「女だらけの戦艦大和」・得手不得手
>空母「飛龍」・艦爆搭乗員 圓藤大尉の場合
現在空母「飛龍」に居る彼女にも不得手なものがあった。それはかつて乗っていた零戦での着艦。
以前少尉時代に南方某島にいた時もちょくちょく着陸の際滑走路を外れてしまったことがあり、基地司令から「ねえ、圓藤少尉のあの着陸何とかならないかしらね?見ててハラハラして心臓によくないんだわ。それに第一あのコ小隊長で海兵出身なんでしょう?予科練出身の子たちに笑われたら沽券にかかわらない?」とクレームをつけられていた。
そこで大隊長の片岡大尉が「圓藤少尉、今から私と模擬空戦をしよう。来い!」と誘って二機の零戦は空に舞い上がった。
片岡大尉としては(いきなり圓藤に『お前着陸が下手だなあ、なんとかせい』なんて言えないものなあ。それこそ彼女自身の沽券にかかわろう。仕方がない、ここは実践で失敗したところを注意するしかない)と思っての窮余の一策だった。
それと知らない圓藤少尉は
「わあ、片岡大尉と模擬空戦が出来るなんて私はなんて幸せ者なんでしょう~、嬉しいなあ」
と無邪気に喜んでいる。片岡大尉は一抹の気まずさを感じつつ零戦に搭乗したのだった。
そして二機での模擬空戦。若いながらも圓藤大尉はなかなかの技量を見せ、片岡大尉は(これはなかなか筋がよいではないか、着陸だけが問題なんてもったいない話だ。あるいはたまたま失敗しただけかもしれないし。ともあれ最後まで見てみよう)と思いつつ圓藤少尉の機を追う。
そして三十分ほど基地近くの空域で模擬空戦を繰り広げた二人は、やがてそれを終え滑走路むけて着陸へ。事前に片岡大尉は「私が先に降りる、貴様は私のあと、五分後に降りろ」と言ってあったので圓藤少尉の零戦はその通りに五分後に着陸して来た。
片岡大尉や基地司令達数名が指揮所の前に陣取って、彼女の着陸を見つめる。体勢には問題なし…車輪が地に着いた、減速、「うまくいったじゃないか」と基地司令の鎌田少佐が言ったその瞬間!
圓藤少尉の搭乗の零戦はその場で見事に逆立ちしていたのだった…。
「ギャーッ、なんてこったい」
とうとう頭に来た片岡大尉はズンズンと足音も荒く逆立ちしたままの零戦に近寄るとその機体によじ登り風防を荒っぽく開けた。そして中で(やっちまった)という顔の圓藤少尉を引きずりだして地面に投げ出した。
「ごめんなさい~、すみません~。又やっちゃいました~。だって零戦って機体が軽すぎて~」
と泣き出す圓藤少尉を「いいわけすんなこの野郎!」と引きずって指揮所まで来た片岡大尉は鎌田基地司令に「こいつにはもう零戦の操縦はさせたくありません。大事な零戦をこれ以上壊されてはたまりません!基地司令、こいつの配置換えを願います、私一生のお願いです!」と叫び、挙句に
「貴様の得意な男の下半身じゃないんだ、やたらと立てるな!しっかりやれっ」
とたいへんな恥ずかしいことを叫んでしまったのだった。ハッと気がつけば、鎌田基地司令がびっくりした顔で大尉を見つめている。
片岡大尉はエヘンと咳払いをしてしかつめらしい顔を作ると鎌田司令に「願います」と必死の表情で頼んだのだった。
そのあと、圓藤少尉は再訓練を経て九九艦爆の搭乗員になったのだった。今度は「機体が重いからいいですねえ。いい感じに着陸出来ます」と言って喜んで空母「飛龍」へ転勤して行ったのだった――
>『武蔵』医務科 宮本兵曹長の場合
宮本兵曹長は子供のころから細かい手仕事が得意だった。厚紙を切って家の模型を作ってその中の厠まで細密に再現して学校の教師を驚かせたし、町の展覧会にも何度も出展された経歴の持ち主である。きりがみも得意で友人たちをうならせたものである。
その彼女は中学を終了するとき「人の役に立ちたい。国の役に立ちたい』と海軍衛生兵を志願して海軍に入った。
そして海軍衛生学校で研さんを積み、卒業後は各艦艇で医務科の仕事に当たった。皆――下士官も士官たちも――その手際の良さ、見事な技そして見たての良さに感嘆の声を上げるほど何事もそつなく見事にこなす彼女。
特に手術の際に見せる縫合の素晴らしさは特筆もので、軍医長から「戦争が終わったら本格的に医学校に入ったらどうかな?あなたなら素晴らしい外科医になれるよ」と太鼓判を押されるほどである。
しかし、そんな彼女にも一つだけ、ひとつだけ不得手があった――
ある日。
宮本衛生兵曹長の同僚の、川上衛生兵曹長が准士官室にいた宮本に、
「宮本さん、あなたのその縫合の素晴らしさに感激した私の願いを聞いてよ。お願い、これ繕っといてくれないかな?」と一足の靴下を差し出した。そのかかとには穴があいている。宮本兵曹長の返事を聞かないで川上兵曹長は靴下を置いて行ってしまった。少し困った顔でそれを見つめていた宮本兵曹長だったがやがて軽くうなずくと針箱を取り出して靴下をつくろい始めた。
しばらくして「宮本さん、出来た~」と靴下を取りに来た川上兵曹長に宮本兵曹長は
「うん。あまりうまくないけど」
と差し出した。その塗った部分を見た川上兵曹長は「うわあ、さすが宮本さん。きれいに縫えてるね、ありがとう。私もあなたを見習わないとね」と言って礼を言うと部屋を出て行った。
それから又しばらくして困った顔をして川上兵曹長は准士官室にやってきた。宮本兵曹長はほかの準士官たちと談笑中であったが川上兵曹長は先ほどの靴下を差し出して、言いにくそうにではあったが
「これ…せっかく縫ってもらって言うのも悪いんだけど」
と言った。宮本兵曹長と数名が川上兵曹長を見た。川上は靴下の中に手を入れると
「足がここから先、入らないんですよ!」
と泣き笑いのような表情になり、一人の準士官がそれを自分の手にとって見つめたがとたんに大笑い。
「ほんとだ、ここから足、入らないよ。ワハハハハ」
件の靴下は准士官室を一巡して戻ってきた。宮本兵曹長は静かに「おかしいですね、そんなはずはないと思ったんですが」と自分の縫った靴下を見つめて
「ああ、これはしまった」
とつぶやいた。そして顔を上げると「誰か、お裁縫の上手な方はいませんか?すみませんが縫い直してあげて欲しいんですが」と皆を見回したのだった。
――宮本兵曹長は、裁縫が苦手だったのだった――
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得手不得手。人それぞれありますよね。私の不得手はなんだろう?学校の科目で言うなら数学・体育・裁縫…数学は壊滅的にダメですし、器械体操とかダメです。中学時代担任には「この先まともに生きてゆけない」と言われました(-_-;)。でもまあ、何とか生きております。
不得手があるからこそ人間だ!(と言ったらきっと当時の担任は『開き直るな、現実を見ろ』と言うでしょうね)
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コメントの投稿
オスカーさんへ
私もかなりの低レベルですよ、裁縫は全然ダメだし商才なんてナイナイ!!
こっちの親戚から「こんなのと結婚しやがって」とののしられるくらいです。
オスカーさんは博学で私はそれがたいへん素敵だと思いますよ^^、物知りってたいへん得をしていると思います。これからもたくさんのこと教えて下さいね❤
今日はクリスマスイブ。素敵なイブを温かくしてお過ごしくださいませ♪
家庭人としてはかなり低レベルな私ですが、それなりに生活しています…子どもたちには大変申し訳なく思っているので、せめてお金を遺したいのですがカネゴンなのでそれも難しい……私を反面教師にしてフツウの人生を歩んでほしいです(;´д`)
見張り員さまは料理上手のようですし商才も文才もあると思います(^o^)/ うらやましい~です!!
はづちさんへ
得手不得手、ほんと不思議です。あれができるのにどうしてこれが?って言う人よく見てきました。でもそこが人間の奥深く面白いところなんでしょうね^^。
中学時代の担任の言葉には傷つきました当時。絶対私はまっとうな人生歩めないと思っていましたし、合格した高校をけなされたこともありました。体育教師は「あんな学校行ったら不良になる」と言い放ち、今なら絶対問題にしているレベルです。
>たいていのことは、どうにかなりますもんね。
まさにその通りです!
学校の出来は関係ないです、いかに世の中うまく渡るか。そこですよね^^。
おじゃまします
なるほど、なるほど。
そういえば、やりたくないのにそこそこ上手とか、
大好きで率先してやりたいけどそれほど上手くないとか、
気持ちと得手不得手がバラバラなこともありますよね。
同じく私も、数学や体育がダメですけれども、
なんとか生きてます。
たいていのことは、どうにかなりますもんね。(と開き直っております)