女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?

緊急入院 2 解決編

「どなたか具合の悪い方がいらしたみたいですね…大丈夫なのかしら」とその人物は心配そうに言ったーー

 

そういった女性は今日の夕方、山中次子の病室の二つ先の部屋に入院したばかり、まだ荷物も解いてはいないようだ。その夫が

「どなただろうね…この病棟は婦人科だからお産のかただろうか?知り合いになれるといいね」

と言って女性ー妻をベッドに寝かせた。

妻はうなずいた後

「あなた、お疲れでしょうにごめんなさい。迎えに来てくださってありがとうございます。やっと内地に帰って来られてほっといたしました」

と言い夫は

「もっと早く迎えに来るつもりだったんですが横須賀への出張が長引いてしまって、あなたには余計な日にちを艦の中で過ごさせてしまいましたね。ごめんね」

と言って妻のひたいをそっと撫でた。ううん、本当にありがとうございますと妻は言って、夫は「ゆっくり眠りなさい、私は今夜ここに泊まるから」というと付き添い用のベッドに座ってほほ笑みながら妻を見つめるーー

 

翌朝早く、山中大佐は目を覚ました。起き上がると次子も目を覚まして起き上がろうとした。それを

「起きてはいけない…ここにいる以上はきちんと産科軍医のいうことを聞いて赤ちゃんたちのため、そして何より次ちゃんの体のために良いようにしなければ」

と制した後、大佐は次子を抱きしめその耳元に

「私は次ちゃんが本当に大事なんです。…次ちゃんに何かがあったら私が生きてはいない」

と言い次子は新矢の背にしっかりと両手を回し

「駄目、駄目新矢さん。わたしに何かがあったくらいでそんな事おっしゃっては、いやです」

と言った。だから、と新矢は次子の瞳を覗き込むと「きちんと養生してくださいね」と念を押すように言うと微笑んで次子をもう一度しっかり抱きしめた。

そして「では行ってまいります。仕事が終わったら寄りますから、待っていてね」というと次子はベッドの中から手を振り、新矢はそれにこたえて病室を出た。

 

同じころ、二つ先の部屋でも

「あまり動き回らないようにね。君に何かあったら私は生きていられないよ…だから産科軍医の言いつけを良く守って居なさいね?」

「はい。あと少しで悪阻も終わりましょうからその時まで頑張ります」

という会話が交わされ「では、行ってきます」と言ったあと二人は抱擁しあいやがて体を離し夫は部屋を出た。

そして二つ先の部屋から出てきた人の顔を見て彼は

「山中大佐、山中大佐ではないですか!」

と叫び、大佐もその彼の顔を見て「おお!繁木君!!いつ横須賀から戻ったのかね!」と声を上げていた。そう、山中次子の二つ隣の部屋に入室したのは繁木航海長である。彼女は妊娠四カ月に入る直前、トレーラーから内地・呉に帰ってきた。が、夫の繁木技術少佐が横須賀に出張中であったため乗艦してきた艦の艦長は「おかえりになるまで大尉は艦内でお預かりいたします」ということで、繁木少佐は急ぎ仕事を終わらせて呉に帰ってきたのだった。そして昨日、繁木大尉はトレーラー海軍診療所の杉田少佐の紹介状を手に、呉海軍病院に入室したのだった。

山中大佐は

「繁木くん、おめでとう。奥さんも悪阻がひどいんだね、ここに入ればもう安心だ。ゆっくり休ませてあげてください」

と言って繁木少佐と握手を交わす。繁木少佐は嬉しそうに

「当初、秋前に出産と聞いていましたがキチンと計算したら6月の終わりには生まれるそうです。大佐の奥様は、もうすぐでしたね?」

と言い大佐は

「来月、二月には生まれるんだが双子ということで負担も大きいんだろうね。このところ早産の気配があると言われていたんだが昨日の晩、ちょっと具合が悪くなってここに」

と言って繁木少佐は目を見開き驚いて

「それは大変ですね。で、もう落ち着かれましたか?」」と言って山中大佐はうなずいた。繁木少佐は

「いずれにしても心強いことです。どうぞこちらでもよろしくお願いします」

と言って大佐も「こちらこそ!…おお、そろそろ行かないとね」と二人は病院を出て行く。

 

その二人の会話が耳に入った繁木航海長は「副長?副長がいらっしゃるんだわ」とうれしくなってそっとベッドから足を下ろし、スリッパをはくと部屋を出た。そして二つ先の病室の名札を見ると<山中次子中佐>と書かれていて、航海長は(やはり!副長だわ)とうれしくなり、ドアをそっとノックした。中から「はい?どうぞ」と副長の懐かしい声がして航海長はたまらずドアを開けていた。

「副長!」

と呼んでそのベッドの横にたつと次子は「まあ、繁木航海長!」と言って半身を起こそうとした。が繁木航海長はそれを押さえて

「起きてはなりません。副長、お久しぶりです。わたし昨夕、こちらに入室いたしました。まだ悪阻があって、トレーラーの杉山少佐が収まるまでこちらに入室しているようにと紹介状を書いてくださいました。…それにしても副長、大丈夫なのですか?」

と言った。その懐かしげな瞳に次子もうれしさを隠せず、航海長の手をやさしくとると

「本当にお久しぶり、悪阻がきつそうですね。もう少し辛抱したら収まりますよ。私早産しそうだと言われていたんですが昨日の晩ちょっときつい張りが来ましたの。前からそういうときは連絡するようにと言われていたし、新矢さんが慌ててこちらに連絡してくださったんです。ちょうど益川中佐もいらしたので助かりました」

と言った。繁木航海長は「そうでしたか、それは大変でした。どうかここではゆっくりなさってご無理なきように。元気な赤ちゃんを待っています」とほほ笑み、

「そろそろ朝の検温時間のようですからいったん部屋に戻ります、また後程来ます」

と敬礼するとそっとドアを閉め戻って行った。

山中次子は(繁木さんがいたなんてなんてうれしいこと!心強いわ)とうれし気に布団をかけ直し、一人ほほ笑んだ。

 

山中大佐と繁木少佐は、工廠の研究棟に着き、江崎少将にあとすぐに少将から気遣いの言葉を受けた。益川中佐が早く来て少将に「山中大佐の奥様が」と話をしてくれたからで、少将は

「くれぐれも大事にしてほしい、何もないとは思うが万が一病院から報せがあったらすぐに行くように」

と言ってくれ、繁木少佐には

「横須賀出張お疲れさま。奥さんも昨日上陸なさったらしいね、今がつらい時期だが頑張って乗り切ってほしい。奥さんについては山中大佐同様に」

と言ってくれた。二人は

「あれこれご心配とご迷惑をおかけして申し訳ありません、このうえはしっかり任務をやり遂げます」

と言って江崎少将は満足そうにうなずいた。

 

そんなころ次子と繁木航海長は、次子の部屋で語り合っていた。次子が内地へ帰ってからのあれこれ。新しい航海長佐奈田ヨウ少佐の話を次子は興味を持って聴き入り

「皆と仲良くしているようですね、よかった。それはそうと」

と言って声を潜めるような風をして繁木航海長は「なにか?」とこれも身を屈めるようにして次子に言うと次子は

「オトメチャン、あれからどうなりました?何か聞いていませんか」

と桜本兵曹の恋の話をして繁木航海長は思わず笑った。副長意外に情報通なんだなと思いつつ

「私がトレーラーにいたころにはあまり進展はなかったようです。が、私が診療所にいる間にオトメチャン『飛龍』の欠員補充で作戦に出ていました。あのラシガエ島の先の島のイギリス軍残敵掃討作戦、なかなか彼女いい働きをしたそうです。そして我々の夫の苦心の作、例の<松岡式防御装置>も素晴らしい働きをしたと聞いています」

と話して次子はすっかり副長の顔に戻って

「それは良かった。桜本兵曹これでさらに名を上げるね。あちこちから彼女を欲しがるだろうが、絶対他にやってはなりませんよ。その点をよく艦長にもお話しておきましょう」

と言ってうなずいた。

繁木航海長もうなずいて

「全くです。彼女は<大和>の見張の秘蔵っこですからね。『貸してくれ』と言われたとき、返してもらえなかったらどうしようと思ったと佐奈田少佐が言っていましたよ」

と笑った。次子は

「そんなことがあったんですね。でもよいように済んで本当に良かった。ほっとしますね。あとは、オトメチャンは幸せになってくれるのを願うばかりでしょうね。あ、それから…」

と次々に繁木航海長が知る話を聞きたがった。航海長も知るだけの話を副長に話し、二人はしばし、懐かしい『大和』艦内の気分を味わったのだった。

 

安静のおかげで次子のお腹の張りも徐々に収まってはきたが、産科軍医は「安心はできません。もう少し、あるいはご出産まで入室していただく必要があります」と言い、寂しい次子であった。が新矢の

「同じ呉の街の中じゃないですか。前みたいにずっと遠くに離れているわけじゃない。だからそんなに寂しがらないで?私は仕事がひけたら毎日来ますから」

という言葉に喜び感謝した次子である。

 

年の瀬も間近なこの街に、新しい二つの命の誕生を待ちわびる夫婦。その夫婦を祝いいたわるかのように、ちらちらと雪が舞い始めていた――

 

               ・・・・・・・・・・・・・・

誰かと思えば繁木さんが内地に帰ってきたようです。しばらくは退屈しなくて済みそうな次ちゃんと繁木さん。お互い大事にして出産に備えてほしいものです。そして…次ちゃんもご心配の桜本オトメチャンの恋は??

次回をお楽しみに。


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緊急入院 1

山中次子は小さく声を上げると大きなおなかに手を当て、新矢の胸に体を預けるようにしたーー

 

「次ちゃん、どうした!」

新矢は叫ぶように言って彼女の肩をつかんだ。次ちゃんは眉間にしわを寄せて何かに耐える表情である。新矢は「どうした…もしかして生まれそうなのか!」と叫んで「益川に頼んで病院まで送ろう」と言って寝台から降りようとした、その腕を次ちゃんはつかんだ。そして

「私は平気です。どうか、益川さんを起こさないで上げてください、お疲れでしょうから。本当に大丈夫、ちょっとお腹が張っただけだから」

と必死な表情で言った。しかし新矢は次ちゃんの肩をしっかりつかむと

「次ちゃん、あなたのお腹には二人子供がいるんですよ?そして海軍病院の医師(せんせい)から言われていますよね、早産の危険があると。下手をしたら子供に危険が及ぶかもしれないんですよ、もちろん次ちゃんあなたにも。あなた一人の体ではないんです。だから今すぐ病院に連絡を取るから行きましょう。いいね?」

とやや強い語調で言った。次ちゃんはさすがに「…はい、すみません」と小さく答え新矢は「病院に電話をかけてきますからね、そのままで」と言いおくと階下へ走って行った。

 

その騒ぎに、まだ寝付いていなかった益川中佐は布団から体を起こした。階段を駆け下りてくる足音に、襖を開けると山中大佐が血相変えて降りてきたところで

「大佐、どうなさいました!」

と声をかけた。すると大佐は

「益川君、次子の具合がおかしい…海軍病院に電話をする!」

というと電話室に走る。益川中佐は「これはいかんぞ」というと着替えをはじめ、軍装を身に着けた。そして

(もしかして私があんな相談をしたから奥様は具合が悪くおなりになったのではないだろうか)

とわが身を責めた。そのうち新矢が戻ってくると

「病院が自動車を寄越してくれるらしい、申し訳ないが益川君、次子を上からおろすのを手伝ってはくれまいか」

と早口で言い、益川中佐は「わかりました、では早速」というと二人二階へ上がった。二階の寝室へ入ると次子はすでに妊婦用軍装の袴を身に着け寝台の上に座っていた。新矢は次子のそばによると

「海軍病院の自動車がまもなく来るから、さ、降りよう」

と言ってそっとその体を支え寝台から降りさせた。益川もそれを手伝う、その益川に次子は「すみません、せっかくお休みになってらしたのに」と弱弱しい声で言った。益川中佐は首を振って

「とんでもないです、私のせいです。奥様がこんなになってしまったのは」

と言ったのへ次子は

「益川中佐のせいではありませんよ…これは、どうしようもないことです」

と言ってほほ笑んだ。男二人は両側から次子を支えて階段をゆっくりと降りた。益川中佐は憧れの天女の体を支えてうれしかったが(いや今はうれしがってる場合でないぞ)と気を引き締めた。

玄関に付くと、新矢は次ちゃんをその場に座らせると

「自動車が来るか見てきますからね、益川君とここにいて」

というと外へ出て行った。はい、と返事をしてお腹に手を当てる次ちゃんを益川中佐は心配げに見つめそのそばに座ると

「痛いですか?」

と尋ねた。次ちゃんは益川中佐を見てほほ笑むと「いいえ。痛くはないんです、ごめんなさいねお騒がせしてしまって」ともう一度謝った。益川中佐は

「そんな…」

というと下を向いてしまった。そこに新矢が駆け込んできて「自動車が来た、さあ、行こう」と言って次子を抱き起した。益川中佐も立ち上がって次子を支える。

 

海軍病院から差回された自動車に三人は乗って、自動車はひと気のない夜の道を走った。もう冬の空気が自動車のガラス窓を凍らせんばかりの冷たさである。

「大丈夫?次ちゃん」

と新矢はそっと言い、次ちゃんは微笑んでうなずく。助手席で益川中佐は(早く着け、早く着け…。奥様と奥様のお腹の子に何事もないように)と祈り続ける。

 

やがて自動車は海軍病院の車寄せに入る、すると待ち構えていた産科の軍医嬢たちと看護兵曹嬢が寝台とともに走り寄ってくるのが見え自動車は止まり、運転の兵曹嬢が素早く降りてドアを開ける。

助手席から益川がおり、そして新矢が後部座席から降りた。そして次子を下ろした。産科の軍医嬢たちが素早く駆け寄り次子を寝台に寝かせると院内へと入って行った。そのあとを新矢と益川が追う。

 

次子が診察を受けた後、新矢は診察室に呼ばれた。

担当の産科軍医・官川大佐は温厚な女性医師であったがやや表情を硬くして

「山中大佐。奥様の山中中佐はこのまま入院していただきます。このままですと早産してもおかしくない状態ですからね。双子さんですから母体へのご負担も大きいですから、ご自宅にいらっしゃるより病院にいたほうが良いと思いますのでね。…ではご入院の手続きを」

と言って書類を新矢に差し出した。新矢はそれを受けとりながら

「どうかよろしくお願いいたします」

と言って立ち上がると頭を深く下げた。

 

診察室の外に待っていた益川中佐は話を聞いた後

「くれぐれもお大事に。―それでは私は自宅に帰ります。何かありましたら私がお手伝いいたしますから。明日私出勤しましたら江崎少将にお話しておきますから、ご心配なく」

と言って帰って行った。新矢大佐は「すまなかったねごたごたしてしまって。よろしく願います、落ち着いたら出勤します」と言ったが中佐は微笑んで「どうか奥様のそばにいてあげてください、では」と言って病院を後にした。

 

病室に次ちゃんは落ち着いたが

「新矢さん。わたし家に帰りたい」

と言って新矢を困らせる。新矢は「今晩私はここにいるから安心して眠りなさい。さっきも言ったが次ちゃんと赤ん坊のためなんだからね」と言い含めた。さすがに次ちゃんは観念したのか

「わかりました…でもごめんなさい。お疲れなのに」

と言って新矢の差し出した両手を握って涙ぐんだ。その彼女をやさしい目で見つめ、新矢は付き添い用のベッドを次ちゃんのベッドの横にくっつけるとそこに身を横たえ「さ、眠ろう。そしたら落ち着くからね」と言い、次ちゃんは安心して眠りにつくことができた。新矢も(病院なら安心だ)と思いほっとして眠りにつくことができた。

 

そのちょっとした騒ぎを

(なんだろう、誰だろう?一体何があったのだろう)

と耳を澄ませている人物がいることに次ちゃんは気が付く由もないーー

  (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・

なんと、次ちゃん入院!早産にならなきゃいいのですが。そして次ちゃんの几帳面な性格がどうも…。

そしてこの入院騒ぎに耳を澄ます人物とはいったい??

緊迫の次回をお楽しみに。


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親友 ベストフレンド

小泉兵曹は、あの事件の後艦に戻った晩、桜本兵曹・長妻兵曹・高田兵曹そして石川兵曹に集まってもらったーー

 

「呼び立ててすまんかったですが…うち」

と星明かりの最上甲板、二番主砲そばで、小泉兵曹は神妙な顔で切り出した。四人の兵曹たちはやや戸惑ったような表情で小泉兵曹を見つめた。その視線を受け止めて小泉兵曹は続けた、

「皆さんに謝りたい。ほいでオトメチャンにはうちの本当の気持ちを話したいんじゃ。皆さんにはその証人になってほしいんです」。

小泉兵曹は甲板に両手をついて平伏すると

「石川兵曹、うちは兵曹を何度もぶん殴ってしもうた。それもうちの勝手な思いからじゃ。ほんまにすまんことをしました。どうか許してつかあさい。ほいでオトメチャン、石川兵曹から聞いた思うがうちはオトメチャンのチェストをひっかきまわした…ほうじゃ、もうわかっとりんさるじゃろうがうちはオトメチャンの許嫁のことが知りたかった。ほいであがいな卑怯な真似をしたんじゃ。どうか許してほしい…。ほいで長妻兵曹、高田兵曹にはそのせいで余計な心配をさせてしもうたと後で聞きました…うち、みんなの許嫁のことを知りとうて…なんていやしい真似をしたんじゃろうと今は思うてます。本当にすみませんごめんなさい」

と言って泣き出す。

高田兵曹が腕を組んで小泉の前に足を肩幅に開いて立ち

「そんとなこといきなり信用できるかい。貴様は信用ならんけえな!貴様のどこを信用したらええんね?うちは信用せんで」

と厳しい語調で言った。小泉兵曹は平伏したまま泣いて

「ほりゃあ高田兵曹の言うことが当たり前じゃ、うちはもう誰からも信用されんでも仕方のない女じゃ。ほいでも、これがうちのほんまの気持ちですけえ、どうか聞いてつかあさい」

と言った。

石川兵曹が小さな声で「どうします?聴くだけなら聞いてやってもええん違いますか?」と言った。長妻兵曹は黙ったままであるが桜本兵曹は小泉兵曹の前に膝をついてその肩にそっと手を置くと

「うちは話を聞くけえ、泣かんと言いんさいな?」

とそっとささやくように言った。小泉兵曹は「ありがとうオトメチャン」と言い、桜本兵曹に引き起こされて座りなおすと

「うち、うちもみんなみとうに許婚とかええ人がほしかったんじゃ。でもうちは一人に絞るんはどうもできんで、見世の男を両てんびんにかけては悩んで勤務をおろそかにしてしもうた。ほいでだんだんオトメチャンが憎いいうたら厳しい言いかたじゃが、その…」

と言って言い淀んだ。桜本兵曹な静かな瞳で「なんでもええ。思うたとおりのことを言うてくれたらそれでええ。今更隠さんでほしい」と促した。小泉兵曹はためらっていたが顔を上げるとまっすぐオトメチャンを見つめ

「うちより劣った生まれのくせに、うちより幸せになるなん許せん。じゃけえ邪魔してやろうおもうたんじゃ」

と言ったあと「本当にすまん、申し訳ない」と言って再び号泣し始めた。

長妻兵曹・高田兵曹石川兵曹があっけにとられて小泉兵曹を見つめている。高田兵曹が

「貴様、ええ気になりよってからに!人がどんな生まれであっても幸せになる権利はあろうが!それを貴様が邪魔する権利なん、どこにもないで!この…大店の娘じゃ言うて、ええ気になりよってからに!」

といきり立ち、小泉兵曹につかみかかろうとしたのを長妻兵曹が後ろから抱きかかえるようにして止めた。

小泉兵曹はしゃくりあげながら

「高田兵曹の言う通りです、うちはええ気になっとりました…。でもうちが貶めていたオトメチャンがうちを早う留置所から出してやってほしいいうて上陸のたびに艦隊司令部に来ていたいうことや何より、大雨の中玄関先で泥だらけになりながら土下座して泣いているオトメチャンを見たとき、うちはなんて阿呆な人間なんじゃろうと今までしてきたこと考えたことを後悔しました…。オトメチャンはうちを本気で思うてああしてくれている。そのオトメチャンにうちはなんて仕打ちをしてきたんじゃろうと思うたらもう恥ずかしいやら悲しいやら…うちは正直死にたくなりました。じゃがうちは生きてオトメチャンに恩返しをせんといけん、そう思い返しました…」

と語った。

高田兵曹は

「貴様の思いは本物じゃ思うてええんじゃな?もし嘘偽りだったら今度こそ承知せんで!」

と怒鳴るように言った。それに小泉兵曹はうなずいて

「小山田司令と約束しました。…今度戦友を裏切って勤務怠慢なことをしたときは、内地に送還して軍法会議にかけられても一切文句は言わん、申し開きはせんと。ほいで、今回のことでうちの昇進は同期の皆よりずっと遅れることも承知しました。それはうちのせいですけえもう誰も恨んだりしません。うちは自分の生き方をも一度見直して生き直します。嘘偽りはありません、ほんまですけえどうか信じてつかあさい」

と言って頭を下げた。ひたいが甲板に着いた。

桜本兵曹は「わかったで、小泉」というともう一度小泉兵曹を抱き起すようにしてからその顔をまっすぐ見つめ

「うちはあんたを信用する。今までのことはもう水に流す。じゃけえ…」

というと小泉をかき抱いて

「どうか、どうかもうあがいな思いはさせんでね。願います」

というと声を上げて泣き出したのだった。小泉兵曹と桜本兵曹は抱き合ったままそこで泣いていた。

長妻兵曹は高田・石川の両兵曹を見返って

「改心したとみてええかな。高田兵曹、どがいです?石川兵曹は小泉兵曹を許してええんか?」

と言い高田兵曹は頬をそっと掻くと

「ああいわれたら信用せんわけにいかんじゃろ?信用したるわい。なあ小泉、これからは何があってもオトメチャンをしっかり守ってやらんといけんで?それが貴様の罪滅ぼしなけえの。ええな」

と言い、小泉が泣きながら「はい、そうします。必ず」と言ってうなずくのを見て「ほんならうち、行くわい。またな」と言って歩き去って行った。長妻兵曹と石川兵曹も「これからまたよろしゅうにな」「うちも見ずに流しますけえ、よろしく願います」と声をかけ、そして去って行った。

 

甲板には二人だけになった。

泣き止んだ二人はその場に座って夜空を見上げている。今夜は月がないので星明りがいっそう強く感じる晩である。

小泉兵曹は桜本兵曹に視線を移すと

「うちら長い付き合いなねえ」

と言ってほほ笑んだ。桜本兵曹もほほ笑み返して「ほうじゃのう。海兵団以来じゃけえ、はあ何年になろうかねえ」と言った。小泉は「二人でよう、悪いことをしたもんじゃな」と言ってくすくす笑った。桜本兵曹は

「ほうよ。覚えとる?航海学校に居ったころ、暗室での訓練の時」

というと二人は声を立てて笑った。小泉兵曹は笑いすぎて涙をこぼしながら

「暗い部屋で夜間見張の訓練じゃったねえ、皆同じところを見とるんなけえ双眼鏡は皆同じ方向むいとらんといけんいうんに、うちとオトメチャン居眠りこいてしもうて双眼鏡がそっぽ向いとって…教官に『居眠りしとるんはだれじゃ!?』言うて怒鳴られて大目玉くろうたねえ」

と言ってさらに二人は笑った。

笑い収まると小泉兵曹はまじめな顔になり

「オトメチャン、うちはオトメチャンを守るで。じゃけえ大船に乗った気で居りんさい」

といきなり言った。急になんね?と言ったオトメチャンに小泉兵曹はまじめな顔のまま

「うちはオトメチャンに対してひどい思いを持ったこともあるがそれはオトメチャンのことがうらやましい反面もあったんじゃ。うちはオトメチャンみとうに綺麗でもないし見張が上手でもない。おぼこでも無いけえの…。じゃけえ言うてはいけんことを言うて思うてオトメチャンを貶めて悦に入って居ったあほじゃ。じゃがそのアホも心を入れ替えてまともになる、じゃけえオトメチャンを困らすような人間が出たらうちが懲らしめるけえね。安心しとり」

と言った。

桜本兵曹は小泉兵曹の顔を見つめ

「―ありがとう小泉さん。うちはあんたみとうな友達を持って幸せじゃわ。うちは…もう過ぎたことはいいとうないが…今度の件で大事な友達を失うてしまうんじゃないかと悲しかった。でももうそんとな心配ものうなって、うちはうれしい。うちも小泉を守りたい。小泉を虐めるもんがおったらうちがただじゃ置かんで」

と言って、小泉兵曹は

「ほうじゃわ、オトメチャンのあの〈秘技〉をくらわされたら誰でもかなわんわい。こわ~」

と以前<エガチャン>なる男にオトメチャンが食らわせた〈電気あんま〉の話を持ち出し、二人はまた笑った。

二人の笑いは星空をどこまでも駆けあがって行った。

 

その様子を二番主砲砲塔上でそっと見守っていた棗主計大尉はふっと息をついて空を見上げると

「親友…。ベストフレンド、ですね」

と独り言ち、二人の影に微笑みかけたーー

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・

小泉兵曹の本音でした。

目覚めた小泉兵曹は大事なオトメチャンを守る、と宣言しました。危うかった二人の友情も修復されました。

この後、小泉兵曹はオトメチャンのために細やかな心配りをすることになります。そしてある人たちと…おっとこの先は内緒w。

 

次回をお楽しみに!

 

キロロ「ベストフレンド」


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十三夜

河合道明は、夕食を終え風呂に息子と入ると自室の離れへと歩いて行った――

 

三つになる息子の咲雄は「ばあばと寝る、ばあばと寝る」とその晩に限って駄々をこねたので母親に「サキはばあちゃんと寝たいそうです、いいですか?」と言って、母親は喜んで「ああいいよ、咲坊、さあいらっしゃいな」と手招き咲雄は喜んで祖母の広げた両手へ向かってとたとたと走る。

そして道明は自室への渡り廊下を一人歩いた。月明かりが彼の足元を照らし、秋の涼しい風が心地よく吹いて過ぎる。

部屋に入った道明は、ほっと息をつくと縁側に座った。

見上げる空には月が照っている。

(今夜は十三夜だったな)

道明は思い、月を見上げた。忘れがたい人の面影が脳裏に浮かび、道明の瞳には涙があふれてきた。あれから三年ほどが過ぎたが忘れられないあのひと。なんだか今でもこの家にいるような気がしてならないあのひと。姿が見えない声が聞こえないのが不思議だとしか思えないあのひと。
部屋の机の上には、二人の結婚写真やサキの中尉姿の写真が置かれている。彼も彼の両親も毎日、写真のサキに向かって朝夕の挨拶をし、何かあったときは話し掛け、まるで生けるが如しである。

道明は、亡き妻の面影を月に探すように見入っていた。

が、そのうち彼は突然に眠気を覚えその場にごろっと横になるとやがて軽い寝息を立て始めた。

 

どのくらい時間がたったのだろう、道明は懐かしい音に目を覚ました。

離れへの渡り廊下を歩いてくる足音、あれは愛しいあの人の足音。

道明は体を起こし廊下を見て

「サキ、サキさんか?」

と声をかけた。すると、月の光が少し強くなったような気がした。自分の影がさっきより月明かりにくっきりと廊下に張り付いている。

廊下を歩く足音がはっきりして、道明は立ち上がり「サキさん」と声をかけた。すると――

渡り廊下を歩いてくるのは、道明の今は亡き妻の河合サキであった。道明は立ち尽くして「…サキさん」とつぶやいた。

サキの姿が廊下を渡り終えてこちらへ来た。にこにこと笑みながら、中尉の襟章と袖章のついた一種軍装の姿で胸には赤ん坊が抱かれている。旦那様!と嬉しそうな声が弾んだ。

サキは、道明の前にたつと「旦那様。お久しぶりでございます」と言って頭を下げた。道明は

「サキさん。ほんとにサキさんなんだね」

とうれしさに声が上ずった。そしてサキの胸の赤ん坊を見た。サキは嬉しそうにほほ笑みながら眠っている赤ん坊の顔を道明に見せて

「旦那様と私の子供です、女の子。別れてしまって悲しかったけど向こうで逢えたの。うれしかったわ、もう離さない」

と言って道明を見つめた。

「私と、サキさんの…」

道明はうれしくなって赤ん坊の頬にそっと触れた。桜色の頬の赤ん坊は道明に触れられてくすぐったいのか笑みを浮かべてほほをそっと小さな指先で掻くようにした。

道明は「さあ、ここに寝かせて…。サキさんここに座りなさい」と部屋の中に座布団を敷いたその上に赤ん坊を寝かせ掛け布団をそっとかけてやってから、縁側に一枚座布団を置くとサキを座らせた。

月明かりの下、サキは美しかった。

道明は見とれていたがはっと気が付いたように

「よく来てくれたねサキさん。どこに行ってたんだね?私は寂しくて寂しくて仕方がないんだ。おやじもおふくろも寂しがっているよ?」

と言ってサキの手を握った。サキの手は温かい。

サキは少し悲しそうな顔になると

「遠いところにいます…」

と言っていったん言葉を切ったが顔を上げて笑みをあふれさせると

「でもいつも旦那様やお父様お母さまのこと見ています。咲雄ちゃんのことも…とってもお利口でかわいい子。そして旦那様、いつも墓に参ってくださってありがとうございます。とってもうれしい」

と言った。道明は食い入るようにサキを見つめていたが

「サキさん、本当は生きてるんじゃないのか?死んでなんかないんだろう?ねえサキさん」

と言って力強くサキの両方の腕をつかんだ。こうして触れているという実感もあり言葉も交わせる、なのに彼女はこの世の人ではないのか。

するとサキは「旦那様!」と小さく叫んで道明の胸にすがってきた。サキの胸の温かさが道明の胸に伝わり、彼はたまらなくなった。

「サキ!」

叫ぶなり彼はその場にサキを押し倒していた。道明の胸の下でサキは、その瞳に軒先から差し込む月の光を宿した。美しく瞳が輝き、道明はまるで熱に浮かされたようにサキの軍装のボタンを一つ一つ外し始める。サキは抵抗しないで道明のなすがままになっている。やがてサキは美しい裸体を月明かりにさらし、道明は彼女に自分を重ねた。

「旦那様」

サキの柔らかな声音と体に道明は我を忘れ、サキを自分のものにした。

サキは道明の動きに恥ずかし気にしながらも「旦那様、旦那様…」と小さく叫んでそのしなやかな腕を道明の肩に掛け、喘ぐ。

道明は夢中でサキのなかにつきすすみ、長い時間が過ぎ――やがて終わった。

道明は終わった後もサキを抱きしめたまま「もう少しこのままでいたい…いいかな?」と言ってサキはうなずいた。嬉しそうに道明に抱かれたサキは、しかし決意を込めた表情になると

「旦那様、…。誰かいい人が居たら、私を気にしないで再婚してください」

と言って道明は「え?」と言ってサキの顔を見つめた。実際道明には親戚から最近、縁談が持ち込まれていた。サキは少し顔を横向けると

「知ってるのわたし、旦那様に縁談があること。でも旦那様は幸せになってほしいから再婚してください。私のことなんか忘れて…」

と言ってその瞳が潤んだ。

道明はサキを思い切り抱きしめて

「バカ。馬鹿なこと言うなよサキ!私は死ぬまでサキの夫だよ。そしてサキは私の妻だ…だから誰とも再婚なんかしない。私は一人で咲雄を大きくする。再婚なんて考えない、考えたくないんだ。そんな悲しいこと言わないでくれサキ」

と言って泣いた。サキも道明の胸で泣いた。

サキは

「ありがとう旦那様、私とっても嬉しい…。私はずっといつまでも旦那様やお父様お母さま、咲雄君を見守ります。私の大好きな河合家の皆さんを私はずっと、どんなことからも守ります」

と言って道明をしっかり抱きしめた。

 

やがてサキはきちんと軍装を身に着けると、座布団で眠る赤ん坊を抱き上げた。赤ん坊は目を覚まして、道明を見ると両手を振って笑った。お父様ですよ、とサキがささやくと赤ん坊は両手を道明に差し出し、道明は赤ん坊をサキから抱き取った。生まれていたら、生きていたらどんなに楽しい家庭が作れていただろうと思うと道明は涙が新たにあふれた。

サキが

「泣かないで旦那様。私たちいつでもそばにいます。そしてまた、逢いに来ます」

と言い、道明はうなずいた。サキは赤ん坊を道明から受け取ると

「旦那様、またお会いしましょう。お父様お母さまによろしくお伝えください」

というと頭を深く下げた。月の光がまばゆく周囲を照らし、二人の姿はその中に溶け込んでいった――

 

冷たい風が吹き抜け、道明は我に返った。

彼は、縁側に横になって居眠っていたのだ。(すると先ほどのは夢だったのか)と思うと一層切なさが足の裏から突き上げてきた。

サキに触れた、抱いた感触が生々しく残っていた。しかし周囲に彼女がいたことを示すものはなく、赤ん坊を寝かせたはずの座布団も掛け布団さえ部屋には置いてなかった。

しかしサキと交わした会話はしっかり現実のものとして道明の記憶に残っている。あの微笑、柔らかな体も。

(サキさん、よく来てくれたね。ありがとう)

道明は澄み渡った秋の夜空に向かって合掌した。そして部屋に入ると今度こそ布団を延べて眠りについた。

 

翌朝。

渡り廊下を咲雄がやってきた。そのあとを道明の母親がついてくる。

「道明さん起きてますか~」

「おとうたん、おきて~」

二人は歌うように言いながら道明の眠っている部屋の障子を開けた。おはよう、とやや寝ぼけたような口調の道明は布団から起き上がった、部屋に入ろうとした道明の母が「あら?」と小さく言ってその場にかがみこみ、なにかをひろった。

そして

「道明さん、これ」

と差し出したのはーーサキの中尉の襟章の一つだった。

道明はそれを母親から受け取るとにっこり微笑み「やはりね、やはり来てくれたんだね。夢じゃなかった」といい昨晩の話をした。話を聞き終えた母親は着物の袖で涙をそっとぬぐうと

「サキさん…逢いたいわねえ」

と言って泣いた。

咲雄が不思議そうに「ばあば?」というのへ道明は咲雄を抱き上げ

「昨夜ね、咲坊のお母さまが来たんですよ。咲坊のきょうだい連れてね」

と言った。咲雄が「おかあちゃま?おかあちゃまに逢いたい」といい、道明は母親を振り返ると「母さん。こないだの縁談、断ってください」と言って咲雄を抱きしめるとむせび泣いた。母親もうなずきながら泣いたーー

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・

十三夜の不思議な出来事でした。

河合サキ中尉は不幸な亡くなり方をしましたが結婚は幸せでした。今も…幸せです。

 

鈴木雅之「十三夜」泣けちゃう歌です…


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SQUALL 愛の嵐3 解決編

激しいスコールの中、佐野のかすかにふるえる手が高田兵曹の軍装のボタンにかかったーー

 

再び稲妻がまぶしく一閃し、激しい雷鳴が響き渡った。それを合図のように佐野は高田兵曹の濡れた軍装を一気に脱がせてしまった。雨水を含んで重くなった二種軍装の上下が床にドスッと音を立てて落ちた。その向こうに兵曹の軍帽が落ちている。

乳当てと下帯だけになった高田佳子兵曹を片手で抱きしめながら佐野は自分も濡れた服を脱いだ、時折右手と左手を入れ替えて、しかしそのどちらかの手はしっかり佳子を抱きしめて離さない。

やっと佐野は自分の濡れた服をすべて脱ぎ去ると、激しい雨音と雷鳴を背後にして佳子を床に寝かせた。佳子兵曹は胸の鼓動が高鳴るのを感じ、目を閉じている。佐野はあおむけに寝かせた佳子の乳当てをそっと取った。豊かな乳房が締め付けを解かれて佐野の目の前にやさしく揺蕩う。それを見たとたん佐野は

「佳子さん」

と叫ぶように言うと下帯のひもに手をかけ一気に解いた。佳子がアッと思う間もなく彼女の両足は開かされ、その間に佐野の腰が入る。佐野の熱い両手が彼女の乳房をつかみ、その先をもみつぶす。佳子が悲鳴に似た声を上げ、するとその声に刺激されたかのように佐野は夢中で彼女を抱きしめると

「いいね?―佳子」

とささやいた。佳子がうなずくと、佐野はよしこ、佳子と連呼しながら彼女の中に突き進んできた。佳子はその激しさと快感に声を上げて佐野はさらに進む。

スコールの激しさに誘発されたかの如く、二人は互いを貪欲に求め合った。佐野は佳子の奥へ奥へと突き進み、その豊かな乳房をもみしだきその先を噛むように舐った。

佳子は喘ぎながら彼の腰を両足で挟むようにして彼を自分の奥へといざなう。もっと奥へ、もっとその先へ…二人は互いをむさぼるようにして愛を確かめ合う。

屋根を打つ激しい雨の音も、鳴り響く雷鳴ももう二人には聞こえない。今や二人が嵐そのものである。

二人は汗を滴らせ、絡み合う。スコールの激しさに呼応するように二人の行為も激しさを増した。

佐野は佳子を押さえつけ攻め立てながら

「結婚…してくれますね」

と言った。ハアハアと息遣いが激しい。その佐野を見上げ佳子は潤んだ瞳で

「はい…妻にしてください」

と答え、すると佐野は「ありがとう…早く、一日も早く夫婦になりましょう」というなり彼女を突き上げた。

ああーっ、と佳子が叫び佐野は佳子に締め付けられてーー終わった。

 

終わったあと二人は天井を見つめたまま寝ていた。佐野は佳子に腕枕して、片手は彼女の胸に当てている。疲れませんか、という佳子に佐野は「平気ですよ。―-とても素敵だった」といい佳子は頬を染めた。そして少し悲し気に佐野を見つめると

「私も。でも佐野さん、ごめんなさい。私…初めてじゃなくて」

と告白した。が、佐野は微笑んで佳子の豊かな乳房を撫でながら

「私だって初めてじゃないですからおあいこです。そんなこと問題じゃあない。私はあなたをこの先ずっと愛してゆきます、なにがあろうと。だからあなたも私をずっと愛してくださいね」

といい、佳子に口づけをした。

佳子の全身に幸せが走り抜け、佐野の背中に手を回し抱きしめた。すると佐野のうちにさらに佳子への愛情が沸き上がり、彼はもう一度佳子の中へ入っていったのだった。

 

長い嵐がやっとすぎ去り、二人は行為の後始末をした後濡れた衣服を乾かすべく服を広げて干した。

なかなか乾きそうもないがその時間さえ愛し合う二人には大事な時間である。

高田兵曹は

「今日は佐野さんはどちらにお泊まりんさるんですか?」

と尋ねた。佐野は「特に決めてないです、安い宿を見つけて泊まるつもりです」と言ったので兵曹は「ほんならうちの〈家〉に泊まりませんか?部屋はいくつもありますけえ」と言って佐野を驚かせた。そこで兵曹は佐野に詳しい話をし、

「それなら申し訳ないが泊めてください」

と佐野は喜んだ。

 

二人は服があらかた乾いたころを見計らって、衣服を身に着け使ったものを仕舞うと小屋を出た。ここに来る前と今では(うちはどこかちごうてしまったんじゃないじゃろうか)と思う高田兵曹であった。正直な話、今まで何度か男性と枕を交わしたことがあったが、単にたまった欲情を処理するためのもので愛情などなかった行為であった。

しかし今日の行為は愛情の裏打ちのあるもの。

今までのそれとは全く異質なものである。

「佐野さん。ありがとうございます、うちあなたにずっとついていきます」

小屋の外で兵曹はそういい、佐野は答える代わりに兵曹を力いっぱい抱きしめそしてくちづけた。その二人をトレーラーの夕日がまぶしく照らした。

 

二人は町の銭湯に寄って体を綺麗にして、夜のとばりがすっかり降りてから家に帰った。

仲間たちはもうそれぞれの部屋に引き上げて眠ったのか家の中は静かである。高田兵曹は佐野を二階の部屋に案内した。佐野に寝間着を渡してから兵曹は別の部屋で寝間着に着替えた。そして部屋に戻ると佐野は「今夜はここで二人ゆっくり過ごしましょう。私は明日も休みですから」といい兵曹は恥ずかし気にうなずいた。

薄い布団を延べ、二人はその上に座って小さな声で話をした。兵曹は

「早速休暇が終わったら結婚許可願を出します。受理されましたらお知らせしますけえ。佐野さんはまだしばらくトレーラにいらっしゃるのでしょう?」

と言い佐野はうなずいた、「小泉商店との話し合いがまだありますから当分居ります…だから佳子さんが上陸するときには教えてくださいね、待っていますから」。

高田兵曹が「うれしい」というと佐野は彼女をいきなり抱きしめた。佐野は兵曹の寝間着のひもを解き、その素肌をあらわにした。

「綺麗だ」

そういって佐野は、兵曹の体に手を這わせ始める。最初はかすかだった兵曹の喘ぎが高まると佐野は、彼女の中に自分を突き入れ…二人はまたも荒れ狂う「愛の嵐」にその身を投じたのだった。

翌朝、一階の部屋から出てきた『大和』の仲間、機関科の堤、石丸の両兵曹は顔を合わせるなり「昨夜二階はえらい大嵐じゃったねえ!高田兵曹いよいよ…かいね!」と言って笑いあったのを、高田兵曹は知らない――

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・

スコールの中で始まった秘め事。

二人の愛は固く結ばれました。さあ二人が夫婦として新しい人生を歩き始める日ももうそこまで来ています!

 

『SQUALL』松田聖子 大好きなアルバムの中から『SQUALL』。これを聞いてこの話を思いつきました。


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