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ゴシップ 4

桜本兵曹が、マツコ、トメキチ、そしてニャマトたちと通信用紙と格闘しているその時――

 

「ちょっとお話聞かせていただいていいでしょうか」

と、機関科の松本少尉は後ろから話しかけられて「は?なんでしょうかのう」と振り返った。そこに立っていたのは五戸記者。彼は大きな体つきの少尉にやや気後れしながらも

「御時間を少しいただいていいでしょうか…あの、海軍の下士官嬢の中に…」

これこれこういう身上の下士官嬢を知りませんか、と尋ねてみた。五戸記者は尋ねながらも松本少尉の顔をそっとうかがっている。松本少尉は声をかけられた時から(こいつ、新聞記者だな。もしかして佐野兵曹の周辺を嗅ぎまわってたのもこいつか)と感じていたし、この記者が聞いているのが「オトメチャン」であるのもわかった。ゆえに松本少尉はごくごく自然に

「ほう~、そんとな身の上の下士官嬢が居るんですか。ふーむ…。しかし残念でしたな、私はそんとな下士官は知りませんし私の艦にも居りませんな。ほいじゃあ、ごきげんよう」

というと歩き去った。五戸記者は

「ごきげんよう…って本当かね?信用ならんなあー…あと何人か聞いてみるか」

と腕組みして考えた後、何人かの水兵嬢や下士官嬢、准士官嬢たちに同じ話を聞いて回ったが答えは同じ、「知りませんね。私たちの艦の人間の話ではないですね」

だった。さすがにげっそり来た五戸記者だったがめげるわけにいかない、大原田幹事長の記事がだめになった以上なにか面白い話を掲載したいと切に願っている。そうでなくても<帝国新報>の最近の発行部数は以前より落ちており、彼らにとっては死活問題である。

 

そんなころ、松本少尉は士官用の料亭前で佐藤副長に出会った。副長は料亭で同期(コレス)と食事会をするために来たのだった。「副長!」と呼んで少尉は副長の前に立ち敬礼した。副長も返礼し、うれしそうな顔で「松本少尉、どうしました。あなたも同期会かなにか?」と尋ねてきた。松本少尉は真剣な顔つきで

「副長、ちとこちらへ」

というと副長を料亭の玄関の隅に引き込んだ。どうしたんですねと不審がる副長に松本少尉は先ほどの新聞記者らしい男の話をした。

「なんだって…それはまさに<彼女>の話を聞き出したがっているのではないか…。松本少尉、上陸中のところを申し訳ないがすぐ艦に戻ってこの話を艦長にしてほしい。私もコレスが集まり次第、わけを話して艦に戻るから、頼む!」

佐藤副長はそういって玄関の外に出るとコレスを探し、あちこち見始める。松本少尉は「わかりました、行きますッ」と叫んで走り出した。

松本少尉は桟橋までを走りに走って汗だくになって、やっと上陸桟橋にたどり着いた。が、『大和』からの定期便のランチはこの時間はない。少尉は急いで衛兵所に飛び込むと『大和』に電話をしてもらった。そして間もなく波を蹴立ててランチが一艇、『大和』からやってきて松本少尉は艇指揮の少尉に

「大至急じゃ、副長からの言伝を艦長に伝えんならん、早う、早う!!」

と叫んでランチは大きく舳先で弧を描くと『大和』に向かって行った。

 

そんなころ無電室では桜本兵曹とマツコ、トメキチ、ニャマトたちが電信用紙をまとめている。オトメチャンは

「通信長、これすべて番号順にしましたがええでしょうか」

と尋ねると山口通信長は微笑んで「ええよ。ありがとうね、ほんまにすまんねえ。こげえなことを頼んでしもうて。見張の達人に頼むことじゃないのに…後で美味い菓子があるけえ楽しみにしとり」と言った。ありがとうございます、とオトメチャンが言ったその時無電室に入ってきた人が二人。

中谷少尉と三山少尉である。山口通信長が

「おや、君たち上陸しなかったのかね?」

と少しびっくりしたように言った。中谷少尉が「上陸のつもりはつもりでしたがやはり敵の通信が気になりました。それに三山少尉は昨晩、一睡もしないで敵信を探ってくれていました。だから私の部屋で寝かせていたんです」と言って桜本兵曹は

「一晩中、敵信を探っとってですか…」

と絶句した。

山口通信長はオトメチャンをみて

「この二人はよく働くんだよ。いつでも通信機の前に張り付いてね…一晩中起きていることさえいとわない。私も見習わねばいけないと常に思っておるんよ」

と言い、マツコたちは

「知ってるわよアタシたち。中谷さんと三山さん、いつも二人で仕事して…ほんとに素晴らしいわ」

感涙を浮かべている。

 

その時『大和』に接舷したランチから舷梯を伝って駆けあがってきた松本少尉は丁度通りかかった森上参謀長に出くわした。どうしたんだね血相変えて、と言った参謀長に松本少尉は「実は、」と急き込んで話をし、その内容にびっくりした参謀長は

「急ぎ艦長に伝えよう、さあ早く!」

と松本少尉を従えて艦長の元へ。

梨賀艦長は第一艦橋にいてのんびりとした雰囲気の中、周囲の風景を見ていた。そこに

「梨賀いるか!」「艦長―」

という大声が飛び込んできて腰を抜かさんばかりに驚いた。何事か、と問う艦長に参謀長が

「松本少尉から詳細をお話しなさい」

と言って松本少尉は水島であった出来事を艦長に詳しく話した。梨賀艦長はウーン、と言って腕を組んだ。そして顔を上げ参謀長と松本少尉を見ると、

「その新聞記者と思しき男性の聞きたがる相手は…<オトメチャン>ではないのか。それにしてもなぜ、彼女の生い立ちが新聞記者に筒抜けなのか?桜本兵曹の義理の姉妹が海軍にいるがそんなことを漏らすとは到底思えない、自分たちにとっても不利益になるからね。どういうことなのだろう、私には測りかねる。しかし何らかの手は打たねばなるまいよ」

と言った。

 

そしてその晩から翌日のうちに、多くのトレーラー停泊艦艇の艦長から<うちの乗員が水島でこういう質問を受けた>という話がぽつぽつとトレーラー司令部に届き始め、あろうことか――五戸記者はトレーラーの海軍診療所に友人を見舞いに行った帰りの小山田艦隊司令に例の話をしたのだった。

小山田司令はその場は

「さあ知らんねえ」

とやり過ごしたが五戸記者の姿が埃っぽい道の向こうに小さくなったのを見届けると駆け足で司令部に帰り、副官に

「昨日から妙な話が各艦からきていたな…」

というと電信用紙を持って来させた。今日になって大きな艦は『大和』から小さなものは海防艦に至るまでほとんどのトレーラー在泊艦艇の艦長から乗組員が妙な聞き出しを受けたという内容ばかりである。

小山田司令は副官に

「トレーラー停泊全艦艇へ電報を出せ」

と厳かに命じた。

 

「艦長、艦隊司令部から電信です」

山口通信長が電報用紙を持って第一艦橋にやってきた。副長もいる。副長はコレスとの食事会を昨日、キャンセルして艦に急ぎ戻ってきたが事の重大さにやや頬が青ざめている。

読め、という艦長に通信長はうなずくと

「発 トレーラー艦隊司令。宛 トレーラー在泊各艦艇。本文、不審なる新聞記者と思しき男性との一切の接触を禁じる。司令部は本件男性の拘束を検討中。終わり」

と読み上げた。

梨賀艦長は電報用紙を通信長から受け取るとそれをしばし見つめた後、通信長をみて

「私は明日、小山田司令に逢ってくるよ。私の艦の乗員のことだからね…黙ってはおれまい?」

と言って黙りこくってしまった。

山口通信長はそのそばに立ったまま発するべき言葉を無くしていた――

  (次回に続きます)

 

                 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

お久しぶりです。今夜は少し気分が良いので書き上げました。いつもこうならいいんですが(;'')

さてトレーラー、ちょっとした騒ぎになりつつあります。どうなりますかそして肝心のオトメチャンは。

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ゴシップ 3

<帝国新報>は内地でもその取材活動を露骨に始めていた――

 

政治部の記者は、与党幹部の大物、大原田勘兵衛幹事長をその自宅に尋ねた。大原田は、記者が訪ねてくるのは日常茶飯事であるから秘書の「<帝国日報>の崎本記者が」参りましたが、という声に

「なんだまたか、戦局は極めて日本に有利。帝国陸海軍の活躍をもっと書いてほしいものだよ。わたしなんかを取材してる暇なんかないと思うんだがねえ」

と笑いながら応接室へ入って行った。果たして応接室には崎本記者がもう待っていて、大原田幹事長を見るなりソファから立ち上がった。

大原田幹事長は「まあまあ。座りなさい…で、今日は何を話したらいいのかな?それより私は帝国陸海軍の活躍をあなたに聞きたいくらいなんだがね」と言って崎本記者を座らせると自分もソファに腰を沈めた。崎本記者は至極真面目な顔で幹事長を見つめると

「今日は国政や戦局の話ではないんです…実は」

と言いかけた。その時部屋のドアがノックされ、大原田の妻が紅茶と菓子を運んできた。顔見知りの記者であるし妻の峰子は微笑みながら

「いつもご苦労様です…。まあ怖いお顔なさって、今日はどんなお話かしら?」

と言って二人の前の紅茶と菓子を置いた。峰子が出てゆこうとすると崎本記者は「奥様にもご覧になって、そして聞いていただきたいのです」と言って峰子は不思議そうな顔で夫の隣にそっと腰を下ろした。崎本記者は傍らに置いていた大きな封筒の中から数枚の紙を引き出した。なんでしょう?と言う峰子、はてなんだね?という大原田幹事長の前に崎本は、

「この女性に見覚えはありませんか?」

と言って数枚の写真を出してテーブルに並べた。はたしてその写真は<高田佳子海軍上等兵曹>の、トレーラ水島での結婚式の写真である。

峰子は写真をみて手に取ると

「まあなんてきれいな花嫁さんなんでしょう!ねえあなた、お綺麗なかたですねえ」

と言って夫へ写真を手渡した。幹事長も写真を手に取って見つめた後

「ほう、これはまた美しい女性だ…崎本君この人はどういう方だね?」

と言って崎本記者に視線を移した。

崎本記者は幹事長に静かな視線を当てて

「この女性は海軍の下士官、上等兵曹です。そして…よくご覧になってください。この兵曹、…幹事長に似ているとは思われませんか?」

と言い放った。数瞬の後幹事長は大きな声を上げて笑い出した。崎本はややあっけにとられていたが、笑い続ける幹事長に

「噂を聞いたのです…幹事長には隠し子がおられるという噂を」

とそっと話しかけた。大原田幹事長は笑いすぎて涙をこぼしながら

「いやはや面白い話だね。私に隠し子だって?一体どこからそんな話が出たんだろうかねえ」

と言って笑う。妻の峰子さえ「ま、いやあねえ」と言って笑う。崎本は今度は大いに面食らいながら

「失礼を承知で申し上げますが…幹事長はお若いころすでにご家庭がありながら別の若い女性と割りなき仲になられ、その女性との間にお子さんが生まれそして幹事長はご家庭をお捨てになってその女性と駆け落ちなさったと伺いました。生まれたお子さんの行方は分からないままですが、幹事長、この話の真偽をお伺いしたいのです。そしてその女性というのは奥様、あなたのことではないでしょうか」

と言った。

大原田幹事長の顔からは笑いは消え、厳しい目つきで崎本記者をまっすぐに見つめて

「話としては面白いがね崎本君。それは私に対する中傷ではないかね?どこからそんな噂を聞いたか知らないが正直迷惑な話だね。私が若い女性と駆け落ちしてしかも子供まで作っていたと?そしてその子供がこの写真の女性だというのかね?崎本君、そうだというなら証拠を持ってきてほしいよ。…いや確かに昔家庭を持っていたし別れたのも確かだが、そういう理由じゃないよ。家内にとっても迷惑な話だしこんな話に尾ひれがついて家内や私の子供達にまで迷惑がかかるようなら…考えねばならんよ」

と言って不機嫌な表情を浮かべてテーブルの上の紅茶カップを手に取り、紅茶を飲んだ。幹事長の妻、峰子も「ひどい話だわ…あなた子供たちが聞いたらどうしましょう」と心底心配そうに幹事長を見つめる。

幹事長が何か言いかけたとき、部屋のドアがノックされ入ってきたのは大原田の長女の華子であった。華子は崎本に挨拶すると目ざとくテーブル上に広がった<佐野兵曹>の結婚式の写真を手に取った。そして

「まあ素敵!このお写真内地ではないですわね…どこかしら。それに見てお母さま、素敵なドレスね…私もいつかこんな素敵なドレスでお式を挙げたいわ」

と若い娘らしい感想を語った。華子には決まりかけた縁談があった。そして崎本を見ると

「どうしてこのお写真をうちに持っていらしたの?崎本さん?」

と小首をかしげた。崎本が答えるより先に大原田幹事長が「華子の結婚式の参考にどうかと言って持ってきてくれたんだよ」と言って華子は

「まあ本当に?素敵だわ、ねえお母さま私これと同じようなドレスを着たいわ、お願い!」

と峰子の腕を軽くつかんで揺すった。はいはいそうしましょうね、と峰子が笑い、幹事長も笑ったがその鋭い瞳が崎本に向けられているのを感じ取った崎本記者は「では私はこれで…、そうだこの全身の写った写真は参考に使ってください」と言いおいて残りをかき集めると大原田邸を辞した。

 

応接室に、大原田と峰子が残った。華子は「おとうさま、このお写真いただいてよろしいでしょ?」と佐野兵曹の写真を自分の部屋へ大事そうに胸に抱えて行った。

しんと静まり返った部屋で大原田がぽつりと言った、

「華子…あの写真の娘が自分の<>だとは思いもしないで…」

峰子も、「あんなに大きくきれいになって…可哀想なことをしてしまいましたわ」と言ったが幹事長は

「だが何があっても知らぬ存ぜぬで通すのだ、いいな?妙な小細工をすると疑われるだろうから自然体で、あくまで自然体でいるんだよ」

と念を押した。幹事長にとっては顔を知らない<>であった。その子が生まれたと聞いてふたつきもしないうちに彼はその時の妻の離縁をした。そして幹事長と峰子は駆け落ちして一緒になった。それから一年半ほどして華子が生まれ、次の男の子が生まれた。

元の妻は、失意のうちに子供をつれ大陸へ渡っていきその後どうしているのかははっきりわからないが子供ーー男の子だった――は、向こうではやり病にかかって亡くなったようだと風のうわさでは聞いている。幹事長の胸は、その子を思うときは鈍く痛む。

峰子は、あの時生んだ娘に名前さえ付けることなく捨てるようにして実家を飛び出してきたことを少し悔やんではいた。大原田と正式に結婚し、娘が生まれたとき自分が実家に産み捨ててきた子供の顔が重なった。(幸せになってほしい)と思って何年もたって、こんな形で<再会>しようとは。

(海軍に入っていたのですね…下士官のようだから苦労も多かったことでしょう。生まれたときから苦労を背負う星のもとに生まれたのだから、それがあなたの身上だと思ってこの先も頑張ってゆきなさい。そしていい人を得たようだから支えてもらいなさい)

すっかり幸せを得た、幹事長の妻であり<佐野兵曹>の実母である峰子の勝手な感想であった……

 

大原田幹事長の<隠し子>疑惑は彼が与党の大物ということもあったうえ確信に足る証拠に欠けるということなどもあり、しりすぼみになってしまった。記者たちは懸命に<海軍の下士官>の過去を追ったがその出生にまでに追いつくことができなかった。結局<帝国新報>記者たちはあきらめざるを得なかった。が、その代り、追いかけまわされることになったのが<桜本兵曹>であった。

どこで聞きつけたのか在トレーラーの<帝国新報>小林記者が

「ほんとかウソかもわからん政治家の隠し子の話なんぞどうでもいい、それより面白い話があるぞ。ここに停泊中の艦の下士官嬢、曰く付きの生まれで<小泉商店>勤務の男性と婚約までしていたらしい。が、その男性がほかに女を作ってその下士官嬢棄てられたそうだ。だがその男、社長に内地に帰ってくるようにと言われて新しい女と船に乗ったはいいが船が嵐で沈没したらしいぞ」

と五戸記者に言った。五戸記者は

「ほう~、どんな生まれか知らんが面白そうだな…、で、その男と女は死んだのか」

と興味津々で身を乗り出す。

小林記者はやや声を潜めて

「それがな…」

と話した内容に五戸記者は「それは面白い!それは是非―」と膝を叩いたのだった。

 

そんなこととは知らない桜本兵曹は、今日は通信科の部屋にいてたくさんの電報用紙を整理するお手伝いの真っ最中である。

ハシビロのマツコと小犬のトメキチ、そして子猫のニャマトも一緒になって用紙をくわえてあちこち走り回る。山口通信長が「悪いねえオトメチャン、あんたも忙しいじゃろうが通信科ほとんど上陸してしもうてねえ」と謝って、「これを食べんさい」と菓子を出してくれた。

それに感謝しながら菓子を食べるオトメチャンとマツコたちである。

 

そんなころ、上陸中の『大和』の乗組員は不審な問いかけをされていた――

   (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・・・

お久しぶりです。

これだけの文章を書くのにいったい何日かかったことやら。なかなか鬱状態から脱することができませんでつらいものがありますが何とかやってゆこうと思います。

どうぞよろしくお願い申し上げます!そして次回をお楽しみに^^。


今日買ってきた「甲飛喇叭隊第11分隊」さま謹製の品々。阿佐ヶ谷「匣の匣(はこのはこ)』様にて購入しました^^。
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ゴシップ 2

内地東京の<帝国新報>本社・政治部ではその写真を前に総員が「まさか…しかし」と半信半疑の顔つきでいるーー

 

そもそもは、トレーラー諸島に帝国海軍の活躍を取材に行った小林・五戸両記者が「帝国海軍軍人の結婚式」の様子だと言って送ってきた数葉の写真が発端であった。

写真とともに同封されてきた小林記者の手紙には<この花嫁は海軍の上等兵曹で相手は海軍御用達の商社の一つ<南洋新興>の社員である。何気なく見た花嫁の顔であったが、与党・推進党の幹部によく似ているとは思わないか、彼には以前から隠し子のうわさがあって何度もあちこち取材したがなかなか確証が得られない。彼の妻は、女学生のうちから彼の思想に同調し、やがて深い仲になり家庭持ちだった彼を奪って駆け落ち、結婚したと聞いている。そしてその駆け落ち前に彼女は一人子供を産んでいるという。その子供の行方は長いこと不明であったが彼の妻になった女性の親族が育てているという話を聞いてはいるがどこで育ったかがわからなかった。が、今回この花嫁を見るにどうも推進党幹部の彼によく似ている。この女性こそ彼の隠し子ではないかと私は確信したので取材を続けたい…>ということが書かれていて、デスクの続木釟郎は写真を目の前に持ってきて食い入るように見つめた後

「似てるな…、だが他人の空似ということもある。相手は与党の大物幹部、将来の総理大臣の話もある人物だ。慎重にしないと危険だ…、小林には決して早まるなと言っておこう。だがこちらもじっとしてはおれん。静かに彼の周辺、特にかつての仲間を訪ねよう。これがしかし、本当だったら大変なことだぞ」

と皆を見回した。そしてもう一度小林の手紙を見ると

<それともう一つ、ちょっと興味のある件がありますのでそちらも取材しておきます>

と結ばれていた。どんなことだか知らないが、記事になるなら追ってこいと返事を書こう、とデスクは言って皆は笑った。

そして皆はそれぞれの場所へと散らばってゆく…

 

最初に「妙な感じ」を覚えたのは上陸桟橋前の衛兵所の衛兵嬢である。見知らぬ男性がうろうろして、上陸の将兵嬢たちにカメラを構えているのをみて、

「あなたなにしています?ここは許可なく撮影はできませんよ?艦隊司令部か衛兵所長の許可証を見せなさい」

と言って近寄ると彼は慌てて

「あ!ごめんなさい、そんなつもりじゃないんです。そんなつもりじゃないんです~」

とあまり意味の分からないことを言うと慌てて走り去ってしまった。衛兵嬢がむっとして「じゃあどんなつもりなんだよ、あの野郎」とつぶやいたとき衛兵所の中から所長が出てきて

「あいつ…こないだ、ニ三日前も来ていたな」

と言い、衛兵嬢の兵曹は「こないだも、ですか?どういう人間なんでしょうね」と首をひねった。衛兵所長は

「なにか探ってるのと違うだろうか、私の勘だからあてにはならないけどもしかしたら、内地の新聞社か雑誌社の記者かもしれないよ。記事にしたいことがあるなら基地司令に言って許可を貰えばいいのだが?」

とこれも首をひねった。

その妙な男性はついに、水島の繁華街を歩く将兵嬢に接触を試みた。そろそろ内地に帰還する機動部隊の将兵嬢たちに、高田兵曹の結婚式の写真を見せて「この女性将兵を知らないか。どこの艦の所属か、知っていたら教えてほしい」と言った。

話しかけられた空母「蒼龍」の兵曹嬢の一人は高田兵曹の同期でむろん、顔を知ってはいたが首をかしげると

「さあ知りませんな。あなたここトレーラだけで何人の海軍将兵がいるとお思いです?トレーラーは小さな島が多いから合わせりゃ数万の将兵がいるんですよ?いちいち知るわけないでしょう。探し出すには大変なご苦労なさいますよ」

とかわした。一緒にいた下士官嬢もうなずいた。

そうですか、失礼しましたと言ってその場を去る男性――五戸記者だったが――を見ていた「蒼龍」の士官嬢が下士官嬢たちに近づくと

「あれは内地の新聞記者だろう。いったい何を聞きに来た?」

と言い下士官嬢がこれこれこうだと教えると士官嬢は

「何かあるな。よくない匂いがする…、その写真とやらの花嫁を知ってるの?」

と高田兵曹の同期の下士官嬢・須田に尋ねると須田は「海兵団同期であります。<大和>の乗艦の野田…言え、結婚後は佐野佳子上等兵曹です」と答え、士官嬢は「<大和>の!そうかわかった、ありがとう」というなり駆けだしていった。

どうしたんだろう、と不安げな下士官嬢たちはしばらくその場に立ち尽くしていた。

 

「蒼龍」の士官嬢、川原中尉は自艦から無電をうつと『大和』の同期を急いで訪ねた。その同期は生方中尉で彼女は舷梯を駆け上がる兵学校のクラスメートを笑顔で迎えた。

「川原中尉、久しぶりだねえ」

とうれしがる生方中尉に川原中尉は急いで挨拶をするとその両肩を掴んで

「貴様、<佐野佳子>という下士官を知っとるか?」

と言い生方中尉はまた嬉しそうに

「知ってるも知っとるも何も、私が介添えしたんだよ。私の部下だからね」

と言った。川原中尉は彼女を砲塔の隅に連れていくと「じつは、」と話し始めた。

「実は、内地の新聞記者らしい男が彼女を嗅ぎまわっているらしい」

えっ、と生方中尉は驚いた。いったい何を嗅ぎまわるんだろう、と言った生方中尉に川原は

「それが皆目わからんが気を付けたほうがいい。佐野兵曹は休暇中か?ならだれかを知らせにやらせろ。絶対かかわるなと言っておくんだ。何か…いやな気がしてならん」

と言って生方中尉は絶句した。

 

生方中尉はその日のうちに緊急に上陸許可をもらうとランチに乗り込み、佐野夫妻を訪ねた。夫妻は佳子の養母・瑞枝と家にいてのんびりしていたが生方中尉の話に

「心当たりがありませんね、私も佐野さんも。もちろんお母さんも」

と首をひねる。佐野も瑞枝も「全く心当たりがありません」という。

生方中尉は「思い過ごしかもしれないが万が一、そのような男に付きまとわれたら巡邏かあるいは憲兵に助けを求めなさい、私からも言っておくから。場合によっては艦隊司令に申しあげトレーラーから退去させることもできるからね」と言い含めて「ではごきげんよう」と三人の家を後にした。

道々生方中尉は(なぜ高田、いや佐野兵曹を追うような真似をするのだろうか?単に結婚式に対する興味だけではなさそうだ)と考え込んだが、ふと顔を上げると

「まさか…彼女の…」

と言ってしばらくその場に立ち尽くしていた。が、やがて我に返ると巡邏の分駐所そして陸軍の憲兵の水島分駐所にそれぞれいって事情を話し「こういうことがあったらすぐに男の身柄を確保しておいてほしい、そのうえでトレーラー艦隊司令部に連絡されたし」と言いおいた。

憲兵隊は普段から<大和>の浜口機関長の怖さを知っているのでかしこまって話を聞き、

「わかりました。ではそうした輩を発見次第確保しその上で中尉にもお知らせいたします」

と言ってくれた。

 

また同じころ。

小林記者は別のターゲットを射程に入れつつあった。そのターゲットとは――。

  (次回に続きます)

 

              ・・・・・・・・・・・・・・

 

「そんなつもりじゃないんです~」ってどこかで聞いたセリフですがならどんなつもりなんだこのオトコ!というわけで生方中尉佐野兵曹に注意喚起に行きました。

そして小林記者のもう一つにターゲットとは?さらに緊迫の次回をお楽しみに! 

ゴシップ 1

それは、高田兵曹の結婚式の時に紛れ込んできたものだった――

 

式が終わって、皆の祝福を受けている佐野夫妻を内地から来た新聞社<帝国新報>の二人の記者が見つけ「おお、日本人がここで結婚式を挙げたようだよ、取材しよう」と言って大勢のほうへと駆けだしていった。そしてその中の一人の記者・五戸は手近の海軍将兵嬢に

「失礼ですが…私はこういうものです」

と名刺を渡したうえで「どういった方の結婚式でしょう?」と尋ねた。尋ねられた海軍嬢は桜本兵曹だったが

「うちらの艦の仲間の式ですわい。え…何という艦かって?そがいなんやたらといえませんけえ。軍機にかかわります。<帝国新報>いうたらここでも読めますよ、上陸時に読むことがよくありますが、内地より二、三週間くらい遅れとってですがね。まあ仕方がありませんがのう」

と言って艦名は伏せた。五戸記者は「ご愛読感謝します」といったが内地から初めて来た記者だからトレーラー泊地にどういった艦艇がいるかそれほど詳しくない。やや困った顔をしたが、(さすがだ。やたらとしゃべらないところは帝国軍人だ)と感心している。そのうちもう一人の記者・小林がそっと寄ってくると祝福を受ける高田兵曹をじっと見つめて

「なあ、あの花嫁。どこかで見たような気がしないか?」

とささやいた。五戸記者は

「あの花嫁さんか?――うーん、そんな気はしないが?内地で似たような人でも見たんだろう?世の中には7人、似た人間がいるっていうだろうが」

というと新夫婦のほうへとカメラを抱えて駆け寄り、名刺を差し出して写真撮影をさせてもらったのだった。

小林記者は、ほほ笑みあいながらカメラに収まる高田兵曹をなおも見つめて

(誰かににている…誰かに)

と記憶を手繰るが、その場では思い出すことはできなかった。

 

写真を撮り終えた小林記者は、フィルムを急ぎ現像した。出来上がった写真を見つめた小林記者は「これは…やはりそうかもしれない」と一人唸るとその写真を内地の<帝国新報>のとある部署の同期の記者宛てに送った。五戸記者はそんな同僚をみて

「いったい何があったんだ?あの花嫁に何か問題でもあるのか?そんなに急いで内地に写真を送るなんて…。あ、そうか。外地で帝国海軍の将兵嬢が珍しい形で結婚式を挙げたからか?」

と言ったが小林記者は激しく首を横に振ると

「違う違う!そんなことでいちいち急ぎで内地に送るもんか。小林、お前知らないかあの噂を」

といい小林記者は「あの噂って…」と今ひとつピンと来ていない様子。しょうがないな、新聞記者のくせにと小林は肩をすくめると「いいか、」と言って話を始めたーー

 

高田改め佐野佳子兵曹は結婚休暇を十日ほど貰ってあの<>で新婚生活を楽しんでいる。

日差しのはじける防空指揮所の右舷三番双眼鏡の手入れをしながら小泉兵曹は

「高田さん、じゃのうて佐野さんじゃな、佐野さんはええねえ。ええ人と結婚して。うちもまだまだじゃ思うとったがやっぱしあの姿を見ると結婚してみたい思うねえ」

と言って左舷二番双眼鏡を覗き込んでいる石川兵曹に声をかけた。石川兵曹は目を双眼鏡から離さずに

「ほうですねえ、あの素敵な姿を見たらだれだって結婚しとうなりますよね」

と同意した。

すると、指揮所内を見回っていた桜本兵曹が苦笑しながら

「そうは言うが、あん姿はほんの数時間じゃわ。結婚は式で終わるもんじゃないで、その先が長いんなけえ、生半可な気持ちじゃ続かんで。ほいでも佐野兵曹、ええ人がおってえかったねえ。あの佐野さん言うお人は誠実そうなお人でえかったわい」

と言ってふっと遠く、水平線を見つめた。その横顔はどことなく寂しげである。吹き付ける風が彼女の事業服の襟を裏返す。

(オトメチャン、やっぱりあん人を忘れとらん)

と小泉兵曹はその姿をみて胸を締め付けられるような気分になった。そして

(ほういやあ、紅林さんと浮気相手のおなごは内地に送り返された言うて聞いとるがどうなったんじゃろう)

と思った。まだこの時点で、彼女たちは紅林と香椎英恵が船の遭難で行方不明になっていることを知らない。紅林は<小泉商店>の社員で、トレーラー支社長は小泉兵曹の弟である。弟の進次郎は紅林たちの乗った船の遭難と彼らの行方不明を事故直後には知らされていたが、それを姉に伝えるのを躊躇していた。姉の純子に伝えれば許婚であった桜本兵曹に確実に伝わる。その桜本兵曹の衝撃を考えたとき、進次郎はあまりに気の毒で伝えることができなかったのだ。

内地の新聞にもまだ詳しく報道されていない事故であった。日本から遠く離れた海域での事故ということでもあり、取材もなかなかできなかったという事情もあった。

「ほういやあ、小泉兵曹。内地の新聞記者が居ったねえ」

と桜本兵曹がいい、小泉兵曹はうなずき「やたら写真撮って居りんさったね。佐野兵曹の美しさにすっかり骨抜きにされとったで」と笑い、石川兵曹も

「ほうほう、ぽかーんとでかい口を開けとってですよ」

と言ってその様子をまねしてみせて、三人は大きな声を立てて笑った。

そこに、麻生分隊士がハッシー・デ・ラ・マツコとトメキチ、そしてニャマトを引き連れてやってきた。にぎやかなねえ、と言いながら指揮所に来た分隊士を三人は敬礼して迎え麻生分隊士も返礼。そしてマツコの肩に掛けてあった袋の中から

「来たばっかしの内地の新聞じゃ。まだだれも、うちも読んどらんのよ。さっき航海長からいただいた…懐かしい内地の新聞をみんなで読まんか?」

<帝国新報>を取り出した。ほう、<帝国新報>ですかと石川兵曹がいい、麻生分隊士は熱い指揮所の床に新聞を広げた。四人はその場にしゃがみ込んで一面から読んでゆく。

「ほう。今内地じゃこげえなことがあるなんじゃね」

と皆は感心しつつ読み進める。いわゆる三面記事を見ていた桜本兵曹が、はっと息をのんだ。麻生分隊士は「どうしたんじゃねオトメチャン」と言うとオトメチャンは、「ここを」と右手の人指す指を伸ばすと、紙面の一部を指し示した。

麻生・小泉・石川がそこを見ると

『大型輸送船、マリアナ沖で沈没。死者・行方不明者多数か』

と見出しがあってその記事中の行方不明者の中に「<小泉商店社員・紅林次郎氏>」「<南洋新興社員>香椎英恵氏」と名前がはっきり書かれていた。

小泉兵曹は真っ青になって「まさか、そんとなこと…うちはなあもきいとらんで」と言って震えた。石川兵曹も「何かの間違いじゃないですか…こげえな事故があったなん、聞いとりません」と言った。麻生分隊士がオトメチャンの肩を抱き寄せると

「しっかりせえ。行方不明言うてどこかで生きとりんさるかも知らんで?どこかの島に流れ着いて生きとりんさるかも知らんけえしっかりせんといけんで!」

と励ました。

が。

桜本兵曹の次の言葉に皆は衝撃を受けた。桜本兵曹は言ったのだ。

「うちはもう、紅林さんとはなあも関係ありませんけえ。生きていようが死んでおろうがうちにはもう関係のないことです」

麻生分隊士たちは言葉を失って、ただ桜本兵曹の感情のない、しかし美しい顔を見つめるだけだった。

 

その晩、巡検後一人で甲板に出たオトメチャンは手にした<帝国新報>の三面記事をもう一度、月明かりのもとで読んだ。何度読んでも「紅林次郎」の名前は変わることがない。そして「香椎英恵」の文字も。

オトメチャンの脳裏に、初めて紅林と会った日のことや、抱きしめられた時の事、やさしい接吻のことや広島駅でオトメチャンの乗った汽車を追ってホームを走る紅林の姿がぼんやり浮かんだ。

(すべて…消えた。終わったんじゃ。ほんまに終わってしもうた)

オトメチャンは口の端をゆがめて無理に笑いを作った。あれほど「あなたが好きだ」『結婚しよう』と言ってうちの生まれさえ愛してくれたはずのあん人は、別の女性にあっさり心変わりしてしもうた。

「じゃけえこれは、天罰じゃわ」

オトメチャンの顔が月明かりの中で壮絶なまでに美しく、皮肉な表情で微笑を浮かべた。確かにうちもあん人を心から愛した。じゃけどもうそれは過ぎ去った話。そしてあん人ももう過ぎ去った人。どれだけ愛していたかとしてもそれはそれ。

ふっ、とため息をついたオトメチャンは次の瞬間新聞を下に落とすと両手で顔を覆いひきつるような声で号泣したーー

 

それから三週間ほどして内地の<帝国新報>東京本社の一室では届いたばかりの郵便物を政治部の三ツ矢記者が仕分けしていた。その中にトレーラー水島に出張している小林記者からの大きな封筒が。

「なんだこれは、ずいぶんでかいな」

と笑いながら開封した三ツ矢記者はその中の写真数葉と小林記者からの手紙を読むと「まさか、あの噂」と言ってそれらをひっつかむとデスクの続木を探しに部屋を走り出ていた。

「スクープだ、きっとこれは大スクープだ」

と叫びながらーー。

  (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・・・・

幸せの余韻が残るトレーラーですがなんだか妙な具合になってきました。新聞記者はいったいどういう噂を聞いたのでしょうか。そしてオトメチャン、かつての許嫁の事故を知ってしまいました。でも彼女はもう割り切っているのか??

緊迫の次回をお楽しみに。

南の島の花嫁さん 3 解決編

教会の扉が大きく開かれ、声にならない声はやがてーー

 

介添えの、二種軍装に身を包んだ生方中尉に片腕を預けた高田兵曹を見た参列者たちからどよめきが起きた。うわあ、きれいなねえ~と女将兵たちは感激してその姿を食い入るように見つめた。<南洋新興>の男性社員たちも目を奪われる。

高田兵曹は純白のウエディングドレスに身を包み、ヴェールでその顔を隠している。ヴェールの向こうに透けて見える彼女の顔は緊張と感激と喜びで紅潮しているのがわかる。

肌の露出のほとんどないドレスはあくまで清純そのもの、袖はフックリ膨らませてひじのあたりまであり、袖口にはフリル。そして後ろには長くトレーンを引いている。花束を持った手には白手袋。そして何より、彼女の頭に輝くティアラは「桜に錨」がモチーフになっている。

高田兵曹と生方中尉は入場曲に合わせて一足づつ、バージンロードを歩む。その行く手には佐野基樹が兵曹の美しい姿にすっかり目を奪われて立っている。

高田兵曹が、かすかな衣擦れの音を立てて桜本兵曹たちの横をゆっくり通ってゆく。感激した長妻兵曹が瞳を潤ませながら

「おめでとう、高田兵曹」

というと高田兵曹はそっと顔をこちらに向けてベールの向こうでほほ笑んでそっと頭を下げた。小泉兵曹、桜本兵曹も小さな声で「おめでとう高田兵曹」と言って高田兵曹は小さく「ありがとう」と言ったようだ。男性士官たちもすっかり感激して毛塚少尉は静々と祭壇に向かう二人の姿を見ながら長妻兵曹の片手をしっかり握った。その手は(次は私たちですよ)と言っているのが、長妻兵曹にはわかり、(はい、続きましょう)と答えるように彼の大きな手を握り返した。

そして祭壇の前で、生方中尉から佐野へと花嫁は託された。オルガンの音がやみ、滝本神父の祝福で式は始まった。

しんと鎮まった会堂内に滝本神父の声が凛と響き、佐野と高田はその前でこうべを垂れている。その様子を一番前の席の瑞枝が感激の涙にくれながら見つめる。

指輪の交換のあと花嫁のヴェールが佐野の手で挙げられ、総員注目の中…<誓いの接吻>が行われ、女将兵だけではなく男性技術士官のあいだからも羨望のため息が漏れた。

益川中佐は(はあ…いいなあ。あんなにきれいな人と結婚できるなんて。私の天女はここに本当にいるんだろうか)と幸せ絶頂の二人から目を離せない。そして(いいなあ、いいなあうらやましい)としきりにため息を吐く。

その隣の桜本兵曹は(なんねこのおっさん。さっきからため息ばっかしついとってじゃ…はは~ん、こん人か、みんなが言うとった『もしかしたら独身のおっさんかも』しれんいうんは。そんとにうらやましいかねえ、ほんならここで嫁さん見つけたらええが)と益川の顔も見ないで思っている。

友人の幸せはうれしいし祝福しているが、紅林との思い出が甘く苦く邪魔しているのも正直なオトメチャンである……

 

式が終わり、参列者は教会の外に立って新夫婦を待つ。

やがて二人が中から出てくると皆は「おめでとう!」「この幸せ者~」「素敵~」などと声をかけ、花やコメを夫婦に投げる。これが皆には珍しく楽しいらしく、勢いつけて投げつける将兵嬢もいて佐野基樹はうれしいながらもコメが当たって痛いとみえ

「ありがとう…痛いっ!やあありがとう、いてっ!」

と忙しい。その佐野を見上げてほほ笑む高田兵曹は美しい。その皆のあいだを、カメラを持った<大和>飛行科の林屋へゑ兵曹が次々撮影して回る。

「ええねえ、高田兵曹綺麗なねえ」

増添兵曹が言って、そのそばの下士官嬢が同意してうなずく。新夫婦は入り口前の階段を下り切ると、その下にいた瑞枝のもとによると、

「おかあさん」

と言って瑞枝を見つめ、瑞枝も嬉しそうに笑みながら「おめでとう、佐野さん、よっちゃん」と祝福した。兵曹はティアラをトレーラーの日差しに光らせて

「ありがとうございますおかあさん。これからもよろしくお願いします」

と頭を下げ、佐野基樹も

「おかあさん、佳子さんもお母さんも私が幸せにしますからね!よろしくお願いいたします」

と頭を下げた。瑞枝は感激のあまり「佐野さん…よっちゃん」と言って泣き出す。滝本神父がその姿を微笑みながら見つめ「…神のご加護を」と言って十字を切った。

 

そのあと、高田兵曹が懇意にしている現地の人のレストランで祝宴が開かれ、無礼講で大いに盛り上がった。男性技術士官たちも出席し、酒を注がれたり話しかけられたりして大喜び。益川中佐も何人もの将兵嬢たちに話しかけられ、ほほを紅潮させて対応している。

(彼女だろうかそれともあの人だろうか、私の天女)

そう思いながら一所懸命将兵嬢たちの気を引く益川中佐はけなげですらある。しかし肝心の将兵嬢たちは彼よりももっと若い技術士官に夢中である。

そしてその中の一人がすでに相手がいると知ると

「あん人は長妻兵曹の許嫁なんじゃと…、ああ、狭き門じゃわ」

と嘆息をつく。益川中佐は(私、私は相手がいないからどうか!)と思うがやはり「あのおじさん士官はもう結婚しとりんさるんじゃろ?」と言われてがっくり来る彼である。

そんな彼を一顧だにしないで、桜本兵曹や小泉兵曹たちは新夫婦や長妻兵曹とその許婚の毛塚少尉たちと楽しく歓談している…

 

宴が終わり、皆はそれぞれ艦に戻ったり水島の見世にしけこんだりと思い思いの方向へ歩いて行った。

佐野夫婦は、瑞枝を宿に送ったあと「ではおかあさん、あしたここで」と約束し、兵曹の<>へと行った。家に着くと誰かが家の中のそこここに花などを飾ってくれていた。

「綺麗ですね」

と二人は微笑みあいながら兵曹の部屋に。部屋の真ん中のテーブルにはきれいな花束が置かれ<ご結婚おめでとうございます、末永いお幸せをお祝いします。軍艦大和乗組員一同>とカードが置かれていた。

佳子は、その花束を胸に抱えて「…皆さんありがとう」とつぶやき、佐野は「幸せになりましょうね」というと彼女を後ろから抱きしめた。佳子は花束をテーブルに置くと

「基樹さん、幸せになりましょう!」

と言って、二人は固く抱き合ったのだった――

 

その同じころ<大和>では。

防空指揮所に桜本兵曹・小泉兵曹を囲んで今日の高田兵曹の式の話を皆して聴き入っている。

「なんと言うても教会の荘厳なこと!日本の神様の前での式や仏様の前での式もええが、あれもええなあとうちは思うたわい」

小泉兵曹が言うと桜本兵曹もうなずいて「ほうじゃねえ、ハイカラでモダンな結婚式じゃわ。あれもええかも」とほほ笑み、亀井上水は

「ええですねえ…早う写真ができるとええですねえ。うちらも高田兵曹の晴れ姿を見たいです」

と言って石川兵曹が「写真は飛行科の林屋へゑ兵曹が撮ったいうて聞いてますけえ、明日明後日にも見られるでしょうね」とこれも楽しみにしている。

 

そして男性士官用にあてがわれた部屋の中では益川中佐が一人、(ああ、うらやましい。私の天女、いったいどこにいるんだろう)と舷窓をそっと開けてトレーラー水島の夜景に見入っているのだった――

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

素晴らしい結婚式だったようで何よりです。高田兵曹、いやこの日から佐野兵曹になりますが、幸せになってほしいものです。

 

高田兵曹のドレスは、故・ダイアナ元妃の結婚の時のドレスを思い浮かべながら書きました。きれいでしたねダイアナさん。憧れでした。あんな亡くなり方をして本当に残念ですし、夫であったチャールズさん…あんな若くてきれいな人を娶ってきながら不倫を続けてたなんて!本当にがっかりですね。

 

綺麗なダイアナさんの写真を張っておきます(画像お借りしました)。

ダイアナさん結婚式写真
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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