女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?

吉報、そして男性士官たち 2

その男性士官は、梨賀艦長と佐藤副長におずおずと言ったーー

 

「この艦に、長妻昭子一等兵曹はおりますか?」

へ、長妻兵曹?と梨賀艦長は思わず変な顔をしてしまったので慌ててしかつめらしい顔になるともう一度

「長妻昭子一等兵曹ですか、…確かに彼女はこの大和に居りますが…その、あなたはどうして彼女をご存じなのでしょう」

と尋ねた。佐藤副長も興味を覚えたのか男性士官の顔を見つめている。

すると男性士官がほほをぱっと赤く染めるなり

「梨賀艦長、ご存じなかったのですね。長妻昭子一等兵曹は私の許嫁です」

と言い、梨賀艦長は「ああ!あなたが」と大きな声を上げていた。そういえば機銃分隊の分隊長にそんな話を聞いたことがあったのを思い出していた。

佐藤副長が

「それならお会いしたいでしょう…艦長、長妻兵曹と会わせてあげたらいかがでしょう」

というと梨賀艦長はうなずいたものの

「しかし、ほかの将兵の手前あまり堂々とというのもどうかと思う」

とやや苦衷のにじんだ声音で言った。許嫁同士を合わせてやりたい、しかし多くの将兵嬢たちがそれをどう思うか。それを考えると手放しで喜んでやるわけにもいかないのである。

すると男性士官――毛塚技術少尉――は大きくうなずいて

「その辺のことはよくわかります。多分彼女もそう思っていることでしょう、ただ、私がここに来た、大和に乗っているということだけ伝えてくだされば結構です。広い艦内ですがそのうち会えることができるでしょう。互いに帝国海軍軍人ですからその辺はよくわかっております。艦内では互いに節操をもって接することを御誓い申し上げます」

と言った。その潔さに梨賀艦長は大きくうなずき

「わかりました。では機銃分隊の分隊長に、長妻兵曹にあなたの乗艦を伝えさせます。―そのうち上陸日を合わせて水島の街なかでお会いになればよいですよ」

と言った。毛塚少尉は頬をほんのり赤く染めてうなずき

「ありがとうございます、梨賀艦長」

と言った。

 

さてそんな少尉の居る反面、益川中佐はどこか浮かないような顔つきでいる。

(私はここで天女を見つけられるのだろうか)

そんな思いがどうも心を支配して今一つ仕事に熱が入らない。しかしそんなことではいけない、そもそも嫁探しのためにトレーラーくんだりまで来たのではない。

益川中佐は、案内の佐奈田航海長とともに甲板を歩きながらあちこちを見て歩く。機銃座、砲塔…そのどこを重点的に「松岡式防御兵器」を設置すべきか、益川中佐は悩みながら見て歩く。

佐奈田航海長が

「なんといっても<大和>は巨大ですから装備を備えるにも大ごとですね。お察しします」

と、益川中佐のやや、思い悩んだような顔を見て言った。ありがとうございます、と言って益川中佐は佐奈田航海長を見つめた。見つめられて佐奈田航海長は面はゆげな表情になり、その顔を見た益川中佐は(もしかして彼女が私の天女ではないだろうか?)と期待感を持ってしまったのも事実。

が、その期待も夜になって佐奈田航海長が黒多砲術長と交わしていた会話、

「航海長、明日は上陸ですね?またあの見世に行くんですか~」

「もちろん行くに決まってるわよ、もうずいぶんご無沙汰してるからもうたまらんたまらん~」

「いいですねえ馴染みがいる人は。私もそういう馴染みがほしいですよ。それにしても航海長、いつからその人と馴染みなんです?」

――という会話を聞いてしまって打ち破られてしまったのだった。

(だめだ…士官は遊び慣れているのか遊郭になじみがいるんだな…。まてよ、しかし山中大佐の奥様にはそんな話は聞かない、聞いていない。うーん…ということは人それぞれなんだろうか。ああもう難しい世界だ)

益川中佐は私室に当てられた士官室の前で考え込んでいた。そこに

「益川中佐、」

と声がかけられ、見ると白衣をひっかけた日野原軍医長が首から掛けた聴診器を揺らして歩いてきて、益川中佐は敬礼した。日野原軍医長は大佐である。

軍医長は返礼してから

「益川中佐は山中大佐と同じ職場と伺いました。もう御聞きでしょうか…山中中佐のご出産の報を?」

というと益川中佐の顔色が歓喜に輝き

「なんと!ご出産されたのですね、それであのあの、どちらがお生まれになったのでしょうか?」

と急き込んで尋ね、日野原軍医長の白衣の襟を掴まんばかりになった。軍医長はそれでも穏やかにほほ笑んで

「女の子さんお二人ですよ。この報せは海軍省、そして陛下にも伝わったそうです。陛下からは将来の海軍軍人の誕生を寿がれ、お言葉を賜った上にベビー服などを賜ったと聞いています」

と教えた。ああ、なんて素晴らしいと益川中佐は涙を流さんばかりに感激し天を仰いでうれし涙で瞳を濡らす。そして

「山中中佐のお子さんですからきっと大きくなられたらお綺麗になることでしょう、ああなんて素晴らしい、天女が三人になる…」

と言った。

軍医長は(益川中佐は、山中副長に非常にあこがれているのだな)と確信した。確かに山中次子中佐は男性ならずともあこがれる人格の持ち主である。いろいろな人にあこがれられて

(人徳ですよ、山中さん)

と心の中で彼女に呼びかける日野原軍医長である。

 

と。

どこかで「ギャーッ!!」と将兵嬢の大きな悲鳴が聞こえてきた。何事か、と軍医長と益川中佐が声のほうに行くとそこは厠の入り口で、困ったような顔の男性士官が主計科の兵曹嬢に

「ここは女の厠ですよ!いきなり入ってくるなんかこまりますっ!」

と叱られているのだった。

ああしまった、と軍医長は思った。女性ばかりの艦内、厠も風呂も男性がつかえる仕様になっていなかった。話を聞いたときに早く手を打っておくべきだった、と思いながらやはりすっ飛んできた副長と運用科の科長に

「厠は囲いを作るなどできないだろうか。風呂は長官室の風呂を使ってもらうようにしたらどうだろうか」

と提案し、佐藤副長はうなずいて

「林田運用長、厠については緊急に工事を行ってもらいたい。風呂については私から伝えておきます」

と言って、男性士官が集められ、風呂は長官室のものを使うことと厠は順次囲いを作って男性士官用に分けておくことを約束した。それまでは

「大変申し訳ないことですがほかの将兵嬢たちがいないところを見計らって使用していただきたい」

となり、全艦の将兵嬢たちには

「男性士官が厠にいても騒がないこと。その際には男性士官の用が済むまで厠の外で待機しているように」

と達示が出た。

それを伝え聞いた桜本兵曹は双眼鏡のレンズを拭き拭き、

「はあ難儀なねえ。女ばっかのところに男の人が来んさるとそんとな苦労があるんじゃねえ。まあ、上手いことやってつかあさいや」

と他人事のようにつぶやき小泉兵曹は

「いっくらなんでも厠で鉢合わせは嫌じゃわあ…アレの時なんぞに顔が合うたらやっぱし恥ずかしいわい」

と言ってほほを染めた。

桜本兵曹は

「そんなん、厠に男の士官がおったら別の厠に走って行けば済むことなわ。うちはそがいなん気にせんで」

と言い、小泉兵曹は(ああ、オトメチャンには男性士官との恋の機会はなさそうじゃな…。どうか前の手ひどい恋を忘れてええ出会いがあるとええんじゃが)と一人気をもんでいる…。

 

そして運用科の迅速な対応で、艦内すべての厠に囲いが作られ<男性士官用>の厠が出来、男性士官たちはほっとして厠を使うことができるようになった。

 

そんな折、長妻兵曹は平野ヒラ女少尉から

「やっぱりあなたの許嫁の男性でしたよ、あの方。よかったね、…でも艦内でみだらな行為はご法度だから、上陸日を合わせて楽しむといいよ。ああ~うらやましい」

とほほ笑まれた。長妻兵曹は

「やっぱりですか!…はい解っております、神聖なる艦内でみだらな行為は決して致しません。約束します」

とこれも嬉しそうにほほ笑みながら応えた。平野少尉は何度も「よかったね、よかったね」と言って長妻兵曹の肩をポンポンたたいて祝意を表した。そして

「そういえば副砲分隊の野田…じゃなかった高田兵曹の結婚式がもうすぐじゃなかったかな?長妻兵曹も出席するんだよね」

と言って長妻兵曹は

「はい。確か来週の末になったと聞いとります。<大和>の中でずっと一緒に暮らしてきた仲ですけえ、居わってやりたい思います」

と言って少尉は「私の分も祝ってあげてきてね」というとじゃあ、またあとでと言って歩み去った。

長妻兵曹は、この<大和>に祝い事が次々来るのがうれしかった。前副長の出産、野田の結婚式そして自分の許嫁との再会。

大きな作戦もなくこれら嬉しい知らせを見聞きできるのは(ほんまに幸せなことじゃ。あとは…オトメチャンが幸せになってくれんとうちは困るのう)と思う長妻兵曹であった。

 

益川中佐以下の男性技術士官たちが最上甲板で、<大和>幹部たちと<松岡式防御兵器>の設置に関してあれこれ話し合っているそのはるか上、防空指揮所では桜本兵曹が一心に双眼鏡を除いて周囲の警戒に当たっているーー

 

            ・・・・・・・・・・・・・

お久しぶりです!お盆休みも終わってなんだかがっくりの私ですw。

さあ、いよいよ新章突入の『女だらけの大和』です。男性士官たちが入ってきていろいろ艦内も変化を遂げようとしています。気になるのは益川中佐の「嫁探し」ですがこれはどうなりますか…。

次回は高田佳子兵曹の結婚式です、ご期待ください!


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日々雑感 八月六日 

炎暑の昨今皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。

今日は72年目の広島原爆の日です。ああもう、72年もたってしまったのかと感慨深くしていらっしゃる方も多いのではないかと思います。

私も今まで、広島・長崎の原子爆弾に関する書物を読んできましたが半世紀以上たって久しいことになんだか最近では恐怖に似た思いを持つようになっています。

体験者が少なくなり、やがてあの惨禍を語ってくれる人が居なくなったときあの二つの原子爆弾で亡くなった多くの人たちが忘れ去られてしまうのではないかという思いです。

人は、忘れられたとき「二度死ぬ」と言います。

そんなことがあってはならない。

その思いを強く感じる今日この頃です。

 

日本を取り巻く世界情勢はだんだん厳しくなっていると思います。そんな中我々はどう日本を守ってゆけばいいのか、これも考えねばならない懸案事項です。しかも早急に。

先の大戦で戦死なさった多くの将兵の皆さんはこの日本の未来を憂いておられました、ご英霊の皆さんが心やすらかに鎮まれるように、彼らの後を引き継いでこの日本に生きている我々は日本をしっかり守らねばなりません。

あの戦争で亡くなった将兵の皆さんをともすれば「犬死」「無駄死に」という人もいますが、決してそんなことはありません。もし、無駄死にだとしたらそれは後世を生きる我々がそうさせているのではないかと思うのです。

周辺国の言いなりになって国のために戦って亡くなった人たちをまるで悪党呼ばわりするような国になり果てては、英霊は鎮まれません。

 

今朝、靖国神社に参拝してまいりました。

久しぶりの参拝でした。が、拝殿前に手を合わす人の中に、缶ジュースを口にくわえたまま手を合す人が居てそりゃないだろ、缶を置いてから手を合わせなさい…と言いたくなりました。

ご祭神の中には、炎熱の中水を求めて亡くなった方たちも数多くいらっしゃいます。そんなご祭神の前で…、私は悲しいというよりあきれ、怒りさえ覚えてしまいました。
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今日は一冊の本を遊就館の売店で求めてきました。

<いつまでも、いつまでもお元気で  特攻隊員たちが遺した最後の言葉  知覧特攻平和会館編>
いつまでもいつまでもお元気で

陸軍の特攻で亡くなった方たちの故郷へあてた手紙が美しい風景写真とともに紹介されています。18,19くらいのまだ若い人たちがどんな思いでこの言葉をしたためたのかと思うとき、涙を禁じ得ません。どこかで見かけたらぜひ手に取ってみてください。


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吉報、そして男性士官たち 1

トレーラー停泊中の<大和>に、吉報とともに男性士官もやってきたーー

 

「梨賀艦長、佐藤副長―!」

という大声とともに第一艦橋に駆け込んできたのは普段は落ち着いている山口通信長。彼女は手にした電信用紙をわしづかみにして駆け込んできたのだ。ちょうど艦橋にいて窓外の風景に目を細めていた艦長と副長はその剣幕にびっくりして

「どうしました山口大佐!」

と叫んでいた。山口通信長はハアハアと息を荒げて、海図台の上に電信用紙をどんと置くとそのしわを丁寧に手のひらで延ばし、梨賀艦長と佐藤副長の顔を交互に見ると満面の笑みを浮かべ

「やった。やりましたよ艦長副長。山中中佐ご出産です、双子のお嬢さんだそうです!」

と言って、艦長と副長は「えっ!」と大声を上げるなり次の瞬間二人抱き合うようにして「よかったよかった。やったよ山中さんおめでとうー」とわめき始め、その大声が二の開いた伝声管から各所に伝わり、そして人づてに伝わり、「山中副長がご出産なさった、女の子の双子じゃそうな」と艦内大騒ぎになってしまった。

ハシビロコウのハッシー・デ・ラ・マツコに小犬のトメキチそして仔猫のニャマトも

「山中さんおめでとうー!私たちの足跡のついた岩田帯が役に立ったのね」

と大騒ぎして感涙にむせんだ。

 

その知らせを聞いて、防空指揮所にいた桜本兵曹、小泉兵曹麻生分隊士たちも手を取り合って喜んだ。「山中副長、きっとええおかあさんになるで、うちが保証するわ」と麻生分隊士が言えば小泉兵曹も

「ほりゃあ間違いないですのう。ほいでええ旦那様が付いておられますけえええご家庭を作られるでしょうねえ」

といい桜本兵曹も

「赤ちゃんのお顔、拝みたいものですのう」

と言って皆ウフフウフフと笑いあった。なんだかわからないが幸せ感が全身に充満してくるのを感じていた。そこに例の熱い女・松岡修子海軍中尉がやってくるなり

「皆さん聞きましたか、山中副長熱くなって双子の女の子を御安産だそうです。さあみんなも熱くなれよー、バンブー!」

と最後だけはよくわけのわからないことを言って手にしたラケットを振り回して走り去っていった。

「いつものことながら…」

と麻生分隊士が言うとそのあとを引き取るように桜本兵曹が

「ようわからんお人ですな」

と言って小泉兵曹は大笑いし次いで二人も大笑いした。やはり、幸せの気分が全身にみなぎっていた。

 

そんな、幸せ感が充満している<大和>に、とうとう呉海軍工廠からの男性技術士官たちがやってきた。みんなが大騒ぎした翌々日、内火艇に乗った男性士官たちはやってきた。

乗組員たちは当直などを除いて舷梯に立ち並びまるで山本大将でもお迎えするような雰囲気で、

「こりゃあまるで登舷礼みとうなね。まあこの艦に男性が集団で来るなん、ふつうあり得んことなけえねえ」

と誰がが言うとその周辺の何人かがうなずいた。乗組員の中には(この機会にぜひ男性士官と親密になって結婚に持ってゆきたい)と思うものも少なからずいる。何やら艦内には落ち着かない雰囲気がみなぎり始めている。

やがて内火艇が接舷し、男性士官五名が舷梯を上がってやってきた。その姿が舷門を通ったとき、乗組員嬢たちのあいだから声にならない感激が噴出したのを、舷門前で待っていた梨賀艦長たち幹部には感じ取れていた。

(どうか面倒ごとを起こさないでね)

とは、梨賀艦長以下すべての幹部たちの率直な感想である。

最初の男性士官―益川中佐―が姿を見せたとき、大半の兵隊・下士官嬢は(なんだ、オッサンじゃないか。ありゃ絶対妻帯者じゃな…ありゃいかんわい)とか(あがいなオッサン、恋の相手にはならんわい。もっと若いのおらんのかいな)などと大変失礼なことを想っている。

そしてすべての男性士官が艦長の前に居並んだ、その姿を見ていた長妻兵曹は思わず「えっ…」と小さく声を上げていた。

「どうしたんじゃね?」

と平野ヒラ女少尉が前を向いてまじめな顔のまま尋ねると長妻兵曹はこれも前を向いたまま

「あの中の、左から二番目の男性士官は、うちの婚約者によう似とってです。でも遠いけえようわからんなあ」

と言い、平野少尉は一瞬長妻兵曹のほうに顔を向けた。そして

「本当に婚約者か?本当なら後で紹介してくれる?」

と言った。長妻兵曹は憮然とした表情で

「紹介するんはええですけど、横取りせんでつかあさいね」

と語調も厳しくささやいた。平野少尉は慌てて

「そんな私は人の恋人を横取りなんかしませんよ、失礼な」

と言ってこれも憮然とした顔つきになってしまった。

航海科の小泉兵曹は防空指揮所で彼らを見たが

「はあ…うちの好みの人はおらんわい」

とあっさりあきらめ、桜本兵曹は「ほうね、ほりゃあ残念なねえ」と無機質な声で答えた。オトメチャンはもう「男性はこりごりじゃ、うちは男性なんぞと付き合いとうないわ。一生独り身で居った方が気楽でええ」と常々周囲に漏らしていた。それほど紅林の裏切り行為は彼女の心に大きな傷を残していたのであった。

松岡中尉が

「まああの人たちはわが帝国海軍の中でも数少ない男性士官、しかもエリートでしょうから小泉さんは相手にしてもらえないでしょうね」

というと小泉兵曹は松岡中尉をきっとにらんで

「分隊長、それはどういう意味でしょうかのう!」

と声を荒らげ、慌てた桜本兵曹や石川兵曹たちに寄ってたかって口をふさがれる始末。麻生分隊士が

「申し訳ありません松岡分隊長、彼女は」

と言いかけたのへ松岡中尉は「まあまあ、落ち着いて」と言ってから

「いや私もちょっと言葉が過ぎましたね、いくら本当のことでも言っていいことと悪いことがありますからね。ごめんね小泉さん」

と全く謝罪も反省もないことをべらべらしゃべった挙句

「では私は下へ行きますからね、ごきげんよう」

とラケットを担いで去ってしまった。その後姿を悪鬼の形相でにらみつけ小泉兵曹は

「ふんだ!このあほんだら!」

と悪態をついてそっぽを向いた。その子供っぽさに桜本兵曹も石川兵曹も、麻生分隊士までが下を向いて笑ってしまったのだった。

 

男性の技術士官一行は梨賀艦長、佐藤副長に案内され「まずはお部屋をご案内しましょう」と士官室二つをあてがわれた。梨賀艦長と佐藤副長は申し訳なさげに

「御二方とお三方でお使いいただくのでかなり窮屈な思いをさせてしまって申し訳ございません、数日中にはお一人ずつのお部屋を作っておきます」

と言い、益川中佐はそれこそ慌てて

「いやいやとんでもないことであります、われわれは居候の身ですから二つの部屋で十分であります。お心に感謝いたします」

と言い四人の男性士官たちも同意した。

副長は

「何か不都合がございましたら遠慮なくお申し出ください」

とほほ笑んだ。その副長に一人の若い士官がおずおずと、「あの…おうかがいしたいことがございます」と言って、梨賀艦長も佐藤副長も少なからず驚くことになるのであったーー

   (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・

山中中佐安産の報に喜びを隠せない<大和>将兵嬢たちです。そしていよいよお待ちかね?の男性士官の登場です。さて若い男性士官は何を副長に聞きたかったのでしょうか、次回をお楽しみに。


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大和 | コメント:6 | トラックバック:0 |

いとしごよ 呉編 3 解決編

「はいもういきまないで…」という仁谷産科軍医長の声がした次の瞬間――

 

何かが、次子の足のあいだからぬるり、つるんと出てきたような感じがした。すると次子のそばで手をずっと握ってくれていた看護兵曹嬢が

「生まれました、生まれましたよお一人目が!」

と嬉しそうに次子にささやいた。と、部屋中に響き渡る産声。浜名江産科軍医大尉が紅潮した顔を次子に向けて

「女の子ですよ、お一人目!」

と言い次子は「…女の子!」と嬉しそうに言った。それから十分ほどで再び陣痛が来て二人目が産声を上げた。

仁谷軍医長が

「おお、女の子ですよ!そっくりですね、これは一卵性のお子さんですね、山中中佐おめでとうございます。お母さんになられましたよ!」

と言って、次子はその場の皆に「ありがとうございます、無事に生ませてくださって本当にありがとございます」と礼を言った。その場の皆は、山中中佐に敬礼した。

 

それぞれの産声を、分娩室の外で待機していた山中大佐、そして一矢夫婦が聞いていた。三人は顔を見合わせると

「…生まれた…?」

言い、分娩室の扉をじっと見つめた。扉の向こうで人々が忙しく立ち歩く気配がし、かすかに笑い声が聞こえてきたような気がして新矢は、

「次ちゃん…」

と小さくつぶやいた。兄夫婦が、心なしかほほを紅潮させて扉を見つめているのがわかる。

 

それから十分ほどして仁谷産科軍医長が扉をあけて出てきた。三人は椅子から立ち上がって軍医長を迎え、軍医長はにこやかな笑みで三人を等分に見つめると

「おめでとうございます。元気な双子のお嬢様です。山中中佐もお元気ですのでどうぞご安心を。まもなく処置が終わりますので中佐は病室にお戻りになります。赤ちゃんたちはもう間もなく新生児室に入りますので、入られましたらご案内いたします」

と言って、山中大佐に

「おめでとうございます」

と改めて祝意を示し、新矢大佐は「本当にありがとうございます。お世話になりました…そして退院までどうかよろしく願います」と言って軍医長に敬礼した。

仁谷産科軍医長も新矢大佐に敬礼し、その場の皆は幸せな気分に支配され微笑みあうのであった。

 

それから十分ほどが過ぎ、三人は看護兵曹嬢に

「新生児室へどうぞ」

と案内され、双子の赤ん坊の部屋へ。ガラス張りの向こうには小さなベッドがいくつも並んでいる。その三分の一ほどに新生児たちが無心に眠っている。そこに先ほどの看護兵曹嬢ともう一人の水兵長嬢が小さいベッドを押しながらやってくると、三人が居並ぶ前あたりにそのベッドを並べて置いた。

「まあ!!なんてかわいい、なんて小さいの!」

シズが感激の声を上げ、ガラスにしがみつくようにして中を見入る。その瞳が潤んでいるのがわかる。一矢が

「次ちゃんによく似ているね…、新矢にも似ているかなあ」

と言って新矢は兄を見ると「私の子供なんだから当たり前です」と言ってシズは笑った。シズは

「女の子は小さいうちお父さんによく似るようですよ、いまにだんだん新矢さんに似てきますよ」

と言い、しかし新矢はしばし考え込んだ後

「いや。嫂さん、私に似たらまずいでしょう、やはり女の子は母親に似たほうが幸せですよ。それに母親はだれあろう次ちゃんですからね、あんなにきれいな人に似なきゃ可哀想ってもんでしょう?」

と至極真面目に言って一矢は声を立てて笑った。

シズは

「はいはい、ごちそうさまです。…ねえ見て、本当に二人ともそっくりよねえ。どんな女の子になるのか、今から楽しみね」

と言って双子たちを優しいまなざしで見つめる。

赤ん坊たちを見つめる三人のもとに浜名江軍医大尉がそっとやってくると

「山中中佐、ただいま病室に戻られました。が…」

と言っていったん言葉を切った。新矢がにわかに緊張感を帯びた表情になり軍医大尉嬢を見つめると

「どうしたんですか、妻に何か起きたのですか?」

と言った。一矢とシズも不安げに浜名江を見る。浜名江軍医大尉は落ち着いてください、と前置いてから

「双子さんのお産にしては中佐は御安産でしたがいささか出血が多くありましてお疲れもあります、しばらく御面会はできませんのでご了承ください。落ち着かれましたらまたご案内します」

と言って敬礼して歩き去った。

新矢はしばし呆然とその場に立ち尽くしていたがシズに

「大丈夫よ新矢さん。軍医長たちが良いようにしてくださいますから。お産は女の戦場ですから、いろんなことが起きるんですよ。心落ち着けて待っていましょう」

と諭され、「そうですね…そうですよね。私が落ち着かないでどうする、てやつですよね。…兄さん嫂さん、もう少し一緒にいてくれますか?」と頼み込み、兄夫婦は

「もちろん、次ちゃんが部屋に戻るまでいるから」

と言って新矢を安心させた。

 

浜名江軍医大尉が再び三人の前に姿を現したのはそれから約一時間半後だった。

三人は軍医大尉の後をついて次子の病室へ向かう。

「どうぞ。しかしあまり長い時間は困ります」

浜名江軍医大尉はそういうと部屋のドアをそっと閉めていった。ベッドの中には次子がやや青ざめた顔色で横たわり、新矢は

「次ちゃん…」

と小さくささやくとベッドに寄って行った。その後ろを兄夫婦が従う。新矢はもう一度「次ちゃん、」と声をかけた。

ベッドの上の次子はその声にそっと目を開け、新矢と兄夫婦を見るとほほ笑んだ。

「ありがとう、お疲れさまでした次ちゃん」

新矢は感動と感激と少しの心配に支配された気持ちでやっとそう話しかけた。一矢もシズも「お疲れさまでした、可愛い双子の女の子だよ」と言ってほほ笑んだ。

次子は

「もう見てくださったんですね。私と新矢さん、今日から親になりました」

というと嬉しそうにほほ笑んで無理に体を起こそうとしたが新矢がその両肩をそっと押さえて

「起きちゃだめだよ。ずいぶん出血が多かったらしいからね。浜名江軍医大尉が、あまり面会も長くしてはいけないとおっしゃっていたから。もう少ししたら今日は帰るけど、また明日来るから今日はよく眠りなさい?」

と言い聞かせた。普段は無理を押し通す次子も今日はさすがに

「はい…わかりました」

とおとなしく答えた。

そして三人は名残惜し気に振り返りながら病室を後にした。新矢は

「もう一度、赤ちゃんたちを見ていきます」

と言って三人新生児室に取って返し、もう一度赤ん坊たちの顔を目に焼き付けるようにして見いった。

「明日、また来るからね」

新矢はそういってガラスの向こうのわが子たちに小さく手を振った。

その顔はもう、立派な父親の顔であった。

 

その晩になって仁谷産科軍医長が、次子の部屋に赤ん坊たちを連れてきてくれた。

小さなベッドの中にそれぞれ無心に眠るわが子たちを見て次子の瞳からは感激の涙が次々流れ落ちた。思い出すのは新矢と結婚してからこちら、妊娠が分かったときの嬉しさや悪阻の苦しさ。内地に帰って夫と落ち着いて家庭生活を送れた喜び…、

「今日からあなたたちは私と新矢さんの子供ですよ。新米の親だけど頑張りますからね、一緒に大きくなりましょう」

次子は小さな娘たちにそう、小さく呼びかけた。心なしか赤ん坊たちが微笑みを浮かべたような気がして次子も微笑みかけた。

 

その顔はもう、立派な母親のそれであったーー

 

           ・・・・・・・・・・・・・・

やっと!生まれました。ちょっと後が大変だったようですがでももう大丈夫。新矢さんも新矢さんの兄夫婦もほっとしたところです。

さあ。これから「四人」での生活が始まります。おっとその前に在トレーラーの<大和>に報告しなくちゃね!


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いとしごよ 呉編 2

山中次子中佐は、初産をいよいよ迎えていた――

 

だんだんと時間を詰めるようにして押し寄せる陣痛に彼女は必死で耐える。新矢がそばについて背中をさすったり手を握って励ます。

「新矢さん、お仕事が忙しいのにごめんなさい」

と言って暗に仕事に行くように勧めたが新矢は「大丈夫だよ、江崎少将に連絡をしておいたから。生まれるその時にいてあげなさいと言ってくださったよ」と言ってほほ笑む。

「うれしい…、江崎少将にはお礼申しあげないといけませんね」

次子はそういったあと「ああ…来た」というとふーっと大きく息をついてお腹を撫でる。新矢は「大丈夫ですか?軍医長を呼びましょうか?」と言っていささか慌てた様子だったが次子は痛みに耐えながらもほほ笑んで

「平気平気です。…先ほどの軍医長の診察でまだかかるよとおっしゃっておられましたから」

と新矢を慰めるような口調になった。新矢はそれでも心配げに

「だがとても痛そうで辛そうで…私は心配だよ」

と言って妻の手を握る。次子は痛みを逃すように息をついたあと

「これは<女の戦場>ですわ。つらいのは当然のこと。でもそのあとにすばらしい戦果が待っていますわ。だから新矢さんどうか心配なさらないで落ち着いて待っていてくださいね」

と落ち着きを無くしているようにしか見えない夫を気遣った。そうか、そうだねと新矢は言って今度は次子の背中をそっと撫でた。

 

一方産科軍医たちは緊張の面持ちで分娩室の準備をしていた。産科軍医長の仁谷は主席産科軍医大尉の浜名江大尉に

「我が帝国海軍の弩級艦・大和の副長を務めた方のお産だ。決して間違いがあってはいけません、分娩後の準備もできていますか?」

と尋ね、浜名江軍医大尉は後ろに部下の士官や下士官嬢たちを従えて「はい、しっかりできております。そして万が一の事態にも対処できるようにしてあります」と答え、仁谷産科軍医長はうなずいた。

 

次子のお産が始まったのを、新矢は兄夫婦に報せ兄夫婦から東京の次子の実家に連絡が行った。次子の母は

「切符が取れ次第すぐにそちらに参ります。それまでどうかよろしくお願いします」

と電話口で頭を下げ、嫂のシズは「大丈夫ですよ、任せてください。どうかお気をつけていらしてください、私はこれから病院に参ります」と言って母を安心させた。

電話を切るとシズは「ヨシッ!…さあ分隊長、がんばりどころね!」と一人気合を入れると海軍病院目指して家を出た。

 

陣痛発来から数時間が立ち、いよいよ次子の産みの苦しみが本格化し始めた。そのころにはシズが病室にやってきておろおろするだけの新矢に代わって水を飲ませたり汗を拭いたり世話を焼く。次子は

「嫂様。ありがとうございます…」

と言って苦しいながらもほほ笑んだ。その次子にシズは

「いいのよ、そんなの気にしないで。もう少しらしいから頑張ってね」

と言い、ちょっと遠い目をして窓の外を見ると

「私も…自分の子供が持ちたかったな」

と小さく言った。その言葉に新矢も次子も瞬間ドキッとした。兄夫婦は子供を熱望していたがついに持ち得なかったことを、二人は知っていた。だから次子は妊娠を嫂に伝えるのを若干躊躇したこともあったがシズはわがことのように喜んでくれ、ある時「ああ嬉しいわ、なんだか孫ができるみたいで!」と言ったのだった。その嫂の想いを、次子はずっと胸に秘めている。

(ねえさまのためにも私は頑張って無事に子供を産む)

次子は決意を固める。

 

それからしばらくして次子は

「嫂様…なんだかいきみたくなってきましたわ」

と言いシズは「ちょっと待っていてね」というと部屋を出て衛生兵嬢たちの詰所へ小走りに向かい、すぐに仁谷軍医長が看護兵曹嬢を伴ってやってきた。

「ご主人は申し訳ありませんが少し廊下でお待ちください」

と言われ新矢は「大丈夫なんでしょうか妻は?」と言いながらシズに背中を押されながら廊下に出る。シズが廊下で新矢に

「大丈夫よ、仁谷軍医長は産科のぴか一ですからおまかせしなさい」

と言ってその背中を優しく叩き、新矢はそこでほっとしたような顔で「はい、わかりましたねえさん」と言った。

 

「軍医長、子宮口ほぼ全開です」

と次子を内診した兵曹嬢がいい、仁谷軍医長はうなずくと「分娩室へまいりましょう」と次子に言い、「お願いいたします、仁谷軍医長」と次子は言って兵曹嬢と軍医長の手を借りてベッドから体を起こした。

「ゆっくりでいいですからね、ゆっくり行きましょう」

軍医長はそういいながら部屋の扉を開けた。その正面には分娩室の扉が開いている。その向こうでは浜名江産科軍医大尉たちが次子を待っている。

動くと陣痛は強くなるのか、部屋からたった数メートルの距離なのに何度も立ち止まっては大きく息をつく次子、その次子に

「次子…しっかりな」

と声をかけた新矢、その新矢に微笑んで次子は分娩室へ入り扉が閉まった。

「次ちゃん…」

新矢はその扉の前で立ちつくした。

分娩台に上がった次子は痛みに苦しみながらも(これが私の戦場。子供たちを無事この世に生み出すための戦場なんだわ)と思い、軍医長たちの指示に従う。

双胎の出産のため、万が一に備え軍医嬢たちが何人も控えている。皆(『大和』前副長のお産だ、気を引き締めてよいお産にしなければ)と緊張している。

普段、士官嬢や下士官嬢たちのお産にも同じ思いで臨んではいるが、彼女たちは山中次子中佐の長い入院生活中にすっかりその人となりに惚れてしまったということもある。

(中佐という高い地位にありながら決して偉ぶることがないし、下士官にもお気を遣ってくださる)

山中中佐のためならそれこそ命もなげうつ、そんな覚悟を皆して持っている。

 

次子のお産の進みは早いようであった。

いよいよ仁谷軍医長は

「中佐。私が合図をしたら思い切りいきんでください。眼を閉じないで、目を閉じてしまわれますとそちらに力が入ってしまいますから、ご自分のおへそあたりを見るような感じでいきんでください、よろしいですね」

と言い次子はしっかり「はい!」と返事をした。陣痛の強い波が来て、軍医長は「いきんでください!」と言い次子はいきんだ。

しかしなかなかうまくいきめず、ハアッ!と大きくため息をついてしまう。そんな彼女に仁谷軍医長は

「焦らないで大丈夫です、はい…次の波でもう一度!」

と言い、次子は大きく息を吸った。

痛みの大きな波が来て次子は軍医長の掛け声に合わせて思い切り、長くいきんだ。

その脳裏には、波を蹴立てて大海原を行く<大和>の雄姿が描き出されていた。そして梨賀艦長、森上参謀長、山口通信長や日野原軍医長…たくさんの<大和>の人々の顔が浮かんでくる。

(もう駄目、体が裂けてしまいそう)

次子がそう思ったその時ーー!

   

   (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

始まったお産です。

なんだか自分の時を思い出し、お腹が痛くなっておりますよw。

嫂のシズさん、子供を持つことはできませんでしたが次ちゃんの子供たちをわが孫、と思ってくれているようです。

さあ、そして次回は…。


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