2010-02

「女だらけの戦艦大和」・大器晩成 - 2010.02.26 Fri

「女だらけの戦艦大和」は今日も静かにその身を紺碧の海に浮かべている――

 

その『大和』の高角砲員でほぼ一年前に罐室から配置換えになった上原水兵長はうかない顔つきでいた。

ため息も最近頻繁につくようになっていた。

その日も、上陸日に当たっていたが他の兵員に比べて顔つきが暗い。あてどもなく歩いている。皆が先を争って慰安所に走るのを、ぼーっとして見ている。

そこに、上原水兵長の同期で『武蔵』乗務の外山水兵長が通りかかった。

「あれ・・ウエチャン?」と外山水兵長はその肩をたたいた。

ハッとして我に返る上原水兵長に外山水兵長は、

「どうしたんだよ。ぼーっとしてさ?どっかに行くんじゃないの?」

と聞いた。しかし上原水兵長は、悲しげに首を横に振って、「行かない」と短く言った。

外山水兵長はなんだか不安になった。今までこの上原がこんなにおかしな様子になったことがなかったからだ。

「どうしたんだよ。念願の高角砲の配置になって、もう慣れた頃だろ?・・どうだ、高角砲は、機銃と並んで戦闘の花形だからなあ。うらやましいぞ」

外山水兵長はそう言って、上原水兵長の顔を覗き込んだ。

すると、とつぜん上原水兵長の顔が歪んで泣きだしたではないか。外山水兵長はあわてて、そばの木の陰に上原水兵長を引っ張り込むと、

「何があった?え?言ってみろよ」

とその両肩を掴んで揺すぶった。

上原水兵長はしゃくりあげながら、「失敗ばっかだから、怒られる」とやっと言った。

「怒られる、って」一体何をしたんだ、と外山水兵長は聞いた。

しゃくりあげつつも上原水兵長はざっと話し出した――

 

上原水兵長は『大和』乗艦以来、罐室でやってきた。一等水兵から水兵長になる前まで罐室で頑張って、自分はここしかないと思っていた。

他の罐室員の中には、「こんな暑いところはいやだから、花形の機銃に配置換えにならんかなあ~」などと独り言のように言うものもいたが、上原水兵長は(何を言ってやがる。自分の配置を大事にせんか、この罰あたり)と内心腹を立てていた。

自分は罐室を死に所と思っていたのだ。

なのに。

一年前にいきなり、といった感じで「上原水兵長、高角砲に配置転換を命ズ」と、配置替えの通知が来てしまったのだ。

どんなに嫌でもこれに逆らう訳にはいかない。しぶしぶ応じたのだが。

新しい配置では失敗ばかりしてきた。高角砲の砲弾を受け取ってそのまんまおっことしたり、担ぎあげたと思ったら背中側に落としてみたり、まあ落とすこと落とすこと。

最初は、「たるんどる!貴様の失敗でみんなが大迷惑だ!実際に戦闘になったらこの高角砲は全滅だぞ!」と怒鳴られ、ケツバッターを食らうくらいであったがもう一年がたとうとしている今になっては、上の人間はおろか下の兵にも「いつになったらまともにできるんですかねえ?」とかげ口を叩かれる始末である。

 

「・・俺が悪いのは分かってる。でも一所懸命やってるんだよ、なのに・・・」

上原水兵長は泣いた。外山水兵長は困ってしまって、その肩に手を置いている。もし自分が『大和』にいたなら何かと相談にも乗れただろうが、違う艦ではあまり口出しはできない。

困り切ってしまった。

 

その時。

「おい、どうしたんだ?」という声がして、外山水兵長はハッと声の方を見た。そこには『大和』の高角砲の森兵曹と、航海科の小泉兵曹がいた。

「なんだ、上原じゃないか。どうしたんだ」

森兵曹がかがみこんで上原水兵長の顔を見た。「・・・なんだ、泣いてるのか!」

小泉兵曹が外山水兵長に「貴様らは、知り合いか?」と聞いた、外山水兵長は二人は昔からの知り合いだと言った。

森兵曹は上原水兵長に何事かささやいていたが、立ち上がった。

そして、外山水兵長に「何か聞いてるのか、聞いてるなら教えてくれ」と言った、そこで外山水兵長は今まで聞いた話をして聞かせたのだった。

 

「そうだったのか」

と、森兵曹は目線を落として言った。まだ泣きじゃくっている上原水兵長に、森兵曹は「さあ、立てよ」と言って腕を持って立たせた。

そしてその肩を持つと、

「いやな思いをさせて済まなかった。皆が言う言葉はよくない、それはすぐに改めさせよう。でもな、みんな貴様に期待をしてるんだよ、だからわざとつらく当たってしまうということもあるんだよ。まあそれが逆効果になってしまったらどうしようもないんだが・・。

全くなれないところに来て苦労してるのはだれもが認めているんだよ、だからそんなに落ち込まないでほしい」

と説得した。

しかし上原水兵長は「いえ。私はダメなやつです。高角砲には合わない人間です」と首を横に振るばかり。

その時、小泉兵曹が言った。

「ねえ、森兵曹。大器晩成って言いますよね」

森兵曹は「おお!そうだ。上原、大器は晩成なんだ。大物はな、すぐには頭角を現さないがやがてその頭角をめきめき現すんだ。貴様はこの『大器晩成』なんだ。だからやるべきことをしっかりやってくれればいいんだ、な?」と言って、上原水兵長をゆすった。

上原水兵長はうつむけていた顔をあげた。

「大器・・晩成、ですか?」と小声で言った。

「そうだよ。だからもっと自信を持ってくれ。うちの配置には貴様が必要なんだから」

森兵曹はそう力強く言いきった。

「貴様が必要」、と言われて初めて上原水兵長の顔に生気がよみがえってきた。ちょっと頬笑みが浮かんだ。

「そうだ、貴様には笑顔が足りんぞ。もっと笑え、せっかくのいい顔が台無しだぞ!」

森兵曹はそう言って上原水兵長の背中をどやしつけながら、「じゃあ、みんな行こうぜ!」と言ってレストランに向かったのだった。

 

その頃。

防空指揮所では麻生少尉と見張兵曹が風に吹かれつつ海を見ていた。兵曹は昼の当直を終えて、交代してここで分隊士と話すのが好きだった。

そばにトメキチがいて、まるで二人の話を聞いているようだ。

麻生分隊士はちょっと遠くを見るような眼をしてから

「オトメチャンとここでこうやって仕事するようになって久しいなあ」

と言った。見張兵曹は、トメキチの頭をなでてから、「そうですねえ。かれこれ三年・・になりますか」と言って分隊士の顔を見て笑った。

「オトメチャンは来た時から使える子だったよな。小泉はなかなか使えなかったけどな」と言ったが見張兵曹は、

「いえ、私も『日向』にいた時は全然でした。ずいぶん落ち込んだりもしましたが、その時の班長が『気にするな。大器晩成だ』っておっしゃってくださって、それでずいぶん気が楽になりました」

と言った。

分隊士は「大器晩成か、まさにそうだな。オトメチャンは大したもんだよ」と言って、真昼間だというのに兵曹の肩を抱き寄せた。

兵曹は顔を赤らめて「分隊士・・・みんながいます」と囁いたが、分隊士は聞かない。そしてなぜか、そのまま兵曹を抱いたままで大きな声で、その場の見張りの兵たちに、

「みんな、しっかりやってくれよ!目標はこの見張兵曹だ。しかしすぐに到達しないからと言ってあきらめるなよ。『大器は晩成す』だからな」

と叫んだのだった。

その場の兵たちは麻生分隊士と見張兵曹の姿にぎょっとしながらも元気で「はい!」と答えたのだった――

 

               ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

今回はちょっと思うところあってこういう話を書いてみました。

人間、なかなかうまくいかないことがあってもじっくりしっかりやってゆけば必ずうまく行くようになります。

あきらめないで頑張りましょう!


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「女だらけの戦艦大和」・陸軍さんからの贈り物 - 2010.02.24 Wed

「女だらけの戦艦大和」には、うれしい知らせが舞い込んでいた――

 

かつて『大和』が輸送任務の一環として帝国陸軍独立混成第800連隊を、イタンヘ群島のメカバデに送ったことがあった。

その独混800連隊はその後、果敢にイタンヘで敵を撃滅し勝利を挙げた。更にそのあと、輸送船で独立混成第1206連隊と合流、ニューゲニアの、カレー半島チュウカラに上陸、ここの敵の要衝も占領したというのである。

 

ここには敵の大きな基地があり、そこを占領したため800連隊・1206連隊は大変いい思いを出来た。

敵兵はひとり残らず捕虜にし、カレー半島中部のシチューなる場所に収容所を設け、そこに収容し、そこの警備などには1206連隊が当たった。敵の使っていたトラックや兵舎を使えてとても仕事がはかどる。

 

さて、800連隊の陸軍さんたちは敵の使っていた兵舎などに入って驚いた。

 

「うおお!なんだあこれ。男の写真ばっか!」

寝室とおぼしき部屋には、壁一面に男性の裸の写真が貼ってあり皆は肝をつぶした。帝国陸軍の乙女たちは純情なので正視できない。しかし中には(女の)兵隊の写真が貼ってあったりして、やはり麻生海軍少尉のような人もいるらしいが、陸軍さんには知る由もない。

「うわ!なんだこれ。いいにおいがするぞ」

寝台のそばの小さいテーブルには、香水の瓶があってそれを嗅いだ兵隊さん、思わずうっとり・・・。

「おお!見ろこれ。食い物がいっぱい」

キッチンとおぼしき部屋にはでかい冷蔵庫があり、中は通電していていろんな食料がまだたくさん入っている。

皆大騒ぎで敵さんの兵舎などを見て回っている。

なにぶん、アメリカの文物など見たこともないのでまず珍しさが先に立って興奮気味である。

その中の一人、東上上等兵はとある大きな倉庫に入って行った。

(何なんだろうか、ここは)

と思いながらも、倉庫の奥に入ってゆくと大きな箱がいくつも積んであるのが目に入った。結構頑丈な作りで、最初(爆弾とか、爆薬じゃないのかな)と不安になって、後ろからついてきた藤田上等兵に、

「おい。これなんだと思う?」

と聞いてみた。藤田上等兵は、「知らんが。・・・待て、ここに何か書いてあるけど、俺には読めん。敵さんの言葉は俺、知らんぞ」と言って、「あ、ちょっと待て」と言って、入口に向かって駆け出して行った。

そして藤田上等兵は、花山少尉をひっぱってきた。

「少尉殿、これ何でありますか?」と藤田上等兵は箱を指さして聞いてみた。少尉は大学を出たのできっと横文字が分かるだろう、と思ったのだ。

花山少尉はしばらくその箱と書かれた文字をにらんでいた。そして「う~ん」とうなったのち、

「ラン、、ラン、、ランジェリーだと。なんなのかはよくわからんが」と言った。東上上等兵と藤田上等兵はちょっとがっかりしたが、少尉に「危険なものではなさそうだ」と言われ、ちょっとほっとした。

少尉は、「面白そうだから、箱を開けてみよう」といい、もっと人手を集め積み重ねられた箱を下ろし、封印を解いた。

ふたが開いた――

「おお!これはすごい」

集まった陸軍さんは、歓喜の声をあげた。そこには、「西洋ふんどし」と「西洋胸当て」がぎっしりと詰まっていたのだ。

「これだけあったらみんなに回らないか?それでもあまるぞ」といいながら次々に箱を開けた。次々に出てくる下着。

エライ数である。

 

それを見た800連隊の連隊長は「これだけあったら1206連隊に分けても余ってしまうな・・・」と言ってふと、自分たちをメカバデに送り届けてくれた海軍の「大和」を思い出した。

あのおいしかった食事や、冷房のある艦内。そして親切だった海軍の兵隊たち。

「そうだ。これをあの『大和』に送ってあげようではないか。こういうものはいくつあっても困るものではないし、戦利品であるから海軍の士気も上がるかもしれない!」

そう言うと800連隊の兵たちは皆賛成した。

そして担当が決められ箱に詰め直し、『大和』に送る算段をした。

東上上等兵もその仕事に参加し、あの時自分に梅干しをくれた『見張兵曹』という下士官を思い出していた。

そっと、皆の眼を盗んでたくさんの下着の中から彼女に似合いそうなものを選び出した上等兵は布袋にそれを入れ、ポケットの中にあった紙切れに走り書きで、

「見張兵曹殿

あの時は梅干しをありがとうございました、御蔭であの後大変重宝いたしました。これは自分からの気持ちであります  陸軍上等兵東上英子」

と書いて、袋に入れて『大和』に送る箱の中にさりげなく紛れ込ませた。

 

翌日荷物は『大和』に宛てて送り出された。

 

更に数日後、その荷物は『大和』に届いた。

艦長以下総員が何事かと最上甲板に集まってきた。クレーンで、運搬船から吊り上げられた箱はすごく大きく、数は3個もある。

「麻生分隊士、これはなんでありますか?」と、見張兵曹はそっと聞いてみた。すると分隊士は、「なんでもさ、ほらいつか陸軍さんを乗せたろ。メガバデまで。あの時のお礼らしいぜ、あの後カレー半島に行って敵を散々に打ちまくったそうだからな。で、戦利品だってよ、やるじゃんか」

と言って、「なんだろうな、中身」と興味津津である。

最上甲板に並んだ箱、艦長は副長に「さあ、開けてよ副長」と言って、副長はちょっと緊張の面持ちで箱に手を掛けた。

…箱の蓋部分が開いた。

「おお!これは」

という、副長の上ずった声に皆が駆け寄った。そして、皆は副長と同じように、「おお!これは」と叫んでいたのだ。

今まで見たこともないきれいで素敵な「西洋ふんどし」「西洋乳当て」に皆は狂喜した。色が豊富で肌触りもいい。

艦長は、その一つを手にとって「陸軍さん、やったねえ。アメリカの補給線らしいからあのあたりは。これで敵も下着なしで戦うんじゃ、大変だね~」と言ってニタリとした。

艦上の総員が、「お――っ!」と叫んだ。皆の脳裏には、下着もなしで居心地悪そうな敵の兵士の姿が浮かんでいる。

 

その下着は、艦内の全員に分けられた。

その晩、麻生少尉は「オトメチャン、これがオトメチャンに来てるが?」と言って布袋を渡した。「中に手紙が入ってたらしいよ。主計長が持ってきてくれた」

「私に、でありますか?なんでしょうね」と、見張兵曹は言い分隊士に頭を下げてからそれを受け取った。

袋の口を開くと、何枚かの下着に手紙。手紙を開いた兵曹は、「あ、あの時の陸軍さんだ」と言って下着を出して見た。

ピンクの「西洋乳当て」に「ふんどし」、きれいなブルーの「乳当て」「ふんどし」・・・五組ほどが入っていた。

麻生分隊士が覗き込んで「ほお、、きれいなものだなあ。オトメチャンに似合いそうだな」と言って、いきなりオトメチャンを羽交い絞めにした。

「分隊士!?」と驚く兵曹を脱がしにかかりながら分隊士は、「せっかくだから着てみろよ。俺オトメチャンのこういう下着姿、見たことないから」と言って、すっかり脱がしてしまった。

そしてピンクの乳当てをつけさせ、ふんどしのほうはどう着たらいいのか迷いながら、やっとつけさせた。

「おう、このふんどしは、横でこの紐をしばるんか。おもしろいな」

麻生分隊士は、ベッドに寝かせた兵曹の下着姿に大興奮している。なんだか普段のオトメチャンとはまた違った魅力がある。

麻生少尉はもうたまらなくなってしまって、「オトメチャン、素敵だ。好きだあ!」と叫ぶなり思いっきり抱きしめて、そして乳当てを取り去り、ふんどし(ショーツ)を取り去って、「やっぱりオトメチャンは裸がいい!」と言って、いつものごとくめちゃくちゃにしてしまったそう。

しかし皆はいいものをもらったと、喜悦満面だったそうである。

松本兵曹長など、大きいサイズに困っていたのでアメリカの下着のFカップに大感激していたという―――

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

すごい戦利品ですね。これを取られてしまったアメリカさんは一体どうしたんでしょうか?

はいそれは、収容所で「日本のふんどし」を配られその使い方に「ワンダフル!」と感激したとかしないとか。

これぞアジアンビューティーだ!東洋の神秘、ふんどしだ。


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「女だらけの戦艦大和」・増添兵曹女の命。 - 2010.02.23 Tue

「女だらけの戦艦大和」は戦い終えてその身を静かに紺碧の海に休めている――

 

あの戦いの詳細は祖国日本にももたらされ、大いに国威発揚になったのは言うまでもない。各新聞はでかでかと一面で報道し、ラジオは勇壮な軍艦行進曲でこの海戦の勝利を報じたのである。

 

そんな中――。

以前副砲分隊にいてその後の配置換えで、機銃分隊に配属になった増添兵曹。彼女は見張兵曹とは海兵団の同期である。

もっとも増添兵曹の方が歳は上であるが、二人はいい友人である。

その増添兵曹にちょっとした悩みがあった。

 

髪の毛、である。

 

普通海兵団入団の際、髪の毛は「女の命」ではあるが一旦短髪かお河童のようなヘアスタイルにさせられる。その後海兵団を出て各艦などに配置されたり、各科学校に入学したりしてまた艦隊勤務などにつく。

再び髪を伸ばしたり、自由にヘアスタイルを変えることができるのは、下士官任官してからである。

もっとも、水兵長になったら下士官任官をにらみ、皆そろそろ伸ばし始める。

増添兵曹もその一人で、水兵長になった頃から少しずつ伸ばして来た。そして下士官に任官してからはほとんど切らずにここまで来ている。

伸びた髪は、下ろせば腰に近いところまできている。その髪を、普段は巻いて結っているのだが。

 

(最近、私って禿げてねえか?)

時々真剣に想う時がある。仲間に、それとなく聞いてもみな、「いや!そんなんことないって!増添さんが禿げたりなんかありえませんよー」と言ってそそくさと行ってしまう。

(何なんだよ、ちゃんと見てくれたっていいじゃねえか!)

増添兵曹は不満である。

 

そして昨日、戦闘から帰ってはじめて入湯上陸した際、現地の商店の鏡に映った自分の額部分を見て打撃を受けたのだった。

「デコが、広がってる!禿が広がってる!!」その場に立ち尽くす増添兵曹。その兵曹を不審そうに見る機銃分隊の兵。

「どうなさったんですか。お顔の色が変です」と心配してくれた水兵に、兵曹は「なんでもない・・・」と、蚊の鳴くような声で言ってまた歩き出した。(どうしよう、どうしよう・・・)と夢遊病のようにゆらゆら歩く増添兵曹。

(そういえば、機銃に配置換えになってから抜け毛がひどくなったな。なんでだろう?――あっ、もしかしたら直射日光がいかんのかな?でも帽子とか鉄カブトかぶってるし・・・今回は『馬面』もかぶっていたし。直接陽を浴びたりしないのに、どうしてだ)

困ってしまって、その場に立ち止まる。腕組みして、ちょっとの間考えていた。

ふと見れば、現地の人の店がありそこになんと『部分かつら』なるものがあるではないか!

「これだ!」

増添兵曹は思わず飛びついた。自分のもともとの髪の色にごく近い色のかつらを選んで、さっそく前頭部の気になる部分につけた。

おお、今までとは別人のようだ――五歳、いや十歳若返ったと言ってもいいかも。

印象の変わった自分を、鏡に見ながら悦に入った。そばで、選んでくれた商店主の女性が、

「ヘイタイサン、似合いますネ!トッテモいい女よ!」

と言ってくれるのもうれしい。

「いやあ、ありがとう。嬉しいよ」と言って、料金を支払って店を出た。でも、まだほかの連中に知られるのがもったいない気もして、しっかり軍帽をかぶって隠すように行く。

 

常夏の島の日差しは、きつい。

 

そんなころ、見張兵曹は防空指揮所から降りてきて、居住区に向かっていた。今日はいつにもまして暑い。防暑服は汗にまみれ艦内帽も汗のシミが出来るくらいである。

例のラッタルの下で、麻生少尉が待っていた。

このヒトは、昼であろうが夜であろうが見張兵曹の当直の終わりをここで待っているのである。

「あ、分隊士。今終わりました」と、見張兵曹は言って笑った。分隊士は、兵曹の汗を見て、

「オトメチャン、すごい汗だな。上は暑かったろうに。御苦労さま、明日は上陸だから今日はがんばろうな」

とねぎらってくれた。

見張兵曹は、はい、と言ってから「こんな暑さのせいですかねえ、最近髪が抜けるんですよ。いやですね」と困ったように言った。

分隊士は、どれどれと兵曹の艦内帽を取って、兵曹の頭を見た。そして、

「いやオトメチャン。大丈夫だぞ。禿なんかないから大丈夫。まあこの暑さだし、帽子やら鉄カブトやらかぶってると仕方ないかもしれないな。でも、オトメチャンはそんなに髪長くないし、入湯上陸でちゃんと頭洗うから心配すんな」

と言ってくれた。

「よかった」と笑う兵曹に、分隊士はそっと体を寄せて「で、あすの晩はまたあの宿で・・・な?」と囁いたのだった。

 

その日、帰艦した増添兵曹は心なしかうきうきしていた。夕食時に、皆の前でおもむろに艦内帽を取って見せた。

皆は口には出さないが、(あれ!増添兵曹の前髪、昨日より多い気がする)と思っている。皆はヘアスタイルを変えたのかな、としか思えない。まさか、部分かつらを装着しているとは夢にも思っていない。

そしてその晩になって、増添兵曹はなんだかとてもかつらのあたりが痒くなってきたのを感じていた。

でも、取ってまで痒いところを掻くのはなんだか嫌だ。もうこの部分かつらとは一心同体のような気がしているからだ。

(まあ、汗もかいたし仕方ないな。明日になったら風呂でこっそり洗おう)

そしてその晩は眠ったのだが。

 

朝六時、起床ラッパが鳴って皆が一斉に起床した。増添兵曹も飛び起きた。昨夜はかゆみがあって眠りが浅かったが、起きるときはぱっと起きる。

素早く身支度をして、居住区の前の廊下に出た。

そして班の全員が集まった、その時。

「ま、増添兵曹!その頭どうした!」

と、小金沢兵曹長が叫んだ。他の兵たちが増添兵曹の頭を見て、はっと息をのむ。

「え!?

と声をあげた増添兵曹、思わず例の部分かつらのあたりに手を持ってゆくと、なんと、かつらはずっと後ろの方にずれ、しかももともとの部分は毛がごっそり抜けていた。

「ぎええ!」

と、増添兵曹は奇声を発して、その場に昏倒していた――。

 

そのあと、増添兵曹は皆の手で医務科に担ぎこまれた。彼女を診察した日野原軍医長は、いかにも気の毒そうに増添兵曹に言った。

「あのねえ。あんたちょっと髪伸ばし過ぎなんだよね。髪全体に栄養が行ってないうえにこんなにひっつめて結ってたら前も禿げるよ。それに良く頭皮を洗ってないなあ。

しかも、この部分かつらでその頭皮を覆っちゃってるから痒くなってしかも、寝てる間に自分で引っ掻いたな。毛根が弱ってるもんだからごっそり抜けちゃったんだと思うなあ。

・・・兵曹、今日午前の課業が終わったら理髪室に行って髪を切れ。これは軍医長の命令だ!」

 

愕然、増添兵曹。

 

そして増添兵曹は恥ずかしいようないたたまれないような気分で午前の課業をなんとかこなし、昼飯の後、理髪室で長かったその髪にハサミを入れたのだった。

上陸前に、その話を聞いた見張兵曹は小泉兵曹たちに「増添兵曹を励ます会でもやるか!?」と誘われ、発起人の一人となった。

が、肝心の増添兵曹が大事にしてきた髪を短髪にしたショックと、『励ます会』が『禿げ増す会』に聞こえたらしく激しく拒否して来たのでお流れとなった。

 

その晩上陸した見張兵曹はまたもや例のコテージで麻生分隊士と過ごしていた。麻生分隊士も、増添兵曹の話を聞いていて、「あんなに髪を伸ばす奴があるか、あれじゃあ禿げてあったりめえよ!俺やオトメチャンくらいの長さでいいんだよ、な?」と言って、大きなベッドの上で兵曹を抱きしめた。

見張兵曹は抱きしめられながら「はい。分隊士の髪はかっこいいであります」と褒めた。褒められて嬉しくなった分隊士は、見張兵曹の胸の先をひっぱりながら、「そうだろ?海の女はこれが正統派だよ。でもオトメチャンの長さもいいな、可愛いよ・・・」と言った。

見張兵曹は、「分隊士ぃ・・・」と喘いでベッドの上を逃げ回り、分隊士は「気持ちいいか?そんなにいいか?もっとこうしてやろうか」といいながら兵曹を攻めたのだった。

オトメチャンの、洗いたての髪がシーツに広がって分隊士は余計そそられて―――

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

髪は女の命、とは申しますが最近は抜け毛や禿げに悩む方も多いと伺っています。このストレス社会では仕方ないことかもしれません。

女性の場合、ストレスが大きな原因だと聞いたことがあります。・・・そうだと思いますね、私も。

そして長くのばして縛っていたりすると、額がなぜか広くなります。そんな感じがするだけなのか実際そうなのか。

でもどっちであれ、女には切実な問題であります。

男性なら『貫禄』なんですが・・・ねえ。


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「女だらけの戦艦大和」・ゲハルマ海戦記 - 2010.02.21 Sun

「女だらけの戦艦大和」は、「第二次ゲハルマ島作戦」に従軍することとなった――

 

先に叩いたはずの敵が再度、懲りることなくゲハルマに進撃の手を伸ばして来たのだ。ここは海軍の、いや、皇国の要衝として決して陥落などさせてならないところである。

乗組員の士気はいやがうえにも高まった。

出撃の前夜には、祝宴が開かれ、皆大いに酔って士気をさらに上げる。

 

十三分隊の居住区では、見張兵曹が下の兵員に激を飛ばしている。

「いいか、皇国の興廃この一戦にあり、だ。各員一層奮励努力せよ!敵機を早く発見し機種を見分けるのだ。訓練は十分しているはずだから皆自信を持て!いいな!」

亀井一水や酒井上水と言った見張兵曹の配下の兵は、顔を紅潮させ「ハイっ!」と答えた。そして見張兵曹は「飲め!」と言って皆に酒をついで回ったのだった。

そして、酒井上水が酒びんを兵曹から取ると、「班長、どうぞ!」と言って差し出した。

「すまんな」と兵曹は言って、コップに酒を注いでもらう。

「あの、見張兵曹。明日はあの『馬面』をいよいよ装着するんでありますね」

そう、酒井上水は言った。酒のためだけではないだろうが、さっきより顔が紅く上気している。見張兵曹は、酒をグイッとあおってから、

「そうだよ。いよいよあの『馬面』がその本領を発揮する時だ。みんな、色を塗ったりしたのか?」

と皆を見まわした。

すると皆にっこり笑って、「はい、塗りました」とか、「すごい迫力になりました」と口々に言った。兵曹は、

「そうかあ。それはあすが楽しみだな。それだけ準備が出来ていれば怖いものもないな」

と言って笑った。

それを聞いていた小泉兵曹も、

「そうだ。今回も敵をギッタギタにしてやろうじゃないか、え!?

と言って、石川水兵長が小泉兵曹に「そうであります。我々が随所に敵を発見して、砲術科が撃ちまくればもう敵など、鎧袖一触であります。・・・班長、もう一杯!」といいながら、酒びんを突き出した。

おおう、とうれしそうな小泉兵曹。

その祝宴は、二一○○(午後九時)で終了した。そのあと、当直員を残して皆就寝したのだった。

 

次の朝、○四○○(午前四時)に起床した総員、宮城遥拝ののち配置についた。

防空指揮所では、見張兵曹が麻生少尉に、

「分隊士。『馬面』はもう装着した方がいいでありますか?」

と聞いた。麻生分隊士は、そろそろ明けそめはじめた空をちょっと見やってから、「そうだなあ。出航してからでいいだろう。これも重いし、今から気張って壊してしまっても困るからな」と言った。

見張兵曹はうなずいて、「分かりました。では出航後三十分で装着します」と言って、配置の皆に伝達した。

あの後、『馬面』は改良をして鉄カブトをかぶらなくてもいいように、厚みを増しておいたのだ。『馬面』をかぶって更に鉄カブト、というのはちょっと重いし動きが鈍くなる。

麻生少尉が秋山兵曹長とあれこれ考えて鉄カブト並みの厚みを持たせた。

皆戦闘帽をかぶり、日の丸の鉢巻きを締めている。戦闘帽の端から、鉢巻きのはじっこが出て、風に揺れる。

麻生少尉にはそのゆれが、それぞれの心の内面――あるいは動揺であるかもしれないし、あるいは武者震いかもしれないし――のように思えた。

声には出さないが、(皆しっかりやってくれよ。一人として欠けることがないように)と念じた。

もういつかのように、見張兵曹を失うのはいやだし、ほかのだれが欠けてもいやである。

(オトメチャン、何事もなく終われるように――)

麻生少尉は、この時だけは見張兵曹の恋人として願っていた。

 

やがて――『大和』を始め『武蔵』 他の艦隊はゲハルマ島海域に向けてトレーラーを出撃して行ったのだった。

 

戦隊は、『大和』『武蔵』を中心に輪形陣を取った。

出航して三十分が経ち、見張兵曹は麻生分隊士に、「分隊士、三十分経ちました。『馬面』 を装着しますか?」と聞いた。

麻生分隊士は、「おう、そうだなあ。・・・艦長、いかがしましょうか?」と艦長を振り返って聞いてみた。

艦長は満面の笑みで、「装着しよう。最上甲板の兵員も着けるようにしよう」と言って、副長が機銃、高角砲などの露天の配置員に「露天甲板配置員、『馬面』装着せよ」と命じた。

艦長は「よし、私たちも着けるよ!」といい、艦長・副長・参謀長も装着した。

防空指揮所の面々も装着したが、その「化粧」のすごさに艦長たちも、麻生分隊士も驚いた。

目の周りに最初から付いていた『まつ毛』にさらに長いまつげをつけたり、瞼にアイシャドウの濃いのをつけたり、口には牙を足したり、口紅まで。

「す、すげえ」と流石の麻生分隊士も言葉がない。

更に、麻生分隊士は知る由もないが、最上甲板露天の三連装機銃の射手は『馬面』にかつらさえつけて、ほかの機銃員から笑われてしまった。

いずれにせよ、『大和』艦上にはものすごい風景が展開したのである。

その様子を、『武蔵』やほかの駆逐艦や巡洋艦の乗組員が見て、「何だ、『大和』に何かあったんだろうか!?」とちょっとした騒ぎになった。

が、よく双眼鏡で検分して「あれは、仮面のようであります!」ということになって皆ほっとするとともに、

(あんなものつけて、戦闘に支障がないんだろうか)

と不安にもなった。

 

そして。

ゲハルマ群島近海で戦闘の火ぶたは切って落とされた。軍艦同士の砲撃戦、航空機対軍艦の戦闘・・・大変な戦闘になった。

『武蔵』は敵機の攻撃にさらされつつも素晴らしい戦い、敵機をバタバタ落とし敵艦にも大きな損害を与える。

猪田艦長は、防空指揮所で至近弾の起こす水柱の雨のようなしぶきを浴びながら、

「『大和』はどうした!無事なのか?」

と叫んだ。すると、水柱の向こうに『大和』が姿を現した。「無事だったか」と猪田艦長はほっとした。

間髪をいれず、見張り員が「敵機直上!急降下―!!」と叫ぶ。猪田艦長は、「とーりかーじ!」と伝声管に叫ぶ。

伝声管から「とーりかーじ。ヨーソロ!」と返ってきて『武蔵』は大きく左に転舵。危うく敵機を回避し、敵機は機銃の餌食となって、火を吹きながら海に突っ込んで消えた。

 

『大和』では、そんな『武蔵』の活躍を見て梨賀艦長が「猪田艦長、やるなあ」とニヤついている。

その時、見張兵曹が「敵機の編隊、機数十五。突っ込んでくる!」と報告した。艦長は『馬面』をかぶりなおして「対空戦闘!」と叫び、さらに「高角砲、副砲は各科長の命にて適宜砲撃せよ!」と命じた。高角砲が鳴る。

戦闘の敵機数機がひらひらという感じで落ちてゆく。

更にそのあとを別の敵機が飛来して来た。

機銃を撃ちながら飛来して来た敵機―ヘルダイバーーであるが、そのパイロットは日本のでかい戦艦の艦上に妙なものを見た。

「なんだあれ!妙なものがいる・・・」ヘルダイバーのパイロットは目を疑った。

「おお!ドラゴンだ!しかもなんと邪悪な顔をしてるんだ!やつらは悪魔だ!」ヘルダイバーのパイロットは恐怖を感じた。

他のパイロットたちも「なんてこった!これは人間の艦じゃない。悪魔の艦だ!」と叫んで、『大和』の前で旋回して逃げてしまった。

 

「・・・なんだ?敵機が逃げてゆくが」

森上参謀長は、くわえ煙草のままでつぶやいた。艦長が「気を緩めちゃいかん。この後大きな攻撃が来るかも知らんぞ」と『馬面』の下の目を吊り上げて言った。

皆の顔は、緊張とさっきまでの対艦戦闘の際の硝煙ですすけている。その顔を更に緊張させた時。

通信参謀があたふたと入ってきた。

「艦長!敵の通信を傍受!」

艦長は、前をにらんだまま「読め!」と言った。通信参謀は「日本艦隊に悪魔の艦あり。全艦隊、全航空部隊は退避せよ。――であります」とちょっとわけわからない、と言った顔で通信文を読み上げた。

「そしてこの通信文は、すべて平文であります」と付け加えた。

「平文!?」と参謀長が通信参謀を見ていった。通信参謀は「はい。全く暗号が使われておりません」と言った。

梨賀艦長も副長も参謀長も、「どういうことだ?しかも悪魔の艦あり、とはどういうことなんだ」と首をひねった。

 

ともあれ、この大きなゲハルマ海海戦は圧倒的な日本海軍の勝利で終わった。かの、日本海海戦に匹敵するかもしれない。

日本海軍は、敵の「オバマ級戦艦」を沈め、航空部隊は同じく敵の航空母艦「ジョージ・ブッシュ」を撃沈した。

他にも敵は大きな損害を受け、またパイロットは精神的なダメージを受けて敗退した。

パイロットの精神的ダメージについては当人しか分からず、所属の空軍指揮官によって「精神疲労がひどい」と断じられ、本国に帰還させられた。

「だから!日本の艦に悪魔のドラゴンが!」

と髪を振り乱しながら叫ぶ、ヘルダイバーのパイロットは上官に「オー、かわいそうに。国でゆっくり休んでからまた来てね!」と言われ、泣き泣きアメリカに戻って療養させられたらしい。

 

戦いすんで、日が暮れて。

『大和』の皆は、まだ配置にいて戦闘配食の握り飯を食ってる。まだ『馬面』はつけたままである。

その姿で麻生分隊士は見張兵曹のそばに来て、「今日の戦闘はすごかったな。でも『大和』にもほかの艦にも損害がなくってよかったよな。――それに」

「それに?」と見張兵曹は分隊士の目を見た。分隊士はそっと兵曹のてをにぎって、「オトメチャンにもなにもなくてよかったよ」と囁いた。

顔を赤らめて「・・・はい」という見張兵曹。

その二人を目の端に収めつつ小泉兵曹は「しかし、この『馬面』の威力何かあったでしょうかねえ?」と誰にともなく言った。

森上参謀長が聞きつけて、「そうだなあ。何かあったんじゃねえか?味方が驚くくらいだからなあ。大和魂の無えヤンキー連中が錯乱でもしたら愉快だよな」といい、その場にいた全員が大笑いした。

 

確かに、ヘルダイバーのパイロットにはダメージを与えたし、何らかの戦果があったのは確かである。

・・・嗚呼、偉大なり。帝国海軍。

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

『馬面』活躍のその一、という感じでした。

艦上いっぱいにうじゃうじゃといた『馬面』を見たアメリカさんの衝撃はどんなだったでしょうか?ちょっと想像すると怖いものが――。

しかし帝国海軍の快進撃、気持ちいい~~~。

こうでなきゃあ、ね。


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「女だらけの戦艦大和」・肉を噛ませず骨を断つのだ<弐> - 2010.02.19 Fri

「女だらけの戦艦大和」艦長室に、麻生少尉と見張兵曹が緊張の面持ちで訪れた――

 

二人は何やら重そうに布でくるんだものを持ってきたのだ。

艦長室のテーブルの上にそっと置く。

梨賀艦長は「麻生少尉、いったい何が始まるのぉ!」と楽しそうに言った、そのそばで野村副長は「やだなあ、私たちを脅かそうとして変な動物の死体とか持ってきたんじゃなくって?」と怖そうだし、森上参謀長は手を叩いて笑っている。

今日はそのそばにトメキチもいて何事が始まるのか、と言った顔で見上げている。

麻生少尉は真剣な面持ちで、厳かに口を開いた。

「艦長。これはこの先のアメリカとの決戦において、わが方の兵の血を流さずに敵だけを撃退できるであろう新しい兵器であります。――兵器、と言っても攻撃型ではありません。いわば『威嚇型』でありますが」

そう言ってオトメチャンに目で合図して布を取った。

そのとたん。

「おお!これは・・」

艦長・副長・参謀長が声をあげて駆け寄った。 そこには金色に輝く「馬面」が二つ、置かれていたのだ。トメキチがびっくりして、「ギャン!」と吠えた。あわてて後足で立って逃げる。

麻生少尉はちょっともったいぶって、「これは古代から伝わる『馬面』をモチーフにしたものであります。これを艦上露天配置の兵員がかぶっていれば、敵も驚いてひるむことでありましょう。そこを一気に我々が叩く、とこういう算段であります」と説明した。

「ほお、すごいなあ」と副長がため息をついた。

麻生少尉は「この顔の部分には、色をつけて迫力を増すことも可能であります」と補足した。

森上参謀長が「ほお~、この顔のド迫力はすげえなあ。これに色つけたらもっとすげえぞ、な」と「馬面」を持ち上げて言った。 トメキチがこわごわと、見張兵曹の後ろから覗き込んでいる。

艦長は興奮して、「麻生少尉、取り合えずこれを防空指揮所の分、作ってみて?」といい、麻生少尉は喜んで工作科の秋山兵曹長に発注したのだった。

 

そして二週間後。

防空指揮所に配置の人員の分、プラス艦長・副長・参謀長の分の「馬面」が出来上がってきた。

この日の朝、配置の全員に艦長手ずから「馬面」を渡した。

そして 「これこそ麻生少尉いわく、『肉を噛ませず骨を断つ』ための威嚇兵器である。では皆、装着せよ!」と艦長の号令で、みんな、艦内帽の上からそれをつけた。

・・・おお、なんてかっこいい。

副長は自分も装着して思った。

最初、顔の部分が長いから双眼鏡を見る時邪魔になるのではないか、言う向きもあったがそれはなんとかクリアできた。双眼鏡を見るときは、顔の部分を双眼鏡の上に乗っけるような形にするのである。

さっそくそれをつけて双眼鏡を見た酒井上水は「なるほど、これなら邪魔になりませんし敵機が来たらなんじゃありゃ、と驚いて落ちるであります」と言って皆が笑った。

防空指揮所の総員がこの「馬面」で双眼鏡を見る練習中、そばを通りかかった『武蔵』の艦橋にいた乗組員数名がこっちを見て腰を抜かす、というハプニングがあって皆その迫力に納得した。

腰を抜かした『武蔵』の乗組員はいい迷惑だったろうが。

 

やがて艦長の命令で、艦上露天の配置員にはこれが配られた。

皆面白がってこれをかぶったが――機銃の渡貫兵曹長はただでさえ「ウマズラ」のあだ名があったので嫌がっていたが、平野少尉に「渡貫兵曹長は二重のウマズラだな」と言われ、軽いショックで四、五日の間食欲が減ってしまったという悲話がある。

後で平野少尉は後ろめたさからか、「あんなもの考えやがって、いったい誰が!渡貫兵曹長を傷つけやがって!」とその責任を誰かになすりつけようとしていたが直接傷つけたのは平野少尉であるのは明白。

 

その「馬面」の敵に対する威力は、いまだ未知数である。 その威力はいつ、発揮されるのであろうか―――

 

                 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「馬面」。

これホント出来たら一度見てほしいものであります。靖国神社に行ったらぜひ「遊就館」にて拝観してください。

マジすごい迫力ですから。

こういうものを馬にかぶせて相手を威圧しようとした先人の知恵に拍手!!

こういうものを見て帝国海軍に利用しようと考えた麻生少尉にも、拍手・・・?。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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