「女だらけの戦艦大和」・こころざし新たに1

Posted by 見張り員 on 16.2012 大和   1 comments   0 trackback

「女だらけの戦艦大和」は瀬戸内海を出た後、三田尻に寄港して駆逐艦数隻と巡洋艦一隻を伴ってこの後、豊後水道を南下してゆく予定である――

 

「ああ、内地が段々遠くなるのう」

防空指揮所で、麻生分隊士が双眼鏡を目に当てたまま言った。ほかの見張り員たちも対空・対潜見張りをしているが、分隊士のその声に目だけは双眼鏡から離さずに「ほうですのう」とか「名残惜しいですね」などと声を上げた。

トップのトップではハッシー・デ・ラ・マツコが頭の<あほ毛>を風に吹かせながら下にいるトメキチに、

「いよいよまたあのくそ暑い島に帰るのねえ。トメキチあんたはあの島が好きぃ?」

と聞いている。トメキチはマツコに、

「好きよ。だって僕はあの島の生まれだもん。でも日本も好きだけど。おばさんは、トレーラーは嫌いなの?」

と返事をした。マツコはあほ毛を風になびかせつつ、「好きに決まってんでしょ。たださあ、ここもよかったなあって思うのよ。またいつか来た時あの店に行ったら魚をくれるかしらねえ?」と心配げにトメキチに言う。トメキチは笑って、「大丈夫だよおばさん。おばさんはもうあの街では有名人らしいから」と答えた。マツコの目にたいへん満足そうな色が浮かび、その大きな両の羽がこれ以上ないくらい大きく広げられた。マツコが嬉しい時する癖の一つである。

(おばさん、嬉しがってる。有名人ってそんなにうれしいのかしら?)

と、トメキチはマツコを見ながら思っている。

 

その下の方、露天機銃座では長妻兵曹と増添兵曹が機銃の手入れをしながら話をしている。増添兵曹が、ソーフ(雑巾のこと)で丁寧に砲身を拭きながら

「長妻兵曹、あんたは今回朝日町に行かんかったんかね」

というと長妻兵曹はブラシのついた長い棒を機銃の砲身の中に突っ込んでごしごしとしごきながら

「行かんかった。たまには実家にも帰りとうなってな。帰ってえかったんじゃ、実はねえさんが嫁に行ってしまうんじゃわ」

という。増添兵曹はちょっとソーフの手を止めて「ほう、ねえさんの嫁入りかいな。ほりゃあ会えてえかったね、お嫁に行きんさったらそうそう会えんもんねえ」と言った。長妻兵曹はうなずいて、「ほうよ。男もええがそれより肉親の方が大事じゃ。増添兵曹はどがいじゃったね、故郷は」とブラシを動かしながら聞いた。

増添兵曹は「うちは相変わらずじゃ。母さんはうちと顔を合わせてくれんし話もしてくれん。まあ、そんなことはええんよ。義姉(ねえ)さんは元気じゃったし、久しぶりに一緒に風呂に入っての。畑も久しぶりにいじったのう、ええ命の洗濯じゃ」と言ってソーフを裏返してまた砲身を磨く。

「ほうね、まあいろいろあるでね。でもまあ、それぞれええ思い出ができたみとうでえかったね」と長妻兵曹は言って、ブラシを砲身から引き抜いた。ブラシの部分を見て長妻兵曹は「ありゃ、随分と汚れとるわ。いけんねえ、辻本たちによう言うとかんと・・・」とぶつぶつ言いながら汚れをはたき落した。

 

艦上に、波を切る音が響きゆっくりと風景が流れてゆく。

 

はてさて、この後どのような作戦やら戦闘が待っているのだろうか。それは神ならぬ身の知る由もないが、皆の心には恐れより期待感や高揚感が充満している。

内地の、日本の空気を体いっぱいに詰め込んで「女だらけの大和」の乗組員の士気は今、最高に高揚している。

 

薄暮近くなって、艦上の要員たちはそれぞれの故郷に向かってしばしの別れを告げた。見張兵曹は呉の恩人・西田さとや祖父母、そして生みの母親の奥津城の方角にそっと礼をした。両手をそっと合わせ(みなさんどうかお元気で。私はまたトレーラーで頑張りますけえ。またお会いできる日までお元気で・・・。お母さん、また戻った時にはお参りいたします、その時まで待っとってください)と祈った。

ふと傍らを見れば、小泉兵曹もそっと瞑目している。小泉兵曹は、その胸の中に懐かしい広島の実家の様子を描きだしていた。活気のある店、若い衆が忙しく立ち働きそれを指揮する父親の声、軽い叱責と笑い声に満ちた居心地のよかった店。

優しかった母の面影。ちょっとおしゃまだった姉の気取った立ち姿。かわいかった進次郎の笑顔。そして何より、家族を包み込んでくれた父親。

今やあの家はもう私の居場所ではないけれど、広島の街はもう私の街ではないかもしれないけれど、でも。

「やっぱりうちの故郷じゃ、いうてもええかいの?」

小泉兵曹の唇からふっとそんな言葉が漏れ、その言葉は風にちぎれて飛んで行った。

 

昼戦艦橋(第一艦橋)では梨賀艦長が行く手を見つめている。

(子供たちもずいぶんと大きくなったものだ。しかし、母上には苦労をおかけして申し訳ない)

梨賀艦長は出航前の家族とのひっそりとした別れを思った。子供たちが「お母さん」としがみついてきたときのそれぞれの体の重さを自分の体で受け止めた時のせつなさを思った。

(いつか、そのうち私たちがこの戦争に勝ったら真っ先にお前たちを迎えに行くから、その日まで待っているんだよ)

せつなさが、艦長の胸の奥からのど元にぐっとこみあげ艦長は思わず胸から下げた双眼鏡を握りしめていた。

ちょうどその横に来た野村副長が艦長のその様子に気がついて「艦長、どうされました?御気分でも・・・」と言いかけたが艦長の顔を見て黙った。

(艦長にも他人には言いたくない何かがあるのだろう)と副長は察してそっと梨賀艦長のそばを離れた。

副長は最上甲板に降りた。艦首を見やればそこには森上参謀長が一人、これも前方を見つめて立っている。

たばこの煙の香りが心なしか漂って来たような気がして、副長はしばしその香りに巻かれた。しばしの間そうしていた副長であったがやがてそっと参謀長に背を向けると下甲板に向かって歩き出した。

 

それぞれの思いと決意を乗せた『軍艦大和』は一路、トレーラー島を目指す。

 

そして、内地のとある農村でも一人の老女が大きな決意を持って――
(次回に続きます)

 

        ・・・・・・・・・・・・

「女だらけの戦艦大和」、ちょっと違う感じがしますがたまにはこんなシリアスもいいんではないかと・・・。

 

気になるのは内地の老女ですが、この人はいったい誰!?

次回をお楽しみに。


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日々雑感・母の日・・・

Posted by 見張り員 on 13.2012 私の日常   18 comments   0 trackback

今日は母の日。昨晩から部屋には軍艦行進曲が鳴り響いています!意味は特にないんですがね。

とてもよい天気です、今日は朝から義弟夫婦が来て姑をどこぞに連れて行ったようです。ついでに旦那も連れてってくれりゃあいいのになあと思いつつ。

朝から次女がキッチンで何か作っています。
私と長女は11時を回ったころ犬の散歩に行こうと外に出ました。見上げる空は明るく青く、刷毛で掃いたような雲が。

地震雲!?
と!!
あれは地震雲じゃない!?と思うような雲が二本、空に。なかなか消えない雲で散歩が終りに近くなったころ、さらにそのそばにもう一本立っていました。
単なる思いすごしでありますように!!

今日は母の日ということで次女がスコーンとアップルパイを作ってくれました。娘たちからカーネーションのプレゼントをもらいました!ありがとう!
母の日

記念写真を撮りました。お花は、適当な花瓶が見つからないので使わなくなった1リットルポットを利用しました(-_-;)

なぜか九七艦攻も一緒に写っています!
私はこの九七艦攻が好きなので、ご相伴・・・

洗濯物も気持ち良く乾きそうな今日、「生きている」ことを実感する瞬間がたくさんありました。普段仕事でいらいらカリカリしてる私にはこういう日は大変貴重な命の洗濯です。

さあ、今日はちょっと昼寝をしようかな!


(我が家の柴犬モミジです!よろしくね)
もみじ


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「女だらけの戦艦大和」・薫風のふるさと4<解決編>

Posted by 見張り員 on 09.2012 大和   12 comments   0 trackback

麻生分隊士と見張兵曹は、兵曹の生みの母の墓の前に立っている。すでに桜の花は散り去って,桜葉の青がたくましい――

 

麻生と見張の二人とトメキチは、長かった内地での最後の上陸を下宿で過ごした。下宿のおばさんは「もうふーチャンたちが向こうに行ってしまう思うたら寂しいていけんねえ」と言いながら心尽くしのごちそうを出してくれる。

そのおばさんに分隊士とオトメチャンは心から感謝して、トメキチも感謝の意を伝えるかのようにおばさんにすり寄って甘える。おばさんもうれしそうにトメキチを抱き上げては外に連れて行ったり添い寝してやったりしている。

そんな嬉しそうなおばさんの姿に、強い寂しさがまとわりついていることにオトメチャンは気が付いている。

 

そんな日も今日で終わる、という日。麻生分隊士は「オトメチャン、お母さんにしばらくの暇乞いをしてこよう」と言って見張兵曹とトメキチを墓地に誘った。

「分隊士、ありがとうございます。うちの母親のこと、覚えてくださっていて」

見張兵曹はそう言って麻生分隊士に礼を言った。分隊士はいやあ、と照れ臭そうに手を横に振ってから「こうしてオトメチャンのお母さんのお墓がわかったんじゃけえ、内地に帰った時と外地に行くときはあいさつせんとうちが落ち着かんでね」と言って笑った。

見張兵曹は、下宿のおばさんからもらった花の束と線香を持って歩く。トメキチが麻生分隊士に抱っこされて、首をのばしては花や線香のにおいをかいでいる。そのトメキチに麻生分隊士は「ええか、これからオトメチャンのお母さんに会いに行くんじゃけえ、トメキチもあいさつせえよ?」と言い含めていて、見張兵曹はなんだかおかしくってくすくす笑った。

 

墓地への道は緩やかな登り坂。

やがて<見張 トヨ>の墓が見えて来た。見張兵曹はそっとその墓を指差して、「ほらトメキチ。あれがうちのお母さんのお墓じゃ」と教えてやった。

「ほう、もうすっかり青葉になってしもうたね。最初に来た時は正月じゃったか、そのあとは桜のころ。折々でええ景色になって、ここは奥津城としては本当にええとこじゃわ。・・・オトメチャンのお父さんがどれほどお母さんを大事に思うとったか、ようわかる」

麻生少尉はそう言ってしばらく瞑目した。見張兵曹はその分隊士を見てうなずいた。確かにこの墓所には父・洋二郎の、トヨへの愛情が伝わってくるものがある。

分隊士は、トメキチを腕からおろして「ほら、オトメチャンのお母さんじゃ。あいさつせえ?」と言った。トメキチは二本足で立って墓の前にそっと寄って行った。

(トメさんのお母さん・・・トメキチと言います。どうぞよろしくお願いします。僕はトメさんには前からとってもよくしてもらって、僕は幸せです。トメさんのお母さん、どうかトメさんをずっと見守ってあげてください)

トメキチはそう言って墓の前に座った。それを合図のように見張兵曹は花入れに花の束を入れ、持ってきたマッチで線香に火をつけると墓の前に置いた。

麻生少尉と見張兵曹はそっと手を合わせて祈る。トメキチは、線香の煙の流れを目で追っている。不意に、さわさわと木々の梢を鳴らして風が吹きわたった。

トメキチが顔をあげて小さく「クーン」と鳴いた。トメキチは感じていた、(ほらトメさん、今お母さんが笑ってそこにいますよ。麻生さん、お母さんが『トメをよろしく』って言ってますよ)。

麻生分隊士はふっと顔を上げて立ち上がった、そしてあたりを見回すようにして「なあ、オトメチャンよ」と言った。

見張兵曹は顔をあげて、少尉を見上げた。「分隊士、どうしたんですか?」

その兵曹に少尉は「今なあ、なんだかオトメチャンのお母さんの声がしたような気ぃしたんじゃがなあ」と言って空を見上げた。

見張兵曹も立ち上がると、あたりを見て「ほうですか・・うちもなんだか聞こえたような気がしとります。いうて、うちはお母さんの声は知らんのですが」と言って分隊士を見て微笑んだ。

麻生少尉も「ほうじゃなあ、うちもオトメチャンのお母さんの声を知らんはずじゃが、なんというたらええか、きっと心で聴いたんじゃろうな。・・・オトメチャンのお母さん、安心してつかあさい。オトメチャンはうちが守りますけえ」というと改めて墓前に手を合わせたのだった。

その分隊士を嬉しそうに見つめる見張兵曹、トメキチはその二人を見て

(お母さん安心してますよ。トメさん、麻生さんを信じてついてゆきなさいって。麻生さん、どうかトメさんをいついつまでもよろしくって。お母さんはいつもここで見守っていますよって・・・)

と言った。そのトメキチの声が聞こえたわけでもないだろうが、見張兵曹はトメキチを抱き上げると

「お母さん、また元気でここに帰ってきますけえ、見守っててくださいね」

と墓に向かって最敬礼した。麻生少尉がそれに続いた。敬礼の手を下した後も見張兵曹は名残惜しげに墓を見つめていたが、やがて踵を返して麻生少尉、トメキチとともに山を下りて行った。

 

下宿に戻った二人と一匹は艦に戻る準備をしたがトメキチはさしあたってやることがないので階下のおばさんのところで遊んでいる。

窓を開け放って呉の空気を胸一杯に吸い込んだ二人は並んで景色に見入った。

「またしばらく、お別れですね・・・こことも」

見張兵曹がぽつりと言うと麻生少尉はその肩をグイ、と抱き寄せて

「ほうじゃな。寂しいか」

と聞いた。見張兵曹は首を横に振って「寂しいことはないです。また戻れる思うてますから。ただ今回はちいとばかり長すぎましたね」と言って笑った。分隊士も「ほうよ、今回は長かったのう。その上松岡分隊長が測距儀を壊してくれてまたちいと長うなったしのう」と言い笑う。

「でも、明日からはまた気を引き締めてかからんといけませんね。はよう敵を降伏さしてここに凱旋する日を」とそこまでいった兵曹の言葉が遮られた。麻生分隊士の急な口づけが遮ったのだった。

ややして唇を離した分隊士は見張兵曹の顔を覗き込むようにして見た。見張兵曹は恥ずかしげに顔を伏せる。分隊士は、「はよう敵を撃滅してここに凱旋しような。ほいでここのおばさんや西田さん、オトメチャンのお爺さんお婆さんをアメリカにご招待じゃ。そのためにはまだまだ大変なこともあろうが・・・頑張ろうな」というとオトメチャンをぐうっと抱きしめた。抱きしめられながら「はい、頑張ります」と答えるオトメチャンである。

 

今回最後の上陸を終えた皆が「女だらけの大和」に戻ってきた。

それぞれの三日間の休暇を思い思いにすごして来た。家族と久しぶりにゆっくりできたものもいれば同期の仲間と楽しくすごしたものもいる。石場兵曹は宮島の実家に帰って兄弟と楽しくすごし、例によって「もみじまんじゅう」を大量にお土産として持って帰ってきたし、機銃の指揮官・平野少尉は髪の毛に悩む部下の増添兵曹のために更にパワーアップした毛はえ薬を買って来た。機関科の松本兵曹長は、そっと呉に呼んだかつての恩人、「新田(しんでん)のおっさん」と逢って昔話に花を咲かした。高角砲の生方中尉は両親に見合いの話を持ってこられて<嬉しげに>とまどっていたし、椿於二矢子兵曹は「今回は私は上陸しません、ここでいろいろ覚えます」と言って浜口機関長を感激させた。樽美酒少尉は、松岡中尉に付きまとわれて迷惑か、と思いきや存外楽しそうに一緒に行動していた。

森上参謀長も家族を呉に呼び寄せて数日過ごしたし、野村副長も家族が来ていたようだ。

そして・・・

「錨を揚げ!」

の号令で、大きな「大和」の錨が巻き上げられた。いよいよ出航の時である。主砲・副砲がその砲身を上下に動かし呉とのしばしの別れを惜しんでいるがごとくである。手すきの乗員は最上甲板に並んで名残を惜しんだ。

さよなら日本よ、また逢う日まで・・・

そんな替え歌が乗組員の間から流れて来た。大丈夫、また来るその日までこの街は、この国はこのままで待っていてくれるだろう。

そのためにも私たちは頑張るのだ。皆の決意が漲った。

「両舷微速前進」の航海長の号令、機関室から「両舷微速前進、静かーに進みます」の復唱。『大和』はその身をトレーラー島に向けて滑らせた・・・・

 

遠くなる呉・広島を見ながら『大和のトップのトップ』ではマツコがトメキチ相手に話をしている。

「ねえ、あの梨賀とかいう偉そうで頓珍漢な女!あれって三人も子供がいたのねえ!」

衝撃的な内容にトメキチは顔をあげてマツコを見る、「おばさん、それって本当なの?」と聞くトメキチにマツコは体を膨らまして「嘘なんか言うかってのよ。アタシ昨晩ちょっと魚探しに飛んでたらあいつ桟橋にいたんだけど、家族がうんとこさ来ててさあ。しかもその中の子供三人が『お母さんお母さん』って言って艦長にしがみついてて・・・アタシちょっと泣けちゃったわよ」というとその光景を思い出したのか、そっと翼の先で涙をぬぐった。トメキチは驚きを収めながら「そうだったの・・・艦長さんに子供さんがいたの。じゃあ、艦長さん別れがつらかったね」と言った。

マツコは「そうよ、あたし子供たちが可哀そうで・・・」と絶句した。トメキチは「でもおばさん。艦長の子供さんたちだってわかってるよ、お母さんは大事な日本のお国を守るために頑張っているんだってこと」と言った。

次の瞬間マツコは大きく翼を広げてバッサバッサと羽ばたくと、ふうふうと息を荒げて「なーに言ってんのようあんた。あたしが可哀そうって言ったのはあの子たち自分のお母さんが<艦艇―ズ>とか言ってバカみたいなことしてるのを知らないってことを言ったのよ。まったく・・・いい年して子供がありながらやることぉ?梨賀も野村も森上も、あいつらあほよ!」と怒っている。

トメキチは「そうだね」と言って苦笑した。

見下ろせば防空指揮所ではもう皆が緊張を持ってそれぞれの業務に励んでいる。どの顔もきりっとして気持ちがよい。

(これでこそ、テイコクカイグンの兵隊さんたちだね)

そう思うトメキチであった。

「女だらけの大和」は、瀬戸内海を西に進み三田尻で駆逐艦・巡洋艦数隻と合流する手はずである。

艦が波を切る音が心地よく響いてくる――

 

      ・・・・・・・・・・・・・

ようやく「女だらけの大和」、トレーラーに向けて出航できました。思えば長い呉滞在でした・・・いろいろなことがありましたがその思い出を胸に、また頑張りましょう!

さて、次回は??


有賀艦長です。あだ名は「エントツ男」。ヘビースモーカーだったからとか!
艦有賀幸作艦長 


森上、じゃなかった森下信衛少将(大和艦長を務めたことがあります)。
森下信衛少将 


で、能村次郎副長の写真がないので・・・ご著書。
慟哭の海 
(画像はお借りしました)

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「女だらけの戦艦大和」・薫風のふるさと3

Posted by 見張り員 on 06.2012 大和   4 comments   0 trackback

長妻兵曹の休暇に先立つこと数日前、増添兵曹が休暇をいただき上陸して行った――

 

増添兵曹は(えらい久しぶりの家じゃなあ)と心浮き立つ半面、気の重いこともあった。しかし、(まあ、事態が好転してることを祈るしかあるまいて)と思い、生家に急ぐため呉駅から汽車に乗る。彼女の生家も、山の中である。いくつかのトンネルを抜けて汽車は走る。

最寄駅についてそこから木炭バスに乗る兵曹。数名の先客たちが一種軍装の増添兵曹を見て頭を下げ、その中の一人の年配の男性は「お務めご苦労様であります!」と大声でねぎらってくれて兵曹はちょっとびっくりした。

走り出したバスの中に五月の風が吹き込み、増添兵曹は(おお、これじゃ。うちの幼馴染の風じゃ)とうれしくなった。子供のころ、この風に吹かれながら友達と一緒に走った田んぼのあぜ道。ゲンゲの花だったろうか、畦に咲く花を摘もうとした兵曹に、少しお姉さんの友達が「かわいそうじゃけえ摘まんとき。ここに咲いとるんがこの花には一番似合うとる」と兵曹の手をそっと抑えたこともあった。そう言われてみれば、花はその場に咲いているのが最も美しい。

車窓の外には以前と変わらぬ景色が広がり、兵曹は思わず子供のころの自分と友達の姿を探した。自分たちのかつての姿に代わり、今はその末の兄弟や子供の世代があの日のようにあぜ道や山への道を走って笑っている。

(このまんま、ずうっと変わらんで居ってくれ)

増添兵曹は心からそう願った。そしてふと、(しかしなあ、うちはこがいに変わってしもうて。ちいと恥ずかしいのう)と苦笑いした。変わったとは、例の悩みの種頭髪であるが。

(まあかつらで何とかなるじゃろ。それより・・・)

思い悩む兵曹は、降りる停留所をひとつ乗り越してしまいあともどりする羽目になったがこの道も懐かしい道なれば心が弾む。

やがて兵曹の家が見えて来た。広い庭の片隅で漬物だるをあらう一人の女性の背中が見えた。疲れたようなその後ろ姿に増添兵曹は胸を突かれる思いがした。しかし気を取り直して

「ねえさん!」

と声をかけた。樽を洗っていた女性が振り向いたその顔に笑顔が広がった。

「要子ちゃん、要子ちゃんね!」

手拭いで両手を拭きながら女性は駆け寄ってきた。この女性は、増添兵曹の長兄の嫁のさつき。長兄と兵曹は年に大きな開きがあり、兵曹がまだ物心つくかどうかの時に嫁に来たのがさつきで以来世話になった。まるで自分の子供のように優しく、時には厳しくしてもらった。兵曹には長兄のほかに次兄がいて、母親は男の子には一所懸命であったが兵曹の世話はほとんど顧みない人であったから兵曹にとってはさつきは親も同然である。

ただ、さつきの大きな不幸は子供ができなかったことで、「子供の出来んような嫁はいらん、離縁じゃ」と母親にいびられたがそれを兵曹が、「さつきねえさんの子供はうちじゃ。うちが姉さんの子供じゃけえ、離縁なんぞしたらいけんで。ねえさんを離縁したらうちが承知せんで」と母親を半ば恫喝して収めた。物分かりのいい父親が生きていればよかったが父親は兵曹が生まれてすぐ亡くなっている。

 

さつきは兵曹を嬉しそうに見つめて「こがいに立派になりんさって」と言って感涙を前掛けの裾で拭った。そして「さあ、はよう入って」と兵曹の手を握って玄関に。

そして奥に向かい「お母さん、お母さん要子さんですよー」と声をかけた。兵曹は上がりかまちにちょっと座って靴を脱いだ。

居間に入るとしばらくして母が入ってきた。兵曹は母に「ただ今帰りました」とあいさつした。母親は兵曹を一瞥しただけで「さつき、庸一はまだか!」と台所で茶の準備をしている兄嫁に声を投げた。

さつきが茶菓子など持って居間に入り、「もうもどってくるころじゃ思いますよ。さあお母さん、要子ちゃんが久しぶりじゃけ、一緒にお茶でも」と言った。

が、母親は「うちはええ、いらんで」と唸るように言うと部屋を出てしまった。ああ、お母さんとあわてるさつきに兵曹は「ええですってねえさん。うちはねえさんに会いに帰って来たんですけえね」と冷静に言い放って「ねえさんの淹れてくださったお茶はおいしいですけえ、いただきます」と座卓の前に座り茶をすすった。

 

そのうち長兄の庸一が畑から戻ってきた。兵曹の顔を見ると「おお!要子か、なんじゃえらい立派になったのう!」と大喜びしてさつきを見て笑った。さつきも「なあ、ええ軍人さんになられて」と夫を見て微笑んだ。兵曹にとっての安心は、この夫婦仲がよいということである。兵曹はほっとした笑みを浮かべて二人を見た。

その夜は、さつきの心尽くしの料理で三人大いに語らって楽しんだ。母親は食事を取りに来て、あとは自分の部屋に引っ込んでしまった。さつきは困ったような顔をしたが庸一は「ええ、ほっとき」と言う。そして兵曹に「要子の方がどがいじゃ?きついことないんか?」と言って漬物をつまんだ。

兵曹は「きつうはないですよ。やりがいある配置ですけえね、張り切っとりますよ」と言って微笑んだ。そして「敵殲滅ももうちいとじゃと思います。その時にはにいさんねえさんをアメリカにご招待いたしますけえ楽しみにしとってくださいね」というと、杯を飲み干した。

さつきが「ほうね、そりゃ楽しみじゃわ。ねえあんた」と言って庸一を見て庸一もまた「ほうじゃのう、早いとこ頼むで」と言い三人は笑った。

 

その晩、風呂上がりの兵曹は昔使っていた懐かしい部屋で寝ることになった。本棚に入っている本などを引き出してぱらぱらめくったりして時が過ぎる。

もう寝ようか、と電燈を消した兵曹の耳に裏の山から下りてくる風の音が聞こえて来た・・・

 

翌日兵曹は兄夫婦と畑に出た。畑仕事はもう何年ぶりではあったが兵曹の心は弾んだ。仕事をしながらの会話も楽しく、兵曹は<シャバ>を実感した。さつきが「要子ちゃんがいてくれるとええねえ、楽しいて」と言ったのが、兵曹の心に刺さった。普段さつきがあの母親と一緒でどういう仕打ちを受けているかわかる気がした。昼食の後の午睡の時兄がいない時を見計らって、

「ねえさん、母さんにいびられとるんと違いますか?あんまりなことあったらうちに言うてくださいね。うちから母さんに注意しますけえ」

と言った。がさつきは笑って「そがいなことないけえ大丈夫じゃ。要子ちゃんはなあも心配せんと軍務に励んでくださいな」と言った。(うそじゃ、ねえさん気ぃつこうとる)と思った兵曹は、起き上がってさつきの手を握って

「ねえさん、もうちいとの辛抱じゃ。あがいなばあさんそうそう長生きせんでね。もうちいとの辛抱じゃ」

と変なことを口走っていた。さつきはびっくりしてこれも起き上がると、「・・・要子ちゃん」と絶句した。兵曹はさつきの手をさらにグッと握りしめて、

「うちはねえさんをお母さんじゃと思うとります。姉さんがここにお嫁にいらしてうちはどれほど嬉しかったか。うちが母さんにほっとかれた時もねえさんがいつも親切に面倒見てくださった恩は終生忘れません。うちはねえさんに育ててもろうて、ねえさんの子供も同然じゃ。じゃけえ、大事なねえさんをいじめるもんはたとえ生みの母親でも許せんがです。それはほんまにねえさんには申し訳ない思うてます。ねえさんがどがいな気持ちでここまで来たか思うとうちは・・・もう」

というと嗚咽した。さつきはその肩に手を添えると、

「要子ちゃん、ありがとうねえ。うちは自分の子は産めんかったがこがいにええ子ができてほんまに嬉しいわ。うちが子供を産んでもこがいにええ子が産めたかわからんよ。神様に感謝じゃね。いろいろ心配してくれてありがとう、うちは何があっても平気じゃ、要子ちゃんがこうして心配してくれるんがようわかってじゃけえ。要子ちゃんは、うちの大事な娘じゃ・・・」

というと兵曹を抱きしめてくれた。

実の母親に抱きしめてもらった記憶のない兵曹にとって、大人になってからの姉からの抱擁は思いがけない贈物であった。

さつきの胸の中で兵曹はそっと、

「・・・かあさん」

とつぶやいた。さつきが兵曹を抱きしめる腕にもう少し力がこもり、兵曹はさつきの胸の中でむせび泣いた。

 

増添兵曹が休暇を終え生家を去る日が来ても母親は顔を出さなかった。

家の前で見送るのは庸一とさつき。兵曹は「見送りはええですけえ、ここでお別れします。洋二兄さんに会うたらよろしゅう言うてつかあさい」と言った、洋二は次兄で岡山にいる。

庸一は「おう、伝えとくで。要子お前体には気いつけえや」と言って少し涙ぐんで兵曹を見つめた。さつきもさっきから眼頭をぬぐっている。

そのさつきに「ねえさん、ねえさんもお体大事になさってください。ねえさんはうちの大事な人ですけえね。また帰ってきたらあの漬物、食わしてくださいね」と言って笑って見せた。さつきはうなずいて「元気でね、まっとるからね」と言った。

その二人にしっかり敬礼した兵曹。踵を返そうとした時、兄が自分の頭をポンポンと叩いて妙なゼスチャーをした。

(わかっとるって!)と兵曹は内心にがにがしく思ったが顔に出さないでもう一度笑って見せると歩き出した。

 

実は前の晩、風呂から上がった兵曹のかつら無しの頭を見た庸一が「うひゃあ、要子その頭どうしたんじゃね!」と驚いて騒ぐので、実はこれこれと顛末を話して聞かせた。「ねえさんには言わんで置いてね、心配させるけえ」という兵曹にうなずきながらも兄は、「わかったが。・・・しかしなんじゃのう、お前の禿げ具合も親父の禿げ具合も、わしの禿げ具合もよう似とるのう!やっぱ親子じゃのう!」と言って大笑いしたのだった。

(詰まらんことを言う兄貴じゃ)と思いながらも兵曹は(お父さんもこがいな頭、しよったんかいな)とちょっと懐かしいような嬉しいような気になった兵曹であった。

 

山道をバス停まで下る兵曹の頭をふるさとの風が優しく撫でては過ぎて行った――

 

         ・・・・・・・・・・・・・

増添兵曹の母親はどういう考えなんだか?でも兄嫁さんがいい人で兵曹は幸せです。ねえさん孝行しなきゃいけませんよ要子さん。

さあ、あの二人はどうしたでしょうか。次回あの二人が登場です。

 

ゲンゲの花。
ゲンゲの花



木炭バスの歌!



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「女だらけの戦艦大和」・薫風のふるさと2

Posted by 見張り員 on 04.2012 大和   6 comments   0 trackback

長妻兵曹は、久しぶりに帰った実家の客間を覗いて「あれっ」と声をあげていた――

 

客間には、白無垢の打ち掛けが衣桁(いこう)に掛っていた。それをその場に立ち尽くして見つめていた兵曹に気がついた母のミツはああ、と笑いながら

「姉ちゃんいよいよお嫁入りじゃ。昭子がいるうちには間に合わんがのう・・・」

と最後は少し残念そうに言った。「姉ちゃんが、お嫁に」と兵曹は口の中でつぶやいた。ほうじゃ、と母は言って微笑んだがその横顔に寂しげな影が潜んでいるのを長妻兵曹は見逃さなかった。

ミツは「さあ、こっちでお茶でも飲みましょう。久しぶりじゃけえ、昭子の話も聞きたいけえね」というと、居間の方へ昭子をそっと押した。

一種軍装姿の長妻兵曹を、父親の正昭も姉の正代も妹の裕子(ゆうこ)、広子もまぶしそうに見ている。兵曹は大きな座卓の前に正座し、

「お久しぶりであります。・・・二日ほどお世話になります」

とあいさつした。正昭は満足げにうなずいた。その父と兵曹の前に茶を置いて、ミツもうれしげに「なあお父さん。昭子はえらい立派になりましたなあ。入団のころは、はあこがいに落ち着きのないもんがお役に立つんじゃろかと思うとったが、もう立派な下士官さんじゃ。あれから何年もたっとらん言うのに、なあお父さん」と正昭の顔を見て言った。

正昭も「ほうじゃ。そういやあ昭子、お前いつだったか映画に出とったのう。えらい<芸当>をしよったが腹は壊さんかったか?」と言い兵曹は顔を真っ赤にした。

「あれを観たんですか?あれは何というか、みんなにはめられたんじゃ、皆でうちをその気にさせて食わしたんですけえね。別にうちが食いたくて食うたわけではありませんけえの」

そう言って兵曹はいかにも「被害者」ぶったものの言い方をした。それを聞いた姉の正代がすかさず、

「ほうかの?うちには昭子が喜んで食うとるようにしか見えんがねえ」

ととどめを刺し、長妻兵曹は苦笑した。姉の言うことが正しかったからだ。妹の裕子が「昭子姉さんはもう人気者じゃね。うちはうらやましいわあ」と言い一番下の妹の広子が、「昭子姉ちゃん大食いじゃ」と言ったので皆はどっと笑った。

長妻兵曹は笑いすぎて涙のたまった目をこすって、「あのなあ、広子。そういう大食いのことを海軍では<スカッパー>いうんじゃ」と教えてやった。

「すかっぱー?」と問う広子に、「ほうじゃ、スカッパーじゃ。あのなスカッパーいうんは艦に必ずあるごみ捨てみとうなところじゃ。そこはなんでも入るけえ、大食いをこれにたとえて<スカッパー>いうんよ」と説明してやった。

裕子がびっくりしたように眼を見開いて、「ありゃ、ほいじゃあ昭子姉さんはごみ箱かいね!?」と素っ頓狂な声を出して皆はまた大笑いした。

 

楽しい夕食の後、長妻兵曹は正代と一緒に風呂に入った。

湯船の中で自分の肩をもみながら兵曹は「おお〜、やっぱ家の風呂はええわあ。こがいにゆっくり入れるんは極楽じゃわあ」とうなった。そんな兵曹を微笑んで見つめている姉の正代に、兵曹は湯船の淵に両腕をかけるようにして乗り出して、

「なあ、姉さん。お嫁に行くんかいな」

とそっと尋ねた。正代のほほが赤く染まったのは、風呂の熱さだけではなさそうだ。正代はそっとうなずいた。兵曹は「ほうかあ。で?お相手は誰じゃね?うちのしっとる人かいね?」と尋ねてみた。正代はそっと首を横に振り「ううん、昭子の知らん人じゃ。ほいでも全く関係がない、言うわけでもないけえね」と言っていたずらっぽく笑って見せる。兵曹はちょっと不審げな顔つきで「全く関係がないわけでない、ゆうンはどういうことじゃね?そがいに遠回しな言い方ではうちにはようわからんで」と口をとがらす。

正代は兵曹の耳にそっと自分の口を近づけて「呉の海軍工廠に勤めとる人じゃわ。技術大尉言うてね、いろいろと研究しとりんさるお人じゃわ」と言った。

「ほう、なんや最近は工廠の技術士官と結婚するんがはやっとるんかいな?」と兵曹は言ったがこれは<武蔵>の春山兵曹の話を風のうわさで聴いてのこと。

兵曹は「ほいで?どうして知りおうたんね」と聞いた。興味がわいている。正代は、

「うち、海軍工廠に挺身隊でいっとったろう、その時たまたまうちが落し物したんをあの人が届けてくれたんよ、それからよ。とてもええ人でね、うちの妹が海軍に居るいうたら折々で昭子のフネのことそっと教えてくれんさって。ほいでまあ、つきおうとるうちに一緒になろうかのう言う話になってな」

と真っ赤になって話す。兵曹はわざと「ありゃいけんねえ、姉さん。風呂が熱うてのぼせとりんさるわ、顔がえらい真っ赤じゃわ」と言って笑った。正代がぷっとほほを膨らまして、「いやな昭子じゃなあ、もう!」と言ってから二人は大笑いした。

 

「姉さんは結婚したら呉に住むん?」

風呂からあがって縁側で風に吹かれながら兵曹は姉に尋ねた。布団を敷き終えた正代は縁側に歩いてきて、兵曹の横にそっと座った。

「うん。あの人の務めに近いところがええけえ、うちら呉に住む。・・・昭子、上陸したら遊びに来たらええよ」

そう言って正代は夜空を見上げた。初夏の風が吹き抜け庭の草木をさわさわと鳴らしてゆく。兵曹はなんだか寂しいようなどうにもいたたまれないような、不思議な気持ちになってきた。

「姉さんが・・・ほかの家のお人になってしまう」

言葉だけがふわふわと口を突いて出た。一旦言葉が出ると、次々に言葉が出て来た。抑制が効かない。

「姉さんが、姉さんが、よその家の人になってしもうたら、うちは寂しいていけん。母さんも父さんも、さみしいていけん。裕子も、広も・・・」

言いながら涙が驚くほど流れた。驚いたのは兵曹本人だけでなく正代もである。正代はあわてて兵曹を抱きしめて、

「どうしたんね、昭子。あんた海軍軍人じゃろ?軍人さんが泣いたらいけんで?うちは嫁には行くがどこへ行っても昭子や裕子や広子の姉さんじゃ。父さん母さんの娘じゃ。それだけは変わらんから、泣いたらいけんで・・・」

と諭したが正代も泣いていた。兵曹を抱きしめて泣きだした正代に、兵曹はそっと「姉さん、もしかしたら嫁に行くんは嫌なんか?」と聞いた。

すると。

今まで泣いていた正代が不意に顔をあげて

「いやなわけなかろうが!変なこと言うたらいけんで!」

と怒ったのには長妻兵曹は二の句が継げないほど驚いた。兵曹はあまりの意外な展開にしどろもどろになりつつ、

「ほいでもさっきまで泣いとったじゃないね?ほいじゃけえうちはてっきり嫁に行くんが嫌なんじゃないか思うたんじゃ」

と弁解した。正代は「もう、昭子は昔っから早合点じゃけえ、そがいなことでよう海軍さんが務まるわ・・・」と文句を言ったが、急に真面目な顔になると「式は今月の末じゃ。昭子には来てもらえんのが心残りじゃが、写真を送るけえね」というとその場に正座して、

「昭子、今までありがとう。お世話になりました。うちも新しい家で頑張るけえ、昭子も頑張らんとね」

というと深深と頭を下げた。兵曹も正座して「姉さん、うちこそ今までありがとうございました。姉さんのお幸せを心から祈っております。そして、上陸の際にはたまにはお邪魔したい思いますんでよろしゅう」とこれも深く頭を下げて礼をした。

正代はその兵曹の姿を見つめ、

「お邪魔するんは構わんが・・・あの人の前で大食いはしてくれんさんな」

と言い、兵曹は「ねえさんにはかなわんのう」と笑った。そして「ああ、そうじゃ。忘れんうちに」と言って「うちは姉さんの晴れ姿を見られんけえ」といい、白無垢の打ち掛けを着て見せてほしいと所望した。

正代はうなずくと客間から白無垢の打ち掛けを持ってきて、それに手を通した。

「どうじゃね、似合うとる?」

正代の問いかけに兵曹は力強くうなずき、「おお、三国一の嫁さんじゃ。これならその、なんとか言う大尉もご満足じゃろう」と言い、正代に「なんとか言う、じゃのうて斑目さんじゃわ。人の名前はきちんと覚えんさい」と言われたが

「そがいに言うても聞いとらんもん、言えんわ!」

と言い返し、「ありゃ!そうじゃったかね?」と笑い合う姉妹であった。

縁側から五月の夜風が姉妹を包み込むように優しく吹いた。

 

そして、長妻兵曹が『大和』に帰る日が来た。家族が居並んで兵曹を見送る。

正昭が「ええか、軍人として、日本人として恥ずかしいことだけはしてくれるなよ。ええな」と言い、ミツは「あんまり大食いをしたらいけんで?ほいで・・・」と言って兵曹のそばによると小声で「男遊びもええ加減にせんと、嫁にいけんようになるで?わかったかね?」と諭した。兵曹は(母さんの言いつけでも、こればかりは)とは思ったが殊勝な顔つきで「はい、わかりました」と答えた。

そして兵曹は正代に「では姉さん。お元気でええ嫁さんになってください。次にうちが帰って来た時にはもう<斑目正代>になっとりますな」と言って妹たちに「母さんをよろしゅうな」とその頭をごしごしなでて、

「では!」

というと、皆に向かい敬礼をした。兵曹は家族一人一人の顔を網膜に焼き付けるように見つめると敬礼の手を下し、クルリと向きを変えて歩き出した。

見送る家族は、その後ろ姿に静かに頭を下げた。

長妻兵曹は見慣れたふるさとの風景を、空気を体全体に感じながら駅へ向かう。

(うちはこの場所が好きじゃ。家族や近所の人が好きじゃ。これを守るためならうちのちっぽけな命をささげることに躊躇ない。本望じゃ。この場所がずっと、ずっとこのままでいてくれるなら・・・)

五月の風が、そんな兵曹をふるさとの香りでくるんでいった――

 

            ・・・・・・・・・・・・・・

長妻兵曹の休暇でした。きょうだいというものは一人っ子の私にはあまり理解できない部分もありますが大変なあこがれでもあります。わからぬながらも今回は「姉妹」を描いてみました。

いかがでしたか?

次回は増添兵曹です。

 

衣桁にかけた打ち掛け。これを着て長妻兵曹のお姉さんはお嫁に行きます・・・(画像お借りしました)

衣桁にかけた白無垢



スカッパー。残飯捨てですね(画像お借りしました)
スカッパー

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プロフィール

見張り員

Author:見張り員
戦艦大和初め、旧帝国海軍大好き人間の妄想と、ひとり言の結晶です。
若しも「女の子だけの戦艦大和」があったなら?と思って書き始めました。史実に沿ったところもあれば全くの創作もありです。楽しんでいただき、そしてかつての帝国海軍にも興味を持っていただけたらいいなあ、と思います。

どんなことでもコメント入れていただけると嬉しいです!

なお、文章の無断転載を禁じます。
 

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