊しているランチにこっそり乗り込んだ。『大和』の近くまでいければ、と思っていた。

このランチは『大和』のもので忍者丸はすんなりと、しかも人目につかず『大和』に乗り込めた。

『大和』に忍び込んだ中川忍者丸は武蔵の猪田艦長に教えられた「梨賀艦長」を探していたがそれらしい人はなかなか見当たらない。

(いたしかたない)と、また『大和』の前鐘楼トップに上った。そこからすぐ下を見れば防空指揮所があって(おお、これは『武蔵』殿と同じ形。ここにおれば梨賀殿に会えるであろう)と思いそこで待つことにした。

それから小一時間ほどした時、指揮所に麻生分隊士が上がってきた。分隊士は大きく伸びをすると、

「ああ。やはり日本の風景はええなあ!呉の街並み、あの山山。ええなあ!」

とひとりごちた。そして、なにげなく後ろを向いて上を見上げた時。

「!」

中川忍者丸と目があってしまった。驚いたのは中川忍者丸も同じである。何も言えず、金縛り状態の麻生分隊士の前に、忍者丸はストっと下りてきた。

来るなり彼は

「殿っ!」

と大声をあげて分隊士の前にひざまずいた。更に驚く分隊士に忍者丸はすがりつかんばかりにして、

「殿、姫はこの私が、この中川昭輔が必ずや探し出してごらんにいれまする!」

と叫んだ。麻生分隊士は言葉が出ない、しかし頭の中で(・・・中川昭輔さんっていったい誰?しかもこのヒトすっごい時代がかった格好してるし・・)と思った。

呆然とする分隊士の足元で、忍者丸はひれ伏している。

とそこへ、「分隊士ぃ!」と見張兵曹が入ってきた。兵曹はその異様な光景に一瞬立ちすくんだ。

「分隊士、この方はどなたでありますか」

そういう兵曹を中川昭輔は振り返った、とたんに彼の顔が歓喜の色いっぱいに輝いた。いきなり立ち上がると兵曹の両手を取って、

「姫!こんなところにいらしたのですか!この忍者丸お探しいたしましたぞ。・・しかし殿とご一緒であったとは、昭輔意外でありまするが?」

と言った。麻生分隊士はやっとこさっとこ金縛りから解けて混乱する頭のままで忍者丸に話しかけた。

「あの、あなたはいったいどなたで?私はあなたを存じませんが」

忍者丸は不思議そうな表情を見せた。そして、

「何をおっしゃいますか、殿は麻生家のご当主で『自民城』のご城主。で、こちらはご息女の乙女様でありましょう?」

と言った。

分隊士は深呼吸をすると、相手に詳しい話を求め、中川昭輔は今までの事をすべて話した。そして、

「これを梨賀艦長殿にお渡しせよ、と猪田様より言付かってまいった」

と猪田艦長が渡した手紙を分隊士に示した。分隊士は伝声管を使って第一艦橋にいる梨賀艦長を呼んだ。

艦長はすぐに、副長と参謀長を連れて上がってきた。三人は当初そこにいる変わった風体の男に驚いたが猪田艦長からの手紙を読んで「ほう、こんなことがあるのか!」と驚きを隠せない。

忍者丸は梨賀艦長に、

「急ぎ元の場所に戻らねば乙女様が心配でござる故、早くなんとかできぬものでしょうか」

と言ったがその目が切なげで、艦長は(この男性は、乙女様とやらに恋をしてるんだな)と直感した。

忍者丸は時々見張兵曹を見ては更に切ない表情でいる。

艦長は、「穴か。前にオトメチャンが落ち込んだって言う穴はこのへんに出来たんだったね」と言って指揮所の壁をなでた。

「オトメチャン、ですと!やはり乙女様ではありませぬか!」忍者丸は興奮している。それをまあまあと制して艦長は、

「しかしどうやったらあの穴が再び出てくるのだろうか。あの時は戦闘中だったしちゃんとした場所はよくわからないが」

と言って困り顔である。

そこにトメキチが入ってきた。「あ、トメキチ!」と見張兵曹が声をかけた。トメキチは兵曹に笑いかけてふと忍者丸に気がついてそのにおいを嗅いだ。忍者丸はちょっと当惑したような顔でトメキチのなすがままになる。

次の瞬間、トメキチは彼の着物をくわえて指揮所の壁の前に連れて行った。

「ここにいろと?」

忍者丸は言った。トメキチは「ワン!」と吠えて壁を見つめる。

艦長が、

「忍者丸殿。向こうに帰れたら麻生殿に宜しくおっしゃってください。そしてあなたは乙女様と幾久しくむつまじく」

と忍者丸に言うと彼は真っ赤になって、

「いや、私などにもったいないお方です。それに殿がお許しになるはずはありません。私は家臣ですがそのような」

としどろもどろ。艦長は笑って、「あなたは御身分の高い家臣ですね。その刀業物ですよ、それがすべてを物語っています」と言ってやった。

忍者丸は見抜かれた、と思い真実を話した。実は彼と乙女様は昔からのいいなずけであったが麻生氏の領土を侵略・略奪して来た強大な軍勢を持つ小沢公なる隣国の城主に、それをやめさせるための人身御供として乙女様は輿入れさせられたのだ。

しかしその晩からの小沢公の奇行に乙女様は恐れをなし、その夜のうちに姿を消してしまったのだと言う。

「ふ―む、乙女様がご無事だといいですね」

艦長も副長も、参謀長も唸った。参謀長が見張兵曹を見て、「そしてその乙女姫はこの見張兵曹に瓜二つだというんだなあ」と感心したように言う。

副長が忍者丸を元気付けるように、

「大丈夫ですよ。このオトメチャンは運が強いんですから。今までだって死地を脱して来た、だからあなたの乙女様もきっとご無事です」

と言った。忍者丸は嬉しそうに、そして力強くうなずいた。

トメキチが、「キャン!」と吠えたので皆はそっちを見ると、壁がぼーっと薄明るく光っていた。そして見る見るうちにその中心に穴が広がりだした。

「さあ、中川殿。これで戻れましょう・・・お元気で。ご武運を祈ります」

艦長が言った。忍者丸は笑って「かたじけない。このお礼はいつかきっといたします。――あなた方のご武運を祈っております。『この国』をよろしく!」と言って片手をあげると穴に入って行った。

彼の姿が穴にすっぽり入ると、やがて光は薄れ穴は閉じた。

あとには不思議な静けさだけが残った。皆はしばらくその場に立ちつくしていたのだった。

 

後日麻生分隊士が調べたところでは彼の言っていた「麻生家」とは分隊士の家の本家に当たる筋だったことが分かった。

「すごい、分隊士の家柄って大名だったんですね!」と見張兵曹は感心しきり。その兵曹に、分隊士は「確かに乙女様って姫様いたらしい。あの中川昭輔と一緒になって麻生家を盛り立てたらしいよ」と話した。

兵曹は「素敵であります!・・・てことは待てよ、もしかして分隊士と私は前世からのお付き合いってことでありますか」とハッとしたように言った。

「そうなんだよきっと、前世は親子。そして現世では――」

分隊士はたまらずオトメチャンをその場に押し倒してしまった。

ああ。 やはり輪廻転生とはあるんだろうか。しかしこんな嬉しい輪廻転生ならばあと何度でも、と思いながら兵曹を抱きしめる分隊士であった。

 

更に後日、『武蔵』の猪田艦長は梨賀艦長からの書簡で事の顛末を知って、ほっと安堵の胸をなでおろしたと言う――

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

忍者丸のお話でした。

やっぱあの『穴』は只者じゃなかった!しかしほかの時代ともつながった『穴』がほかにもあるのでしょうか。

探してみましょう!

でもそこから恐竜なんかが出てきたらいやですねえww。


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「女だらけの戦艦大和」・猪田艦長と忍者丸 - 2010.05.21 Fri

「女だらけの戦艦武蔵」の加東副長はそこに信じられないものを見た――

 

前鐘楼のトップの射撃指揮所の上、方位測定器アンテナのある露天の屋根部分。そこにそれはいた。

異様な風体であった。それが南方の星明かりを背にしている。

ちょんまげを結って、薄汚れた着物を着こんだ男は眼光鋭く副長を見降ろしている。その目の光はしかし、賢そうな色をたたえている。

副長は震える声で、しかし毅然として「誰だ。ここを帝国海軍軍艦『武蔵』と知ってか」と誰何した。

男は鋭い眼光のままで「・・・帝国海軍、だと?何だそれは」と言った。副長は(こいつ。日本人のくせにしらんとは言わさぬぞ)と怒りを感じた。

「降りてこい。艦長に引き合わせる」副長は震える声のままで猪田艦長を呼んだ。

猪田艦長がすぐに来た。手には日本刀を持っている。「得体のしれないもの」に対する威嚇と自らの威厳のためである。

例の男は、艦長の姿を見ると屋根からするするっ・・・と下りてきた。身のこなしは只者ではない。副長は思わず身構えた。

猪田艦長は男と少しの距離を置いて立つと、しばらく男の風体を眺めた後、おもむろに口を開いた。

「貴様、何者じゃ。何のために『武蔵』に来た?間諜(スパイ)か、貴様」

男は腰を少し落とした姿勢で身構えている、男は言った。

「姫様を、出せ」

猪田艦長の美しい眉がちょっとひそめられた。艦長は「姫様、とはだれであるか。ここにはそのような高貴なお方はおらんが」と言った。

男はちょっと意外そうな顔つきになった、そして

「わが殿の大事な姫様じゃ。先だって民主城の小沢公のもとに御輿入れなさったが、小沢公の奇行に城を飛び出されてしまわれた。行方が分からんので我々がこうして探しているのだが、わしは仲間と一緒に探しに出た時森の中で穴に落ち込んでしまい、それからこんないくさ船のようなものばかりのおかしな所に来て困っておる」

と話し出した。

猪田艦長は興味をそそられて男に対する警戒感を解いた。男もその気配を察して身構えた姿勢を解く。

艦長は、

「ほう。して、その姫の名はなんという名じゃ」

男は「わが城主、麻生太衛門山道(あそうたえもんやまみち)様のご息女、乙女様でござる」

猪田艦長は(なんだか・・・どっかで聞いたことあるような名前だなあ)と思ったが黙って男の話を聞いた。

「乙女様は、政争の具にされてあわれ小沢公の元に」

男はよほど悔しいと見えて涙目になっている。その目を袖で拭って「我ら皆、乙女様のためなら命など惜しゅうはないのじゃ」とつぶやいた。

猪田艦長は男が可哀想になってきた。副長も何か神妙な顔になっている。猪田艦長は男にうなずいて見せた。

「ふむ。そなたの気持ちはよくわかる。我々も日本のためなら命などいらぬと思うて日々戦っておるのです」

いつの間にか「貴様」から「そなた」に呼び方が変わっている。猪田艦長はうなずいて、

「しかし、ここにはその姫様はおられんし、第一時代というものが違うんじゃ仕方ない。そなたは穴に落ち込んだと言うがその穴は時間も時代をも超える不思議な穴なんだろう。ならばすぐにでもその穴を見つけて入らねばならんが・・・」

と言って、「しかし、困った」とひとりごちた。

そんな穴など見当たらない。

その時ふっと思い当たることがあった。

「『大和』だ・・・」

男は艦長の顔を見つめている。艦長は、

「そなた、いきなり『武蔵』に来られたのか?」

と聞いたが男は首を横に振った。『武蔵』のそばに停泊している「青葉」を指して、

「気がついたらあの軍船の屋根の上におった」

という。猪田艦長は「ほう」と言って、男を近くに手招いた。男は少し警戒の色を見せたが従った。

猪田艦長は

「帝国海軍には『大和』というこの艦とよう似た艦がおる。その艦なら、もしかしたらそなた、元の場所に戻れるかもしれませんぞ」

と言った。艦長は依然梨賀艦長から見張兵曹が突然消えて、また突然戻ってきた話を聞いていた。

(あの話も『穴に落ち込んだ』と言っていたし、この男の話とよく似ている)

「その、『大和』殿とやらはいずこにおられる?」

男は勢い込んで言った。猪田艦長は、「今は日本の呉におります。だからそなたは明日にでもあの艦に乗り込んで呉に行くがいい。私から先方の艦長に手紙を書いておくからそれを渡すように。今そなたがおられる軍船と同じ形だからすぐに分かりましょう」と言って、男に呉に帰る『間宮』をゆびさしたのだった。

男は嬉しそうにうなずいた。

猪田艦長は男に、「『大和』の艦長に武蔵の猪田から手紙を言付かっていると言って渡すといい」といってやり、艦長室に連れて行った。

副長が一緒に行きかけたが、「副長はここにいるように」と言われ、その場に残った。

艦長室で猪田艦長は筆を取り、流れるような達筆で梨賀艦長宛の書簡を書きあげた。

ふと顔をあげて猪田艦長は男を見て言った、

「そう言えば、まだそなたの名前を伺っていませんでした」

男はハッ、と息をのむような声を出して

「相すまぬことを。私は麻生家の家臣、『中川忍者丸昭輔(なかがわしのびまるしょうすけ)』と申すもの。人からはにんじゃまる、と呼ばれておるが」

と言った。猪田艦長はその名を聞いて思わず微笑んでしまった。「忍者丸、か。良い名だな」

そして手紙を忍者丸に手渡し、「今夜は武蔵で過ごして、明日陽の出る前にあの艦に行きなさい。ただ姿を見られるとまた騒ぎになるからうまく乗るように」と言い含めてやった。

忍者丸は幾度も礼を言うとその晩は、武蔵のてっぺんで寝たのだった。艦長もなんだか安堵して眠りに着いたが、猪田艦長はすっかり忘れていた。

加東副長を防空指揮所に一人、置き去ってきたことを――

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

出たっ!!

忍者丸だあ。実はこのキャラ、もう以前に子供たちとの雑談中に出たキャラで「女だらけの~」の出したらどうか、という話になっていました。

今回実現!

さあ、『間宮』に乗って忍者丸はうまく『大和』にたどりつけるのでせうか???

そして副長は朝まで「当直」なんですか?艦長。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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