2017-10

いとしごよ 呉編 3 解決編 - 2017.07.22 Sat

「はいもういきまないで…」という仁谷産科軍医長の声がした次の瞬間――

 

何かが、次子の足のあいだからぬるり、つるんと出てきたような感じがした。すると次子のそばで手をずっと握ってくれていた看護兵曹嬢が

「生まれました、生まれましたよお一人目が!」

と嬉しそうに次子にささやいた。と、部屋中に響き渡る産声。浜名江産科軍医大尉が紅潮した顔を次子に向けて

「女の子ですよ、お一人目!」

と言い次子は「…女の子!」と嬉しそうに言った。それから十分ほどで再び陣痛が来て二人目が産声を上げた。

仁谷軍医長が

「おお、女の子ですよ!そっくりですね、これは一卵性のお子さんですね、山中中佐おめでとうございます。お母さんになられましたよ!」

と言って、次子はその場の皆に「ありがとうございます、無事に生ませてくださって本当にありがとございます」と礼を言った。その場の皆は、山中中佐に敬礼した。

 

それぞれの産声を、分娩室の外で待機していた山中大佐、そして一矢夫婦が聞いていた。三人は顔を見合わせると

「…生まれた…?」

言い、分娩室の扉をじっと見つめた。扉の向こうで人々が忙しく立ち歩く気配がし、かすかに笑い声が聞こえてきたような気がして新矢は、

「次ちゃん…」

と小さくつぶやいた。兄夫婦が、心なしかほほを紅潮させて扉を見つめているのがわかる。

 

それから十分ほどして仁谷産科軍医長が扉をあけて出てきた。三人は椅子から立ち上がって軍医長を迎え、軍医長はにこやかな笑みで三人を等分に見つめると

「おめでとうございます。元気な双子のお嬢様です。山中中佐もお元気ですのでどうぞご安心を。まもなく処置が終わりますので中佐は病室にお戻りになります。赤ちゃんたちはもう間もなく新生児室に入りますので、入られましたらご案内いたします」

と言って、山中大佐に

「おめでとうございます」

と改めて祝意を示し、新矢大佐は「本当にありがとうございます。お世話になりました…そして退院までどうかよろしく願います」と言って軍医長に敬礼した。

仁谷産科軍医長も新矢大佐に敬礼し、その場の皆は幸せな気分に支配され微笑みあうのであった。

 

それから十分ほどが過ぎ、三人は看護兵曹嬢に

「新生児室へどうぞ」

と案内され、双子の赤ん坊の部屋へ。ガラス張りの向こうには小さなベッドがいくつも並んでいる。その三分の一ほどに新生児たちが無心に眠っている。そこに先ほどの看護兵曹嬢ともう一人の水兵長嬢が小さいベッドを押しながらやってくると、三人が居並ぶ前あたりにそのベッドを並べて置いた。

「まあ!!なんてかわいい、なんて小さいの!」

シズが感激の声を上げ、ガラスにしがみつくようにして中を見入る。その瞳が潤んでいるのがわかる。一矢が

「次ちゃんによく似ているね…、新矢にも似ているかなあ」

と言って新矢は兄を見ると「私の子供なんだから当たり前です」と言ってシズは笑った。シズは

「女の子は小さいうちお父さんによく似るようですよ、いまにだんだん新矢さんに似てきますよ」

と言い、しかし新矢はしばし考え込んだ後

「いや。嫂さん、私に似たらまずいでしょう、やはり女の子は母親に似たほうが幸せですよ。それに母親はだれあろう次ちゃんですからね、あんなにきれいな人に似なきゃ可哀想ってもんでしょう?」

と至極真面目に言って一矢は声を立てて笑った。

シズは

「はいはい、ごちそうさまです。…ねえ見て、本当に二人ともそっくりよねえ。どんな女の子になるのか、今から楽しみね」

と言って双子たちを優しいまなざしで見つめる。

赤ん坊たちを見つめる三人のもとに浜名江軍医大尉がそっとやってくると

「山中中佐、ただいま病室に戻られました。が…」

と言っていったん言葉を切った。新矢がにわかに緊張感を帯びた表情になり軍医大尉嬢を見つめると

「どうしたんですか、妻に何か起きたのですか?」

と言った。一矢とシズも不安げに浜名江を見る。浜名江軍医大尉は落ち着いてください、と前置いてから

「双子さんのお産にしては中佐は御安産でしたがいささか出血が多くありましてお疲れもあります、しばらく御面会はできませんのでご了承ください。落ち着かれましたらまたご案内します」

と言って敬礼して歩き去った。

新矢はしばし呆然とその場に立ち尽くしていたがシズに

「大丈夫よ新矢さん。軍医長たちが良いようにしてくださいますから。お産は女の戦場ですから、いろんなことが起きるんですよ。心落ち着けて待っていましょう」

と諭され、「そうですね…そうですよね。私が落ち着かないでどうする、てやつですよね。…兄さん嫂さん、もう少し一緒にいてくれますか?」と頼み込み、兄夫婦は

「もちろん、次ちゃんが部屋に戻るまでいるから」

と言って新矢を安心させた。

 

浜名江軍医大尉が再び三人の前に姿を現したのはそれから約一時間半後だった。

三人は軍医大尉の後をついて次子の病室へ向かう。

「どうぞ。しかしあまり長い時間は困ります」

浜名江軍医大尉はそういうと部屋のドアをそっと閉めていった。ベッドの中には次子がやや青ざめた顔色で横たわり、新矢は

「次ちゃん…」

と小さくささやくとベッドに寄って行った。その後ろを兄夫婦が従う。新矢はもう一度「次ちゃん、」と声をかけた。

ベッドの上の次子はその声にそっと目を開け、新矢と兄夫婦を見るとほほ笑んだ。

「ありがとう、お疲れさまでした次ちゃん」

新矢は感動と感激と少しの心配に支配された気持ちでやっとそう話しかけた。一矢もシズも「お疲れさまでした、可愛い双子の女の子だよ」と言ってほほ笑んだ。

次子は

「もう見てくださったんですね。私と新矢さん、今日から親になりました」

というと嬉しそうにほほ笑んで無理に体を起こそうとしたが新矢がその両肩をそっと押さえて

「起きちゃだめだよ。ずいぶん出血が多かったらしいからね。浜名江軍医大尉が、あまり面会も長くしてはいけないとおっしゃっていたから。もう少ししたら今日は帰るけど、また明日来るから今日はよく眠りなさい?」

と言い聞かせた。普段は無理を押し通す次子も今日はさすがに

「はい…わかりました」

とおとなしく答えた。

そして三人は名残惜し気に振り返りながら病室を後にした。新矢は

「もう一度、赤ちゃんたちを見ていきます」

と言って三人新生児室に取って返し、もう一度赤ん坊たちの顔を目に焼き付けるようにして見いった。

「明日、また来るからね」

新矢はそういってガラスの向こうのわが子たちに小さく手を振った。

その顔はもう、立派な父親の顔であった。

 

その晩になって仁谷産科軍医長が、次子の部屋に赤ん坊たちを連れてきてくれた。

小さなベッドの中にそれぞれ無心に眠るわが子たちを見て次子の瞳からは感激の涙が次々流れ落ちた。思い出すのは新矢と結婚してからこちら、妊娠が分かったときの嬉しさや悪阻の苦しさ。内地に帰って夫と落ち着いて家庭生活を送れた喜び…、

「今日からあなたたちは私と新矢さんの子供ですよ。新米の親だけど頑張りますからね、一緒に大きくなりましょう」

次子は小さな娘たちにそう、小さく呼びかけた。心なしか赤ん坊たちが微笑みを浮かべたような気がして次子も微笑みかけた。

 

その顔はもう、立派な母親のそれであったーー

 

           ・・・・・・・・・・・・・・

やっと!生まれました。ちょっと後が大変だったようですがでももう大丈夫。新矢さんも新矢さんの兄夫婦もほっとしたところです。

さあ。これから「四人」での生活が始まります。おっとその前に在トレーラーの<大和>に報告しなくちゃね!

いとしごよ 呉編 2 - 2017.06.27 Tue

山中次子中佐は、初産をいよいよ迎えていた――

 

だんだんと時間を詰めるようにして押し寄せる陣痛に彼女は必死で耐える。新矢がそばについて背中をさすったり手を握って励ます。

「新矢さん、お仕事が忙しいのにごめんなさい」

と言って暗に仕事に行くように勧めたが新矢は「大丈夫だよ、江崎少将に連絡をしておいたから。生まれるその時にいてあげなさいと言ってくださったよ」と言ってほほ笑む。

「うれしい…、江崎少将にはお礼申しあげないといけませんね」

次子はそういったあと「ああ…来た」というとふーっと大きく息をついてお腹を撫でる。新矢は「大丈夫ですか?軍医長を呼びましょうか?」と言っていささか慌てた様子だったが次子は痛みに耐えながらもほほ笑んで

「平気平気です。…先ほどの軍医長の診察でまだかかるよとおっしゃっておられましたから」

と新矢を慰めるような口調になった。新矢はそれでも心配げに

「だがとても痛そうで辛そうで…私は心配だよ」

と言って妻の手を握る。次子は痛みを逃すように息をついたあと

「これは<女の戦場>ですわ。つらいのは当然のこと。でもそのあとにすばらしい戦果が待っていますわ。だから新矢さんどうか心配なさらないで落ち着いて待っていてくださいね」

と落ち着きを無くしているようにしか見えない夫を気遣った。そうか、そうだねと新矢は言って今度は次子の背中をそっと撫でた。

 

一方産科軍医たちは緊張の面持ちで分娩室の準備をしていた。産科軍医長の仁谷は主席産科軍医大尉の浜名江大尉に

「我が帝国海軍の弩級艦・大和の副長を務めた方のお産だ。決して間違いがあってはいけません、分娩後の準備もできていますか?」

と尋ね、浜名江軍医大尉は後ろに部下の士官や下士官嬢たちを従えて「はい、しっかりできております。そして万が一の事態にも対処できるようにしてあります」と答え、仁谷産科軍医長はうなずいた。

 

次子のお産が始まったのを、新矢は兄夫婦に報せ兄夫婦から東京の次子の実家に連絡が行った。次子の母は

「切符が取れ次第すぐにそちらに参ります。それまでどうかよろしくお願いします」

と電話口で頭を下げ、嫂のシズは「大丈夫ですよ、任せてください。どうかお気をつけていらしてください、私はこれから病院に参ります」と言って母を安心させた。

電話を切るとシズは「ヨシッ!…さあ分隊長、がんばりどころね!」と一人気合を入れると海軍病院目指して家を出た。

 

陣痛発来から数時間が立ち、いよいよ次子の産みの苦しみが本格化し始めた。そのころにはシズが病室にやってきておろおろするだけの新矢に代わって水を飲ませたり汗を拭いたり世話を焼く。次子は

「嫂様。ありがとうございます…」

と言って苦しいながらもほほ笑んだ。その次子にシズは

「いいのよ、そんなの気にしないで。もう少しらしいから頑張ってね」

と言い、ちょっと遠い目をして窓の外を見ると

「私も…自分の子供が持ちたかったな」

と小さく言った。その言葉に新矢も次子も瞬間ドキッとした。兄夫婦は子供を熱望していたがついに持ち得なかったことを、二人は知っていた。だから次子は妊娠を嫂に伝えるのを若干躊躇したこともあったがシズはわがことのように喜んでくれ、ある時「ああ嬉しいわ、なんだか孫ができるみたいで!」と言ったのだった。その嫂の想いを、次子はずっと胸に秘めている。

(ねえさまのためにも私は頑張って無事に子供を産む)

次子は決意を固める。

 

それからしばらくして次子は

「嫂様…なんだかいきみたくなってきましたわ」

と言いシズは「ちょっと待っていてね」というと部屋を出て衛生兵嬢たちの詰所へ小走りに向かい、すぐに仁谷軍医長が看護兵曹嬢を伴ってやってきた。

「ご主人は申し訳ありませんが少し廊下でお待ちください」

と言われ新矢は「大丈夫なんでしょうか妻は?」と言いながらシズに背中を押されながら廊下に出る。シズが廊下で新矢に

「大丈夫よ、仁谷軍医長は産科のぴか一ですからおまかせしなさい」

と言ってその背中を優しく叩き、新矢はそこでほっとしたような顔で「はい、わかりましたねえさん」と言った。

 

「軍医長、子宮口ほぼ全開です」

と次子を内診した兵曹嬢がいい、仁谷軍医長はうなずくと「分娩室へまいりましょう」と次子に言い、「お願いいたします、仁谷軍医長」と次子は言って兵曹嬢と軍医長の手を借りてベッドから体を起こした。

「ゆっくりでいいですからね、ゆっくり行きましょう」

軍医長はそういいながら部屋の扉を開けた。その正面には分娩室の扉が開いている。その向こうでは浜名江産科軍医大尉たちが次子を待っている。

動くと陣痛は強くなるのか、部屋からたった数メートルの距離なのに何度も立ち止まっては大きく息をつく次子、その次子に

「次子…しっかりな」

と声をかけた新矢、その新矢に微笑んで次子は分娩室へ入り扉が閉まった。

「次ちゃん…」

新矢はその扉の前で立ちつくした。

分娩台に上がった次子は痛みに苦しみながらも(これが私の戦場。子供たちを無事この世に生み出すための戦場なんだわ)と思い、軍医長たちの指示に従う。

双胎の出産のため、万が一に備え軍医嬢たちが何人も控えている。皆(『大和』前副長のお産だ、気を引き締めてよいお産にしなければ)と緊張している。

普段、士官嬢や下士官嬢たちのお産にも同じ思いで臨んではいるが、彼女たちは山中次子中佐の長い入院生活中にすっかりその人となりに惚れてしまったということもある。

(中佐という高い地位にありながら決して偉ぶることがないし、下士官にもお気を遣ってくださる)

山中中佐のためならそれこそ命もなげうつ、そんな覚悟を皆して持っている。

 

次子のお産の進みは早いようであった。

いよいよ仁谷軍医長は

「中佐。私が合図をしたら思い切りいきんでください。眼を閉じないで、目を閉じてしまわれますとそちらに力が入ってしまいますから、ご自分のおへそあたりを見るような感じでいきんでください、よろしいですね」

と言い次子はしっかり「はい!」と返事をした。陣痛の強い波が来て、軍医長は「いきんでください!」と言い次子はいきんだ。

しかしなかなかうまくいきめず、ハアッ!と大きくため息をついてしまう。そんな彼女に仁谷軍医長は

「焦らないで大丈夫です、はい…次の波でもう一度!」

と言い、次子は大きく息を吸った。

痛みの大きな波が来て次子は軍医長の掛け声に合わせて思い切り、長くいきんだ。

その脳裏には、波を蹴立てて大海原を行く<大和>の雄姿が描き出されていた。そして梨賀艦長、森上参謀長、山口通信長や日野原軍医長…たくさんの<大和>の人々の顔が浮かんでくる。

(もう駄目、体が裂けてしまいそう)

次子がそう思ったその時ーー!

   

   (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

始まったお産です。

なんだか自分の時を思い出し、お腹が痛くなっておりますよw。

嫂のシズさん、子供を持つことはできませんでしたが次ちゃんの子供たちをわが孫、と思ってくれているようです。

さあ、そして次回は…。

いとしごよ 呉編 1 - 2017.06.18 Sun

益川中佐たちがトレーラーに到着するころ、内地広島・呉では新しい命が誕生しようとしていた――

 

その土曜日、呉の海軍病院産科棟内の病室では、繁木航海長が山中次子中佐の病室を訪ねていた。繁木航海長は悪阻も収まったようで退院の許可が下り、あさって退院することとなった旨を<副長>に報告に来たのだった。次子は航海長に手近の椅子を勧め、航海長が椅子に座ると

「退院だそうですね、よかった…悪阻が収まると世界が変わったような気さえしますね」

と言ってほほ笑んだ。繁木航海長はそっとお腹を撫でつつこれもほほ笑みながら

「はい。悪阻の最中、世の中にこんなにいろんな匂いがあるんだ!って驚きませんでしたか?私は本当に参りましたよ」

と言い次子も「私も思いましたよ、そしてそのほとんどが気分を悪くするものばかりでびっくり」と言って二人声を立てて笑った。

「で、副長」

と繁木航海長は居住まいを正すと

「副長の具合はいかがですか?まだあと予定までは半月ほどあると思いますが」

と真剣な表情で訪ねた。次子はお腹を撫でつつ

「ちょっと歩くと張るようになってしまって…産科軍医長のお話では予定よりずっと早まるかもしれないと。でももう生まれても大丈夫だと伺っていますから、ここはもう運任せです」

と言って航海長を見つめた。

航海長は目を瞠って

「そうですか、ではお心の準備はできましたか」

というと次子は生真面目な表情を作って「出来ております」と言い、また二人は声を立てて笑った。

 

翌日日曜日は繁木航海長の今回の入院の最終日ということで食事は三食とも次子の部屋で取った。次子は「繁木さんが退院してしまうと寂しくなりますね」

と言ったが航海長は元気つけるようににっこりほほ笑むと箸をおいて

「でも副長、もう間もなくお子さんが生まれますからそう思っているひまも無くなるでしょう。どうか…お体大切になさって御安産をお祈りいたしております」

と言ってそっと頭を下げ、次子も箸をおくと

「ありがとう航海長。あなたもこの先体を大切にしてね。…あ、時々はご夫婦そろってうちに遊びに来てくださいな。主人も喜びます」

と言って頭を下げた。

二人はその晩、同じ部屋で寝台をくっつけあって眠った。

 

月曜日繁木航海長の退院を次子は自分の病室で見送った。妊婦用軍装の袴をきちんと身に着けた繁木航海長はこの上なく凛々しく、迎えに来た夫の繁木少佐とともに次子にねんごろに挨拶して病院を去って行った。「お子さま方が生まれて落ち着かれたらぜひご自宅に伺わせてくださいね」と言い残して。

「その日が、楽しみですね」

病室で次子はひとり呟いた。なんだか寂しさが身の回りにまとわりついているようでなんだか涙が出てきた。それほど長い間ではなかったが同じ病棟の二つ先の部屋に繁木航海長がいるというだけで心強かった彼女である。長い間、一緒の艦・大和で過ごした間柄の彼女がいるというだけで出産の不安も乗り越えられてきたのだ。

でも、と次子は思った。しっかりせねば、これから、そう遠くない未来に迎える出産と育児に、私は前・大和副長の誇りと気概を持って当たらねば。

次子は大きく深呼吸すると大きなおなかをそっと撫でて

「おかあさん、がんばりますよ」

とささやいた。

 

その晩、いつものように仕事を終えた山中大佐が妻の病室を訪れた。夫の大佐は妻の顔を見るなり

「さみしいですか…繁木さん退院しちゃいましたからね。でも赤ちゃんたち生まれたら遊びに来てもらいましょう。今日私から繁木君にも言っておきましたから」

と言った。それほど妻の顔は寂しげに見えたのだ。次子は夫の新矢を見つめると

「ありがとうございます。平気です、ちょっと寂しかっただけです。さあ、今度はお産の心配をしなけりゃいけませんね。と言っても必要なものはそろってここに置いてありますからあとは体だけでしょうか」

と言って元気を繕う。新矢はそんな妻の心中を慮って、そっとその肩を抱き寄せしばらく黙っていた。

しばらく新矢に肩を抱かれていた次子は

「そういえばもう益川中佐他の皆さんはトレーラーに着いた頃でしょうか」

とふとつぶやいた。新矢は妻の肩を抱いたまま

「うん。明日明後日にもトレーラー着になる予定だと連絡があったそうだ。時化にも会わず順調な航海のようだからね」

と言った。そう、それならよかったと次子は言ってそっと目を閉じる。

 

その晩はあまりに寂しげな妻の様子に心配を覚えた新矢が病院に申し出て病室に泊まることとした。産科軍医長も「今まで同じ艦の仲間であった繁木大尉が退院されたことがよほどお寂しいのでしょう、大佐もお忙しいとは思いますがどうかここはひとつよろしくお願いします」と言って快く許可してくれた。

次子は

「おうちでお休みになられたほうがお疲れが取れましょうに…いったいどうなさいました?」

とやや不審げな表情になったが新矢はさりげなく微笑んで

「いや、正月明けから忙しくなって夜の見舞いも短くなっていましたからね。今夜は久しぶり早く引けましたから次ちゃんと一緒に過ごしたいんですよ」

と言って次子はちょっとほほを紅く染めると「そうでしたか…うれしい」と言って微笑かえす。

そして消灯時間が過ぎ、いったいどのくらい眠ったことか。

新矢は小さなうめき声に目を覚ました。はっとして半身を起こし、枕元の電気スタンドをつけるとその灯りの中で次子が寝台に体を起こし、お腹を押さえるようにして苦しんでいるではないか。

「次ちゃんどうした!!」

新矢は叫ぶように言い、妻の体を支えた。次子の額には汗が浮かんでいる、彼女は

「二時間ほど前からお腹の張りが規則正しくなって…、でも平気です。前にもあったことだから…」

と言いつつもつらそうな表情に新矢は

「そんなの平気じゃない!」

というなり部屋を飛び出していた。常夜灯だけがともる薄暗い廊下を、それでも大きな音をたてないように走って向かった先は、産科の看護兵嬢たちの詰所。

詰所の受付の奥に二人の看護兵曹嬢がいるのが見え、新矢は受け付けのドアを叩いて

「山中です、山中次子中佐の夫です。あの、妻が、妻の様子が!」

というと白衣を着た兵曹嬢たちがさっと席を立ってこちらにやってきた。そしてその中の一人の上等看護兵曹嬢が新矢にうなずいて次子の病室へと小走りに向かった。あとをついてゆこうとする新矢にもう一人の看護一等兵曹嬢が

「ちょっとおからだを拝見しますのでね、こちらで少しだけお待ち願えますか?」

と優しい口調で言って新矢は上等兵曹を追うのをとどまった。

 

「どうなさいました、中佐」

そういって部屋に入った上等看護兵曹は寝台の上の次子に声をかけた。次子は額に汗をにじませて

「ごめんなさいねこんな夜中に。いえ、ちょっとお腹の張りが規則正しくなってきたと思ったらなんだか痛みが少し出てきたような気がしてしまって」

と言った。上等兵曹嬢は、そうでしたか、それはいつごろからです?と尋ねながら次子を仰向けに寝かせると部屋に備え付けのゴム手袋の箱から一組取り出すとそれを両手にはめ、「お楽になさってください。息をそう、ふーっと吐いてください」と言いながら次子を内診した。

次子から手を離したそのゴム手袋に少し血液が付いていたが兵曹嬢はそれを次子中佐には見えないようにさっと外すと

「山中中佐、子宮口が開き始めていますね。と言っても…お産が始まるまでにはもう数時間が必要かと思います。今から軍医長を呼びますので少しお待ちください。その間に異常を感じられましたら」

と言って手近のブザーを指した。兵曹嬢が部屋をあたふたと出てゆくと、次子は

(いよいよ…いよいよ生まれるのですね…ああ、しっかりしなきゃ)

と緊張を覚えるのであった。また、お腹がきゅうと張った。

 

新矢は、上等兵曹嬢が戻ってくるのをつかまえて

「妻は、妻は大丈夫なんでしょうか?」

といきなり訪ねた。上等兵曹嬢ー田上―は彼を落ち着かせるように静かな声音で

「平気ですよ、子宮口が開きかけていますから、そうですね…本日中にはご出産となるかもしれません。今産科軍医長を呼びます。どうぞ中佐のおそばにいらして差し上げてください」

と言って詰所の中に待機していた一等兵曹嬢ー島原ーに何か言うと島原はうなずいて電話の受話器を取り、今夜当直室にいる産科軍医長を呼び出す。

山中新矢はうん、と一人うなずくと妻の病室へと駆けだして行く。

がんばれ、がんばれ次ちゃん。私が付いているよと心の中で叫びながらーー

   (次回に続きます)

 

                 ・・・・・・・・・・・・・・

繁木航海長が退院して寂しい気持ちだった山中次子中佐ですがなんと、遂にお産が始まりそうです!慌てる新矢さん…無事にお産が終わりますように祈るばかりです。次回をお楽しみに!

いなりずし 2 解決編 - 2017.05.21 Sun

海軍嬢姉妹は、長姉の作った稲荷ずしの包みを抱え、母親の入院中の病院へ向かったーー

 

皆川やちよ中尉は傍らを歩くみちよ兵曹に

「こうしてお使いみたいに物を言付かって歩くってのは子供のころ以来だねえ」

と語りかけるとみちよも

「そうですねえ。あの頃どっちが荷物をもつかで喧嘩をしたものですが」

と言って下を向くとくすくす笑った。やちよ中尉も「そうだったね。いつも私が『姉ちゃんが持つんだ』と言って威張ったけど途中で腕が疲れると『みちよ持ってみる?』かなんか言ってね」というと包みを抱え直して笑った。

姉妹は懐かしい話をしながら病院への道を歩く。

 

母親の入院する病院は小高い丘の上にある。かつてちょっとした小山だったところを切り崩して造成した場所であるからその途中の坂道はちょっとした森のようでもある。その森の中に病院への小道が続いている。この近在の人々はここを<病院坂>と呼んでいる。

そしてここは夏は強い日差しを遮り、冬は冷たい風を通しにくいようになっているので人々の散歩道にもなっている場所である。

二人の海軍嬢は、その<病院坂>に差し掛かった。この日はやや冷たい風が吹いてはいたが坂を上がってゆくと木々がその風を遮り寒さはほとんど感じない。

二人は母親の待つ病院を目指してひたすら歩いた。

 

どのくらい歩いたか…不意に妹のみちよ兵曹が「あれ?」と声を上げた。どうした、とやちよ中尉が振り向くとみちよ兵曹はあたりをきょろきょろしながら

「この道…、さっき通ったよね?」

という。やちよは

「さっき通った?そんなことはないだろう、同じような樹が生えて同じような道だからそう思ったんだろう。そんなことよりさあ歩いた歩いた」

と言って歯牙にもかけないがみちよ兵曹は

「そんなことない!だって私さっきあの木を見ましたもん…ならいいですよ、目印つけますからね」

と憤慨して手近の枝に落ちていた枯れたつるを絡ませた。

「こうしとけばわかるでしょうよ。同じ道歩いたって」

そして二人はまた歩いたが再びみちよ兵曹が

「やっぱり!」

と声を上げ指さすところを見れば先ほど枝に枯れたつるをひっかけた樹があるではないか。

「なんだ…これどういうことだ」

さすがにやちよ中尉は気味が悪くなり背筋が寒くなってきた。気温のせいだけではないらしいその寒気にやちよ中尉は妹の兵曹の背中をそっと叩いて

「物の怪のせいかもしらんぞ、目を閉じて突っ走ろう。そしたらちゃんとした道に出るかもしれないからな、いいか行くぞ。しっかり足あげて走らないと転ぶからな」

といい右手で荷物を抱え直し目を閉じ、左手で妹の兵曹の手をしっかりつかむと走り出した。

 

どのくらい走ったか。

やちよ中尉は走るのをやめ目を開けた。目の前には病院の正門があって幾人かが出入りしているのが見える。

やちよ中尉は妹兵曹の手を離し

「…着いたようだ」

といった。みちよ兵曹も目を開け

「あ、ほんとだ」

といい「あれはいったい何だったんだろうねえ?」と言いながらも姉の後をついて病院内に入る。病棟受付で母の名前を言うと一人の看護婦が病室に案内してくれた。

母親の病室は南向きの日当たりのよい二人部屋。

案内してくれた看護婦に礼を言い、二人の海軍嬢は入り口で

「皆川やちよ海軍中尉、皆川みちよ海軍上等兵曹入ります!」

と申告し、中からの「はいどうぞ」という母の声にドアを開けた。正面向かって右側のベッドに母はいた。

「おかあさん!」

と二人は駆け寄りたかったが同室の女性患者に遠慮してしかつめらしく近寄って、左のベッドの年配の女性患者に敬礼した。

「御休みのところお邪魔いたします…私たちはこの皆川キワの二女と三女のやちよとみちよであります。母がお世話になっております」

そういって年配の女性に自己紹介するとその女性患者―川島―は微笑んで

「川島と申します。お母さまのお見舞いお疲れ様でございます、さあどうぞごゆっくりなさってください」

と手近の椅子を示した。

キワも自分のベッドの横の椅子を「さあ」と指さし、二人はそれに従った。

海軍嬢たちは自分たちの近況を面白おかしく話して聞かせ、キワも川島も笑いながら聴き入った。そしてみちよが

「あ、忘れていました。はたよ姉さんから言付かってきたものが」

といなりずしの包みを手に取ったが「あれ?」と不思議そうな顔でやちよ中尉を見て、やちよは「どうした?」と言って包みを自分の手に受け取ったがこれも一瞬妙な顔つきになり、慌てて風呂敷を開いて箱のふたを取った。

「あっ!」

二人の海軍嬢の口から同時に小さく叫びが出て、キワはびっくりして二人の娘の顔を見た。川島も乗り出して覗き込んだがーー

箱の中にきっちり入っているはずの稲荷寿司は半分ちかく消えていたのだ。

「いったい誰が…持ってくる時にはきっちり端から端まで入っていたのに!」

みちよ兵曹がそれを指さして言うと川島が

「御二方、途中で道に迷ったようにおっしゃっておられましたねえ」

といった。やちよ中尉が

「はい。病院坂を上がってしばらくしたら同じところをずっと歩いていました。ですから目を閉じて走ってきました」

と応えると果たして川島は

「やっぱりいるんですねえ!お二方、それはキツネの仕業ですよ。病院坂の森の中にいたずら狐がいましてね、それが好物の稲荷ずしを持ってくる人を化かすんですよ。私も話には聞いたことがありますが実際見たのは初めてですねえ」

と感に堪えたように言った。

「き、狐ですか!」

二人の海軍嬢は同時に声を上げ、次の瞬間その場の皆は大きな声を立てて笑っていた。なんだかとても愉快で仕方がなかった。

稲荷ずしをせしめてほくほく顔の狐の様子が目に浮かびどうにも可笑しくてたまらなかった。

その可笑しさのまま、海軍嬢たちはいなりずしをキワと川島に勧め、二人の患者は稲荷ずしを「稲荷神社のお使い様のおさがりをありがたく」いただいたのだった。

 

その話を聞いたはたよは腹を抱えて笑い

「私も聞いたことはあったけどはじめてよ!いやあ、そんなことってあるのねえ!」

といい、その夫で裁判所に勤める広一も

「ほう、それは貴重な経験をしましたね!私もしてみたいものです」

と笑った。

その晩はそんな話でひとしきり盛り上がった皆川家である。

そしてそれから数日ののち、キワは無事病院を退院することとなり迎えに来たはたよ・やちよ・みちよとともに家路についたのであった。

病院坂の森の中でやちよ中尉は

(病院坂の狐くん、私の母親は元気になって帰れます。今度来るときもっとたくさん稲荷ずしを持ってきてあげようね)

と心の中から呼びかけた。

少し向こうの木の影に狐の姿が見えたような、そんな気のする冬の昼前のことであったーー

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・

狐に化かされた海軍嬢。でも愉快に笑えたので良かったですね。母親も元気になっていうことなし。きっと狐も稲荷ずしをおいしく食べたことでしょう。

いなりずし 1 - 2017.05.15 Mon

皆川やちよ海軍中尉は艦が横須賀に着くととある場所に連絡を入れたーー

 

連絡を入れたのは妹の皆川みちよ海軍上等兵曹が教員を務める海軍通信学校で、みちよは姉からの電話に

「姉さんお久しぶりです。…はい、ねえさん休暇はどのくらいいつから取れますか?…ああそうですかではそのころまた連絡ください。はい。…お母さんのお見舞い行きましょう。ええあと少しで退院できるとは聞いていますよ、だいぶいいようですから。はいではまた」

そう話して電話を切った。

二人の母親は千葉県の病院に入院中であったが病も癒え、近々退院の運びとなっていた。やちよは北方からの任務を終え母の顔を見るべく妹を誘って病院に見舞いに行こうというものであった。

やちよは母の入院する病院の場所を知らなかったためみちよに手紙を出し、みちよは「それならねえさんが帰還したら連絡ください、私と一緒に行けばよいから」と相成ったのである。

やちよ中尉は久しぶりに妹や母に逢える喜びに浸りながら、艦内での任務を一所懸命こなしてその日に備えるーー

 

休暇の前日に、やちよ中尉は妹に連絡を入れた通り省線横須賀駅で待ち合わせした。

「姉さん!」との声のしたほうに向くと妹のみちよ兵曹がこちらに向かって走ってくるところだった。その妹のもとに駆け寄って姉妹は敬礼を交わした。そして互いに

「久しぶりだねえ」「お久しぶりです」

と言い合って肩をたたきあう。二人はやってきた汽車に乗り込むとまずやちよ中尉が

「千葉までか。長いねえ」

とぼやいた。二人の実家は千葉である。実家には今、二人の姉のはたよが婿を取って住まっている。「はたよ姉さんに逢うのは結婚式の時以来だから二年ぶりか。家のあたりは変わっていないだろうかなあ」

二人はそんなたわいもないことを話しながら汽車に揺られていく。

 

汽車は千葉駅に到着し、二人の海軍嬢はホームに降り立つと深呼吸した。懐かしいふるさとの空気が二人の肺を満たし、姉妹は顔を見合わせてほほ笑みあった。そしてやちよ中尉は

「さあ、まずは家に行こうじゃないか。はたよねえさんに逢いたいし。義兄さんは今夜じゃないと会えないかな」

と言って改札にと歩き出す。そのあとをみちよ兵曹が慌てて付いてゆく。

 

実家への道は楽しいもので、二人は思い出を語り合いながら歩いた。懐かしい駄菓子屋の女主人に会ったり、小学校時代の同級生に出くわしたりうれしいハプニングの連続であった。

そんなわけで普通に歩けば駅から家まで450分もあれば十分な道のりを二人は一時間半、いやに時間ほどかけて歩いてきた。

やがて数件の家の立ち並ぶ中に彼女たちの実家が見え、みちよ兵曹はもうたまらずに「ねえさーん、はたよ姉さんー」と声を上げると懐かしい実家目指して走り出し、やちよ中尉は

「なんだそんなにあわてなくったって」

と笑いながらもこれもまた「ねえさーん!」と声を上げると走り出していた。

<皆川>と、亡き父の達筆で書かれた表札のかかった門をくぐると玄関の扉が開いて中から長姉の傍よが笑顔で出てきた。

やちよとみちよはその場に直立不動の姿勢をとると海軍式の敬礼をし

「皆川やちよ海軍中尉、および皆川みちよ海軍上等兵曹ただいま実家に帰還いたしました!三日ほどお世話になります」

というと三人は声を立てて笑った。はたよも海軍式敬礼をまねて

「おかえりなさい。お疲れさまでした、さあ上がってちょうだい」

と言ってうれしくてたまらないように微笑んだ。

靴をきちんと三和土にそろえ、居間に入る海軍嬢の妹二人を感心したように見たはたよは

「あなたたち立派になって。二年前よりずっと立派よ、それにお行儀も尚更良くなりましたね。子供のころよく靴をそろえろ!ってお父さんに怒鳴られてたの、覚えてる?」

と言って笑い、台所へ茶の用意に行く。

みちよ兵曹は

「いやだなあねえさん。もうそんな昔のこと忘れてくださいよ」

と恥ずかしげに言い、やちよ中尉は仏壇に線香をあげる。亡き父の写真の飾られた仏壇に、やちよは手を合わせそれが済むと「みちよも拝みなさい」と促した。

はたよが

「さあ、手は洗って?お茶をどうぞ」

と声をかけ、二人は居間の座卓の前に正座する。はたよが

「楽にしなさいよ、自分の家なんだから」

と気遣い海軍嬢たちはでは失礼して、と胡坐をかいた。

「で、母さんの具合は」

とやちよ中尉は改めて姉に尋ねた。みちよから聞いてはいたが一番母のそばにいる姉から聞きたかった。姉は

「診ていただくのが遅かったけど運がよかったのよ、母さん我慢強すぎるでしょう?お腹が痛いっていうのをずっと隠していたのよ。でもあんまり顔色が悪いから私も診ていただくついでに母さんを病院に連れて行ったの、そしたら盲腸だっていうじゃない。母さんはそんなの病気のうちに入らないとか言ってたけどお医者様に叱られて、すぐ入院して翌日手術。ちょっと年が年だから起きられるまでに四日かかったけどでももう元気元気。入院中はじっとしていてって言ってもちょこちょこ動き回ってるわよ」

というとおかしそうに笑った。

みちよ兵曹は

「ちょっと待って?『私も診ていただくついでに』ってねえさんもどこか悪いの?」

と片手を上げて姉を制するようにして尋ねる。やちよ中尉も

「そうだよ、ねえさんもどこか悪いんじゃないの?だとしたら起きてていいのかしら?我慢しないで寝ていてよ」

と心配そうに姉を見つめる。

するとはたよ姉はウフフっと小さく微笑むと妹二人の顔を順番に見つめると言った、

「私はほんとに病気じゃないのよ。あのね…あなたたち来年の夏までに<おばさん>になるのよ」。

「ひえええ~」

「うわー、ねえさんやったねえ」

やちよとみちよはのけぞって叫びそしてうれしそうに笑った。はたよ姉は妊娠のごく初期、悪阻も軽そうで妹たちは安どして祝福した。

 

はたよの心つくしの昼食を食べた後

「ではねえさん。私たち母さんを見舞ってきます」

とやちよ中尉が言うとはたよ姉は「あ、じゃあこれを持って行ってくれるかしら」と台所に立ち、なにやら風呂敷包みを持って戻ってきた。そして

「母さんの大好物。お稲荷さん。食べたいって聞かないのよ、お願いね。気を付けていってらっしゃい」

とそれを手渡した。

その包みをもって二人の海軍嬢たちは実家の玄関を出て「では行ってまいります」と病院に向かって歩き出したのだった――

  (次回に続きます)

 

                ・・・・・・・・・・・・・・・

母の見舞い。いくつになっても母親は気になりますね。まして遠く離れて暮らしていれば尚更です。二人の海軍嬢姉妹、ねえさんから母親の好物を手土産を言付かってさあお出かけです!

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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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