2017-10

「女だらけの戦艦大和」・アタシの××法2<解決編> - 2013.03.10 Sun

松岡中尉とトメキチ・マツコの迷走ならぬ瞑想と座禅が終わり、すっかり熱くなった尻をあげたトメキチはあるものを見て叫び声をあげた――

 

「おばさん、だめじゃないそんなところでおしっこしたら!」

トメキチの叫びに松岡中尉がマツコを見ると、マツコはその場におしっこをたれていた。――いや、その場にたれたのではない。彼女たちの仲間は、足におしっこをかけてその気化熱で涼を取るのだ。しかしそんなことを知らないトメキチは大声で叫ぶ。

「おばさんだめよ!ここはおしっこするところじゃないでしょう?あっちに行ってしてよ!」

するとマツコは羽をバサバサと羽ばたいて怒りをあらわにして、

「何いってんのよう、あたしはおばさんじゃないって何度言ったらわかるのようあんた!あたしはマ・ツ・コ!それからこれはただのおしっこじゃないのよ!あたしたちハシビロコウはね、こうやって足におしっこかけて暑さをしのぐのよッ!気化熱ッて聞いたことない?あるでしょ、それよッ、少しはあんたも利口になってよね!」

とまくし立てた。若干羞恥心があるらしくそれを気取られまいと必死のようだ。トメキチは「ウウウ・・・」と言葉に詰まってしまった。そんなトメキチを見てマツコは勝ち誇ったようにホホホ、と笑う。

と、その様子を松岡分隊長がしげしげと見つめているのに気がついたマツコは少し焦った。「マツオカ、これはただ漏らしたんじゃないわよ」と弁解した。マツオカに嫌われたくないと必死なマツコ。

トメキチが松岡分隊長に飛びついて、

「松岡さんこれどうにかしないとダメでしょう?何か拭くもの持ってこないと・・・」

と言った。そのトメキチを抱き上げると松岡分隊長はうんうんとうなずいて

「そうだよ犬くん。どうにかしないといけないねえ。でもねえ犬くん、こういう事態をうまーく収めるのは誰あろう甲板士官の役目なんだよ。彼女の仕事を取っちゃいけないよねえ。というわけでここはこのままで、さあ犬くんも鳥くんも行くよ!――今日から君たちも富士山だ」

というなりトメキチを小脇に抱えて走り出す。そのあとを「待ってよう~、マツオカ」と、マツコが走って追う。

その少し後にその場に来たのが藤村甲板士官だった、というわけである。

 

この日は大変暑かった。トレーラーの暑さに慣れている帝国海軍将兵嬢たちも「今日はえらく暑いねえ。しかもあまり風がないと来てる。こういう日もあるんだなあ」と感心するほどの暑さである。

松岡分隊長は所用で艦橋に行ったがトメキチとマツコは暇である。二人は暑さもなんのその、甲板上を歩いたり機銃座に入りこんだりして遊んでいる。

と、またもマツコがおしっこをたれる。トメキチが「まただ、マツコサンたら」と言ったがマツコはしれっとして

「しかたがないじゃない?だって今日はずいぶん暑いわよ?こういう時はこうしないといくらあたしだって参っちゃうわよ。・・・そういうあんたはよく平気でいられるわねえ」

と言った。トメキチは

「僕は平気よ?でもマツコサン、あちこちにおしっこするのはあんまりよくないかもしれないでしょう?ちょっと場所を考えてした方がいいんじゃない?」

とマツコに意見した。しかしマツコは「あんたもバカねえ、言うでしょう?<出物腫れ物ところ嫌わず>ってさあ?おしっことかおならの類はどこでも出ちゃうのが人の常ってことよ。よく覚えときなさい」と言ってホホホと笑って歩きだす。

トメキチは「待っておばさん」と後を追う。すぐさまマツコの「おばさんじゃないでしょ!あたしは、マ・ツ・コ!」という叱責が飛ぶ。トメキチがマツコにまとわって歩き、マツコのホホホ・・という高笑いが流れてゆく。

 

藤村少尉は甲板上を歩きまわっている。何処も一部の隙なく綺麗にし、また兵たちの風紀が乱れないよう監督するのが彼女に課せられた仕事である。熱い甲板ではあるが彼女の足の裏はもうすっかり厚くなっていてそんな熱さなど感じない。

露天機銃座の前に来た時、少尉の足は何かを踏んだ。生ぬるいなにか。(ん?なんだろう)と足元を見た少尉は「ゲッ!」と思わず声をあげてしまっていた。

「また水をこぼして・・・誰がいったい!?

ぶつぶつ言いながら甲板士官の藤村少尉は腰に下げた手拭いをまたもや取ってそれで水を拭いた。先ほども拭いたがこの暑さで手拭いはすっかり乾いている。

濡れてしまった足の裏もふきとった。そうしながら思う。今日はなんでこうも水が落ちてるんだ?そうか今日は暑いから誰か水筒かなんかに入れた水を飲もうとしてこぼしたのか?いや待てよ、普段水筒なんか持ってないはずだ。こんなところで水を飲む兵や下士官も戦闘時ならともかく平時にはいないはずだ。・・・なんだろうなあ?これ。

とそのうちに<水>を踏んだ足の裏がかゆくなってきたのを感じた。妙にむずがゆく、甲板士官は(もしかして水虫にかかったか!?いやだなあ、梨賀艦長とおそろいじゃ困ったもんだ。そうだ、主砲塔の上で足裏を殺菌してこようか)と思って足早に主砲塔へ向かった。

行く手の甲板に何か光る物を見つけたのはそれからすぐのこと。

「なんだ、あれは?」

とそれに走り寄っていった藤村少尉は「んん!?また水か、一体何なんだこれって」とさすがに首をかしげた。周辺に誰かいたら聞こうと思うのだがそういう時に限って誰もいない。

(忌々しい)と少尉は思い、三度(みたび)手拭いを取ってそれを拭いた。今度の水は先ほどまでのより量が多かった。それを丁寧に拭きとり藤村少尉はほっと息をつき、防暑服から出た腕で額の汗をグイッとぬぐった。でも汗が次々流れ、少尉はさっき床を拭いたばかりの手拭いの乾いた部分で顔を拭くと主砲塔に走っていった。

主砲塔の前に来た時、それは起こった。

藤村少尉の顔が激烈なかゆみに襲われ始めたのだった。ウウウ!と唸った藤村甲板士官はあわてて(いかん、顔を洗わんと・・・それとも医務室か!)と下甲板へと走り出していったのだった。その頃には足の裏のかゆみも相当な痒さになってきている・・・。

 

松岡分隊長は用事が済んだので艦橋から下に降りて来たところだった。ちょうどそこにトメキチとマツコが立って松岡を待っているようだ、数名の運用科の兵隊たちが二匹を囲んでいる。そこで、

「おお、鳥くんに犬くん。さすがに暑くなってここに来たのかな?」

と声をかけた。兵たちが松岡分隊長に敬礼した。分隊長は例によって「熱くなれよー。尻の穴を締めろ」と言って返礼。

ふと分隊長がマツコを見るとその足が白っぽくなっている。松岡分隊長は「ははあ。これはさっきの君のおしっこだね。すっかり白くなってしまってるね。・・・もしかして君はおしっこを足にひっかけて涼しくなるようにしてるのかな?だとしたら素晴らしいぞ君は。君こそ鳥業界の帝王だ!」と言ってマツコの肩をガシッと掴んだ。

そのとたん、またマツコはおしっこをたれ始める。おしっこはその場に大きな水たまりを作る。運用科の兵たちが「わああ。ハシビロがションベンしよるで」と大笑いした。

そこに、「かゆい痒い。もうたまらん~~」と走り込んできた藤村甲板士官が不意に立ち止まった。マツコを凝視している。そしてその視線が下に降りて、マツコの足を濡らし床に水たまりを作っている「ションベン」を見つめた。

松岡分隊長、そして運用科の兵たちがそれを見守っているーーと。

「ギャアアアアアア!」

藤村甲板士官のすさまじい叫びがあたりを席巻した。思わず、松岡分隊長さえ耳を押さえてしまったくらいのものすごい叫び声。

藤村少尉はマツコを指差すと、「こ、こ、・・・この鳥野郎が、お前かあっちこっちで小便しやがったのは!」と怒鳴った。マツコは知らん顔でホホホ、と笑うだけ。そして藤村少尉の視線はマツコの隣に立つ松岡分隊長に移った。藤村少尉は裸足の足をふみならして、

「松岡中尉、失礼とは思いますが言わせてください!この鳥は中尉が飼われていると伺いました、ならこの鳥にしでかすことに中尉が責任を持っていただかないと!あちこちにションベンなんかして、しかもそれをそのまんまなんてあんまりです。いつも朝、兵たちが甲板掃除をしているのに台無しじゃあないですか!」

と怒鳴った。その顔が怒りとかゆみで真っ赤になっている。

「しかも私はそのションベン溜まりを自分の手拭いで拭いて・・・さらにそれで自分の顔を拭いてしまったんですよ?ションベン溜まりに足を突っ込むはかゆくなるは・・・どうしてくれるんですかあ」

最後は泣きそうになっている。運用科の兵隊嬢はなんだか気の毒そうな顔で藤村少尉と松岡中尉それに、マツコを等分に見比べている。藤村少尉の目が怒りに燃えている。すると松岡中尉がラケットを担ぎなおした。藤村少尉に正面から向き直ると、

「甲板士官くん、あなたの言い分ももっともですがそこがあなたの仕事でしょう?不都合を見つけたらあなたが始末。あなたの役目でしょう。私もソーフでも持ってれば拭いたでしょうがあいにく持ってませんでしたし、第一あなたの仕事を取っちゃあいけないでしょう。というわけです」

といいはなった。藤村甲板士官の顔が悲痛に歪み、

「じゃあなんですか、私は・・・召使と同じじゃないですか。鳥のおしっこを拭かされそのおしっこで痒くなって・・・そんな思いをさせられてそれでなお召使ですかあ!?ひどい、ひどいーー!」

と叫ぶとその場にうち伏して大泣きを始めた。運用科の兵隊嬢もトメキチもマツコも、これには泡を食ってしまった。松岡中尉だけがラケットを担いでかわいそうな藤村少尉を見下ろしている。

騒ぎを聞きつけて、野村副長と森上参謀長が下甲板から上がってきた。副長は「いったいどうした」と言ってその場に来たがおかしな雰囲気の現場に参謀長とともに顔を見合わせて困惑の表情。

そこで松岡中尉が説明し始めたが、森上参謀長が「貴様の言うことだけではわからん、一方的になっていけないなあ」と泣いている藤村少尉を引き起こして話を聞いた。少尉は怒りと絶望とかゆみで真っ赤になった顔でこれこれこうだ、と今までの話を副長と参謀長にした。

話を聞き終えた副長の眼が、松岡中尉を射すくめた。副長は怖い声で「松岡中尉」といい、ほかの兵やトメキチ・マツコはぞっとして身をすくめた。副長は、

「松岡中尉、貴様は甲板士官を何と思ってる。藤村少尉の言うように貴様の言い方では召使もいいところではないのか?甲板士官は召使でもなければ貴様の使用人でもない!そういうことを目の前で見たら貴様自身が綺麗にするのが本当だろう?ソーフがなければ自分の服で拭きとる、そのくらいの気概を見せろ分隊長なら!!わかったか、わかったら藤村少尉に謝れ!」

と怒鳴った。副長の剣幕に松岡中尉はさすがに驚き、ラケットをその場の床に置くと腕を組んでしばらく考え込んだ。うつ向いていた中尉が次の瞬間顔をあげるとこれも大音声を発し、

「すみませんでしたあ!わたくし松岡修子中尉は考え違いをしておりましたッ、そしていい気になっておりましたっ。藤村君、申し訳ない。これは私が悪かった、どうか許してほしい!許しがたいというならどうかこのラケットで私を思いっきり殴ってもいい、さあ藤村君、このラケットで私を殴ってくれ!」

と土下座をして謝った。これには藤村少尉が驚いて、「そ、そんなこと私は出来ません・・・」と言って、自分も床に膝をついて松岡中尉の肩に手を置くと、

「もういいんです、私も少し熱くなりすぎました・・・」

と言って行きすぎた言葉を謝った。副長がこれも膝を床について二人の肩に手を置くと

「ではこれでいいんだね?水にしてもいいのかね。お互い遺恨が残らないようにしなければならんよ」

といい、二人の士官は笑顔になって握手をした。参謀長が満足げにうなずきトメキチも運用科の兵隊嬢たちもほっとした表情になった。

「さて、」と副長が今度はマツコを見返って「ハッシ―、君のこの行為の根拠は良くわかった。が、やたらあちこちションベンを垂れられては正直困る。艦内の衛生にも良くないので要所要所にソーフを置くことにしよう、だからハッシ―は小便をしたらソーフを持ってきてそこを拭くこと!自分のことは自分で、が基本だ。いいね」と言い含める。

マツコがそっと参謀長を見ると参謀長も「出来るな?ハッシ―」と言っている。トメキチが、「マツコサンその時は僕も手伝うから平気よ」という。

参謀長が大好きなマツコはわかりました、と言って羽をやや下に下げて広げる。これはマツコの服従とか、了解の意味である。

これでマツコのおしっこ事件は何とか収束した。それを伝え聞いた麻生分隊士と見張兵曹は

「ほう!えらい冷却法があればあったもんじゃねえ。しかしいくら自分のいうても・・・ションベンで冷やすんはちいといやじゃねえ」

と言って笑いあった。

そして今回一番の被害者・甲板士官の藤村少尉は医務科の日野原軍医長の診察を受けた。顔と足裏はかぶれたようになってかゆみがひどい、それを見た日野原軍医長は「これはションベンかぶれだね。ひどい目にあったもんだねえ、甲板士官はこんな目にも遭うのか、気の毒に。でもこれがいい経験になって君、将来良い提督になれるかもしれない。頑張れよ!」と激励してやった。藤村少尉の顔に、やっと笑みが浮かんだのだった。

 

マツコはトメキチとガンルームの中で士官たちにお菓子をもらいながら、

「あたしの冷却法、間違っていたのかしら??」

といささか悩んでいる――

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

生き物の種類によってさまざまな生態がありますね。マツコの場合、ほてった体を冷却するのがこの方法なのです(これは本当です!)。でもあちこちに垂れ流しではいけませんね。後始末だけはきちんとね。

 

ハシビロコウがおしっこをする映像を見つけました!上野動物園での撮影のようです。もっとあったかくなったら私も上野に行ってハッシ―に会ってこようと思います。



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「女だらけの戦艦大和」・アタシの××法1 - 2013.03.07 Thu

「女だらけの戦艦大和」は常夏のトレーラーにその身を置いている――

 

ここトレーラーは、熱い・暑い。南方であるしもう少し南に行けばそこは赤道であるから半端ない暑さである。

「女だらけの大和」はもちろん、ほかの帝国海軍艦艇の乗組員たちはこのすさまじい暑さの中で生活しそして戦闘に備えて訓練を怠らない毎日である。鉄の塊の艦の上は炒られるような暑さであるが、皆汗を拭きふき任務をこなしているのだ。さすが帝国海軍軍人である。

甲板上の三連装機銃の長妻兵曹は、日差しに艦内帽の下の眼を細めつつ「暑いのう。今頃内地はどがいな気温だったかのう・・・もう思い出せんな」と言って笑った。辻本一水が砲身内をこするブラシを持って、

「ほうですねえ。今は三月じゃけえまだそんなにあったかいこともない思いますがのう」

という。増添兵曹が部分かつらのあたりがかゆいのか、ごしごしと掻きながら

「ほうよ、三月いうても雪が降ったことがあったけんね。うちが子供のころよ、もう来週は四月じゃ言うんにえらい雪降ってのう。うちは滑って転んでここを思いっきりぶつけてのう。ありゃあ痛かったで」

と思い出話。長妻兵曹がえっ、と増添兵曹を見て「ほいで増添さんはそこが薄いんか?」と思わず言ってしまった。一瞬愕然とした表情の増添兵曹であったが最近<激萌弾>のおかげか前髪に春の兆しが見え始めた彼女はすぐさま気を取り直し、

「関係なかろうが、そがいなん。ここが薄くなったんはつい二三年前のことじゃけえね」

と言ってやった。辻本一水が明るい笑い声をあげ、増添兵曹も長妻兵曹も笑い声をあげた。皆の防暑服の背中に汗のシミが広がった。

 

艦の下の方では機関科が汗みずくになって働いている。松本兵曹長は、働く兵たちを見ながら「気分が悪うなったら言えよ?倒れたらどうにもならんけえな」と注意をして回る。熱い機関の配置では時折熱中症を発症する兵がいる。発見が遅れると命取りにもなる危険な症状であるから、松本兵曹長や浜口大尉、機関科分隊士・班長は兵の様子に気をつけるのも仕事のうち。

松本兵曹長は『大和』に来てまだ日の浅い椿於二矢子兵曹の姿を見ると、「椿兵曹、体どうもないか?」と聞いてみた。椿兵曹は笑って「はい、平気であります。ありがとうございます!」と元気よく言い仕事に戻る。

 

航海科の松岡分隊長は今日も暑さもなんのその、元気いっぱいで防空指揮所から昼戦艦橋、そして露天甲板を走り回る。お伴にマツコとトメキチを従えて。マツコは暑さの中でも平気の平左で「マツオカ~!」と叫んで走り回る。トメキチもトレーラー生まれなので暑さにはめっぽう強い、「マツコサンこっちこっち!」と言いながらマツコの前を走ってゆく。マツコは「あんたちょっとあたしの前を走るんじゃないわよう!」と笑いながら松岡分隊長を見返る。

松岡分隊長は大汗をかきながらもラケットを振り振り走りながら行きあう兵や士官に

「熱くなれよ!!今日から君も富士山だ。尻の穴を締めろよ!」

と怒鳴りながら行く。甲板士官の一人藤村少尉はそれを見送りながら「はあ~。まあ元気なお人だこと。あの人こそこの仕事があってるんじゃないかしらねえ?ちょっとやってみたらいいのに」とぼやいて裸足の足の裏にくっついたソーフのくずを取って忌々しげにそばに置いてあるチンケースに放りこんだ。

甲板士官は艦内の風紀などを監督したり甲板掃除の際率先して指導に当たる士官の役職である。軍袴の裾をまくりあげ、裸足で甲板を歩きまわることから「にわとり」というあだ名を奉られている。特に下士官連中からは煙たがられる存在で「あの糞パッキン野郎!」と陰口をたたかれることもしばしば。それでも職務に忠実に、今日も甲板士官は艦の内そとを走る・・・。

 

と!

藤村甲板士官は少し前に綺麗にしたばかりの副砲横の床が濡れているのに気がついた。(なんだ、さっききれいにしたばかりではないか・・・誰だ一体こんなところに水こぼした奴は!)と少しばかり腹を立てながら腰に下げた手拭いでその小さな水たまりを拭いとった。その時少し、藤村甲板士官の鼻腔に変なにおいがした気がしたのだが・・・(ちっと風邪引いたかな?)くらいにしか思わない藤村少尉であった。

 

その少し前、同じ場所。

マツコとトメキチ、そして松岡分隊長は大騒ぎしながらここに来た。松岡分隊長はトメキチとマツコを並ばせると、

「いいかい、犬くんと鳥くん。今日は私がここで座禅と瞑想することを教えてあげよう」

とまるで『武蔵』の猪田艦長の様なことを言いだし、二匹は松岡中尉に従ってその場にしゃがんだ。トメキチは「ねえマツコサン。お尻が熱いねえ」と言ったがマツコはホホホ、と笑うと

「アタシは平気よ。あんたもっと精神修養しなさいよ。言うでしょう昔から、『心頭滅却すれば火もまた涼し』って。知らなかったら今日から覚えてちょうだいよ」

と言って眼を閉じた。トメキチは「シントウメッキャクスレバ・・・火もまた涼し??どういうこと、ねえおばさん」と尋ねた。とたんにマツコはかっと金色の目を見開いて、

「オバサンじゃないわよ!あたしはマ・ツ・コ!・・・あのねえ、この言葉はねむかーし日本のえらいお坊さんが自分のお寺を非道な武将に攻められたとき言った言葉よ。放火されてもそのお坊さんはそう言って耐えたのよ!すごいでしょう?」

と教えてやった。だがトメキチは「ええ!?火をつけられても耐えたの?そんなの化け物だよ」と震え、マツコは「この罰あたりの犬っころ!あんたにこの話をするの、百年早かったわね!」と舌打ちした。

松岡分隊長はその二人に

「シッ!静かにして。いいですか瞑想とか座禅って言うものはだね、静かにするものなんだよ?君たちみたいに大騒ぎしてたら瞑想なんか出来っこないだろう?いいかね、静かに熱くなるっていうことも大事なんだよ?さあ、わかったら静かにして、さあ瞑想瞑想!」

と言い、マツコは

「ああもう、マツオカってうるさいわねえ。さっきから迷走迷走って何迷ってんのかしら??」

と言ってもう一度目を閉じようとした。トメキチが「迷ってるんじゃないわよマツコサン。瞑想って言って静かに心を落ち着けることよ?」といい、マツコは金色の目を狼狽したかのように泳がせると、

「この犬っころ・・・変なところでもの知りなんだから!」

と唸った。そして二匹とひとりは、副砲横という大変微妙な場所で座禅を組み始めたのだった。

 

「ありゃ、松岡分隊長。あげえなところで何をしよるんじゃろ?」

と防空指揮所で声をあげたのは麻生分隊士。彼女は副砲の横で何やらしている妙な人影を肉眼で見て、胸に下げた双眼鏡で検分したのだった。

「分隊長がですか?どこです?」

と見張兵曹が麻生分隊士の横に来て分隊士の双眼鏡の視線を追った。その視線の先には松岡分隊長とトメキチそしてマツコが座り込んでいるのが見える。見張兵曹は艦内帽の廂を引っ張って、日差しを遮りながらそれを見て、

「分隊士、松岡分隊長はトメキチ達と座禅をくんどります」

と言った。「座禅を?」と、分隊士は双眼鏡から目を離し見張兵曹を見て素っ頓狂な声をあげた。その声音が何か可笑しくて見張兵曹は笑った。すると麻生分隊士はいきなり見張兵曹を抱きしめてから「何が可笑しいんじゃね?オトメチャン」というとその唇を奪った。

その二人に、熱い風が吹き抜けた。

 

それからしばらく経って、松岡分隊長は「瞑想終わり!さあ犬くん鳥くん、行こうじゃないか!」というと立ち上がった。

トメキチが「ああ、お尻が熱かった~」と立ち上がり、マツコもホホホ、と笑って立ち上がった。その次の瞬間、トメキチは叫び声をあげていた――

  (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

熱い暑いトレーラー環礁です。

ようやっと日本も春の兆しが出てきましたが、花粉に黄砂、そのうえPM2・5とやらで落ち着かない春になりそうですね。

さて『大和』艦上。トメキチいったいどうしたというのでしょう?次回をお楽しみに^^。

にわとり。甲板士官の<別名>・・・「悪かったねにわとりで。貴様らつつきまわすぞオラオラー!!」(藤村少尉・談)。
にわとり

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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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